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それでもなんとか忘れたふりをしてきたのに、でもそんなことは無駄なことだったのだと思い知る。
忘れたふりで心の奥底にそっと大切にしまったはずなのに、いつだって孝弘のことは意識のどこかにあったのだ。
薄闇のなかで「祐樹」とやさしく呼ばれた。
祐樹の好きな低いささやき声。
「好きだよ」
さわさわと髪をなでられて、気持ちがいいとその手に擦り寄った。頬を包まれて、手のひらの温かさと気持ちよさに微笑む。
くすりと笑う気配。
……ああ、夢を見ている?
ふと、やわらかいなにかが唇に触れて、祐樹はふわりと目を開いた。
目を開けても視界が暗くて、あれ…?と思う。
ここはどこだったっけ?
「起きた?」
声を掛けられて、ぼんやり頭を起こした。
笑いをふくんだ低くあまい声。
孝弘が身を引いて間近で目が合って、それでキスされていたのだとわかった。
孝弘はベッドに横たわった状態で、祐樹は片頬を布団につけて寝ていたようだ。
「孝弘?」
「うん」
これはまだ夢のなかだろうか。
横になったままの孝弘に、やさしい手つきで頬をなでられた。
手のひらがほんわりと温かい。その感触がやけにリアルだ。
「どうしたの、なんかかわいい顔してる」
「え?」
「孝弘ってもう一回、呼んで」
「孝弘?」
誘われるまま名前を呼んだら、孝弘が目を細めてとてもうれしそうに笑った。
そこではっと目が覚めた。
「上野くん!」
意識が戻ってる!
がばっと身を起こした。
「あーあ、目が覚めちゃった?」
孝弘が残念そうに、かわいかったのになとつぶやく。
「目が覚めちゃったじゃねーだろ。そっちこそ、いつ起きたんだよ。勝手にいたずらしてんじゃねーよ」
安堵のあまり、乱暴な言葉になってしまう。
うれしさが突き抜けて、何を考えていいかわからなかった。
「うわー、祐樹がそんな言葉使いするなんて、すげー新鮮」
状況がわかっていない孝弘はのんきなものだった。
「ていうか、ここ病院? 祐樹は平気なのか?」
「それどころじゃないって。事故からもう2日も経ってんのに! 麻酔はとっくに切れてるのに目が覚めなくて、人がどんだけ心配したと思って」
祐樹が言えたのはそこまでで、つんと鼻の奥が熱くなって胸がつまったと思ったら、あっという間に涙があふれた。
孝弘が目をまん丸に見開いて、驚いた顔で祐樹を見つめた。
止めようもなくぽろぽろ涙がこぼれ落ちて、シーツにいくつも染みを作っていく。
「心配かけてごめんな」
頭を抱き寄せられて、耳元にそっと謝罪が落ちて来た。
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