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 事故から2日目の夜だと聞いて、孝弘は本気で驚いていた。  いや、すでに3日目の朝を迎えようとしてる。  6月の夜明けの空はもううっすらと明るくなってきていて、早朝の気配が漂い始めていた。  窓の外にまるい月はすでになく、祐樹はほっとするような名残惜しいような、ふしぎな気分を味わった。  満月は嫌いなはずなのに。  でも月の魔力で孝弘は起きたような気もしていた。 「ごめん、そんなに経ってるとは思わなくて」  孝弘はベッドの上に身を起こして、祐樹をやわらかく抱き寄せてたまま、そっと唇を寄せた。 「なんか、すごくよく寝た感じで、気持ちよく目が覚めたらすぐ横で祐樹が寝てるし、寝顔めちゃくちゃかわいいし、布団の中で手まで握ってくれてるし、つい触りたくなって」  言いながら、唇で頬に触れ、目元にこめかみに鼻の先に次々触れて、最後に唇に押しあてた。 「祐樹、大好き」  うれしそうな満面の笑みで告げて、もう一度口づけてくる。  祐樹の胸にようやくうれしさがこみ上げた。  このまま目覚めなかったらどうしようと考えて不安だった気持ちが、全部消えてしまっていた。  舌で唇をなぞられて、誘われるまま開くとするりと舌が入ってきた。軽く舌を絡められて、祐樹は待ちきれなくて誘い込むように深いキスを仕掛けた。  すぐに孝弘が応えて、あっという間に呼吸ごと交換し合うような口づけになる。何度も離れてはまた触れあった。  よかった、起きてくれて。  またこんなキスができて、本当に本当によかった。 「積極的で、すげーうれしい」  孝弘が合間にささやいて、もう一度口づけてくる。 「このまま起きなかったらどうしようって、そんなことばっか考えて、気がおかしくなりそうだったよ」 「ごめんな。なんか夢を見てた気がする。祐樹が出てきたと思うけど、よく思い出せない。でもきっと呼んでくれたんだな」  それを聞いてホテルで寝ているときに孝弘の夢を見たことを思い出す。  やはり呼び合っていた?   夢でも何でもいい、こうして戻ってきてくれたのだから。  ぎゅっと手を握られて、その力強さにまた泣きたくなる。  祐樹の心を読んだみたいにそのまましっかりと抱きしめられた。すこし速い心音が伝わってきてほっとする。  孝弘の目線が包帯に包まれた祐樹の左腕に落ちた。 「これ骨折じゃないよな? 打撲?」 「ううん、すこし切って縫っただけ。きょう? ちがうか、あした抜糸の予定。上野くんが突き飛ばしてくれたから、土砂の直撃を避けられたんだ。ありがとう」 「そっか、よかった。…それはいいけどさ」  唇をちょっと尖らせて、すねた顔で祐樹の目を覗きこむ。 「孝弘って呼んでくれないんだ?」  思わぬ台詞に祐樹はうろたえて視線をそらした。 「え? いや、だってそれは」 「さっきは呼んでくれたじゃん」 「ええ? そうだったかな」  とぼけてみても、孝弘は手を緩めない。 「無意識のときとかベッドでしか呼ばないって、なんかやらしくない? あんなキスしてくれるのに名前呼んでくれないとか、さ」  急に口説きモードに入っていることを意識して、祐樹の心臓がドキドキと速くなる。先ほどキスをねだったのは自分だと自覚していたが、正気を取り戻すと顔が熱くなった。  

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