19 / 49

第60話 暗躍~密事~

 鶴岡八幡宮での静の舞いを見届け、頼朝を撹乱した遮那王は三峯の庵で、気が済むまで『浄め』を行ったあと、早々に西へ行く、と言い出した。 「執念深い男よな.....。霧に閉ざされているとは言え、探り当てられては面倒なことになる」  さも嫌そうに顔をしかめる遮那王の腰を揺すりながら、弁慶は溜め息混じりにその面を見つめた。 ―執着させているのは、お前であろうに....―  口の中で、ぽそりと呟く。白い練り絹のようなしっとりと光沢のある肌、華奢な四肢、細い肩....薄い胸の突起は堅い桃花の蕾を思わせる。口に含めば、紅梅の唇が甘い吐息を洩らし、楊柳の腰がしなる。伸びやかな腕を弁慶の首に絡ませ、両の脚で弁慶の腰にしっかりと巻きつかせて、寸分たりとも離すまいと、しがみつく。  淡い緋色に色づいた秘花の如き後孔に雄茎をあてがい突き入れれば、弁慶の雄を呑みこんだ秘奥が淫らに蠢いて絡みつき、締め上げる。柔らかく熱い肉壁の裡に包まれ、奥へ奥へと誘われる、その蠕動は限りなく甘美だった。 「あ、あんっ.....いいっ.....もっと.....突いて...おく....」  身を捩り、啜り泣き、甘く艶めいた喘ぎを弁慶の耳に注ぎ込む。深々と雄に穿たれて、腰を揺らめかせる様はなおも嫌応無しに弁慶の雄を滾らせ、更なる深みへと誘い込む。股間の若茎はしとどに蜜に濡れ、硬く屹立してふるふると震えて、堪らなく愛らしい。幾度も白濁を溢し、快楽の波間に漂いながら、しなやかな指先で男を悦楽の水底に引きずり込む。  この肢体を一度掻き抱いて、甘やかな声で囁かれて、溺れぬ男がいようはずもない。それに、はや三十路にも手が届こうというのに、その面は十五、六の少年にしか見えない。 ―まっこと、魔性よのぅ....―  清盛も重盛も、そして頼朝すら、この妖しくも美しい華を手活けに出来るなら、自分だけのものに出来るなら、微笑みの中で滅していくだろう。  弁慶は、幾度目かの絶頂に身を震わせる遮那王の髪を鷲掴み、罰するようになお深く穿つ。 「あぁっ....い、イク...また.....あんっ、ああぁっ、イク......」  ガクガクと震え、しがみつく遮那王の唇を塞ぎ、思うさま吸い上げる。 ―溺れぬ男など、おるものか......―  何もかもを失い、人であることを投げ捨てて、ようやく手にすることの出来る秘花を弁慶は懐に掻き抱いた。 ―だが......―  その魔性とは裏腹に、遮那王の人としての心は恐ろしく無垢で純粋だ。 ―だからこそ.....―    護ってやらねばならぬ、と弁慶は唇を噛み締めた。義経は、牛若丸は遮那王にとって、自らの人間の姿そのものなのだ。義経を守ることは遮那王自身の人の心を守ることと同じなのだ。  遮那王は、他の男を誘うように義経を誘おうとはしない。ひたすらに見守り、時に手を差し伸べるだけだ。 ―さぞ切なかろうに......―  だから、決めた。弁慶は遮那王が人となれるよう、人の幸福を手にすることが叶うよう、魔王尊に願った。 「俺は鬼でよい....遮那王、お前が人になれるなら...」  弁慶は遮那王の髪を撫でながら囁いた。  だが、そのためには遮那王と義経に仇為すものは全て片付けておかねばならぬ。弁慶は、じっと天井を睨んだ。 「西.....とは何処にいくのだ」  ようやっと、うとうとと微睡み始めた遮那王をあやすように、弁慶は問うた。 「京だ」  遮那王は弁慶の胸元に鼻先を押し付け、すんすんと嗅ぐようにして、答えた。 「京だと?」 「探し物がある.....」  遮那王は、眠たげに弁慶の胸元に顔を埋めた。 「探し物?」  訝る弁慶の耳に、遮那王は、ひそと囁いた。 「将門の首じゃ......」

ともだちにシェアしよう!