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06 三枝の部屋 向野

 三枝が手を伸ばしてきた。恐怖なのか、怒りなのか、自分が震えているのがわかった。5分かそこらで終わる行為だと思っていた自分が恥ずかしかった。恥ずかしいというより、「やはりな」という気持ちの方が強いからこそ、立っていられる程度だ。今更だが、経験不足だと承知していたくせに誘ったことを後悔していた。  できない。帰る。と言ったら許してくれるかもしれない。けれど言えなかった。 「おいで」  三枝がまっすぐに見ている。バカにするでもなく憐れむでもなく、真剣な目だった。考えるまでもなく、震える手が勝手に三枝の方へ延びていた。さっき知ったばかりの温もりに包まれれば、この震えは止まるはずだ。 「僕は、君に会って君を好きになった」  また、恥ずかしいことを言われ、手を引っ込めようとすると指先が触れた。静電気に触れたように一瞬躊躇いながら、自分の指をその手に絡めていた。 「見ているだけで、どんどん好きになった」  引き寄せられて、跨る形で膝に乗る。空いた手で腰を引き寄せられ、また身体が密着する。低い声が囁くように耳に触れる。胸元から香ばしいような甘いような、シナモンのような香りがした。 「話せば話すほどもっと好きになった」  恐怖と恥ずかしさも感じながら、抗うことのできない誘惑に引き寄せられているのだ。三枝の肩にそっと頭を載せてみる。自分が震えているのがわかる。それでも、逃げたいとは思わなかった。むしろ、続きが知りたい。 「僕は好きな人を、愛撫したい」  目を閉じて頷いた。…愛撫、されたい。触れているとわかる。自分の頬が熱くなっていることを。おずおずと延ばした腕を三枝の肩に回す。がっしりとしたそれに安堵を覚えた。三枝が頭をそっと撫でてくれる。  三枝の台詞が恥ずかしかった。自分に向けられる言葉ではないような気がした。それ程話してはいない。好かれるようなことなどしていない。言葉の変わりに三枝の荒い呼吸が聞こえたかと思うと、シーツに転がされていた。  また唇を重ねられ、抱きつく形になってた腕をシーツに落とすと、両手が重ねられた。掌が指先までゆっくり滑る、輪郭を確認するように。指の股を滑るとゾクリと背中を何かが走った気がした。感覚を消すように、ぎゅっと握り返してみると、もっと強い力で握り返された。 「んっ…」  長いキスに耐えかねて、肩を捻るように動くと、三枝の上体が離れた。  三枝の両手が一気にバスローブを剥ぎ上体が空気に晒されて、全身に緊張が走った。三枝がこちらを覗き込んでくるのがわかった。目が合わないように視線を逸らすと、右手が胸元に置かれた。 「…っ」  大きな手を広げられて、身体がビクっと反応する。胸元を大きな手で撫でられ温かさにほっと息をつくと、左手で頬を抑えられ、視線を求められる。視線が絡むと同時にツンとした痛みが胸元に走った。摘ままれたのだ。 「いっ…」  さらに根元に爪をたて、指の腹で先端をこすられる。恥ずかしさと痛みしかないのに、何故? そう思うのもつかの間だった。ザワザワとした感覚が、敏感になった神経にまとわりつく。 「…ぅ…」  寒くもないのに顎が小刻みに震え、唾液が溢れそうになる。熱くなった頬に三枝の口接が落とされると、震える唇が開いてしまう。唾液が零れる前に三枝の舌がそれを舐め取った。 「あっ…あン…」  乳首の根元から拡がった何とも言えない感覚が、ナイフのように血管を伝い、身体の中心を目掛けて落ちていく。初めてのことは恐怖でしかない。つま先に力を込め、恐怖に抵抗するように身体を丸めようとするが、三枝の足がそれを阻んだ。どう抵抗するか、考える前に口内に侵入してきた舌に翻弄された。 「ん……ふっ」  思考が緩慢になっていきいる。太腿の内側をゆっくりと三枝の膝が進み、ゾクリと腰が浮く。胸から伝わる刺激と同じ感覚だった。乳首を攻めてた手が、肌を舐めるようにゆっくりと腹の方へずらされる。薄っぺらな身体を三枝の体温が通ると、皮下直下でビクビクと小さな生き物が動くような疼きを感じた。 「あ…っ、あ…」  零れた唾液を伝い、三枝の唇が耳たぶに触れた。 「いい、肌触りだ」  三枝の言葉にまた頬が熱くなり、視界が滲んだ。ゆっくりと往復されると、背中のあたりがビクビクとヒクつくような感覚があった。何度目かで、腹のあたりで掌が背中へ周り、腰を浮かすような形になると、バスローブが完全に剥ぎ取られた。 「…ぁ」 「恥ずかしい?」  図星を突かれて意地になる。 「あ、あなたも脱いでよ」  三枝は覆いかぶさった身体を少し離すと、バスローブの紐を片手で解いて前を開けた。一瞬で、まるで違うと思った。胸板の厚さや、縦に割れた腹はスポーツ選手のようだ。武道やアウトドア派ではないだろう甘いマスクに、この身体はないと思っていただけに、騙された気分になった。知ってか知らずか、三枝は見せつけるように、ゆっくりとバスローブを脱ぎ身体のラインを晒した。ライトに浮かぶアウトラインが、同じ性とは思えない輪郭をなぞっていた。 「……ぅ」  息が荒くなっていることに気付いて、思わず顔を背けると、三枝が両手で膝を掴んだ。持ち上げられた膝が目の前で割られる。膝の間から、三枝の引き締まった上体が割り込んできた。綺麗だと思った。骨格が見えないほど、それを補強する筋肉が美しい。自分の周りにはいないタイプだ。腕の太さも胸板も違う。道理で抵抗してもビクともしないわけだ。肩の丸みも首から肩に掛けてのラインも綺麗だと思った。  乳首のあたりでツンとした痛みがあった。指で弾かれ摘ままれた。 「うっ…ん」  三枝の立派な胸元の下で、三枝の指に挟まれた乳首が見えた。生っ白い肌の上で、硬くなった乳首を三枝が指の腹で嬲ると、ビクンと震え腰が浮く。三枝の身体に覆われているが直接触れていない腹に感触があった。 「あっ、あ…」  我慢できずに放った感触を誤魔化すように声を上げてしまった。  苛立ちのような切なさのような、その捉えがたいもどかしさで、どうにかなりそうになる。感じたことのない何かが、鋭利な痛みとともに断続的に押し寄せてくるようで、疼くようなしびれるような形にならないそれはを、「もっと」と頭の中でガンガンと音を立てる。欲求が形を作っているようだった。眩暈を感じるほど、身体中の血液が身体の中心に集まる感覚があった。 「あっ…ああ」  思わず膝を閉じようとするが、挟んでいる三枝の身体で閉じることができない。乳首の根本に爪を立てたれ、背中が仰け反った。 「うっあ…」 「痛い?」  耳元の声でさらに身体が跳ねた。目を向けると、そこに三枝の顔があった。痛くはない、首を振ると頬に口接けられ、また熱が上がる。  痛みではないこの刺激をなんというのだろう。痺れに反り返る腰、疼きに耐えられずに抑える暇もなく弾けてしまった。 「……っ」  声も出ない代わりに涙が出た。すると三枝は、涙を吸うように目元に口接けてきた。 「いいよ、もっとイって」  優しい声に包まれると、罪悪感は一瞬で消えた。二人の間で湿り気を帯びる空気が身体にまとわりつき、汗がにじんだ。溶けてしまいそうだ。 「…あ…ふ…」 「ここ? 気持ちいい?」  巨大な、得体のしれない波に溶けるように、抵抗もできず、順応することもできずにいることがもどかしかった。感じるはずもない箇所も三枝の指や舌が触れると、電気が走るように痺れ、ふわりと浮き上がるような感覚を覚える。そうかと思えば、痛みのような切ないような疼きに襲われる。  薄い腹の上を濡れた舌が落ちていくと、ガクガクと腰が揺れた。 「…ん、んー」  つま先を丸め、膝を閉じようとするが、三枝の硬い腕に当たるだけだった。もう何度も零れてしまっている先端が腹につく。我慢できずに手を伸ばそうとするが、押さえつけられ逃げることができない。時間的な感覚はまるでないが、自分だけがイかされていることが悔しかった。弓なりになった腹を滑り愛液が股の間を伝った。  腿の内側をゆっくりと指が滑っていく。期待と恐怖に声が漏れる。だが、またしても中心には触れてもらえず、声が泣くように震える。 「さえ…っ…さん、お、ねがい」  声が詰まる。三枝の指が内腿を滑り尻に触れる。尻がすっぽり収まるように三枝は大きな手を広げ、指先に力を入れてじんわりと揉んだ。目に見えるような指の動きに、羞恥心が胸を鳴らした。 「ん…、あっん…あん……」  嫌なのに、揉まれるだけで気持ちがいい。全身が溶けてしまいそうだった。全身を支配する痺れに身体を反り返らせる。尻と肩だけがシーツに埋もれ、弓なりになった肌を三枝の舌に責められる。喉元も反り返り、頭がぼぉっとしてくる。腰が震え、またイキそうになって、逃げようと腰を浮かせると、胸に膝が付くほど折られ三枝の身体が覆いかぶさってきた。 「…っ…ぅ」  が、声にならず息だけが漏れる。背中に触れた腕に力を感じたかと思うと、両足を大きく開いて、三枝を受け入れる形を取らされている。体重をかけてこない三枝に不安を覚えて、思わず腕を伸ばして両肩に掴まった。そっと息が近づいてきたが、三枝が耳元に顔を埋めた。硬くなったものを当てがわれ、興奮する。自分だけではなく三枝も感じていたのだ。 「三枝さん…、…来て」  耳元で荒々しい呼吸があった。顔を三枝の首筋によせて、興奮を隠すように息を止める。腹に溜まった白濁を、三枝が躊躇いもなく右手でこそぎ落とすように動かし、内股を滑って奥へと進んだ。ヌルヌルとした感覚が蕾を弄る。濡れた指はゆっくりとそこを濡らし、指の腹で押したり突き立てたりしながら入口を開いた。 「…ぅ…ふっ」  息をするとスルリと指が入り込んできた。痛みはない。痺れるような甘さが突き刺さった。ヌルリとした感覚が奥まで進むと、入口を擦りながら戻り、また差し込まれた。入口拡げ、じっくり濡らすように指が動くのがわかる。クチュクチュと湿り気を帯びる音が続き、丁寧にされていることを感じだ。  最近では自分で濡らすことが多かったが、これほど優しく濡らしたことはなかった。  入口を拡げるように角度を変え、曲げられる指を脳裏で描く。押し開くように押し当てた指と、さらに奥へ進む指、目を閉じても感じてしまう。達することとは違い、身体を侵略されることは、何度やっても屈辱感が伴う。目を閉じ、噛みしめていた唇に息が触れた。 「痛い?」  驚いた。行為の最中に、気を遣われたことなどない。僅かに首を振る。気を紛らせるように、弱いところを愛撫された。もっと、三枝の顔を見ていたいと思った。両腕で三枝を引き寄せると、口接けられた。優しいキスに屈辱感が薄れる。見ていたいと思うのに、三枝の顔はするりと下へ落ちてしまった。ふいに乳首に熱いものを感じて、腰が跳ねた。 「あんっ、やっ…あっあ」  舌だとわかるまでに時間がかかった。中を攻めていた指が増やされても快感しかなかった。さっきイったばかりなのに、もう爆発しそうになっている。指の動きに合わせて身体が揺れる。 「や、だぁ…あっ…」  馬鹿みたいな喘ぎを止めることができない。  今まで、こんな風に感じたことなどないのに。何度もこれまでにないほどの快感を思い知る。AVをみたことがないわけじゃない。漫画だって映画だってみる。セックス描写などそこら中に溢れているからこそ、知らないわけではなかった。だた男女のそれと自分たちの行為は別ものなのだと思っていた。こんな、女の身体でない自分が、快楽を感じることなどないのだと思っていた。なのに、どこから溢れるのかわからない甘い感覚と、脳が受け止めているのか、弄られた胸の中を抉られているのかわからない刺激が、全身を包んでいた。甘い愉悦と痺れを繰り返し、解放されたいと願う。  三枝がサイドボードに腕を伸ばし、素早くゴムをセットするのを眺めた。アツシと比べれば、大人と子ども程の差があるように見える。三枝の身体はやはりどこまでも違う。  尻を高く上げられ、息を呑んだ。それが悲鳴に聞こえたのか、侵略してきたのは指だった。慣らされたはずの律動にもどかしさを感じる。胸を苛めてほしくなり、唇を噛む。 「怖い?」  耳元で聞こえた声にはっとして目を開く。膝が胸につくほど畳まれたせいで、腕を伸ばすことはかなわなかった。首を振ると、彼の口角が上がるのが見えた。笑ったのではなく。  ズシリ。  次の瞬間に振動があった。痛み、というよりは圧迫感だ。次に刃先を押し当てられているような、鋭い痛みが走った。目尻から涙が零れる。石がめり込んだような衝撃で息が苦しい。 「くっ…」  暫く、長い時間に感じられたが、動かなかった三枝が身体を引いた。小さく繰り返す呼吸をみながら、吐いた瞬間に動いたのだ。圧が引く感覚もまた恐怖だった。  悲鳴とともに動きを止めた三枝の顔が歪み、また圧された。 「…ぅふ」  今度は痛みを感じなかった。ふわりと浮くような、それでいてどこか痺れるような、大きな波に合わせて身体を揺らされた。  確かめるように、三枝の瞳が自分を捉えているのがわかる。ゆっくりと引き、また挿し入れられる。痛みや圧迫感よりも、ついさっき覚えたばかりの言葉にできない感覚が、また断続的に押し寄せてくる。 「…ぇ…あ、あっ…、あっ」  それは快感だ。イキたいと思った感覚が、それ以上の期待と興奮で頂点を待っている。中心を擦られるより自然に、愛撫されて溶かされていく。三枝は自分の呼吸を読みながら、無理なく腰を進めてきた。ゆっくりと、徐々に深く深くなっていくその感覚に乗るように、喘ぎも高くなっていった。  いつしか羞恥心もなくし、翻弄されるまますべてを解放していた。  初めてだと思った。  アツシとしていたものとは、まるで違う。  イクということの、本当の感覚を、今初めて知った。  愛撫されることを、覚えてしまった。  それを欲して、彼の指が動くだけで、それを期待する。  もっと、もっとと。頭が、身体の奥から欲望が溢れる。これ以上擦られたら、血が滲むのではないかとか、心臓が破裂するのではないかとか、危機感があるのに止められない。 「あ…お願い、もう…もう、や…」  もう嫌だと泣いたのに、許してはもらえなかった。腕から逃れようとする身体を後ろから抱きしめられた。強い力ではないのに、振り払うことができなかった。 「あ…あっ」  首すじに落とされる唇に、もう声を漏らしていた。何度も愛撫された乳首が、両手で覆われただけで、ビクビクと腰が揺れてしまう。  二度目は後ろから、動物の行為の如く、しかし、獣以上に長く深くもつれあった。根本まで飲み込んで、気絶しそうなほどの愉悦を感じた。今日、初めての感覚をこれほどまでに何度でも食らうと、打ちのめされているような感覚を覚える。これ以上は耐えられないと、大きな三枝のそれが抜かれた瞬間、逃げ出そうと思ったのだ。  尻の下で、すでに硬くなっている三枝のものを認識すると、逃げたいと思ったのに、擦り付けるように腰が動く。ピンク色に立ち上がった乳首から、三枝の指がスルリと腹へ落ちていくと、自ら腿を開いていた。三枝の手で片膝を持ち上げるられると、トロリと液体が零れた。ゴムをする意味もないほど、しっとりと濡れた中心から愛液と欲が零れる。みっともない姿をさせられていることに抵抗する。 「やっ…いや…」 「可愛いよ」  嘘をつかれて反撃したい気持ちが、形にならずにシャボン玉のように弾ける。もうなにも考えられない。愛されることに溺れているだけだ。  首すじに吸い付くように押し当てられた唇に、ドキリとする。三枝が跡を残すつもりだとわかった。 「だめ…」  三枝の指が口の中へと入ってきた。舌を掴まれ遊ばれる。指をしゃぶり、まだ知らない刺激を探している自分を思い知る。指で口腔を攻められ、唾液が指を伝って零れ落ちる。ツンと立った乳首をその指で撫でられ、震えた。麻痺するほど責められた箇所にまた違う感覚を覚えて、腰を揺らした。舌で責められるよりも、蜜に覆われているような緩い感触が広がり、乳首がどうにかなってしまいそうな緩慢な温かさで、胸元を覆われた。 「あ…ん、あ…」  迎合するように、もっと甘い声を出している自分がいる。わかっていて抑えることができなかった。もっと可愛がられたいと思っているのだ。ついさっきまで知らなかった「愛撫」という言葉の意味を、全身で受け止めたいと思っているのだ。唾液が乾いた乳首は張りつめて、揉みしだかれたいと訴えている。  耳元で感じる吐息にもっと触れたいと思う。喉元が綺麗に見えればいいと、したたかに思いながら首を伸ばし、感じている顔を三枝に向けた。  三枝の両手で子どものように膝を抱え上げられる。トロトロとだらしなく愛液を漏らす蕾に、また三枝のいきり立ったそれを突き立てられた。

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