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44 お守り 三枝

     *  向野は日焼けしたらしく、首の後ろが赤くなっていた。潮を落とすために、水に近いシャワーを浴びても痛かったらしい。  夕飯は、向野が釣ったというコブダイとタコを料理した。歳が近いせいか、航と向野は話が合うのかもしれない。舟でどんな会話をしたかはわからないが、上手くいっていたのだろうことは分かる。  奈都が嫉妬するように二人の間に割って入ると、自然に向野が抱きかかえる。小さなスプーンで流動食をあげるのも、もはや向野の仕事になったようだ。航は満足そうにそれをみて、ご飯をかきこんだ。  向野の父親の言葉に、不穏な空気を感じた三枝は、会いにきてくださいと言った。断られるとはわかっていたが、 『三枝さん。不動産屋と医者からしか、あなたを知ることはできなかったけど、私はたぶん、だれよりもハルが一番信頼している人だと思っています』  そう言われて居心地が悪くなった。 「待ってください…」 『あとは頼みます』  電話が切れた。  日焼けした肌が痛むのか、向野は首を気にしながら航と話をしている。父親から電話があったことを告げるべきなのだが、最後の感じがひっかかって、三枝は黙って二人のやりとりを見ていた。 「スマホと財布、見つかったらしいよ」  食事を終えて、眠る前にそれだけ伝えてみた。向野は軽く頷いただけで何も言わない。事件の名残りか、観察力鋭い向野の質問攻めがない。以前なら、持ち去ったのは誰かを理解しているのだから、誰が見つけたのかとか、聞き返してきそうなものだが。  また認識していないのかと思ったが、髪をかき上げて暫く三枝の顔をじっと見た。 「京さんが、いろいろとしてくれたから、財布の中身はあんまり意味ないし。スマホも…ま、俺のせいで中の情報がへんなとこに流出しないってだけよかったかな」  強がっているわけでもなさそうだが、そんなもんだろうか。 「以前、お守りがあるって…」  それを聞いたのは、会社の社長からだったか。 「…話したっけ? でも、俺今はこうして、触れようと思えば触れられるし、話したいと思えば、声も届くからいらないよ」  向野はそういって微笑んだ。 「…僕でいい、ってこと?」 「京さんがいいんだよ?」  向野が首を傾げながら言う。腑に落ちず同じように首を傾げると、向野は悪戯っぽく笑い、口元を隠しながら、俯き加減で言った。 「初めての日、出てく前に京さんのヌード写真撮った。それがお守り」 「…え?」 「ホント。流出しなくて良かった」 「え? 嘘でしょ?」  頭が真っ白になる。笑いながら布団に潜る向野を引っ張ってなんとか言葉を続ける。ヌード? 初めての日って確かに裸で寝てたかもしれないが、写真を撮る暇など…?  毛布を頭から被った向野が小刻みに震えている。どうみても笑っている。毛布を剥がそうとするが、抵抗は激しい。からかってるのかと思いながらも、まるで修学旅行の中学生のように、二人で暫くじゃれ合った。

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