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第8話 朝帰りと戦闘事案
翌朝早くに、僕は、そっと寮の自分の部屋へと帰った。真っ暗な部屋の電気をつけた時、誰かが僕を後ろから羽交い締めにしてきた。
「だ」
声を上げようとする僕の口許を押さえて、僕の目の前に現れたのは、天音と奏だった。二人は、指を立てて唇にあて、僕に、静かにするようにと合図をした。二人は、僕が抵抗しないことを見て取ると僕の体を捕らえていた手を離した。僕は、きいた。
「何、してるんだ?僕の部屋で」
「こっちが、聞きたい。この、不良教師が、朝帰りかよ」
「それは」
僕は、天音に責められ頬が朱に染まった。そんな僕を見て、奏が一言、言った。
「やられちゃってるよ、津宮に」
「や、やられてなんて」
僕は、真っ赤になって言った。天音がため息をついた。
「マジかよ」
天音は、僕の左手首にはまったリングを見つけて言った。
「何?信じられない。あんた、どれだけあいつに心許しちゃってるんだよ。あいつは、あれでも、魔王なんだぞ!」
「心だけじゃないだろ。体まで、許しちゃったんだろ」
奏が言って、僕を壁に押し付けた。
「言えよ、あいつに、何されたのか」
「そ、そんなこと」
僕は、ぷいっと横を向いて言った。
「何で、君たちに、そんなこと言わなくちゃならないんだ」
「当然だろ!先に、あんたに唾つけたのは、俺たちなんだから」
天音が僕の横の壁に手をついて、僕を見下ろした。
「言えよ!奴に、何されたのか!」
「言うわけないだろ!」
僕は、負けずに、二人に言い返した。二人は、一瞬、黙り込んでから、やれやれというような表情をした。奏が僕の両手を頭上で押さえると、天音が僕のベルトを外し出した。僕は、足をじたばたさせて言った。
「こら!何してる!やめなさい!」
「しょうがないだろ、静かにしてろよ、真弓先生」
言いながら、天音が僕のズボンと下着を膝まで下ろして、足の動きを封じた。
「先生が、素直に、白状しないから、体にきくしかないんだろ」
「やめなさい!離さないか!」
暴れる僕のことを二人がかりで押さえつけ、彼らは、僕のものを凝視した。そこには、征一郎につけられた銀のリングが光っていた。
「なんじゃ、これは!」
天音が叫んだ。僕は、恥ずかしさに赤くなって、うつ向いた。奏が冷静に言った。
「奴のつけた首輪かな?」
「首輪かなんか知らんが、こんなもの、すぐに、外させてもらう」
天音がリングへと手を伸ばした。が、それに触れた瞬間、天音の体がびくんと爆ぜた。天音は、慌てて、手を引っ込めると叫んだ。
「何、だ、これ・・防御魔法、か?」
「まあ、奴なら、やるだろうな、それくらいのことは」
奏が言うと、僕をくるりと回して、壁へと向かせると、僕の腰を上げさせた。僕は、壁に手をついて、涙ぐんで、奏に向かって言った。
「なに、する気?」
「ちょっと確かめるだけだよ」
奏は、僕の尻朶を両手で開くと、奥の窄まりへと顔を近づけた。息がかかるほど近づかれ、まじまじと眺められて、僕は、弱々しく、言った。
「やめ・・そんな、見ないで・・」
「先生、濡れてる」
奏は、僕の後孔にそっと指を入れて、そこを押し開いた。
「すごい、絡み付いてくる。先生、感じてる?」
「んぅっ・・か、感じてなんか」
「嘘」
奏が言った。
「ここ、こんなに濡らしてるじゃないか」
「どこ?」
天音も顔を寄せて、僕の後孔を覗き見た。僕は、両手で後ろを隠そうとして、言った。
「やっ!・・も、だめっ!」
「何、言ってんだよ」
天音が隠そうとしている僕の手を掴んだ。奏が僕のそこへと入れた指を中で掻き回して言った。
「これは・・まだ、不完全だけど、前とは、全然違う。たぶん、津宮の持ってた花嫁の石を入れられたんだ」
「ふぁっ・・ん・・も、やめっ・・」
「これは、確かめてみる必要があるな」
天音がベルトを外して、自分自身を取り出しながら言った。僕は、恐る恐るきいた。
「何を、確かめる気?」
「決まってるだろ!先生のここが、どうなってるか、だよ!」
「やっ!やめてっ!」
「入れるぞ、真弓先生」
天音が彼のものを僕に押し入れようとした。僕が、衝撃に備えて、体を固くした時、天音が叫んだ。
「何じゃ、こりゃぁ!」
そして、天音の気配が消えるのを感じて、僕は、そっと後ろを振り向いた。すると、そこには、彫像と化した天音の姿があった。奏は、固まっている天音の姿を冷ややかに見つめて言った。
「しっかり、防御魔法が効いてるみたいだな」
「防御魔法?」
僕は、そそくさとズボンと下着を上げて、服を整えると、奏にきいた。
「何?それ」
「つまり、先生のその貞操帯は、魔法がかけられていて、他の誰かが先生に何かしようとするとこういう風になっちゃうということだよ」
奏は、僕を犯そうとしたまま、固まっている天音を指差して言った。僕は、天音の背中を指で突いた。天音は、石像のように身動き一つすることはなかった。
「どうすればいいの?これ」
僕がきくと、奏は、興味なさそうに言った。
「さあ?」
「天音くんは、ずっと、このままなの?」
僕は、天音が可哀想になって、前に、そっとタオルをかけてやった。奏を見ると、彼は、欠伸をしながら、部屋を去ろうとしていた。
「たぶん、魔王の怒りが溶けるまで、このままなんじゃないですかね」
「ええっ」
僕は、去っていく奏を見送ると、天音を見上げてため息をついた。
「殺す、絶対に、殺してやる」
天音が制服姿で登校しながら、怒りを込めて繰り返すのを、僕と奏は、苦笑しながらきいていた。
結局。
天音の魔法が溶けて、彼が自由を取り戻したのは、二時間も後のことだった。魔法が溶けるまでの間、天音は、恥ずかしい格好のまま、僕の部屋で立っていたわけだった。
「仕方ない。自分が悪いんだろ。天音」
「なんだと、奏」
天音が気の弱い子供なら泣き出しそうな目付きで奏を睨んだ。奏は、鼻で笑って言った。
「うれしそうに、先生に、いたづらしようとするから、罰が当たったんだろ」
「誰が、うれしそう、だ」
天音が怒鳴った。
「それなら、お前も同罪だろうが!」
「何が、同罪だって?」
混雑している学園都市の入り口のゲートの前で、後ろから誰かが声をかけてきた。
「征一郎!」
僕は、人の流れに逆らって、彼に駆け寄ると、彼のスーツの裾をぎゅっと掴んだ。征一郎が優しく僕の髪をくしゃっと撫でた。
「おはよう、真弓」
「おはよう」
僕たちは、見つめ合い、微笑みあった。
「何、二人で世界感出してんだよ!」
天音が手に持っていた鞄を地面に投げつけると、右手を前に突き出して、叫んだ。
「結界を展開する!」
ぶわっと鳥肌の立つような振動が辺りに走った。征一郎が僕を庇うように抱き抱えた。辺りが、ふっと静かになって、それまで、溢れかえるほどいた筈の人影が、僕たちを残して消え去った。
天音が叫んだ。
「おい、こら、この変態エロ親父!覚悟は、できてるんだろうな!」
「何の覚悟、だ?」
征一郎が天音にきいた。天音は、手を天に突き上げて、言った。
「この俺を虚仮にしたんだ。ただじゃ、すまんぞ。グレイザ」
「バカなことを」
グレイザと呼ばれた征一郎の瞳が赤く輝く。
「ただではすまないのは、どちらだ?我が花嫁に手を出そうとした間男が」
「うるせぇ!真弓先生は、まだ、お前のものになったわけじゃねぇ!」
天音の手の中に、巨大な剣が現れた。
「この異世界が、お前の墓場だ!」
天音の黒い刃の剣がぎらりと光って、僕は、征一郎の体にしがみついて、彼を見上げた。征一郎は、僕をしっかりと抱き締めると、言った。
「案ずるな、真弓」
「でも」
不安げに見上げる僕に、そっと口づけし、征一郎は、天音と対峙した。
「幸運だったな、ケイレスよ。今日は、私は、とても機嫌がいいのだ」
「ああ?」
剣を構えて、征一郎を睨み付ける天音に、征一郎は、にやりと笑った。
「こい、剣の王よ」
「死ね!この変態エロ親父が!」
剣を振りかざし天音が征一郎へと迫る。が、征一郎は、それを素手でかわして言った。
「ガキは、おとなしく、勉学にでも励んでろ!」
「覚悟!グレイザ!」
横から奏が光の剣で薙いでくる。征一郎が一瞬、動きを止める。僕は、目を閉じて叫んだ。
「征一郎!」
数分後。
僕が怖々目を開くと、そこには、かすり傷一つ負っていない征一郎の姿があった。僕は、征一郎へと駆け寄って、彼に抱きついた。
「征一郎!」
彼の無事に安堵した僕は、はっと気づいて征一郎にきいた。
「あの二人は?」
「大丈夫だ」
征一郎が、僕のこめかみにキスして言った。
「あの二人なら、先に、学校へ行っている」
「本当に?」
僕は、言ってから、はっとして、征一郎に言った。
「僕たちも、急がないと!」
僕が言った時、ゲートのざわめきが戻って、辺りに人影が溢れた。征一郎は、僕の手を取って、言った。
「行こうか、真弓」
僕たちは、ゲートを通過して、学園都市へと向かった。
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