〈陽季〉 ―章也さん……頭の中が見えてるよ… 『俺は享以外は見えてないぞ？』 と、章也さんの泳ぐ目が言う。 ―解ってる…いいんだ、それで…… 「長瀬を愛してていいよ？」 僕の告白に、明らかに戸惑いを見せた章也さんに言ってあげた。 だって長瀬は、僕のたった一人の大切な友達。 僕はね、章也さん… ダッチワイフでいいんだ。 ダッチワイフがいい。 せっかくまた人を好きになったけど、何故か、僕の好きになる人は長瀬を愛してて。 諦めなきゃ、と思ったら、章也さんが、2人は愛し合ってない、長瀬の相手は他にいる、と言う。 なら… それなら、僕とセックスしてくれる？ 体だけでいい、繋げてくれる？ それでいい。 ううん、それがいいんだ。 長瀬を愛する人の全てを求めることはもうしない。 求めれば、相手も自分もズタズタにするだけと思い知ったから。 驚愕に拡がった章也さんの目。 非常識だと驚いたよね… でもお願いだ。 どうか、あ、そう？くらいのノリで僕を使って？ そのモヤモヤは、ゲイである貴方は、男じゃないと解消されないよ。 もちろん、ほんの一時の誤魔化しだけど、溜め込むよりはいいでしょ？ あなたは愛するが故に、今の長瀬を抱けないか、抱いても苦しい筈だ。 他の誰かで間に合わせるなら、僕を使って。 お願い…… 章也さんが、どんな気持ちでいたって、その行為はセックス。 僕は愛する人に抱かれることが出来る。 その充足は、他の何者にも代えられない…… さみ様、僕、また卑怯なことする。 相手の弱みに付け込む。 でも、悲しまないで… 今度は、相手も僕も傷つかない。 安西先生とは違って、彼は相思相愛じゃないんだ。 彼は可哀想なんだ。 愛する人に愛されなくて、可哀想だから、僕が、背中だけ包んで支えるんだ。 彼が、背中を伸ばして立っていられるように。 こっちなんか向かなくていい。 向こうを向いて、正面は、愛する人に向かってもらってていい。 その代わり 抱いて……… それなのに、僕の腕を掴んで抱きとめた章也さんの、初めてのキスは、とても優しくて…… まるでファーストキスのように、フワリ…フワリ…と触れてくる。 予想外のキスに、僕は狼狽して、全く応えられない。 章也さん、止めて… もっと、乱暴でいい。もっと強引でいい。自分勝手に吐き出してくれたらいいんだ……ｯ 章也さんが、唇を離した瞬間に、僕は離れて寝室に逃げ込み、ドレッサーの抽斗に仕舞ってある媚薬の小瓶を取り出した。 長瀬を愛する人は、長瀬以外を欲さない。 絶対に勃たない。 章也さんは酔ってるから、勘違いして最初は勃つかも知れない。 でも、行為が進むにつれ、相手が長瀬じゃないと認識して、必ず萎える。 それは……耐えられない… 惨めすぎる。 リビングに戻ると、ソファの背もたれに、頭を乗せ、上を向く章也さんがいた。 「章也さん…」 僕は、媚薬を塗った指を、愛しい章也さんの唇に指を近づける。 はむ… 指は章也さんの口の中にまんまと侵入した。 ああ…章也さん…… 章也さんの舌で愛撫される指。 いつも女みたいだ、と章也さんに言われるけど、僕は正真正銘の雄。 ズクリ、ズクリ…と育つ雄の証。 章也さんの目が変わった。 ソファの背の後ろにいる、僕に、手を伸ばしたかと思うと、軽々と持ち上げ、ソファに寝かせた。 「お前…綺麗だ…」 丁寧に僕のシャツを脱がせた章也さんの唇が、尖りを捉え、転がす。 「…ぁ…章也…さん……」 ﾁｭ………ﾁｭ、ﾁｭ…… 唇の音に紛れて、僕の耳に届く章也さんの荒い息遣い。 章也さんが興奮してる… あの隙のない、完璧な章也さんの、剥き出しの動物の欲が、僕の体に向けられている…… 「章也さん…章也さん……愛してる……」 ふ、と章也さんの動きが止まる。 そして、とても不思議そうに僕を見つめる。 焦点の合わない目で、ホケーｯと僕を見て 「ほんとに？」 と聞く。 ―当たり前じゃないか！ 「ほんとだよ？死ぬほど愛してる。章也さんのこと」 章也さんはまだ、僕を見つめたまま、ポロリと涙を零し 「ありがとう…」 と呟いた。 何で？ 何で不思議そうに、何で『ほんとに？』なんて… 何で泣くんだ、章也さん… 貴方は最高だよ？世界中の男をかき集めても、貴方に敵いはしないというのに。 僕がこれまでの人生で見た中で、間違いなく頂点の人だ。 なのに、愛してると言われることが不思議だなんて。 本当に長瀬一人だけを見てきたんだね… 僕が愛する。 あなたを。 愛の言葉を沢山あげる。 何も返さなくていい。 あなたの心が、本当は足りなくて淋しい、と思うものを補うサプリメントになれるなら僕は幸せ…… 章也さんの顔を包んで囁く。 「ここに寝て？」 僕の言葉に、笛吹きの魔法にかかったように、章也さんは素直に従い、ソファを降りて、絨毯の上に仰向けになった。 僕は残った自分の服を脱ぎ去り、章也さんの服を脱がせてゆく。 服の上からでも判っていた、鍛えられた完璧なボディ。 思わず溜息が出る。 章也さんの上に跨り、尻を上げて硬い胸にキスをしながら用意していたローションを使い、自分で後ろに手を回して解す。 「行くよ…章也さん……」 僕は、愛しい人の中心にある根を掴んで、入り口に充てがい、ゆっくり腰を下ろしてゆく… 「…ぁぁ…」 裂けそうな程の圧迫感。 嬉しくて…胸が潰れそうだ… 「愛してる……章也……ぁぁ…」 「ん……」 結んだ章也さんの口から漏れる声。 額に浮かぶ汗… 解し足りなくて狭い道のせいで、少し苦しそうに歪む綺麗な顔。 ああ…章也さんのシてる時の顔……こんな顔なんだね…… 「はｯ……んん……」 一気に腰を完全に下ろすと、章也さんの口が一瞬、空いて、声が出て、また閉じた。 例え貴方が正気じゃなくても、今、この瞬間だけは、貴方は僕の物…… 硬い胸にキスをして、僕はゆっくりと腰を動かし始めた。