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第15話

〈陽季〉 背の高い章也が、頭の真上から、僕の髪に頬ずりする。 「おい名知…お前に、享のことを頼まれたがな、俺は、陽季にしたぞ?お前が傷つけやがったからな。いいだろ?名知」 そっか… 章也は、僕と長瀬の知らない先生を知ってるんだったな…… 章也が呼ぶと、まるでそこに先生がいるような気がしてくる… 僕の頭の上に乗った章也の顎が、喋る度、コンコンと当たるのが心地いい。 心の1番深い所に、章也の愛が流れ込んでくる。 ヒリヒリとしみて、僕は、佐々木が言った心の傷が、そこにあったことを知る。 「いい、ってよ」 ああ、仲のいい先生と章也…。 頭の片隅から消えることのなかった先生は、いつも僕が苦しめている時の顔だった。 僕はずっと、先生の笑顔が見たかった。 初めて逢った時の、真っ直ぐに僕を見て笑ってくれた、あの顔が……見たかったんだ… 今、僕の愛する章也と、先生が、笑い合ってる…… 僕は、章也が見上げている空を、一緒に見上げた。 さっきは真っ黒だと思った空に、一つだけ、明るい星が光っている。 ―章也と見上げれば、こんなにどんよりした東京の空にも、星が見つかるなんて… 「あれ、名知じゃねぇか?いい、って言ったくせに見張ってやがる」 「…章也…」 胸が一杯で、何を言えばいいか判らない。 「入ろう?」 微笑んだ章也が、少し、気弱に首を傾ける。 「うん」 僕は、これでもかと心配させて、結果的に振り回して、こんな風に弱々しく笑う章也を安心させたくて、大きく頷いた。 「よし!行こっ」 子どものように破顔した章也に、肩を抱かれてマンションに入る。 ちょうど1階にいたエレベーターにそのまま乗り込み、章也がポンと22階を押したその手で、コーヒーの袋を抱える僕の手を片方、握った。 はぁ…と溜息をついて、親指で手の甲を撫で 「綺麗な手だなぁ…こういうのを白魚の手、って言うんだろうな…」 と、呟き 「ぃヤバイー……」 と、顔を顰めた。 「どうしたの?大丈夫?」 気分が悪くなった? 大分、飲んでるみたいだし。 「ああ…」 苦しそうに章也が腰を折る。 「章也!どうしたの?!お腹?気分が悪い?吐く?」 「いや……。勃った……」 ドキン…とする。 「ぁ…あの…」 キンコン… エレベーターが22階に到着した。 「あの…章也…」 「行くぞ」 章也は僕を抱き上げた。 「あ、歩くよ、章也」 「ダメだ、逃がさん」 「…章也……」 僕を抱いたまま、器用に部屋のドアを開けた章也は、靴を脱ぎ、僕の靴も脱がせてくれて、寝室に直行した。 「陽季…。ここに薬はない」 僕は頷く。 「触って?陽季。お前の顔見て…綺麗な手、触っただけで、俺のは、こんなになる」 章也が、僕の手を、自身に導く。 心臓が破裂しそうだ。 膨張し、石みたいに固くなったものがそこにある。 「絶対に萎えない。出ちまったらゴメンな。それは保証出来ない。ちょっと制御不能だ」 もう、どうしたらいいか解らない。 心が求める相手が、同じように僕を求めてる。 章也が、薬も飲まないのに、こんなに僕を欲しがっている。 「あ…りがと…章也…」 やっとの思いで言葉にした。 「馬鹿…。こっちこそだ…」 コートと上着を忙しそうに脱いだ章也がそう言って、サラサラと僕の体を撫でるように、纏った物を剥いでゆく。 美味しい果物でも食べるように、僕の唇を何度も齧り、舐め、吸う章也。 いつの間にかすっと入り込んで来た舌は僕の舌に巻き付き、また優しく吸ったかと思うと、口腔内を全て、章也の物にしてゆく…… 矢鱈と格好のいい大男。 ターニーがそう言った。 その大男の章也の愛撫は、全くそぐわない程に、繊細で甘く優しい…… 「ぁ……」 章也の手が、僕の張り詰めたものに触れ、ゆるゆると扱く。 「…ぁ、章也…」 恥ずかしくて、つい制止しようとした僕の手を、片手でやんわり掴んで止め布団の上に貼り付け 「だーめ……」 と小さな声で言って、キスをくれる。 「…恥ずかしぃょ…章也……」 「うー……」 章也が顔を歪めて歯を食いしばる。 「章也?」 「煽…る、な……可愛、すぎる……ッ…うう……イタイ…こいつが…ぁ…ク……ちょ…っと待てよ…ッ…」 章也は、僕を跨いだ体勢で、着たままだったシャツ、Tシャツを脱ぎ捨て、カチャカチャとベルトを外し、一旦、僕の横に尻を着けて座り、ズボンを抜き取って、靴下も脱ぎ、放り投げた。 最後の布も躊躇なく、サッと取れば、猛る雄が聳え立つ。 ―ちゃんと…勃ってる…章也、僕で… 感動でみるみる章也が滲んでゆく。 眉を下げた章也の顔が近づいて来て、涙を舐め取り 「その泣きは後。今は、可愛く啼け?お前の、声も、ちゃんと聞きたい」 と笑う。 「ん」 章也に肯けば、両脚を持たれ、大きく拡げられた。 「…ゃ……章也…」 思わずまた、声が出る。 「恥ずかしい?」 コクコクと頷く僕に 「却下」 と優しく笑った章也は、いつ用意したのか、冷たい物を僕の後ろに垂らした。 「残念ながら、媚薬入りじゃないぞ?」 耳を齧りながら囁く。 「…うん…」 「見ろ、更にビンビンだ」 章也がローションを塗った僕の後ろに自分の竿をズルリ、ズルリと滑らせてくる。 ―ほんとだ…固くて……すごい…まま…… 「俺の脳も心も息子も、お前が欲しい、って言ってる」 思わず、クス…と笑う。 「お、笑ったな。よし…ちょっと力が抜けた。そのまま、力抜いてろ?これは処女だな?硬い硬い……ん……ッ」 ああ……章也が… ゆっくりと挿ってくる。 そのままの章也が、僕の中を進んでくる。 「章…也……ぁぁ…」 ゆっくりと章也の体が重なる。 嬉しい重み… 何度も章也と抱き合った。 でも、今日、初めて抱き合ったような気がしている。 こんなことなら、最初から薬なんて要らなかった? いや…必要だった。 章也にではなく、僕に。 あれは僕の創傷(きず)に塗る薬だったんだ…… 章也が、何度も何度もそれを塗って、治してくれた…… 諦めないで僕の創傷(きず)を看てくれた。 さみ様。 僕の瞳の底にはもう、悲しみはないよ。 さみ様の見ていた悲しみは晴れたんだ。 僕を見て、さみ様… 僕は笑ってる。 愛する人を見つめて、笑ってる…… 愛する人に愛される喜びで満たされて…… 章也を見つめている……

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