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第17話 ワクチン一本目2

「なんか、恥ずかしいな。……俺、今までこんなことなかったんだけど」  誠一郎の鋭く熱のある視線に、優人は身をよじった。もう、ほんの少し下着の張りが大きくなっている。 「僕に見られると、恥ずかしい、ですか」  獲物を見定めたかのように、じっと目線をそらさず誠一郎が近づいてくる。優人はあいまいにうなずく。まだ自分が年上だというプライドがある。 「電気、消して」 「見たいっていったの、ユートさんじゃないですか」  苦笑のなかにほんの少し責めるニュアンスをこめていうと、誠一郎は壁のスイッチに手をのばした。  部屋の明かりがおちた。部屋に散らばる家電製品の主電源ランプだけが、息をひそめるように遠慮がちに光っている。窓の外の街灯が、薄いカーテンごしにあえかな光をなげる。  優人は目を細めた。誠一郎のむきだしのりんかくが、くらがりにうっすらうかびあがっていた。服を着ているときよりも、肩幅が広く大きく感じる。細い腰幅との比較でそう見えるのだと思う。この上半身に覆い被されて、押しつぶされたい、と優人は酔ったように考える。彼の重さ、筋肉の張り、骨張った身体、鼓動、わななき。その全てを全身に刻みこむように感じたい、と。  ぎし、とベッドがなった。シングルベッドがふたり分の体重に悲鳴をあげていた。  同じようにベッドの上に膝だちになった誠一郎に、抱きしめられた。じかに触れる体温に、優人はおもわず吐息がもれてしまう。初めてあった日も、こうして抱き合った。誠一郎は服を着てはいたが。  ぎゅっと抱きしめられ、やがて顎をとられて上をむかされる。キス。今はまだ触れるだけの、あくまでもやさしいキス。  優人は自分の欲望がずくりと脈打つのを感じた。おそらくすでに、たしかな芯をもってたちあがっているだろう。  誠一郎の両手は髪を優人の柔らかな髪をすき、耳を撫でる。首筋をとおって降りていき、やがて、ぐい、と体を正面から密着させるように抱き寄せられた。びくり、とまた腰に血液が送りこまれ、体が熱くなる。  たまらず優人がしがみつくと、誠一郎の体の前につきでた部分と互いに触れあった。 「――――っ」  誠一郎が息をつめた。びくっと身を固くする。しっかりとした硬さのあるものが、優人の敏感な部分とこすれあっている。優人の背中をぞくっと甘やかな感覚が走りぬけた。  優人は息を荒げながら、誠一郎の首に腕をまわしてぶらさがるように抱きついた。誠一郎の反応が嬉しかった。 「もっと」  優人は自分から一度腰をおとし、下から突くようにこすりあげた。 「ん、んっ」  誠一郎が片手を口にあてた。必死で声をおさえている。 「竹林くんもうごいて」  耳元でささやくと、呼応するように誠一郎の腰も上下した。下着の布がこすれあい、中に秘めた熱の、鉄のような硬さをつたえてくる。 「ん、あっ。あ……もっと」  優人はもう喘いでいた。目をうるませてねだる。 「だめです。これ以上は……このままじゃ」  余裕のない声で誠一郎がささやく。 「ゴム、するね」  優人は左手に持っていた四角形の包みを、口をつかって噛みやぶった。 「俺、これ口でつけるテクあるんだけど」  そういいながら、ゼリーで濡れたゴム片をとりだすと 「ダメっ。危険ですそんなのっ」  誠一郎は可愛いほどうろたえる。 「なんで? そんなことしたら暴発しそう?」  優人はくすくすと笑って、下へ手をのばす。そして、また嬉しげなため息をついた。 「ああ、もうこんな濡れてるんだ」 「優人さん」 「大丈夫、気をつけるから」  誠一郎のコットンのブリーフをずらして、ゆっくりとそれをとりだした。薄闇でそりかえってゆるやかな弧を描く。 「昔、店の子がさ、『あんまり経験ないような人にかぎって立派なモノ持ってる』とかいってたけど、本当なんだな」  優人は感心しきっていう。 「あ、あんまり、まじまじと見ないでください」  誠一郎がいたたまれない様子で、優人をぎゅっと抱きしめた。 「見えないと、つけられないよ」  優人は苦笑した。片手をのばして、ずしりと重量のあるものを根本からにぎった。誠一郎の腕から力が抜けていった。 「うん、すごい。楽しみ。どきどきする」  優人はかがんで薄いゴムをかぶせた。ローションのびんをひろって、蓋を開け、手のひらのくぼみにたっぷりと出した。ピーチやベリーまじった爽やかで甘い香りがひろがった。 「濡らすね」  自分のたかぶりと誠一郎のそれにたっぷりとまぶす。ぬちゃりと水音がして、それだけで誠一郎が身震いしたのがわかった。優人はぬるぬると逃げるものを、両手を使ってまとめてにぎりこんだ。  お互いに弾きあうような怒張の硬さに、優人は鼓動がはやくなった。ゆっくり手を上下にうごかすと、すぐに快楽の波が頭をしびれさせた。 「ん、あっ。……ね、これ、きもちい? ……あっ」  自分でもすでに喘ぎながら、優人は一生懸命問いかける。誠一郎の顔を見ると、真っ赤な顔で目をうるませて、自分の手の甲を噛んでいた。 「ず、るいよ。……ちゃんと、声、きかせて……んんっ」 「ユートさん、男なのに……どうしてそんな、えっちな声が出るんですか」 「俺の声、好き?」 わざと耳元でささやく。 「やばいです」  泣きそうな声でそういい、誠一郎は、優人の手の上に自分の手を添えた。指の長い大きな手に包みこまれる、と同時に、ぐい、としごきあげられた。 「ああっ……すごい。やっ」  背筋を電流のように駆けぬける快感に、思わず腰からくずれかけた優人を、誠一郎の片腕が抱きとめた。背中をローションで濡れた手が触れる。 「ユートさん」  片手で抱きとめたまま、誠一郎は、もう片方の手でふたたびはちきれそうになった部分を握りこんできた。 「は、あ、気持ちいいですか?」  優人は目を半開きにして、こくこくとうなずいた。誠一郎の手が規則的に動き始める。くびれた敏感な部分を責められて、優人はびくっと体をのけぞらせた。 「ああっ……いい……きもちいい……あああっ」  すぐにでも絶頂をむかえてしまいそうだった。 「竹林くん……」 「もう、誠一郎って呼んでください」 「せい、いちろう」  ぐっと腕の中に抱かれて愛撫を続けられる。荒れた海の高波のように、逃れようのない快楽がおしよせて優人の理性を溺れさせていく。 「誠一郎、誠一郎、誠一郎、ああっ」  膝ががくがくと震えた。誠一郎の手の動きに合わせて、おもわず腰が動いてしまう。もう射精感がせまってきていた。 「ああ、もう……我慢できないっ……いっちゃ……いっちゃうっ」  足に力が入らなくなって、必死で誠一郎の首にすがった。 「イくところ、見せて、ください」  優人の耳元に荒い息がふきこまえれた。羞恥と悦楽で目の前がにじむ。  涙をうかべた視界には、やさしく微笑む誠一郎の顔が見えた。やさしいのに、寄せた眉は少し苦しげで、彼に似合わぬ淫猥な色気をまとっている。  好きだ、と思った。真面目で律儀な彼も。あわてている純情な彼も。容赦なく優人を攻めて喘がせる彼も。全てが愛おしいと思った。  次の瞬間、目の前で閃光がはじけ、頭の中が真っ白になった。 「あ――――っ」  強烈な快感が全身を貫いていく。何度も、何度も。電流を浴びたように優人は体をつっぱらせた。 「あっ――あっ――――あああっ」  そのたび、誠一郎に握られた自分の一部は、活魚のようにはねて白濁をほとばしらせる。  彼の体にすがって、もだえ、耐えた。熱い液体が腹を汚し、腿をつたって流れおちていくのが感触でわかった。 「あ――ああ、ふ、う」  くらくらする。なんとか呼吸を整える。  誠一郎が、膝下にあったタオルの端をもって、濡れた体をふきあげてくれた。ぐったりとなった優人の脇から手を入れるように抱き、うやうやしくベッドに寝かしてくれた。 「今、すごく満足そうな顔してますよ」  ささやいて、誠一郎の指が額の汗をぬぐう。彼の前髪も、ひとすじ汗で頬にはりついている。 「うん。だって……幸せだもん」 「安心しました?」 「うん。ずっと、触りたかったんだもん」  細い声でそう答え、添い寝してくれる誠一郎の肩に顔をうめる。誠一郎はこまったように顔をしかめる。ああ、もう、といらだったようにひとりごちて、優人の手をとった。 「可愛いですっ」  まだローションの香りのする指先に、遠慮がちなキスをした。  ぼうっと幸福な倦怠感にひたっていた優人は、はっと思いだして、半身をおこそうとした。誠一郎はまだだったはずだ。ひとりだけ達してしまった。 「俺も、誠一郎のこする」 「もう充分です」 「誠一郎?」 「ゴムをしてても、破れるかもしれませんし、漏れるかもしれません。そういうことを心配しながら最後まですることはないです」 「……いいの?」  心配そうに問う優人。 「あと二ヶ月半ですよね。最後までユートさんを守らせてください」  誠一郎は、少しだけやせ我慢の見える顔で微笑んだ。

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