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第8話 縄 -2-

先ほどせっかく時間をかけて着けさせた下帯を、言行は惜しげもなく解いていった。翡翠の恥部が再び露わになる。 茫然としている水谷の前で、言行は翡翠の肩を押して畳の上に座らせ、座禅のように足を組ませてそこにも縄をかけ出した。器用にあちこち結び目を作り、確実に翡翠の身体の自由を奪っていく。 頭を押さえて少しかがませ、頸にも縄をかけて身体の前で合わさった足首に繋ぐ。それがすむと言行は翡翠を前に軽く突き転がした。身体が伸ばせない翡翠はそのままの形で倒され、自然と尻が高く上がった姿勢になる。言行は翡翠の腕を縛めた縄に手をかけて、荷物でも移動させるように身体を回し、彼の白い尻を老人と水谷の方に向けた。無防備に剥き出しにされたそこがいやでも目に入る――見たくない、と水谷は思ったが、その感情とは裏腹に視線が吸い寄せられた。 「どうします?この間と同じに犬入れますか?」 言行が老人に向かって訊ねると、それまで黙って従っていた翡翠が不自由な首をねじ向け、叫び声を上げた。 「待って――待ってください!犬はイヤです!」 「犬、って……」 水谷は呻くように言った。さっきのドーベルマンだろうか?翡翠をこんな状態にして……まさか……。言行が答える。 「あ、誤解しないで下さいよ。獣姦とかじゃないですから。彼のね、身体にグレービーソース塗って舐めさせただけです。でもイイところ……だったのかな、あそこは。随分と感じちゃってましたもんね」 「いやです!お願い、止めて!止めてください!」 翡翠が怯えた顔で懇願する。 「え?そう?この間はあんなに――失禁するほど悦んでたクセして」 「違――」 額を畳に付けて、顔を伏せた翡翠の肌が朱に染まる。 「違わないでしょ?」 「違います!あれは、噛まれそうで怖かったから……!」 「そりゃそうですよ、お仕置だったんだから、怖がらせようと思ってやったのに途中から喘ぎだしちゃって……あれは怖がってるって風じゃなかったですよ?しかしお漏らししちゃうほどよがられるとは思わなかったんですがねえ」 言行は世間話のようにそう水谷に話しかける。水谷は言葉につまった。 「翡翠さんにかかっちゃ、どんなお仕置きでも悦ばれちゃうんだからなあ。こちらはなかなか辛いですよ」 「今回からは多少きつくした方がよかろう。打擲(ちょうちゃく)して、少し身体に教えてやれ……」 老人が言った。現行が、ハイと答えて部屋を出る。打擲!?翡翠を叩いて痛めつけようっていうのか?止めたいが、どうしたらいいかわからない。自分が下手な動きをすれば、責めがきつくなるだけだろうというのは容易に察しがついた。 「水谷さん」 「は。はい」 急に呼ばれてうろたえた水谷に、老人が低い声で言う。 「水谷さんにも、協力していただこう」 「協力、って……」 声が掠れる。 「酒が冷めましたな」 老人は動揺する水谷に構わず、徳利を取り上げて呟いた。 「温めなおさせようにも、あの状態では。済んでからでよろしいですか」 水谷は返事ができない。そこへ現行が戻って来た。 「ありましたよ。随分使ってなかったから、ホコリ被ってた」 彼が手にしているのは、座禅の修行などで見たことのある警策(きょうさく)のような細長い板だった。あれで翡翠を打つつもりなのか、水谷が青褪めた時すでに、言行は翡翠の上げられた尻に板を軽くあてがって用意していた。彼は 「行きますよ」 と楽しげに言ってからそれを振り上げ、翡翠の尻に振り下ろした。 瞬間水谷は目を閉じた。鋭い音が高く響き渡る。目を開けると今一度、言行が翡翠を打ち据えたところだった。衝撃で翡翠の小さな尻の肉が、わずか波打って音を響かせる。 「水谷さん」 老人が言う。 「あなたにも打ってもらいます」 血の気が引いた――嫌だと思うのになぜか逆らえない。強制されるままのろのろ立ち上がって水谷は言行が渡す板を受け取った。翡翠の尻にあてがったが、手が震える。伏せた翡翠が呟いた。 「――お願いします。打ってください。加減してくれても、回数が増えるだけだから」 仕方なく何も考えないようにして、数度打った。数が重なるにつれ辛さが増すのか、叩かれるたび翡翠は動かない身体を捩じらせて小さく呻いた。 「もうよろしいでしょう」 老人がようやくそう言うのを聞き、慣れない行為に疲れ切った水谷は板を放り出して畳に座り込んだ。 「どうです水谷さん。美しいとお思いになりませんか」 言行が、翡翠の白く柔らかい肌に紅く残る、打たれた痕を指し示して問う。 「ご自分がこれをお付けになったと思うと――いかがです、嬉しくはありませんか――」 嬉しくなど無い。水谷は思った。あんなになって――きっと痛むに違いない。可哀想に。すまなかった――翡翠、一体――この世界はなんなんだ。こんな酷い事、なぜ拒否できないんだ。俺はどうしてしまったんだ――

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