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第9話 縄 -3-
「大分お疲れになったようですな」
翡翠を打ったあと座り込んだまま動けないでいる水谷を見、老人が言った。
「翡翠。自分のせいで水谷さんにもご迷惑をかけたのだぞ」
言われて翡翠は畳に顔を伏せて動けぬまま
「はい……申し訳……ありませんでした」
と弱々しい声で詫びた。
言行が手をかけ、翡翠を引き起こす。打たれた尻を下に、硬い畳に座らされ、彼は辛そうに顔を歪めた。
「あれ?翡翠さん――」
言行が言う。
「今回も――お仕置きにはならなかったかな?」
どういうことかと水谷が顔を上げると、言行は緊縛されている翡翠の前にしゃがみこみ、組まされて固定された足の間に目を落としている。その視線を避けるように翡翠は肩を捻るが、開かされた足を閉じることはできない。複雑に絡んで見える縄の合間から、言行は翡翠の下腹部に片手を滑り込ませた。中心を撫で上げているのが腕の動きでわかる。
「勃っちゃってますね。水谷さんに叩かれるのが、そんなに良かったんだ」
「ア、ア!」
ふいに翡翠が声を上げた。水谷の位置からは、現行の手元は見えなかった――一体何をされているのか――
「いやです、そこは……げん……言行さん、止めて……止めてくださ……あ、アぁっ!」
翡翠が上げる啼き声は、微かに艶を帯びて聞こえた。
「やれやれ。言行、もう射精 させてしまったのか?他愛も無いことよ……」
老人が言う。
「いえ、まだ出てません――水谷さん」
「え?」
「ここじゃ翡翠さんも痛くて可哀想だ。あっちに運ぶの手伝ってください」
強引に促されて水谷は、縛られたままの翡翠を運ぶのに手を貸した。荒縄の合間の彼の肌は滑らかで白く、それだけに縄に締め上げられた部分は痛々しい。部屋の襖を開けると、隣に続く座敷の中ほどに、なまめかしい緋色の厚い布団が延べられていた。それを見て、やはりあらかじめ決められた事だったのかと水谷は愕然とした。命じられてその上へ翡翠を降ろす。翡翠は怯え切っているのか大人しかった。
今度は仰向けに彼を倒し、再び恥部を晒させた言行は、痛々しくまだ赤い尻に、躊躇することなく両手をかけて押し開いた。
「水谷さん、どう思います?翡翠さんのここ――」
水谷に向かい、肉を押し開くようにして奥の窄まりを晒して見せる。
「どうっ、て……」
「小さく引き締まって……綺麗なもんでしょ。どうです。好奇心湧きませんか?」
「え……」
「経験ないんじゃありませんか?女性のでも……こっちに挿れるのは。やってみるとなかなか良いもんですよ?」
言いながら翡翠の尻を掴み揉みしだく。柔らかい肉に、現行の指が喰い込んだ。
「そん……」
水谷は言い淀んだ。あそこは昨夜――彼を抱いた時――。
言行は両の人差し指を翡翠の菊穴の縁にかけて無理矢理拡げるようにし、意地悪く翡翠に囁く。
「ほら、水谷さんに見られてますよ。奥まで――」
「止めて、やめて言行さん――許して――」
翡翠が泣き声混じりに請う。
「翡翠さん、本当は期待してるんでしょ。ここホラ、こんなに勃たせちゃって……水谷さんがいらしたから興奮しちゃってるんですよね、翡翠さんは――外の人がお好きだから。水谷さん、良かったら挿れてやって下さいよ。心配ないです。翡翠さんはいつもここ、中まで綺麗にするよう躾けられてるし、お医者さんが定期的に来て、病気のチェックもしてますから。あの医者もしかし、真面目なフリして助平なんだよな……」
そこまで言うと言行はクスクスと笑った
「まあ自分も使うとなれば、検査も丁寧になりますから、それで井衛様はお許しになってるようですけど」
では翡翠は、ここを出入りする男たちの慰み者になっているのだろうか。水谷は背筋に冷たい汗が伝うのを感じた。
「水谷さん」
老人が言った。彼はさっきの座卓についた位置のまま、一部始終を見物しているのだった。
「その子は普通と違う部分があります。お抱きになったとて、ご自分がおかしくなったなどと思われる必要はありません。翡翠の方がいかんのですよ。翡翠の身体の方が。――そういう状態になると」
翡翠の方に軽く顎をしゃくる。おそらく彼の、切なく張り詰めた陰茎のことを言っているのだろう――
「――欲しいものを得るまで収まりません。どうか与えてやってください――」
老人の言葉はどこか遠くから響いてくるようだった――水谷を操るように――
「そうそう、ちょっとほら、聞いてみてください」
言行は今度は中指を翡翠の菊座に捻じ込むと、指を曲げ、強引に深くえぐるように動かして、翡翠に啼き声を上げさせた。
「翡翠さん、ちょっと声出すの我慢して。水谷さん、この淫猥な音……聞こえます?不思議でしょ。この子、ここちゃんと濡れるんですよ。慣れてるとそういうこともあるのかな。まあ男を受け入れるために生まれてきたってことですかねえ」
腸内にはもともと潤滑をよくするための働きはあると聞いたことはある。が、翡翠の場合は――嬲られ続けた肉体が苦痛を減らすため、特殊に作用するようになったのではないか――身を守る為に。けしてむごく扱われたり、男に抱かれるためになどでは無い。水谷はそう思ったのだが何も言えなかった。
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