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第26話 玩具

それから光は――たびたび翡翠を縛りたがるようになった。翡翠は嫌で――拒否したかったのだが、そうすると彼は後々まで機嫌が悪い。機嫌が悪く――怒っている光と一緒にいるのは辛い――仕方なく、数度に一度は光の言う通りにさせてやっているうち、最近ではそうする回数が増えてきてしまっていた。 縛った翡翠を抱くと、光は言い聞かせるように 「やっぱりこうやると全然感じ方違うよな……お前もほんとはこっちの方が好きなんだろ……」 と、そう繰り返す。 そんなことない。動けないまま抱かれたって、苦しいだけだ。翡翠はそう思うのだが、光は 「声だってほら、いつもよりずっと艶っぽい。もっと聞かせてよ、その声……」 と言い、さらに責めをきつくする。翡翠は逃げ場を失って、啼き続けるしかない…… そんなある日、光がPCの画面を翡翠に指し示して言った。 「翡翠。ちょっとホラ。こっち来て選べよ。お前の好きなの買ってやるから」 翡翠が覗くと、画面にはカラフルで奇妙な形状をした物の写真が並んでいる。それらを眺めて不思議に思い、首を傾げている翡翠に、光が嬉しげに説明した。 「あ、もしかしてなんだかわかんない?大人の玩具――アレする時に使う物だよ。こういうのをホラ、翡翠のあそこに入れたりさ……」 言いながら光は卑猥な手つきをして見せる。翡翠は血の気が引いて一瞬くらりとした。そういう用途の道具はあの家でいつも使われたからよく知っている。でも光までがそんなのを欲しがるなんて……。 どれか選べとしつこく訊ねる光に、頭痛がするからと言って隣の寝室に逃げ込んだ。ベッドに潜り込みながら翡翠は、どうか光が気を変えて、買うのをやめてくれるようにと願い続けた――。 だが数日後、光が届いた包みを開けて取り出したものを見て、翡翠は愕然とした。光はやはりあの後すぐ、いくつかの道具を注文したようだ。彼は嬉しそうに、今日はどれがいいかと尋ねるが、翡翠にはどれも凶器に見えて選べなかった。口ごもっている翡翠を見て、光は 「恥ずかしい?じゃあ順番に全部試してあげるよ」 と楽しげに言い、驚いたことに手錠を取り出した。 「なに?……なに?それ」 翡翠が怯えて訊ねると、 「これも一緒に注文したんだ」 と言う。 「だってそれ……はん……犯罪者の……」 翡翠が声を震わせながらやっと言うと、光はおかしそうに笑って 「なにびびってんだよ、只のオモチャじゃんか。遊びだよ、遊び。平気だから、ホラ」 と言って手錠をかけようとする。 「嫌だよ!怖い……」 翡翠が拒もうとすると、光は不機嫌さを露わにし、 「なんだよ。そんなに俺が信用できないの?」 と言った。 「じゃあしょうがないな……他に相手してくれる子探さないとな……」 「他に……って?どういう意味?」 不安になって翡翠が訊ねると、光は手錠を指にかけて回しながら翡翠を横目で見、 「金出せばいくらでもいるんだよ。こういうの喜んで付き合ってくれる子」 と答えた。 そうなの?翡翠は愕然とした。でもそう言われればその通りなんだ。自分も最初はお金で買われたんだ……。仕方無しに翡翠は光の前に両手を差し出した。それを見た光は嬉しげに、 「そうそう。そうでないと。俺のこと好きなんだもんな、翡翠は。やっぱいい子だ」 と言う。 「翡翠がそうやって素直に俺の言うこときいてくれれば他のやつとなんかやらないよ。あ、そうだ、先に服脱がないとだめだな」 光は翡翠を下着姿にし、後ろ手に手錠をかけた。さらに腕を掴み、引き据えるようにして床に正座させる。恐ろしくなって光の顔がまともに見られず、つい俯いた翡翠を、光は数歩下がって眺め、満足げに呟いた。 「うーん、やっぱすげえ興奮するな。こうやると、お前がほんとに俺のもんなんだって気がして嬉しいんだよ……」 自由を奪わないと駄目なんだろうか。翡翠が光を好きなだけでは駄目なのか?そのみじめな姿を見られながら翡翠は考えて悲しくなった。光は変わった。前は……こんな風じゃなかったはずだ。いったいいつから――

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