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第34話 再会 -2-
水谷はその後、翡翠が以前その手のものに出た事がある、と言っていたのが気になって調べてみた。するとアダルト専門のプロダクションが製作しているもの数本に――翡翠が出演していた。名前は片仮名表記にされてはいたが、そのままの「ヒスイ」で出ている。水谷はショックだった。
東京駅で待っている翡翠を……水谷が再び見捨ててしまったあの後、彼はずっと――こちらにいたのだろう。頼れる人間も、戸籍もなく――それでは仕事に就こうとしたって儘ならなかったはずだ。だから……生きていくため出演することにしたに違いない。さまざまな想いが頭を渦巻き、水谷は自分を責めた。どうしてあの時翡翠を助けてやらなかったんだろうか――と。
そんなつもりは無かったのに、出演作のタイトルが分かると水谷は――それらを通販で取り寄せてしまった。そして今――届けられたDVDを見ようとしている。リモコンを操作する手が震えた。あの寂しい浜辺の家で抱いた身体を――また見る事ができるのだろうか。
再生が始まる。翡翠の裸体は――あの時に見たものと変わっていない。肌は相変わらずどこも滑らかにほんのりと白く光り、美しかった。だが――
あの時――同性を抱くなんて夢にも考えた事のなかった自分が、翡翠だけは欲しいと思った。だがこの映像は――。
水谷は、何か違う、と感じながら、3枚あったディスクを次々再生した。
翡翠の特性なのか――映像の中の彼は常に乱暴に扱われ、中には井衛にさせられたように――彼を拘束したものもあった――縛られたまま強引に性器を扱き上げられ、自由に動けない身体を捩って身悶える彼の姿は確かに扇情的で、そそられる。だが水谷には受け入れられなかった。違う。そんな乱暴なやり方じゃ駄目なんだ。なんでもっと彼の身体を大切に――可愛がってやらないんだ。どうしてちゃんと翡翠に――感じさせてやらないのか。
きっとこれを撮った人々には――実際この中で直接彼の身体を抱いている男優ですら――翡翠の事が分かっていないのだろうと水谷は思った。確かに複数の男たちに押さえつけられて何度も貫かれ、無理矢理いかされる翡翠は、哀れではあったがひどくみだらで――視覚的な刺激を強く受ける。これらの映像は単純に、性的興奮さえ得られれば良いという目的のものなのだから、きっとこれで充分なのだ。
でも、違う。
自分なら。
自分なら翡翠の本当の姿が撮れるのに。そうやって無理に追い詰めても駄目なんだ。あんな行為で満足している連中に、本当に感じている翡翠の――あの可憐で愛らしい様を見せてやりたい。俺が抱いたあの子は、これ以上無いくらいに魅力的で――無意識にそう考えて水谷は自分自身にぎょっとした。なんだそれ?翡翠の魅力?一体――なに考えてるんだ俺?
翡翠――
水谷はDVDを止め、しんとした部屋の中で目を閉じた。心の中で呟く。
そうだ――本当は、ずっとわかっていた。俺は最初から……翡翠に魅せられていた――
その事実を認めるのが恐ろしくて、ずっと気付かないふりをしていたけど――今更全部忘れてなかったことにしようとあがいたって……無駄だったんだ……
翡翠が好きだ。
彼を愛してる。心の底から。
そう自覚した途端、涙がこぼれた。
なんでこんな単純な事からずっと目を背けてたんだろう。翡翠が同性だから?あんな育てられ方をしていたから?他の男たちの慰み者であったから?それがなんだって言うんだ。海から上がってきた彼に出会ったとき既に――俺は翡翠に惚れてたんだ。
麻衣と別れてからずっと一人でいるのだって、今はその気にならないとか言い訳してたけど本当は違う。あの、翡翠を抱いた時に感じた、気持ちの奥底から自然に溢れ出てくるような情愛が――一度も蘇ってこなかったからだ。そしてあんな感情は――翡翠相手でなければ、もう絶対にあらわれない。翡翠でなけりゃ駄目なんだ――
「そうだちくしょう!」
水谷は叫んだ。
「翡翠が好きだ!」
一人で喚いた。酔ってもいないのになにやってんだ俺。そう思って自分自身に呆れたが黙っていられない。水谷は座り込んで天井を見上げ、翡翠が好きだと声に出して繰り返した。
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