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第40話 彼を探して 

水谷は再び、あの喫茶店へ翡翠に会いに行った。だが、彼は休みということだったので、強面のマスターに都筑の住所を教えてくれるよう頼んだ。そして、翡翠を説得するつもりだ、とマスターに話した。 翡翠を説得して都筑と別れさせる。それと……翡翠に交際を申し込む。そこまで説明する必要はなかっただろうが、マスターは都筑の友人だし、翡翠の雇い主だ。話を通しておくべきだという気がなぜかした。 「俺と付き合うかどうかは翡翠次第だけど……なんにしても彼の生活の面倒は、俺が見ようと思ってます――」 そう水谷が話し終わるとマスターは頷いて言った。 「うん。翡翠くんのためには、都筑の奴なんかとくっついてるより、あんたと付き合う方がいい」 「俺もそう思います」 水谷がつい本音でそう答えると、マスターは笑った。隣で聞いていたあの外国籍らしいウエイターの若者が、片言の日本語で言う。 「がんばて、だよ。ひすいくん、やさしからね」 彼は、ウンウンと頷きながら、翡翠は優しいから、と熱心に繰り返した。 「やさしからね、しあわせならなきゃね」 「うん。そうだよね。頑張るよ」 翡翠は彼にも慕われているようだ。そう、あの子は優しいから――水谷は胸が暖かくなった。 その後水谷はすぐ、聞いた住所のアパートに向かった。ドアチャイムをならす。暫くすると、下着姿の都筑がドアを開けた。 「あっれえ?プッロデューサーの水谷さんじゃん」 水谷は、おどけたような調子でそう言う都筑の身体を押しのけるようにして玄関から上半身を突っ込み、中を見回して言った。 「翡翠は?いるか?」 「え!なになに!?プロデューサーってまさか業界の人!?紹介して!」 いきなりそう言って、シーツを腰に巻き付けつつ奥の部屋から姿を表わしたのは、翡翠ではなくいかにも軽薄そうな雰囲気の若者だった。 「お――お前なんだ!?一体ここで何やってんだ!?そんな格好で!」 訊かなくてもわかりきってはいたが、水谷はカッとなって思わず彼を指さし怒鳴った。 「ちょっとちょっと、水谷ちゃん、落ち着いて。ここ俺んちよ?俺が俺んちで何やろうと俺の勝手でしょ?」 都筑が水谷の背をぽんぽんと叩きながら言う。 「あのなあ都筑……!お前翡翠と一緒にここ住んでんだろ?見境なく引っ張り込むなよ!翡翠が見たらどうすんだ!?」 「そんな心配いらないよ。あいつ知ってるもの。今日だってさ、俺ぁ居ていいって言ったのに気ぃきかして出てってるんだぜ?理解あるから、ヒスイちゃんは」 「気ぃきかして……!?アホか!恋人が浮気相手を引っ張り込んだ部屋なんかに誰がいられるかっての!どこ行ったんだ?教えろ!」 「知らない。どっかそこらにいるんじゃないの?」 「あてにならないやつだな全く!」 水谷は今度は都筑を怒鳴りつけると、アパートから走り出た。 とにかく、近隣の、翡翠が行きそうな所を片っぱしから当たって行った――飲食店や公共施設をスマホの地図で調べ、覗いて回る――翡翠はいない。水谷は走りながら、東京駅で翡翠を探した時のことを思い出した――あの時は、駅前広場って言われてたからそこを見ただけですぐあきらめちまった。でもあいつは、ほんとは近くにまだいたんだろう。だから俺が行ったことを知ってたんだ。 今度は絶対に見つける。水谷は決意していた。翡翠が今、どこかで寂しがってるんだ。だから必ず見つけないと。区内中全部探したっていい。都内全部だって!

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