10 / 12

第10話 元上司

「真知くん、本当に出社するんですか?」  土井中が心配そうに声をかける。買い置きしてあったサージカルマスクを手渡し、のど飴も見つけて持ってくる。真知は、マスクをつけたらあっという間に曇った眼鏡の向こうから土井中を見、別人のような声で言った。10月下旬の土曜日の朝だ。 「お客さんが、週明けに形にしたもの見たいっておっしゃるので……でも、そんなに長くはやらないつもりです。すみません、心配かけて。行ってきます」 「行ってらっしゃい。必要があれば、連絡をください。買っておいてほしいものがあるとか、なんでも言ってください」  はい、とひどい声で返事をし、真知は出て行った。アレルギーからくる喘息持ちの真知は秋冬がどうも苦手らしく、たいてい一度は喉とか気管支の風邪をひくそうだ。本人はそれで慣れているからなのか、土井中が止めるのも聞かずに事務所に向かってしまった。土井中は、真知のことがだんだんわかり始めていた。この世にブレーキが存在することを知らない暴走列車だ。土井中が勤める学校にも何人もいる。レースゲームでアクセルボタンしか使わないタイプだと土井中は思っている。ブレーキボタンがあることを知らないかれらは、アクセルを放せばいつかは止まると思っている。ブレーキなど不要と思っている人種だ。土井中は内心イラッとする。真知にイラッとするのは、意外と初めてであることに気づく。私生活ではかなり軽率で間抜けなところがあるものの、土井中にとっての真知のイメージは「賢くて仕事が早い」。インターネットの専門用語を知らず、言葉足らずな土井中の要望を汲み取ってくれて、天文部のサイトを常に新しくし続けてくれている。論文の解説を練るときなどは、わかりにくいところは「ふたつの解釈ができる」とか、「前提としてこの情報がないと読めない」など、的確に指摘してくれるので助かっている。部会の資料としても役立つし、生徒もスキマ時間によく読んでくれているそうだ。真知は、仕事の面では本当によくやってくれている。真面目で勤勉。でも、悲しいかなブレーキを知らない。 (どうしたらわかってくれるだろう……)  相手が生徒なら、少し話をすれば多くの場合わかってもらえる。帰宅させることもできる。でも真知は社会人で、しかも自営業者だ。自分の働きぶりがそのまま収入に直結するだろう。事業を始めてまだ1年にもならないので、仕事を振り分ける相手もいない。今が耐えどきなのかもしれない……とはいえ、何でも無理はよくないものだ。土井中は、部屋を意味なくうろつきながら考え込んだ。 (悪化しなければいいが……とりあえず、体によさそうな食事を準備しておこう)  冷蔵庫はほとんどカラだ。土井中は買い物に出かけるため、上着と財布を取りに行った。  [アイリスと占いのお部屋]は、今日は都合により休みで、かなり前からその旨を貼り紙してある。昨日の大山は珍しくはしゃいだようすで、コンサートのチケットが当たったのだと話していた。静かだ。この時期はエアコンをつけなくても適温であることが多い。光熱費が浮くので、真知たちにとっては喜ばしい季節だ。機器類の駆動音と、車が走る音、クラクション……それがなぜか心地よく思える。意外と仕事ははかどり、少し疲れていったん顔を上げたとき、時刻は11時を少し過ぎたころだった。2時間後には帰れそうだ。マスクをはずし、真知はまた画面に視線を戻す。 「こんにちは」  ふいに入口のドアが開き、男性が顔を出した。美青年の概念を丹念にビジュアライズしたような美しい混血の顔立ちに、真知はものすごく見覚えがある。真知がアダルトサイトの会社を辞めると告げたとき、「お大事に」と言った、真知のかつての上司だ。 「こ、鉱外(こうがい)さん……なんでここに?」  真知はかなり身構えた。いつもお客が来たときはすぐ立ち上がって応接スペースに案内するのに、それをしなかった。体が硬直してできなかったのだ。真知の頭の中で、鉱外に関するいい思い出はあまりない。そんな真知の内心を知ってか知らずか、鉱外は真知たちの事務所をあっちこっちうろつく。 「いいところだね。ちょっとボロいけど、そこがレトロフューチャーって感じでカッコいいよね。あっちはアジアンテイストじゃん。ふーん、占い? おもしろそう!」 「あー! そこは人の場所だから触らないで! ここ! ここなら座っていいですから!」 「そう? じゃあ、お言葉に甘えて」  まんまと応接用のソファをすすめさせられた真知は、がっくりと肩を落とす。おとなしくしてもらうためならいたしかたないと、コーヒーも淹れに行った。  鉱外は上司だが、真知より2つ年下だ。高校を卒業してすぐ入社したそうで、真知よりも職歴は長い。ウクライナと、アメリカと、日本の血が混じっているらしく、考え方や行動にもそれがしっかり現れている。鳥肌が立つほどの合理主義で、目的のためなら少々の犠牲は気にしない。いつか社内でトロッコ問題の話になったとき、 「一人くらい死んだってしかたないじゃん。トロッコなんて使うんだから、特定危険作業従事者でしょ? 死ぬ可能性があるのは承知の上だよ」  と言い放った。発言内容の是非はともかく、常日頃からこんなようすで、とにかくノリが軽い。この軽さと強引さに、真知は振り回されっぱなしだった。でも、真知が仕事を辞めた理由はアダルト業界が嫌になったからで、鉱外は関係ない。性格に多少難はあるものの、頭のいい鉱外はどこへ置いてもソツなくこなすタイプで、まあ尊敬もしていた。真知の仕事の速さを最初に評価してくれたのもかれだ。だから、真知はかれが嫌いかと言われれば返答に困る。ただ、いい思い出は少ない。鉱外は、コーヒーを出した真知に「ありがとう」と短く言い、一口飲む。しばらく、不思議な沈黙があった。 「今日はね、別にコーヒーを飲みに来たわけじゃないんだよ」 「そうですよ……そもそも、なんでここがわかったんですか?」  鉱外は真知の質問にはまったく答えず、懐をゴソゴソとする。名刺入れを取り出し、名刺を1枚真知にくれた。真知がもといた会社の名刺だ。「オレクサンドル・ダヌィレーンコ・鉱外」と、かなり狭そうに記してある。 「このたび、天才的に仕事ができ過ぎる僕は弊社のシステム部部長に就任したのであります」 「はあ……おめでとうございます」 「僕が出世するのは火を見るよりも明らかだったから、それはわかってた。問題は、真知が辞めたあとに雇った人間がことごとく使えない連中で、全員クビにしちゃったこと。それで人が足りない。真知、戻ってこない?」 「嫌です普通に……辞めた会社に戻る人、あんまり聞いたことないですし……っていうか、どうしてここが?」  鉱外はまたコーヒーに手を伸ばしながら、 「社長からは、真知が戻って来るなら僕の給料を上げてもいいって言われてるんだ。自営業なんて儲からないでしょ? 戻ってきたほうが稼げるよ?」 「……稼げるとか、稼げないとかじゃないんです」  真知は鉱外に質問するのは諦めた。かれは黙る。黙って、真知の続きの言葉を待った。 「俺は……アダルト業界が嫌になって辞めたんです。技術者として育ててもらったのは感謝してますよ。でも……みんな友達同士や家族で仕事の話を気兼ねなくするのに、俺にはそれができなかった。誰にも、仕事のことを堂々と言えない。それが嫌で辞めたんです」 「エロは嫌い? 下品だから言えない? 汚いものなの?」  鉱外は、素直な疑問を口にした。真知は沈黙する。 「真知の会社のサイト見たよ。制作実績にあった、タピオカ屋さんとか、天文部とか、ペット用品のお店はきれいだからいいんだ。ねえねえ、その線引きって何? じゃあ、ガールズバーはどう? ちょっとアレな感じのマッサージとか。汚い? きれい? ギリいける? エロってどこから?」 「そういう話じゃ……」 「そういう話じゃん!」  また、コーヒーを一口飲む。 「真知、三大欲求とか言うじゃん。欲求ってニーズってことだよね。食欲があるから飲食店があり、睡眠欲があるからホテルや家具屋があり、性欲があるから優しいおねーさんたちがいたり、ガッチムチのイケてるお兄さんたちがいたりするわけじゃん。欲求があるからニーズが生まれ、商売になり、そこで働く人らがいるわけでしょ? ぜんぶ生きてる人間の尊い生活。そこに線を引いて、ここまでは許せるけどここからは許せないってひどいんじゃない?」 「……その考え方は、鉱外さんが正しいと思います。でも……」  こういう問答は苦手だ。言いたくないことを言ってしまい、言いたいことを言えない。 「だからね真知、肩肘張らなくていいんだって。『人に堂々と言える商売をすべき』なんて、考えなくていい。真知に技術があって、それを欲してる人がいて、カネと引き換えに技術を提供する。真知は儲かる。お客さんは喜ぶ。みんなハッピーじゃん! 確かに仕事の話、嫌がる人は嫌がるかもね。子どもとかには言えないし。でもね、大人になってからわかることって多いから。それでいいんだよ。いつかわかるし、わからなくても、必ずわかってくれる人はいるから」 「……」  真知は、鉱外の言葉に飲み込まれそうになる。正しそうに聞こえるのは、鉱外がほんとうにそれを「正しいこと」と思っているからだ。きっと、人間の数だけ正しさはある。真知は、かなり言葉に迷ったあとに答えた。 「あそこで働いていた当時、俺はハッピーじゃなかった」 「それは、考えかた次第だからじゃん?」 「……ごめんなさい。鉱外さん」 「……」  鉱外は、かなり色素の薄い目で真知を見る。 「俺は、鉱外さんみたいには考えられない。生意気を言うようだけど、自分の生きていく場所は自分で選びたいんです。昼間の明るさが好きか、夜の落ち着きが好きか、人それぞれ違うと思う。俺は、自分の選んだ場所で生きたいんです」  鉱外はちょっと黙って、「きれいごとじゃん」と言った。真知もそう思う。事実、自分の進みたい道を歩んでいる今、真知は土井中から借金をしている身だ。鉱外の手を取れば、真知は少なくとも今よりは多くの金銭を手にするだろう。金はより早く返せる。土井中へ道理を通すなら、それが「正しい」といえる。でも……土井中はどう思うのだろう。ほんとうに、真知の選択を正しいと後押ししてくれるだろうか。夏合宿で出会った天文部員たち。自分で小さな店を開き、ネットビジネスを真知に任せてくれた商店の店主たち。かれらに悲しい顔をさせるような選択を、真知はしたくない。また少し間を開けて、言った。 「やっぱりダメです。俺はあなたと同じ道には行けない」 「……わかったよ……もー、おまえ探すのにけっこう苦労したのにな。真知が頑固なのも知ってるつもりだし、今日は諦めるよ」  鉱外は応接スペースを離れ、入口に向かう。 「気が変わったらいつでも名刺の番号にかけてよ。歓迎するからさ」 「はあ……ところで鉱外さん、どうしてここがわかったんですか?」 「じゃあまたね。風邪、早く治るといいね……お大事に」  鉱外はひらひらと手を振り、事務所を出て行った。真知はどっと疲れて、急に熱が上がったような気分になる。でも、まだ今日やると決めた作業はできていない。机に向かって一口お茶を飲んだが、さっきまでの集中力はなくなっていた。鉱外とのやりとりが、ずっと頭の中をめぐっている。仕事を辞め、事業を興したこと。真知はそのことを逃げだと思っていたし、鉱外の言葉は、それをさらに真知の目の前に突きつけた気がした。「きれいごと」のひと言にすべてが集約されている。逃げている自覚があるだけに、鉱外の言葉は真知の腹の奥をぎゅっと圧迫して潰した。大山は以前、「いちばん大事な信念を持ち続けていればいい」と言ってくれた。真知はそのことをずっと考えているのに、いまだに「自分の信念」といえるものが見つかっていない。自分は、始めから、何もないからっぽなのかもしれない。そう思うと途方もなく悲しくなった。作業は遅々として進まず、13時とか14時くらいで終わるはずだったのに、気がつけば18時だ。真知はパソコンをシャットダウンし、肩を回す。鞄を机の上に置き、ふーっと息を吐いた。帰ろう。心の中で呟く。 「……真知くん?」  入口のほうから声がした。土井中だ。真知は驚くが、かれの顔を見るとどこか安心する気持ちになった。ドアに駆け寄ってかれを迎え入れる。土井中は少し頭を下げて、 「すみません、急に押しかけて。今朝、『それほど遅くはならない』と言っていたのに、帰りが遅い気がして……おせっかいだとは思いながらも、体調のことが心配だったので、来てしまいました」 「すみません」  真知は、かれが心配してくれたことが嬉しかった。 「今、帰ろうとしていたんです」  手早く戸締りを確認し、給湯スペースをさっと拭き、荷物を持って鍵をかけた。マスクをつけたら、またあっという間に眼鏡が曇る。土井中は笑って、「辛くないなら、いいのでは」と言った。真知はマスクをあごのところまで下げる。ビルを出て、ふたりは歩き出した。その歩幅は、思ったよりずっとゆっくりだ。同じ道をゆく人が、どんどんふたりを追い抜かしていく。真知は付近の建物を指さしながら、 「ここの居酒屋、昼は定食屋なんですよ。から揚げ定食しかないんだけど、おいしいです」  と、土井中に話題を振った。 「今度、行ってみたいですね。真知くんは、この駅の周辺で会社をやろうと、最初から決めていたんですか?」 「土地勘があるので区内がいいとは思ってたけど、今の事務所はたまたま駅の近くに空きがあったから、飛びついたんです。今思えば、ラッキーでした」 「そうですね。おかげで僕も、あなたに出会えた」  土井中の選んだ言葉はかれ自身にとっても無意識だったようで、言ってからハッと気づいて照れたように笑う。「ほんとうですよ」と、少し赤い顔で付け加えた。真知もつられて真っ赤になった。体から汗が吹き出たので、急に自分の体臭が気になる。電車に乗る。土井中の暮らすマンションは鈍行しか停まらない駅が最寄りなので、いつも車内はすいている。並んで座る微妙な距離感。それが今日はなんだか気になった。乗車時間はたった1分で、理由のわからない落胆がある。 「……タクシーを使いますか?」  改札を出て、土井中が真知にそう訊いた。マンションまでは徒歩20分の道のりだ。真知の体調を気遣ってのことだろうが、真知は首を振った。 「歩きます。たまには運動しなきゃ」  それは、言い訳に過ぎない。 「風邪をひいているくせに……明日は休めそうですか?」 「はい。今日、ぜんぶ済ませられました」 「それはよかった」  ガーッと音を立て、なかなかのスピードで自動車が過ぎゆく。ヘッドライトが一瞬ふたりの瞳を輝かせ、すぐに暗闇に閉じ込めた。 『社長社長! いーんですって……もう大丈夫ですから……』 『品川のほう行ってみなーい? さんせー!』  焼き鳥屋の赤提灯が見える。酔っ払い客が入口のところにたむろし、真知たちとすれ違うとき一瞬ゴチャッとなった。それを過ぎ、また道にはふたりだけになる。しばらく会話はなかったが、土井中は思い出したように真知に話しかけた。 「真知くんがうちに来たとき、桜はもう散っていましたっけ?」 「桜……そのころ余裕なくて、実はあんまり覚えていないんです。でも、時期から考えると散っていたと思います」  土井中は「そうですか」と言ったあと、 「この道の街路樹はすべて桜で、春には見事な桜並木になるんですよ。天気がよければなおさらきれいです。去年の桜の季節は、雨ばかりでしたけど」 「そういえば、そうでしたね」  赤提灯を過ぎてしばらく行くと、右手に公園があるのでその角を右に曲がる。少し進むとマンションだ。真知たちは公園沿いの道を行く。キンモクセイのいい香りがする……と思った瞬間、真知は咳き込んで土井中の上着のすそを掴んだ。 「真知くん?」 「ゲホッ、ゲホッ……ごめん、なさい、ちょ……っ、待っ……」  ヒューヒューと嫌な音がする。土井中は慌てて、辺りを見回した。ベンチがある。真知をゆっくり誘導し、とりあえずベンチに座らせた。背中をさする。真知は、口もとにマスクを戻した。しばらくすると咳が止まり、次第に呼吸がゆっくりになっていく。 「ごめんなさい、急に……」 「いえ、いいんです。早く歩きすぎましたね」 「違う、んです」真知は、途切れ途切れに言った。「いい香り、なんだけど……」  一瞬、土井中は真知の言葉の意味がわからなかった。少し考えて、キンモクセイの香りが真知にはよくなかったのだと気づく。背中をトントンとしながら、真知の呼吸の音が正常に戻るのを待った。土井中は、風の音に溶け込むような声で、 「……昔の友達のことを、思い出します」  と言った。独り言のような言いかただ。真知は自分の呼吸のあいだで、かれの言葉を必死に聞く。今は、ひと言も逃したくなかった。 「大学時代、医学部の友達ができました。非常に優秀で、品行方正を絵に描いたような男だった。小児科医になるのが夢で、将来は医者になって、できるだけ多くの子どもたちを助けたいと願っていました。誰もがそれを待ち望んでいたし、僕もそのひとりでした。その日を、ずっと心待ちにしていた」  真知の背をさする手が止まる。 「でも、かれにはひとつ弱点があった。あなたのように喘息の持病があったんです。かれも、キンモクセイの香りでよく咳込んでいました。ある夜一緒に食事をして……そのとき、かなり咳をしていたのを覚えています。呼吸も苦しそうでした。でも、学生で、あまりお金に余裕がないことも知っていたので、『気をつけろ』とだけ言って、別れました。翌朝……」  きゅっと、真知の上着が握られたのと一緒に、真知の心臓のいちばん奥深くも、ぎゅうっと掴まれたように苦しくなった。真知の記憶の中の、日名子の言葉と重なる。『あの子は楽しそうに暮らしてる? 笑ったりする?』…… 「寮で、救急車を呼ぼうとしたのでしょうか。携帯を握ったまま……」  土井中はそれだけ言って、 「あのとき、病院にかかるよう強く言っていれば……どんなに後悔しても、かれは戻って来ません。僕は、どうあがいてもかれの代わりにはなれない。医学部になんて入ることすらできない。僕には、自分の手の届く範囲を守ることしかできないんです。だから、真知くん」  公園の蛍光灯の白いあかりの中で、真知は土井中の表情をはっきりと見ることができた。 「あなたは、あなたの、体の辛さとか、心の動きを……決して無視しないでほしい。あなたの代わりは誰もいない。取り繕うことは簡単です。一見、滞りなく動いているように見えても、周りの人たちは、心のどこかで、二度と埋まらないピースをずっと待ち続けることになる。あなたも、僕もです」  真知は、喉に言葉がぐちゃぐちゃに絡まった気分になった。「はい」とだけ言う。咳は止まり、呼吸もかなり楽になった。「帰りましょう」と、土井中が言い、立ち上がる。

ともだちにシェアしよう!