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第11話 ベンチ

 23時。安達と高村との飲み会はいつも通り1次会で解散となったが、深夜まで付き合った気がするほど疲れた。周囲とうまくやり、ちゃんとした仕事と私生活を送れているふたりはまぶしく見える。真知が友達に会うのが苦手なのは、ついかれらと自分を比べてしまって恥ずかしくなるからだ。適当に就職活動をした結果、アダルトサイト業界に就職し、それが嫌で辞め、経歴を誰にも明かしたくないという一心で自営業を始めた。でも、そのあと自宅のトイレを壊してお客に借金をし、同居までさせてもらう……自分の生きかたはぐちゃぐちゃだ。真知はため息をつく。  酒を飲んだことより、飲み会の間を持たせるためだけにタバコを喫いすぎて具合が悪い。かといってタクシーを使う気にもなれず、駅から自宅まで20分の道のりをトボトボ歩いた。歩きながら、土井中と出会ってからこれまでのことを、ひとつずつ思い出す。マンションのそばにある公園の前を通りかかったとき、歩き過ぎかけた真知は少し迷ってベンチで休むことにした。冷たい風が妙に火照った体を冷やす心地よさ。 『でもさ、男と住む……って、そいつ大丈夫?』 『男が好きな男……だったりして』  ふたりの言葉が胸に蘇り、目頭が急に熱くなった。鼻の奥がツンとして、涙がこぼれそうになる。大丈夫ではないかもしれない。でも、それは土井中ではなく自分のほうだ。真知は、だんだんと大きくなるかれへの気持ちをもう無視できなくなっていた。今日の飲み会でふたりが言った軽口が、真知が胸の中で育て続けてきた想いに針を刺して爆発させた。金を借りている身で、かれの生活の重荷になっている身でこんな気持ちを抱くのは間違っている。金は早く返したい。でも、そうしたら土井中と暮らすことももうないだろう。真知は、ゴールのわかっているレースを走っている気分だった。レースはいつか終わる。ゴールテープを切るのは、自分自身に他ならない。本当は終わりになどしたくないのに。

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