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第3話

 どうやら自分が思っているよりも酔っ払っていたらしい俺は、結局真神くんに寄りかかるようにして奥の個室まで移動した。俺はまっすぐ歩いていたつもりだったけど、見ている分には相当危なっかしかったようだ。  ともあれ真神くんがバーテンダーに話して取ったのは薄暗い廊下の一番奥にある個室。  そこは大勢でパーティーするための個室、ではなく、明らかにカップルが二人で過ごすための作りなのが見てわかった。  バーよりも薄暗くムードがあり、ソファーにしてはなかなか広い、ぶっちゃけベッド代わりになるものが部屋の大半を占め、カラオケもあり、専用の化粧室まである仕様に思わず感心してしまう。すごい世界があるものだ。  それにしても、このバーにこういう場所があること、そして真神くんがそれを知っていたことが驚きだ。そもそも俺は前に何度か連れてきてもらって、カウンターの部分で普通に酒を飲むことしか知らなかったから、こんな部屋があること自体気づきもしなかった。会員制の別の意味を知ってしまった。  まあモテて当然の男だから、真神くんにも色々あるんだろう。むしろそれぐらいでいてくれた方が俺としても気楽ではある。 「ちょっ、と待って。それは、しなくていいんじゃないかな」  とりあえず座るところがここしかないからとベッド、もといソファーに腰を下ろすと、そこに膝をついた真神くんがさっそく俺の頬に手を添え顔を近づけてきて思わずのけぞる。  その拒否の仕方があまりにあからさまだったからか、真神くんは一瞬止まったあと、なにも言わずに俺をその場に押し倒してきた。  柔らかすぎず硬すぎずのソファーがとても心地よく体を受け止めてくれて、こんなときなのに眠くなりそう。ぶっちゃけ寝てる間に済ませてくれないかなと思うけど、それはさすがに甘えすぎか。まったく。うなじを噛むだけで済んでくれればいいのに。  しかしさすがに年下にされるがままというのもバツが悪くて、せめてボタンくらいは外そうとした、けど。 「ん、ん、んー?」 「俺がやります」  手元が覚束なくてボタン一つ外せない俺を見かねて、真神くんが手際よく俺のシャツのボタンを外していく。そしてシャツの首元を広げ、首筋に唇を寄せてきた。 「あっ……ん」  氷で冷えていたのか、冷たい唇の感触に思わず息が漏れる。  濡れた唇が吸い付く音、舌が這うぬめった小さな音、それから片手が体を辿っていく感覚になんとも言えないぞくぞく感が背筋を走った。  やばい。なんだかぼーっとしてきた。少し蒸し暑いくらいの室温とソファーのせいで、酔いと眠気が回ってきたのかもしれない。 「そういえば、名前、教えてください」 「もう会わないんだし、名無しの方が良くない?」 「……じゃあ下の名前だけ」  この時だけの関係なんだし、もしも名前を覚えられてしまったらそのうち支障が出るかもしれない。 「……サツキ」  だからと言って頑なに断るのも変だし、とっさの偽名も出てこなかったから結局素直に名前だけ名乗った。 「サツキ……五月? 皐? ……皐さんですか。うん、顔に合って綺麗ですね」  するとご満足いただけたらしい真神くんがさらりと褒めてくる。意外と軟派な男なのだろうか。  そして再び俺の肩口に顔を埋め、煽るように食いついてくるから、その音がいたたまれなくなって口を開く。 「えっと、真神くん。いいよ? そういうのしなくて」  首筋を噛むのではなく、舌でなぞるようにして煽ってくる真神くんは、ちゃんと俺を良くしようとしてくれているらしい。  けれどセックス自体が目的じゃないからそういうのは省いていいよと声を掛けたら、複雑そうに眉をしかめられた。 「じゃあ皐さんが勃たせてください」 「あ……そっか。うん」  手を握られそこへと導かれて遅まきながら気づく。気持ちを盛り上げなきゃ、俺相手じゃ勃たないよな。  思考力がアルコールにやられているなと苦笑いして真神くん自身へと手を伸ばし、ジッパーを下ろすと下着の中に手を潜めて。 「……ん?」  掴み出そうとした手の違和感に気づいた。 「待って。これで勃ってないの? でかくない?」  人のものだという違和感ではない、明らかなサイズの違い。思わず手を引っ込めて身を起こしながらその驚きを素直に口にしたら、真神くんが意外そうな顔をした。 「……皐さんって、割とそういうのはっきり言うんですね」 「いやちょっとびっくりして。アルファってすごいんだね」  思わず視線を落として見てしまう。そりゃ真神くんはごつくないわりに体格もいいし、さっき寄りかかった感じではしっかり胸板も厚かった。それにアルファはなににおいても人より勝っているというのは知っている。それでもさすがにここの大きさは想定外だ。 「これをアルファだからって言われると微妙なんですけど」 「でもこれ入るかな。俺あんまり自信ないんだけど……」  正直に言えば、男に抱かれた経験はほとんどないに等しい。むしろトラウマに近い思い出もあって、本来なら望んでこんな状態になることはない。  ただあの忌々しいヒートを薬も飲まずに過ごせるチャンスがぶら下がっているのなら、一回のセックスくらい我慢できるはず。  だからといって、経験値の差はどうしようもなく、まじまじと見つめたところでその大きさも変わるわけではなく。むしろ俺が凝視しているせいでじわじわと硬くなりつつあるそれに手を添え、そこに向かって話しかける。 「あんまおっきくしないでね、真神くん。入らないと困るから」 「……皐さん、実はすげー酔っ払ってるでしょ」  お世話になるところに挨拶をしていただけだっていうのに呆れたような声を出されて、反論しようとしたら軽く睨まれた。 「ちょっと黙って」  その上キスで黙らせる、なんてキザっぽいことを素でやってしまうアルファの真神くんは、再び俺を押し倒し、手早く用意を始めた。  そうやって、なにもかもすんなり、とはいかなかったけれど、それでもお互いの協力のもとなんとかなるようになって。  そのまま噛めるようにと後ろから挿れられて、揺さぶられて、奥深くまで飲み込まされたまましっかりとうなじに歯を立てられ。 「あっ、ああ……ッ!」  奥の奥まで征服されるような初めての感覚に声を上げながらイって、それで番が成立した……はずだった。のに。

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