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第23話

 午前中に散々色々あったからか、午後からの撮影では悩みも緊張もどこかに飛んで行ってしまったようだ。  撮り直しになってしまったシーンも、呆気ないくらい簡単にオーケーが出た。  思い浮かべたのは真神くんを迎え入れる子供たち、そして劇を見つめていた子供の頃の真神くんに向けた笑顔。嬉しくて愛しい気持ちを単純に表に出した。それがオウジの気持ちと重なったんだ。  何度もダメ出しされたのが嘘のように「それだ。それしかない」と褒められて、少し離れかけていたオウジがまた体の中に戻ってきてくれた気がした。  その後の撮影も順調で、真神くんが何回かNGを出したくらいで無事に終了し、なんとか撮りこぼしなく泊りがけのロケを終わることができた。  唯一気になることといえば、真神くんと微妙に視線が合わないということくらい。役の時はいいけれど、カットがかかってからは微妙な気まずさで目を合わせづらく、話もできていない。  そんな撮影終わりの夜は遊園地ロケの終わりを祝って、スタッフさん含めて軽い飲み会。とはいえ明日も撮影はあるからほとんどがお酒なしの軽いものだったけど、それでも楽しく盛り上がり、まだ早い時間にお開きになった。  まだ片付けもあるし、荷造りもあるからと散り散りになる人たちを見て、せっかくだからもう一度遊園地を眺めておこうかなと足を向けた時だった。 「ウサちゃん」  八尋さんに声をかけられ足を止める。  あの話し合いの後、吹っ切れたせいかまた前みたいに話せるようになった八尋さんにひとまずお疲れさまですと告げて、ついでに夜の散歩を誘ったらあっさり断られた。 「今日は早く部屋に戻った方がいいよ」 「なんでですか?」 「まあいいから。なんていうかほら、こういう責任の取り方もありかなって」 「ん? 責任?」 「じゃあ、あの日の二の舞にならないように行くよ。いい? まっすぐ部屋に帰るんだよ」  暗号みたいな会話の説明もないまま背中を押され、とりあえずホテルに戻る。  散歩の未練はあったけど、また怪我でもしたら大変だし、気を抜かずに明日の準備をしろという先輩の助言だろうと受け取って、素直に部屋に帰った。  ……けれど、八尋さんの助言はどうやら違う意味だったらしい。 『皐さん!』  部屋に入ってすぐ、ドアがすごい勢いで叩かれ、焦ったような真神くんの声がして驚いてドアを開ける。 「どうしたの?」 「大丈夫ですか」  一体何事だと問う俺の肩を掴み、真神くんが様子を窺うように顔を覗き込んでくる。 「え、な、なにが?」 「なんか、早く行かないと皐さんが危ないって八尋さんが」  今日は飲んでいないし、また手首をひねったわけでもない。それなのになんで八尋さんがそんなことを、と少しだけ考えてさっきの暗号を思い出した。まっすぐ部屋に帰れと言っていたのは、俺と真神くんを会わせるためか。  どうやら俺と真神くんが話していないことに気づいて気を遣ってくれたらしい。 「えっと……中で話す?」 「はい」  とりあえず俺になにかあったわけではないと理解したのか、我に返った途端に微妙な空気が戻ってきた。  車の中でのあれこれは結局その後も触れずに撮影に入ってしまったから、曖昧になったままだ。それをそのままにしておくわけにはいかないだろう。せっかくだからちゃんとしておくべきだ。今度は、逃げずに。

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