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第6話 「合鍵」
「タカさん…迎え、ありがとうございます。あの…事務所すぎてます。」
「今日の打ち合わせはキャンセル済みだ。」
「え?どういうことですか?」
とあるタワーマンションの駐車場に車が停まる。まだ涙の残る目で理解が追いつかない優一のマスクを下げ、タカは小さな唇に口付けた。
「っ?! …んっ…ふぅ」
はじめは少しされるがままだったが、キスされていると気がつくと少し抵抗した。それを無視してゆっくりと優しいキスを繰り返すと優一の力が少しずつ抜けて、なにも写していなかった目がとろんとしたところでタカは唇をはなした。
「は、はぁっ…何するんですか」
「どうした、何があった」
いつもの飄々とした態度ではなく、まっすぐ見つめられる。真剣な声と表情に優一は目を奪われる。
「お前が泣くなんてよっぽどだろ」
意外にも心配してくれていると知り、こんな態度に慣れていない優一は居心地悪くなって目を逸らす。
「そんなことないです。よく泣きますよ」
「ドタキャンするぐらいか」
「それは…すみません。」
とりあえず降りろと、車から優一を出しエレベーターの最上階まであがる。
「あの…ここは?今からどこに?」
「俺ん家」
「…そうですか」
抵抗するかと思っていたタカだったが、優一は大人しくついてきた。 鍵を開け、タカがスタスタ中に入っていく。
ひろい廊下を歩いているとドサッという音と、腰に重みを感じる。 細い腕がタカのお腹に回る。
「どうした?ネコちゃん」
「…俺を壊してください」
「どうしてほしいんだ?」
「壊れるくらい、抱いてください」
廊下の壁に抑えられ息が出来ないほどのキスをされる。足にだんだん力が入らなくなりずるずる壁伝いに床に落ちる。
「はっ、はっ、はっ」
「後悔はないな?」
「ないです。思いっきり壊してください」
その瞬間身体を持ち上げられ、キングサイズのベッドに投げられる。性急に服を脱がされあっという間に何も纏わない姿になった。
上着を脱いだタカが上から舐めるように見つめる。
「覚悟はいいか?」
「はい。」
「経験は?」
「ないです。」
「そうか。」
首から唇が降りていくことに少しヒゲが当たってゾクゾクする。もう失うものはないと思っている優一は素直に身体を預けた。優しい愛撫にこんなんじゃないと睨みつける。
「今から壊すから安心しろって」
困ったように笑う姿を初めて見て少し見とれていると、二つの尖を同時に刺激されて腰が浮く。
「んんっ!痛いっ、強い…」
「痛いのがいいんだろ?気持ちよくなりたいわけじゃないよな」
「ンッ、もちろんっですっ、ぁっ」
左側を爪で、右側を甘噛みして刺激すると、明らかに違う反応を見せた。
「ぁっ、ンッ…はっ、はっ」
「ん?気持ちよくなってきた?」
「そんなんじゃ…なぃっでっ…す…」
「ふぅん」
「んんっ…タカさん…そこは…もっ…」
あっさりとはなすと呼吸を整えている。優一の熱は最大値になっていて、タカはそれをすっと握ると腰がビクビクと浮く。
「ぁあ…は…んぅ…は…気持ち…ぃ…」
恍惚とした表情で善がっている優一にタカは唾を飲み込んだ。好きな人がこんな快感に弱く、色気のあるなんて大きな誤算だった。
大きな目に涙を溜めながら快感を追う優一に、タカはもっと気持ちよくしたい、という考えに脳が支配された。小さな体は大河のような恐怖ではなく、完全に快楽に震えていた。
「ァッんっ…。タカさん、やめないで…もっとシテ…?」
思わず手が止まっていたタカの手を握り、潤んだ目で懇願されるとまるで愛されているかのような錯覚に陥る。飛びそうな理性を抑え、余裕を演じる。
「ここ、初めてだよな。怖くないか?」
解しやすいようにうつぶせにして腰を上げさせる。優一の熱からは雫が垂れ、タカは無意識に先端を指で拭って舐めた。 優一はそんな小さな刺激にも甘い声で応えた。
「怖くない…です。痛くてもいいんで…」
「たしかに初めは痛いかもな。少し冷たくなるぞ」
「ひぃっ!んっ…冷たいっ」
ローションをお尻全体が濡れるんじゃないかと思うくらいドバドバとかけられる。隠された入り口を広げられ、浅いところから指が入ったり出たりする感覚に、優一は枕を握って耐える。
「違和感あるだろ」
「っ、はいっ。なんか、気持ち悪いっですっ」
息がつまる感じで返事するのもやっとだ。力んでしまう身体にタカは慣らしながらも前の熱を可愛がる。手で輪っかを作り上下に動かすととたんに甘い声が溢れる。
「アァッ…ふっ、んんぅ…はぁっ、ぁっ」
無意識に腰を振る優一に気を良くし、力が抜けたあたりで指一本を奥まで入れる。
「ーーーッ!!」
背中が思いっきり反って金髪がパサリと揺れた。ふるふると体が震えている。
「一本でこの調子で大丈夫か?」
「ーーっ、なんか苦しっ、です、っふぅ!」
「まぁ慣れるまでの辛抱だ。頑張れよ。」
腰にキスするとピクンと反応する。敏感な体の奥まで入れた一本をかき回す。男でも感じる場所を探り当てて、早く優一を壊したい。指を増やし曲げたとこにあるシコリを掠めるとタカはニヤリと笑った。
「ネコちゃん、壊れる準備はいいか?」
「そんなの…ずっと準備できてます」
「言ったな?辞めないからな」
「勿論です。なんでそんなこと…」
「ここな、ヤバイらしいからな」
強めにそのシコリを触ると、優一は目を見開いた。
「っ!ぁっ!?なんっ…、アァー!?なにっこれぇ!!ンンッ!ヤだぁ、ヤメっ!あぁあっ!んんぁっ!!」
耳まで真っ赤にして優一は初めての前立腺の刺激に頭を振って強烈な快感を受け止める。反射的に逃げる身体をタカはしっかり固定し、指を増やしていく。 優一の顔が見たくなったタカは、一旦指を引き抜き、仰向けにひっくり返すと優一は真っ赤の顔を腕で隠した。
「顔、見せて?」
「嫌です…見せられないです」
かろうじてみえる小さな唇は、真っ赤に濡れて唾液が通った跡がみえる。胸が上下に動いて艶めかしい。優一の熱は今にも爆発しそうにそそり立ち涙を流している。
「俺の顔を見ろ」
「…嫌です」
「顔を隠す度にお仕置きだ」
「何言って…ンンッ!痛っ!」
真っ赤になった右の粒を噛まれると驚いて腕の力が抜けたとろこで腕を顔の両サイドに縫い付ける。
「…っ!」
「やだっ…見ないでください…。」
タカが思わず照れるほどの快感に支配された優一の顔。大きな目は伏し目がちだから長い睫毛が涙で濡れている。眉も下がりいつもとは全く別人だった。
「も…タカさん、早くっ、続き…」
話す度チラリとみえる赤い舌に思いっきり吸い付いた。キスが好きなのか表情がさらにとろんとしている。 キスしながら指を熱く蠢く孔に入れ、もう一度さっきの場所を探す。だんだん二本でも余裕ができてきた。
「んっふぅっんっんっふぅ」
潜った声でさえも興奮材料になる。唇をはなし、優一をイかせようと下半身に移動した。
「は、は、んっ、中、気持ちぃ」
優一はもう理性がとんでるようで虚ろな目で快感を受けている。
「もっと気持ちよくなろうな」
「もっと…?」
「そろそろイけ」
「ッアァー!んっんっはぁっつ!あ、はっ」
優一の熱の先っちょを親指でくりくりと先走りを拡げると腰が浮いて反応する。 孔の中はヒクヒクと収縮し限界も近い。
「お前、女とでもこんな声出すのか」
「アッぁあ!んんっ、はっ、知らないっ」
「ん〜?」
「あっ、ヤだ、それはっ!奥っ奥こわいっ!」
「どうなんだよ?」
「ないっ!した事ないからぁ!!あっもうっ、ヘンになるっ!あぁあっ!ダメ!出ちゃう、出ちゃうっ!」
シーツをぎゅっと握りしめて頭を振って快感を逃がそうとしているが追い詰められていく感覚に叫ぶ。
「やっぱダメ。」
「やだぁあああ!はなして、やだ!はなしてよぉ!!」
もう出るというところで熱をぎゅっと握られ解放できない渦が逆流している感覚。 腰が勝手にビクンビクンと不規則に動く。
力無いまま、タカの腕をはずそうと必死になっている。
「いやだぁっ!あぁあっ!タカさんっ!助けてっ!イきたいっ!イきたいよぉっ!」
涙を流しながら縋り付いてくる優一にタカはゾクゾクと満たされる。 もっと見ていたくて、さっきまで優しくして気持ちよくしたい、という感覚から別の感情が湧き上がる。
「まだ我慢だ」
「きゃぁうっ!!ヤメてっ!ソコばっかりっしないでぇっ!!っふぁああっ!!イきたいっ!タカさんっ!お願いっ!おかしくなるからぁっ!」
「壊れたいんだろ?思いっきり壊れろよ」
「あぁあーーっ!はっ!んんっ!イきたいよぉっ!」
優一は完全にトんでいるようで首を仰け反らせて叫んでいる。腰は勝手に動き、中の指は痛いほど締め付けられ、強く握ってる熱はピクピクと開放を待ち望んでいる。今日はこれで限界だろうとタカは開放することにした。
「限界まで我慢したら最高に気持ちいいから」
「はっ、ンンッ!出るぅっ!!出ちゃ!!ぁあああぁーーーッ!」
腰が浮いてお腹や胸まで飛んだ優一の熱をペロリと舐める。不規則に跳ねる体をそのままにイったばかりで焦点の合わない目からは涙が溢れ、呼吸を整えてる優一は誰が見てもドキッとするだろう。優一の汗で張り付いた前髪をかきあげ、おでこにキスをすると気持ち良さそうに目を細めた。余韻に浸っていた優一の瞬きがゆっくりになる。
「おやすみネコちゃん」
温かいタオルで優一の身体を綺麗にし、汚れてない方に転がして布団をかける。疲れ切った寝顔に、昨晩寝てないことが伺える。寝息を聞きながらもう一度おでこにキスをする。
「俺にしてはよく我慢したかな。」
タカは痛いほど硬くなったものを処理すべく風呂場に行った。
「……何時だ?…そうか、分かった連れて行く。」
遠くでタカの声がすることに違和感を感じて身動ぐが体が動かない。
(あれ?俺…)
「おう、起きたか?体調はどうだ?」
「…タ…カさん…?」
「うわ、やばいな。声ガラガラじゃないか…」
「なん…で、俺…。ここは…?」
「俺の家だ。ネコちゃんが俺を飼ってください〜って泣きついてきたんだろ?覚えてないのかぁ?残念だなぁ〜」
「は…?そんなこと…。……っ!!」
「ふふっ、思い出したのか?顔真っ赤だぞ?とりあえず準備しろ。仕事は落とせないから俺が送ってく。9時に夕日放送のスタジオBだ」
ちょうどタカも同じ放送局で打ち合わせらしく送ってくれるようだった。
仕事、と聞いてメンバーに会うのが嫌で一気に憂鬱になる。タカといる方がマシだなんて過去の自分には想像できない。いつまでもダラダラしていたらタカに怒鳴られ力の入らない身体に鞭打ってゆっくりとベッドから起き上がる。
「ぅ…全身が痛い…」
「仕方ねぇよ、壊れたかったんだろ?初めてだったみたいだしな。言っとくけど本番はしてないからな」
「え…?あ、そうだったんですね」
「後半トんでたからな。」
「……。」
「そんな顔すんな。いつでも壊してやるよ」
くしゃくしゃと頭を大きな手で撫でられる。温かくてタバコの匂いのする手が不思議と心地よかった。
タカの車に乗り、マスクとキャップの間から見える優一の目には光が無かった。タカはその様子を見て少しため息を吐きながらも前に向き直る。
「お前次第だが……サナのデビューまで、という約束で俺ん家にいてもいいぞ」
「…え?」
「いたくないんだろ?あの部屋に」
「…はい。」
「落ち着くまでそうすればいい。部屋も空いてるしな。」
「でも…迷惑じゃないんですか?」
「仕事に支障出る方が迷惑だ。あと、お前もぶっ壊さなきゃだし?」
「っ!!」
思いっきり真っ赤になるのが隠していても分かる。多分、優一には昨日で快感を覚え、セックスが気持ちいいものとして残っているはずだ。
「どうする?」
信号待ちのタイミングでキーケースにあった合鍵をはずし優一に見せる。優一はタカを見つめたあと意を決したように鍵を受け取る。
「…お世話になります」
「おう」
助手席で自分のキーケースに取り付けるのを見てタカは少しほっとしていた。
そこから局に着くまで2人は無言だった。足腰に力が入らないのを気遣ってもらい、一番近いところで降ろしてもらった。顔をあげると例のアンチファンが待機していた。
いつもは伊藤が追い払ってから降りるから初めて対峙し、優一はマスクの中でため息をつく。
「あんたさぁ、まだRINGに居座る気?大地くんのこと誘惑して気持ち悪いのよね!ゲイって見てて嫌なの。そんなんでアイドルとかやめてよね!」
「……」
「本当に大地くんに色目使うのやめてよ!」
「…もういい?仕事あるから行くね」
「ちょっと!聞いてんの!?」
急に腕を引っ張られ、大した力じゃないのに昨日の鈍痛が残る優一は腰が抜けそうになってよろめいた。尻餅を覚悟して目を閉じると誰かが支えてくれた。
「大事なメンバーに何してんの?」
「大地くんっ!うそ!会えるって思わなかった!運命かも!今日も頑張ってね!」
「ユウ、立てる?」
「……えー?ちょっと引っ張っただけで大げさ〜。さすがあざといね、ダイジョウブ?」
会いたくない人に助けられ、さらに情け無い状況すぎて顔があげられない。
「ユウさ、お前のせいで不安定なんだよね。」
「え?お前って…」
「他に誰がいるの?お前しかいないでしょ。ねぇ、やめてくれない?迷惑なんだけど。」
「私は大地くんを思って!」
「俺のこと思うなら出待ちとか、ユウに絡むのも今すぐやめて、約束ね。行こう、立てる?」
優一は青木に支えられて歩いていたがエレベーターに乗ったところで足を踏ん張った。
「ありがとう、もう、大丈夫。」
「ユウ、昨日は…」
6階ですというアナウンスのあと、ドアが開いたところで車を停めたのかタカが乗ってきた。
「よぉ、青木。」
「…っ!おはようございます!タカさん!」
「ん?ネコちゃんどうした?その立ち方…腰でも抜けたか?」
「…ほっといて下さい。大丈夫です。ぅわっ!」
「タカさんっ!?」
「立つのもやっとのクセに何言ってんだ。お前らは8階か?世話やけるなぁ本当」
おんぶの形になり、青木は荷物を持たされる。優一は下ろしてくださいと騒いでいたがタカはいつも通りヘラヘラと交わしていた。
楽屋の前に来たところで優一を降ろすと顔を真っ赤にして頭をさげ楽屋に逃げるように入っていった。
「あ、青木?少しいいか?」
「…はい。」
喫煙所に連れてこられた青木は緊張した様子でタカの言葉を待つ。昨日の大河のセリフが頭を支配していた。
「しばらく優一預かるから。」
「へっ?」
「本人がそれを望んでる。何があったか頑なに言わない。言ったのは一言だけだ」
「…聞いてもいいですか?」
「『俺を壊してください』」
目を見開き絶句する青木を気にも止めずに煙を吐きながら続ける。
「俺がもらうぞ」
「……。」
「何をしたのか、言ったのか知らんが自分を壊したいと思うほどに泣かせやがって。お前がこのままなら俺が優一を幸せにする。それは大河にも伝えてる。」
「……。」
「ははっ、だんまりか。優一が不安定になるわけだ。優一は頭の回転が早い分、マイナスにも思考が早い。昨夜のことは知らないが俺にとってはチャンスでしかない。悪いが弱みに付け込ませてもらう。じゃ、そゆことで〜」
喫煙所に取り残された青木はぎゅっと拳を握るだけだった。楽屋に戻ると優一は両サイドを大河と誠に固められていた。
気だるい感じが嫌でも想像が働いてしまう。
今回の歌番組の収録はバラード特集だった。優一の体調を考慮して腰掛けて歌うスタイルになったが、喉の調子も悪いことで収録が押してしまった。
「ごめんね、みんな。時間…」
「調子が上がらない時は誰だってあるさ、気にするな。それより昨日は休めたのか?」
何も知らないふりしてレイがなんでもないように話しかけると少し考え込んだあと、優一はみんなを見た。
「うん、少しは眠れたよ。心配かけてごめんなさい。あ、事後報告で申し訳ないんだけど…。サナのプロデュースが終わるまで、集中したいから、しばらくタカさんのとこにお世話になることにした。」
優一の言葉に一番に反応したのは誠だった。タカが苦手な優一なのに、という心配と、離れていくことへの不安で優一の手を握る。
「優くん、本気なの?」
「本当にそこでじゃないと集中できないのか?」
誠と大河が引き止めるように質問をするが、やっぱり青木は何も言葉が出なかった。タカの悪い冗談であってほしかった、と願っていたのだ。
「うん。アイデアが浮かんだらやっぱりギターを触りたいし…。タカさんの家、防音加工の部屋があるんだって!しばらくは留守にするけど大丈夫、ちゃんと寝るし!昨日も、今日も…本当に迷惑かけてごめんなさい」
優一は座ったまま思いっきり頭を下げた。決意したら揺らがない、それを知っている誠は見守るしかなかった。
「先程、タカからも直接言われたよ。迎えには行くからしばらく集中して様子をみよう」
「伊藤さん、ありがとうございます!」
「ちゃんと寝るのが条件だぞ!」
「大丈夫だよ!ちゃんと寝るから!」
ほっとしたのかフワリと笑った優一にみんなが胸をなでおろした。青木はざわざわする気持ちを大河の大きな目で見透かされてるようでひたすらその視線から逃げた。
「青木、帰るぞ」
「レイさん…お疲れ様です。今収録終わったんですか?こんな時間まで…」
「終わった終わったー!本当お疲れ俺ー!そしてお前もな!」
「全然疲れてないですよ。レイさんほど仕事ないですし。あと少ししたら帰ります」
「ダメだ、今片付けろ」
どかっと床に座り、青木が片付けるのを待つようだ。青木はため息をつきながら片付ける。
「ここんとこずっと深夜までスタジオにいるな。ライブはずっと先だし、ダンスも完璧だろ」
「ドラマも終わったし…なんかしてないと落ち着かないんです」
「ワーカホリックだな。休むのも仕事だぞ。また仕事入ったときに、あーー!休んどきゃあよかったって思うぞ!」
「今なら安心しそう。」
優一が部屋を出て1ヶ月がたった。サナのデビューは1週間後だ。だがこれが終わったら戻ってくるのか、開いた距離をどう縮められるのかが全く分からなかった。 何も考えなくていいダンスにのめり込むことで自分を保っていた。
「気になるなら自分からアクション起こせ。それができないなら諦めろ」
下を向いていた顔を思わずあげる。レイはなんでもないような顔で淡々といった。
「相手の気持ちなんか、相手しか分からない。どんなに考えても、こうなってほしい、と祈ってもなんも変わらないさ。優一は選んだろ?タカさんといることを。そしてお前は見送ることを選んだ。なるべくしてなった状況じゃないか」
ペットボトルをゴミ箱に投げて外したレイはいそいそと拾いに行く。
「お前は今、どうしたいんだ?」
「……。」
「みんなに言いふらしたりしないから言ってみな?」
「レイさん俺…本当はちゃんと謝りたい。謝って、本当の気持ちを伝えたい。毎日会いたいし、毎日一緒にいたい」
言葉にすれば、あ、そうだったんだと自分にストンと落ちた。自分の気持ちにやっと確信が持てた。
レイはにかっと笑って立ち上がった。青木の肩を強く叩きストレッチをしはじめた。
「うん!よく言った!…ま〜正直難しいだろうな。自分で相手を即死レベルに刺しまくったんだからな。ユウも苦手なタカさんと暮らす方がマシだと思うぐらいのダメージもらってるしな。タカさんはお前とくらべて大人だし。でも、十分反省したんじゃないか?」
お前からアクション起こさないと何も変わらないぞと長めの説教が始まった。
あの日みたいにショッピングして、なんでもないことで笑いたい。あの日々が恋しくて仕方ない。優一は荷物を大量に持って行ったがあの日買ったシャツは留守番になっている。
「レイさん、まだ、間に合うかな?」
「そんなん知るか。ユウに聞いて」
もう帰ろうと大あくびしているレイに苦笑いし、部屋に戻った。
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