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第8話 自分のための詩
「ただいまぁ」
優一が帰ってきた。
嬉しい反面、すぐにTシャツの首元から見える鎖骨の赤い痕に目がいった。たぶん優一は気付いていないからハグのタイミングで大河は囁いた。
「ユウ、おかえり。痕、ついてるぞ」
え?痕?と、何のことか分かってない優一にキスマーク、と大河は自分の鎖骨をトントンと叩いた。気付いた瞬間、真っ赤になって洗面所に行ったあと首元をぎゅとかき集めながらも、嬉しそうに部屋に戻った。
(これはそうとうユウが惚れてるな)
着替えてきた優一は大河の部屋に行き、今までのことを話した。
「大河さん、俺、タカさんと付き合うことになったよ」
「そっか。おめでとう!大切にしてもらえよ」
「止めない…の?」
「俺は俺、ユウはユウだろ?ユウが好きって思って、相手もそうならそれでいいんじゃないか?」
ありがとう、と呟いたあと、決心したように優一が口を開いた。
「俺ね、本当は青木が好きだんたんだぁ」
「ごめん、俺、気付いてた」
えっ!?とびっくりする優一に苦笑しながら、お前わかりやすいからな、と伝えると更にびっくりして小動物みたいにわたわたと慌てた。それに大河が笑ったあと、優一は力を抜いて話し始めた。
「好きな人からの言葉ってさ、思ったより消えなくて…刺さったまんまというか、追いかけてこれ以上嫌われて傷付くのが怖かったんだ。」
「そうとうなこと、言われたんだな」
まぁね、と苦笑いする優一に、大河は青木を殴りたい衝動を必死に抑えた。
「青木のファンにも色目使うなとか、近づくなとか言われてたのに、青木自身も嫌だったんだ、と、思って。ただでさえ何もしなくても近くにいるだけで叩かれるし、それに加えて本人も嫌なら、俺が近くにいない方がみんな丸くおさまるなって思ったんだ。」
「そっか…」
自分で傷を抉っているような言葉に、大河はそれを止めるようにそっと抱き寄せた。優一は、ありがとうと素直に体を預けた。
「そんな時に、こんなボロボロな俺に、手を差し伸べてくれた…優しいタカさんに、逃げたんだと思う。俺は弱いから。最初は全くなんとも思ってなかったし…むしろ嫌いしかなかった。けど、だんだんタカさんがいないと不安だったり嫌だって思ったんだ。気が付いたら青木のことより、タカさん今日寝たかな、とか、ご飯食べてないかも、とかそればっかり。みんなとの仕事の時も自分からメッセージ送って、返事なかったら電話しちゃったりとかしてた。」
優一が夢中になって話すのを大河は嬉しくなってうんうん、と聞いた。意外な優一の行動に驚いた。
「そうだったんだな。…ユウ意外にもベタベタしたいタイプ?」
「かなぁ?…んーそうかも!…大河さんは?」
「は!?なんで俺!?」
急にふられて慌てる大河に優一はニヤリと笑った。
「甘えんぼそう〜!まこちゃん尽くすから大河さんを甘やかしてるだろうなぁ」
「知るか!想像すんな!」
「えーっ!教えてよぉ!俺も言ったのに!」
「自分で勝手に喋ったんだろ?」
「どうやって甘えてるの?大河さんセクシーだからまこちゃん大丈夫かなぁ」
「あーもー!!俺らのことはいいから!」
大河は久しぶりのやりとりに泣きそうなのを隠しながら楽しんだ。
(ユウ、本当、おかえり)
大河は仕事中の誠にメッセージを送った。
「ユウ、帰ってきたから。」
するとすぐに連絡が来た。
「もしもし?大河さん!本当?!」
「あぁ。今は部屋戻った。片付けしなきゃってな。」
「そっかぁ。大河さん、よかったね?」
「は!?みんな嬉しいに決まってんだろ」
「ふふ、そうだけど!寂しかったでしょ」
「……うるさいな」
「でも、寝る前の電話は続けようね?」
「…当たり前だろ。仕事頑張れよ」
「うん!行ってきます!」
誠のニヤつく顔が浮かんで電話を切った。優一がいない間、寝る前は必ず電話をしていた。となりに行けばいいし、誠を呼べばいいけど、ここには伊藤もいるし簡単ではなかった。 付き合ってる宣言はしたが、きちんと場をわきまえているつもりだ。
「甘えんぼじゃないし…」
ケータイを握りしめてベッドに横になる。
(でも、2人きりになりたい)
一緒にいるだけで十分。そう言い聞かせてるが自分が思っている以上に依存していることを最近自覚しはじめた。
(会ってるのに、会いたい)
時々抑えきれない誠禁断症状に襲われる。舞台の稽古と誠の撮影とですれ違ってばかりだ。 ふとペンを持つと書き溜めた言葉を追加する。我ながら女々しい言葉だらけに苦笑してメロディーをつけてみる。 バイトしてまでも買ったギターで、覚えたてのコードを奏でて録音する。
聴いてみると、こうしたい、ここでアレンジを、と夢中になった。
ドンドン!!
「っ!!」
「大河!稽古の時間!行くぞ!」
「うわ!ごめんっ!すぐ出る!」
集中しはじめると何も聞こえなくなるのところがある。大反省しながらバタバタと部屋を出た。
ギリギリの到着にみんなが珍しがっていたが稽古に入る。演技は特別得意ではないが面白いとは思っている。限られた空間でどう見せるか、先輩俳優や女優にも刺激を受けていた。
「大河、そこ右側にまわれるか、夏菜子はもっと奥から」
「「はい!」」
恋人役の夏菜子は舞台一筋。声量や表現力はピカイチだ。
「大河くん、ここの言い回し、ちょっと嫉妬の感じ強めに言えるかな?」
「やってみます。」
スイッチを入れ嫉妬の感情を引き出す。仕事で誠が頭に浮かぶことはないが、この間女優との絡みの誠がよぎった瞬間、セリフと感情が乗った。
「お前には俺しかいないくせに…何よそ見してんだよ!!」
はっ、とした時には、読み合わせだけだったのに夏菜子の腕まで掴んでいた。
「おおおー!大河!良かったよ、今の!」
「私もドキドキしちゃった!」
監督と夏菜子に絶賛され複雑な気持ちになる。公私混同は絶対したくないと思っていたのに…。いよいよ禁断症状が深刻だ。褒められたから結果オーライだが…。少し凹んだ一日だった。
夜も更けて稽古が終わったころに部屋に戻ると優一と誠が談笑していた。青木もいうようにこの2人の中にはなかなかは入れない。
「「おかえりぃ〜」」
双子かっていうくらいに揃う声に笑みが零れる。優一が戻ってきていつもの空気が帰ってきた。
「大河さーん、舞台どお?舞台やったことないやー」
「本当、ミスが許されないから俺は無理だぁ!」
「2人だってできるさ、まあ本当難しいし、日々勉強だよ」
2人してかっこいい〜と騒ぐのがなんだか照れ臭い。しばらく話してると伊藤が外から戻ってきて優一を呼ぶ。 優一はサナのプロデュースからインタビューやラジオなどのオファーが増えていた。行ってきまーすと出て行った優一を手を振って送り出す。
「こんな遅くに…みんな忙しいね」
見送った誠がぽそりと呟く。久しぶりに会ったけどあまり時間が無かったようだ。大河と2人きりなのに、優一といれなくて残念そうな誠に少しイライラした。
「優くん元気そうでよかった。聞いた?優くんもやっと幸せになれたって喜んでた。」
「うん、嬉しそうだったな」
「タカさんだから少し心配だったけど、ほとんど惚気だったなぁ〜!タカさんって何回聞いたかな?優くん無自覚だから本当可愛い」
「そうだな」
「優くんが選んだ人だから大丈夫だよね!」
「マコ?」
優一のことで興奮してる誠に申し訳ないと思いつつも禁断症状真っ最中の大河にはもう待てなかった。
「2人きりなんだけど」
「あっ…そうだね、なんか久しぶり」
えへへと照れる誠に、大河は温度差を感じた。自分は求めてるけど誠はどうなんだ?と不安になる。
「そんな顔しないで。俺だって会いたかった」
何にも言ってないのに誠がぎゅっと抱きしめる。久しぶりの温もりに泣きそうに鼻がつんと痛くなる。あぁ、こんなにも求めてたんだと、そしてたったこれだけで満たされるんだとしばらく大人しくしていた。
「大河さん、こっちみて」
「ん?…っん…ふぅっ…んっ」
見上げるとすぐに唇を奪われる。久しぶりのキスにビリビリとした感覚に酔いしれる。ばくばくと心臓がうるさい。
「はっ、はぁ、はっ」
「可愛い…とろんってしてる」
キスしかしてないのに荒れる呼吸に大河自身が理解できなかった。誠がそばにいるだけで抑えられない。いろんなものが爆発しそう。
「マコっ、マコっ」
「ん、大河さん、部屋行こう?」
寮ではなんとなく、体を重ねてはいけないと思っていた大河だったが今日はもう止まらない。
「大河さん、電気消す?」
「うん、消して、早く、も、触って?」
「大河さん…っ!」
パチンと消えた瞬間誠が覆い被さってきた。噛み付くようなキスをしながら互いが互いの服を剥ぎ取る。
「腰、あげて」
「んっ…」
会話少なく本能のまま求め合う。余裕のなさそうな誠に大河はほっとする。
「大河さん…なんか、俺、やばいかも」
「は、んっ…ん?」
「止まんない…っ」
性急に指を突き立てられ顔を少し顰める。ごめんね、と理性を取り戻した誠が本能と闘いながら久しぶりの穴をならしていく。
「大河さんのここ、美味しい」
ならしながら大河の胸に齧り付き背中が反る。熱に浮かされた大河は素直に声をあげる。
「ああっ、なんか、本当、ヤバい、な?」
「うん、大河さん、も?」
「俺も、なんか、イキそぉ」
指一本しか入れてないのに久しぶりの行為が嬉しすぎて身体がビクビクと跳ねている。
「出す?」
「ごめっ、一回、出したい」
このままだとおかしくなりそうで、誠にお願いする。誠は嬉しそうに笑って指を抜き、大河の涙をこぼす熱を握った。
「っあああっ!!んんっぅ…くぅっあ!!!」
握っただけで放ってしまって、呼吸が追いつかない。誠は手についた大河の欲をペロリと舐める。暗がりのその顔は息が止まるほどセクシーだった。
「大河さん、俺の番」
いつもより低い、柔らかみのない声で欲に濡れた三本の指をひくつく穴に押し込んだ。
「ーーーっ!ぁ!」
声にならない声をあげ、勝手に背中が反り返った。胸に噛みつかれながら終始無言で責め立てられる。
「はぁっ!ぁ、あっ、んんぅ!」
「は、は、は、」
大河のをならしているだけなのに誠の呼吸が荒い。穴をぐりんぐりんと広げるために必死でほぐしている。
「マコぉ、マコぉっ、んっ入れていいからっ」
「まだ、ダメだよ、切れ、ちゃうから」
まだ本能と戦っているようだ。その努力は大河をひたすら焦らした。
「もぉ、キて、マコっ、好き、早く、抱いて」
「大河さんっ!」
(あ、ヤバい)
快感で溺れる中そんなことを思った、瞬間。
熱いもので満たされる。
「っああああーーーーっ!!」
「んっ、っ、きついっ、ぁ、気持ちぃ、」
「待って、マコっ、まだ、」
「ごめ、止まんないっ!ぅあっ、はぁ!」
「ああっん!!んっ!アっ!はぁ、ぅんっ!」
「大河、さん、大河さんっ!」
急に横向きにされて角度が変わると大きくビクッと跳ねた。じぶんの中が驚いて蠢いてるのがわかる。
「はぁー、蠢いてる、気持ち良すぎっ」
「あぁっ!そこ、やめてぇ!あぁああ!」
中のダメなところをくびれが潰していく。大河は気持ち良すぎて理性を飛ばしていた。
「マコぉ!そこっ!ヤダってぇ!ああっ!」
「大河さん、イキそっ?中、きついよ」
「ああーっ!」
逃げる腰を捕まえて思いっきり引き込む。
「ーーーっ!!ぁあ、はあ、奥、奥にいるぅ」
「くっ…、大河さん…」
「マコが、俺ん中、いるぅ、はぁ、気持ちぃ」
「は、は、煽らないで」
「気持ちぃ、は、おっきくしないでっ、も、分かんない、気持ち」
とろんとした顔でどこを見てるのか分からない視線。上気した頬を涙が伝う。唇は真っ赤に濡れている。
「は、大河さん、大丈夫?」
「ンッ!!」
耳元で囁くと大きく喘いだ。耳が過敏なことを知り思いっきり舌を絡ませる。
「あんっはぁ!!やめ!耳やめて!!音やぁ!」
「くちゅ、んっ、はあ、大河さん、愛してる」
「んんっ!んっ!あぁああーーー!」
ビクビクと腰が跳ね、触ってない大河の熱が溢れた。
「は、は、は、イッたね?もってかれそうだった…」
「はー、はー、はーっん、嬉し、俺もあいしてる」
涙の残る目でにこっと笑う大河に誠はぶわっと顔が熱くなる。抱き潰したいという凶暴な感情をなんとか抑え込み、落ち着いた頃に動きを再開した。
「大河さん、気持ちい?」
「んあっ、あ、あぁ、気持ち、ぃ、マコ、好きっ、好き」
「うん、俺も、大好きだよ、もぉ、出そう」
「んぅ、はぁ、ん、マコ、一緒にっ」
「うん、一緒に。イこ、ちょっと、早くするよ」
ぎゅうと密着したと思ったら今までにないスピードで腰を押し込まれ、どんどん高みに連れて行かれる。
「ぅあああっ!!はぁっ!あんっっ!あー!あー!もうっっっ!イクっ!!」
「んっ、はぁ、は、くっぅ!!っっはぁ!」
中の温かい温度に身体が跳ねる。呼吸を整えながらものすごく満たされて余韻に浸る。
「…は!!やばっ!!大河さん!中に出しちゃった!!」
余韻に浸っていた誠だったが飛び起きて泣きそうな顔をしている。とりあえず抜くね、と抜いたときにトロリと溢れる。
「っんぅ」
「わぁっ…エッロ!!」
溢れる感じがゾクゾクとして目をぎゅっと瞑る。 しばらく固まって見つめる誠を蹴って辞めさせる。
「大河さん、出さなきゃ!お風呂行こう?」
ごめん、余裕なかったと焦る気持ちと、まだチラチラと穴を見るすけべなところを見て笑みがこぼれる。
「だっこ」
両手を広げて首をかしげると誠は目を見開いた。
「っ!!〜〜〜!もう!なんなの!?可愛すぎ!」
今度は顔を真っ赤にして怒りはじめた。
風呂場に行くと最初は丁寧に掻き出していた誠だったが、敏感に反応する大河に我慢出来ず2ラウンド目をしてしまった。
いよいよ立てなくなった大河に誠はひたすら謝り、罰として一緒に寝ろという大河に従い、伊藤に看病と嘘をついて大河の部屋で一緒に寝た。
「大河さん、俺だっていつも会いたいし、触れたいよ。愛してる」
大河の部屋に広げられた言葉に、誠は大河の寂しさを改めて知って、嬉しくなった。ふだん表現せず、年上だからと我慢するところがある。
「いつだって甘えていいのになぁ」
胸にくっついて安心した寝顔に話しかける。
どこにも行かないのに服を握りしめて寝ている。 おでこにキスをして誠も眠りについた。
「お腹も腰も喉も痛い」
「えっ!?ごめんなさい!今日稽古だよね?どうしようっ!」
「今回は…仕方ないからいい。」
「へ?怒らないの?」
「久しぶりだったし…嬉し…かったから」
「〜〜!大河さんっ!可愛いっ!!」
「もうあんまり放置すんなよ!」
「してないよ!放置なんてするわけない!俺だって我慢してたもん!」
ならいいけど、とまだ不満そうな大河の腕を引いて思いっきり口付け抱きしめる。
「俺はいつも抱きたいし、キスしたいよ」
「はっ、はぁ、嘘つき。そんな風にみえないし」
「よし、じゃあもう周りなんか気にしないから!覚悟してよね!」
「はいはい」
この日から、誠の場所を問わないとんでもない誘惑を躱すことに疲弊する日々になった。
「大河さん…好き」
「やめろって!楽屋でこんなことすんな!」
なんだか分からないタイミングで誠のスイッチが入る。大河の寝起きだったり、ぼーっとしてる時、目があった時、など様々で読めない。
スイッチが入った時のその顔は抱く前の表情そのもで毎回ドキドキさせられる。うっかり受け入れてしまう日もあるほどだ。
今もキスしようとアゴにのびる手を必死で払いのけて距離を取る。
寂しそうにされるたびにチクリと痛むけど、誠も本当は分かってるはず。応えてあげられないかわりに、ばれないようにそっと手を繋ぐと花が咲いたようにふにゃりと笑う。
(可愛いのはどっちだよ!!)
年下に振り回される大河だった。
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