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第9話 酔わすもの
デビューしてやっと2年がすぎたころ、RINGの5人が集められた。
「7月から9月でホールツアーを行う」
それぞれの個人活動が目立つ中、はじめてのライブツアーだ。個人活動の合間にレッスンや、ツアー前に発売予定のアルバムの収録など今まで以上に多忙な日々だ。 ツアーチケットは即日完売し、多くの注目を集めた。5人で各地を回るのは初めてで全員が楽しみにしていた。今回のツアーではグループ内ユニットも予定されていた。誠とレイ、青木と優一、大河のソロだ。ギャップを見せる為、イメージとは違ったものみんなで案をだした。
「マコちゃんとレイさんはダンスでかっこよくはどう?レイさんはいつもラップだし、マコちゃんはバラードなイメージあるかな」
「青木っ!それいいと思うー!」
青木の案に興奮した様子で同意する優一。お互い時間がたつにつれ、もとの関係のように戻りつつある。きゃっきゃっとはしゃぐ2人に誠は難しい顔して黙った。
(ダンスなんか覚えきれないよ…)
「おっけ!それで行こう!マコ!頑張ろうな!」
「え!?嘘でしょ!?無理だよぉー青木いじめ?俺がわたわたするのが見たいだけだろ??」
「あ!バレた?」
「こらぁーー!」
誠は青木の頭をホールドする。青木は涙が出るほど笑っている。そんな青木に優一は少しほっとしながら眺めていた。
「じゃ、次は青木とユウのチームな」
「はい!俺、ユウのラップ聞きたい!」
「えぇー!?大河さんなんで?!」
ラップなんか無理だよぉとさっきの誠みたいに眉毛を下げて困っている。
「青木もラップはしたことないよな?」
「レイさんの聞いたらやる気うせるよーみんなレイさんので慣れてるからヤダ!」
「はい!賛成!青木のラップ聞きたいです!」
「あ!マコちゃん仕返しだな!?」
困ってる青木に誠は心の中でガッツポーズをした。いつもからかわれてばかりで最近はどちらが年上か分からないほど仲良くなった。同部屋ということもあり、レイが仕事の時はリビングでずっと話をしている。
「ふふ、兄弟みたい」
「本当だな」
大河と優一の微笑みが嬉しくて調子に乗ってたらレイに怒られた。
「大河さん、アコギでいかない?」
唐突に優一が提案した。楽器はまだまだ練習中で自信がない。同じく、優一のレベルを見てるから大河も複雑な気持ちになった。
「大河さん!やってみよう?!」
誠がキラキラした目で見てくるから大河は真っ赤になって目を逸らした。その顔を見て優一とレイは微笑み、青木は苦笑いした。
それぞれのやるべきことが決まって、練習に入る。誠はデビュー前と同じく、レイのスパルタを受けていた。
「レイ…さん!ギブ!!ちょっと休憩!」
「まだ行ける!マコ左軸だから、こうだから。」
「青木かわってぇぇえー!!」
誠の絶叫がスタジオに響いた。
「青木〜?ここ難しい」
「リズム裏かなぁ?わぁ、これ口回らないや」
やってみて、やってみてと見つめる優一にときめく胸を無視してやってみると、すごいー!と褒めるからもうたまらない。
(俺の気持ち…忘れてる??でも幸せだからいっか)
グループ内ユニットのおかげで距離がまた修復してきた2人だった。
一方、大河は頭を悩ませていた。自分でコツコツと作ってきた曲を披露しようと思ってるが
(なんか…誰の歌かバレバレだよな…)
書き溜めてきた詩は誠を思ったもの。本人がいる場で、付き合っていることを知るメンバーの前では大河にはハードルが高すぎた。
(ユウ〜早く帰ってこーい)
優一から借りたアコースティックギターを抱えて詩を睨む。
(俺って女々しすぎない?)
また大きなため息を吐いた。
「ただいまぁ〜」
「ユウー!!」
「わぁー!大河さんどうしたの?」
飛びついてきた大河をよしよしと背中を撫でる。ソロ曲で困ってだろうとは思っていたから手を引かれるまま大河の部屋に入る。
「これ、聞いてみて」
「え?もうデモ出来てたの?!すごい!」
「いや、その…書き溜めてたやつだから」
楽しみ、とイヤホンをさし、目を閉じる優一。左手はコードを刻んでいる。左手の動きが止まって目を開ける。緊張した大河はじっと優一を見つめた。
「めっちゃ分かる〜〜〜!!」
「え?!」
「うわぁ〜イイー!分かるー!うわータカさんに今すぐ会いたいー!」
次の言葉に大河は真っ赤になる。
「まこちゃん喜ぶだろうなぁ」
大河は恥ずかしさに耐えきれず布団に隠れた。
優一は出てきてよーと布団をつんつんと突き続けた。
「女の子目線の歌詞っていうコンセプトにしたらいいじゃん!」
「なるほど!その手があったか!」
「あと、ここは、この音よりも、こっちの方がよりスムーズに声が出るかも」
「へぇ〜誰かに習ったのか?」
「分かんない。感覚?」
「天才か!」
優一が布団にこもった大河に、こんな共感できる歌詞、女の子は刺さると思うなぁという声で布団のガードを解除した。そこからは早かった。2人で明け方まで曲作りに励んでいた。
「優くん、クマすごいよ?寝てない?」
「ふぁぁ〜…。んー…大河さんと曲作ってた」
「なるほど…そうだったんだ…」
「どうしたの?」
「え?あ、うん。昨日さ、おやすみの電話無かったからさ、心配だった」
「おやすみの電話!?」
眠そうだった優一の目が大きく開く。そのあとニヤニヤしながらそっかぁ〜と誠を見た。
「え?なに?」
「いや〜?大河さんが可愛いすぎてチューしたい」
「ダメだよ!」
「あはは!赤ちゃんにするのと一緒だよぉ」
それでもダメ!と誠は人差し指で優一の唇を抑えた。
「お前ら女子高生か!なんだその会話!」
助手席にいたレイに思いっきりつっこまれて2人は笑いが止まらなかった。
相変わらず入り待ちにはファンが絶えない。最近は優一と青木の一緒に移動はないから、例のアンチファンから絡まれることもなくなった。
「マコー!キャー!!」
「レイくん、昨日のラジオ最高だったよ!」
「ユウくん可愛い〜!」
それぞれ言われる言葉がちがって面白い。誠は言葉がないからとりあえず手を振るとよけい歓声があがった。
少しずつ、誠と優一はバラエティーにも呼ばれるようになった。一生懸命参加するがとんちんかんなことを言う誠と突っ込むレイのやりとりはお茶の間に人気だった。クイズ番組では優一が大活躍するところがより良いバランスらしい。青木はドラマ現場でのいたずらっ子ぶりや、NG大賞などで人気があり、大河はクールそうな見た目から、絡みづらそうにされるがリアクションが意外にも大きいことから、プロデューサー陣にも可愛がってもらい、いろいろな組み合わせでRINGを出してもらうことができた。
「あ!伊藤さん!」
「あーこんにちは!」
伊藤が何やらお偉いさんと話している。RINGはテレビ局の忘年会に呼ばれた。青木以外は20歳になったため、お酒もOKになった。
「うわぁ、俺お酒嫌い」
会議室で忘年会の話をきいた大河は顔を歪めた。打ち上げなどほとんど参加しないが、今回は事務所指令で強制参加になる。
「お酒ー!美味い酒期待!」
レイはごくりと喉を鳴らした。毎晩晩酌しているレイは酔うと青木と誠を並べ何か芸をさせ、爆笑している。青木はレイにツマミを振る舞っている。
誠と優一はこういう場でのお酒は初めてだ。誠はレイに飲まされたりするが全く酔わず、美味しくもないためわざわざ飲まない。優一は苦そうってだけで飲んだことがなかった。
「俺すぐ眠くなるから、耐えるの地獄なんだぞあれ」
「大河、酒は全部俺に回せ」
「うるせぇ!いつも持ち帰ってるの俺だぞ!偉そうに!」
なんだかんだ楽しみなRINGだった。
忘年会当日、伊藤の運転するバンで全員が高級ホテルに向かった。RINGのほかに、78や、テレビ関係者、芸人や俳優などが入り混じっていた。
「うわ、大河だ!珍しい…」
「げ、あの時の怖いやつ」
78にヒソヒソとされ、瞬時に居心地が悪くなる大河と優一は78から距離をとり、優一は誠を78から遠ざけた。 青木はすぐに捕まり、どんちゃん騒ぎの中に入っていった。レイはテレビ関係者とほとんど知り合いで偉そうな人達と話に行った。
「お疲れ、ユウくん」
「あ、篤さん、お久しぶりです」
ドリンクを待っていると篤が話しかけてきた。篤への苦手意識がなくなっている優一はサナのプロデュースの話などをすすんで話した。
「はい、カシスウーロンです」
「あ、ありがとうございます」
店員から受け取ると、篤さんも同じものを飲んでいた。アルコール苦手だから度数が少ないの、と苦笑していたが優一も同じだった。
コクリ
初めて飲んだお酒はすぐに喉が熱くなり、やっぱりマズイと顔を歪めた。その顔を見て篤が少し笑った。しばらく話してるうちに優一は4杯目に突入していた。篤さんがスタッフさんに呼ばれ、優一はフラフラとRINGのテーブルに戻った。
誠はいろいろな方に挨拶して周り、注がれた酒を全部飲んでも全く酔えなかった。ふと周りがザワつき、視線を寄越すと誠は驚愕した。
「んっ…ん、」
「んちゅ…」
面白がって写真を撮ったりする野次馬を蹴散らしながらそこにいくと恍惚とした表情で大河の唇を奪う優一。
「ちょっと!ちょっと!優くん!?飲み過ぎ!」
「ぜんぜん、のんでないよぉ」
「大河さん、大丈夫?」
「も、本当眠い…静かにして…」
「まこちゃーん!ちゅうー!」
「ちょっと…んんっ!ぷは!優くん!?本当に酔いすぎだよ?」
避けられずキスされるも何とか逃れて
目が合うと誰にでもキスしようとする優一を誠が必死に抑える。
(まさかのキス魔…!これは大変だ!)
いつも以上にニコニコふにゃふにゃしてる優一は愛嬌抜群。お偉いおじさまたちにも愛嬌を振りまいて隙あればキスしようとする。
「まこちゃん、キスしてくれないのに邪魔しないで」
「ダーメ!誰にでもしちゃだめなの!」
「ケチ!きらいー!」
「嫌いって言わないで」
「うふふー大好きー!」
またキスしようとするから顔を背ける。ふにゃっとした笑顔に絆されそうになるがなんとか耐える。
(明日の優くんのためだ!頑張れ俺!)
一番最初の被害者である恋人はすやすやと眠っている。可愛い寝顔を見て一瞬力が緩んだ瞬間優一が逃げた。
「あ、大変だ!青木っ!優くん捕まえて!」
「え?!ユウ…うわっ!んんっ!」
「えへへー青木ぃ〜ちゅー!」
「っ!!」
誠は頭を抱えた。青木はまだ優一を諦めきれていない。フラれた好きな人からのキスに真っ赤になるし、抵抗しないしで役にたたない。78の群れに飛び込んだ優一はまさにオモチャだった。
「ユウちゃーん、こっちおいでー!はいチュー」
「ちゅー!」
みんなにキスしていたが、楓を見ると目が据わって青木に抱きついた。
「かえでさんは、いや」
この言葉に78の全員が爆笑し、楓は苦笑いして頭をかいた。優一は篤を見るとにこぉと笑い、青木から飛び出して篤の胸に飛び込んだ。
「あつしさんは大好き!」
思いっきりキスして篤は真っ赤になる。 青木が優一から目が離せなくなる。誠は遠くで見てやれやれと回収に向かった。
「こんばんはー。優くんがお世話になってます。申し訳ないです、先輩方」
「お、マコちゃ」
「だめー!!まこちゃんにさわらないで!まこちゃんもうかえろ?」
「うん、優くん戻ろっか。大河さんも待ってる」
「うん!たいがさんとチューしてくる!」
おぼつかない足取りで寝てる大河にディープキスをする優一を誠はしばらく見つめていた。
「なんか…エロい」
青木が呟くと誠は無言で頷いた。 恋人が違う人にキスされてるのになんだかとても綺麗に見えた。 大河はキスで起こされ、とろんとした目で優一を受け止める。優一の手が大河の耳を掠めるとピクンと反応した。
「んっ…」
「は…たいがさん、えっち」
「はぁ?なにが…んっちゅ…」
「はい、終わりー!」
見ていられなくなった誠は強制終了した。やだ、まこちゃんのいじわると上目遣いの優一もとろんとした目でエロい表情に変わっていた。誠でさえもドキッとする優一の顔に、目のやり場に困って青木を見ると
「あ、青木…鼻血」
「えっ!わ、本当だ!」
鼻を抑えてトイレに走っていった。優一はだんだんと大人しくなり、まだ口寂しいのか指で唇をなぞっている。半開きの唇は真っ赤にぬれ、上気した頬とその仕草が半端なくエロい。 落ち着くために誠は酒を煽った。
「タカさんにあいたい」
ぽつりと呟いて、優一はケータイで電話をかけ始めた。
「タカさん、ちゅーしたい」
「ぶはっ!ごほっごほっ!」
ストレートすぎる優一に思わず吹き出した。酔っ払っているとはいえ、優一はいつもこうなのかと想像が加速する。
「むかえにきて。ばしょ?わかんない。まこちゃん、ここどこぉ?タカさんにおしえて」
はい、とケータイが渡された。
「お疲れ様です。」
「おう、お疲れ。優一のやつどうしたんだ?」
「酔っ払ってキス魔化してます。早く回収してください、俺には手に負えません」
「はは、お前でも手に余るのか!いきたくねーなー!ほかの奴に喰われる前に向かうよ。」
「プリンスホテルの18階のラウンジです。伊藤さんには言っときます。」
それだけ言って優一に返すと甘えた声でタカと話している。タカは運転しながら電話に付き合ってあげていた。
「おーぅ!マコ、飲んだかぁ?」
「レイさん!もう大変だったんですから!」
「見てたぞー!まさかユウがキス魔だなんてー!」
ケラケラと笑うレイさんに呆れて近くにあったウイスキーを流し込んだ。
(俺も酔ってしまいたい!)
酔えない自分に少しがっかりした。優一は電話を切ったあとレイの唇に噛みつき熱いキスをしていた。レイはその後さらに爆笑し面白がっていた。 優一はまた大河を狙って、起きないのをいいことに何度もキスをしていた。 誠は他へ行くよりは、と大河さんごめん、と心で謝りながら放置した。伊藤にタカが迎えにくることを知らせ、誠はトイレに向かった。
「あ…お疲れ様です」
78の楓さんが手洗い場でタバコを吸っていた。この匂いには覚えがある。心臓がうるさくなるのを無視して戻ろうとすると、腕を掴まれビクッと身体が跳ねた。
「マコちゃん、俺と一発どお?」
酔っ払ってるのか直接的な表現に眉をしかめる。
「なんのことですか?すみません、戻ります」
ドアを開けようとするとドアを抑えられ出れなくなる。 至近距離で見つめられ居心地悪く目を逸らした。
「俺、お前タイプなんだよね」
「あ、そうなんですか」
「次会ったらヤろうって決めてたんだよね」
脚の間に膝を入れられ下半身を刺激される。ずっと優一のキスを見ているからか、多少酔っているのか仄かに反応してしまった。
「…やめてください」
「やだね。はぁ…本当可愛い…」
「ンっ!やめろって!」
「お前は抱く方より抱かれる方が向いてるって」
キスしようと近づく顔を、首を逸らして避けたつもりが、あの日みたいに首筋に唇が進む。そしてチリっと痛みが走る。
「いっった!」
思いっきり吸い付かれ痕が残った。目を見開き思わず手で抑えると楓はニヤリとした。
「綺麗についたな。これじゃあ恋人に疑われるなぁ?ケンカでもして別れたら俺んとこおいで」
「っ!別れませんよ」
「へぇ。じゃあそのまま今日でヤっちゃうか」
下半身を思いっきり握られ本格的に焦る。手を弾きながら身じろぎする。
「んっ!やめてくださいって!」
「そっち側の才能開花させてやるよ」
「本当っに!嫌だ!!やめてくださいっ」
コンコン
「あれ、だれかいるのかな?すみませーん!トイレットペーパーだけほしいんですが」
まだ鼻血が止まらないのか一度フロアに戻っていた青木の声だ。誠には青木が救世主に見えた。楓さんは体をはなし、ドアを開け、青木の肩をポンポンと叩き去っていった。
「青木…鼻血?」
「…マコちゃん、大丈夫だった?」
「え?」
「フロアにマコちゃんも楓さんもいなかったからまさかと思ってトイレにきたら開かないから…。え?首に…っ!もしかして」
間に合わなかったと、青木が泣きそうな顔をする。誠は首を抑えてしゃがみ込みパーマの髪をくしゃっと握った。
「マコちゃん…」
「青木、ありがと。助かった。」
「うん、気付くの遅くてごめん」
「鼻血のヒーローだ」
「ださいよ、やめてよ!鼻血止まったもん!」
「ださくなんかないさ。ださいのは俺だ」
他のメンバーには内緒で、と2人で約束し、少し落ち着いてからフロアに戻ると優一がニコニコしながら大河にキスをしていた。相変わらず大河は爆睡中。
「こら、優くん、もう終わり」
「いやだ!…あれ?まこちゃん?くび」
「あ!これは…」
「だれ?」
「え? 」
「だれがしたの?」
ニコニコの顔が一気に変わる。血の気が引き何も言えない誠に青木が慌てて答える。あの日の優一はもう見たくないくらい怖いからだ。
「さ、さっき俺と戯れてたらあの装飾品にぶつけちゃったの。マコちゃん痛いよね、本当ごめんね」
「あ!ううん!いやぁー壊れてなくてよかった!」
あははと2人して乾いた笑いをする。優一はしばらく真顔で見つめたあと、ふにゃっと笑って2人はほっとした。
「かえでさんかぁ、こりないねぇ。どうしようか」
2人の嘘はモロバレだった。ずんずん78に向かっていく優一を呼ぶ声がして優一はピタっと止まった。
「優一?どうしたまたキレてんのか?キス魔の姿見たかったのに」
こういう場だからかいつものラフな格好ではなく、軽くジャケット羽織ってタカがやってきた。
「タカさん、おそいよぉ」
「ごめんごめん。けっこうここ遠いんだぞ」
「かえでさん、またまこちゃんに手を出したから言いに行こうかとおもって」
「また楓か?」
「まこちゃんにさわるなっていってんのにこりないの」
タカが誠を見ると誠はことを荒立てないでくれと必死にタカに伝える。その首筋には付けられたてのキスマーク。
(そりゃ目につくわ)
誠に苦笑し、優一を落ち着くまで誠に預ける。青木にも優一を頼むと伝え78の場所に向かう。
「お疲れ〜」
「タカさん!お疲れ様です!」
「楓〜?おいで」
「?はい」
「またマコちゃんに手を出したんだって?」
「…」
「ちゃーんとゆっくり口説いていかなきゃ〜。前も言ったよねー?」
「はい」
「今回俺は部外者だからお前に手は出さないけど…以前のストーカー行為なんか俺が摘発したらお前一発だよ?わかってる?」
「っ!」
「どれもこれも好きすぎる故かもしれねぇけど、お前順番いろいろ間違えてるぞ。もうちょい落ちつけ」
「でも、大河がいるとおれのつけいる隙が」
「隙を狙うんじゃなくて堂々と勝負しろ。幸い今回のこともマコちゃんは口外するつもりはないらしい。何回命拾いしてるんだ。」
「すみません」
「姑息な真似じゃなく、自信持て。」
「はい、ありがとうございます。」
78の全員が頭を下げて挨拶するのに左手をあげて応え、RINGのテーブルに戻るとふにゃふにゃに蕩けた笑顔でレイと唇を合わせていた。隣の真っ赤な顔の青木を見ると先ほどまでキスされていたようだ。
(こいつはとんでもない酒癖だな…お仕置きしないと)
「ネコちゃーん、おいでー」
「タカさん!んふふー」
完全に甘えるモードになった優一はもう楓のことは頭にないようだ。キスを迫るがタカに躱されてほっぺを膨らせて拗ねている。いい年した大人が…とタカとレイが爆笑している。
優一の荷物を誠から預かり、2人は去っていった。誠も大河を持ち上げたところで優一のケータイを見つけた。
「優くん、忘れてる」
「あ、俺追いかけてきます!」
「青木〜ダッシュ!間に合わなかったらタカさんの車を追いかけろー!」
レイが遠くでゲラゲラと笑っているのを聞きながら青木は走った。エレベーターホールで2人を見つけるが、声が出なかった。
「んぅ…はっ、んちゅ、んっ、ぁ、ふぅ」
「は…ん、こんなの皆にしたのかお前」
「…んーん。タカさんみたいにきもちいのはしてない」
タカの首に腕を回し、背伸びしてキスをしていた。今まで他の人にしていたキスとはまるで違うものに青木は目が釘付けになる。 優一が口を開けて真っ赤な舌を出してタカを誘うと、家まで待てないのか、と呆れながらも誘いにのり舌を合わせた。
「んっぅ、ふっ、んっ、ちゅ、はっ」
吐息と快感が混ざった声とともに優一の力が抜けていき、脚がガクガクとなったところでタカの腕がガシッと優一の腰を支える。
「はぁ、はぁ、んっ、タカさんっすきぃ」
「こら、家まで待て。こんなところではじめるつもりか?」
「やだっがまんできないっ、きす、きすだけ」
またキスを強請る優一にタカが顔を近づけたところで青木と目が合う。青木はハッとして慌てて優一のケータイを見せた。タカは苦笑いしながら優一のキスをかわし、腰が抜けてる優一を床に置いて青木のところへ来た。
「悪いな、助かる」
「いえ、大丈夫です」
「…変なところ見せたな、申し訳ない」
「あ、いえ、」
18階ですとエレベーターが到着した。タカは青木からケータイを受け取って、まだぼんやりしている優一を背負った。青木にじゃあな、と言ったあと、ドアの閉まる瞬間に
「それ、落ち着いてから戻れよ」
青木のズボンを苦しそうに持ち上げてるそれに気づき、青木はドアが閉まった後に恥ずかしくて顔を手で覆った。
「…っ!ーーっ!ぃったぁ…」
(ここは…?頭が割れそう。)
大河はぐらぐらする視界と割れそうな頭を抑え周りを見る。床には誠がうつ伏せで力尽きていた。
(マコも酔ったのか?)
寒い日に昨日着ていたコートのまま寝ている誠が心配で頭を撫でてみる。
「まこー?大丈夫かー?」
「ん…大河さん…。あれ、もう朝?ごめん、本当ベッドかして」
目は閉じたままコートもニットもパンツも脱ぎ上半身裸に下着だけで毛布に包まった。
(えっ!?今…)
一瞬見えた誠の首筋の傷。
慌てて寝ている誠を転がし、髪をかきあげる。
そこにははっきりとしたキスマーク。
(俺…が…?)
全く記憶がない。酔ってたとはいえこんな目立つところに付けるだろうか?身に覚えがない分、以前襲われかけた誠を思い出し、胸がざわつく。
(何があった?何で寝てたんだよ俺!)
二日酔いの頭が痛むのを堪え、疲れ切った誠の寝顔を心配そうに眺め続けた。
(ユウに聞いて…ってそーいえば!)
大河は優一に何度もキスされた記憶が蘇ってきた。眠りの世界に引きずりこまれてもキスで浮上していた。
(ってことは…ユウがあのキスマークを?)
それはそれで複雑な気持ちになり眠気も覚め、ギターを持ってリビングへ出た。
ピンポーン
「??はーい」
ガチャとドアを開けると優一を背負ったタカだった。
「あ…」
「お荷物でーす」
「お荷物って言わないでよぉ。大河さんおはよぉ」
「お、おはようございます」
聞けばタカさんはこれから遠征らしく、行くついでに優一を送ってくれたらしい。優一は初めての二日酔いのせいか歩くのも気持ち悪いらしい。
「うぇ、吐きそう…」
「早くトイレに行ってこい。大河、こいつをよろしくな」
「了解です」
「タカさんありがとう、がんばってー」
ギリギリまでタカを見送った優一はドアが閉まると床にぶちまけた。 優一は半泣きで大河に協力してもらって片付けた。
「大河さん、世界がまわってるよ」
「地球が回ってるからな」
「うわぁーこれが宇宙か」
「お前何の話してんだ?とりあえずもう一回寝てこい」
「目を閉じても回ってるんだもん」
「だもんじゃない!水飲め!脱水になるぞ」
大人しく水をコクコクと飲む優一をみて、ふと大河は思ったことを口にした。
「お前、そうとうやばいキス魔だな」
「ぶはぁっ!ごほっごほっ!」
「あんな酔い方初めてか?」
「お酒が初めてだったから…みんな忘れててほしかったのに」
「お前は覚えてるのか?」
「記憶はしっかりあるタイプです」
「ぎゃははは!それ一番最悪!」
優一はすっかり凹んでしまった。誰にでも構わずキスしにいっていた自覚があるのだ。 それをタカにもすごく注意され、酒は控えろと怒られたのだ。
「もう飲まない」
「無理だぞー。俺でも飲まされるもん。俺は寝てつまんないだろうけど、お前は楽しいだろうな。」
「もー本当やめてよー!ごめんなさいー」
「2人とも、おはよう」
うるさかったのか、誠が下着姿のまま起きてきた。
「おはよう〜…って2人とも!事後!?」
「ちがうわ!」
「?」
優一が赤面するも大河がすぐに否定した。誠が髪をかきあげたときに見えるキスマークに大河はやっぱり胸が痛んだ。
「だって裸だしキスマー…あ。」
優一の目が見開き、声のトーンが変わって、寝起きの誠が分かりやすくギクリと固まった。
「あ、優く…」
「…ごめん!大河さんも、まこちゃんも!」
「「え?」」
「また、俺、まこちゃん守れなかった」
泣きそうな顔で必死に謝っている優一に誠がオロオロしはじめる。
「ちが!大丈夫、大丈夫だよ優くん!俺に隙がありすぎて…でも青木が来てくれたから!」
「マコ、何があった?」
思わず冷たい声が出る。怯えた顔で見つめる誠に大河はイライラした。もちろん、呑気に寝ていた自分に、だ。
「その…トイレに行ったら78の楓さんがタバコ吸ってて…。優くんから前話で聞いてたから引き返そうと思ったら…その、」
「付けられたって?」
「ごめん…なさい。」
「……。」
「でも!青木が来てくれて、本当助かったぁー!青木鼻血出してたけどいいタイミングだった」
空元気で明るくしようと誠はおちゃらけて言うが2人は全く笑えなかった。誠はごまかすように近くにあった大河のグレーのパーカーを羽織った。2人が黙ったままなのに耐えきれず、口を開いた。
「俺は…本当は抱かれる側だって言われた。そっち側を教えてやるって。」
苦笑いしたまま誠は続けた。
「このキスマークでケンカして…別れたら俺のとこに来いってさ」
付けられた痕を抑えながら、不安そうな顔で誠は大河を見た。
「ふっっざけんな!!!」
「大河さん…」
「抱く側を教えてやる!?そんなの俺が抱くわ!彼氏だしなぁ!!キスマークでケンカして別れる!?そんなわけねーだろ!浮気どころか被害者なのに別れるわけがっ」
「大河さん」
「そんな…っことで…、っ、不安に、なるなよっ、バカ!」
「うん、ごめん。ごめんね、大河さん」
「あーまこちゃん泣かしたー」
「本当にごめん」
「まこちゃんは悪くないけどねー。本当あいつどうにかしなきゃ。」
優一は本気で人を殺しそうな顔をして考えごとを始めた。大河は怒りと悲しみと悔しさでぐちゃぐちゃだった。誠に抱きしめられわんわん泣いた。
「優くん、変なこと考えないで。いつもありがとう。とにかく、今は眠って回復して?ね?」
「でも」
「優くん、昨日俺大変だったんだけど?言うこと聞いて」
「あ、本当すみません。おやすみなさい」
大河さんもおやすみ、まこちゃん、大河さんよろしくねとフラフラしながら優一は部屋に向かった。
「大河さん、部屋、行こ?」
誠は大河の手を引いて大河の部屋に戻る。暖房を付けて布団で大河を包む。
「大河さん…」
「俺は、お前が、好きだ」
「うん、俺も好きだよ」
「誰にも、渡さない、からっ」
「うん、ありがとう」
涙でいっぱいの顔に誠は何度もキスをする。しばらくすると涙がとまって無言で唇を合わせた。
「マコ…?」
「ん?」
「つけて、俺に。」
「…?何を」
「お前のっていう、痕」
大河はいつか見た優一のキスマークの痕と、それを嬉しそうに隠す優一の表情が忘れられなかった。
「でも、衣装とか」
「いいから…お願い。」
「…分かった。じゃあここに」
誠は大河を押し倒し、下着ごとパンツを下ろし、際どいところの真っ白な内腿にきつく吸い付いた。
「うわぁっ!なに…っ、ん、痛っ!」
「…ん、綺麗についた」
大河がみると内腿に真っ赤なそれ。いたずらっ子みたいに笑う誠に、大河はそれと同じくらい真っ赤になってふわふわの頭を叩いた。
「ここなら俺しか付けられないでしょ?」
「は、恥ずかしいことすんな!」
え〜?とご機嫌に知らんぷりする誠にムカつき、同じように下着をさげ、すべすべの内腿に吸い付いた。
「っ!大河さん!」
「へへ!俺もつけた!楓さんに見せるなよ?」
「わぁ〜大河さん、嬉しい」
ニコニコと嬉しいそうに見てる。2人とも中途半端に裸なのに、そんなこと気がつかないくらい、小さな痕に幸せを感じる。大河が内腿の痕を指でなぞると誠がビクッと反応した。
「んっ!大河さん、くすぐったいよ」
(確かに抱かれる側も悪くないかもな…)
エロい顔に変わった誠を見て少し興味も出たが自分は愛される方が満たされるから何も言わない。でも気持ちよくしてあげたいのは、恋人ならだれもが思うこと。目の前の、いつも自分を狂わすものを口内に迎え入れる。
「はぅっ、ぁっっ…大河、さんっ」
「んっんむっ、ん、」
ビクビクっと反応し、大河の髪をくしゃっと掴んだ。首を仰け反らせてパサっと髪がなびいたところであのキスマークが目に入り、悔しくて口内の愛撫を激しくする。
(俺が、1番気持ちよくしてあげる)
「っっ!ぅあ、はぁっ!は、は、んんっ!」
「んぢゅ…っ、んっ、ちゅぅぅ」
「大河さん…ぁ、は、は、気持ちよすぎっ…」
ゆらゆらと腰が揺れ始め顎が苦しくなる。口をすぼめて先端に向けてずらしながら吸い付く。
「ぅああああっっ!っ、はっ、あぶな…っ」
口内の熱は固く今にも弾けそうに脈打っている。いったん愛撫をゆるめ、誠の顔を見てみると、赤く口も半開きで、眉をひそめながら切なそうに大河をみている。
「大河さん…っ、十分気持ちいいよ、ほら顎つかれたでしょ?ありがとう」
頭を押して抜こうとするのに逆らって奥まで加えると、内腿もビクッと跳ねて、荒い呼吸が再開した。 目は潤みはじめ、ちいさく、はなしてと呟く声は欲情を誘い、本当に守らないと食われる危機を感じた。
(誰にも見せんなよ、そんな顔…!)
大河の髪を掴む力が少し強くなって限界を察した。奥まで入れて舌を這わせていたが、先ほどイきそうになったように吸い付きながら抜く寸前までスライドさせた。
「っっ!!やば、っっくぅっっ!!」
我慢しようとしていたようだが耐えきれずに、大河の口内に熱い欲を飛ばした。何回かに分けて出されるそれに大河は愛しさしかなかった。誠の全てを飲み込んだ。
「はぁ、はぁ、は、んっ、気持ちよかった」
まだ恍惚として少しゆらゆらと腰を振っている。 しばらくすると誠は慌てた。
「ごめん!大河さん!ぺってして!」
ティッシュを大量にとって口元に持ってくるが口を開けて飲んだことをアピールすると火がついたように真っ赤になった。
「エロすぎ…」
鼻血出そう、と布団で悶えてる誠が可愛いくて後ろから抱きついた。
「キスして」
「えー?やだ俺の味しそう」
「めっちゃまずかった」
「大河さんのもいただきまーす」
「うっわ!やめろ!マコっ、ちょっと、」
誠のを可愛がっている間に大河のも元気になり、少しだけ露が出ていた。すぐに誠の口内に迎え入れられ、露をちぅっと吸われると腰が異常なほど跳ねた。
「ああっ!ぅんっ!!はっ…あ、」
「大河さん、優くんいるから、声抑えて」
「無理っ、お前だって…、んっ!声、でてたっ、っああ、ンっ!んっ、ん、」
「んっ、ふっ、起きたら見られちゃうよ?」
誠の髪を握り必死で声を抑えるが漏れてしまう。 それを見て頬張りながらニヤリと目だけで誠が笑った瞬間。
じゅるっじゅるじゅる
「っああああーーーっ!!!」
突然の強制的な射精に訳が分からないまま絶頂を迎えた。
「こくんっ…大河さーん?大丈夫ー?」
「ーっ、っ、」
「大丈夫?おーい、大河さん?」
ビクビクと痙攣が治らないまま遠くで誠の声がする。少し呼吸が落ち着いてくると笑顔の誠が近づいてきて口内を舌でかき回す。
「んっ、んんーっ!!!」
「ぷはっ、はは、どう??美味しいでしょ?」
「くっそまずい!」
そのセリフにケラケラと笑った誠に、なんだか幸せな気持ちになって笑った。 ティッシュで綺麗にした後、中途半端な下着をきちんと身につけ2人でベッドでくっついた。
「マコ眠い?」
「ん…眠たい」
「おやすみ」
返事はなく寝息が聞こえてきた。その音につられて大河も大きな目を閉じた。
「…優一?どした?吐けたか?」
「タカさん、マコちゃん達がえっちしてて眠れない」
「ははっ、いいBGMじゃないか」
「マコちゃん俺に寝て来いって言ったくせに…」
「そうか。で?寂しくなったのか?」
「うん。今日からいないんでしょ?昨日えっちしたらよかった」
「できる状態じゃなかったろ?仕方ないさ。でもフェラ上手かったぞ」
「本当?嬉しい!」
褒められた優一はベッドを転がった。
「うぇえ、世界が回ってる…」
「また吐くぞ、寝なさい」
「電話、していい?寂しくなったら」
「いつでもかけていいぞ。取れなくても折り返すから。」
「タカさん、だいすき」
声を聞いていたらだんだん眠くなって、遠くで愛してる、と聞こえたところで眠りについた。
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