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第11話 解かれていく糸

ライブツアースタートが1週間を切った。 青木は優一との打ち合わせやレッスンが多くなり、前のような関係に近い仲に戻っている。 「少し不安なのがあるんだけど…」 と、言いにくそうに優一が言った。てっきりラップや演出のことかと思ったが、深刻な表情に息を飲む。 「あの、ファンの子いるじゃん?まだ出待ちとかしてるの?」 「懲りずにいるよ。この間は変装してから本当にビックリした。」 そっか…と浮かない顔をしている。 「青木とのユニットが彼女を刺激しないかなぁって」 やっぱり優一にはかなりのダメージと不安要素だったことを知り、あの時自分のことで精一杯だった自分をフルボッコにしたいくらい悔やんだ。メンタルがキツイ時に支えてくれた優一を、助けるどころか刺しまくった自分は彼女達と何も変わらない。 「刺激になろうと、マナーの悪いファンは出禁にしてもらう。彼女にも伊藤さんから何度も忠告してるから優一は気にしないで。」 うーん、と納得のいかない様子だ。そういう問題じゃないことは優一が一貫して言ってきたのだ。いい方法はないのかなぁ、とまた悩み始めた。 今回の演出は優一の希望で脱可愛いと脱王子様。青木はビジュアルの良さから王子様と表現されることがあったからだ。よりかっこよく、そしてどこにでもいる普通の男のような雰囲気で。クラブチューンでノリやすく、振り付けも楽しい感じで。 ゲネで見せた時に、レイさんか大絶賛してくれたことが2人をよりやる気にさせた。高い声のラップの優一と低い声の青木。ラップにも個性が光った。 「ユウ、気にしないでって言っても厳しいと思うから、マコちゃんの言葉を借りるけど、自分をみて喜んでくれる人たちのためだけに、やる。これでいいんじゃないかな。ユウのファンは新しいユウにまた惚れちゃうね」 その言葉を聞き、優一はニコっと笑ってありがとう!と抱きついてきた。思わず真っ赤になる青木を見て、優一は、あ、ごめん…と少し気まずい空気になった。 青木は今ならなんとなく大丈夫かなと、気持ちを話したくなった。 「ユウ、聞きたくないと思うけど、俺はユウが好き」 「っ!!…青木」 「本当は俺が幸せにしたいし、笑わせたいし、そばにいたいし、キスしたいし、抱きたいし…って欲をいえば止まらないけど、タカさんといるユウが幸せそうで、嬉しくもあるよ」 「…っ、うん…」 泣いているのをバレないように優一は下を向いて静かに肩を震わせた。 「俺は、バカで、ガキで、気持ちの名前が分かったのは、傷つけた後だし、ここぞの時に決まらなくって…。でもやっぱり、伝えなきゃ俺も進めなくて。また、ユウの気持ち考えずに言っちゃったけど、ユウが好きなこと、ユウは愛される人間だということ分かってほしい。」 「…つ、…っ、」 「俺はユウを泣かせてばかりだし、不安にさせてばかりだけど」 「っ、」 「タカさんよりもユウを見てるし、一緒にいるから」 「!」 「タカさんと幸せになってね」 「…っうん!…っ、ありがとう!」 しゃくりあげる優一を恐る恐る抱きしめる。抵抗されなかったことに安心し、2人はしばらくそのままでいた。 「…っありがとう…、俺、青木のこと、本当に大切だから…。ライブ、頑張ろうね」 「うん!」 2人は久しぶりに笑いあった。 「レーイさん、どうしたの?」 「おわぁ!?びっくりしたっ!!なんでもないし!」 スタジオの廊下から1人でいてもうるさいレイが、静かに中の様子を伺っている。誠が話しかけると驚くほど肩を揺らした。 「優くんと青木のラップが心配なの?」 「そ!そうそうそう!」 あいつらできてるかなぁ〜って、と何かを隠しているが全く隠し事ができないレイに誠は微笑んだ。 「レイさんはいいお兄ちゃんだねぇ。あ、お母さん?2人が仲直りしてよかったね」 「あー!マコ!お前分かっててからかったな!?」 「スパルタのお礼だよ〜」 レイはずっと青木を気にかけていた。色恋沙汰には興味はないが、若さ故の失敗がどうにかいい方向に、と考えていた。結局青木次第と結論付けたレイは見守るしかなかったのだ。 (よく頑張ったな、青木) 「ま、一件落着かな。ライブ前にいい方向に行きそうだな」 「よーし、なんだかやる気アップした!レイさん俺も頑張るよ!」 「OK!じゃあ休憩終わり!」 「え、あと7分…」 「行くぞー!」 「ええぇ…」 リハーサルの日、衣装も合わせての最終確認が行われた。青木はカッチリとしたオールデニムコーデに前髪をオールバックに固め、綺麗な色の瞳はサングラスで隠す。優一は大きなサイズの白TシャツとオーバーサイズのGジャンにジーンズ、ふだん下ろしている重めの前髪を青木同様にオールバックにした。いつかの日に買った大河とお揃いの大きめのピアスを左耳につけ、丸いサングラスで個性的に。 「2人ともかっこいいー!」 誠はきゃっきゃっと騒いでいる。そういう誠たちは真っ白なスーツで大人っぽく。レイはいつもの明るい雰囲気からシックな大人な雰囲気に。誠は白いハットがよく似合っていて雑誌から出てきたような出で立ちだ。 「なぁ?俺だけ浮いてない?普通すぎない?」 ナチュラルがコンセプトの大河は衣装が心許ないみたいだった。赤の大きめのパーカーとジーンズ。大河の場合、ファンはキラキラしたザ・衣装しか見たことがないはずだ。ギャップを見せるには、大河が普通の人だというところを見せることが1番だった。 「どうして?大河さん、俺大河さん好きだよ」 「はぁ!?おま、なんだよ!何の話だよ!」 「もー!いちゃつくのやめてー!」 ある日から誠が所構わず大河に対する愛情表現がストレートになった。誠と青木だけのラジオ収録や取材でも大河に憧れてるだの、好きだのといろいろ言って取材の人を萌えさせている。 またか、と優一は突っ込むが青木はもう慣れていてスルーしている。 ユニットの最終調整と全体リハーサルが終わるとそれぞれが次の仕事や、最終確認などでバラバラになった。優一と大河はいつも残って演出の微調整をしていたが、今日は青木も残って2人のやり取りをみていた。 「大河さん、ここの動線行きにくい気がしない?」 「ちょっと詰まるけど問題なさそうかな。ただ、マコがテンションあがって数歩遅れたら厳しいな…」 「そうなの、俺も結構遅れちゃうところあるんだよね。たぶんマコちゃんと同じカウントの取り方だと思う。少しカウントずらして移動なら行けそうなんだけど」 「やってみるか、すみません、音もらえますか?」 いつものほんわかとは違い、完全にプロとしてのそれに青木は黙って見ていた。 「青木〜?ちょっと手伝ってー!」 優一からのヘルプに青木はダッシュしてステージに向かった。 ある程度修正が終わって久しぶりに優一と大河と会場を後にしようと思った時、遠くに人影が見えて青木はため息をついた。 (またあの子かな…?) 心配ない、と優一に言った手前、変にことを荒立てることはできない。しかし、青木にもストレスを与えていることには変わりなかった。伊藤の車がまだ到着していないので戻ろうとするが、人影に気付いていない優一と大河は話しながらずんずんと歩いていく。 「大河さん、ユウ、ここで待ってようよ」 「え?ここにいた方が伊藤さん楽じゃない?」 「なんだ青木〜疲れたのか?」 二人が青木を振り返った時、優一が後ろから抱きつかれた。全員がえ?っと戸惑っている中、ほかの2、3人くらいに大河と優一が囲まれた。写真を勝手に撮ったり思い思いに騒いでいるのを青木は唖然と見つめる。二人は丁寧に、やめて下さいとあしらっているがまるで聞かない。その騒がしい場所からカツカツと女の子が歩いてくる。 (あの子だ…) 「大地くん、おつかれさまです!これ、よかったらどうぞ」 「悪いけど…」 「大地くんって……やっぱりユウがいると冷たいね?」 ゾッとするような顔と声に青木は黙る。その子は優一を見た後、見たことない笑顔で優一に駆け寄った。 「ユウ!お疲れ様!これ、よかったらどうぞ!差し入れですっ♪」 「え…あ、君は…青木の…?」 「前は申し訳なかったです。お怪我はなかったですか?今後はユウを応援していきます!頑張ってくださいね!」 「へ…?」 「これ、受け取ってください!手作りなのですぐ食べてくださいよ?食べなかったら泣いちゃいます!」 「え、いや、その…」 あまりにも豹変している態度に全員が停止した。同一人物とはとても思えない雰囲気に困った顔で優一は青木を見る。青木はその子が何を考えてるか分からずに固まっている。 「手作りは嬉しいな、優一。でも、悪いな。物は受け取っちゃいけないことになってるんだ。ちなみに、出待ちや写真もOKしてない。今データ消してもらえる?」 大河が外用の優しい話し方で諭すも、なかなか首を縦に振らない。そこで伊藤が到着し、データを消させ、ついに例の子だけ出禁となった。 「ユウ…」 「青木、やっぱり俺怖いよ。なに、今日の。」 「俺も分からない。初めてのことだったから」 「受け身の対応しかできないのがキツイよなあ。ちょっと言ったらすぐ広がってイメージダウンだしな。」 3人のため息で重い空気の中長い一日が終わった。 「いよいよ本番だ!楽しんで行こうぜ!」 「おおー!」 初日。会場は満員御礼。ソウルドアウトとは聞いていたが本番まで心配だったメンバーは、会場の様子を見てテンションは最高潮だ。単独ツアーということもあり、メディアや先輩たち、後輩たちも多くかけつけた。 「はぁー!緊張するー」 「あーおーきー!おいで」 心臓がバクバクの青木は立っていられないくらいに緊張していた。そんな青木を優一はにっこり笑って手招きした。なんとか優一のところまで行くと小さた身体なのに大きな懐で抱きしめられる。 「青木は大丈夫!いつも通りやることをやるだけだ!」 背中をバチンと叩かれ、ハグが解かれるとニカっと歯を見せて笑う優一にたまらない気持ちになって腕を引きまた胸に収める。 「あ、青木っ!?」 「今だけ、お願い。今だけこうさせて」 「…もう、甘えんぼだなぁ」 優一は少し考えた後、よしよしと背中をさすって大人しくしてくれた。レイにいつまでそうしてるんだ、と頭を叩かれるまでしがみついていた。元気になった?とクリクリの目で下から見つめられ、無意識に顔を近づけると 「優くん、そろそろスタンバイよ〜」 「こら!青木、お前!今キスしそうだっただろ?!」 このカップルに阻止されてしまった。下の優一を見ると顔が真っ赤になって固まっていて、つられて青木も顔が熱くなった。優一は自分の両頬をパチンと叩いたあと、楽しもう!と笑ってスタンバイに入った。 (やっぱり好きだなぁ…) 青木も顔を思いっきり叩いてスタンバイに入った。 出る直前、みんなでもう一度円陣を組んで、みんながレイの笑顔に元気付けられる。大きな爆竹の後、光の世界に飛び込んだ。そこからは1分1秒も無駄にできないバタバタとしたスケジュール。中盤のセットリストではグループ内ユニットが待っている。クラブ系の青木と優一はスタートだ。ギャップがどうでるか賭けだが、袖にいる優一は完全に音楽に身を委ね、キャラクターが出来ている。衣装を着た瞬間から、可愛いからカッコイイに変わっていた。 「いくぞ!青木!」 キラキラ、ステージが楽しくて仕方ないようなそんな笑顔で飛び出していった。 暗転からの照明。スポットがまず青木に当てられると会場中が大きく沸く。続いて優一が当たった瞬間、会場が揺れそうな大歓声。普段のふにゃふにゃで可愛いと言われているのがちょっと悪そうなワイルドな姿に客席から黄色い声が響く。予想通りのリアクションに二人のテンションはさらに上がる。ラップにもカメラごしのファンサービスも全てに歓声がおこる。優一はアドレナリンが出てるのか、いつも以上にアレンジや煽りを入れ心底楽しそうだった。 奈落から撤収すると、次のレイと誠のステージでより一層歓声があがった。何かアピールしたのかキャーっという悲鳴が鳴り止まない。バラエティ中心のレイがダンスメインの少し大人っぽいステージはものすごいギャップだろう。 「あ〜!楽しいー!最高ぉ!」 優一は汗を滲ませ、頬を上気させながら恍惚とした表情で浸っている。次の衣装に着替えながらモニターからレイと誠のステージを見つめる。 上半身裸のまま、タオルで汗の滴る髪を拭きながら気持ちいいね、と言われた青木は腰が重くなる気がして慌てて目をそらした。 それなのに優一は全く気にしない。 「わ、レイさんってば!こんな表情もするんだぁセクシーだねー!!」 「そうだね」 「まこちゃんのこの表情で腰振ったら…超エローい!!」 とクスクス笑ってる。青木は自分だけがドキドキしてるのが悔しくて優一の耳元で囁く。 「ユウ、今のユウも超エロいから早く衣装着て?じゃないと…抱くよ?」 「えぇっ!?ば、バカ!!ヘンタイ!」 顔を真っ赤にして着替えブースに消えていった。目の毒がいなくなって二人のステージを落ち着いて眺める。 (マコちゃん、本当に本番強いな) ノーミスの上に歌はブレない。表情は練習中の難しい顔や不安な顔ではなく、しっかり世界観を表現している。 (ズルいくらいセクシーだな。見せ方も綺麗) レイはもともとダンスはできるがラップ以外は青木もあまり聞いたことなかったが、伸びのある声と、主旋律の誠を支える下のハモリが気持ちよかった。 「綺麗なハモリ〜」 とやってきたのは、着替え終わった優一。モニターの前に着くと、あ、次大河さん!とモニターに食いつくように見始めた。ステージ真ん中に置かれた椅子にアコースティックギターを抱えて普段着に近い姿で大河が登場すると、客席がざわついた。そのぐらいのギャップなのだ。 ギターを弾いて歌い出すと会場が聞き入るように静かになった。 「あ〜やっぱ大河さんの歌声最高」 優一は目を閉じて浸っている。女の子目線のコンセプトに、よりギャップを感じる。いつもはクールでワイルドなイメージだが今はナチュラルだ。 間奏の途中、大きな歓声があがった。大河が素に近いことが耐えきれず、恥ずかしそうに、はにかむように笑ったのだ。戻ってきていた誠がモニターを見て萌えすぎて崩れ落ちていた。 無事にアンコールまで終え、初日が終了した。明日は移動日でオフに近い。この会場では最後なので打ち上げが入った。 スタッフや事務所関係者たちから褒められたRINGは全員テンションが高かった。青木はケータイで評判を調べるとニヤニヤが止まらなかった。 「大河の笑顔反則!可愛いすぎ!」 「ユウカッコいい!カリスマ!」 「レイってオトコって感じでエロい」 「マコに抱かれたい」 「大地とユウでCD出して欲しい」 嬉しい言葉だらけでやってよかったとほっとする。打ち上げには先輩や後輩たちも顔を出してくれてそれぞれが捕まっている。優一はどうせタカさんのところだろうと思ったが篤さんの隣ではしゃいでいる。あの2人の音楽話は難しすぎてついていけない。青木は78のメンバーのところに行こうとすると急に呼び止められた。 「大地、おつかれさん」 「わぁ!翔さん!おつかれさまですっ!」 思い切り頭を下げるとやめてよ〜とニヤニヤしている。翔さんのグループは男性アイドルで人気ナンバーワン。忙しすぎてこういう場には残れないはずなのだ。 「見てくれたんですか?」 「そう!調整大変だったぁ!俺、高校がマコとユウと一緒であの時からファンなんだよー!特にマコの!今日もカッコよかったぁ!」 ニカっと笑うと綺麗な歯並びが見える。このトップアイドルでさえファンにさせる誠に尊敬でいっぱいだった。 「でもマコのこと大河さんがずーっとホールドしてるだろ?マコと喋るとあの人、すっごい怖い顔するんだぜ?!それがウケるんだよなぁ」 笑顔の裏が少し怖くて愛想笑いでごまかした。 (性格悪そう…) 「大地、お前ユウにゾッコンだろ?」 「…え?」 「分かりやすすぎ!全部出てたから!」 「いや、普通にメンバーとして…」 「いやいやいやいやぁ〜!大河さんの目と同じだから!無自覚!?」 グイグイくる感じに青木は逃げたくなった。困った時助けてくれる優一もレイも他に捕まってる。 「世間体にはマコが大河さん大好き〜って感じしてるけど、俺から見たら完全に逆!!俺のマコだって出すぎ!」 「そうですかねぇ…」 その通りだった。大河は見た目こそベタベタしないが、誠への執着はすごかった。誠の前だけで見せる顔がたくさんあるのだ。 「人のモンだから余計取りたくなるよな。あのプライドの高い人から奪いたくなる」 「へ?!」 「俺、大河さんからデビュー枠も奪っちゃったんだよねー。あの天才から!すごくない?大河さんが持ってるものっていずれ俺の手に入るような気がしてるわけ!わかる?」 「デビュー枠…」 あれ、知らない?と楽しげに話し始めたのは、レイぐらいしか知らなそうな練習生時代の過去だった。レイと大河は今大人気のグループの一員だったが、メンバーが反大河になり、2人が抜けた。大河の代わりにメインボーカルになったのが翔だったのだ。 「翔さんはとても大河さんを意識してるんですね」 思わず、本当に無意識で出た言葉に翔は目が落ちそうなほど目を見開いて、ケラケラ笑っていた顔が止まった。 「はぁ!?誰があんなプライド高い人!」 「あ、すみません…。なんとなく、思っただけで…気分を害したなら申し訳ないです」 翔は急に静かになったあと、またあの顔に戻った。 「なぁ、お前は大丈夫なの?ユウを手に入れられそう??」 「な、何言ってるんですか。ユウは物じゃないので。大事なメンバーです」 「お前のファンはユウに噛み付いたりしてない?」 え!?と翔を見るとやっぱりな、と苦笑いしている。 「ファンは敏感だからなぁ〜!お揃いやら、服の貸し借りだとか、お前の目線や表情だとか。お前にゾッコンのファンは後々、ユウに嫌がらせだったり、私がユウみたいになれば、とかやりはじめるだろうから気をつけてー」 「翔さん!あの、教えてください!どうしたらいいんでしょうか?」 言い逃げしようとした翔の手を引き、必死で懇願する。振り返ったら顔はものすごくニヤついていた。 「ユウを諦めたら?」 ケラケラ笑って去っていく翔を追いかけることもできずに誰にも会いたくなくてフラフラと会場のベランダに出た。翔に何を言ってもらいたかったのだろうか。 キィィ ベランダ入り口のドアが静かに開いた。 「青木?大丈夫?体調悪い?」 下から覗き込むのは愛しくてたまらない人。そして、もうどんなに頑張っても手に入らない人。衝動で強く抱きしめた。 「あ、青木!?どうしたの?」 「ユウ、俺…。ユウを諦めたいのに、どうしてかな、どんどん好きになる」 「青木…」 「俺が諦めたら全て終わるのに」 「青木っ、ちょっと…」 距離をとろうとする優一をさらにきつく胸の中に閉じ込める。ずっとこのままいれたらいいのに…と ピッタリとくっつく。金髪のつむじにそっとキスをすると腕の中の小さな身体がビクッと反応した。小さな頭を撫で、顎に手を添えて目を合わせると今にも溢れおちそうなほど潤んだ大きな目。青木は目を見開いてもう一度抱きしめた。 「ごめん、ユウごめん!泣かないで」 「…っぅ、ふぅ…ぐすっ…青木ぃっ…ごめん、ごめんねぇ」 「俺の方こそごめん!」 抱きしめながらふと、入り口に立っている人を見て青木は眉を下げた。 (本当、敵わないや…) タカがベランダの入り口に背を預けて酒を飲んでいた。ふと振り返ると、抱き合う自分たちに驚くわけでもなく、ニコリと微笑んでまた背を預けた。 「困らせてごめん…ユウ、泣かないで」 「っふ、ごめん、青木、俺、やっぱり青木にこたえられない…。あんなに…大好きだったのに」 「ユウ…」 「今は、家族みたいな、好き…なの。ぅっ、ハグは、大丈夫だけど…キスも、それ以上も、だめっ…」 「うん、ごめん。」 「酔っ払ったときは、本当…ごめんなさいっ」 「あーそれは自覚あるのね」 呆れたように言うと、優一が様子を伺うように顔をあげた。泣き顔で見つめられ、青木の顔がまた真っ赤になる。 それを誤魔化してニコリと笑うとほっとしたように優一も笑った。 また強く胸の中に閉じ込めた。 「ユウ、落ち着いた?」 「うん!ごめんね、突然泣いたりして」 「ううん。ユウが、泣くのって俺が泣かしてばっかりだから…。でもきちんと言ってくれてありがとう!俺も前に進むよ!」 「青木…」 「俺に、ユウぐらい好きな人ができたらさ…応援してくれる?」 「っ!もちろんだよ!」 次は俺が相談に乗るから、と笑顔でいう優一にまたちくりと胸が痛む。中に入ろうと手を引き振り返った先に優一の愛しの人がいて優一の目が蕩けるように微笑んだ。 (完敗です。タカさん) 中に入るとタカさんがお茶を渡してくれた。優一が他の人に呼ばれ、2人きりになる。 「ラップ、良かったぞ。ああいうクラブチューンは今あまりないから客も新鮮だっただろうな。いいユニットだな。」 「ありがとうございます!」 「優一から不安だ、不安だしか聞いてなかったが2人ともとっても良かったよ。楽しめた。」 「!!!ありがとうございます!!」 素直に嬉しかった。自身もはるかにレベルが高く、プロデューサー目線を持つタカに言われ、今後のツアーにもやる気が出た。 「お前たちが楽しそうであればあるほど、客は上がっていく。そのまま、次も頑張れよ」 茶化す様子もなく、淡々と褒めてくれるタカに青木は舞い上がる気分だった。やっぱりこの人には敵わない、そう思った。 「…話せたか?」 「はい。また、泣かせちゃいました。俺、ユウを泣かせてばっかりだ」 「自分のことで泣くのなんか、お前絡みだけだ。思い切り泣かせてやれ。」 ふっとタカが微笑んだ。初めて見る優しい顔に青木はドキッとした。 (うわっ…かっこいい) 「タカさんはやっぱ大人だなぁ。余裕があるし」 羨ましいという気持ちを隠せずにポロっと言葉が落ちた。タカは一瞬目を見開いて笑った。 「お前やっと素を出したな。余裕なんか無いさ。俺なんか7つも下のやつに一喜一憂してばっかりだよ」 「え、そうなんですか!?」 「あいつの魔性っぷりは手に負えないよ。さらに無自覚だろ?誰彼構わず誘惑しまくってるからな。」 そうかも、と青木は苦笑いした。本人に自覚がないので青木もどんどん引き込まれていく。 「今日は酒を飲まされないように監視も兼ねてるのさ。信用してないわけじゃないが、なんせ無自覚だからな。」 「これからツアーだから心配ですね」 「そうなんだよなぁ…。ライブ後のテンションのまま暴走しそうでな。ま、青木がついてるから大丈夫か。」 頼むぞ、と頼られて恋敵にもかかわらず嬉しくなる。タカはそれと…と続けた。その視線の先には大河。 「お前は俺が余裕とか、大人とか言ってたが、お前よりもはるかにひどく人を傷つけてきた。それがあっての今だから…。傷つけた人の分まで優一を幸せにしたいと思ってるよ」 1人でいる大河のそばに、他の人と話しながらも気にしていている誠。青木もその光景をみて微笑んだ。 「マコちゃんとユウがタカさんのライブ行って大興奮してたとき、大河さんがタカさんの歌をべた褒めしてましたよ」 部屋で集まった時、興奮する誠と優一に大河はここがすごい、とか、ここはタカさんしかできないとかを語っていたことを思い出した。 「へぇ…大河がか?」 「はい。その時うっかり大河さんがタカさんの声が好きだって言ってマコちゃんがその後ずっと拗ねてました。」 そうか、と困ったように笑った後、タカは目を見開いてグラスを落とした。 青木は中身が無くて良かったと思いながら拾っているとタカも悪い…と言い拾おうとするが、手が驚くほど震えている。 「タカ…さん?体調わるいですか?」 「いや、大丈夫。悪いな。年かな」 はは、と乾いた笑いの後、タバコ吸ってくるとベランダに出て行った。割れたグラスは係りの方が片付けてくれた。顔をあげると会場の空気が変わっていた。 (誰だろう、あの綺麗な人) 真っ白なスーツをかっこよく着こなした女優さんのような出で立ち。ロングヘアをサラリと靡かせシャンパングラスを2つ持ち迷わず大河の元に行った。 「大河くん、こんばんは。今日のステージとても良かったわ。」 「え…。?…ありがとうございます」 「ふふ、人見知り?可愛いわね。私は本郷エンターテイメントの代表、本郷美奈子です。」 周りが一気に騒ついた。それはタカの引き抜きや脱退騒動で上がった名前だ。タカはその人に気付いて動揺したのだろうか。ベランダにタカの姿はなくなっていた。 伊藤が慌ててケータイを持ってコソコソと電話をしに行った。 「あなたは天才そのものだわ。だってあの子が見込んだほどだもの。乾杯しましょう?」 妖艶な雰囲気でシャンパングラスを大河に渡す。お酒が飲めないことと、本郷が何を言ってるのか理解できていないことで大河は何もせず黙っていた。 「本郷さんこんばんは。今日はありがとうございます。RINGの佐々木誠です。すみません、うちの大河はお酒が飲めなくて…よかったら僕が頂いても?」 他の人と談笑していた誠がサラリと大河の前にきて営業用の笑顔を見せる。すると本郷もニコリと笑い、誠くんね、あなたでも構わないわ、と誠にグラスを渡した。カチンっと音を鳴らしグラスは空になった。そして本郷は誠の耳元で囁いた。 「強いお酒だから…気分が悪くなったら8113が休憩室であいてるみたいよ。」 誠のジャケットにカードキーを入れて誠に握らせる。 「あなたも悪くないわ」 ウインクして颯爽と去って行った。誠は頭に?がたくさん浮かんでいた。大河は守ってくれた誠を嬉しそうに見つめている。すると伊藤がバタバタとやってきて、大河ちょっと、と大河を別室に連れて行った。 「マコちゃん、大丈夫?」 「大丈夫大丈夫。大河さんお酒飲めないからさぁ。ただ、初対面で強い酒渡すってどうなんだ?」 誠は大河さんが飲んでたらと、少し怒っていた。 「青木、俺トイレ行ってくる」 「あ、一緒にいく!1人にしたらユウに怒られちゃう」 大丈夫なのにぃーと笑う誠について行く。道中は談笑して何も変化がなかったが、トイレにつくと急に誠が焦ったように個室にバタンと入った。 「ま、マコちゃん?大丈夫?どうした?」 「っは、はっ、はっ、ぅっ…なんか…おかしっ」 「え!?マコちゃん?!」 「は、は、熱い…、ぐらぐらする…」 誠は完全にザルだ。何を飲んでも、ちゃんぽんしても酔わないが、まさか酔ったのだろうか。個室からは焦った様子の音だけが聞こえる。 「最っ悪…あの人…なんの…っ、つもりだ…っぁ、は、」 酔ったとは違い、色を含んだ声に青木はまさかと目を見開いた。 「は、は、は、ぅんっ、っっーーっ!!!…っは」 「マコちゃん…?」 「青木、やば、い、俺っ…」 おさまんない、とくぐもった声と充満する強い雄の香り。青木はどうしようっとパニックになる。 「青木、なんか、休憩室が、っあるらしいから…俺、連れてってくれない…?心配かけたくないから、大河さんと、ユウには言わないで?」 少し楽になったのか、ドアを開けて出てきた誠からとんでもない色気と、目がトロけているのにその奥がギラギラと雄の目を感じた。じっとりと汗をかき、荒くなる呼吸を抑えながら心配かけないように少し笑った。 「休憩室?そんなのあるの?部屋は?」 「わかんない、そこの…ジャケットにある」 少しでも身体が動くとその度に目を閉じ、声を我慢している。ポケットからカードキーを取り出した。誠にだけ渡されたカードキーを不審に思いながらも、部屋に送った後に伊藤に連絡しようとエレベーターを開ける。 「あ…タカさん」 「おい、大丈夫か?どうした?」 タバコを買いに行ってた様子のタカが心配そうにみている。顔をあげられなくなってきた誠は必死に荒くなる息を抑えているが顔は真っ赤だった。 答えられない誠を気にせず、タカは青木と反対側の肩を支えた。 「とにかく、どこの部屋までだ?俺も行こう」 「ありがとうございます」 正直重かった青木は素直に甘えた。8階に到着し部屋の前まで行くと、青木は大河から着信があり出た。電話に出ろと目で合図し、タカは誠の部屋だと思い込んでいたのか何も警戒せずに、青木から受け取ったカードキーでドアを開けた瞬間に立っていた人物に目を見開いた。 「っ!!?なん…で…」 「あら、あなたを探し出せなかったから大河くんに近づいたけど自ら来てくれるなんて。」 「大河?」 タカは怪訝そうに誠をみた。誠はいまだ下を向いて荒い呼吸をしている。 青木は電話口で大河に場所を言えと怒鳴られている。 「美奈子さん…?まさか…」 「ふふ、あなたも知ってる強ーいものよ」 部屋に入らず廊下でのやりとりに青木はハラハラする。電話口の大河の怒号はやまない。 「青木、大河は呼ぶな。」 「どうして?今日本当は、大河くんと話したかったの…。でも、あなたが一晩中相手をしてくれるならこの子達を解放してもいいわ」 どうする?と本郷が聞くと、タカは冷や汗をかいている。こんなタカを見たことなくて青木は部屋番号を伝えるとすぐに電話が切れた。 「はっ、ぁ、ぅあ…ふぅー、ふぅー」 「可哀想に、とてもきつそうよ?」 「はじめは大河に?」 「そうよ、でもこの子が僕でよければ飲みますって言ったの。この子は凡人だけど顔が整っているから特別枠よ。」 「なんのつもりで後輩たちに…」 「貴方がまたよそ見をしているようだから」 タカの声がどんどん震えて力を無くす。青木は一旦戻ろうと提案すると、本郷はタカを見てニヤリと笑った。 「タカ?教えてあげたら?この薬がどれほど強いのか。この子…誠くん、今、動けないくらい、そうとう辛いはずよ。本人が望むなら私は優しく介抱してあげるけど」 本郷の指が誠の顎にかかり上を向かせる。唇が触れそうな瞬間にタカは誠の腕を引いて廊下の壁にもたれさせ、かばうように誠の前に本郷と向き合い、ひざまづいた。 「後輩たちを巻き込むのはやめてください」 タカはお願いします、と土下座をする。本郷は恐ろしく冷めた顔に変わりタカの髪を乱暴に掴んで顔をあげさせた。 「天才は簡単に頭なんか下げないで!自覚がないわ!!」 目をきつく閉じたままのタカの唇に真っ赤なリップで噛み付いた。タカの眉間のシワが濃くなり本郷に応えないことにイライラと口をはなした。そしてまた妖艶な笑みに戻り誠へ歩み寄った。 「誠くん?大丈夫?きついわよねぇ。」 「っは!、っは、は、はっぁ」 「この薬はね、この天才でさえも自分を無くしちゃったものなの。大好きな男の子にうつつをぬかしてたから、ちょっとしたお仕置き。お陰で大好きな人をとんでもなくボロボロにしていたわ」 面白いはなしでもする様に高笑いしながら話す。それは青木も誠も聞いたことのない話だった。 「歌よりも好きな人を選ぶなんて…興醒めしたことを言うから。大河くんのためなら歌をやめたっていいって言うのよ?呆れちゃうわよねぇ?ただそんな思いもこの薬で全部パー!!笑っちゃう。」 「美奈子さん…やめてください…」 「定期公演の日に告白するとかの噂を聞いたの。その前に当時のマネージャーに差し入れして飲ませたら…それはもう無残な姿。」 「美奈子さん…俺はこのことを誰にも口外してない。全責任をとったつもりです。それが…あなたの条件のはずです。」 「その後の狂いっぷりと言ったら…。泣き喚いて失神したり自殺未遂してみたり、忙しかったわね?」 「美奈子さん、お願いです。もうやめてください。」 「なのに世間や事務所の中でも勝手にプレイボーイっていう噂も流れて?そのイメージ通りのキャラでやっていくには辛かったかな?」 ガタンと音がして全員が振り返ると、大河が目を見開いたまま涙を流して崩れ落ちていた。それを見た本郷の顔にニヤリと笑みが刻まれる。 「大河くん、こんばんは」 「っ!」 「タカ、あなたが関わるとみんな傷ついちゃうわ。大人しく私のところへ来なさい。」 「……。」 タカが全てを覚悟しようとした時、弱々しく誠がタカの服を握った。 「タカ…さん、っ、ダメっです。俺はっ、平気、ですから!本郷さ、んのっ、はぁ、ところに、行っちゃダメです、この人が、言ってることは、おかしい!」 誠が自分を抑えながら声を出す。泣崩れる大河に青木が駆け寄るのをみて美奈子は鋭い目付きに変わった。 「また大河に惑わされてると思って今日ここへ来てみたけど…違うわね?今回は大河じゃない」 「っ!!!」 「誠くん、誰か分かる?大地くんでもいいわ教えて?タカの集中を妨げる人。この子に恋愛は必要ないの。」 タカは握った拳が遠目で見ても震えている。それを見た大河が涙をそのままに叫んだ。 「あなたになんか!教えません!!タカさんは人間です!!あなたの物なんかじゃない!!物はいい歌なんか歌えない!あなたはタカさんの歌を潰そうとしているだけだ!!」 「何も知らなかったのに、何を生意気なこと言ってるの?それに…あなたも天才の1人。もっと歌に集中なさい」 バチバチと音が鳴りそうな2人の強い目線。タカはもう顔をあげられないようだった。誠は歯がカチカチとわずかに震えるのを耐えようと必死だ。それを見て大河は誠を避難させることが優先だと、ゴシゴシと目元を拭い、本郷の視線を切った。 「マコ!部屋戻るぞ!」 大河が誠に怒鳴る。誠は小さくはい、と返事するが立てないようで青木が回収に向かう。タカは廊下に座ったまま動かなかった。 「タカ?今日のところは誠くんを見逃してあげるわ。ただし…」 急に腕を引かれてタカは本郷の部屋の中に入ってしまった。大河は慌ててドアを叩き叫ぶ。 「タカさん!!タカさん、出てきて!」 「大河さん、マコちゃんお願い!俺、伊藤さんに連絡するから!」 「わかってる!でも!」 と、やりとりしてると静かにタカが出てきた。心配かけたな、と苦笑いしているタカに大河は誠を気にせず、思いっきり抱きついた。 「タカさん、っ、俺、今まで、何も、知らな、くて」 「傷つけた事実に変わりはない。悪かった」 「ふぅっ、ぐすっ、だって、俺、本当はっ、あの、時、俺だって、タカさんが!本当にっ!」 必死にしがみついてくる大河の目に恋人の誠が写ってないのを見て、タカは困ってしまった。タカの中ではもう区切りをつけた気持ちを、誠に誤解させたくはなかった。青木の隣であの強い薬の効果で苦しそうにしながらも、静かに耐えている。恋人が他の男に縋り付くという見たくない光景だろうに、大河の邪魔をしないように小さく息をする誠を見てタカは申し訳ない気持ちになった。 (俺のせいで、ごめんな。) 回された腕を優しくほどいて、大河の頭を撫でる。あの日以来に触れた、当時愛しかった人。今はお互いに大切な人がいる。それぞれが全力で大切な人と向き合うべきだが、大河の目は昔のそれだった。 「…ありがとう。大河、分かったから。ちゃんと伝わったから。でも今はマコちゃんを優先しろ。今、マコちゃんを救えるのはお前だけだ。頼むぞ?青木もありがとう。」 「?タカさん、巻き込んでしまってすみませんでした。あ、やっとエレベーターきましたよ。一緒に降りないんですか?」 「俺はお前らと降りることはできない。じゃあな。」 ドアが閉まって唖然とする。戻ることもできない。ボタンを連打するも時すでに遅し。そして誠も我慢の限界がきてエレベーター内で自分の服に手をかけたことで2人は焦って伊藤に連絡し、部屋の鍵をもらって大河と誠を部屋に詰め込んだ。 会場に戻ると不安そうな顔した優一がベンチに1人腰掛けていた。 「ユウ、疲れた?」 「ねぇみんなどこに行ってたの?マコちゃんは?」 「マコちゃんは大河さんと一緒。」 「青木は今までどこにいたの?」 「2人を送りにいったよ。」 「タカさん、見なかった?」 「え?」 「タバコ買いに行くって言ったあと…今、電話きて…俺にはお前だけだからとか、時間がないとか、別れたくないとか…言われて突然電話が切れた」 その後ずっと繋がらないんだ…と寂しそうな顔を見て青木は迷ったが愛する優一のために、と心の中でタカに謝って全てをはなした。 「行ってくる」 「待って!」 「青木、教えてくれてありがと」 優一の目が変わった。青木はここにいて、恋人を守るのは恋人の仕事だから。と、あの日のような恐ろしい雰囲気でエレベーターホールに向かうのを見送った。

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