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第21話 愛の証拠
タカさんは忙しい。
オーディション準備に、アルバムのプロモーション、他アーティストへの楽曲提供とラジオ番組のゲスト出演。そして、夏に行われるライブの作曲中だという。
優一はオーディションだけでキャパオーバーになり、多くの人に迷惑をかけた。それぞれ容量があるとしても、タカは容量がありすぎる。カナタとジンが言っていた通り、作業部屋に深夜に入ると、早くても午前中は出てこない。寝てるのかと覗きに行くと、ヘッドホンをしてキーボードの鍵盤を叩いていたり、パソコンをいじっていたり、楽器を触っている。優一が泊まりに来てもそれは変わらなかった。
(付き合う前もこんな感じだったなぁ…あの時も何件も抱えてたんだな)
優一はなんだか寂しくなって、でも仕事はする気にはならなくてベッドでギターを触っていた。
むしゃくしゃしていてアコースティックギターじゃなくてエレキギターを出してアンプは繋げずに適当に鳴らす。
(あ、いいの浮かびそう…)
ケータイの録音ボタンを押し、急いでアンプを繋げ弾き始めた。
「ストップ」
「えっ?あ、ごめんなさい…」
突然の声にビックリして振り返るとドアに持たれたタカがいた。
「ごめんなさい。ここ防音じゃないのに…」
「いい。楽器持って作業部屋においで」
仕事モードのまま呼ばれて緊張が走る。邪魔してしまったのかとものすごく反省した。
「さっきの弾いて。俺歌うから」
「へ?!」
(タカさんの生歌!?)
そう言ってマイクの前に立つタカを見て、手が震えるくらい緊張する。よろしくお願いします、と小さく呟いて、震える指を一回ギュッと握ってコードを抑える。弾く手に合わせてタカも息を吸った。
(!!!)
低い掠れたような声で英語の歌詞とメロディーが聞こえた。いつものバラードのイメージから一転、迫力があり洋楽のバンドみたいな曲になった。
「OK。ありがとう」
「え、あ、ありがとうございます。」
ワンフレーズだけで終わったのが残念でまだドキドキと余韻が残っている。 タカは譜面台の紙に何やら書き込んだあと、パソコンをいじって先ほど録音したものを流す。
「かっこいい…」
素直にそう思って無意識に言葉に出た。タカは特に反応する事なくうーんと唸って別のも欲しいと言った。 タカに歌詞を見せられ、ここで入ってくれと指示があり、もう一度スタンバイをした。 タカが目線を送って優一は頷いた。
(あ…こっちが入りやすい)
「はい、OKありがとう」
「タカさん、今のがいい気がする」
「そうだな。聴いてみようか」
録音されたものを流すと優一は鳥肌がたった。タカの声が生きていてギターも自然だ。
「はい、次これ弾いて」
「あ、はい」
渡された譜面を見て、優一はワクワクした。久しぶりにギターで弾くのが楽しみで学生時代を思い出した。思いっきり弾きたいね、とこの間誠とも話していた。譜面を見てると、ここでまこちゃんのがほしい、と思ったところを印をしておく。
「お願いします」
優一はもう緊張せずに、楽しそうに弾き始めた。後半のギターソロをテンションが上がって久しぶりだからか難易度の高いものにアレンジしてしまった。
「はい、OK」
「ありがとうございます」
「後半のアレンジ良かった。あれでいこう」
「はい!あの、ベースの音は誰が…?」
「誰か推薦したい人は?」
「まこちゃん!!あの、ここで、まこちゃんの音があったら…」
優一はノリノリで話すのをタカはフッと笑って仕事モードから切り替わったのが分かった。
「夏のコンサート、俺らはバンドになったから」
「へ?俺らって…?」
「希望したんだろ?ギターしたいって。まこちゃんもベース希望だ。俺もバンドしたかったからな。あとドラムはジンさんだ」
「え?うそ…デモだけじゃなくて一緒にできるの?」
「そうだ。休憩しようと思ったら寝室から思い通りのが聞こえたからすぐ形にしたかった。悪いな、遅いからもう寝ろ。あと1時間くらいは眠れるだろ」
ぎゅうっとタカに抱きついて嬉しさを発散させる。久しぶりにバンドができること、まこちゃんのベースが聴けること、タカさんが自分たちの演奏で歌ってくれること…
「ふふ、そんなに嬉しいのか」
「うん!!俺すっごい楽しみ!楽しみあるから全部頑張れる!」
抱きついたまま顔を上げて話すとタカは優しい笑顔でこちらを見て頭を撫でた。
「そっか。お前がギター好きなのは知ってたけど…本当に化けるな」
「ばける?」
「かっこいいなって。ギターも上手いし。」
褒められたのが恥ずかしくて、ギターの片付けをはじめるとふと後ろから抱きしめられた。
「タカさん?どうしたの?」
「ごめん、しばらくほったらかしてたな。寂しい思いさせてごめん。」
「大丈夫!音楽の世界から戻ってきた時に笑顔で迎えるのが俺の役目だから!おかえり、タカさん」
「……ただいま」
タカににっこりと微笑まれ、大きな体に包まれると優一は幸せでいっぱいになった。触れるだけのキスをしてタカが浴室に行くのを見送って寝室に行くとすぐにまぶたが落ちた。
「もしもし?タカさん。今日家に行っていい?」
「いいけど、今日はだいぶ帰り遅いぞ」
「え〜…なんで?」
「この間でたラジオの打ち上げ。」
「…」
「優一?」
優一はここんとこタカとのスキンシップや会話が少なくて寂しさはピークになっていた。グループも一緒の大河と誠カップルは、今日で3年目らしい。誠に指輪をあげるんだけど、重いかな?と相談された時、心底羨ましく思った。それに加えて、記念日の今日は夜12時まで時間が欲しいと、伊藤と優一に頭を下げてきた。快くOKしたものの、寂しさが募っていて誰にでも甘えそうな優一は、寮にいるよりも、伊藤にタカの家に送ってもらうよう先に手配した。しかし、電話の先は寂しさを増長させるものだった。そして、ふと思ったのだ。
(俺が会おうとしなかったら、タカさんは会わなくても平気かもしれない)
その考えが電話でもよぎって、想いが込み上げ言葉に詰まる。寂しいと泣き叫んでしまいたい、でも、それは違う。仕事の邪魔はしたくない、一緒に過ごすだけでお互いが頑張ってるだけで幸せじゃないか。
「優一?」
ブツン
(切っちゃった)
少し浮かれて用意した荷物も、バカらしくなって遠くに投げて枕に顔を埋めた。大河の打ち合わせが終わる前には、ここを出なきゃいけない。自分の居場所はどこにあるんだろう。
一回だけ折り返しの電話がきたが、無視したらもう鳴ることはなかった。追ってもらえないことにまた落ち込んで、女々しい自分に嫌気がさした。
(どうしよう)
タカのマンションに降りて立ち尽くす。大雨が余計に寂しさを演出してるみたいでイライラしてきた。迷っても行き場がないのに。
「寂しいよ…タカさん」
大雨にかき消して貰おうと誰にも言えない言葉を呟いた。
最上階からの夜景は雨の効果もあってキラキラと輝いている。
「あー今頃大河さんはまこちゃんからいっぱい幸せ貰ってるんだろうなぁ〜」
いいなぁ…と独り言が広い部屋に木霊する。目の前の夜景がどんどんぼやけていくのを雨のせいにして気がすむまで泣いた。
2:45
優一は日付が変わっても、今日は意地でもタカさんに会いたいと待っていたが、泣いて腫れた目がだんだん重くなってきた。あれから電話もなく、自分からかけ直すこともしなかった。ギターを触る気もならず、ずっと窓際のフローリングに座ってお尻も腰も痛くなって風呂に浸かった。どんなに時間をかけて上がっても部屋は静まり返っていた。
(もう、いいや)
もともと遅いと言ってくれていた、わがままや勝手に拗ねているのは自分だ。疲れているはずなのに家に行くことを断りはしなかった。それだけで、十分だ。彼が元気で頑張ってくれてる、幸せなはずなのに、いつのまにかそばにいることが当たり前になっていた。貪欲すぎたことを反省し、明日謝ろうと目を閉じた。
「んっ…っぅ」
明け方に近くなった頃、うつ伏せが寝苦しくなって寝返りをうとうとするも固定されているみたいに動けない。
(かなしばり?)
確認しようと目を薄っすら開けると真っ暗な部屋に目の前には枕。ぼやけた視界と頭では何も考えられず、また目を閉じようとしたその時、お腹側に布団が入れられ腰だけが高く固定された。
ぐぐぐっ
「っぅああああー!?」
強烈な刺激に目の前がチカチカとして枕を握りしめる。下半身に大きな衝撃がありパニックになるもどんどん奥へ奥へと抉られていく。
「っぁ!っああぁ、なっ…に、これっ!」
腰を引くもまた引き込まれてもっと奥を刺激され、優一は頭を振った。
(なんで?こんな状況?)
喉から押し出されるみたいな声が勝手に出て行くが、聞こえるのは自分の声だけ。やっとセックスをしていると気がついたところで気になることがあった。
(タカさん…だよね?)
急に怖くなって振り返ろうとするも律動は激しさを増し、枕を握ることで精一杯だ。
「ぃっやぁ!はなして!誰!?やめっ!やめてっ!! 怖いっ!!」
それでも止まらない刺激と、恐怖に関係なく強制的に高められていく快感に身体が震えていく。
「怖いよぉ!タカさん、助けてぇえ!!」
「俺だよ、優一。」
耳元で聞こえた声に、自分が思ってたよりも遥かに安心して思いっきり中を締め付けた。待ちに待った恋人が今中にいる。
「っく…」
「っぁ、ああっ!タカさん、タカさんっ」
「優一、締めすぎ」
「タカさん、好きって言って」
「好きだよ」
「くぅっンっっふぅ…っ…んっ…ぁっ…ぐすっ」
「優一?」
「タカさんッもぉ、俺っを壊してよぉっっ」
優一は心の叫びのまま感情をぶつけた。
「ごめんな、優一。待たせたな」
「ああ!!っああ!?もぉっ、イッ…ぁああっ!」
久しぶりに後ろの刺激だけで迎えた絶頂に、腰の痙攣が止まらない。気持ちよすぎて余韻に浸っていると一度抜かれてひっくり返された。
「ぁ…タカさん」
「好きだよ、優一」
久しぶりの熱さと情事に目の前が歪む。タカの親指が目元を拭った。
「お前が迷わないように、不安にならないように努力するから…ついてきてほしい」
「っくっぅ、ぅっ、タカさん、っ電話、ごめんっなさいっ、おれ、さみしくてっ…」
「うん。分かってる。ごめんな。」
熱い舌が口内を慰めるように蠢く。ああ、こんなキスも久しぶりだ、と優一はキスを忘れないように必死で応えた。
(だって、次はいつか分からない)
「タカさん、立てなくなるくらい、シて。痛みか跡を残して。そうじゃないと俺、不安で、寂しくて、頭おかしくなりそう」
「ごめん、ごめんな。そんなに思い詰めてたんだな…。好きな人に痛みなんか残したくないよ、俺は」
「やだ!だって、愛されてる証拠がほしいっ次は無いかもしれないのにっ!」
言い終わったと同時に膝を思いっきり開かれ、先ほどの膨張した熱がすごい音を立てて中を抉る。
「っっっ!!!ーーッ!」
「っふ、っは、っは、優一…」
「っ、ーーぁ、は、は、んっ」
「壊せば伝わるか?」
「っぅああああーー!っああ?!あっあああ」
「愛してるっ、愛してるよ優一っ」
「ぃっやぁああッーーぁああっ!ッッァアア」
上から叩きつけられるみたいに杭を打たれる。強烈な刺激に叫ぶしかなかった。汗が飛んでくるのさえも愛しく感じて、全てが快感につながる。何度も何度もお互いが熱を放っても止まらなかった。優一の孔には入りきらない欲が溢れでてベッドを濡らしている。言葉もろくに交わさないまま、2人は何かに取り憑かれたように求め続けた。
ピリリリリッ
「っは!ーーっう痛ぁッ…、あ、はい…もしもし。」
「おはよう。…すごい声枯れてるな、大丈夫か?迎えにそろそろ向かっていいか?これからレイを送るからついでに。」
「っえ!?伊藤さんごめんなさい!ちょっと、その…今、起きたから…まだかかりそう!…っあ!」
「あ、もしもし。今日何時入り?あ、オフ?なら俺が送るから。あぁ…うん。…大丈夫かは分からないな…うん、昨日抱き潰したから。…ははっ、了解。じゃあ。」
奪われた携帯は通話が終了していた。ぼーっとしたまま体を動かそうとすると痛みが走って顔を顰めた。
「証拠、いっぱい置いといたけど残ってる?」
「どこが痛いか分からないくらい痛い…」
「だよなぁ…。声もガサガサ。あ、しばらくは人前で脚を出すなよ」
「え?何で?」
不思議に思ってだるい体を起こして内腿を見ると優一は息を飲んだ。 真っ白い肌を彩る紅い華がたくさんも付けられていた。
「いつの間に…」
「最後もう意識なかっただろ。その時かな。俺もあんまり覚えてないけど」
そんなことより、とふわりと抱きしめられた。
「寂しい思いさせて、本当にごめん。」
「ううん…俺がまだガキなだけ…」
「我慢しなくていいから。俺はお前に苦しい思いとか寂しい思い、本当はさせたくない。仕事人間な俺だけど、できるだけ優先するから」
(そんなこと、タカさんにはストレスになる)
優一はふるふると首を振り、タカの手を握った。
「ごめんなさい。本当に俺のわがままで勝手に拗ねてただけ。俺が会いたいって言わなかったらたぶん、タカさんと会えなくなるかもって思ったら…寂しくなって。でも仕事してるタカさんは楽しそうだから、それは邪魔したくないんだ」
「優一が会いたいって言ってくれるのに甘えてたな…。でも、俺も同じように優一不足でその…寝込みを襲ったわけだし…。お前が思っているほど大人じゃないし、求めてないわけじゃないよ?」
バツが悪そうに目を逸らすタカに、優一はきょとんとした。夜のことを思い出せばいきなりはじまっていた。 聞けば、タカは優一が電話を切ったことでそうとう焦っていた。打ち上げも早く終わらせようと適当に相槌を打ち巻いていたが、ラジオ局の社長の娘さんがファンで、タカに会いにきたようだ。そこから社長さんに捕まり、3時ごろにやっと解散になった。急いで帰ってきたら、泣きながら眠っていたそうだ。
「タカさんって何度も呼びながら泣いてるのを見てもう堪らなくなってキスしてたら、俺も禁欲状態だったから止まらなくなった。」
「そっか。…俺泣いてたんだ」
「たくさん我慢させたな。」
「ううん!…あのね、ちょっとまこちゃんと大河さんが羨ましかったんだ。実は昨日、3年記念日で指輪渡すから、部屋を貸してくれって言われて…俺の行き場所はここしかなかったから…」
「ありがとう。居場所に選んでくれて。」
「俺こそ!居させてくれてありがとう。ただ、本当に比べちゃっただけ。こんなの、比べることじゃないってわかってるけど、同じグループではないし、ずっと一緒、なんて無理だから。それなのに更にお互いを繋ぐ指輪なんていいなぁ…てね。ほとんど毎日一緒にいられるのも羨ましくて」
ふとタカが何かを考え始めて、席を立った。しばらくして時計やアクセサリーが入った箱を持ってきてベッドに広げ、考え始めた。
「タカさん?」
「んー…これにしようかな。これどう?」
「ピアス…?ん、タカさんに似合うと思うよ」
「それは当たり前だろ。俺のなんだから。優一はこれ好き?」
「ん?うん、カッコいいとおもうよ。この中ならこれがシンプルで1番好きかな」
そう言うと、そっか、とニコリと笑って急に優一の顔に手を伸ばしてきた。びっくりして目を閉じると、左耳についていたピアスを取られ、新しいのがつけられる。
「うん、似合ってる!」
少年みたいにニカッと笑う顔を初めて見てドキッとして左耳を触ると、先ほどのピアスが付いている。 そして優一の片方のピアスと、お揃いのものをタカは右耳に2つ身につける。
「タカさん…」
「優一、お揃い!付け方まで同じにしたらいろいろファンに言われるから…。どう似合う?」
おちゃらけて言うタカに優一は嬉しさで感極まりタカのお腹に抱き、すごく似合うと呟いた。
「もし、甘えられなかったり、遠征とかあったとしても、これが証拠だから。俺たちはいつもそばにいる。 」
「うん!」
「でも、甘えてな?時間作る努力するから。俺も限界越えたら昨日みたいにしてしまうから…」
「うん。でも昨日嬉しかったよ?始めは誰か分かんなくて怖かったけど」
「怖がらせてごめんな。あまりにも夢中になってたから。…さぁ、お前寝ろ。体力の限界だろ?昨日抱き潰してしまったし、熱出てるの気付いてるか?」
おでこに手を当てられ、冷たくて気持ちよく目を閉じる。
「また風邪かな?」
「いや…ヤりすぎが原因かも。ごめんな。とりあえず三時間ぐらい寝ろ。その間に俺も仕事終わらせるから。起きたらドライブでもするか。」
「え?!いいの?…ふふっ、デートみたい…。じゃあすぐに治さなくちゃ!」
「治ったら、だからな。熱下がらないならそのまま寝てもらうぞ」
「はーい。おやすみなさい!」
タカを見送って優一は左耳のピアスを触って胸がキュンとした。幸せの気持ちのまま目を閉じた。
(もう寂しくないや)
「ふぅ…ダメだな俺…。泣かせてばかりだ」
タカは作業部屋で仕事が手につかないくらい落ち込んでいた。優一は最近無理に明るく振舞っていた顔に、だんだん余裕がなくなっていた。家に来ても何時間かで気を遣って帰ったり、泊まってくれても最近は話すことなく、一人で寝かせていた。電話を切られた時は本当に血の気が引いた。優一の限界だったのと、誠達のことが引っかかってしまったと後から聞いてさらに申し訳なくなった。タカも会いたくないわけじゃなく、仕事モードは本当に時間の感覚がないのだ。ふと、現実に戻ってくると愛しくて会いたくて触りたくて仕方がない。冷めたとかでは全くなかった。
「タカさん…会いたいよ…っ…」
打ち上げが終わって寝室に行くと、起きているのかと思うくらいはっきりとした寝言に寝顔を見ると、目は閉じているのに涙が流れつづけていた。キスを繰り返すと表情が柔らいだ。
「タカさん、おかえり…」
無意識だったのだろう、涙で濡れたまつ毛はそのままに目を開かないまま、ふにゃりと笑った。優一不足だったタカに見事にヒットしたその言葉と表情でスイッチが入り、起こさないようにじわじわ責めたのだ。
タカは右耳を触って2つのピアスを撫でる。こんな小さなことで幸せそうに笑って安心してくれた。自分がどれ程優一に時間を割くことや伝える工夫をしてこなかったかが分かった。よし、と腰をあげ、使っていないもう1つの部屋を片付け始めた。
「まこちゃん!大河さんに渡せた?」
「うん!渡せた!優くんありがとう!」
「よかったねぇ〜!大河さん泣いてたんじゃない?」
「うん…可愛かった…」
寮に帰ると優一が帰って来たのを知り、誠が部屋に来た。とても幸せそうな顔に優一も幸せを貰った。昨日までの汚い感情はどこにもなかった。
「あれ?優くん、ピアス変えた?」
「え?あ、分かる?」
「うん、前は2つともブラックだったよね?もう1つはシルバー?」
「そう。変かな?」
「ううん!似合ってる!」
ほっとしてタカさんからのピアスを触る。
「あ!もしかして!お揃い?」
「えへへ」
「わ!優くん嬉しそう!可愛い!何その笑顔!」
「嬉しいもん!…あ、そういえば、事務所のコンサートの話、聞いた?」
「コンサートの話?まだだよ。大河さんはもう打ち合わせ入ってたけど…。ダンスチーム以外なら何でもいいかなぁ。本当はベースやりたいって希望だしたけど難しいはずだし。ここアイドル事務所だから…」
落ち込んでる誠にニヤリと笑って顔を近づける。
「できるよ!また一緒に!」
「…え?!本当に!?」
「うん!まこちゃんがベース、俺がギター、ジンさんがドラムで…タカさんがボーカルだって」
「えぇーっ!?タカさんがボーカル!?無理だよ!!あの歌声支えられないよっ!!」
「もう曲出来そうな感じだったよ!まこちゃん一緒に練習しよう!」
心配そうな顔をしていたが久しぶりのベースに誠はよしと気合を入れていた。
「頑張ろうね!」
「うん!」
2人はニコニコしながら曲について熱く語った。
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