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第22話 ダイアモンドオーディション

原石を見つけるオーディションが開始した。ファイナリスト12名が発表されると大きな話題を呼び、一人一人の自己紹介動画の再生数はものすごい数字になっていた。 「青木っ!はじまったよ」 「俺の推し〜頑張れ〜♪」 青木と誠は寮でパソコンをテレビに繋いで大画面で鑑賞していた。それぞれに応援している子を見つけ、一般人と同じく熱い声援を送る。 「レミちゃーん!はぁ、マジで可愛いこの子!レナちゃんも可愛いけど俺はレミちゃんだなぁ!笑顔が可愛い!!元気だし!」 青木は身長が小さく、色白で愛嬌のあるレミちゃんを応援している。自己紹介動画でこの子!と叫んでいた。石田レミは双子の姉でレナは妹だ。妹は顔はそっくりだがどちらかと言うと人見知りそうな雰囲気だ。 「マリンちゃん可愛いなぁー!この子ダンスがさぁ、きっと俺より上手いよ!」 誠は背が高くスタイルが良い、斎藤マリンを応援している。可愛い、よりはカッコイイ女性という雰囲気だ。ダンスで海外留学していたように、好きなことへの情熱や意志の強い感じがでている。 MCの呼び込みと同時に自己紹介動画が流れる。そして課題曲とともに全員がステージに現れた。 「おおお!センターは都姫ちゃん!ネットでも1番人気だったもんね!」 鈴木都姫はザ・アイドルの顔立ちで、メンバー公開と同時に一気に注目を集めた。自己紹介動画の再生数はほかのメンバーよりも圧倒的に多く、また、歌唱力もまぁまぁだ。カメラに抜かれた時の愛嬌は2人も心打たれた。 「都姫ちゃんやっばー!圧倒的じゃない?」 「こんな可愛い子きたら事務所でもモテそう」 ロングトーンで歌唱力を発揮したのは最年長の石川ちあきだ。小柄ながらほんわかした見た目とは裏腹に、とんでもない声量だ。真っ白で少しぽっちゃりしたところからマシュマロというあだ名が付いていた。 間奏でのダンスでは、誠が応援している斎藤マリンがセンターで、その両サイドを木村日菜子と吉野理子がフォーメーションダンスを行なった。 曲が終わると、審査員の紹介が行われる。それぞれの得意分野を披露しながら、と聞いていた青木と誠はワクワクしながら見ていた。 「ダンス審査員、78、楓ーー!!」 暗転したのち、曲が流れるとカッコイイダンスに会場やファイナリスト達が歓声をあげる。 「うはぁああああー!楓さん!超カッコイイ!!俺、楓のダンスが本当好き!」 興奮する青木に、誠は複雑そうに苦笑いした。 (なんでこんなカッコよくてモテそうなのに、俺なの?) ダンスが終わると優しい音楽が流れてきた。 「ゲスト審査員サナとー、サブプロデューサーRINGのユウ」 サナと目を合わせて楽しそうにハモる優一に、誠と青木もとろけるような笑顔になった。サナも安心して身を任せ、のびのびと歌っている。 「ユウが1番可愛い」 「こら。優くんはファイナリストじゃないぞ」 青木は画面に釘付けになりながらニヤニヤが抑えられていなかった。 「ビジュアル審査員、Altairの翔」 一気に会場から歓声がおこる。今人気ナンバー1のアイドルグループ、Altair。その中のセンターを務める翔は、このオーディション番組でも注目されていた。 「わぁーお、翔くんの人気すごいね!」 「俺、翔さん苦手〜なんか怖い」 「何かあったの?」 「うーん、ないことはないけど。裏表激しそう…大河さんをめちゃくちゃライバル視してる感じ。」 「あー…大河さんも翔くんが来ると一気にイラつくから、あの2人合わないのかもね」 「歌唱力審査員、ブルーウェーブカナタ!」 興奮の後を優しく撫でるような歌声が響く。どこまでも伸びのある優しい歌声に誠はそっと目を閉じて浸る。 「メインプロデューサー、ブルーウェーブタカ」 閉じた目を一気に覚醒させる、圧倒的な歌声が響き、誠も青木も言葉を失う。会場のお客さんは涙する人や、ファイナリストの中でもタカの大ファンだという坂下花凛は綺麗な涙をこぼした。 「え…タカさん、こんなすごい歌声なの?」 「そう!この間、俺と優くんでライブ行ったでしょ?こんなもんじゃなかった…もっともっと凄い歌声だった」 「もうやだ。」 「え?」 「タカさん、なんでユウだったんだろ。こんなの勝てっこないじゃん!こんなすごい人に好かれたら、そりゃあユウだって惚れちゃうじゃん!ハンデとかないと俺なんかじゃ太刀打ちできない」 「はー?ハンデあっただろ?タカさんより先に優くんに出会ってるし、同じグループで隣に住んで、ほぼ毎日行動一緒。チャンスしかなかったでしょうが。そもそもタカさん始めはユウにめっちゃ嫌われてたし」 「聞きたくなーい!」 「…まったく…」 画面ではオーディションのルール説明をされているが青木は不貞腐れてそっぽを向いていた。 「おう!お疲れ!」 「レイさん!お疲れさまです!」 「うわ!なんだよ、抱きついてくんな!」 帰宅したレイに駆け寄って抱きついて甘える青木を見て誠は爆笑していた。そんなことを気にせず、青木を巻きつけたままリビングのソファーにドカッと腰掛けた。 「あ、ユウのオーディション?」 「そうそう、さっき審査員も登場したとこ」 「どうだ?あいつら頑張ってるか?」 「ユウもサナもいい歌声だったよー」 誠がそういうと、レイは一瞬きょとんとして、そっかそっかと笑うのを青木と誠は不思議そうにレイを見つめた。 「や、ファイナリストに双子いるだろ?」 「いる!俺、レミちゃん推し!可愛いー!」 「おお!そうか!ありがとう!」 「「ん?」」 「あいつら俺の妹。」 「「えぇーーーーッ!!??」」 ギャハハと笑うレイは、冷蔵庫からビールを取ってゴクゴクと飲み始めた。 「ちょ、待って!レミちゃんのお兄さん…」 「おう!まさかファイナリストまであがれるとはなぁ〜!レミは分かるけどレナはどうかなぁ…緊張するだろうから…」 「どうしようっなんかめっちゃ照れてきた」 「お前に妹はやらんぞ!!」 お父さんみたいなセリフに2人は爆笑した。よく双子を見るとレイ似ているような気がする。 「2人とも歌手になりたいって言ってたけど、反対されてたんだ。だけど俺がデビューしたのを見て諦められないってさ。母も同じ事務所に入れるなら、と許可だしたみたいだ。…うわぁ、レナ緊張してるなぁ…頑張れよー!」 ビールを飲みながら妹たちを心配そうに見ている姿はお兄ちゃんそのもの。 「いいなぁ」 「ん?どうしたマコ」 「俺一人っ子だからさ、妹の応援したりとか、心配してくれるお兄ちゃんとかいないから…羨ましいなぁ。」 レイと青木は一瞬止まった後、誠に抱きつき、可愛いなぁお前といじられていた。 「俺がマコのお兄ちゃんになってやるよ!」 「あ!マコ俺も!」 「お前は弟だろ!」 高校生みたいにバカ騒ぎするのが楽しくてオーディションを見るのを忘れてひたすら喋っていた。 「石田レミ 17歳 高校生です!見ての通り双子です!ちっちゃいけどお姉ちゃんですっ!今日は特技のタンバリンをします!」 「可愛い〜!もうどうしよう抱きしめたい!」 「タンバリン!!あはは、可愛いね!」 「レミは小さいことにも全力だからなぁ 〜…お!審査員も笑ってる!いいぞ!レミ!」 上手くも下手でもないタンバリンを一生懸命に、そして楽しそうにやる姿は会場も味方にした。審査員に向けられたカメラで、ユウとサナと翔が同じリアクションで笑っていた。 「「「可愛いー!」」」 「いや、お前らが可愛いわ!」 レイのツッコミにまた爆笑していた。 「石田レナ17歳。妹です。緊張に勝つことがこのオーディションでの目標です。尊敬している兄に近づけるよう頑張りたいです。特技のラップをします。聞いてください。」 姉とは違い、淡々と無表情で話すのをレイは食い入るように画面を見ていた。 レナはお兄ちゃん子で姉のレミと遊ぶより、レイにくっついていた。 可愛い風貌からのラップ、という言葉に会場がどよめく。 「大丈夫、レナ、頑張れ」 目を閉じて呼吸をした後、目が大きく開き、無音のまま即興ラップを披露した。 終わった後、静まり返った会場が一気に沸いてレナはほっとしたような、どうしていいか分からないような顔ではにかんだ。 「うわ!レナちゃんも可愛い!!」 「よくやった!よくやったぞ!!」 レイと同じく、画面の中のレミもレナの手を取って喜んでいる。 「兄弟愛…最高。泣きそう」 「マコ、感動のしどころ…あれ?」 「レナー頑張った…っ」 「お兄ちゃんが泣いてる!!あはははは!」 酔いも回ったのか感動して泣いているレイを見て誠ももらい泣きした。 全員の自己紹介が終わって、審査員の評価と、会場、視聴者の投票も含めてその日のランキングが出る。デビュー枠は6人。最終的には半分は落とされてしまう。この日の最下位は最年長の石川ちあきになった。歌唱力も抜群でニックネームもあり、会場票と視聴票は申し分なかった。 「俺が最下位に、と言いました。ちあきさん、何でか分かる?」 ビジュアル審査員の翔がマイクを持った。大人気アイドルは好感度を気にする人が多いが、翔は全く気にしなかった。 「自分のアピールや見せ方やスタイル、人と比べてどお?」 「良くないと、思っています」 「俺はね、君をファイナリストにするつもりは全くなかったんだ。ここにいるサナちゃんが君をすごく推していたから、実際会うと変わるかなぁと思ったら…正直写真写りの方がまだいいかも」 「…」 「なんでかわかる?」 「太っているからです」 「違います。君には自信が見えない。初めから勝ちたいと貪欲な感情が見えてこない。表現者になるなら、伝えるべきところは伝えなきゃいけない。遠慮や謙虚さはここでは全くいらないよ」 「はい」 「自信がないなら、つけるよう努力すればいい。はじめから自分で評価をさげて、意外にいいかも、ぐらいの位置にいたいならこのオーディションにはいらないから、今、辞退して。」 ざわざわする会場。涙を浮かべるちあきは、マイクを握って一生懸命話した。 「私は、年齢も高いし、スタイルも良くない。なぜファイナリストにいるのかも自分でも分かりません。でも、最後のチャンスだと思ってここへ来ました。歌ならこの中にいる誰にも負けない、そう思って今立っています。自信がなかったのは確かです。これから、努力していきます。なので、辞退はしません。最後までやらせてください!」 頭を下げるちあきに、今度はサナがマイクを持った。 「こんにちは、ちあきさん。私は会えて嬉しいです。私はちあきさんを歌だけで選んだわけではありません。ちあきさんの雰囲気だったり、応援したくなるキャラクターは個性です。その個性に惹かれました。歌ももちろん素晴らしくて嬉しいです。ちあきさんが、もっと努力して翔さんを見返した時、デビューが決まると思います。少しずつ、自信をつけていきましょう!」 「ありがとう…ございますっ」 涙が溢れるのを隣のマリンがギュッと抱きしめる。波乱の中始まったオーディションの次回のテーマが決まった。 「グループ審査」 6人ずつのグループに分かれてのチームワークも見る審査。ルビーとサファイアというチーム分けになった。 「あ!双子ちゃんが分かれた!」 「まずいなぁ…レミのコミュニケーション能力にいつも助けられているのに…」 ルビーのリーダーはマリンが、サファイアのリーダーを1番人気の都姫が指名され、第1回のオーディションが終了した。 「あ、2人とも、ユウには妹って内緒な?審査に影響したら本人たちが嫌がるから」 「はぁい」 「本当に本格的なオーディションだね。翔くんあんなにズバッと言う感じなんだ」 「翔は思ったことすぐ言うからなぁ。大河がめっちゃ嫌ってるけど…あの2人似ているんだよなぁ」 「えー!?全然似てない!大河さんの方が裏表ないもん」 「翔もないよ。裏表あったら、オーディションであそこまで言わないだろ?自分の好感度も下がるかもだし…。ちあきちゃんも頑張ってほしいな」 「あーもー来週が待てないっ!」 レイは3本目を開けながらどこか嬉しそうだった。久しぶりに会った妹たちが成長していたからだ。 「レイさんご機嫌だね!あんな可愛い子たちと育ったんならレイさんの好きなタイプとか美女だろうなぁ」 「まぁーそうかな」 「誰がタイプなの?そういえば聞いたことなかった!」 弟たちに騒がれ、ほろ酔いのレイはご機嫌にまぁまぁ、とはぐらかしていた。 「レイさん好きな人いないの?恋人は?」 青木の質問にん〜?と適当に流すようにするから2人はどうしても聞きたくなった。 「あ、これはいるな?誰?女優?歌手?アイドル?」 「歌手かな」 「えぇえ!?歌手?待って、好きな人の話?恋人の話?」 「付き合って何ヶ月?」 「何ヶ月…付き合ってんのかな…?1年前くらいかな」 「「えぇーー?!」」 慌てるリアクションに爆笑するレイに、2人は待て待て、と食いつく。 「ツアーのちょっと前ぐらいだよね?!わぁああ!どんな人?」 「何考えてるか分からない人。だから付き合ってるっていうか…んー…セフレ?」 「「えぇーーーッ!?」」 「や、マジで分からないんだよ。ま、今のままでもいいけど」 2人は理解が追いつかない。白か黒というハッキリした性格のレイからセフレというワードが出てくることに驚き、また、曖昧な関係でもいいという。 「で!誰?歌手なんでしょー?」 「シュウト」 「「へ?」」 「ブルーウェーブのシュウト」 「「えぇーーーーーッ!??」」 レイは3本目を空にしながら、机に伏せた。 「俺は会いたいけどねー。なんせ向こうは自由人だから。」 突然のデレ発言に青木と誠は顔を真っ赤にした。レイはレギュラー番組が多く忙しい。それに比べシュウトはレギュラー番組なんか無く、歌以外の仕事は無いはずだ。 「どうやってそーゆー関係に?」 「練習生の頃、告白はされてたのよ」 「「へ!?」」 「あの時は、夢追うのが必死だったから、ずっと断っててさ。断ってたら結構あっさり引いて、あぁよかったと思ってて。で、1年前か、飲みに行こうて言われて、酔って覚えてないけどそのまま流れで」 空き缶を潰しながら何でもないように淡々と話すレイに2人は想像しては真っ赤になる。 「そしたら俺がどハマりよ。でも時間ないし、むこうの気まぐれでしか連絡こないから…。でもなあ、本当顔が綺麗なんだよーお前らびっくりするぞあの綺麗さ!」 大河という気まぐれの相手ができるレイだからこそシュウトと続いているのだろう。 「伊藤さんとお似合いだったのにー」 誠がぽろりと落とした言葉にレイは苦笑いする。 「お前ら伊藤さんに言っただろ。困ってたぞ!伊藤さんにだって選ぶ権利あるんだから。それに、あの人めっちゃモテるからな。テレビ局やラジオ局でもスタッフとか、女優さんとかから結構告白されてるの見るぞ」 「いいなぁー!俺も告白されたい!新しい恋したいよー!」 「お前は自業自得」 「うわぁんレイさん冷たい」 ピリリリリ 「お?噂をしたら…もしもし、シュウト?うん、あー…酒飲んじゃった。…うん、いいよ。待ってるな」 電話を切ったレイはやっぱりいつも通りだ。 「シュウトさん?」 「うん。飲みに行かないか?って。だから行ってくる」 「え?明日朝の5時入りじゃないの?」 「そうだけど、シュウトと会うの久しぶりだから」 「尽くすねぇ〜」 ははは、と笑いながら風呂に行ったレイを見送り、誠と青木は顔を見合わせた。 「「レイさん受け入れる方だったんだ!」」 2人は真っ赤になっておやすみ、と呟いて部屋に戻った。しかし、嫌でも様々な想像をしてしまい、レイが出て行く音を聞きドキドキしたまま夜を過ごした。 「シュウト、ありがとう」 「うん。急にごめんね、明日大丈夫?」 「大丈夫だよ」 「よかった」 ニコリと笑うシュウトの顔にまだ慣れない。 (綺麗な顔) レイは窓を見ていると小さな公園の駐車場に車が停まった。 「ん?どこ行…っん、」 「キスしたくて。もう一回、してもいい?」 「うん…っ、っ」 「レイ、好きだよ、」 耳元で甘く囁かれ、素直に身を委ねる。 キスしながらシートを倒され、どんどん濃厚なものになる。 (ここでヤるのか…?) ポツリポツリと雨が降ってきた。最近は天気が悪い。そんなことを気にしてないシュウトは服の中に手を入れてくる。 「レイ、集中して?」 「ん、ごめん、」 「僕に、全部、ちょうだい」 「ん、っ、っ、っふぁっ、」 全てを中途半端に脱がされ狭い車内で動きも制限される。 「っぅいたッ」 「よかった、狭いままだ」 「ッぅ、痛ッ」 「はッ、レイ、レイ、僕のレイ」 「ッ、シュウトッ、」 「一本でもキツイね、可愛いよ、レイ、ここは僕しか、知らないね?」 「っううッ、痛いッ、」 何も濡らさないまま突き立てられる指に、レイは冷や汗が滲む。 シュウトはこうしてレイが他の人と寝てないかを確認する。そんなことなら頻繁に会いたいものだがなんせ気まぐれさんだ。明らかに縛られたくないタイプだが、レイのことは泳がせておいてガチガチに縛っている。そして、痛みを堪えた確認の儀式が終わるととんでもなく甘美な時間がはじまる。 「良い子にしてたね。よかった。ご褒美だよ」 「ひぅっっ…冷たい…」 「ごめんね。あ、少し腫れちゃったかな。」 「痛っ…っぁ、ふぅっ…ンっ」 「柔らかくするね。好きなだけイっていいから」 ローションが馴染んできたところで細くて長い指がレイを壊していく。先ほどの痛みだけの行為が嘘のように快楽だけを与えられる。 「っぁ…っは、っぁ…、っんぅっ」 「中も熱いね。ここはどう?」 「ーーッッ!…っぁ…ぁ、」 「可愛い。僕にしか見せない顔」 愛おしそうな目で微笑むからたまらなくなる。狭い車内で窓が曇るまで久しぶりの逢瀬を堪能した。 「シュウト、今更だけど何で俺?」 「え?本当に今更…。告白した時に言った気がするけど…伝わってなかったね、ごめんね」 「ごめん、正直、酔ってて覚えてないんだ」 「…ふふ。そうだったの?ずっとニコニコしていて可愛いかったよ」 「で?何で俺?」 「みんなのレイを独り占めにしたかったから」 「え?」 「みんなから好かれて、誰とでもすぐに話せて、気配りもできて…僕とは大違い。すごいなぁって、思ってたらね、いつの間にか、レイしか見えなくなってた。」 「…」 「みんなのレイを、僕のレイにしたいなって、僕しか知らない表情や気持ちを出してくれたらなって思ったんだ」 「やっぱり、変わってるな、シュウト」 ふふっと笑うと、きょとんとした後、嬉しそうに笑うからレイからキスした。 「物好きだな」 「ふふ、レイこそ。」 「シュウトが俺にハマっているうちは相手するから」 「僕が飽きたら?」 「そりゃ離れるしかないだろ。」 「そんなもん?」 「そんなもんだよ」 こればっかりは約束できないだろ、お互い、というとシュウトは少し悲しい顔をした。 「ずっと、って言えなくてごめんね」 「正直な証拠だろ。」 「言ってあげれないのに、手放せないんだ」 「もし、俺に一生かけてもいいくらいの好きな人ができたらどうする?」 「今?もちろん手放さないよ?」 「わお。とんでもない奴に引っかかった」 クスクス笑うとぎゅっと抱きしめられる。 「未来の話なんか意味のないことだよ。大切なのは今」 「都合がいいなぁ。ま、確かに。今はもう戻ってこないもんな。」 2人はシュウトの家に移動して明け方までお互いを確かめ合った。 「レイ、お前大丈夫か?振り回されすぎだぞ」 「ふぁぁああ〜っ、…ん〜?大丈夫。」 シュウトの家で迎えた伊藤に小言を言われながら大きなあくびが止まらない。 「理解できないよ、お前達の関係は。ま、ほどほどにしろよ」 「大丈夫大丈夫。伊藤さんはタカさんみたいな感じになりそー。仕事メイン?的な。」 「まぁそうだろうな。あ、そろそろ寮から出てもいいという辞令がくるぞ。」 「え?」 「ん?」 「じゃあ俺らどうすんの?」 「一人暮らしでもいいし、実家でもいいし」 やっと俺の監視から解放されるな?よかったな、とニコリと伊藤が笑う。 「俺もそろそろ彼女でも作ろうかな。お前達も落ち着いてきたし。」 「…全然落ち着いてないだろ」 「そうか?」 「なぁ…?…一緒に住まない?」 「…は?どうした?何かあったか?」 「考えといて」 そう言ってテレビ局についたレイは振り向かないまま降りた。 「は?」 伊藤は意味が分からずしばらく駐車したままだった。

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