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第25話 宇宙人と人2

「……」 「サナちゃん、どうした?」 「うわぁっっ!」 ダンススタジオをこっそり覗いたサナは急に後ろから声をかけられ飛び上がるように跳ねた。 「大地さん、楓さん、お、おはようございますっ!」 「おはようー!サナちゃんも今日打ち合わせ?」 「あ、はい。シュウトさんと大河さんがまだ来ないので少し散歩を…」 「何処で?」 急に青木のトーンが下がり、サナはビクッとして楓を見ると、楓も驚いた様子だった。 「えっと、スタジオB-2です」 「そっか、分かったありがとう。」 あからさまにイライラした様子で中に入っていってしまった。 「なんだあいつ…」 「私何か気に障りましたか?」 「さぁ?気にしなくていいんじゃないか?じゃ、俺も行くわ。打ち合わせ頑張って」 「あああ、あのっ!」 「ん?」 サナは自分の手をぎゅっとにぎった。 (頑張れ、頑張れ私っ!!) 「あの、楓さんっ、連絡先、交換していただけませんか?」 「?いいけど。はい」 (あっさり!!) 「ありがとうございます!」 「いたずら電話するなよー?」 「はい!大丈夫ですっ!」 「これ、サナちゃんの番号?」 「はい、そうです」 ピリリリッ 「わぁっ!あ…これ…楓さん…?」 「ふふっリアクション最高だな。登録しといて」 そう言ってスタジオに入っていった楓の背中を見送ってサナは嬉しさの余り思いっきりガッツポーズをした。 「サナ?どうした?」 「わぁっ!大河さん!おはようございますっ」 ご機嫌だな、と笑われて一緒にスタジオに入った。ずっと嬉しさが止まらずニヤニヤしてるのを大河に指摘され熱い顔を両手で隠した。 時間が過ぎても来ないシュウトを待ちながら、2人はデュエット曲の練習をした。恋の歌にマッチした今の感情はさらに酔わせて、大河を見つめて歌うと、大河が少し照れていた。結局、シュウトはスタジオに現れず解散した。 「おー青木お疲れー」 「大河さん、打ち合わせ終わったのー?」 「今日はシュウトさん来なかったからサナと練習」 「来なかった?」 「あ?…うん。どした?」 ダンススタジオを覗くと楓が軽やかに踊っている。大河には気づいているはずだが、雑誌の件から気まずいままだ。 「大河さん、レイさん見た?」 「ん?レイは今日こっちだろ?いないのか?」 苛立ったまま青木はスタジオを飛び出した。大河はスタジオに残されたまま疑問符を浮かべていた。 「もしもし伊藤さん?レイさん今日ダンスじゃないの?」 「そうだぞ。優一迎える前に降ろしたけど…いないのか?」 「来てない。そして、大河さんの打ち合わせにシュウトさん来てない」 「っ!まずいな。俺今すぐ向かえない。大河もそこにいるなら探すの協力してもらえ。俺もできるだけ早く向かえられるようにする」 青木はある程度みて周り、スタジオに戻って大河にレイを探すよう頼んだ。意味がわかってないまま大河は下の階から、青木は上の階から分かれて探した。 (最上階なんて初めて来た…) 変な静けさに緊張しながら恐る恐る歩く。軽く一周した後、窓から景色を見てみようとエレベーター近くの自販機まで向かった。 ガタンガタンッ 「んンーーッ!ッ、痛っもぉ嫌だッッぁっあ!ぃやっだ…」 (え?) 振り返るとトイレの中からだった。変な緊張が走る。他人だったらどうしようと思いながらも目の前の自販機で欲しくもないドリンクを買って、わざと大きな音を立てた。 「ッッ!シュウトッ、お願いッ、、もうっ…やめろッ…痛いっ…」 青木は目を見開いてすぐにトイレの中に入った。 「レイさん!?そこにいるの!?」 「ッッ!!」 ガタガタと鳴り止まないドアの揺れる音と水音。 必死に声を殺す息遣い。 「レイさん!大丈夫?!」 「ッ、ッ青木、ンッ、ッ、頼む、っは、ッどっか、いって…」 一瞬聞こえたか細い声は、この状況を聞かれたくないという叫びだった。怖くなった青木は急いでエレベーターに乗って大河のいる地下まで降りた。 「あ、青木ー、レイいた?…?、お前、どうした?幽霊でもみたのか?」 ガタガタと震える身体を大河が摩る。 「レイさんが…どうしよう…っ、俺、逃げちゃった…」 「レイいたのか?」 「どっかいってって…」 「レイが?」 「聞いて。大河さん、どうしようっ、最上階の、トイレで、シュウトさんに襲われてる」 摩る手がピタリと止まって、大きな目がこれでもかと開く。 「…おい。くだらねぇ冗談言ってんじゃねえよ」 「これが!!冗談に見える!??大河さん!!本当なんだ!俺だって信じたくない!!でも!シュウトさんは歪んでる!あの人は普通じゃない!レイさんを弄んでるだけなんだ!あれは愛なんかじゃない!!」 「…よく分からんがお前を信じる。行くぞ」 「でも、レイさんはっどこかいってって」 大河には無理矢理引っ張られエレベーターに乗る。カチカチと歯がなるほど震える青木に大河は事の重大さを知った。 (レイがシュウトさんに?どういう関係だ?) 最上階に付くと嫌がる青木を引っ張り、トイレに向かうと、嗅いだことのある香りが充満し、大河は嫌な予感がしながら中を覗くと、トイレの個室のドアは全て開いていた。 「レイ?いるのか?」 大河は青木をトイレ前の廊下に置き、すべての個室を確認する。1番奥の方を見た瞬間息を飲んだ。 「っ!?おい!!大丈夫か!?レイ!レイ!」 涙の跡が残る顔はぐったりと便器にもたれ、何も身につけていない下半身からは血と白濁が流れ、首筋には跡がたくさんつけられていた。 大河の焦った声が聞こえて、青木がハッと顔をあげると、廊下の先にエレベーターを待つあの人が目に飛び込んできた。 先程まで震えてた身体が怒りに任せて摑みかかる。 「お前!どこ行くんだよ!!レイさんに何してんだよ!近づくなって言われてるだろ!」 「大地くん…。怒鳴らないで。愛のあるセックス中に邪魔しないでよ。まぁ、悪くなかったけどね。ねぇ、もしかして伊藤さんだけじゃなくて、大地くんもレイが好きなの?…でも残念。レイは絶対に渡さないよ?」 青木は衝動のままシュウトの頬を殴った。倒れこむシュウトに馬乗りになり顔を見ると、薄く笑っていた。 「なに…笑ってんだよ」 「いや?他人にここまで熱くなれてすごいなぁって。これも、普通のことなの?」 「当たり前だろうが!!」 また一発殴る。 それでも薄ら笑いは変わらない。 「レイは僕のもの。誰にも渡さないし、別れないから。今日も新しい顔がみれたんだ。レイの恐怖に怯える顔、君が来て焦った顔、嫌がって泣く顔、もう解放してほしいと懇願する顔、全部興奮した。いつもの受け入れてくれる感じも可愛いけど、無理矢理泣かすのもハマりそう。」 思い出してるのか恍惚の顔をするシュウトに青木は恐怖しか感じなかった。 「黙れっ!!」 目の前の言い知れない恐怖から逃れたくて無我夢中で目の前の綺麗な顔を打つ。鼻血が出るまで殴っているところを大河が見つけ、慌ててやめさせた。 「え?青木が謹慎処分?」 「何かの…間違いだよね、大河さん」 「ごめん、俺がついていたのに。」 優一と誠は耳を疑った。青木は人に暴力をするようなタイプではない。どちらかというと何もできなくて凹んでるタイプだ。大河は優一と誠に頭を下げた。 「何があったか聞いてもいいの…?レイさんは?」 「……。」 優一の質問に大河は下を向いて黙っている。伊藤も青木の対応で追われているし、いつも状況整理してくれるレイもいない。 「シュウトさん…が、」 「「シュウトさん?」」 思わぬ登場人物に2人はハモった。大河は言葉を選びながら、苦しそうな顔で語った。 「レイをトイレで襲った。それを青木が知って俺も一緒に現場にいくと、レイはそのまま残されてて意識はなかったし、それはひどいもんだった。俺がレイの様子を確認してたら、その間に青木はまだ近くにいたシュウトさんをボコボコにしてた」 優一と誠は絶句した。誠はこの間嬉しそうに話すレイを思い出した。 「嘘でしょ?だって…え?ついこの間、レイさん、シュウトさんと付き合ってるって嬉しそうに言ってたよ?襲うなんて…」 「え?レイさん付き合ってたの??」 優一はタカからもレイからも聞いていなかったようで混乱している。 大河も、俺も知らなかったとつぶやいた。 「青木によると、先日、ダンスレッスン終わりに、シュウトと約束してたレイが疲れてドタキャンしたらしい。そしたらシュウトが寮に乗り込んできて、無理矢理キスをしていたと。青木に見られたくない、寮では嫌だと必死で抵抗してる中、過労と貧血で倒れたのをシュウトさんは放置。飽きたから別れると言って帰ったらしい。その時、伊藤さんに今後レイとの接触を禁止されていた。」 「そんな…っ」 「レイが目覚めて、シュウトのセリフを伊藤さんが伝えると分かった、1人にしてほしい、と辛そうだったそうだ」 誠は絶句して聞いていた。優一は続きそうな大河の言葉を待った。 「青木が病院から帰ると、寮の前にシュウトさんが車で来ていて、やっぱり別れない、と言い出したらしい。幸いその時は伊藤さんがレイと少し話す、とドライブしてたらしいから、青木がシュウトさんを追い返したようだ。」 優一は理解できないと座り込んだ。誠は唖然と口を開けて立ち竦んだ。 「そして今日、ダンスレッスンにこないレイと、俺たちの打ち合わせに来なかったシュウトさんを不審に思った青木の声で、俺と青木がビルの中を探し回った。そして、青木が見つけたがレイにどっかいって、ってお願いされたらしい」 「許せない…そんなの、俺だってきっと青木と同じことしてた」 静かな声は誠だった。誠にはあの幸せそうなレイが消えなかった。青木の気持ちが痛いほどわかって胸が痛かった。 「レイは病院にいる。レイと青木の分のカバーは俺たちでやる。いいな」 「「はい」」 優一が手を挙げた。 「大河さん、最後にもう一つ」 「ん?」 「シュウトさんは?」 「レイとは違う病院だ。ソロ活動中だから治り次第すぐ復帰だそうだ」 その言葉に優一が吠えた。 「なんで青木は謹慎処分でシュウトさんは復帰なの!?おかしいよ!」 「そうだな。伊藤さんもブチギレてたよ。社長に向かって殴りそうな勢いだった…初めて見た。」 「理不尽すぎる!…でも、とっても悔しいけど…今できることをやるしかないんだね」 「そうだ。いつもレイに頼りっぱなしだし、青木もレイのために動いた。俺たちも動くぞ」 「「はい!!」」 3人は2人の仕事をカバーしながら自分の仕事もこなすハードスケジュールになった。レイはレギュラーが多く、どれだけ忙しかったのかを3人は身をもって体験した。 「青木、伊藤さん、もう大丈夫だから。部屋で寝てきて。」 「青木、そろそろ寝ろ」 「伊藤さんだって、もうずっと寝ないまま送迎して…危ないよ。俺はしばらく暇なんだから大丈夫。」 目を覚ましたレイは、常に2人を気遣っていた。話していても突然眠りの世界に引っ張られ、寝ろよ、と言って目を閉じた。レイが寝たのを確認すると伊藤は頭だけをレイのベッドに乗せ、寝息をたてていた。 「2人とも、やっと寝てくれた…良かった」 青木はパタパタと涙を落とした。どうしたら正解だったのか、あの時大河が止めなければもっと酷い傷をつけていただろう。初めて人を殴った感触がまだ残っていて、気持ち悪かった。青木が冷静じゃない分、大河が全て対応してくれた。でも、責めなかった。大河は言った。 (俺なら殴り殺してるよ) 怒りをぐっと堪えて、そして、 (俺の時はレイがこうして発見して対応してくれたから、ここは全部俺がやる。) 泣きそうな顔でそう言った。 コンコン 「っ!!はい!あ、伊藤さん、お客さん」 「んっ…おう、ありがとう」 伊藤がドアを開けると、シュウト以外のブルーウェーブメンバーとマネージャー。 「この度は、大変申し訳ございませんでした。」 マネージャーの声に三人はその後ろで頭を下げた。 「朝比奈さん、どうしてここにメンバーを…。それぞれのメンバーには場所を知らせないよう通達がありましたよね?もう来てるから仕方ないですが、こういうの多いですよ、気をつけてください。あの、分かってると思いますが、シュウトにこの病院だと言わないでくださいね?頼みます。」 「もちろんです。メンバーさんが謝りたいというので連れてきました。僕の管理不届です。」 「そうですね。以前の大河とタカの時と同じ対応をとります。タカ、例に出してごめん。」 「いえ。」 「対応記録は会社に残っています。引き継ぎ書のデータを確認してください。」 「まだアクセス権がない、と聞いています」 「じゃ、どうするんですか?知らないままでやるとこれ以上のことが起こります。課長に聞いたらどうですか。悪いけど、今回の件に関して、 俺は落ち着くまでフォローするつもりはありません。こちらも対応に追われています、そっちの対応はご自分で解決するよう努力いただけませんか。」 「僕、まだ入って1年です。こんな状況…」 「…朝比奈さん、一回廊下出ましょう。青木、ここ、任せていい?」 「はい」 「ジン、中へ入ってて」 「失礼します」 伊藤は疲れたように朝比奈を呼び出して廊下へ行った。 「大地くん、今回の件、シュウトが本当に申し訳ない。レイ、起きたらまた言わせて、怖かったね、ごめんね。」 ジンさんは青木の頭を撫でて、抱きしめ、レイの手を握った。 「僕たちは何度こうして頭を下げたらいいんだろう」 ジンさんは怒りを静かに堪えていた。 タカは入り口近くで立ち竦むだけだった。 カナタはレイに駆け寄って、ごめんなと言い続けた。 「シュウくんがレイに近づいていること、実はメンバー誰も知らなかったんだ。だから、心底驚いている。だって、シュウくんにはずっと付き合っている彼女がいるから。」 「…へ?」 青木は目を見開いた。彼女がいるのに、あのレイへの執着はなんなのか、ますます分からなくて怖かった。 「待ってください…。だって、寮まで乗り込んできたり、待ち伏せしたり、別れるって言ったり、誰にも渡さないって言ったりしてました!そんなの…」 「え?寮まで来たの?」 「はい。レイさんここんところ体調悪くて、約束をすっぽかしたみたいで。それを寮まできてレイさんに迫って…寮では嫌だと嫌がって抵抗してたら倒れちゃって…そしたら放置して帰ったんです。僕にできることある?って。伊藤さんはその日でレイさんに近づくことを禁止していたんです」 唖然とするカナタ。ジンはタカを鋭い目で見て問い詰めた。 「タカ?シュウくんにRINGの寮の場所言ったの?」 「いや。聞かれたこともないし、そんな話をした事もない。まず、RINGと関わりがあるなんて知らなかった。優一からも聞いてないから。」 初耳のメンバー達が黙る中、大きな音とともに廊下が騒がしくなった。 レイ以外の全員が廊下に出た。 「ここは病院ですよ!?やめてください、ほかの患者さんのご迷惑になります」 三人ぐらいの看護師が止めるのは朝比奈に摑みかかる伊藤。 「伊藤さん!落ち着いてよ!これ以上騒ぎは…」 「こいつが!勝手にレイの情報をシュウトに流してる!寮に連れてきたのもこいつだ!馬鹿野郎が!」 青木とジンが2人を引き離す。カナタとタカは看護師に謝罪し、大丈夫です、と離れてもらった。 「だって、担当の人から聞かれたら答えなきゃって…」 「他グループの許可なしにか!?…朝比奈さん、目に余る行動が多すぎます。データベースの住所録から住所も抜いたんですね?緊急だとしても閲覧じたい許可申請と上長の捺印が必要ですが、この様子だと不正です。課長に報告する。」 「待って下さい!やっとシュウトさんのマネージャーになれたのに!」 「……おい。…お前、ファンか。どうりでぬるいことやってんな…。この仕事あまくみてたんだろ。憧れの人のそばにいてお世話できるって?くだらねぇ。ジン、マネージャー代わると思うから頼むな」 「はい。」 朝比奈をつき放し、そう言い捨てたあと、悪い、帰ってくれ、と呟いて中に入ってしまった。 その瞬間、朝比奈は崩れ落ちた。 「朝比奈さん、行きましょう。」 ジンが朝比奈を支えながら立ち上がらせる。タカとカナタは感情のない目でそれを見ていた。 「大地くん、改めて謝罪するから。カナタ、タカ行くよ」 「「はい」」 エレベーターに乗ったのを確認して、廊下のベンチに座る。 (疲れた。頭がおかしくなりそう) 青木はそのまま目を閉じた。

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