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第26話 宇宙人と宇宙人

「RINGは今日休み?」 ダンスレッスンに集まったのはRINGを除く四人だけ。先生は何も言わずレッスンを開始したのに楓は少し不審に思った。それは翔も同じらしく、目があって2人で首を傾げた。 「さーあ!張り切ってやってみよおー!せんせ!曲お願いしまぁーすっ!」 ルイはいつも通りでやっていたが、しばらくして先生が音を止め、少し考えた後、青木のポジションに翔を入れた。 「え、先生、なんでですか?ここは大地のポジションですよね?」 「レイのところ、カナタさんがカバーしてるのも理由がありますか?」 楓と翔が矢継ぎ早に質問するも、今はこうして、としか言われなく、2人は黙って従った。 ルイは珍しくカナタに絡む事なく、長く感じるレッスンは終了し、全員が集められた。 「…青木は合流が遅れるかもしれない。だから翔に今はカバーに入ってもらう」 「え?」 そのセリフにカナタが俯いたのを見て、この日初めてルイが後ろからカナタをギュッとハグした。 「レイは体調不良だ。体調が回復次第、レッスンに合流する」 「昨日も休んでたしな。体調悪かったんだ」 そう呟く楓にカナタはひたすら床をみつめた。 話が終わると1番にスタジオを出ようとするカナタをルイが捕まえた。 「カナタさん、どうしたの?悲しい?」 「ルイ…。ううん、大丈夫だよ。心配かけたね?」 「カナタさんが悲しいの、嫌だ」 「ふふっ、ありがとう。俺は元気だよ?」 ルイはカナタをベンチに座らせて、手を握ってなんでもないように鼻歌を歌い始めた。 ルイなりの精一杯を感じて、カナタは可愛いなぁと頭を撫でた。遠くで様子を伺う楓と翔にも悪いなと思いながらも、どんどん落ちていく気持ちを浮上させることが難しかった。 「〜やっと出会えーたー♪きーせーきぃー♪」 「ぷぷっ!!…あははは!ルーイ!!音違うよお!」 「あれー?ちがうのー?きーせぇ〜きぃー♪?」 「もー!わざと!?なんでアレンジしてんの?あははは」 ルイは鼻歌からどんどん大きな声で歌い始めたが、最後の最後で音を外した。歌っているのはブルーウェーブの曲。最後のタカとカナタのハモリの部分だった。思わずズッコケたカナタは涙がでるほど笑い、それを見てルイはニシシと笑った。 「やっぱあいつ凄いわ。」 「うん。良かった、カナタさん元気になって」 様子を見ていた楓と翔もほっとした。2人はオーディションの打ち合わせでユウに聞こうと話し、その日は解散した。 コンコン 「よぉ、いいか?」 「うん。どうぞ」 タカはシュウトの病室を訪れた。一般人が多い分、髪をおろしてだて眼鏡で少し変装した。 ベッドに横になるシュウトは顔を見ないままタカを入れた。ベッド脇の椅子に腰掛けると、シュウトが口を開いた。 「タカ、僕おかしいんだ。」 「…どうした?」 「みんなが、言ってる事、分かってるのに。頭が沸騰したみたいになるんだ。でも冷え切ってて、みんなが泣くのも喚くのも怒るのも、どこか遠くから見てるみたいに。」 「シュウト、全部話して」 窓から目線を外さないまま、ゆっくりと話し始めた。 「彼女、妊娠してる。」 「へっ!!?」 「もう産まれたのかな、分からないけど」 「ん???」 シュウトは初めてこちらを見ると、タカは驚いて声が出なかった。 腫れた顔と所々切り傷がある。鬱血した目元から、止めどない涙。 「シュウト…」 「僕の子じゃ、ないんだって」 「あの、長い間付き合ってた子だろ」 「うん。僕の太陽みたいな子だった。大好きで、離したくないのに、僕じゃない人と、結婚するんだって」 「……。」 「1年くらい前にね、突然、新しい彼氏さんと彼女が僕の家に来て、そう言われたの。新しい彼氏さんはね、とっても面倒くさそうにしてて、彼女だけがハマってるような感じ。もちろん引き止めた、子どもがいてもいいって。でも、彼女は言ったんだ」 「なんて?」 「何考えてるか分からない。あなたは普通じゃない。もう合わせきれない。」 「…」 「同じこと、昨日大地くんにも、レイにも言われた。」 静かに涙を流すシュウトの手を握った。するとシュウトはフッと笑ってタカも理解できないよね?とまた目線を窓に移した。 「レイはね、僕、彼女に似てると思ってて。太陽みたいにみんなを暖かくして、明るくて、いつも中心にいて。昔からレイが目に入ってて、彼女と別れてすぐに飲みに誘ったんだ。僕の話を聞いて、俺で良ければできる限り合わせるから、そんな顔すんな笑えって笑ってくれた。同情だったかもしれない、でも、彼女への傷が癒されてたのはレイのおかげ。」 今度は身体ごと窓方向に寝返りを打つから、その背中をさすった。 「レイはね、本当は伊藤さんが好きなんだ。でも、こんな僕をほっとけなくて、僕に合わせたんだ。だから、本当に僕に合わせてくれるのか試したくて。無理させちゃってても笑顔だから、どんどんエスカレートしちゃった。初めてレイが約束を破った時、自分の中で何かが切れて、マネージャーに寮を調べさせて送ってもらって部屋まで行って、寝起きのレイ見た瞬間、冷めた感情で嘘つき嘘つき嘘つき、って全部ぶつけた。」 シュウトはレイと彼女を重ねて、彼女への行き場のない感情全てをぶつけていた。つまり、レイは完全に巻き込まれただけだった。 誰にでも好かれるレイを自分だけのものにして、自分以外のことを許さない、それが例えレイ自身だとしても。そして、レイのために動く人がたくさんいたこともシュウトの負の感情を増長させた。 「マンションから伊藤さんのバンを追ってたらね、伊藤さんとレイがキスしてるのを見たんだ。そしたら本当にレイを何処にも行けないようにしないと、ってモヤモヤしたんだ。だって彼女もいなくなって、レイまで取られると思ったら発狂しそうで。次の日レイを見たら止まらなかった。レイが泣いて嫌がるのにどんどん興奮して…、みんなにバレればいい、レイは僕のって分からせたかった」 その言葉にタカはため息を吐いた。 「お前さ、まず彼女とよく話し合え。根本はそこだ。対象がレイに代わっただけで、この感情はレイでも誰でも解消はできない。今はレイを試すようにして怒りの感情をぶつけたいだけだ。お前がこの感情を消したいなら彼女以外は無理だ。」 「へ?」 ビックリした様子でシュウトが振り返る。タカは何に驚いたのか分からず聞き返す。 「ん?」 「どうしてそんなこと分かるの?」 普通そうだろ、というのを飲み込んだ。シュウトが気にしている人の感情の感じ方だからだ。タカは言葉を選びながらゆっくりと言葉を吐き出した。 「お前が彼女に伝えきれず、一方的に事実だけ言われたんだろ。そりゃあフェアーじゃない。お前のもきちんと伝えるべきだ。悲しいとか、直す努力をするからそばにいて、とか、飲み込んだ言葉すべてだ。」 「っうん…そうだね…っ、」 相当溜め込んでいたのだろう、鳴咽が聞こえた。 「辛かったな、シュウト。近くにいたのに気付いてあげられなくてごめん」 「ううんっ…っ、誰にも、言えなくてっ…、迷惑かけて、ごめんなさいっ…」 「レイにも謝って、解放してやれ」 「ぅうっ…っふ、っ、でも…1人はいやだ…1人になりたくないっ」 「シュウト、レイにはレイの人生がある。お前が縛る権利はない。」 「分かってるよっ…でも、耐えられないっ…タカには優一くんがいるじゃない、ジンさんだってカナタさんといる。僕だけひとりぼっちだ」 「俺は…お前も分かると思うけど、何度も何度も引きはなされて1人にされてきた。でも、1人だったから今、優一がいてくれている。必要な時間だったと思ってる。お前は一度時間をかけて自分と向き合うべきだ。」 厳しくも優しいタカの言葉をゆっくり咀嚼しながら、止まらない鳴咽をそのままにわんわん泣いた。 「あと、お前吐き出す練習をしろ。抱え込めない感情が多すぎる。こんなんじゃ音楽にも出るぞ。週一回は俺と飲み会だ。分かったな」 「嫌だ。予定決められるの、好きじゃない」 「ダメだ。これはお前の主治医である俺の診断と処方箋だ。必ずだ、いいな」 「行きたくない…っぅ…」 「おいおい、泣くほど嫌なのか?傷つくなぁ」 「ちがう、予定決まってたら嫌だっ」 「子どもか!ワガママ言うな。2人が嫌なら他にも誰か呼ぶから」 「それはもっと嫌だ!タカだけでいいっ…他の人に理解してもらおうとも思わないから…タカだけなら行くから」 「ふふ、了解。早く治せよ。で?レイにはどうするんだって?」 タカは微笑んでシュウトの言葉を待つ。 「ちゃんと、謝って、レイを自由にする」 「うん。青木には?」 「もうレイに近づかないって約束する。そして」 「?そして?」 「殴らせてごめんねって言う。とても泣きそうな顔で殴ってたから…」 うん、と笑ってタカは頭を撫でて、少し寝ろと目元にそっと手のひらを乗せる。 「ありがとう。…タカだけだよ、僕を分かってくれるの。タカがフリーだったらな」 「ふざけんな、タイプじゃねーよ。おやすみ」 「おやすみ。」 寝息を聞いてタカが廊下に出ると、カナタとジンが心配そうに待っていた。 「どう?様子」 「ちゃんと謝罪して、レイとも離れるって。彼女さん、妊娠して他の男と結婚してるらしい」 「うわ…マジか」 カナタは頭を抱えた。 「そこから彼女に似てたレイに、全部をぶつけていたみたいだ。彼女と話せっていっといた。で?そっちはどうなった?」 タカはジンを見ると、頷いたあと事務所の動きを話した。 「朝比奈さんは今日付の解雇になったよ。データとか抜きとられる前にって。RINGの寮もバレたから寮解消も前倒しになるらしい。朝比奈さんがシュウくんのファンだったみたいだから、シュウくんはこれから引っ越しも必要だ。あと、大地くんの謹慎が来週解かれる。」 「ふぅ…っとりあえずは一件落着?」 カナタが苦笑いしている。疲れ切った様子にタカは心が痛んだ。 「俺の時も…こんなに大変だったんだな。改めて、ごめんなさい。」 頭を下げるとジンとカナタは顔を見合わせて少し笑ったあと、カナタが顔をあげて、と言った。 「タカ、こんなに、じゃない。これ以上に、大変だったんだからなー?でも、何があっても乗り越えていこ!みんなで!」 「そう。そのためのチームでしょ?」 「ありがとう。そうだな、チームだな」 タカはジンとカナタの間に無理矢理座る。 「ありがとうお兄ちゃんたち」 「あはははは!」 「あれ?保護者の間違いじゃないの?タカ」 「そうそう!もうパパもママも疲れちゃうー」 「手のかかる子ほど可愛いだろ?」 「言ってることは可愛くないな!」 一頻り笑ったあと、カナタがタカはすごいよな、と言い始めた。 「シュウトの言葉を理解してあげられるの、タカくらいじゃないの?」 「独特の考え方だからな。でも、ベースが似てるんだと思うよ」 「わぁ〜人間にはわからなーい」 「は?俺も人間だし」 「人間っていうか新しいジャンル…宇宙人!」 「なんだってーー!?」 キャッキャとはしゃぐのを温かい目でジンは微笑んだ。カナタはもともと世話焼きで優しい。シュウトのことを理解するのが難しい分、眠れないまま悩んでいたのだ。 (今日はゆっくり寝かさないと) ジンは2人の頭をくしゃくしゃにして、帰ろうと誘った。

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