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第32話 ようこそ

バタン 「んっ?タカさん?おかえりー」 「ただいま。…悪い、スタジオ籠る」 「あ、うん。いってらっしゃーい」 きょとんとした優一に申し訳ないと思いつつも動揺してイライラを当てるわけにはいかない。 (何考えてんだ、あいつ) 髪を解いてぐしゃぐしゃにして机に伏せた。 (お前まで、天才って言うなよ…。) やっとメンバー全員が揃って、再出発しよう、という時にとんでもない爆弾を仕込まれた。病院でのシュウトとスタジオでのシュウトが交錯してバンッと机を殴った。 (全然理解できねぇよ…。どうしたいんだよ) 長年一緒にやっているメンバーでさえも、一瞬絆されそうになるくらいの表情やセリフ。ほぼほぼ絡みのなかったレイは完全に術中にはまっても仕方ないとため息を吐いた。 (とにかく、大河には警戒させないと…) ケータイで大河の連絡先を見つけて、ふと指が止まる。どのツラ下げて警告するというのだ。この自分が。 ドクンっ、ドクンっ、ドクンっ 周りの音がしんっ…と消えて心臓の音だけがうるさいくらいに響く。 またいろんなイメージが流れてくるのを目を閉じて耐える。冷や汗をかいて、脳内で死神が誘う。 (なんでまだ生きてるの?) バタンッ 「優一!っは、っは、っ優一!優一!」 「!?タカさん!?どうしたの?」 リビングでゆっくりしていた優一は飛び出してきたタカを受け止める。 顔面蒼白なのに汗がびっしょりのタカの様子に、優一ははじめは驚くも、すぐに察して、ニコリと微笑んで背中を撫でる。 「大丈夫、大丈夫。タカさんはこのままでいいんだよ」 「っ、っ、優一、」 「タカさんはここにいて、やることがたくさんあるんだから。ほら、ゆっくり息して。大丈夫だよ、大丈夫」 「はっ、は、はー、はー」 しばらく大丈夫、大丈夫と言い続けて、少しずつ落ち着いたタカに優一はほっとして汗で張り付いた髪をかきあげる。まだ動揺している表情に何かあったんだ、とぎゅっと抱きしめる。 「タカさん、少し寝よう?ちょっと休も?」 「…眠れない」 「じゃあ横になってゴロゴロしよっ!俺の部屋に行こっ!」 黙ってついてきたタカを優一のベッドに横たわらせ、その隣に寝転がる。 「タカさんっ、ぎゅーして」 「…ふふっ、甘えんぼだな」 「えへへ〜。ん〜幸せっ!これだけで俺幸せ!」 「…そうか」 「タカさんが抱きしめてくれるだけで俺は幸せになれる!タカさんありがとう!俺を幸せにしてくれて!」 「…ありがとう。俺もだよ」 優一をぎゅっと抱きしめ、深呼吸をすると優一の香りに落ち着いてきた。静かに呼吸だけに意識をするとうとうととし、そっと目を閉じた。 「おやすみ、タカさん」 くぅ…くぅ…くぅ… 耳元で聞こえる寝息に意識が浮上すると、隣で優一が気持ちよさそうに眠っていた。安心しきった寝顔に笑みがこぼれる。頭がすっきりして疲れがとれたように軽い。時計を見ると3時間ほど寝ていたようだ。 (ありがとな。本当にお前がいないとダメだな、俺) 小さな頭にキスをして部屋から出ると、タカは電話をかけた。 「はい、タカさんこんばんは」 「おう、今大丈夫か?」 「あ、ちょっと待ってください、……おまたせしました」 タカは誠に電話をかけると、少し小さめの声で電話に出た。 ちょっと待たせた間に場所を移動したようだ。 「悪い、寝てたか?」 「いえ!大丈夫です!どうしましたか?」 「俺が言うことじゃないが…大河、シュウトになんか言われてないか?」 「え?どうしてそれを…?」 タカはやっぱりか、とため息を吐いた。誠は真剣な声になり、何か分かることを教えてください、と聞いてきた。 「シュウトが大河に興味をもったそうだ、だから心配で」 「もう、手を出してきてます。」 「え?!」 「打ち合わせの時だったみたいです。あの復帰した初日。でも大河さんは、シュウトさんに負けない、技術を全部盗んでやるって、逃げたり隠れたりする気はないそうです。」 心配だけど、カッコイイです。と、少し笑った誠にタカはそうか、と力が抜けて座りこんだ。 「タカさん…?」 「…大河を守ってやってくれ。シュウトは俺がなんとか抑えるようにするから。もう二度と、あいつを傷つけたくないんだ」 「タカさん」 「お前にしか、頼めない。頼む。」 「当たり前です。守ってみせます。だからタカさん、タカさんも進んでください。」 「……。」 「優くんのために、大河さんのためにも、生きてくださいね?」 「…。」 「あ!タカさん!バーはいつ連れてってくれるんですか?!俺本当楽しみで!」 言葉を選びながらも、みんなの気持ちに寄り添ったメッセージにタカは胸がいっぱいになる。明るい話題に変えたのも、気を使う誠らしい切り返しだった。任せられる頼もしい存在が、大河の彼氏でよかったとタカは重荷が少し軽くなったように感じた。 「マコちゃん、ちゃんと連れていくよ。あと、ちゃんと生きる。ごめんな?心配かけた。」 「優くんはタカさんがいないと幸せになれないらしいので、どうか幸せにしてあげてくださいね」 「ふふ、本人にも言われたよ。」 先ほどのセリフを思い出して思わずにやけてしまう。 「あ、タカさんこそ気をつけてください!シュウトさん、タカさんに振られたから大河さん、って言ってたらしいですよ」 「気色悪いよなぁ。今日キスされたばっかりだ。」 「えっ!?」 「相変わらず何考えてるか理解に時間がかかるが、まぁなんとかする。とりあえず大河頼むな。」 「あ、このこと、優くんに言わない方がいいですよ。すぐ乗り込んでいくんで。」 「OK、そのつもりだ。夜遅くにごめんな」 「いえ!おやすみなさい!」 電話を切ると、肩の荷が降りたような気がしてほっとした。ぼーっと床に座ってると、優一の部屋からドタン、と音がしてバタバタと走ってきた。 「起こしたか?ごめんな?」 「っっ!よかったぁ〜…」 飛びつくみたいにくっついてきた恋人をよしよしと撫でる。そばにいないことで不安だったようだ。 「ごめん、ちょっと電話してた」 「誰に?」 「マコちゃん」 誠の名前を出すと、とたんに安心したようにそっかぁ〜とご機嫌になった。グループの中でも優一が1番信頼している人だ。 「マコちゃん、早くバーに行きたいってさ」 「俺も行きたいなぁ〜。でもちょっと緊張する」 「優一、来週の水曜、オーディションの後行くか。」 「え!!」 びっくりしてあげた頭がタカの顎に当たってタカが痛みに悶える。 「うわ!ごめんなさいっ!」 「お前な!距離感!」 さすがに笑ってくれたタカに安心するも、先ほどのスケジュールに緊張しっぱなしだ。 「畏まらなくていいから。ちょうど定休日だからゆっくりできるだろうし」 「タカさん。…本当に俺でいいの?」 「お前以外誰がいるの?今更不安になるなよ。大丈夫だから」 ありがとう、と優一はぎゅっと抱きついた。 「っはぁあぁあー!緊張する」 「俺も。だいぶ久しぶりに来たなぁ。何も変わらない。」 収録の帰りに立ち寄ったのは雑居ビルの一室。まだどの店も開いてないため静まり返っている。優一は夜のお店などに行ったことがない為、周りをキョロキョロしてはタカの服を握りしめた。重たそうなドアを開けると、目の前にカウンター、奥の方には小さなステージとグランドピアノがあった。 「母さん、ただいま」 「あら〜〜!隆人!元気だった!?もう!全然顔出さないから寂しかったのよ?あら、可愛い子ちゃん!オーディション見てるわよ!」 笑うとそっくりなタカの母、神崎麗子。ほら座って、とテンション高くカウンターに誘った。 「隆人は何飲む?」 「俺、車だから水で。」 「なーに言ってんのよ!うちに泊まっていけばいいでしょ?あなたの部屋はそのままあるんだから!今日ちゃんとお布団もクリーニング出してきたんだから」 「ふふ、分かったよ。じゃあお任せで。あ、優一は飲めないから烏龍茶で」 「え?烏龍茶?カルピスもあるわよ?」 「あはは、烏龍茶で大丈夫です」 カルピスっぽい顔してる〜、と人懐っこい笑顔で手際よく作っている。優一はバーに来たのも初めてで、目の前の大量のお酒の瓶や、ステージをキョロキョロと見つめていた。 「えっと…可愛い子ちゃん、名前なんだったかしら?ごめんなさいね〜若い子の名前は難しくて」 「あ、えっと、ユウって呼んでください」 「OK〜!ユウちゃんは、近くで見るとこんなに顔が小さいのねぇ?目がくりくりでペットにしたいわ」 「本当、動物っぽいよ」 「そんなことないよっ!」 はいはい、と笑って麗子からカクテルと烏龍茶を受け取る。麗子もタカと同じカクテルを持った。 「ようこそ、神崎家へ」 カチンとグラスを合わせる。麗子からの乾杯の言葉に、優一はえ?とタカを見た。 タカはカクテルを一口飲み、美味いな、と麗子を見て笑うと、得意げにウィンクしていた。 「隆人が紹介したい人がいるって言ってたでしょ?そういうことよね?」 「あぁ。俺、優一と一緒に住んでる。これからも一緒にいるつもりだ。」 「タカさん…」 「優一に何度も何度も助けられて、今がある。こいつがいないと、俺、生きていけない。」 「そうなの…。隆人、よかったわね。そんな人に出会えるのは奇跡よ?そして、相手も想ってくれて、一緒にいられるなんて。」 「本当にな。…あ、やばい、なんか恥ずかしくなってきた。」 照れくさくなったのか顔をそらすタカを麗子は満面の笑みで見つめ、優一に向き直った。 「ユウちゃん、あなたはいいの?隆人よりまだまだ若いし、こんな可愛いんですもの、お嬢さん方もほっとかないと思うわ。」 「俺も、タカさんと生きるって決めました。…女の子じゃなくて、本当に、申し訳っ、ないです…っ、」 話していくうちに、世間とのズレを段々感じて、優一は緊張もあって感極まった。きっと、母親は可愛い女の子を紹介してもらって、結婚とか、孫とかの話がしたかったに違いない、でも自分が来てしまった、と優一は自分が場違いだと心の中で責めた。 「あらあら!ユウちゃん、泣かないで?そんなつもりじゃないのよ?あなたは、隆人なんかでいいの?って言うことだったんだけど…」 「おいおい、泣かすなよ」 「ごめんなさいね?ユウちゃん、私はユウちゃん大歓迎よ?」 「でもっ…俺、」 「優一、大丈夫だから。落ち着け。悪いな母さん、たぶん、優一緊張してたから。」 タカがゆっくり抱きしめるが、優一自身もなぜか分からないが、涙が止まらなくて焦った。 「よーし、じゃあ私がユウちゃんを元気にするために一曲歌いまーす!その間に泣き止んでね?」 この場を盛り上げようと、麗子はステージに行き、グランドピアノに座った。 タカは優一を抱きしめたまま、お!久しぶりだな、と声音からも嬉しさが出ていた。最近は歌わないから、プロの前で恥ずかしい、と言いながら軽快な音楽が流れてきた。 「っ!!」 「うん、さすがだな。」 ものすごい声量と迫力に思わず顔を上げると、とても楽しそうにピアノを弾きながら歌う麗子の姿。表情もコロコロと変わり、こちらを見て、優一が泣き止んだのを見て、ニコリと笑った。一曲終わると、優一はキラキラと見つめ、拍手をし、瞬時にファンになった。 「うわぁ〜!!とっても素敵です!」 「あ〜泣き止んでくれてよかった!隆人に怒られるところだったわ!気に入ってくれて嬉しいわ。この曲はタカがいじめられて泣いた時によく聞かせていたのよー」 「いちいち言うなよ。かっこ悪いだろ」 「男のくせにピアノ弾いてる〜って揶揄われてよく泣いてたわね。あと、失恋と〜」 「言うなって!」 親子らしいやりとりに優一が思わず笑うと、タカは困ったように笑い、麗子はあら可愛い、とつられて笑った。 「夜の仕事をしてるとね、本当にいろんな人が来るの。同性なんか驚くに入らないわ。世間なんか関係ない、お互いが思い合っていれば誰の許可もいらないじゃない」 「そうだな」 「…っ」 「世間体でいうなら私は未婚の母。それこそ周りの目は冷たかったし、父親がいないことで隆人にも辛い思いもさせたわ。でも私は幸せなの。昔も、今も。それでいいじゃない。だからね、ユウちゃん、私は誰が来ようとも今日はお迎えするつもりだったのよ。だって愛する息子が愛した人だもの」 「っぅ…っぅ…はぃ、ありがとうございますっ」 響く言葉に、心が綺麗に洗われていくようだった。いつかの青木に言われたあの言葉は、いつまでもひっそりと影を落とし、時折棘となってチクチクと刺していた。それが麗子の言葉、一つ一つが影を薄くしていった。 「おれ、タカさんが、大好きなんです」 「そう、隆人、よかったわねぇ〜!」 「タカさんとずっと一緒にいてもいいですか?」 「もちろんよ!私の可愛いもう1人の息子。これからも隆人をよろしくね?」 「はい!」 麗子はよろしく、と優一にハグをした。優一は目を潤ませながらほっとして身体を寄せた。 しばらく麗子と優一は他愛のない話をして盛り上がった。タカはほろ酔いで聞きつつも嬉しいのか、酒のペースが上がっていった。 聞き上手な麗子に優一はどんどん心を開き、麗子も嬉しそうに相槌を打った。 タカはフラフラと席を立ったあと、店の中に心地よいBGMが流れてきた。麗子は気にせずに優一に話しかけている。ふと、優一がステージを見るとタカがリラックスしたようにピアノを弾いていた。 「あの子、最近不安定だったのかしら」 「え、どうしてそれを?」 「ピアノに没頭してるから。嫌なことや不安なことがあると、こうしてピアノを弾き続けるの。この曲の時はそうとうきつかったんだなぁ〜って聞いてるのよ。」 「そうなんですね…よく自宅のスタジオにもこもってます」 そういうと、麗子は、やだー、根暗と爆笑していた。その後嬉しそうにタカを見つめた。 「事務所に入ってしばらくしてから、ほとんどここにも実家にも寄り付かなくなったの。電話やメールはするけど、本当に大事な行事以外は会う機会が無くなっていたわ。それに私、事務所からの電話が怖くてね。」 「事務所からですか?」 「聞いていると思うけど、自殺未遂よ。血の気が引いたし、すぐに病院に行った。そして事務所にも怒鳴り込みにいったの、そんな劣悪な環境なら辞めさせますってね。私にとっては歌わなくていいから、普通に息子が元気でいてくれるだけでいいの。富も名声もいらない。」 悲しそうに笑って、タカを優しく見つめる目は愛情いっぱいの母親だった。 「そしたらね、事務所は、隆人が人を傷つけたんだっていうのよ。信じられなかったわ。傷つけられてもやり返すことも出来なくて、抱え込むタイプだったから。…落ち着いた頃に、歌で罪を償うって、歌を謝罪の対価にしたの。私頭にきちゃって初めて隆人に手をあげちゃったわ。歌は人を癒し、寄り添い、幸せにするもの、罪を償うものじゃないって」 歌を愛する麗子の考えに、優一も頷いた。でも、その理由がないとタカは進めなかったと、麗子は目を伏せた。 「でもね、最近のタカはテレビで見ても明るくなったわ。ラジオも少し慣れてきたみたいだし、よく冗談も言ってたわ。あなたと出会っていたのね。ユウちゃん、隆人をここに連れてきてくれてありがとう。幸せな姿を見られて、私すごく幸せだわ」 乾杯、とグラスを合わせる。カチンという音にタカのピアノ演奏が止まり、優一のとなりに戻ってきた。 「母さん、もう眠い」 「あはは!強めに作ったから酔ったかしら。あなたも緊張してたのね?飲み過ぎよ。そろそろ閉めてうちに行きますか!ユウちゃんも手伝ってくれる?」 タカはぐでんとカウンターテーブルに伏せて目を閉じた。 優一は麗子とともに戸締りや片付けをし、タカを担いでお店を出た。煌びやかなネオンが輝いて、夜の街に優一はマスクの下の口を大きく開け、キョロキョロと見渡した。すると、黒いドレスの女性がカツカツとハイヒールを鳴らして近づいてきた。 「ママ、今日開けてたの?」 「あら!美奈子ちゃーん!来るなら言ってよ〜!今日ね、隆人がね、このユウちゃんを紹介してくれたの」 「「え?」」 あの日ぶりの再会に2人は固まった。麗子はあれ?顔見知り?と嬉しそうにしている。タカはうとうととして全く気がついていない。 「へぇ。ママ?このユウちゃんがタカの何って?」 「えっ、言っていいのかしら?美奈子ちゃんだけに…ここだけの秘密よ?タカの大切な人だって紹介されたのっ!私嬉しくって。今日はタカも潰れちゃったから連れて帰るわね!おやすみなさい」 「ママよかったわね、おやすみなさい」 優一は冷や汗でいっぱいだった。麗子を見ながら笑っているも、優一を見た瞬間、恐ろしく冷たい目だ。 優一はタカを抱え直し、美奈子の横を通り過ぎた。 「同性なんて、ママ可哀想」 優一にだけ聞こえる声量で呟き、思わず振り返ると、まだ冷たい顔で睨まれていた。 「ママは孫を楽しみにしてたのに、あなたのせいで台無しね。」 聞きたくなくて近くにいたタクシーを拾ってタカを押し込んだ。麗子は助手席に乗り、美奈子に手を振る。優一は急いでドアを閉めてばくばくする心臓に手を当てた。 (麗子さんは、認めてくれた!大丈夫、大丈夫) 優一は無意識にピアスを撫でた。麗子はタクシーの中でもご機嫌で、思い出の場所をたくさん教えてくれた。郊外の住宅街にある小さな二階建ての家に着くとタカの部屋まで案内してくれた。 「隆人!起きなさい!…あーもう久しぶりに帰ってきたのにこの子は…仕方ない、お風呂は朝入って?ユウちゃんもおやすみなさい。私は下の階にいるから何かあったら言ってね」 「ありがとうございます。おやすみなさい」 小さめのピアノとたくさんの楽譜、CDやレコード、音楽雑誌が綺麗に整理された部屋はタカらしい。写真は一枚もなく、壁にはピアノのコンクールの表彰状が何枚も飾られていた。 すでに用意されていた、いい匂いのする2組の布団に横になる。優一は美奈子のセリフを消し、麗子の言葉だけを信じて電気を消した。 「んっ、ふぅ、んっ、ぁ、」 「ぢゅるっ、んっ、っふ、ぅん」 気持ち良さに目を覚ますと、暗闇の中、優一のモノを咥えているタカ。 「ぇっ?タカさん?」 「ぢゅる、ぢゅ、っふ、」 「っああ、っあ、」 タカの頭を握りしめ、声を殺して首をそらす。 「タカ、さぁんっ、っぁんっ」 一心不乱に愛撫するタカを呼ぶも、全く止める様子がない。どんどん高められていく快感に溺れそうになるが、ここはタカの実家で下の階には麗子もいる。 「ダメだよっ、タカさんっ、もぅっ、しないで」 開かれた脚はカクカクと震え、握っていたタカの頭を押さえ込むようにして腰を押し付ける。 (ダメ、もうっ、イクッ) 「ーーっ!っ、ぁっ、ぁっ」 ビクッと大きく跳ね、タカの口の中に放つ。全身から力が抜け、脚を開いたまま余韻に浸る。タカは喉が渇いていたかのようにコクコクと喉を鳴らす。飲み干すと、まだ敏感な先端に舌をチロチロと這わす。 「んぅ!っ、っ、ぁっ、んっ、やだ、まだ、触んないでぇ」 鋭敏なそこは、気持ちいいよりも刺激が強すぎて腰が逃げる。それを追いかけ、貪るように刺激され続けて、じわりと涙が浮かぶ。 「はっ、はぁん、っ、タカさん、ダメだよ…ぁっ…んっ…起きてよぉっ」 タカは酔ってるのか、寝惚けているのか、目を閉じたまま。優一の言葉が全く届かない。優一は声を殺しながらも、タカを起こそうと小さく呼び続けた。 「っぁああ…ぅむ…っん、っふぅ」 突然後ろに長い指が入り、抑えきれない声が出て慌てて口を塞ぐ。いつもは様子をみながら慣らしてくれるが、今日は性急に指が増えて苦しさに力が入る。 「っぁ、っくぅ…、タカさ、んっ」 糸みたいな理性を必死に繋ぎ止め、溺れちゃいけないと、快感に抗おうと必死になる。 ぐぐっ 「っあああ!んぅ、ふぅっ、んっ…」 中の良いところを思いっきり潰されて腰が浮く。生理的な涙をこぼしながら必死に口を塞いで首を振って快感を逃す。何度もじわじわと責められ、発狂しそうなほどの快感をなんとか抑える。 「たかさん、っ、もぉ、つかれたよぉ」 変に力が入って、疲労した優一は、タカの腕を握って伝えるも荒い息遣いしか聞こえない。暗闇の中でだんだん目がなれてきてタカを見つめると、閉じてた瞼がゆっくり開いた。 「たかさんっ、おきた?…んっ!ふぅ…ん」 息遣いが近づいてきたと思ったら、独特の香りの舌が絡みついてきた。先ほど優一のを飲んだことを思い出し、顔から火が出そうなほど熱くなった。イヤイヤと逃げるも口内を犯され、中はいい場所を刺激する。たまらない二つの刺激に今にも出そうになり、ぐっと我慢する。すると、ぱっと体をはなし、ゴソゴソとバッグを漁り取り出したのはコンドーム。 (ここで最後までするの!?) 「待って…タカさん…っ」 タカは口で封を開け、素早く身につけると、優一の膝を思いっきり開き、ゆっくりと入ってきた。 「ぁっ、ぁっぁ、ふぅ、ん」 タカは何も言わないまま、ゆっくりと中をマッサージするように刺激され、優一はたまらない気持ち良さに必死に声を我慢した。 (どうしようっ、気持ちいい。また、出そう) いつものように激しく求めるようなものではなく、徐々に感度をあげていくような動き。優一は何も考えられなくなり、気持ち良さについに溺れていった。奥から迫り上がる快感に身を任せた。 「っぁあぁあっ!ーーッ、っは、っは、」 お腹にかかったものに自分が絶頂を迎えたことを知る。余韻に浸ろうとした時、タカはさきほどのように、ゆっくりと腰を動かし続けた。 (嘘でしょ!?) 「ぁ、いやっ、まって、まだ、」 またもや何も言わないまま、じわじわとねちっこい刺激に支配され、首を振って抵抗するも、すぐに強い快感に襲われる。ゆっくりな動きなのに瞬時に高められて行くのが怖くて爪をたてて抵抗する。 「もっ…やめてぇっ!怖いっ!…っあ、ぅあっ!あっぁああああー!」 ビクビクビクっと、どんどん絶頂の波が引かないまま次の絶頂が訪れる。出さなくても絶頂を迎え、狂いそうな次から次へと押し寄せる快感の波に、優一はここが何処だかも忘れて声をあげ続けた。 「っあぁ、っああ!ぁあああー!!ーーっ、んっ、んっぁ、っはぁ!ああ!あ!」 タカの動きはゆっくりのまま、顔中や首ににキスをされながら、優一は何度も何度も絶頂を繰り返し、意識を飛ばした。 ぐちゅん!! 「ぅああっ!?は?え?っぁあ!ああ!」 意識を飛ばしても強い刺激で無理矢理起こされ、引き続き快楽の沼に突き落とされる。優一は泣きながらタカにしがみつく。 (タカさん…一回もイってない?) 不安になり中にいるタカを締め付けると、一瞬止まり、ふっと笑った気がした。 「優一?今日、寝かさないから」 宣言通り、優一が起きているうちにタカがイッたのを見ることはなかった。 気絶したように優一はブラックアウトした。

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