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第34話 愛し方

「ユウ、どうした?風邪か?」 「えっ…とぉ、予防!ははは」 伊藤が優一を迎えに行くと、そんなに寒くない日に見慣れないマフラーをしていた。 車の中では取れば、というと、うん…と少し躊躇ってゆっくりと外す。フードつきのグレーのパーカーの下から白いシャツも着てきっちりボタンを留めていて、見るからに暑そうだ。 不審に思った伊藤は信号待ちに優一を見ると大きなため息をついた。 「お前…。俺、今日撮影だって言ってたよな?」 「はい。ごめんなさい」 「どうするつもりだよ。自分がアイドルってこと自覚ないのか?寮解消してすぐこれだとさすがに困る」 厳しく問い詰めると、コンシーラーで隠す、と聞きなれない言葉に、伊藤は更に疑問符がついた。よく見ると、至る所にあるのを優一なりに頑張って隠していたようだ。 「なんだ?記念日か何かか?」 「違うけど…。伊藤さん、どうしよう…やっぱり分かるよね?」 「フォトショで消してもらうしかないだろ。とりあえずアレルギーとでも言っておく。スタッフから噂たたないことを祈るだけだ。全く…意識が低いぞ。こんなんじゃ仕事にならないだろ。次は気をつけろよ?」 はい、としゅんとして落ち込んでいた。優一が付けた訳ではないが撮影に影響が出るのは、優一の責任だった。スタジオに入ると、伊藤はアレルギーで肌が荒れてるとヘアメイクや撮影監督に伝え、インタビューもあるため待機した。落ち込んでた優一だったが、メイクや衣装に着替え、カメラを向けられると、完全にRINGのユウに変貌した。 (さすがだな) あとでフォローしないとな、と苦笑いした。 オーディションのサブプロデューサーに抜擢されてから、忙しくなった優一。スタッフの指示も理解が早いため、オファーが多くなった。中でもインターネット放送を中心に活動する、オーディションの番組プロデューサー、マツリからの紹介がダントツに増えた。 (舞台のオファーも来ていたけど、とてもじゃないが今のスケジュールで稽古は無理だ) 優一は大河の舞台を観に行って感激し、自分もやってみたい、舞台のオファーがあったら優先してほしいと言っていた。大河の舞台は好評で地方公演や、続編も予定されている。 (優一には悪いが、オーディションが終わってからのオファーを待つしかないか…) 断りのメールを送ってすぐに、マツリから優一のスケジュール確認のメールがきた。 やってみたい企画があるが、優一で調整できないか、との内容だ。バラエティー系はレイがダントツで上手い。最近は誠も慣れてきて、一生懸命なのに天然発言をするところがウケてきた。優一はどちらかと言うと、世間では、可愛いけどしっかりしている、という見られ方でメンバーの誰かといて輝くことが多い。 (マツリさんが気に入ってくれてるんだろうな) しばらくすると、再びマツリから、本人に企画を提案したいから、優一と2人で食事をしながらどうかとまたメールがきた。 (ん…?大丈夫か?これ。) 伊藤は怪しんで、まずは企画書をいただきたいことと、個別での企画説明ではなく、スタッフ全員とマネージャーを入れること、事務所の会議室を提供することを伝えた。 「お疲れ様でしたー!」 大きな拍手をされながら、優一もお疲れ様でしたと頭を下げ、スタッフ全員と笑顔で握手して伊藤の元に戻ってきた。晴れ晴れとした表情から一転、伊藤に、今日はすみませんでした、と頭を下げた。 「大丈夫だ。表情も良かったし、インタビューも好感がもてた。切り替えてよく頑張ったな、大成功だ。」 素直に良かった点を言うと、この日初めて心から笑い、ありがとうございます!と元気に頭を下げてきた。そこからはいつもの優一で、差し入れをもぐもぐと幸せそうに頬張っていた。その後口に物をいっぱい詰めたまま伊藤の隣に座ると、ん、とケータイ画面を見せられた。 『ユウ、今週の土曜に企画提案したいから22時にダイニング薫に来れる?』 「え?直接きたのか?」 「ふん、ほほすたはひひ?」 「汚っ!食ってから話せ。」 「…えっと、どうしたらいい?スケジュールどうだっけ?行ったほうがいい?」 伊藤は思いっきり眉をしかめた。仕事のオファーを直接することはない。基本は事務所を通すもの。 「先ほどメールで断った。仮押さえがあるから断って」 「はぁい」 優一は素直に断りのメールを送ったが、すぐに返信が来ていた。ん〜、と困ったような優一の声に、伊藤は見せてといって画面を見た。 『仕事じゃなくてもいいから、話できる日あるかな?』 「伊藤さん、こういう場合どうしたらいいの?レイさんみたいにそろそろお付き合いとかに参加したほうがいいのかな?俺お酒弱いから失礼がないか心配」 優一はグループでの打ち合げ以外では所謂お付き合いをしない。本当に仲良くなった共演者と何人かでカフェに行くぐらいだ。 「…レイが空いてるか確認する。1人じゃ不安だろ。あと、今後の方向性もあるし、レイにバトンタッチしよう」 「俺、お仕事減っちゃうの?」 「ううん。スケジュールを開けて、お前の希望する舞台とか入れられるようにしたいんだ。どうだ?」 舞台の話を出すと、顔が明るくなり、やりたい!と伊藤に抱きついてきたのを、はいはい、とどかして座らせた。 「このままバラエティーに行ってもいいが、オファーが来ているうちに経験したほうがいい。後々バラエティーはあるはずだから。」 「うん、伊藤さんありがとう。それができたら理想かな」 「でも、舞台がしたい、とかはバラエティー班には言うなよ。一切呼ばれなくなるぞ。」 「うん!バラエティーだって頑張りたいから!」 じゃあ、レイさんと伊藤さんも一緒に調整します、って返すね、とメールを打つと、伊藤もスケジュールを確認し始めた。 (なんか…怪しいな) 毎週のオーディションの収録日。この日は、サファイアチームの仲間割れが起き、優一の檄が飛んだ。 「チーム内の優劣は必要ない。もちろん個人のランキングはある。でも全体での評価を落とすことは聞いてもらえない、見てもらえないよ!」 センターでもありリーダーになった、1位の都姫はこのチームの最下位である、最年少黒木リリアがうまくできず、泣いているのを無視してできるメンバーだけでやり始めた。見ていられなかった優一はモニタリング室から飛び出してスタジオに乗り込んだ。 「努力が足りないって自分が気づかないといけないと思います」 都姫は1位維持のプレッシャーで余裕がなくなっていた。それに比べて、下位チームのルビーは、個々の力が劣る分、チームで頑張ろうと動き、仕上がりに大きな差ができていた。 「都姫ちゃん、このままだと、全員が下位チームになってもおかしくない。はっきり言ってサファイアチームは人前に出られる仕上がりじゃないよ」 「っ!」 「リーダーである君からみてどう?これでステージ立てる?何人が君を信じて前を見てるの?」 都姫が振り返ると、全員が気まずそうに目を逸らした。すると、いつも明るいレミが泣き出した。優一は表情を変えない厳しい顔のまま、全員を見た。 「都姫ちゃんだけじゃない。全員に問うよ。君たちにお客さんは見えてる?評価してもらいたいんだよね?楽しませたいんだよね?この1週間でお客さんをイメージして練習してたのは、このチームには誰もいないことがパフォーマンスに出てる。こんなんじゃ話にならない。どんなに人気があってもすぐに落ちるよ。」 ついに全員が泣き出しても優一は厳しい台詞を止めなかった。 「本番はあと2時間後。どうすべきか全員で考えて。」 モニタリング室では、初めての優一に固まるサナと翔。タカと楓とカナタは言われても仕方ないと納得していた。 「みんな!今まで本当にごめんなさい!私、余裕がありませんでした!」 都姫は全員に頭を下げた。 「私は負けず嫌いなので、ルビーチームに負けたくない!もう一度、みんなで合わせよう」 涙を拭いて全員を必死に盛り上げた。1番にレミがはい!と元気よくいい、最年少のリリアの手を引いた。残りの2時間で今できる精一杯のステージを披露したが、ほぼ全員がランキングを下げ、都姫は一気に6位まで落ち、ルビーチームのマリンが1位に輝いた。 優一はサファイアチームをスタジオに呼び出した。そこには定点カメラのモニタリングと合わせて、マツリがカメラを持ってスタジオに入った。 「結果は予想通り。でも、これが最終結果ではないよね。みんなは今ここで気付くことができた。伝えたい人を思い浮かべての練習で一気に伸びる。モチベーションは意識次第だよ」 「はい」 「そして、お互いを尊敬すること。お互いないものを尊敬して高め合う。今回リリアちゃん、君には本番での強さが武器だと思ったよ。自分と仲間を信じることで思いっきり表現できた。これはこれからも大事にして」 リリアは嬉しそうに顔をあげ、はい!と元気よく返事した。都姫はずっと号泣しているのを優一は頭を撫でて、顔を見つめた。 「この悔しさは武器になる。しっかり持っていて」 「っぅ、っ、はいっ!ありがとうございますっ」 「いやぁ〜!今日のユウ最高だよ!」 「ありがとうございます…あまりにも酷かったので、言い過ぎちゃったかな、って心配ですけど」 「再生数過去最高だし、都姫ちゃんの時間外投票も伸びてる。」 「…なら良かったです…」 照れる優一に、レイはヒソヒソと伊藤に耳打ちした。 「なあ?俺らいる?見えてないかも」 レイはクスクス笑って、べた褒めされてる優一を見ている。伊藤は静かに様子を伺っていた。 「あのぐらいはっきり言っていいから!ユウのアメとムチ最高だよー!頭撫でたところはコメントも凄かったし」 「あ!無意識だった!大丈夫かな、セクハラとか言われてないですか?都姫ちゃんのファンに殺されそう」 あまり他人のファンを刺激したくない優一は心配そうにマツリを見つめると、笑って大丈夫大丈夫と言われて安心したように笑った。 レイは酒が飲めることでご機嫌で2人の会話に入らなくとも楽しそうだった。 「はい、ユウお疲れー」 「マツリさんー、だから、俺お酒飲めないんですって」 「一口だけ!これ弱いから大丈夫」 「本当ですか?なら…」 「やめろユウ。これショットだぞ。」 伊藤が渡された小さなグラスを取り上げるとレイの前に置く。 「お!いただきまーす!」 ごくっと飲み干し、美味しそうな顔に優一は羨ましそうに見ていた。 「…伊藤さん厳しいねぇ。こんなんじゃタレントの社交性も伸びないよ」 「いや、酒癖悪くて失礼になるので。素面のユウも社交性あるのでお酒なくても大丈夫です」 「お堅いねぇ〜。過保護すぎて可哀想。ユウ覚えておいて、普通は出された酒は飲むのが礼儀だよ」 「すみません…」 悲しそうな顔をして下を向く優一に、マツリは落ち込まないで、と頭を撫で、隣においでと優一を隣に移動させ、レイや伊藤が入れないオーディションの話をしていた。レイがトイレに行った後、事務所から電話が入った伊藤は席を立とうとすると、掘りごたつになった机の下から優一がものすごい勢いで脚を蹴ってきた。 (痛!蹴るなよ) 伊藤がビックリして優一を見ると、大きな目が泳ぎ、助けを求めるように見つめながら、しきりに伊藤の脚を蹴り続けた。 伊藤が場所を少し移動すると、優一の背中から服の中に手を入れて背中を撫でているのが見えて、すぐに理解した。 「ユウ、そろそろ時間だ。マツリさん、今日はありがとうございました。明日もあるのでそろそろ失礼します。」 「ユウは今寮なの?門限?」 「いや、あの…門限はないですけど…」 「ならウチに泊まる?明日送るよ?話したいことたくさんあるし。ここから近いんだ」 「マツリさん、外泊はまだ許可してないので。すみません。」 RINGは厳しいんだね、とやっと優一から手をはなした。優一はほっとしてすぐに伊藤のそばに行き、お疲れ様でした、と頭を下げてレイを迎えるためにトイレへと走って行った。 「…なんか警戒されてます?」 「タレントの管理は私の仕事です。体調管理も含めて。お酒は今後も飲ませませんので、どうぞご了承ください。」 「酔ってるから忘れるかもしれないけど、できるだけ覚えておきますよ」 ニヤリとされ、伊藤は内心舌打ちしていた。 車に乗せると優一は伊藤さんありがとう、と力無く言った。気付いてほしくて蹴っていたと反省していた。 最初はずっと太ももを撫でられていて、ふざけて腹筋を触りたいと言ってきたあと、服の中で背中を撫でていたそうだ。 「マツリさん、普段はしっかりしてるのに…酔ってるとそうなっちゃうんだね。気をつけなきゃ。」 「いやいや、酔ってるからじゃないでしょ!完全狙われてる!」 レイはショットのお陰でトイレで吐いていた。 伊藤もレイと同じく心配していた。 優一をタカの家に降ろしたあと、大きなため息を吐いた。 「ユウって自分のことになると鈍感か?どう見てもやばいよな」 レイは大きく頷き、窓の外を眺める。 「青木とユウが拗れたのもお互い鈍感だったからなぁ…。今が幸せならいいけどさ。」 いつも酒を飲むと笑い上戸になるレイがしんみりしている。先ほど吐いていたのもあって体調悪いのかと心配し、急いで家に向かった。 「レイ今日ありがとな。調整してくれて」 「ううん。大丈夫。」 「風呂入って寝ろ。もうきついだろ」 いろんな酒を飲み、最後にショットを飲んだレイはフラフラしていた。部屋に送り、伊藤もネクタイを外しながら自分の部屋に戻ろうとすると、腕を引かれたあと、酒の匂いが強くなる。 「はっ…ふぅ…んっ」 熱い舌が絡んで、それに伊藤もこたえると、だんだんレイの力が抜けた。 「はっ、はぁ…伊藤さん…」 「ん?」 「……っ、あの、」 顔を真っ赤にし、酔ってるのか潤んだ目で見つめてくる。レイのそれは固く主張し、求められてるのが嬉しくなり、伊藤からまた唇を寄せながらネクタイを取り、ジャケットを脱ぐ。 「はぁっ、、伊藤、さんっ」 口内の酒の匂いがする舌を追いかけながら、レイをベッドに押し倒す。馬乗りになって唇をはなし、レイを見ながらシャツのボタンをゆっくりと外していると、レイが口を抑えて目を逸らした。 バサッと脱ぐと、まだ服を着たままのレイの両腕を抑え、レイ、と呼ぶと逸らしていた目が合う。 「いい?」 「伊藤さん…」 「抱くよ。後悔しない?」 「っ、しない。俺、身体熱いっ、伊藤さん」 レイが目を閉じてキスを欲しがるのに応えて、服の中から腹筋や臍を撫でると、敏感なのかビクビクと反応する。しかし、下に行けばいくほど、色っぽい顔からだんだん体が強張っていく。服を全部脱がすと、さらに眉間にシワを寄せ、力が入っている。 「レイ?」 「…ん?」 ぎゅっと瞑っていた目が開き、一瞬伊藤をみてビックリしたような顔をした。その時に少し体から力が抜け、ほっとしたように笑った。 「嫌なら無理するな」 「嫌じゃない。ほら、萎えてないじゃんか」 「だけどお前…まぁ、嫌なら言えよ?」 分かった、と笑い、固く上を向いたソレをそっと触ると、やっぱりぎゅっと目を瞑って眉間にシワを寄せる。声を殺して、気持ちいいというよりは耐える、という感じだ。 「レーイ」 「ふぅ、んっ、っ、っ、」 緊張なのかとキスをしても、強張ったまま。慣らすところまでもいかないかも、と頭を撫でた。 「今日はここまでにしような」 「っ、ぁ、え?なんで?」 「緊張しすぎ。まぁ焦らなくてもいいから。」 するとレイは嫌だ、と抱きついてきた。やっぱりレイのものは萎えてはいないし、本人はしたがってるのも分かる。 (でもなぁ…) 苦しめたいわけじゃない。あの日のシュウトがトラウマになってるのだろうと伊藤は考えていた。 「伊藤さん、俺、もう中が熱くておかしくなりそ」 「お前身体と心が一致してないぞ。本当は怖いんじゃないか?無理しなくていいから」 「怖くない!痛いの我慢するから、早く」 「痛いの?」 伊藤は疑問符がいっぱいだった。するとレイは伊藤の手を取り、乾いて固く閉じたそこに伊藤の指を突き立てた。 「ぅっ痛っ!」 「っ!?バカっ!何してんだ!」 慌てて指を引っ込めるとレイは泣きそうな顔して大丈夫だから、最初だけ我慢すれば後でちゃんと気持ちいいから、と言ったのを聞き、舌打ちした。 「お前…どんな抱かれ方してたんだよ…。」 「知らねぇもん。これしか」 「教えてやる。痛みなんか感じさせないように。」 レイはまたぎゅっと目をつぶって、来るであろ痛みに耐えて強張っている。大きくため息を吐くとビクッと跳ね、機嫌を伺うように薄く目を開けた。 (どんな関係だったんだよ、こんなにビビって) レイのバッグからハンドクリームを出して、全部使い切るぐらいの量を出す。それをきょとんと見つめたまま、何がはじまるのかを見ている。 「足開け」 はっとしてやっぱり力を入れて受け入れようとしている。下はまだやめようと、目を閉じているのをいいことに程よく筋肉のついた胸にクリームを塗りゆっくりと撫でる。 「っ!?何してんの?!」 予想してなかった動きに顔を真っ赤にしている。怖がらないように優しく撫でると、やっぱりもともとは敏感なのかビクビクと跳ねては恥ずかしそうに目を逸らした。 (想像以上にクるな、この顔) 「レイ、どう?怖くない?」 「っ、」 うんうんと首を縦に振るも、返事もできないくらい全く余裕が無さそうだ。だんだん下へ撫でると、とろんとしていた表情から、はっと目を見開いた後、ぎゅっと目を閉じた。 (…やっぱりダメか。) 青木と大河が発見した時に手酷くされたのか、それともいつもだったのか、無意識にトラウマになっているようだった。 「レイ」 「もぅっ、大丈夫だからっ、入れていいから」 「何言ってんだ。無理に決まってるだろ。あーもぅ泣くなよ。抱けないって言ってるわけじゃないだろ?」 酔ってるのもあるのか、いつもは見れない駄々っ子のように嫌だと泣くレイを抱きしめて落ち着かせる。わがままが嬉しくて、自分も甘いな、と思いながら少し待ってろと部屋に行った。いつかのために、と置いてあったものを取ってレイの部屋に戻るとうつ伏せで泣いていた。 「お待たせ。ほら、泣き止めって。しないのか?」 「するっ、できるから、お願いっ、嫌いに、」 「なるわけないだろ?これだけのことで。あ、そのままでいいから。」 うつ伏せのまま脚を開かせ、冷たいぞと言って秘部に大量に塗りつけると思いっきり腰が跳ねた。 怖さよりも冷たさに驚いたようで顔だけが振り返るのに怯えさせないように、ニコリと笑うと、ほっとしたように微笑んだ。その隙に指を一本だけ差し込んだ。 「ぁっ…っ、っ」 ちょうど力が抜けてた時で第二関節まで入ると、小さく声を出すも痛くはなさそうだった。 「大丈夫か?」 「うん…すごい…痛くない、苦しいけど、大丈夫」 「ゆっくり動かすから、気持ち悪かったら言って?」 分かったと頷いたのを見てゆっくり奥に入れると指の腹がしこりを掠めた瞬間、ビクンっと大きく跳ね、中の指がちぎられそうなくらいに締め付けられた後、パクパクと弛緩した。 「レイ?」 「ーーッ、っは、 はぁ、っは、」 「痛いか?」 「っ…、ぁ、やばぃ、こんな、すぐ、気持ちいの、知らない、」 痛くは無さそうな声に少し引き抜いてまた同じ場所を掠めると聞いたことない声が小さく漏れる。だんだん力むこともできなくなってきて、指を増やしてもローションの力でスムーズだ。 「レイ大丈夫か?」 「ーーっぁ、ぁあ、っふっ」 枕に消えていく声に嬉しくなり、反応するところを加減しながらゆっくりと責める。ゆとりが出てきても慎重にほぐしていくと、少し腰を触っただけでも背中が反った。全身を火照らせて小さく善がる姿は、レイがシュウトと付き合ったと聞いて諦めた日から想像もしなかった。いや、しないようにしていた。いい関係で、サポートするだけの関係でもいい、と思った。 (のに、これはヤバイな) 怖がっていたのを忘れて、めちゃくちゃにしたい衝動を必死に抑え、レイの前では余裕のある大人を演じたかった。 「伊藤…さん?」 「ん?」 「俺じゃ、抱けない?」 時間をかけて解していると、不安そうに振り返って、今にも泣きそうだ。なぜそう思ったのか分からなくて、そんなことない、と言うもまだ不安そうだ。 「俺は、大河みたいに色気もないし、ユウみたいに可愛くもない。どっからどうみても男だし、伊藤さん彼女ほしいって言ってただろ?」 笑って聞いていたくせに、レイはちゃんと傷ついていた。叶わない、諦めた、そう言っていたのはこれだったのかと納得した。 「お前はたしかに男前で、どっちかというとカッコイイだな」 「はは…ありがとう。もう抜いて、疲れた」 「待て待て。そんな自暴自棄になるなよ。レイだから抱きたいんだよ」 「いい。無理しなくて」 「普段明るくてカッコイイお前が、俺の手でどんどんエロくなるの見て抱きたくないわけないだろ」 身体を密着させて襟足や首に甘噛みしながら言うとビクンと跳ねた。 「ほら…お前は敏感で、感度抜群。」 「っ、ぅぁっ、ンっ」 「やめていいのか?ここは、俺を求めてくれてるんじゃないの?」 「っぁあっ!ーーっ、っ、っ」 中に入れたままの指を、前立腺に強く押し付けてぐりっと回すとシーツを握りしめて首が反った。 「ほら、お前はずっと、俺を待っててくれたんだろ?」 「はっ、はっ、はぅ、っ、ンっ、」 「どうする?やめる?お前が決めろ」 指を出し入れするとローションの水音が生々しく聞こえる。伊藤はレイの言葉をゆっくり刺激しながら待つ。 レイは振り返りながら必死に言葉を紡いだ。 「ずるいっ、俺は、求めて、ほしいっだけなのに、強引に、来てくれないと、分からないっ」 優しさに慣れてないレイは、自分だけが高められていることが不安だったようだ。 「それはシュウトの愛し方だろ?俺は違う。俺はとことん甘やかしたいタイプなんだよ。快感だけのセックスじゃなくてその前も後もベタベタに甘やかしてやる。」 「っ!」 「レイ、愛してる。早く俺に染まって?」 レイのとなりに横になって、優しいキスを繰り返す。酒の匂いでさえも愛しくなった。伊藤はキスしながら自分のベルトを緩め、下着ごと脱ぎ捨てた。お互いのものが触れ、ビクッと腰を引いたレイに密着し、2人分を握りこむ。 「っつ!!」 「ハジメテは一緒にな」 またローションを手にとって、怖がる前に唇を塞ぎ、集中し始めたところでレイの手を取って握らせ、その上に手を重ねてゆっくり動かす。 「っふぅっ、んむぅっ、っぅ、っ」 キスが苦しそうで口をはなすと目の前で気持ち良さそうに喘ぎはじめた。 「あっぁあ、っは、はーっ、んぅふっ」 レイのモノは今にも爆発しそうに固くピクピク雫を吐き出す。さきほどの様な強張りはなく、快感だけを追いかけている。伊藤もレイに合わせるようにレイの手を強く握り激しく擦り上げた。余裕がないレイの表情に伊藤は興奮が最高潮になる。 「っはぁ、レイっ…」 「っぅああっ、あ、っああ!」 高い声が出て2人の手が生温かくなる。余韻に浸るレイにキスして見つめると潤んだ目と合い微笑んだ。 「可愛い」 ニコリと笑って言うとボンっと顔が赤くなり、お世辞言うな、と反対に転がってしまった。シーツを見ると一回出した後があってレイの耳に囁いた。 「ナカも気持ちよかったみたいで嬉しい」 「っ!!」 「レイ、もうレイの中に入りたい」 するとレイは耳まで真っ赤にして、ずっと待ってた、と小さく呟いたのを聞いて伊藤は耳や背中に舌を這わせ、うつ伏せにして腰を高くあげた。 「愛してるよ、ずっと一緒にいるから」 「うんっ」 時間をかけて解した分、少しの抵抗のあと、ずずっと入っていくと熱くて物凄くうごめいている。 (これは…ヤバイっ) 搾り取るような中の動きに、伊藤は大きく息を吐いて落ち着こうとするも、どんどん高められ呼吸が荒くなり、汗が流れた。さらに大きくなってしまったモノにレイが反応してさらに締め付ける。 「っはぁ…レイ…最高」 「伊藤さん…っ、ぁ、うそみたい、っ、伊藤さんに、俺、抱かれてるっ」 うわ言のようにそんな言葉を言われて、理性がとびそうになる。レイの腰を掴んで少し奥に進むと狭くなったところにぐりっと入る。 「ぅあっ!くぅっ、レイ、力、抜いて…?」 「ぁあああー!!っぁ、〜っ!!ふぅっ、は、は、は、ヘンっ、もう、分かんないっ、全部、気持ちいっ、」 「動くぞ…くぅ、レイっ、俺の、っ、っぁ、名前呼んで」 「ンンッ!はぁ、んぁっ、あつぃっ、っぁ、伊藤、さんっ」 「響って、よんで」 「ひびきぃっ、っ、ぁあ、っひびきっ、」 「ッッ!ーーッ、」 名前を呼ばれた瞬間、腰から頭までゾクゾクと快感が広がり、目の前の愛しい人の中を腰を使って愛撫する。逃げる腰を引き寄せて、レイのいい所を狙って追い詰める。 「っぅあああ!ぁあっ、すごぉっ、い、っ、ひびきぃっ、はぁ、気持ちいっ、はぁっ、ぁあっ、ひびきぃっ!!」 レイは理性が飛んだのか、名前と気持ちい、を連呼して甘い快感に溺れた。 「なんか、恥ずかしい」 「なんで?」 2人で湯船に浸かって、後ろから伊藤が肩に甘噛みすると、ンッとまた色気のある声を出した。 レイが盛大に絶頂を迎えたあと、伊藤もレイの背中に出した。その後甲斐甲斐しく世話し、中も綺麗に洗い、ヒノキの香りと愛情で包み、癒しの時間を味わっている。 「こんなの初めてだから」 ぶくぶくと水面に息を吹き込み、照れ隠しをしているレイの頭を撫で、首や肩に唇を寄せる。お腹に回した手では腹筋や脚を撫でる。 「ふふ、伊藤さん甘えんぼ」 「レイ〜大好き〜」 ぎゅっと後ろから抱きしめると振り返ってキスしてくれた。その顔は本当に幸せそうだった。 「伊藤さんカッコイイか可愛いかどっちかにしてよ」 「お前こそカッコイイかエロいかのどっちかにして。また抱きたくなるだろ」 いつでもいいよ、とクスクス笑って飽きるまでキスをした。 伊藤の部屋に行くとドライヤーでレイの髪を乾かし、抱っこしたまま横になる。 ふふっとレイが笑うとどうした?と少し眠くなったまま聞いた。 「伊藤さんに愛された人って幸せだったんだろうなぁ」 「最初だけだろ。後からは愛されることに慣れて、これが当たり前になって二股よ。」 「え?」 「お前はやめてくれよ?二股。俺はたぶん怒ったりしないけど、マジで普通に傷つくから」 「しないよ!…って怒らないの?」 「怒ったところで戻っては来てくれないだろ。なのに、しばらくしたら捨てられて泣きついてくるんだ、やっぱり私には響しかいない〜って。バカにすんなって感じだよな。」 元カノが帰ってきたらどうしようと一瞬過ぎったのに気付いたのか、伊藤はふふっと笑った。 「心配すんな。一度別れたら二度はないよ。まー…ヤるだけはあったけど、気持ちが戻ることはないかな」 バツ悪そうに言う伊藤が正直でレイは思わず笑ってキスをした。 「俺には伊藤さんだけだよ。だってずっと好きだから」 「待たせたな。あと、選んでくれてありがとう」 「選ぶだなんて。伊藤さんで頭いっぱいだったんだから」 「ん〜レイ〜!」 笑いあってキスして温かい布団と存在に包まれて2人は眠りについた。

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