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第35話 ターゲット
「レイー!体調だいじょーぶ?」
久しぶりのダンスレッスンにレイと青木が登場すると翔を含め全員が駆け寄ってきてくれた。
「なんか、RINGがいねぇとしょぼかったよな。青木、翔が代わりに覚えてるから習っとけよ」
その言葉に青木はハッと翔を見ると、今やる?といつもの嫌味っぽい感じじゃなくて普通の人でほっとした。ルイはテンションが高くて、自分の右側にレイ、左側にカナタをセッティングしてひたすら甘えていた。
「5.6.7.8のところで、こう、そうそう。さすがだね。一回通す?」
「お願いします」
翔に習う姿をレイがニコニコと見つめているのが照れくさい。今までの感じ悪いのはなんだったんだ、というくらいの雰囲気だ。 楓も2人を見て、安心したように自分の動き確認に入った。
青木は鏡越しにレイ達をみてると、急にルイがレイの頬を挟みちゅう、っとキスしてビックリして動きが止まった。
「ルイさん!何してんの?!」
「あははは!ルイさん、急に何ー?犬みたい」
犬に舐められた飼い主みたいにレイは爆笑している。なにかのノリかと、青木はほっとした。
「レイ、今日なんか、エッチ」
「っ!!」
ルイの言葉に全員が赤くなったが、1番茹で蛸みたいになったのはレイだった。カナタがはいはい、ルイも練習しよ、と距離をとらせ、カナタとレイは音源確認で外に出た。
「ルイ、珍しいな、こんなのやるタイプじゃねーのに」
「だってー!なんか今日のレイ、エッチなんだもん」
「お前欲求不満なんじゃねーの?」
「最近女の子捕まらないもんっ!」
拗ねてストレッチを始めたルイは身体が柔らかくて、開脚したと思ったらぺたんと上半身を床に付いて頬杖をついた。
「なんだろ?久しぶりにレイに会ったからかな?」
ルイは不思議そうに青木を見るも、知らないです、とダンスに集中した。翔の教え方は分かりやすく、レイの言ったとおり、だんだん大河に見えてきて青木の壁が無くなった。
「翔さん、こっちなんだっけ?」
「ここは、右脚のやつ」
「あぁ!そうだったそうだった!ありがとうございます!」
慣れてきた青木がどんどん話しかけると、次第に翔も距離を縮めてくれた。RINGがいない間に楓とも仲良くなったのか、談笑しているのも見てやっぱり普通の人だった。
楓と翔と青木が休憩していると、オーディションの話になった。翔は可愛いユウしか知らなかった、と苦笑いしていた。
「レミちゃんの順位が落ちたから俺心配!」
「姉の方だったか?」
「そうそう!あの回は俺も泣いたなぁ。なんかデビュー前にユウに怒られたのを思い出した」
へぇ?と、2人は興味深そうに見つめた。
「俺ね、もともとアイドル志望だからダンスも歌もそれなりに練習してきて、覚えるのも早かったんだ。」
確かに早いな、と2人は頷いてくれた。
「でね、うちのメンバーのマコちゃんは、もともと芸能界に入りたいわけじゃなくて、ユウと一緒にバンドがしたかっただけ。後々チャンスがあるかも、ってところと、ユウも一緒に事務所入れたから、アイドルって感じだったの」
翔はそれに大興奮して、高校の学園祭が凄かった!と鼻息荒く話していた。
「マコちゃんはダンスが苦手で、レイさんや先生からいつも居残りさせられて、注意されてたんだ」
正直、誠がいたことで自分は下じゃないと安心していたのだ。
「ただね、今回と少し違うのが、マコちゃんは本番前に急に仕上がっていく。誰よりも見せ方が上手くなるんだ」
へぇーと2人は同じリアクションだった。いろんなステージを想像しているようだ。
「それに俺は追いつかれるどころか、追い越された気がして、焦って…。そしたら、オーディションみたいにユウにめちゃくちゃ怒られた。俺もユウは寄り添って共感して味方してくれると思ったけど、マコちゃんを下に見てたならチームとしてありえない、頭冷やせって」
あの時を思い出して苦笑いすると、翔は目をキラキラさせて、楓は困った顔をした。
「ユウ…カッコいい!俺、あの日からユウのこともっと好きになった!」
「やー、あいつさ、マジではじめは二重人格かと思ったよ。俺はブチ切れしか見たことないから、今、翔やサナちゃんとのやりとりがキャラ作ってるようにしか見えなかったからな。ま、慣れたけど」
それが普段のユウだけどね、というと振り幅がすごすぎると、楓はシューズを結び直した。
「オーディション見て初心に返った気がして…毎週すごく楽しみ!」
「「ありがとう」」
2人はハモって顔を見合わせて笑っていた。ルイに楓が呼ばれると、2人のダンスを見つめた。
「大地、ユウ、グループのメンバーに大きな失恋を2回したんだってよ」
静かな声に、え?と横を見た。翔は2人のダンスを見ながら淡々と話した。
「1人は幼馴染、2人は、」
青木は翔以外の音が全て消えた気がして翔を凝視した。
「大地、お前だってよ」
あの日の誠や、優一が鮮明に思い出されて冷や汗が溢れる。
「大地はユウが好きなんだと思ってた。ごめん、勘違いして打ち上げの時、変なこと言った。嫌な気持ちにさせたかな、ってユウの話聞いて思ったんだ。」
お前がふったんだろうし、と目線が合わないまま話す翔はきっと、優一の気持ちに寄り添っているのだろう。
「でも、ユウは今幸せなんだって!だからもしユウを気にしていたら、大地も先に進んで大丈夫だと思う」
「全然大丈夫じゃないよ」
「え?」
気を抜くと泣き喚きそうなくらい、胸が痛んだ。
(「聞きたくない!!」)
(「キスもそれ以上もだめなの」)
ユウから解放されるために、一人暮らしを始めたというのに、まだ女々しく引きずっている。
「告白も、させてもらえなかった」
「え?」
「俺が、誤解して、ユウを傷つけて。気持ちに気付いた時には、ユウはそばにいなくて。やっと伝えようと思ったら聞きたくない、やっと諦めたのに、って」
ビックリしたような翔と目が合った。本当に大河に似ていて思わず微笑んだ。
「翔さんに言われた時はもう、俺たちはただのメンバーで、ユウには恋人ができて、虚しく引きずっていたのは俺。だから、図星でさ。最初すっごい翔さん苦手だった。」
苦笑いして言うと、ごめんな、と俯いた。
「ううん、事実だったから。でも前に進みたいよ…。でもやっぱり、可愛くて好きで、結局後から伝えて、もちろんフラれて…それでもずっとそばにいたい」
「俺さ…、マコが好き」
「え!?」
突然のカミングアウトに青木は結構大きめの声を出してしまったのを手で抑えられる。
「こら!ユウと同じリアクションするな!」
「え…ユウはなんて?」
「応援はできないって」
そうだろうな、と青木も思った。優一の優先はだいたい誠。誠と大河が拗れた時も大河に容赦なかった。それにしても、レイが言っていたとおり、大河と翔は似ていて、好みも似ていた。
「大河さんと、マコはできてるんだろ?」
「えっと…」
「いい。見てたら分かる。勝ち目も隙もないことも。」
「……」
「なぁ、俺たち、仲良くなれると思わない?」
ニヤリとした翔に、え?と首を傾げると、翔は想いを吐き出す人が欲しいんだと言った。初めは優一にその存在になってほしかったが、同性であることにコンプレックスを持っているようだから、この話題はさけているそうだ。青木も、先に進みたいと思っているから、その話に乗り、連絡先を交換した。
「聞いてよ伊藤さん!今日レイさん、ルイさんにキスされてたっ!」
「へぇ、仲良いな」
「ルイさん本当犬みたい!実家の京太郎にそっくり」
迎えの車に乗ると、青木はすぐに伊藤に報告するもサラッと流された。レイも思い出したのかクスクス笑っている。
「伊藤さん嫉妬とかしないの?」
「え?何に?犬?」
いいよなぁ、と見当違いのことを呟くのに青木はこれが大人の余裕か、と感心した。
「伊藤さんみたいに大人になりたーい!レイさん今日色気ダダ漏れだったから、ルイさんにエッチって言われてチューされてたのにー!俺が彼氏なら慌てるね」
「え?」
「あ、いやいや、いつものお遊びだよ」
やっと伊藤が反応するもレイが軽く言うと、そうか、と話が流れそうになるとレイが自分で爆弾を落とした。
「昨日のこと思い出したからかな?」
ぽっと頬を染めてニヤついたレイを伊藤が怪訝そうに横目で見た。青木はなんのことか分からず体を前に乗り出した。
「昨日何かあったの?」
「昨日…むぐぅ!!んーー!」
言いかけたところで、何かを察したのか伊藤が前を向いたまま、左手でレイの口を塞いだ。
「あー!伊藤さん!何で隠すのさぁ!」
「こいつはアホみたいにベラベラ喋るな本当に」
「アホじゃないよ!聞きたかったのにー!」
「んー!んー!」
呆れたように手を離し、いちいち言うな、と怒られていたが、レイの顔は幸せそうだった。 青木はいつか酒のつまみを作った時に聞こうとメニューを考えた。
一人暮らしの部屋は意外に快適で、たまに先輩たちのたまり場になっている。青木は料理を振る舞う代わりに食事代は全て出してもらっていた。 久しぶりに一人でゆっくり過ごせる夜は、録り溜めてたドラマや歌番組を軽く流しながら、こちらも溜まった家事をやる。もともと高校を行かないと決めてから家を追い出され、一人暮らしだった青木は懐かしい感じがしていた。あの時は意地になって家を出たが、毎月決まった日に母からの生活費で日々をなんとかやりくりしていた。今は少しずつ母に仕送り分を返している。
(みんな元気かな)
厳格な父は経営者。何かにつけて数字、数字で芸能界なんか数字で計れないものを断固拒否していた。ピアノやダンスを習ったのは社交場で生きてくるから、必要ないものには1円も出すことはなかった。 子どもの頃、おもちゃやサンタクロースの存在すら知らなかった。2つ下の弟が、中学受験に成功した日から、自分の家庭内での存在感は全く無くなった。そして勝手に受けたオーディションは合格するも、許可が得られなくて断念した。
(あの時もユウに助けてもらったんだっけ)
優一が見つけてくれなければ、今の自分は無く、いつまでもアルバイトをしていただろう。 感謝しか無いなぁとカレンダーを見ると丸つけされた自分の誕生日。RINGと伊藤さんが青木の家に集まってパーティーをしてくれるらしい。レイが丸をつけ、伊藤もこの日を全員オフに調整していた。 素直に嬉しくてあと3日が楽しみだ。ファンクラブ用に動画も撮った。自分の誕生日なんかを祝ってくれる人がいる、どんなに幸せなことだろう。 実家では一度もなかった誕生日パーティー。友達や彼女としか過ごしたことがないが、家族みたいなメンバーと一緒にいられることが嬉しかった。
「いよいよ明日で20歳かぁ〜!はやいなぁ」
「マコちゃんおじさんみたいー!」
青木と誠は誕生日パーティーの買い出しに来ていた。なんだかんだ居心地がいいコンビは作る人、食べる人で分かれている。先に車の免許を取った誠の運転で少し遠出をした。
「マコちゃん車買うの?」
「いやぁ、どうかな。だって高いじゃん。今日みたいにレンタカーでいいかなって」
「大河さんとドライブいったり、大河さんの地方公演行けるし、会いに行けるよ」
「なにそれ。メリットしかないじゃん」
嬉しそうにニヤニヤしているのをからかって、他愛のない話をして青木の家に荷物を置いた。
「おおお!綺麗!つか広い!」
「広さ重視だよ〜。ダンス練習したいし、ピアノも置かなきゃだし…。見て、キッチンが1番のこだわり!」
アイランドキッチンは機能性に優れていて、既に大量の調味料や道具がある。 何か作って、というリクエストに応えて簡単にオムライスを作ると一瞬で平らげた。それに笑っていると、チカチカとケータイが光る。
「あ、翔さんから…」
「えっ!?苦手じゃなかった?」
「そうだったけど、レイさんの言う通り大河さんにそっくりで、慣れちゃった」
メッセージを開くと一枚の写真。は?、と言うと、誠も見せてと隣に来て二人は固まる。
「「なにこれ」」
その後のメッセージは翔の心配だった。
「ユウはこれ普通なの?それとも止めた方がいい?」
写真はマツリの膝の上に乗せられ、お腹に腕を回されている優一。顔が反対側を向いていて表情がわからないが、マツリは優一の背中にベッタリくっついている。 慌てて翔に電話を入れた。
「翔さん、これ…」
「今、オーディションの打ち合わせの後にご飯に行こうってなって何名かできたんだけど…。ユウのあれは放置して大丈夫?本人が気にしてないならいいけど。こういうノリ大丈夫かなって」
「あれ?タカさんそばにいないですか?」
「なんでタカさん?いないよ。あの人が来るわけないじゃん。誘ってもいないと思うけど。」
青木は思わず固まった。一緒にいるメンバーを聞くと、翔とサナと優一とマツリだけだった。そばで聞いていた誠がタカさんに連絡する、と少し離れた場所に行った。
「まさかユウ、飲んでないですよね?」
「え?飲んでたよ、酒でしょ?マツリさんに飲むまでめっちゃ勧められてた。飲めないですって言ってたけど、頑張ってたなぁ。ショット2杯ぐらい。サナちゃんは甘いのならいけるみたい。俺は明日レコーディングだから断ったけど。俺もサナちゃんも明日早いからそろそろ帰らなきゃなんだよ」
「お店の名前教えてください!」
誠にお店の名前のメモを見せ、うん、と頷いたあとタカに伝えるも、これからラジオの生放送だと言う。
「青木、行こう!」
誠が車の鍵を取って青木を誘い、2人で酔っ払っているであろうメンバーの回収に向かった。青木は車内で伊藤に連絡するも、話し中だった。高級な飲食店が並ぶところに車を停め、ナビを見ながら路地を進む。一見さんお断りらしいが、翔が話を通しておいてくれたそうだ。翔とサナはもう帰ったようでお店の人がドアの前まで案内し、ごゆっくり、と去っていった。2人はなれない個室の雰囲気にキョロキョロしながら、優一が暴走していないかと不安のまま、ノックしたが返事はない。
「こんばんは、失礼します」
誠がドアをそっと開けると、パタンと閉めた。
「へっ?」
誠は一瞬ドアからはなれ、本当にここか疑った。その後もう一度ノックしてドアを開けると思わぬものが目に飛び込んできた。
「んぅっ、ふぅ、っぅ、」
馬乗りになって押し倒された状態の優一の唇にしゃぶりつくマツリ。腕も抑えられ、オーバーサイズのニットは胸まであげられ、呼吸の隙間もないほど激しいものに2人は絶句する。
「んー…いやだぁ、まつりさん、しないで」
弱々しく聞こえた声に、誠と青木は、はっとして大きな声でお疲れ様です、と挨拶した。マツリは流し目でちらりと見た後、気にしないでまた優一に向き合った。
「ユウ、メンバーも来てくれたよ。挨拶は?」
「ん〜…?だれー?」
「マコと大地」
名前を聞いた優一は、やっと顔を2人にむける。腕を抑えられ、真っ白な身体を半分さらけ出したまま赤い顔で、残酷なほど嬉しそうに笑って、おつかれさまぁー…とヘラヘラしている。
「入って。」
マツリの冷たい声に2人は変な緊張感のまま無言で入ってドアを閉めた。
マツリが優一の体を起こすと頭を撫でた。
「ユウ、これほしくない?」
「これってなぁに?」
「ユウになら舐めさせてあげるよ」
「んー?なにを?」
「口開けて」
「?あー」
頬をほてらせたまま座る優一は後頭部を大きな手で抑えられ、マツリの主張したものにデニム越しに顔を近付けられようとした時に誠がとっさに優一の腕を引っ張って胸に抱き寄せた。
「優くん!!人に迷惑かけちゃダメでしょ!」
珍しく誠は優一に怒鳴る。マツリへの怒りをメンバーである優一が迷惑をかけた、というスタンスで流そうと考えたようだ。優一はニコニコしたまま、誠にキスしようと真っ赤な舌を出すも誠に避けられていた。 強く抱きしめられ、肩ごしに青木を見ると、ふにゃっと笑ってまた舌を出して誘う。
「青木だぁ」
「っ!!」
「ほら!帰るよ!マツリさん、優一が本当に失礼と、ご迷惑をおかけしました。次回からはお酒は飲ませないようお願いします。」
誠の謝罪中、優一はマツリをぼんやりみながら指を2本舐め、だんだん深く咥え込み、まるでフェラをしているようにも見える。気持ちよくなってきたのか色っぽい声を出して誠にもたれている。 青木もマツリも優一から目が離せなかった。
「優くん、マツリさんにごめんなさいは?」
「んっぁ、…ごめんなさぁい」
「はい、バイバイして」
「バイバーイ」
口から指を抜いて、可愛く手を振るのをマツリが濡れた指を絡みとって引き止める。
「ユウ、俺のところ来ない?」
「ん〜?どこ〜?」
「俺はチュウしてあげるよ?」
「ん…チュウして?」
「優くん、ダメ!マツリさん、申し訳ございません!お疲れ様でした!」
誠は急いで優一を抱き上げてお金を支払って店を出た。青木と誠を後部座席に乗せ、タカの家に向かう。
「青木、耐えてよ?」
運転席から誠の切実なお願いを聞き、頷いた。 優一は青木の膝に、対面するように乗ってぎゅうっと抱きしめた。んー、と唸りながらまた指を舐め始めた。時々青木?と上目遣いでみてきたり、ご機嫌に鼻歌を歌ったり、青木の指で遊ぶのがたまらなかった。その後、うー、うー、と唸りはじめ、気分が悪くなったのかと心配して背中をさすった。
「…まこちゃん、どこ行くの?」
「優くんの家」
「いま…タカさんにあえない」
「え?」
「お酒飲んだの…怒られちゃう」
隣の青木にぎゅうっとしがみつき、鼻をすする声が聞こえた。
「ユウ?大丈夫?泣いてるの?」
「優くん、ごめん。心配だったからタカさんに連絡しちゃった」
「ううん、大丈夫。俺が悪いから」
優一の髪を撫でるも、ひっく、ひっく、と泣き声がして心配になる。
「なんでおれ、こんななんだろぉ」
「優くん?」
誠も運転席から声をかける。冷静になる瞬間があるのか、波があるようだ。優一は酔った時のことを覚えていて強い後悔に襲われていた。
「マコ、俺ん家にしよ!」
「うん!優くんの酔いが覚めるまでゆっくりさせてもらうね」
「ありがとお」
ぎゅっと青木にしがみつき、お礼を言ってしばらくそのまま甘えた。
「青木のお部屋?広い…」
「そんなことないよ。ほら、ユウお水。」
ありがとうと受け取って、ゆっくりと飲むのを青木と誠はほっとして眺めた。飲み干したあとはまだ酔いが回ってるのか、時折頭を抑えて目を閉じたり、ヘラっと笑ったり忙しかった。 ソファーに座るユウを横にして、ブランケットをかけると、もぞもぞと気持ち良さそうに息を吐いた。
「ん?優くんどうしたの?」
「ふふっ」
ふにゃりと笑った優一は青木と誠を交互に見て、また蕩けそうな顔になった。
「俺の好きな人が集まってる」
「「っ!?」」
「まこちゃんってば全然気付いてくれなかったから、おれ、辛かったー。たちばなは気付いてたんだよー?なのにまこちゃんは彼女いっぱい変わるし」
「え?!」
久しぶりの名前に誠は思わず大きな声を出した。
「でもね、たちばなは、俺が好きだったんだよ」
「えぇっ!!?」
誠の驚きっぷりに青木は何?誰?と急かすと、高校の時のバンドのメンバーでドラムの子と言った。おれはまこちゃんだけだったから応えられなかったとブランケットを口元に持っていってもそもそとしていた。
「優くん…」
「俺ね青木が好きだったんだぁ」
「っ!」
青木が目を見開いて優一を見ると、優一は嬉しそうにふふっと笑った。
「はじめてみたときの、一目惚れかなぁ?かっこよくて綺麗でびっくりしたぁ」
「……」
「そんな青木ももう20歳だねぇ」
「……」
「うれしいなぁ」
幸せそうに笑う顔に2人は見惚れていた。
「青木の誕生日には飲もうかなぁって思ってたけど、ダメそう…」
誕生日を特別な日と認識してくれていた優一に青木は愛しさでいっぱいになって、一歩進もうとしたところで誠に服を引っ張られる。
「気持ちは分かる。でも、耐えて」
困ったように笑う誠に、青木ははっとして、ありがと、と誠に呟いた。うー、吐きそう、と優一が言い出してトイレに連れて行くと腹にあるものを全て吐き出しては泣いていた。2人は背中をさすってあげて、ひたすら介抱した。少しスッキリしたのか顔色がよくなってまた水を飲んでいると、優一が急に謝罪した。
「ごめん、迷惑かけた。」
「ほんとだよ〜!優くん危なかったよ?」
「ん…。お酒断れなかった。ちっちゃいグラスだから大丈夫と思ったけど、喉が辛くなって。翔くんたちがいないなぁ、と思ったらマツリさんとチュウしてた」
ところどころ記憶がないのか、んーと唸っている。
「マツリさんも酔ってたの?」
「分からない!でも車できたからみんな送るって言ってたけど…」
「とにかく間に合ってよかった」
「ん?2人はどうやって場所わかったの?」
「青木が翔くんに聞いたって」
ありがとぉ、と青木に抱きつくと力強く抱きしめた。
「ユウ、本当に気をつけてよ。ほっといたらフェラまでさせられてたよ」
「え〜?さすがにそれはないよ〜。マツリさんも酔ってたんだろうねきっと。男の俺にチュウするなんて」
「ユウ!!」
まだ警戒心のない優一に青木は怒鳴った。優一と誠はびっくりして青木を見た。
「お願いだから、自分を大切にしてよ!俺…あんなの見てられないよ」
「チュウのところ?俺やっぱキス魔なんだなぁ…」
「違う!!脱がされそうだったの!ユウからキスしたんじゃない!あれは押し倒しされてた!」
その言葉に優一はきょとんとしている。やっぱりところどころ記憶がないようだ。誠が苦笑いしながら2人を離し、優一のおでこにデコピンをした。
「痛っ!」
「優くん、約束して!お酒飲むなとは言わない、付き合いもあるだろうし。」
「うん」
「でも、メンバーか、タカさんとか、優くんのことを知ってる人がいない場所では飲まないで」
「…ごめんなさい」
「あと、自分に好意を持ってる人を、そろそろ見抜いてよ」
誠は赤くなった優一のおでこを優しく撫でた。
「俺の気持ちだって、青木の気持ちだって、優くん気づいてなかったよ」
優一は目を見開いて2人を交互に見た。同じように困ったような、傷ついたような顔に視界がぼやける。
「俺も青木も、優くんの幸せだけを祈って、諦めたんだから、こんな姿見せないでよ。心配でしょ」
「っぅ、っぅ、ごめん」
「自分でもっと警戒しないと。タカさん悲しませたくないでしょ?」
うんうん、と激しく頷くのに誠は笑って頭を撫でる。
「今日の姿はタカさんは傷つくよ。わかった?」
「うん…っ、ごめんなさい、っ、ありがとう」
青木は誠の話を聞いて救われたような気がしていた。優一の心にすっと入った言葉で反省した後、ありがとうと青木と誠に飛び込んだ。
しばらくして、またトイレに駆け込んだ優一に水の用意をしていると、インターホンが鳴った。青木が出ると、焦ったようなタカだった。
「悪い。回収ありがとう。優一はいるか?」
あがってください、と通すとトイレのドアを開けっ放しで誠が介抱し、吐き続ける優一を見て、タカは大きなため息をついた。
「全く…。青木、マコちゃんありがとう。」
疲れ切ったような顔で、誠と代わり、背中を摩るもまだ吐きたいのに吐けなくて泣きはじめた。そんな優一の喉にタカは指を突っ込んで吐かせていた。
「だ、大丈夫なんですか?そんな…」
「大丈夫だ。とりあえず吐かせないと、眠った時に吐かれた方が危険だから」
まだはくはくとする優一に指を突っ込んでいた。
優一は吐き気が収まったのか、だらりとタカに身体を預け、水を飲ませてもらっていた。少し飲むと、タカに身体を預けたまま、安心したように眠った。
「悪いな。やっと落ち着いた。」
「優くん寝ちゃってる」
「タカさん、ご飯食べていきません?試作品ですがマコちゃん美味しいしか言わなくて」
疲れた様子のタカを気遣って、少し休んでいくよう提案すると、相当疲れているのか、お言葉に甘えて、とソファーに腰掛けた。誠と青木が優一を青木のベッドに寝かせ、料理の準備をした。
「お!青木、これ本当に美味いぞ!」
「ほらぁー!言ったじゃん!」
「マコちゃん信用できないもん」
タカが美味しいと食べてくれることが嬉しくて、記録用に料理の写真を撮った。拗ねる誠にフォローしつつ、普段聞けない話をたくさん聞くことができた。
「あ、青木、日付け変わったら20だってな?」
「はい!やっと大人の仲間入りです!」
「酒癖よかったら飲みに連れてってやるな」
ニコっと笑うのに素直に嬉しくなってありがとうございます、と頷いた。
「優一がお前へのプレゼントどうしようってパソコン見て唸ってたよ。真剣だったからオーディションの資料かと思ったら…レビューとか一個一個見てた」
思い出して笑うのを見て、青木は嬉しくてにやけたのを誠にからかわれた。
「明日は泊まるんだよな、RINGは本当に仲がいいな。ブルーウェーブで泊まったことなんか一回もないよ。今は住んでる場所も知らないし。あ、俺のだけ全員知ってるのか。」
2人はRINGが普通だと思っていた分、びっくりだった。後々そうなっていくのかと思うと少し寂しかった。
「お前たちは大丈夫だよ。お互いの信頼関係が出来ているから。」
不安そうな青木に笑って、食器を自分で片付け始めたタカに2人が慌ててやります、と追いかけるときょとんとしたまま、洗い物を終えた。
「働かざるもの食うべからず、だろ。先輩だろーがさせないと調子に乗るぞ」
「78は誰もやってくれませんでした」
「いやぁ、ルイに触らせないだけでいい判断だよ。」
ククッと笑って、気持ち良さそうに眠る優一を抱き上げ、また明日連れてくると行ってドアに向かう。
「あ、タカさん…。マツリさん少し警戒した方がいいです。優くん気に入ってるみたいです」
「そうか…。少し様子を見る。今日は2人ともありがとう。あ、青木。」
タカはチラリと腕時計を見たあと振り返った。優一を一回下ろし、着ていたライダースジャケットを脱いで、はい、と渡した。
「え?」
「日付け変わったな。誕生日おめでとう。何も用意してなかったから、それあげる。サイズ同じぐらいだろ?」
「え?あ、こんな高そうなの…」
「着てみ?」
白いロングTシャツの上から羽織ると、誠がおお!大人っぽい!似合う!と騒ぎ、いいないいな、とテンションが上がっていた。
「俺より似合ってるよ。今度飲もう。じゃあおやすみ」
また優一を抱っこして去っていった。閉まったドアを固まって見ていた青木は顔を真っ赤にしてしゃがんだ。
「なにあの人。かっこよすぎでしょ」
キュンとした胸を抑えるが、嬉しさで溢れてどうしようもない。誠は着させてと青木からライダースジャケットを取ると、ひいっと声を上げた。
「これ!めっちゃ高いブランドのやつ!!」
2人でネットで調べると限定品でとんでもない額になっていた。 誠はやっぱり着てみたいと駄々をこね、許可が出ると鏡のある部屋からランウェイ風に登場し、2人で何度も交代して遊んでいた。
「もー嬉しすぎー!今日が楽しみだよ!」
「さて!俺も帰ってプレゼント取ってくる!」
「マコちゃんもタカさんぐらいのくれるんだろうなぁ〜!」
「そんなの無理だよっ!」
笑いながら誠を見送って、今日のための料理の仕込みをはじめた。
「…はぁっ、可愛い、可愛いよユウ」
「んっ…ふぅ…、やだぁ、んぅ…ダメ」
「ここも敏感だね?」
「ンッ!、やめてよぉ…あれ…?しょうくんたちは?」
「明日お仕事だって」
「あしたね、めんばーのたんじょうびなの」
「そっか。嬉しいんだね。可愛い。ユウ、今2人きりだよ。集中して」
「しゅうちゅう?…またおさけ?ンッ!あ…ダメだよ、マツリさんっ、っぅあ、おさけだめって、んぅっ、おれ、いわれてるのに、怒られちゃうっ、」
「ユウ、べーってして」
「べーっ、ンッ!んぅ、ふぅっ、んちゅう、」
「はぁ、はぁ、はぁ、ユウっ、ユウっ」
暗い部屋にパソコンの画面だけが光る。固定されたアングルの映像は先ほどのもの。前もってあの個室を選び仕込んでいた。思わぬ邪魔が入ったが、僅かな時間でも充分におかずになると、マツリは恍惚の表情で画面を見た。
(エロくて可愛いくて最高。舌足らずなのと予想通りのエロい声がクる。大きな目がとろんとして、酔ってるからたまにふにゃりと笑うとたまらない。邪魔が来る前に突っ込んでしまえばよかった。マネージャーやメンバーが止めるのも仕方ない)
回されてもおかしくない、と思った瞬間、マツリはニヤリとした。とある趣味グループのアドレスにメッセージを送った。
「いいターゲット見つけました!今回はレベル高いよ」
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