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第37話 家族
周りが温かくて目を覚ますと、左側に大河、右側に優一、下に寒そうにしている誠。
(あれ…みんな??)
寒そうな誠が気になって起き上がると、大河も目を覚まして青木はしまった、と焦った。大河は寝起きが悪い。怒られるかと思ったら頭を撫でられて、ふわっと笑った。
「青木、おはよう」
「っ!?…あ、おはようございます…」
「んー!よく寝た」
(珍しくご機嫌だ!朝にあんな顔見たの初めて!)
真っ赤になる青木を気にせず伸びをしている大河をしばらくみていたが、はっとして誠にタオルケットをかけると、ぬくぬくとタオルケットに潜った。 それを見た大河はすぐに隣に行き無理矢理タオルケットに入り猫みたいに二度寝をした。
(猫だ!本物の猫!)
猫飼いたいなぁと携帯で調べようとすると、昨日の母のメッセージがそのままだった。
「っ!」
(あ…夜に俺…)
思い出した青木は少し恥ずかしくなった。伊藤の包容力と、メンバーの温かさに感動して、また泣きそうになる。
(俺にはみんながいる!)
両頬をベチンと叩き、気合いを入れ直して母親に返信をする。
「ママへ
メッセージありがとう。僕はこの世界で頑張っています。いつか届くよう精進します。大空にもよろしく伝えてください。応援しています。 大地」
打ち終わってほっと息をつくと、優一がぼんやりと目を覚ました。
「ユウおはよう」
「ん、おはよう」
「ふふ、まだ眠そう」
「あおき、あおきがいるから、みんながんばってるんだからね」
「…うん。ありがと」
またすぅすぅと眠りに落ちた優一の髪を撫で、伊藤が呼びに来るまで優一を胸に抱きしめて二度寝をした。
「猫?」
「うん!飼おうかなぁって」
「へー!いいじゃん!!どんな猫?」
「どれがいいかなぁ?迷うー!」
いつも通りの青木にほっとしながら、バンの後部座席で優一と青木が猫の画像を見ている。
「なんで猫ほしいと思ったの?」
「癒しがいたらなぁって…。ふふっきっかけは大河さんだけどね!可愛いなぁって!」
「あはは!たしかに!!」
これ可愛い、と優一が指をさすのはアメリカンショートヘア。画像の写真が上を見上げていて可愛い。
「でもこれも可愛いくない?」
「スコティッシュフォールド…可愛いー!!」
「だよね!だよね!あーどうしよ!仕事終わったら見に行かない?」
「行くー!」
この会話を伊藤とレイは前でクスクスと聞いていた。猫飼ったら遊びに行くよ、というと青木は嬉しそうに頷いた。
「うはぁー!迷う!ユウどうしよう?」
「可愛いねぇ、飽きないねぇ。俺ここに住めるわぁ」
ペットショップには可愛い猫をはじめ、犬やハムスター、ハリネズミや金魚など様々。動物が好きな優一と青木はテンションが振り切っていた。
「ふふ、こいつ、可愛い。ユウに似てる」
「え?おれ?」
ポメラニアンがとことこと前を歩き、ボールを加えて運んでいた。 ガラスケースに張り付き青木は可愛い、とデレデレしていた。
「犬にしようかなぁ。」
「犬も可愛い…っ!俺もほしい。犬なら大きな犬がほしい。」
迷っていると、店員さんがたまたま青木が狙っていたスコティッシュフォールドを抱いて出てきて、抱っこしてみます?と声をかけてくれた。青木の腕に抱かれると、パチパチと青木を見つめた後、グリグリとあたまを腕にすりつけた。
「「可愛いーーー!!」」
白と茶色が混ざった毛並みとまん丸で大きな瞳。二人は一瞬で虜になった。青木はこのお店で家族を手に入れた。
「ユウ、そろそろ帰らなくていいのー?」
「可愛いー!やだ帰りたくない。青木、この子借りていい?」
「ダメに決まってるでしょ!」
ユウはずっと猫じゃらしで遊んでいた。元気に遊ぶ姿に可愛くて仕方なかった。猫と優一の写真をたくさん撮ってニヤニヤする。
(ユウと猫って最強に可愛い)
「ねー?お名前はどうするの?」
「ノンタン」
「絵本の?」
「うん!初めて買ってもらった絵本だから。」
「そっか!ノンタンこっちおいで!」
優一は名前を呼び寝そべってノンタンをお腹に乗せると顔に向かって歩き、優一をクンクンと確かめていた。
「うはっ!」
「こーら、ノンタンやめなさーい」
優一の口をペロペロ舐め始めて青木は引き取った。購入したての猫タワーに乗せると自分で遊び始めた。
「あー!なんで取るのさ!」
「ユウ、タカさんの迎え呼ばないと。」
「帰ってほしいんだなー!?意地悪!さっき呼んだもん。返事ないもん」
優一は猫タワーにいき、ずっとノンタンを眺めている。青木も隣に座る。
「…青木?俺、昨日まで青木のこと何も知らなかった。お前はさ、すごい覚悟でこの世界入ったんだって分かって、俺も気合い入れ直したよ」
「変なところ見せちゃったね。生まれたときから道が一本しかなくて、でもここぞって時に弱いから中学受験もダメで。いつも音楽とか、こっそり見に行ったライブとかで癒されてたんだ」
そっか…と優しい笑顔にポツリポツリと過去の記憶が蘇る。
「大地、なんなのこの成績は!これじゃあ高校にも入れない!パパになんて言えば…もう貴方は本当に手がかかるわ!長男なんだからしっかりしてちょうだい!次期社長候補の自覚はあるの!?」
勝手に決まってた将来の仕事。保育園でも小学校でも意味は分からず将来の夢は「けいえいしゃ」と書いていた。意味が分かっていないから作文も書けず、出さないことでまた指導され、家でヒステリックに怒鳴られる。学校行事でピアノ伴奏に選ばれようが、リレーの選手になろうが、褒められることはなく、そんなのいいから勉強しなさい、と母親は焦っていた。その理由は父親。
「お前は家にいて何をしているんだ!俺は汗水流して働いているのに!子どものしつけもできんのか!」
会社のストレスを持ち帰って当たり散らす父親。その父親が可愛がっていたのは弟の大空だった。
「大空〜。お前だけはいい子だなぁ。いいか、兄ちゃんみたいになっちゃダメだぞ?しっかり勉強して、いずれパパの椅子に座るんだ」
「うん!パパ大好きー」
「大空は可愛いなぁ。パパの癒しだ」
「後で分かったんだけど、俺を生んだ時、ママが体調悪くて入院していたらしい。その間にさ、まぁよくある不倫してたみたいで。その不倫相手がまたエリートの女性。弟を生んでパパが引き取った。エリートの女性は仕事人間だから結婚はしない、って。弟と俺はママが違うんだ。」
「へえ…複雑だね」
「弟はパパにしか感情を出さないし、学校とかでは無愛想でよくいじめられてた。助けてもほっといてください、って言われてさ、たまに、低脳が移るので近付かないでください、とか言われたよ」
「わーお。怖いね」
「僕が会社を継ぐので、兄さんは好き勝手やったらいいんじゃないですか?荷が重いでしょう」
「え?大空の夢は?」
「ゆめ?パパの会社を大きくすることです。」
「本当にそう思ってるの?」
「もちろんです」
母親は自分が生んだ子の出来が悪いことを負い目にし、ひたすら青木を責めた。あの女の子供よりもウチの子が、と焦っていた。
「へぇ。芸能ですか。メンタル弱いのに大丈夫ですか。エキストラとかですか?まぁご自由に」
「いい加減にしてちょうだい!これ以上ママを困らせないで!」
応援どころか出て行け的な空気のまま家を飛び出したそうだ。
「青木は頑張ってるよ!青木と同じグループでよかった」
ニコニコと笑いかける優一の足に、ノンタンが乗ってきて嬉しそうに抱き上げている。
「ノンタン、青木をよろしくな?」
優一がチュッとノンタンにキスをするとペロペロと優一を舐めた。青木は可愛いやりとりに破顔した。
「ノンタン、一緒に寝よ」
ニャーと鳴くノンタンを抱き上げベッドに降ろすと温かくてご機嫌だ。青木に寄り添い、丸くなって眠った。
「あー可愛い。幸せ」
家族が出来て青木は幸せいっぱいで目を閉じた。
「タカさん猫飼いたい!スコティッシュフォールズがほしい」
「スコティッシュフォールドだろ。ダメだ。自分の世話もできないのに」
「じゃあ犬は?」
「犬はもういるから」
「え?!本当に!?」
「ポメラニアンでな、名前は優一って言うんだ」
「もう!!バカ!期待させないでよ!」
プンプン怒るのをクスクスと笑う。
「俺の実家では動物結構いたからさぁ、見たら欲しくなった!」
「そういえば優一の家族ってどんな人たち?」
「あ、そっか。お父さん、お母さん、お姉ちゃん、俺。」
「へぇ。お姉ちゃんがいるのか」
「美容師でさ、よく実験台にされてたよ。緑とかピンクとか赤とかの色にしてた」
似合いそうとクスクス笑い、ふと、タカはイメージが浮かんだ。
「青木ってさ、赤似合いそうじゃない?」
「え?赤って大河さん…」
「メンバーカラーじゃなくて髪色!どうかな。」
「確かに似合いそう!」
「お前もピンクにしたら?」
「えっ?似合うかな?」
髪を掴んで見る優一はしばらく考えたあと、うん!やる!と、姉に連絡をし始めた。
「もしもーし、姉ちゃん?元気ー?うん、髪染めてー?」
会話にタカが吹き出しているが御構い無しだ。
「ユウ、あんたすっごい人気だよ〜姉ちゃん嬉しい!まこちゃんも元気?」
「元気だよ!まこちゃんと会いにいくね!」
「ね!お願いがあるんだけど、ブルーウェーブって知ってる??私お客さんから聞いて大ファンになっちゃったの!お店があるからライブは行けないんだけど、会ったらよろしく言っといて!」
「あー!そうなの?誰が好きなの?」
「もちろんタカでしょ!あーでもカナタも好き…やっぱりタカかな!タカの声はもう神!!」
クスクス優一が笑って、タカをチラリと見た。ん?と優しい顔がこちらをみると、優一はちょっとまって、と言い通話をスピーカーにした。
「タカさん、姉ちゃんがファンだって。なんか言ってあげて。」
「こんばんはー、ブルーウェーブのタカです。」
「えっ!?はっ!?うそでしょ!?えっ!?」
リアクションが優一に似ていてタカはクスクスと笑った。
「ちょっとユウ!?本物!?本物なの!?」
「タカさん、信用されてないよ」
「ふふっ。…じゃ〜歌いますね。」
運転しながらアカペラで歌うのだけでも優一も鳥肌がたった。
「信じてもらえましたか?」
「キャーーーー!お母さんっ!!タカ!ブルーウェーブのタカ!!」
姉のリアクションと音が割れるくらいの絶叫に二人は爆笑した。
「もしもし優一?どうしたの?ユリが号泣してるわよ。」
「母さん、元気?今度姉ちゃんに髪染めてもらおうかと思って。姉ちゃんはほっといていいよ」
「そうなの!あ、あんた今どこ住んでるの?引っ越したら住所言いなさいよね。」
「ごめーん!今ね、姉ちゃんの好きなブルーウェーブのタカさんのとこに住まわしてもらってるの」
「あんたはまた人に甘えて!まこちゃんは一人暮らしって言ってたわよ?」
「なんでまこちゃんのこと知ってるのさ」
「父さんがまこちゃんに電話してたの。」
「父さん俺に電話しろよ!父さんの息子俺だよ?!俺には連絡無いけど!?」
やりとりにまたタカが笑いを堪えている。すると突然姉のユリが電話に出た。
「ユウ!ちょっと!タカと住んでるの!?」
「うん。」
「連れてきて!」
「え?…でもタカさん俺なんかより忙しい人だから…。まこちゃん連れてくからいいでしょ?」
「まこちゃんもタカも連れてきて!」
「無茶言うなよー。どーせ来たとしても照れて喋れないくせに〜。タカさん、実家来てってよ」
「日程あえばお邪魔します」
「キャーーーー!!」
電話を切ると優一は複雑そうな顔をしていた。タカがどうした、と聞くも別に、と窓を見ていた。
「安心しろ。お前が紹介したいと思う日まで行かないから」
「違う!実家に来て欲しくないわけじゃない。ただ…」
「ただ?」
「俺が言うのもあれだけど、姉ちゃん可愛いし、タカさん姉ちゃんの好みドストライクだろうし…」
思わぬ心配にタカは嬉しくなって頭を撫でた。
「可愛いな本当に。取られるかもって心配してくれてるのか?」
「だって…。うちの姉ちゃん明るいし、社交的だし、素直だし、顔も可愛いし、オシャレだし、お店作ったし、女の子だし…本当に勝てる気がしないよ」
「俺の相手できるのは優一ぐらいだよ。あと俺は男らしい優一に惚れてるからな」
一目惚れって言ったろ?と聞くと顔を真っ赤にして窓をみるが、先ほどよりは機嫌が良くなっていた。
「タカさん、今度俺の家に行こうね」
「うん、ありがと」
「タカさん、もう少しドライブしたい。青木の誕生日にね、いろいろあったから話したい」
「うん、いいよ。遠出してみるか」
優一が思ったことや出来事をタカは運転しながらうんうん、と聞いていた。人の分だけ家族がある。それも様々な形で。
「もしもしママ?僕、大空です。はい、ただいまボストンに着きました。はい、楽しみにしています。」
大きなキャリーバッグを転がしすぐさま連絡をとり、ニンマリと笑う。
(ようやくあの家から出ることができた。日本のママは顔だけはいいけどヒステリックだし。やっと一息つける。あの人も可哀想。あんなに頑張ってるのに兄は芸能やってるし、パパにも相手にされてない。一人であの豪邸なんてパパも酷だよね。)
「大空ー!こっちだ!」
「パパー!早くママのところ行こう?」
出張と言っていた父と合流し、ママのところへ向かう。大空は日本では見せない顔でニコニコと父と手を繋いだ。
(パパもママも、富も名声も全部僕のもの)
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