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第38話 スタート地点

「アニメのタイアップ曲…私がですか?」 社長から呼ばれ、事務所社員とサナはアニメの企画書を見た。孤児の少年少女たちが自分たちの運命を変えるために大人や社会に闘いを挑むストーリー。 「このタイアップが当たれば名前が一気に売れるし、アニメファンにも認知してもらえる。やってみないか?」 「はい!喜んで!」 「ただ、今回の依頼はオープニング曲で疾走感や強さがほしい。新しいサナのイメージが必要だ。サナをプロデュースしたユウにはもう話済みだ。曲を作りたいと言っているが任せていいか?」 もちろんです!と元気よく応えた。期待している、と社長と社員は会議室を出た。 (緊張した…。契約きられるのかと思った) ほっとして、優一に連絡しようとケータイを開くと思わずニンマリとしてしまう。 (楓さんからメッセージ…) 「クビだったら飲みに連れてってやるよ!退所祝いにな!」 「もう…意地悪だな…」 そう思うのに、にやける顔を引き締められず、机に伏せた。楓は何一つ欲しい言葉をくれないが、返信があるだけでサナは天にも昇る心地だった。メッセージは必ず返信があるし、会った時にも楓の方から話しかけてくれる。オーディションの時には真剣に、終わるとふつうの青年になりバカ笑いしたり、意地悪を言ったり、タカには頭が上がらないのかへこへこしている。 (どうやったら楓さんの目に留まるのかな) サナは以前、妹分とみんなに紹介されたことを落ち込んでいた。妹を越えて女性として見てほしいと日々メイクや服装を頑張っているが、ジャンルが違うことも分かる。 「カッコイイ女性になりたいなぁ」 自分のつぶやきにはっとして、サナは勢いよく起き上がり、優一に連絡した。 「サナ、お前もしかして恋してる?」 「へっ?!大河さん、どうしてそれを?」 ユニット練習で大河との曲を練習中、苦笑いして大河が言った。慌てて肯定してしまい、大河はやっぱりな、とニヤリと笑った。 「なんか綺麗になってるっつーか。キラキラしてる。あと、感情めっっっちゃ伝わってくる。好きな人に届くといいな」 優しい言葉に思わず大河の手を握って、はいっ!と応えるとさらに爆笑していた。 (大河さんの笑顔っ!レアです!) 目に焼き付けようとじっと見ると、やめろ、こっち見んな、と怒られた。その後シュウトが入ってきて3人での練習になった。すると先ほどの柔らかな態度の大河ではなく、真剣な様子に気合いを入れ直した。シュウトにも褒められ、自信が持てた。 「あ!妹分!」 サナは出来がいいからと先に上がれて、楓への返信を廊下で考え混んでいた。急に耳元で叫ばれ危うくケータイを落とすところだった。 「うわぁ!ルイさんっ!ビックリしたぁ…お疲れ様です!」 「ニシシ!俺っち疲れてないよん!もしかしてデュエットのやつ!?シュウトさんいた?」 「あ、はい!まだ大河さんとスタジオにいます」 いってきまーす!とルイが入ってしばらくして大河がすごい勢いで出てきた。サナを見つけると以前のように手を引き帰るぞ、と走った。 「大河さん?」 「ルイさんありがたい…っ。」 「ルイさんがどうかしましたか?」 「何でもない」 ダンススタジオまで行くと大河は息切れして止まった。サナはついていくのにヘロヘロになって座り込んだ。 「大河さん、疲れました」 「ごめん!」 荒い息を吐きながらも笑って謝るのが少年ぽい。 「よぉ〜。クビになったか?」 「なってませんよっ!もう!意地悪ですね!」 ダンス練習が終わったのかシューズを持った楓が出てきた。 大河に気付くと一瞬止まったが何でもないようにやり過ごしている。 「サナちゃんルイ見たか?終わった瞬間走ってどっか行った」 「あ!今私たちがいたスタジオに行ってます」 「失礼します」 大河がそっとその場を離れようとすると青木やレイもでできて大河はレイに飛び込んだ。 「大河さんってマコだけじゃなくて誰にでも甘えるんだー?」 「うるさい、関係ないだろ」 「ちょっと翔さん突っかからないで」 大河を見ると反射なのか嫌味をいう。翔は大河をライバル視していることが前の話で分かったが、ここまであからさまだとサナはおどおどした。 青木が間に入りなだめているもオーディションでの翔とは別人だった。 「翔はあからさまだよなぁ。そんなに気に入らないかね」 「でもあの二人似てませんか?2人とも私に対しては対応が似てて…とにかく優しいです。最初はどちらも少し、近寄りがたいというか怖かったけど」 「俺はよく怖がられるけど…サナちゃんびびってなかったよな」 「はい!楓さんは優しい人ですっ!」 元気よく言うと変なやつ、と時間かかったヘアセットを一瞬でぐしゃぐしゃにされた。いつの間にかRINGは帰宅していて、翔もふて腐れたように帰っていった。 「あれ…?ルイのやつマジでどこ行った?」 楓が時計を見てケータイを取り出した。 (もう少し、お話できたらよかったな…) もう終わりか、と下を向くとメッセージが届いた。 「存続祝いしてやるから座ってろ」 「えっ?」 「ルイ探してくる。俺、コーヒーブラックね」 「えっ!?私が出すんですか?」 ケラケラ笑って去っていくのを見て、また顔がニヤけてしまう。 「あ…ホットとアイス、どっちだろう?」 「ルイー?どこ行ったんだよアイツ。めんどくせぇなぁ!」 「かーえーでー」 「お前どこ行ってたんだよバカ!」 テンション高く男子トイレから出てきた。下していたのか、とあまり突っ込まずに、サナちゃんの存続祝いするぞ、とロビーに向かうと腕を引かれた。 「あ?どした?」 「かえで、前、結局まこちゃんとえっちしたの?」 「青木の邪魔が入ったからしてねぇよ。タカさんの言う通り徐々にアピールするさ」 「かえで」 「んだよ?!どうした…っ?どうした?」 何が聞きたいか分からずイライラして振り返ると、複雑な顔して下を向いている。 「大河とシュウトさんキスしてたよ?」 「は!?」 「大河はまこちゃんと付き合ってるって、かえでが言ってなかった?」 「そのはずだが?」 「……。」 大河とシュウトなんて想像もつかない。あんなに誠にベッタリなのに、と楓も首をかしげる。 「スタジオ入ったら、えっちしそうだったよ。邪魔しちゃったと思ったら大河が走って出て行った。」 (逃げたんだろうな。レイにベッタリだったし) 「その後、俺、シュウトさんから口止めってキスされた」 「はっ!?」 思わぬ告白に目を見開いて肩を掴む。 「冗談だろ!?…珍しいな、こんな話題嫌いなのに…ははは。」 「かえで、冗談じゃない。…俺、そんな感じでブルーウェーブが好きだったわけじゃない。本当に尊敬してて…憧れで…」 「嫌だったんだな」 「うん。なんか大切なものを壊しちゃったみたい…」 落ち込んでトイレに篭っていたようだ。 「なんか…むしゃくしゃするんだ。ね、誰か女の子いない?紹介して?」 「お前そんな時乱暴するからダメ。まえ紹介した子も手ひどく抱いて、結局お前が飽きたんだろ」 「足りないもん。」 「とりあえず落ち着け!コーラ奢ってやるから。ほら、行こう。サナちゃんも待ってる」 いつもより落ち込むルイの手を引いてロビーへ向かう。するとルイがニヤリとした。 「あ〜。サナちゃんがいたね」 ドンッ 思いっきりルイの体を壁に押し付けて首を抑え睨みつける。 「痛いっ!苦しいっ!冗談!冗談だから!」 「いいか?サナに手を出したらマジで殺すぞ。」 「彼氏じゃないくせにマジギレしないでよ…。そんなん言うなら付き合えばいいじゃん!サナちゃんも脈ありでしょ?」 「黙れ」 「本当はもうまこちゃんじゃないくせに」 「黙れ!」 「だってさっき、シュウトさんと大河が付き合ってたとしたらチャンスなはずなのに、一瞬も思わなかったでしょ?」 「よく喋るな。喋れねぇようにしてやろうか」 首を抑えている手と反対の手をパキパキと鳴らすと、泣きそうになってごめんなさいっと叫ぶ声に手を離すと、ゴホゴホと噎せたあと楓の脚にしがみついた。 「かえでー、ごめんね、ごめん!怒らないで!俺っち八つ当たりしちゃった!ごめんなさいっ」 「…もういいから。お前も災難だったな。忘れろ」 「うん…。でもやっぱりいい子いたら紹介して」 「ははっ、お前そればっかり」 ルイは生粋の女好き。事務所に入る前には男性から抱きたいと言われ、そいつをボコボコにした経験もある。女遊びが激しいから長続きはしない。 「またコウちゃんと遊ぼうかなぁ。コウちゃんすぐ人紹介してくれるし」 「コウちゃんはほどほどにしとけよ。あいつ裏やばいからな」 (ホットにしたけど冷めちゃった…。ルイさん見つかったかな) 「わっ!!」 「うわぁあ!!ルイさん!驚かせないでくださいよっ!」 ニシシと笑って楓のためのコーヒーを取ってゴクゴクと飲んでしまった。 「あ!それ…」 「うー!苦い!サナちゃんが持ってるからココアと思った…」 げぇーと苦しむルイを見た後に悲しみいっぱいに楓を探すと、ブラックコーヒーとミルクティー2つを買ってきた。 「サナちゃん、ルイ、はい、ミルクティー」 「かえでありがとう!」 「えっ?わたしにも?ありがとうございます!あの、私が買ったものは…」 「どーせ冷めてるたろ。自分で買うわ。事務所残留に乾杯!」 3人で缶を合わせて飲む。こんなに美味しいミルクティーは初めてで嬉しそうに笑った。 「サナちゃん、早くかえでに告れば?」 「へっ!!?」 「ルイ、変なこと言うな。」 「これぞ純愛っ!!いいよなぁー!俺っち応援してるよー?ただサナちゃん色気がないよなぁ?オンナは色気よ?」 「ルイ!セクハラだぞ!」 (色気はたしかに無い!) ガッツリ落ち込むのを気にせず、ルイは止まらない。 「ま!かえでの今までのオンナとは全く違うから更に大変かも!みんなサバサバしたカッコイイオンナだったもんな!」 「黙れ」 興味なさそうにコーヒーを飲む楓を見ると、たしかにそばに似合うのはカッコイイ女性だ。 「私だってカッコイイオンナになれます!」 「「え?」」 「次の新曲、絶対聞いてください」 「あ、うん、聞くけど」 「事務所のコンサートでその曲やります。私はまだ楓さんの目にも入ってないけど、でも少しでも意識してもらえるようにやります!」 「わーお。大胆っ!サナちゃんいいぞっ」 「コンサート終わったら、楓さんに伝えます!なので、私のこと、コンサートまでは見ていてください!」 ルイが口笛を吹いてニヤニヤして、お邪魔虫は退席しまーす、と喫煙所に向かった。 唖然としてる楓は固まったまま。 「か、楓さん?」 「照れるなら言うなよ、バカ。」 「あ…すみません」 顔が真っ赤になったことを指摘され、両手で顔を隠す。 「正直、今すぐって言うならお前を見ることはできねぇけど、俺も整理したいことあるから時間もらえて助かる。」 「え?え?」 「確かに、見てなかったからな。見てみるよ、お前のこと。」 「〜〜!はいっ!」 「やめろ、泣くなよ?!泣かせたみたいになるだろ!…あと、ルイの言ったことは気にするな。お前はお前でいい。」 嬉しくて目の前がぼやけるのを楓が慌てて頭を撫でる。チャンスをもらえたことが嬉しくてはいっと返事をしてルンルンと帰った。 (スタート地点に立てた!あとはやるだけ!頑張るぞっ!) サナはカッコイイオンナになるべく、筋トレをしたり、雑誌でファッションの勉強をしたりと楽しみながら女子力をあげていった。

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