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第41話 覚悟
舞台の地方公演が決まって稽古漬けの日々。せっかく隣の部屋に恋人がいるのに全く日程が合わないばかりか、明日からは地方を周ることになる。マネージャーの伊藤は今回同行しないから余計に神経が過敏になる。舞台が大成功したことは嬉しいがそれなりの緊張感と失敗できないプレッシャー、役から出た後の疲労感や見知らぬ土地でやることに不安しかない。
(いつもの高熱もお供だな)
本番前や見知らぬ場所への移動日前はこうして高熱が出る。
(寒っ!)
どんなに着込んでも寒くて常夏くらいの温度に暖房を入れる。加湿器も稼働させ、今日は寝ることを仕事にしようと目を閉じた。
(ん…あったかい…)
温かさを感じ、より温かいところへと動くとクスクスと笑い声がして目を覚ます。
「あ、ごめん、起こした?」
「マコじゃん…どうりであったかい…」
「まーた熱出してる。薬は飲んだの?」
「飲んでない」
もう眠い、というと大きな胸にそっと抱き寄せられ、一瞬で眠りに落ちた。
(マコ…?あれ?)
起きると誠がいなくなっていて寂しくなった。心細い気持ちになって隣に行こうかとリビングに行くと、梅のお粥と薬と水が用意され、キッチンにはテキパキと溜まった洗い物を洗う誠がいた。
「マコ…」
「あ、おはよう。少し顔色よくなったね、良かったぁ。お粥食べられそう?」
「マコが作ったのか?」
「うん。梅大丈夫だったよね」
「梅好き。ありがとう」
どういたしまして、と笑う顔はイケメンの代名詞。ふぅふぅしながらゆっくりと食べ進めると好みの味でペロリと平らげた。
「お!完食!よかった!次は薬!」
「分かってるって」
薬を飲むと満足そうに食器を片付けてくれる。その後を付いて行き、後ろからぎゅっと抱きしめる。
「大河さん?」
「マコ、ありがとう」
「んふふ。いーえ!明日から不安?」
「うん。慣れない場所だし、みんないないし。」
「会いに行くよ」
「え?」
「会いに行ける日は会いに行くから」
嘘だとしても嬉しくなってうん、と呟いた。ゆっくりキスをしてもうしばらく会えないと思ったら抱いてもらいたくて、高い位置にある整った顔をじっと見つめる。
「大河さん、だーめ。明日からゲネでしょ?体調に影響しちゃう。優くんが怒られてるの見たでしょう?」
「マコ、お願い。そしたら俺頑張れるから」
「っ!やめてよ、俺の決意ポンコツなんだから。好きな人に求められて断れるわけないでしょ?」
「マコ?しよう?」
「大河さんに勝てないや。ゆっくりしようね」
暖房がついたままの寝室へ行き、しばらくキスしていた。
「大河さん、キスシーンってキスしてるの?」
「あー…気持ち乗っちゃってるからしてるよ。1番前の席の人とかは絶対見えるから。」
「へぇー…」
「まさか仕事までは嫉妬しないよな?」
「いやだー!でもお仕事だもんね!大河さんじゃなくて、役だもんね」
当たり前だろ、と呆れてしまうとそんな顔しないで、嫌いにならないでと甘えてくる。誠が不安になる原因を作ったのは他でもない自分だと、誠が嫉妬や不安になるたび戒める。
「マコ、俺の舞台見に来て。」
「え?恥ずかしいから来るなって…」
「お前が見るかもって思ったら俺ももっと集中できるかもだし。見てほしい。お前に」
やったー!と抱きついてくる姿は年下らしく可愛いと思う。頭を撫でながら、実は見に行った優一が羨ましかったようだ。
「頑張るから、今、お前といたい」
「うー!可愛いー!」
首筋にぐりぐりと顔を埋めてくる恋人の頭を撫でると幸せそうに笑う。 暖房がききすぎた部屋に誠の額に汗が光る。その汗を手で触るとその手を取られ、ベッドへ沈んだ。
「イく?」
「はぁっ!あっ!っああ!まこぉ!!」
「は…っ、しめすぎ…」
ベッドの軋む音が激しさを増して、快感に歪む目の前の恋人の表情がさらに大河を高めた。抑えられない絶頂に腰がふわっと浮いた。
「くぅ…ンっ!!ああ!!っあああー!!」
ブーーー
会場のざわつきが、ブザーが鳴った瞬間静まり返る。緞帳があがるとそこからは大河ではない人物として生きる。フッと目を開けると眩しすぎるステージへ踏み出した。
(あ、大河さん…)
誠はこっそりと舞台を観に来ていた。伊藤にも大河にも言わず、自分でチケットを取った。客が席について照明がゆっくり落ちる頃に席に座り、バレて邪魔にならないように徹底した。舞台の空気はコンサートとは違い独特で、仕草、表情、全てが伏線にも見える。 そして、舞台に立つ恋人は
(完全に別人だ)
迫真の演技で見るものを圧倒した。声量もあるから迫力がすごく、表情がセリフに合わせてコロコロと変わる。涙を流しながら歌うシーンでは焦燥感を感じさせ、観客のほとんどが涙を流した。 誠もその1人で完全に作品に入り込み、多くのことを考えさせられた。カーテンコールでは観客が自然と立ち上がって大きな拍手を送り、口パクでありがとうございましたと言い頭を下げる恋人が誇らしかった。
「あの、突然すみません。RINGのマコです。大河さんに挨拶をと思いまして…」
「え!?マコさん!?来てくださったんですね!」
近くのスタッフに声をかけると、スタッフ達が慌て始め、申し訳ない気持ちになり帰ろうとしたところを裏に通された。
コンコン
「大河さん、お客さんです!」
はい、と中から声がして開けた瞬間、大河の目が大きく開く。
「うわぁ!マコ!ビックリした!!」
「大河さん、お疲れ様」
嬉しそうにしてくれるのが嬉しくて誠も自然と笑顔になった。入って、と楽屋に通され、ドアを閉めるとぎゅっと抱きしめられた。
「マコ!マジか!!マコだぁー!」
舞台後だからかテンションが上がっている大河の頭を撫でると汗で湿っていた。うっすらメイクしたままの顔も新鮮だった。
「大河さん、本当に良かった!感動した!」
「え!?観てくれたのか?!一人で!?」
「うん!実はチケット手に入れてました!オフになるか分からなかったけどなんとか!それにしても本当にかっこよかった!」
へへっと素直に照れる大河はまだ役が抜け切れていないようだった。畳に胡座をかいてご機嫌に横に揺れている。
(可愛いすぎる!!なにこれ!)
「マコが来てくれたなんて俺、嬉しすぎてどうしよう?」
「もー大袈裟だなぁ」
「マコ。愛してる!」
飛び乗ってきて思いっきりキスをされて驚いた拍子に押し倒された形になる。大河は夢中でキスをしていて嬉しくなった。
(珍しく積極的。こんなに喜んでくれるなんて来てよかった!)
「っ!?」
「はぁ…マコ。抱かせて」
「え!?」
役のキャラクターとダブるような雰囲気に一瞬絆されそうになる。大河は誠の首筋を舐め、両手首を抑え上から見つめた。
「マコ。愛してる」
ドキッとするはじめてみる雄の顔に誠には真っ赤になった自覚があった。
「可愛い」
低い声で囁かれた後、またキスで口内が愛撫される。いつもは誠にリードされる大河が好きなように誠を攻める。
(ちょっと待って!大河さんキスうますぎ!)
「まーこ、集中しろな?」
頭を撫でられ、ニコリと微笑んだ顔はかっこよすぎて全てを委ねたくなった。
コンコン
「大河さーん、お客さんです!」
その声に大河は、はっとして目の前の誠を見た。
「あ…はーい!どーぞ。」
先ほどの位置に戻り、誠には目を合わせないままドアを見た。
(めっちゃ動揺してる…ふふ、やっぱり可愛い)
ドアが開いて入ってきたのは誠もお世話になったことのあるカメラマンのアリスだった。
「大河さん、お疲れ様でした!あ、マコさんも来ていたんですね!」
「アリスありがとうな!」
(アリス?呼び捨て?)
「とても素晴らしい舞台でした!わざわざ関係席に通してもらって…嬉しいです!」
「チケット取れなかったみたいだからな。見に行きたいって言ってくれたから。満足してもらえたならよかった」
「はい!とっても良かったです!」
「アリスさん、取材だったんですか?」
「いえ。ずっと大河さんの舞台を見たくて…。大河さんに相談したら席を確保してくれました!忙しいのにすみません!」
本当に嬉しそうに感謝し、大河もまんざらでもない雰囲気だ。
「アリスはくじ運?チケット運がないんだよな?」
「そうなんです…でもこうして大河さんと話せてるのですべてチャラですよ!」
「ははっ!なら良かった。これから帰るの気をつけてな」
「あ、はい!あの、今日この辺で泊まろうかと思っていて……大河さんは打ち上げですか?」
「いや?今日は特にはないかな。」
「よかったらご飯行きませんか?感想を伝えたいんです!」
完全に空気になってしまった誠はこのやり取りを静かに見ていた。大河はどうせ断るだろうと、ザワザワしながらも手持ち無沙汰にケータイに目を落とした。
「いいよ。お店決めといてくれれば。また連絡して?」
「っ!はい!ありがとうございます!では後ほど!」
「はいよ」
(え!?)
失礼しました、とアリスが楽屋をでた後、誠は大河を見るも、いつも通りの表情で着替えを準備しはじめた。
「大河さん、ご飯行くの?」
「うん。マコはもう東京戻るだろ?」
「戻るけど…すぐじゃなくても…」
「運転あるだろ。疲れてるんだから安全運転でな」
目の前で浮気されたような気持ちになってドス黒い気持ちがせりあがってくる。
「アリスさんと連絡とってるの?」
「ん?あぁ。前の撮影の後聞かれたから。3日前くらいに時間が取れそうだから行きたいですってきててさ。せっかくここまで来てもらったしご飯してくる。」
「俺だってここまで来たよ?」
そのセリフに大河ははっと顔を上げた。
「そうだけど、お前明日もあるだろ?あまり長居させたら明日に」
「なんでアリスさんにはここまでするの?」
「お前にはいつでも会えるだろ?アリスはあんまり会わないし、今回舞台だけのために来たから。」
「いつでも会えるから俺は後回しなの?」
「そうは言ってないだろ?言い方悪かったならごめん。マコは運転もあるし、また俺が戻ったらゆっくりお礼したい。」
困ったように言う大河に、疲れていると分かっていても止まらない不安。疑い深くなった自分が嫌になるも自分よりも他人を優先したことに納得できない。
「…抱くんじゃないの?アリスさんのこと」
「は?」
「今日は抱きたい気分だから、俺が邪魔なんだよね?」
「マコ?ごめんなんか怒らせたか?気分悪くさせたならごめん。そうじゃなくて」
「早く帰ればよかった。こんなところまで来なきゃよかった。迷惑だったよね?急に押しかけてきてさ。女の子と遊べるチャンスなのにね?」
「マコ!そんなこと言うなよ。俺、お前が来てくれて本当に嬉しかったよ」
「嘘つかないでよ!!帰る。もう勝手にして。お邪魔しました。」
掴まれた腕を振り払って飛びだそうとすると、大河が泣きそうな顔で腰にしがみついてくる。
「待てって!気分悪くさせてごめん。もう行かないから。お前の気持ち、考えてあげられてなかった」
「いいってば。行ってきてよ。約束したんだから。俺明日早いから、大河さんの言う通り帰る。お疲れ様。次の公演も頑張って」
顔を見ないまま楽屋を出てスタッフに挨拶も出来ないまま駐車場の車に乗り込んでハンドルを思いっきり殴ったあと、止まらない涙を流した。
(俺、何がこんなに怖いんだろう)
会えて嬉しいはずなのに、来た時には予想していなかった感情に、薬指の指輪を握りしめて、落ち着くまで車で泣き続けた。
「ユウ、マコから連絡きた?」
「え?何も無いよ。どうかした?」
大河は誠が飛び出した楽屋でしばらく唖然としていた。言葉足らずだったことを反省し、誠に連絡するも運転中なのか応答はなかった。不安になった大河は優一に連絡を入れてみるも何も連絡はないようだ。
「ユウごめん。また俺言葉足らずで傷つけた」
「どういうこと?」
一連の流れを話すと優一からは大きなため息を吐かれ、大河は頭を抱えた。
「大河さーん…」
「マコの明日のことを考えたつもりだったけど、自分をスルーしてアリスを優先したと思われた…どう弁解しようとももう聞いてもらえなくて」
「大河さんもお疲れ様。舞台の後に大変だったね。マコちゃんがあんなに嫉妬深いなんて知らなかったなぁ。」
「いや、それは俺のせいだから。はぁ…どうしよ。」
「大河さん、とりあえず約束しちゃったならスタッフさんも一緒でアリスさんご飯連れてってあげて。2人きりは絶対嫌だと思うから。」
「ん。分かった。ありがとうユウ」
「連絡あったらメッセージするから」
大河はさっそくスタッフも誘ってアリスと合流した。
「アリス、飲み過ぎだぞ」
「だってぇ!本当に!いい舞台だったんれすもん」
「あはは!アリスちゃんベロベロだな!大河もう送っていけば?そのままお持ち帰り?なんちゃって〜」
「監督、冗談やめてくださいよ!とりあえずタクシーに乗せてきます!誰かヘルプお願いしますよ」
「あ、私行きます」
舞台女優の夏菜子も一緒にアリスを担ぎ、タクシーに乗せるとアリスがケータイを落とし、夏菜子が拾ったところで、アリスが大河の首に手を回しキスをした。 咄嗟に拒否するために頬を押しやるもすごい力だ。
「っん!?ちょっ…んっ」
「こーら!アリスちゃん、酔いすぎ!」
夏菜子が慌てて引き剥がすと、アリスはすみません〜とヘラヘラして帰っていった。 夏菜子が監督に話すと監督は爆笑していたが大河は誠のことが気になって何度も電話をかけるも折り返しや応答はなかった。
ヴーヴーヴーヴー
午前2時、着信があって大河は慌てて飛び起き、誠からかと電話に出た。
「マコっ!?」
「俺だ。お前遠征先で何やってんだ!マコに言い訳か?」
「あ、伊藤さん?」
「明日のトップ記事にお前の熱愛疑惑が出る。堂々と路上でキスしやがって。言い訳できないぞ!」
「え!?あれは事故でっ!」
「写真ではどう見てもお前がキスしたようにしか見えん。相手も受け入れてるようにもな。」
「ちがう!だってその場に夏菜子さんもいたし!」
「写真には2人しかいないが?」
「嘘だろ!?たしかにいた!アリスが酔ってキスしたのを夏菜子さんが引き剥がしてくれたのに」
伊藤はため息を吐いて、今日から同行すると言い、余計な発言はするな、と強く言われて電話が切れた。 大河は倒れるようにベッドに横になりケータイを握りしめた。
(マコ、マコは信じてくれるよな?)
祈りを込めて目を閉じているとメッセージが届いてすぐに開くと目を疑った。
「大河さんがそうなら、俺も同じことするから。大河さんを責めたりしないよ。だから俺のことも責める権利はないよね。気持ち分かってもらうにはこれしかないから。」
「っ!?」
急いで電話をかけるも出ない。大河は急いでメッセージを送った。
「マコ、俺にはお前だけだ。浮気なんかしてない」
「俺が縛りすぎたね。ごめん。お互いもっとライトな関係でいよう。そしたら俺も縛らなくていいし。大河さんだって女の子抱きたいもんね?今までごめんね。」
「マコ、電話で話したい」
「俺は話したくない」
大河は頭を抱えた。やってしまった、と後悔してもしきれない。でも伝えることはしないと、と諦めずに何度も身の潔白を送り続けた。
舞台の集中を妨げるマスコミに大河はもうギリギリの精神状態だった。ただでさえ神経を使う舞台の後、出入り口にたくさんのカメラがスタンバイされてほかの共演者にも迷惑がかかっていた。逃げるように劇場を出て、ホテルで缶詰状態。何度も何度も嘔吐して高熱が出るのを伊藤が看病してくれた。あれから誠からの連絡は一切なかった。
「大河顔色悪いぞ!大丈夫か?」
「大丈夫です!夜公演も皆さんよろしくお願いします!」
大河は役に入っている時間だけが生きている実感があって、今までで1番いい演技だと監督はとても褒めてくれた。ただ劇場を出ると大河を追いかけるマスコミで現実に引き戻された。
「明日から名古屋だな。移動の準備できたか?」
「……」
「大河?おい、大丈夫か?大河?」
ぼーっと座ったまま静かに涙を流して、ヒューヒューとなる呼吸に伊藤は背中をさすった。
「伊藤さんっ、マコが、マコ…」
「どした?」
「マコと話したい」
伊藤から誠に連絡するとすぐに出て、大河は無視されていたことを自覚してさらに傷ついた。 代わりたくないというのを無理矢理代わってもらって大河は声が聞きたくて必死に名前を呼んだ。
「マコっ、マコ」
「…」
「マコ、マコに会いたい。マコの声が聞きたい」
「…」
「マコぉ!お願い!マコ!」
「大河さん。」
声が聞こえた瞬間、大河は大泣きして伊藤がビックリしてどうしたと声をかけた。
「まこぉっ!まこっ!」
「うん、大河さん。」
「ぅうっ…おれっ、ごめんっ、ことば、たらずで、まこのこと、また、傷つけた、おれ、うわきもしてないっ!本当なんだ!お前だけは、お前にだけは信じてほしいっ!」
「…」
「ぅっう、ふぅっ、まこぉ、ごめん、おれ、まこじゃないと、嫌だ」
ブツっと電話が切れて大河はさらに大泣きし、伊藤は目が腫れるから落ち着けというもギリギリの精神状態は限界だった。 すると今度は大河のケータイが鳴った。
「おいマコ?あんまりいじめるなよ。大河はあと半分も公演残ってるんだぞ。こんな中で浮気できる余裕、大河にはないよ。信じてやれ」
「そんなの分かってる。でも、」
「でもなんだ?自分の嫉妬で恋人追い詰めて誰が満足すんの?お前だってイライラしてユウに八つ当たりして落ち着かないじゃないか。今日レイに怒鳴られたらしいしな?大河は熱愛報道も否定、あの日もたくさんのスタッフと食事をしている。そしてその内容はお前のにも送ってるはずだ。それでも大河を無視するんなら別れろ」
大河はその言葉にビクッとし、なんでそんな事言うのと騒ぐ。
「なんでそんなこと伊藤さんに言われなきゃなんないの?2人のことでしょ。関係ないし。」
「関係ないと思うなら周りを巻き込むな。ユウだって幼馴染だからって八つ当たりしていい関係じゃないよな?2人のことにユウを巻き込むな。」
「それは…申し訳ないと思ってる…」
「で?お前はどうしたいんだ?別れたいのか?仲直りしたいのか?どっちだ?」
「分からない。もうこんな気持ちに俺、耐えられないよ。心配して不安になって、また捨てられるかもって思ったら…」
「恋人を信じられないなら別れろ。お前には荷が重いだろ。」
「っ!なんで!!そんな言い方!」
「恋人なら別れないって即答しろよ!別れたいのか聞かれて分からないってどういうことだ!!大河がいないと落ち着かない癖に生温いこと言ってんじゃねえよ!」
「っ…ぅっ…ぅぅっ」
「マコ、怖いのは、分かる。でも恋人がお前に必死に伝えてるのを聞いてやってもいいんじゃないか?大河はずっと隣で別れたくないと言ってる。もう一度聞く、お前はどうなんだ?」
「っぅ、大河さんに代わって」
わかった、と伊藤は大河に電話を代わるとお互いの嗚咽だけが流れる。
「大河さん、俺だけ見てよっ」
「見てるっ」
「いつも不安なんだ、どこかいっちゃうんじゃないかって」
「ごめん」
「大河さん、別れたくないっ!俺、余裕なくて、それで嫉妬して」
「ごめん。不安にさせた」
「大河さん、信じるから。だから、待ってる。頑張って。応援してる」
うん、と言いながら大河は伊藤に抱きついた。伊藤は受け止めて誠にさっきは言い過ぎた、と謝罪するも誠からは伊藤さんありがとう、と嬉しそうな声が帰ってきた。
「おはようまこちゃん」
「…」
(まだ無視か…いつまで続くんだろう)
「おいマコ、お前挨拶もできないのか」
レイが厳しく叱咤して、優一はレイさんいいから、と困ったように笑う。大河の件であからさまに不安定と不機嫌になった誠はなぜか優一にだけ当たりが強くなり、最終的には無視しはじめた。優一もこんなことは初めてで戸惑いながらも様子を見続けた。レイは普段優しく怒らないが昨日は怒鳴って誠が泣くまで詰めていた。
「マコ!聞いてるのか!?おい!!」
「っ!…おはようございます…」
「はぁ〜!大人が挨拶も返さないなんてどうなってんだ」
「あの…優くん」
「へ!?」
久しぶりに名前を呼ばれて顔を上げると今にも泣きそうな顔で頭を下げられた。
「今までの態度、本当にごめんなさい」
「いや、大丈夫だよ?どうかしたの?」
「俺、優くんに甘えてた。優くんならどんな自分も許してくれるって。ごめんなさい。むしゃくしゃしてて…八つ当たりしちゃってた」
「そっか!今は大丈夫なの?」
「うん…後で話聞いてほしい」
会話を聞いていたレイが呆れたようにため息をつき、誠に説教がはじまった。
「都合よすぎだぞ。あんなに当たり散らしておいて今度は話聞いて?逆の立場で考えてみろよ。おかしいだろ?」
「ごめんなさい。プライベートのことがどうしても自分の中で消化できなくて」
「なら大河と話すべきだろ?なんでユウに当たるんだよ。聞けばお前ずっと大河の連絡無視してるらしいな」
「え?!そうなの?まこちゃん」
「…」
「当事者同士で話さないと解決しないに決まってるだろ。本当のことを怖くて聞けないくせにユウに八つ当たりしてたんなら俺はお前を許さない。どうなんだ?」
「レイさん、いいよ、大丈夫だから」
「ユウもマコに甘すぎる!!自分のことをもっと大事にしろ!お前は自分のことになると鈍感すぎる!俺は、お前が傷ついたのを我慢して笑ってる姿を見たくない!」
その言葉に誠ははっと優一を見ると優一と目があったが、優一から目を逸らされた。
「傷ついた、けど、理由が分からないから、俺が何かしたかなって。それだったら謝らないと、って思ってた。でもプライベートのことなら良かった。俺が何かしたんじゃないんだね」
「良くねーよ。ユウを巻き込んで後から話聞いてはありえない。どれだけユウに甘えたら気がすむんだよ。今まで何回ユウに助けられてこの態度なんだ?ふざけんなよ」
だんだんヒートアップするレイに誠は縮こまり、優一が間に割って入った。
「レイさん!落ち着いてよ!」
スタッフにレイが呼ばれて出て行くと楽屋に2人きりになる。優一は困ったように気にしないで、と言うも誠は下を向いたままだった。
「優くん、ごめんね、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。レイさんにも俺から言っておくから。元気出して?」
「優くんの優しさに甘えてた。傷つけてしまって…本当にごめんなさい。いつも優くんは俺を助けてくれてるのに。今優くんもタカさんに会えなくて不安定なのに…俺だけこんなわがままになっちゃって」
「ううん。いいんだよ。ただ、大河さん心配してた。俺の言葉足らずでマコを傷つけたって。大河さんの話は聞いてあげて?」
優一はそう言って誠をぎゅっと抱きしめた。何度この小さな体に守られて、安心したのだろう。謝罪の意味を込めて強く抱き返した。
「あ!また甘えてる!こら!ユウから離れろ!」
「レイさん!これは仲直りのハグなの」
「…本当かマコ?」
「うん。レイさんも優くんもごめんなさい。みんながいてくれてよかった。レイさんも叱ってくれてありがとう。優くんもこんな俺にいつもありがとう」
その言葉にレイは全くもう…と呆れながらマコとユウを包んだ。
「大河さん、お疲れ様。やっとまこちゃんからお話が聞けたよ。直接大河さんに話すとは言ってたけど、やっぱり大河さんが他の人に取られちゃうのが心配で不安なんだって。だから、叱っておいた。大河さんは安心して舞台やってね!まこちゃんはもう大丈夫だから!」
優一からのメッセージに少しほっとしたところを監督が安心したように頭を撫でた。
「大河、お疲れさん。マスコミが押し寄せる中、どんどん演技は洗練されている。お前はよくやってるよ。おかげで話題性も出てるしな!ありがとう。あと少し頑張ろうな!」
大河のギリギリさを見抜いていた監督や共演者は大河を激励し盛り上げた。大河は大きく頭を下げて、その後ニカッと笑った。
「楽しんでいきましょう!!よろしくお願いします!」
大河はこのメンバーに感謝の気持ちでいっぱいだった。カーテンコールで思わず涙して共演者が全員集まって幕を閉じた。舞台袖で伊藤も涙を拭った。
「大河さんお疲れ様。疲れてると思うけど19時に俺の部屋に来て」
千穐楽を終え、部屋に戻った大河は倒れるように眠ってこのメッセージを読んだのはすでに20時だった。
「やばっ!!行かないと!」
ごめん寝てた、とメッセージを返し、部屋着と寝癖をつけた寝起きのまま隣の部屋に行った。ドアを開ける前に誠からゆっくりでいいよ、と返信があったが勢いよくドアを開けた。
「わぁ!大河さん!お疲れー!すごい寝癖!」
「大河お疲れー!はは!寝起きだな!」
「お疲れさまー!大河さんの好きな煮付け作ったよー。今味しみてきたかも」
「大河、良く頑張ったな。ほらこっちおいで」
「大河さん、お帰り。」
全員が誠の部屋で迎えてくれて、玄関から見えるリビングにはお疲れ様と飾り付けされていた。
「っぅ…ぅうー…ふぅ」
「えっ!?大河さん大丈夫!?」
全員が集まってくれているなんて知らずにビックリした後、嬉しさで感極まった。玄関でしゃがみこんだ大河を誠の大きな腕が包んだ。
「大河さん、良く頑張ったね。」
囁くような優しい響きに大河は誠の唇を奪った。
「わーお!俺たちやっぱり邪魔だったんじゃない?」
「とりあえず飲もう!」
「飲もう!」
「こら!ユウはダメでしょ?」
「青木のケチ!!」
気がすむまでキスした後、誠は幸せそうに笑ってくれてほっとした。我に返って誠とリビングに行くとヒューヒューと冷やかされ、真っ赤になる顔を下を向いて隠した。青木の作った食事をみんなで食べ、たわいもない話をした。誠がレイに怒られた話をすると誠は小さくなってまた優一に謝罪していた。伊藤は大河の舞台がどれほど良かったかを語り、大河は恥ずかしそうにしながらもやりきった達成感でいっぱいだった。 労いの言葉をたくさんもらい、幸せな気持ちで久しぶりにリラックスして笑うことができた。
お酒を我慢した伊藤が全員を乗せて帰ったあと、静かになった誠の部屋でのんびりと過ごす。
「大河さん、誤解してて、本当にごめんね」
「ううん。俺も言葉が足りなかった。わざわざ遠くから来てくれたのに…。でも本当に嬉しかったんだ、俺。」
思い出すだけでも幸せになって頬杖をついて誠を見つめる。ピリピリしていた神経が一気に緩和して嬉しい、幸せ、以外の感情がなかった。
「だってさ、会えないって思ってたのに楽屋に来てくれてさ。サプライズ上手いよなぁ。今日もだったし、こういう演出才能あるんじゃねぇの?」
「大河さんが喜んでくれるのを想像したらさ、やっぱりみんなで迎えたくて。」
「はは!大成功だな!歳とったのかな、涙脆くなってる気がする。俺幸せだな。」
抱きしめてもらいたくてすりすりとくっつくとぎゅっと抱きしめてもらいほっとする。
「優くんにね、めっちゃ怒られた。」
「え?」
「優くんに八つ当たりしたり無視したり、今までしたことないことしたのに、それに怒ったわけじゃなくて…。」
「…?」
「大河さんを信じてあげられないなんて、恋人として最低だって。」
「ユウ…」
「恋人なら、1番に信じてあげるはず。誰もが信じなくても恋人だけは味方のはずなのに、疑って話も聞かないなんて、いつからそんな傲慢になったの?って。」
「…」
「そんなまこちゃん、大嫌いってさ。」
あのブチ切れた優一の目を思い出して、誠に同情してしまう。それほどいつもとの差がすごいのだ。 誠はその時の優一を思い出したのか少し目が潤んだ。
「初めてだったんだ。優くんはいつも俺の味方で、いつも許してくれてたから。でも、優くんは俺に喝を入れてくれた。とっても怖かったけど。優くんとたくさんぶつかって、2人で泣いたんだ。優くんはずっと、大河さんの味方で、まこちゃんみたいに中途半端で覚悟がない人は大河さんには釣り合わない、大河さんにはもっといい人や釣り合う人がたくさんいると思うって言われた時、やっと目が覚めたんだ。」
「ユウがそんなこと…」
「俺が中途半端だったんだって。指輪渡しておいて、自信がなくて、覚悟がなかったんだって。」
誠にぎゅっと強く抱きしめられ、苦しいけどそのままにしておく。
「優くんと話し合って、俺、覚悟できた。」
「そっか。良かった」
「だから大河さん。抱きたい時は抱いてもいいよ」
「へぇっ!?」
覚悟ってそれ!?というぐらいの不意打ちで思わず噎せる。え?という誠は本当にきょとんとしていて、この幼馴染コンビはどうなってるのかと疑問だった。
「ちょっ…、え?ごめん、話変わった?」
「聞いてなかったの?だから、俺が抱かれる側でも…」
「待て待て、どこでそうなった?省いた?」
「省いてないよ!だから覚悟が…」
大河は頭を抱えた。精神面についての覚悟だと思っていた大河は困ってしまった。
「優くんが、女の子に行っちゃうのが不安なら大河さんに抱かせてあげればいいじゃん、っていうから優くんと練習して」
「練習!?ちょ、え!?お前ら何やってんの!?」
慌てる大河に誠はきょとんとしたまま首を傾げている。
(嘘だろ…?わかんねぇの?!)
「すぐは無理だけど、吐き気は無くなったから入れる分には大丈夫かなと」
「待ってもう、意味わかんないから。たしかに抱きたいとは言ったけど、そんな…」
「でもね、あんなに辛いなんて知らなかった。いつもありがとう。気持ち良さそうに見えてたけど、本当は苦しかったんだね…」
「いや、ちゃんと気持ちいいよ。…って何言わすんだよ!ってか!ユウに入れさせてないだろうな!?」
「優くんは抱かれるほうだから分からないみたいだったから、タカさんと優くんが2人がかりで…」
「お前バカか!?そんなっ…はぁ、俺もう倒れそう。」
「バカって言わないでよ!俺なりに悩んで考えた結果なのに…。でも俺タカさんに素質がないって言われちゃった。あ、聞いてよ、そのあとさ、優くんが我慢できなくなって」
「さ、3人でとかないだろうな?!」
「いや、それは考えもしなかった。優くんがタカさんの邪魔するからってオモチャ突っ込まれて隣の部屋に放置されてた。」
大河はもう聞きたくない、と帰る準備をし始めた。誠は慌てて大河の腕を掴み引き止める。
「大河さん、俺の覚悟見てよ」
「無理。俺、やっぱお前抱けない」
「へ?!なんで!?あ、ほかの人にやってもらったの、嫌だった!?ごめんなさい!でも指だけだよ?!まだちゃんと処女だよ?」
「もう突っ込むの面倒くさい」
「え?突っ込めないの?」
「あぁもうややこしいな!!だから、俺は今まで通りでいいから!!」
そう言った瞬間、ギラっと変わった目にギクリとして急いで帰ろうと玄関に向かうも捕まった。
「そう?なら話が早いね。まぁシたくなったらいつでもあげるから。早く大河さんの中に入れたい。」
我慢辛かった、と寝間着を剥いでいきあっという間に全裸にされ寝室へと連行された。大河も久しぶりの行為に全てが敏感で狂いそうな快感に涙を流し叫び続けた。
「っぅああ!ッあ!!ッああ!」
「とっても気持ち良さそう…やっぱ素質?」
「知らないっ!やぁああ!ソコっ!やめっ!ーーっああああー!まこぉっ!まこっ!!」
「すっごい絡みついてくる。ふふっ、可愛い…ここそんなにイイ?俺は全然だったけどなぁ…。はぁ…もう入れていい?」
「はっ、はぁっ!んぅう!!…はぁ!おっきぃ」
「ね、なんか今日でかいよね。大丈夫?切れそう?」
心配しながらもズズッと容赦なく入ってくる感覚に背がビクビクと反る。誠の肩に爪を立ててつめた息を吐き出す。
ズンッ!!
「っああああァーーー!!」
「っ!!」
ビクビクッと白濁を放ち、しばらく放心する。まだ質量のある中の物をぎゅうぎゅうに締め付けながら必死に息をする。
(やばいもう…頭おかしくなりそ)
「はぁ…やっぱ大河さん最高。大河さん動くよ」
「待って!待ってぇ!っああ!っあああ!!」
「まこちゃん!どうだった?」
「大河さん、今まで通りでいいみたい」
「あ、そーなんだ!よかったね!まこちゃん全然気持ちよくなかったんでしょ?全く勃たなかったもんね」
「大河さんや優くんはやっぱ素質があるんだね…すごいや。吐き気しかなかったもん。好きな人にやってもらったら違うのかなぁ?」
「どうだろう?大河さんできるかな?俺分かんなかったもん。まこちゃんはあのタカさんのテクニックでも無理だったからビックリ!俺タカさんに触られたらすぐ出しちゃうのに」
「優くんが感度良すぎってタカさんが言ってたよ。声が大河さんみたいにエロすぎ。」
えへへ、と照れる優一の頭を撫でると後ろから大河が複雑そうな目で見ていた。
「「大河さん?」」
「…お前らさ、だいぶ距離感おかしいぞ。」
「「そうかな?」」
「恥ずかしくないのか?そんな会話」
「「なんで?」」
もういい、と大河が先を歩くと優一は何を勘違いしたのかとんでもないことを言い出した。
「大河さん、仲間はずれじゃないよ?じゃあ今度は4人で一緒にしよっか!」
「やるかバカ!」
誠はタカさんに大河さんを見せたくないっと拒否し、優一はタカさんは俺の!と怒り、大河は頭痛がする頭を抑えた。
(こいつら本当バカだ!)
大きなため息でこの場を逃げ出した。
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