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第43話 仲間
「都姫、気を張りすぎよ?大丈夫?」
「マリンちゃん…。うん、大丈夫。ごめんね、アイドル目指してるのに暗い顔しちゃってた…。ありがとう」
定点カメラも撤収して全員が寮に戻ったあとも都姫は残って練習していた。別スタジオから出たマリンは、飛ばしすぎている都姫を心配し声をかけるが、都姫は浮かない顔してすわりこんだ。隣に腰かけ、少し震える背中を撫でる。
「都姫は頑張ってるよ。だから焦らなくてもいいと思うわ」
「マリンちゃんは今1位で余裕だから…」
「余裕なんか持ったことないよ。いつ落ちるか分かんないし、選んでもらえるか分からない。それは今が1位でも6位でも変わらないはずよ。終わるまでは誰がスタート地点に立てるかさえ分からないわ」
鼻をすする音がしてそっと都姫を抱きしめる。リーダーであることが都姫を追い込んでいた。
「私ね、向き不向きがあると思うの。例えば、あなたはセンターで輝く人だと思う。そして私はセンターは向かない」
「え?そんなことない!マリンちゃんが1位でしょ!それはセンターということだよ!」
「違うよ。グループ審査を見ての視聴者の判断。私が今1位なのはリーダーであることを評価されただけ。誰も私がセンターだなんて思っちゃいないわ」
マリンは大の字に寝そべって笑いながら話した。ダンスが好きなこと、人を笑顔にしたいこと、頑張っている人が認められるようサポートしたいこと、やりたいことを話していくと都姫もポツポツと話し始めた。
「少し前に、別の事務所にいたんです。でも、全然つかってもらえなくて、飽きてくる、って言われたの」
「飽きる?」
怪訝そうに聞くと、うん、と涙目のまま苦笑いしたあと、鏡に映る自分を睨みつけた。
「可愛いだけ、それ以上は何もないって。だんだん見慣れて、他の人の方が魅力的だって。それを見返したくて、事務所辞めて、ここに来たの。これは人生を賭けた最後のチャンスなの。」
都姫はまた立ち上がってダンスの練習をし始めた。マリンは静かに見つめていたが、よし、と立ち上がった。
「あー…都姫?ここ、リズム取り方ちがうよ。こう、」
「マリンちゃん…私、ライバルだよ?」
「ライバルかもしれないけど、もし一緒にデビューできたら仲間じゃない!ほら、やってみよ!」
また潤む目をゴシゴシと擦り、はい!と元気よく返事をした。
1時間ほど練習した後に、マリンは迷いながらも都姫に提案した。
「都姫、リーダー降りたら?そしたらセンターに集中できると思う。これは、リーダーのオーディションじゃない、自分がどの位置だとよく見せられるか考えてみて」
「…いいのかな。また評価さがらないかな?」
「後悔しないためだよ!次の収録まで頑張った後に、プロデューサー陣にお願いしにいく?」
「え?マリンちゃんも一緒に行ってくれるの?」
「うん。もし言いにくかったりしたら声かけてね」
ありがとうと笑った顔にマリンは安心して笑って手を振り、スタジオを後にした。
「うわぁ…かっこいい」
都姫はこの日でマリンの大ファンになった。
「お客さんのために、楽しんでいきましょう!」
都姫の掛け声でおーっ!と元気よくサファイアチームのメンバーが答える。そんな都姫を安心したようにマリンが見ているのに気づき、都姫はマリンに駆け寄った。
「マリンちゃん!行ってきます!」
「楽しんでおいで!」
ハイタッチして都姫をステージへと送り出した。
「マリンさん、都姫さんと仲良かったんですか?」
「最近ね。めっちゃ頑張り屋よあの子。私の何倍も練習してるの。敵わないわ」
負けてられません!と意気込むルビーチームのメンバーに、そうこなくっちゃ、と笑って全員のテンションをあげた。
「今週の勝者!サファイアチーム!!」
わぁ!という大歓声の中、サファイアチームが都姫に集まって抱き合って涙を流した。ルビーチームは悔しさを隠し、笑顔で拍手した。
「サファイアチームの仕上がりに驚いています!都姫ちゃん、頑張ったね!」
叱られた時の怖い優一からの、優しい笑顔と言葉に都姫はありがとうございます!と泣き顔のまた笑った。
「この勝利は、メンバーが頑張ったのもそうですが、私を支えてくれた人がいます!」
「そう。教えてくれる?」
翔がすぐに質問すると、都姫はマリンの手を引き、ステージのセンターに立った。
「ルビーのリーダー、マリンちゃんです!カメラが回ってない時でもみんなを見て、元気付けてくれて、私のダンスも見てくれました!」
ザワザワとする会場に、マリンが余計なこと言わないでいいの、と苦笑する。都姫は少し黙ってプロデューサーのタカを見た。
「お話があります。私、都姫はサファイアチームのリーダーを降りたいと思っています。」
マリンの手をぎゅっと握ると、震える手をマリンが握り返したことにほっとした。
「理由は?」
無表情のタカに一瞬怯むも、マリンが小さな声で大丈夫、そばにいるよ、と呟いてくれた。
「私は、リーダーではなく、サファイアチームのセンターとしてメンバーを引っ張っていきたいです。」
大きな目が2人をしっかりと捉え、2人に緊張が走る。
「リーダーとセンター。どう違うと思う?」
「私は、パフォーマンスでメンバーを支えたいんです。今はどちらも中途半端です。このままではチームの足を引っ張ってしまいます。リーダーは、マリンちゃんのように細やかな気配りや、皆んなが安心して頼れるような存在だと思います。そしてセンターは、パフォーマンスのバランスを整える人だと思っています。今の私なら、それがベストで発揮できます!」
意志の強い目に、タカは無表情のまま質問を続ける。
「じゃあサファイアチームのリーダーは誰が適任だと思う?」
「レミちゃんがいいと思います」
「へっ!?都姫さん、私ですか?」
突如名前が呼ばれたレミはビクッと跳ねて驚いた。目をパチクリとするも2人のやりとりは続く。
「理由は?」
「レミちゃんは人の気持ちに寄り添える人だからです。」
「都姫はそれができないってことで解釈していいか?」
「はい。レミちゃんには及びません。」
そんなことないです…と恥ずかしそうに下を向くレミを他所に、タカは無表情のまま言い切った。
「わかった。本日をもってサファイアチームのリーダーを降りてもらう。新リーダーは石田レミ。」
「え?あ、あの!…はい!頑張ってみます!」
ふにゃりと笑った顔に、最年少の黒木リリアは心底安心したようにレミさん!やったぁ!と抱きついていた。
この日のランキングはリーダー降格の後に行われ、ついに都姫はデビュー圏外まで落ち、レミの順位が一気に上がった。それでも都姫は肩の荷がおり、これからの自分を見てもらおうとワクワクしていた。
「お疲れさま。思ったより明るい顔してる」
安心した、と休憩室のベンチに2人で腰かける。温かいお茶のペットボトルを渡されて、都姫は敵わないなぁ、と笑った。
「しっかし…タカさん怖いよね。あの無表情。ユウさんの方が分かりやすくて安心するよね、人間味ってやつ?翔さんもそうだけど」
さすがにマリンもびびっていたようで苦笑いしていた。都姫はクスクス笑ってありがとうとニコリと笑った。
「レミちゃんに悪いことしたかなぁ。でもリリアはレミちゃんの方が上がっていく気がするの」
「それならいい判断じゃない?これからセンターでしょ?楽しみだなー」
本当に楽しみのようにワクワクしているのが伝わって嬉しくなった。2人とも気がすむまで話して、寮に戻ろうとしたところ、廊下から楽しそうな声がして2人がちらりと見ると、楽しそうな優一とタカ。 仲よさそうに談笑している。
「意外ね。あの2人絡むことあるんだ…」
「審査中はほとんど話してるの見たことないかも。ユウさんは、翔さんやサナさんと一緒だし…」
「タカさんはカナタさんと楓さんだものね」
壁から覗いていると2人は一気に赤面した。
「タカさん、もう帰ろ?」
「お前また薄着で…風邪ひくぞ」
「ん…ありがとう。」
「優一、これ狙ってたろ?」
「さぁー?」
「こいつ!素直に言え!」
「あははははっ!ごめんっ、ごめんって!狙ってた!だっていつも貸してくれるから!」
タカの大きな上着を嬉しそうに羽織って逃げる優一をタカが捕まえたあと、全く…と笑って頭を撫でて2人は去っていった。
「え?!…ちょっと…仲よすぎない?」
「なんか恥ずかしくなるわね。でもなんか…アリだわ。」
「アリ?」
「悪くないわ!違う楽しみが出来た!都姫!頑張ろう!」
「え?あ、頑張るけど…?」
「普段無表情のタカさんをあんなに笑顔にするなんてっ!ユウさんってやっぱりすごい人だわ!」
「そうかも。タカさんの笑顔初めて見た。…カッコイイ」
2人はそれぞれ別の意味で赤面していた。別の楽しみができた2人は気合を入れ直した。
(タカさんに認められるように頑張らなきゃ!!)
(きっとユウさんが可愛くて仕方ないのね!分かるわ!分かる!タカさんの気持ちが!)
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