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第44話 独占欲

「ただいま」 「おう。おかえりレイ。思ったより早かったな」 ドアを開けるといい香りがしてキッチンに行くと、メガネをかけてオフの伊藤がせっせと食事を作っていた。大河のスキャンダルで急遽同行になった伊藤にこの部屋で会うのは久しぶりだ。電話やメールでやりとりはしていたものの、実際に会えるとほっとする。 「ん、美味い。あ、レイ座っててな。」 「いや、俺もやるよ」 「いいって。疲れただろ?マコとユウのこともありがとな。」 盛り付けながらのセリフに、大人しく席について伊藤の話を聞く。伊藤の言うように、今回は大河のスキャンダルから誠が荒れに荒れ、1番信頼している優一に当たり散らしていたのだ。こんなことは優一自身も初めてのことで、気にしないようにしつつも目に見えて動揺しては落ち込んでいた。見ていられなくなりレイは初めて誠に叱責したのだ。 「マコめっちゃ荒れてたよ…。あそこまで感情出すのは久しぶりに見たよ。俺とマコのやりとりにユウが泣きそうになってたぐらいだ。なんかなぁ…」 「んー?」 「ユウって自分が傷ついたりしたことには怒ったりしないんだよ。ただひたすら耐える。キャパ狭いくせにさ…。ちょっと心配だよなぁ」 「本当にな。他人の時には手に負えないぐらいキレるのにな…。今回は大河も超絶不安定でな…熱出すわ、吐くわ、泣きじゃくるわで…本当、昔と変わらないな。」 優しい伊藤の笑顔に胸がチクっと痛くなる。世話焼きの伊藤はそんな大河を手がかかるといいながらも、とても大事にしている。レイよりも手のかかる大河に付きっきりになることがほとんどだ。 (大河が羨ましいなぁ) 当たり前のように伊藤を独り占めできることが何度もあって、静かに我慢していた日々を思い出した。大河はタカのことで、大きく傷ついたのもあるが、事務所総出で大切にされ、持って生まれた才能と、タカからの指導で得た技術、本人の絶え間ない努力、抜群のセンス、そして、ほっとけないキャラクター性を持っている。それに比べレイは物分かりよく、要領も良く、人を見ることができるから誰よりも先に一歩引いてしまうのだ。 (一緒に、いたかったな…) 付き合いたてに聞いた、伊藤の誕生日。いろいろ準備しようとしたが時間も取れず、ささやかだがコンビニでスイーツを買って、酒を飲んで、2人きりで祝いたかった。誕生日の前日にスキャンダルの情報が入り、その日のうちに飛んで行った。 「おまたせー。食べよう。」 「うまそー!!いただきまーす!」 男の料理らしいボリュームのある食事は、空腹には染み渡るようで箸が止まらない。もぐもぐと頬張っていると目の前に座る伊藤が、愛しさいっぱいの目で見つめていて、思わず固まる。 「な、何?」 「いや?…やっと二人きりで会えたーって思って。」 顔が熱くなるのが分かって慌てて下を向くと、クスクス笑っているのが聞こえ、沸騰しそうなほど恥ずかしかった。先程の小さな傷みは直ぐに完治した。 「俺も、会いたかった」 「ふふっ…。あー!俺、本当幸せだ…。レイと暮らせてるなんて」 「もう…何だよ。酔ってるのか?」 嬉しい言葉が照れ臭くて、からかうように言うと、それを見てまた、幸せだよ、いつもありがとう、と言ってきて堪らない気持ちになる。 「ま、欲を言えば自分の誕生日には一緒にいたかったけどな」 少し苦笑いする素直な言葉に耐えきれず、席を立って後ろから抱きしめた。 「響、お誕生日おめでとう」 「っ!!……ありがとう…」 「響?」 「待って、今、顔見ないで。恥ずかしいから」 後ろから見ると耳まで真っ赤になっている。愛しさのキャパを越えてレイは強く抱きしめた。 (伊藤さんの普段とのギャップにいつ慣れるんだろう…) レイはドキドキするのを落ち着かせるため、しばらく抱きしめていた。誕生日に会いたかった、という素直な言葉と、同じ事を思っていてくれた事に嬉しい以外の感情が無かった。 気が済むまで抱きしめたあと、食事に戻りペロリと完食した。片付けさえもレイは手伝わせてもらえず、ゆっくりと風呂に浸かった。 脳内で流れる、シャッフルユニットの曲を口ずさむ。久しぶりの歌に正直嬉しくて、今まで以上に練習を重ねている。ブルーウェーブのカナタと一緒に歌えることで、様々なことを学べるのと、ルイの嬉しそうな顔にやる気が倍増している。 いつの間にか真剣に練習をしていて、はっ、と近所迷惑になったかと慌てて風呂場を出た。 「いい歌だな」 「あ、聞こえてた?ヤバ…近所からクレーム来そう」 「はは、あれぐらいなら大丈夫だろ」 片付けを終えた伊藤は、レイの髪をドライヤーで乾かしながら歌の感想を口にした。温かい風と髪を撫でる手が気持ちよくて目を閉じる。 「レイ、ラップよりも歌にしようか?」 「ううん。今のままでいいよ。歌上手いメンバーはたくさんいるから」 「レイも上手いよ」 「ありがとう〜」 最近よくラップより歌をやらないかと、言われるが、レイはラップもちゃんと取り組みたいと思っている。歌が好きなのは確かだが、ラップもだんだん楽しくなっているのだ。 「レイ、誕生日プレゼントちょうだい」 ドライヤーを片付けながら、伊藤は急におねだりしてきて、レイは慌てたあと、何も用意できなかったことを伝え、謝った。 「物じゃない。わがまま言っていい?」 「??…俺にできることなら」 「俺だけのために、歌って?」 「へ?!」 ダメか?と困ったように、でも懇願するように見つめてくる伊藤に思わず笑ってしまう。 (そんなこと、誕生日プレゼントじゃなくてもいつでもやるのに) 「プロの人にこんなこと頼むの、失礼って分かってるけど、」 「やだなぁ、そんな重たくしないでよ。俺の歌なんかで良ければいつでも響のためだけに歌うよ」 「本当か?!ありがとうっ!」 子どもみたいに目を輝かせ、ガバッと抱きしめられそのままベッドにダイブする。 「レイ、ありがとう〜!俺、お前の歌本当に好き」 「大河には及ばないけどな」 「また大河。レイは無意識かもしれないけど、大河と比べすぎだぞ。もっと自信を持て。それぞれの良さがあるんだから。」 無意識に出していた大河の名前を指摘され、やっぱり伊藤にはお見通しだ、と苦笑いした。ゆっくりとキスした後、伊藤が歌ってくれる?と聞いてきた顔が可愛くて、笑って頷いた。 何を歌おうかと迷っていると、伊藤がリクエストした曲に目を見開いて、その後涙腺が緩みそうになる。 リクエストされたのは、伊藤とレイが初めて会った時に一人でがむしゃらに練習した曲だった。 大河がデビュー予定グループから外されると聞き、レイはそんなグループなら俺も嫌です、と抜けた。毎日のように大河をみんなで攻撃しては、嫉妬の感情を当たり散らし、グループの空気は最悪だった。当時のリーダーである向井透は、自分がセンターじゃなければやりたくない、万が一自分がセンターではない場合には、センターは大河以外の人でないと認めないという自己中心的な考えだった。その向井からなぜかレイはとても気に入られており、大河からレイを離そうと必死だったのもストレスだった。 「レイ、俺のことはいいから。せっかくデビューできるんだから、もう一度頭下げて戻れ。Altairにはお前が必要だ。」 「いや、あの状態のチームには戻っても意味がない。大河、絶対にデビューしてみせよう」 「あぁ。…レイ、俺のせいで本当にごめん」 「泣くなよ。辛かったな、大河。よく頑張った。よく耐えた。俺はお前とデビューしたい。お前に追いつけるように、お前とデビューできるように俺、頑張るから」 チームを抜けた2人の待遇は全く異なっていた。 レイは一気に声がかからなくなり、ステージの予定がないまま闇雲に練習する日々。それに比べ大河は、定期公演でソロの枠が準備され、ステージの経験を積んでいた。悔しくなかったといえば嘘になるが、後悔はしていなかった。デビュー準備のAltairのメンバーが何度もレイを説得しにきても、断り続けた。 「レイ!なぁ!考え直してくれよ!デビューできるんだぞ!今のままだと、どのチームに入れるか分からないじゃないか!俺たちはお前なら一緒にデビューしたい」 「透さん、いつも声かけてくれてありがとう。でも、俺の実力はまだまだ足りないし、Altairにいると邪魔になるよ。もう少し練習して同じステージに立てるよう頑張るから」 「レイ!頼むから!お前にはいてほしい!」 透は必死で、レイをぎゅっと抱きしめた。そのあと耳元で言われた言葉に、目を見開いて突き飛ばした。 「レイが好きなんだ」 レイの実力がAltairに必要だと、言ってくれていると思っていたレイは、心臓が刺されたように痛んだ。なんだ、この人のエゴだったんだ、この人の好きな人は自分のテリトリーに、いらない人は排除する、ただそれだけのために、メンバー総出で自分を説得していたのだと。 「俺は、嫌いです。透さんの気持ちには答えられません」 「大河にした仕打ちのせいで、俺のこと嫌になったの?」 「全部ですっ!全部っ!大っ嫌いです!」 レイは大声で泣いた。透は傷ついたレイに気付かず、可愛いなあと言いながら抱きしめていた。一緒に出来ません、と言い続け、透は先にデビューして待ってる、と言って去っていった。それを大河が廊下で聞いていて、事務所にレイとチームで動きたいと申し出たそうだ。この日の次の日、Altairメンバーに翔がセンターで加入したと聞いた。 相変わらず大河と差がついていく日々。焦りも隠せないまま、ひたすらスタジオにこもって歌い続けた。その時の練習曲はオーディションで歌ったバラードのラブソング。焦燥感を吐き出すように声に乗せて歌った。 パチパチパチ 歌い終わると拍手が聞こえ、顔を上げると鏡ごしに見えたのは社長と、入社したばかりの伊藤。 「すごいっ!感動しました!」 その目には涙が浮かんでいて、レイは素直に嬉しかった。真っ白な肌に真っ黒な髪。スーツをしっかり着こなした姿のその人は、涙を拭ってニコリと笑い、挨拶をしてきた。 「石田レイくん、初めまして。大河くんと君をサポートする伊藤響です。これからよろしくお願いします。」 社長曰く、伊藤は他の事務所でのマネジメント経験があるそうで、一からタレントを育てたい、とうちに来たようだ。また、以前は女性タレント担当だったため、今回は男性タレントのサポートがしたいと入社したという。 「絶対デビューしましょう。よろしくお願いします」 そこからほとんど毎日一緒にいて、大河のわがままに手を焼いていたが、レイと大河は自然と伊藤を頼るようになった。伊藤はほぼ全員という練習生をあたったが、大河が嫌がり、最終的には伊藤が日々スカウトをするため街頭に立っていた。 スカウトしてきた人は全員顔もスタイルもいい人達だったが、大河が認めないままだった。 「だから、俺はレイと2人でいいんだよ!他のメンバーなんていらない!!」 「バランスの話だ!2人には限界がある。最低でもあと3人だ!」 「嫌だ!」 勝手にしろ!と伊藤が怒って出ていくと、大河は落ち込んで、レイにだけ弱音を吐いた。メンバーが集まってもお前は要らないって言われるのが怖いと本音を零した。事務所にいるはずの伊藤を探し、大河の本音を伝えようとするも、伊藤は必死にスカウトに出て、大河が認めてくれる人を探し、声をかけ続けた。 そしてようやく、1人を見つけ、そこからメンバーが集まった。 「あの歌がさ、俺忘れられないくらい好き。絶対デビューさせてやるって思ったなぁ」 「あはは、懐かしいなぁ。がむしゃらだったから…」 伊藤はちょこんとベッドに座り、目の前に立つレイをキラキラと見つめた。 「響のためだけに歌います。聞いてください」 音源もなく、アカペラになったが、伊藤はレイを見つめ、途中から涙を流しながら聞いていた。その姿に目の前の人が愛しいという気持ちで溢れた。歌い終わった瞬間、余韻に浸る前に伊藤の唇を奪い、押し倒して激しいキスをする。そっとメガネを取ってベッドサイドに置き、涙の残る目尻には優しいキスをして耳元で囁く。 「響、誕生日おめでとう」 「っは、っ、ん、ありがとう」 「響、響」 「ンッ、んぅ」 レイは上から伊藤の唇を味わう。止まらない興奮に息が荒くなる。ベッドに伊藤の手を縫い付けて好きなだけキスを堪能する。気持ち良さそうな顔を見て理性が切れた。 「んっ、レイ? 」 「はぁっ、はぁっ、響、はぁ、響」 伊藤の首筋を舐めた後思いっきり吸い付いた。 「いっっ!レイっ!」 「ンっ、んちゅ、んっ」 真っ白な肌に浮かぶ印に更に興奮し、服を脱がせ、筋肉のついた胸や、綺麗な鎖骨に吸い付いたり舐めたりしてだんだん下に降りていく。固く上を向いたソコに嬉しくなり、下着ごと膝ぐらいまで降ろし、勢いよく飛び出した熱にしゃぶりついた。 「くぅっっ!ぁあ!!っは、レイっ」 「はぁっ、ふぅんっ、んむぅ、ぢゅるっ」 レイがちらりと伊藤の顔を見ると、真っ赤にして眉間にシワを寄せ、気持ち良さそうに目を閉じている。もっと気持ちよくしたいと、袋も刺激し裏筋やくびれに強く舌を当てるとビクビクと腰が浮いた。 (あ、これが好きなんだ) 気付いてしまえばそこに集中するだけ。息遣いが荒くなるのがレイの興奮を煽る。ぐっと髪を握られ、クンクンと腰が押し付けられる。もう一度顔を見ると薄く目を開け、レイを見つめている。 「レイ、イイよ…はぁ…気持ちい…」 甘くセクシーな声に、レイの腰がゾクゾクと震える。 (欲しい、はやく、響のが欲しい) 口の中のモノが愛しくて、欲しくて堪らない。夢中でしゃぶっていると突如奥まで押し込まれ、上から気持ち良さそうな声が降ってきたと同時に喉に温かいものがかかった。一滴も逃さないよう何回かに分けて飲み込み、最後に綺麗に舐めとって唇をはなした。 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、レイ、上手すぎ…」 呼吸を落ち着かせている伊藤の首や胸にはたくさんの痕。真っ白な肌に映えていて嬉しくなり、胸の尖に舌を這わせる。 「んぅ…、は、レイ?…抱きたい気分か?」 「はぁ、もう、響がエロい、興奮する」 「レイのここはどう?俺に見せて」 「ん、見て」 ガバッと躊躇なく脱いでいく。下着を下ろす時にトロリと糸を引くのを見て、レイは自分のモノに手をかけた。 「ぅあっ…はぁ、はぁ、ぁあ」 我慢できずに一人で没頭していると伊藤がその手を取り、濡れた指をしゃぶる。目を逸らさないままねちっこく舐める姿に、レイのそこからはタラタラと溢れている。 後ろの方まで濡れたレイの愛液をすくい取って立ったままだった足を開かせそこに指を入れる。 「っあぁああ!!ーーっ、あ、っああ!」 ぎゅっと伊藤の肩にしがみつき、ガクガクと足が震える。気持ち良さに勝手に背が反り、中はきゅんきゅんと締め付ける。 「ひびきぃっ!ひびき!」 「はぁ、レイ、可愛い、息吐いて、増やすよ」 「ふぅーーーっ、んっ…っあああーー!っあ!!あ」 「上手、三本入ったよ。わかる?」 「はぁっ!っあぁ!は、っあぁ、」 コクコクと頷き、舌を出して伊藤を誘うと温かい舌が絡められ蕩けそうになる。キスしながらも解されていく中に、急にゾクゾクと腰に来る気持ち良さが駆け上がってくる。 「ん…レイ?」 「くぅんっ…はぁ…は、…ぁあ…あっ、」 「どうした?大丈夫か?」 「あぅっ…ぅっ、っあっ、っああ」 「イく?」 「ッッ!!ーーっぅ、ああぁああーー!」 背中に爪を立て、ガクガクと震えた瞬間意識が飛びそうなほどの気持ち良さが電流のように駆け巡り、床と伊藤のお腹にパタパタと吐き出した。 ビクンビクンッと跳ねる腰と収まらない荒い呼吸。 「っはぁっ、はぁ、っ、気持ちいっ」 「おっと…。ほら横になって。疲れたろ?」 「はっ…やだっ、終わり?」 「そんなわけないだろ…」 耳に囁くような低い声とセリフに顔が熱くなる。上に乗る伊藤の顔は本当に優しく、そっと顔を撫でてくる。 「レイ、愛してる」 言葉と共にゆっくりと熱が入ってきて思わず腕を強く掴む。ぶっ飛びそうな意識を必死に引き戻し、ぼやける視界で伊藤を見つめると胸が締め付けられるようにきゅんきゅんと痛む。 (好きすぎて、怖い) 「はぁっ!好きっ、響が、好きっ!」 「うん、伝わってるよ。」 「好き、好きだからっ」 「うん。大丈夫。いいよ、溺れて。俺はそばにいるよ。俺に預けていいから」 流れていた生理的な涙を親指で拭われ、よしよしと頭を撫でられる。大丈夫大丈夫、落ち着くまで動かないよ、と待ってくれる伊藤からはポタポタと汗が落ちる。 「ひびきぃっ」 「ふふっ、どーした?ほら、ここにいるだろ?」 優しい声音に涙腺が壊れた。幸せすぎて心が追いつかない。 「本当、俺の前では泣き虫だな…。レーイ、大丈夫だよ。」 「はっ、ふぅ、っ、好きっ!俺、響が好き」 「うんうん。分かってるよ。俺もレイが好きだよ。大丈夫か?不安になった?」 「ちがうっ、なんか、もう、それしか、っぅあっ、」 かーわいー、と嬉しそうに呟き、ふわっと笑う顔にレイは更に真っ赤になった。強請るように腰を上げると、伊藤は息を詰めた後、動くよと囁き、痺れるぐらいの快感が襲う。 「ああっ!っあ!んぅっ!っはぁっああ!」 「はぁっ、はぁっ、レイ、愛してる」 「んっ、ぁあっ、はぁ、っ、俺も、」 愛してると返したいのに言葉が続かない。必死に息を吸っても押し出されるのは耳を塞ぎたくなるほどの自分の甘い声。絶頂へ導かれながらも心が満たされて、目の前の愛しい人に縋りつき、堪らない衝動に爪を立てる。 (響がいるだけで、こんなにも満たされる。依存したらダメなのに、響がいなきゃダメだ) 「レイ、ずっと俺のそばにいて」 気持ち良さそうな声で囁かれ、ズクンと奥からせり上がってくる抗えない快感に、レイはぎゅうぎゅうと中を締め付け、その刺激にさらに追い詰められていく。伊藤の呼吸も荒くなり、二人で絶頂に向かう。 「っっ!?っぅ…っあ、っあ、やばいっ、もうっ、ッああああーーーッ!!」 「くぅっ!…っ!ごめっ、出すよっ…」 身体を拭かれる感覚に目を覚ますと、メガネをかけた伊藤が覗き込んでいた。 「あ、起きた。大丈夫か?ごめんな、無理させた。失神するほど激しくしたつもりはなかったんだけど…焦った。」 髪を撫でる手を握って唇に持っていき、ペロリと舐めると、煽るな、と怒られた。されるがまま綺麗にしてもらい、降りてくる瞼と闘っていると、伊藤が嬉しそうに呟いた。 「もともと感度良いけど、今日はすごかったな。溜まってたんだな」 「…それもあるけど」 「けど?」 「やっと会えたのが嬉しくて、どこ触られてもぶっ飛びそうだった。それに、誕生日、俺も一緒にいたかった。仕事だって分かってるけど、大河ばっかり、って拗ねてた」 身体を拭く手が止まって、きょとんとした後、伊藤はレイの髪をくしゃくしゃにした。 「うわっ!何だよ!」 「あははっ!レイ!ははは、可愛いすぎだろ」 「笑うなよっ!真剣に…っ。まぁ慣れてるけどさ、大河に取られるのなんて。」 レイはさすがに幼稚すぎたと反省して苦笑いした。大の大人が何を言ってるんだと、自分で呆れ、笑ってくれた伊藤に感謝した。 「そういうの、年下らしくていいな!普段しっかりしてるし、物分かりいいし、さっぱりしてるから気付かなかった。ごめんな?…ふふっ、だからこんなに痕つけたのか?」 「あと?」 何のことか検討がつかずに首を傾げると、伊藤が着ていた服を脱いだ。真っ白な肌に浮かぶ生々しい痕に、レイは一気に赤面して固まった。いつかの優一が伊藤に大目玉を食らった時のソレと類似していた。 「あ…どうしよう。ごめんなさい。」 「いや、いいよ。俺は人前で着替えることなんかないからな。あー、これでユウのこと言えなくなるわ。…たしかに、これは結局嬉しかったりするしな。」 レイは自分がつけたキスマークに触れ、伊藤を見上げた。 (俺にもつけてほしい…) 飲み込んだ言葉を伊藤は察したのか、困ったように笑った。 「ごめんな?」 「ううんっ…わかってる。」 「うん、でも心が追いつかないな?」 「何で全部分かるんだよっ…っ、」 「全部ではないさ、でもレイのことは少しでも分かってやりたいと思ってる。だが俺の立場上、恋人であってもこれは答えられないよ。だからそんな痕が必要ないくらい、俺はレイのそばにいる。」 ゆっくりと、丁寧に伝えてくれる伊藤に、頷いた。恋人でもあるがマネージャー。担当しているタレントに手を出した形になる伊藤は常に慎重だった。それはお互いを守るため。秘密の恋はどんどんレイを酔わせ、依存させていく。 (ハマりやすいな、俺) しっかりしないと、と自分の両頬をバチンと叩くと伊藤がビックリしていたが、気合いが入った。 「よっし!明日に備えて寝よー!伊藤さんも寝よー!」 「レイ、まだ二人きりだから仕事モードやめて。響って呼んで?」 「っ!!可愛すぎかっ!マジでユウみたいだぞ響っ!」 うはは、と爆笑している伊藤につられ、レイも涙が出るほど笑った。 「おはよう、大河。雨なのに早いな」 「ん。まぁね。昨日考えごとしてて眠れなかった。」 「何か不安なこととかあったら遠慮するなよ?」 「ありがとう。あ、そういえば伊藤さん」 「ん?」 「レイって独占欲強い方?」 意外な質問に、え?と固まったあと昨夜の大河優先云々を思い出した。 「どうした?なんか言われた?」 「いや?襟足んとこ、痕ついてるよ」 「え?…あー…」 「これユウに見られたら騒ぐだろーなー」 悪戯っぽく笑い、あー楽しみ、なんて言っている。後でコートとマフラーでもしようとため息を吐いた。 「独占欲強いのかなって思ったのは、首の痕もそうだけど、飲み会とか断ってるらしいからな」 「へー?お酒好きなのにな。そういや帰り早いな」 「伊藤さんと一緒にいたいんじゃないのー?」 「そうかな?たまたまじゃないか?独占欲とは関係ないだろ」 「ユウ曰く、伊藤さんいない時のレイさんピリピリしてて怖かった〜ってさ。また俺が伊藤さん取ってたからな。」 「また?」 「あぁ。レイは無意識かもしれないけどよく言うんだよ。伊藤さんは大河優先だからって」 俺が悪いんだけどね、という大河にそうだな、と同調してフォローしろよ!と怒る大河を怒らせておきながら伊藤はレイの小さな嫉妬に愛しさが募った。 (どこまで夢中にさせるんだか…) ニヤけてるーと揶揄う大河を黙らせて、もう一人うるさいだろう人物を迎えた。 「あー!!伊藤さん、キスマーク!!コラ!伊藤さん、お仕事やる気あるの!?」 「はははっ!ユウの仕返しだ!」 「お前みたいに仕事に影響してないだろ。もしかして反省してないな?ならまたタカに言ってあと1週間…」 「うそうそ!冗談だってば!怖いなぁ!…それにしても、ふふっ…レイさんやっぱり独占欲強そう〜!」 満足そうにケタケタ笑って、シートに腰かけたと思ったらすやすやと寝息を立てた。 疲れ切った寝顔にしては肌艶がいいのを見てため息を吐く。 (タカの独占欲よりはマシかな) 「ユウも人の事言えないよなぁ〜」 クスクスと笑う大河に、お前の彼氏は誰よりも独占欲強いよな、と言うとバツ悪そうに目を逸らし、雨が打ち付ける窓に顔を向けたのに喉の奥で笑った。 「マコっ!今日飲みに行こう!」 「へ?珍しい!最近早く帰ってたのに…伊藤さん待ってるんじゃないの?」 「いいからいいから!な?青木も待ってる!久しぶりに三人で飲もう!」 2時間後ーー 「マコちゃん、もう帰ろうよ…」 「無理でしょ。こんな幸せそうに話してるのに止めたら可哀想だよ」 「だってもう俺聞いてられないよっ!明日からどうやって伊藤さん見ればいいの?」 「想像しないようにしよう。これはラジオみたいなもんだ。うん。聞き流そう、伊藤さんのためにも」 ベロベロに酔ったレイは伊藤への惚気から始まり、夜の営みも赤裸々に語り始めた。 青木は顔を真っ赤にし、誠の膝をバシバシ叩いた。 「マコちゃん、マジで耐えられないよ!全然酔えないし!」 「酔えないと辛いよね…。俺の気持ち分かった?」 「痛いほど!」 「なぁ聞いてる?」 「「聞いてる、聞いてる」」 青木がトイレに行ったふりをして、伊藤に連絡し、回収に来るまで惚気は続いた。

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