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第46話 友だち2

(どうしよう…) 深夜1時。 大雨が降る中、優一は青木のマンションまで来た。ブルーウェーブのカバーアルバム発売に向けてのレコーディングで、タカはしばらく不在になると青木に伝えたところ、ご飯食べにおいでと誘ってくれた。鍋をしようと言われ、いくつか買い出しもしてきた。マンションに降ろしてもらったはいいが、部屋番号をすっかり忘れてしまった。青木は仕込み中なのか連絡も取れない。 (うーん。みんな連絡取れないや) 優一はため息を吐いて、壁にもたれると、駐車場の先に見覚えのある顔を見てゾッとした。その顔は優一を確認するとズンズンと寄ってきた。 「何でここにいんの!?」 「関係ないですよね」 「いつRINGから抜けるの?さっさと消えてくれない?」 「…考えとくね」 「いつまでそこにいるつもりなの!?大地くんに絡むのやめてよね!気持ち悪い!」 「ねえ?君はここで何してるの?」 優一の目は据わっていた。青木の名前が出るまでは、この子の家なのかも、と流していたが、彼女からはっきりと名前が出て、ストーカーが続いていることを知った。 「答えて。何してるの?」 「関係ないじゃない」 「俺、青木の名前出してないけど、何で青木が出るの?」 「どうせ大地くんに会いにっ」 「まだ付けてんの?ここに住んでいたとしたらお前、いよいよ犯罪だよ」 いつもと違う優一に、その子は動揺を隠せないまま強がっているが、優一は怒りを抑え静かに話し続ける。 「なぁ?分かってんの?お前、ここで何してんの?」 「っ!ファンに向かってそんなこと」 「ファンの価値下げるなよ、ストーカー。お前はファンじゃない」 「あんたのファンじゃないわよ!」 「は?青木のストーカーって言ってんだよ」 怒りで顔が真っ赤になるストーカーは優一に向かって走ってきた。 受けて立とうと真っ直ぐに見つめていると急に後ろに手を引かれバランスを崩す。タバコのつよい香りがしたあと、しっかりと腰を支えられる。 「うわっ!?」 パシンッ 「えっ?」 「あ!ご、ごめんなさいっ」 「だ、大丈夫ですか?!おい、お前!一般人に何やってんだよ!!」 「ちがっ、私はあんたをっ…」 買い出しだ袋を放り投げ、頬を抑えるスーツの男性を見上げる。ストーカーはオロオロしたまま立ち竦む。 「っ〜!、悪い、待たせたね!何?彼女?」 「え?あ、いや」 「今日は家で鍋する予定だったのに、遅れてごめんな?」 スーツの男性は爽やかな笑顔で優一を見て、買い出しの袋を拾った。 疑問符でいっぱいの顔をそのままに、口を開けたままスーツの男性を見る。 「…君さぁ、僕の友人に何してんの?」 「え?あんた…大地くんに会いにじゃないの…?」 「大地?」 スーツの男性は袋を持ったまま怪訝そうに問いかける。 「ここに住んでるアイドルの…」 「で?君はそのアイドルの彼女か何か?」 「まだ彼女じゃないです」 まだ、と言うところに優一の眉間にシワが寄る。青木に振り向いてもらえると、本気で思っているようで呆れた。 「だろうね。君みたいな暴力的でヒステリックで、ストーカー?彼女になれるわけないでしょ」 「何よあんた」 スーツの男性は馬鹿にしたように笑って、ストーカーを上から下まで見て、うーん、見込みはなさそうと呟いた。逆上したストーカーは、今度は優一ではなくスーツの男性に噛み付こうとするも、弁がたつその人はペラペラと喋り出した。 「君、自分の状況わかってる?僕が今、被害届だすと君は逮捕だよ。どうしよっかなぁ」 「そんな!あんたが勝手に入ってきたんでしょ!」 「僕の友人への恐喝、僕への暴力、そして実際いるか分からないけどアイドルの待ち伏せ。はい、ここ、見て。マンションの住人以外の侵入を禁じる。君が住人ではないのなら不法侵入でも通報できるね」 どうなの?と問い詰めると、舌打ちした後、黙り込んだストーカーは雨の中走り去っていった。 「あの…ありがとうございました!大丈夫ですか?」 「いえいえ。まさかまた芸能人に会えるとは。RINGのユウさんですよね?」 「あ、はい」 「ふふ、そのままの姿で出歩いてるんですか?大地でもマスクしてましたよ」 「え?!青木を知ってますか?」 「はい。この間お部屋にお邪魔しまして。猫ちゃんが可愛いくて!」 同じフロアなんです、と言ったスーツの男性に優一は縋るように見つめた。 ピンポーン 「もー!ユウ遅い…わぁ!!」 「ん〜!青木ー!青木のバカー!」 ぎゅーっと抱きついてきた優一の後ろから、ニコリと笑った正樹がペコッと頭を下げた。 「え?ユウ、正樹と一緒にきたの?」 「お兄さんに教えてもらった!青木のお部屋!お前連絡したのにっ!」 「え?折り返したのに出なかったんでしょ?」 やりとりをふふ、っと笑って去っていこうとするのを優一が手を引き、お礼に一緒に食べようと誘った。 「正樹が助けてくれたの!」 優一はニコニコデレデレしながら正樹にくっついた。ロンTにスウェットに着替えてきた正樹は、また青木の家にお邪魔していた。優一は瞬時に正樹を気に入り、となりに座って、やたらボディータッチが多い。 「ユウ、正樹にくっつきすぎ、食べにくいでしょ?」 「僕は構わないよ?」 「聞いてよ青木、本当にヒーローみたいだったー!俺、守られたの初めてな気がする!正樹イケメンだしもう超カッコイイ!!」 テンションが上がる優一にあからさまにテンションが下がる青木。正樹も嬉しそうに優一を見つめ、優一の話をうんうん、と優しく相槌を打ち、時々頭を撫でた。 「ノンターン!おいでー」 「可愛いなぁ本当に」 ノンタンも優一も取られ、青木は不貞腐れて鍋を片付けた。ノンタンと優一が遊んでいる中、正樹は僕もやる、洗い場に立った。 「ご馳走さま、すごく料理が上手いんだな、すごいよ」 「適当だよ」 「しっかし、大地もそうだけど芸能人はやっぱりオーラが違うな!ユウさんは顔が小さいし目がノンタンみたいにクリクリ。可愛すぎるなぁ、男でもユウさんなら抱けるわ」 冗談だと分かってはいるが、一瞬手が止まる。嫉妬で胸がいっぱいになるのを正樹は気がつかないまま続ける。 「RINGの中で1番好きだから、本当嬉しいなぁ」 「取らないでよ」 「え?」 「…何でもない」 漏れそうになる本音をギリギリで抑え、ゆっくりしてて、と苦笑いする。 「大地、そんな泣きそうな顔するなよ。ごめん、なんか気に障った?」 「ううん。大丈夫だよ」 無理やり笑顔を作ってると、リビングから様子を見ていた優一が青木を後ろから抱きしめた。 「青木?どうしたの…っ、んっ」 「えっ…?」 「んっ、んぅ、」 腰にまわった手を取って正樹の前で優一の唇を奪う。嫉妬が抑えられず、止まらない。正樹は酔ってんの?と、面白そうに見て腰が落ちそうな優一を後ろから支え、青木にニヤリと笑った。 「何、抜き合い?」 「ちょっと、何っ!二人ともっ離してっ」 焦る優一にも欲情して、青木は正樹にコクンと頷いた。 正樹は後ろから優一の服の中に手を入れ、小さな尖を優しく撫で、首から耳元で囁く。 「ユウさん、僕らと遊びましょ」 タバコの匂いがタカと一緒で優一の抵抗も弱くなっていく。脱がさないまま、服の中での愛撫に声を必死に抑えながら目を閉じる。ビクビク跳ねるのを青木は凝視した後、優一のジーンズの前を寛げ、固くなったソコを取り出し、夢にまで見たものを口内に迎えた。 「っぅ…ああっん…んっ…ふぁっ、だめ」 「やば、エロすぎ」 声を聞いた正樹は目を見開いて、顔を後ろに向かせるとその色気に思わず固まった。 「ユ、ユウさん、本当に男?ヤバイ、普通にヤれる。」 「はぁっん、んぅ、っあ!青木ぃ、ダメだよっ、はなしてよっ、ふぅっ、」 「ユウさん、エロすぎ。大地、イかせてみて」 正樹は優一の小さな唇にそっと触れると、タバコの匂いで優一が落ちた。自分から必死に舌を絡ませて、もっと、と強請った。正樹は嬉しそうに笑って存分に味わっていると、急に優一が顔を背けて首を晒した。 「んっ…ユウさん?出そう?」 「はぁっ!んう!あっ!あ!あ!っ!はぁっ、タカさんっ!ン、もぅ出るっ!」 「タカさん??」 溢れた名前に青木はイライラして口内のそれを一気に吸い上げた。 腰を支える正樹の腕をぎゅっと握りしめて優一は大きく跳ねた。 「っ!?っああああーー!!ンッ!!」 「っん、」 「いや、やばすぎ。鼻血出そう。めっちゃビクビクしてる。」 ごくんと飲み込み、口を放すと、優一は閉じていた目を薄く開き、トロンと青木を見つめた後、大きな瞳がゆっくり閉じた。 「可愛い。疲れてたのかな、寝ちゃった」 「抑えられなかった…はぁ…ダメだ俺」 優一の身体を拭いてベッドに運ぶと、ノンタンが寄ってきて優一の顔の近くで丸くなった。青木は制御できなかったことに落ち込み、頭を抱えるが、正樹は気にせずテンションが高い。 「ユウさんエロすぎ!さすが芸能人だ。そこらの男とは全然違うね!可愛いし!」 「…正樹、俺の失恋相手、ユウなんだ」 「えぇっ!?男だったの?!大地男好きだったんだ」 うわっ、みたいな顔をされチクンと胸が痛む。普通の反応だとは分かっているが、実際にそれを出されたことで、あの日の優一や誠の気持ちがやっと分かった。 「たしかに可愛いけどさ、男相手にそれはないだろ〜」 「当時の俺もそう思ってたよ。…で、ユウは今彼氏がいる。」 「あぁー。まぁ可愛いし、ゲイはほっとけないだろうな。さっき言ってたタカさん?」 「そう。今同棲中。舞ちゃんと同じタワーマンション。そして最上階」 「マジかよ…。スペックも上なのに、そーゆーコトしてるときに名前呼ばれたらキツイな。」 自分と青木を重ねたのか、辛そうな顔をしてビールを煽った。 タカは芸能界でも先輩で、事務所の稼ぎ頭。音楽の神に愛されたその人に勝てるものは、何1つない。 「ユウに芸能界に誘われて、同じグループでデビューして、寮に住んでって、俺がダントツで優位だった。タカさんはどちらかというとユウに毛嫌いされていたのに…俺が傷付けたその日に、弱っていたユウを支えて、心まで奪っていった。」 「なんて傷付けたの?」 「男同士でメンバー同士で気持ち悪いって。男なら誰でもよかったりして、とか、ヤりまくってるんじゃないかってさ」 「え?…おいおい。さすがに言い過ぎじゃない?好きな人だったんだろ?」 呆れたように言う正樹に、苦笑いするしかなかった。本当にその通りだった。 「ユウの幼馴染がいて、その2人の絆に嫉妬してたんだ。」 「あぁ、なるほど。大地、さっき俺にも嫉妬したろ?」 「バレた?」 「急に機嫌悪いなぁーって。そういうことか。派手に拗らせたな」 乾杯と、缶ビールをぶつけ合う。たしかに仲良く出来そうだ、と正樹は笑ってタバコを吸いにベランダに行った。 (ん?電話…舞ちゃん) タバコに火をつけ、ぼーっとしていると手の中のケータイが震える。取ろうか無視しようか迷っていたのに、身体が反射的に応答した。 「もしもし…どうしたの、泣いてるの?」 「正樹っ、私、正樹がいいの」 「…舞ちゃん。もう俺のことはいいから。今の彼を大事にしな?」 「奪いにきてよっ、私は正樹といたいの!迎えに来て、今すぐ会いたい」 正樹は火をつけたばかりのタバコを揉み消した。 「ユウ、起きて。おはよう。」 「あれっ?おはよう…ここ…」 目をこすりながらキョロキョロと辺りを見回す優一のもとに、ニャーと鳴きながらノンタンがお腹に乗る。 「ノンタン…。あ。」 優一は思い出したのか顔を真っ赤にして青木を見た後、ジロリと睨んできた。 「青木、悪ふざけしないでよ。正樹と2人でいじめてさ。抜き合いなんかしたくなかった。からかってたんでしょ、俺のこと。抱かれる側の奴への興味?」 「悪ふざけじゃないよ」 「じゃあ何?」 「……。」 「はぁ。もういい。終わったことだし。青木にはがっかりしたけど。」 起き上がる優一をまた押し倒す。ノンタンが逃げていくのを無視して優一を見つめる。 「悪ふざけでも興味でもない。好きな人を抱きたいと思っただけ。」 「っ!」 「正樹はたぶん興味だった。それに便乗したのは俺が悪かった。でも…ユウ、正樹とタカさんかぶってたでしょ。あんなにベタベタしてさ。助けてくれたのかもしれないけど、会った初日なのにおかしくない?ユウだって正樹にすぐ落ちたクセに」 「何それ、俺がベタベタしたからって」 「俺にはしないのに何で会った初日のやつに全部許すんだよ!俺はダメなのに!なんで正樹はっ!」 優一が悪い、と言われあからさまにカチンときた優一は、ギロッと青木を睨みつける。触んないで、離して、と強く抵抗する。 「俺は!ずっと変わらない…変われないのに…、せめてずっとタカさんだけ見てくれよ!一瞬もよそ見すんなよっ!俺に変な期待とか嫉妬させないでくれよっ!」 「どういうこと?俺はタカさんしか見てない!!」 「正樹には好意をもったくせに!ずっとユウを見てるからわかるんだよ!」 「ちがう!そんなんじゃない!正樹にはそんな感情なんかないよ!よそ見もしてない!」 「ユウのあざといところも誰彼構わず誘惑するところも、酔ってキス魔になるのも含めて好きだよ、でも、好きだけど、そんなユウが大嫌い!」 ポタポタと優一の顔に青木の叫びと涙が落ちる。優一は目を見開いた後、眉を下げ、ごめん、ごめんね青木、とそっと抱き寄せた。 「もう俺を解放してよっ…なんでこんなに、夢中にさせるの。なんで好きなままなの」 「ごめん、青木。ごめん」 「どんなに別の人抱いても、ユウが良くて、代わりなんかに全然ならなくて」 「…ごめん」 「ねえ?ユウ、一回だけ抱かせて。そしたらもうしないから。」 「っ?!…青木…」 「もう諦めたいんだ。お願い」 優一はどうしたらいいか分からなくなり、混乱した。抑えられた両手首は強く握られ、時計を見ると出発の時間が迫っている。 「青木…時間が…」 「はぐらかさないで!」 「えっ…と…」 強く迫られると更に頭が混乱して、涙が溢れてきた。どうしてこうなってしまったのか、傷つけずに回避する方法が分からなかった。 「泣くなんてずるいよ…」 手首が解放され痛いほど抱きしめられる。その背中に優一は腕を回し、青木の服をギュッと握った。 ガチャ 考えといて、と逃がさない言葉の後から、お互い無言のまま一緒に部屋を出ると、強く甘い香水の香りがして、2人はそっとその方向を見た。寒い日にミニスカートにほっそりとした長く白い脚。有名ブランドのハイヒール。ブラウンのロングヘアーにバッチリメイクされたその人は正樹の部屋から出てきた。 優一と青木に挨拶することもなく、電話で猫撫で声で話し始めた。 「もしもし?舞だよ。カズ君今どこぉ?美味しいモーニングがある可愛いカフェがあってぇ〜カズ君と行きたいなぁって。あはは!大丈夫、カレは今ニューヨークなの!今日はカズ君と一緒にいたいなぁ〜。もー、まだ朝だよ?…ふふ、仕事休んでくれる?待ってるね!ベンツで来てね?えー?今日フェラーリなの?仕方ないなぁ〜」 会話の内容に思わず優一と青木はきょとんと目を合わせた。 先にエレベーターで降りた舞ちゃんはマンション前に停まったフェラーリに乗り込んでいった。 「うっ!香水くさい」 黙ってた優一が思わず言葉を漏らすぐらいエレベーターは甘い香りで支配されていた。青木は少し正樹を心配してため息をついた。 (本当派手に拗らせてるよ、お互い)

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