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第47話 選択
ーー諦めるから一度だけ関係を持ちたい
その言葉がぐるぐると優一の頭を巡る。冷静に考えれば、NOで終わる話。あの叫びと涙、握られた手首の痛みが簡単に答えてはいけないんじゃないかと悩ませる。タカとの電話も上の空で、要らぬ心配をかけているが、ここんところはずっとぼーっとしていた。
「優くん!!」
「へっ!?」
また聞いてない、と拗ねる誠に謝りながらも考えることは変わらない。見兼ねた大河が頭を叩いてやっと誠に向き合った。サナのソロ曲の披露を事務所のコンサートで行う予定で、ベースに入る誠は困ったように笑った。
「あ、えっと…。なんだっけ?」
「イライラするなぁ!!ユウ、仕事の話だろ!?真剣に向き合えよ!」
「ごめんなさい」
落ち込む優一に誠は大丈夫だよ、と慌て、大河は大きなため息を吐いて会議室から出て行った。
「まこちゃんごめんね。大河さんも…怒らせちゃった」
「何かあった?今までにないぐらい悩んでるみたい」
「そんなことないよ…えっと、間奏部分だよね」
「優くん。今はそれいいから。話して。」
有無を言わせない雰囲気に固まって、言おうか言わないでおこうか迷う。下を向いて俯く優一に、これは深刻だ、と誠は息を飲んだ。 比較的1番に頼ってくれていると思っていたがそんな自分にも話せないことなのか、と心配になる。
「楓さんがもし…、諦めるから一度だけ抱きたいって言ったら、まこちゃんどうする?」
「えっ!?」
「どうする…?」
「断るに決まってるでしょ。そんな自分勝手な要望」
「そ、そうだよね。」
ははは、と笑いながらもどこか上の空のままで誠はまさかと問い詰める。
「誰なの?マツリさん!?」
「へ?なんでマツリさん?いや、違うよ」
「誰?」
「……。」
「青木?」
名前を出した瞬間優一は反射的に顔を上げてしまった。 誠はあいつ、と呟いて席を立つのを優一は慌てて手を引いて座らせた。
「ちがう、青木は悪くないんだ!俺がっ、俺が全部悪いから…」
「なんで?」
「誰彼構わずにベタベタして、それで、青木を振り回してる…から。」
「だからそんな事言われても仕方ないって?その要望をのんだとして、その後どっちも傷つかない?ズルズルもう一回、もう一回ってならない自信はあるの?優くんがバッサリ断らないのも、青木が期待する原因だよ」
誠の言葉に大きな目はみるみる潤み、ついにポタポタとこぼれ落ちた。そうとう悩んでいたのか嗚咽がするほどになり、誠は背中を摩る。
「傷つけたく…ないっ、けど、分からなくてっ…ベタベタしてる、ってよく、言われるけど…自覚ないから…っ、俺、結局…傷つけて」
「うんうん」
「受け入れちゃダメなのも分かってる。青木や俺だけじゃない、タカさんも傷付くのも。でも、あの顔みたら…俺っ、」
受け入れるかもしれない、と涙ながらに言うのをダメだよ、と誠はハグをした。誰も幸せにならない選択を、選択肢から消すように誠はたくさん話をして、優一はなんとか断る、と言ってくれた。
(あとは、青木だな…)
誠は青木とレイが練習中のスタジオに向かった。少し覗くと、RINGでは見せない笑顔で楽しそうにダンスをしていた。
(本当はもっと踊りたいんだろうな…俺が下手だから…)
近くのベンチで待って、ふとケータイを見ると大河からの大量の着信履歴。
「もしもし、大河さん、どうしたの?」
「お前がどうしたんだよ!今どこ?一緒に帰ろうと思ったけどいないから…。」
「青木に話がある。」
「ユウのこと?」
「そう。」
少し沈黙したことにどうしたの、と聞くとさらに黙る。
「大河さん?」
「本当、ユウとお前の繋がりには勝てないな」
「え?」
「ユウはお前と付き合った方が幸せなんじゃねぇの?なんでも分かるし、お互い助け合ってるし。お前だってユウのことになると真剣だし。」
「大河さん、どうしたの」
「…俺はユウのことを理解してやれない」
その言葉に、大河は心から優一が心配で、でも頼ってもらえなかったことが辛かったようだ。
「大河さん、優くんは十分大河さんを頼りにしてるよ。今回の件は、実はずっと優くんが悩んでいることなんだ。青木との、ことなんだ。」
「青木?なんで今更…あいつ諦めたんじゃねぇの?」
「諦めたい、という自分と、やっぱり優くんをみて抑えきれないままで闘ってるんだ。優くんがいない現場だと伸び伸びと過ごしてるんだけど…、2人とかになると、制御できないんだ。」
そうだったのか、と大きなため息が聞こえた。
「大河さん、タカさんが最後に一回だけ抱きたいって言ったらどうする?」
「は?」
「本当は愛してた、だからきちんと抱きたいって。大河さんの大好きなあの声で言われたらどうする?」
「無いだろ。」
呆れたように即答した大河に少しほっとして、そうだよね、と答えた。
「優くんは今、青木に諦めるために一回抱かせてって言われて、悩んでる。そして、受け入れなければ、と自分を追い込んでるんだ」
「そんなっ、何であいつ…タカさんだけしか見えないはずなのに」
「そう。そこなんだ。何があったかは知らない。けど、あそこまで動揺するのに何か理由があるのかって」
ガチャンとスタジオの扉が開いて慌てて電話を切る。出てきたのは青木ではなかった。
「あれ、マコちゃん。」
「楓さん、お疲れ様です。」
少し動揺するも何でもないように挨拶ができた。
「大河は一緒じゃないの?」
「あ、はい。青木に用があって」
「へぇー。あ、今度さ、タカさんも一緒に飲みに行かない?ユウも誘っていいし」
「え?」
「ちゃんと話したことないから。」
考えといて、とアッサリ去っていったことに心底安心する。
(雰囲気変わった気がする)
その後ルイやカナタが出てきて挨拶をするも、青木が全く出てくる様子はない。レイはほかの収録だと聞いているから、残ってのはあと2人のはず。覗いてみると口論する青木と翔。
「うるさいなっ!!翔くん、俺に干渉してこないでよ!そういう約束でしょ?」
「諦めたいんじゃないのかよ!?ユウにあんなこと言ったら混乱するだろ!?」
「だから!諦めるためにっ!!なんなの!?翔くんは俺たちのことに首突っ込まないでよ!ただのセフレなのに!」
「っ!!」
「…あ、翔くん?」
「そうだよな、ただのセフレがうぜーよな。これももう要らない。お前とはもう関わらない。ユウに迷惑かけんなよ」
翔は鍵を投げつけて振り返ると、目を見開いた。青木も誠に気がついて呆然としている。
「2人とも、少し話がある」
ロビーにあるカフェに2人を呼び出した。ミルクティーを配って長い脚を組んで2人を見つめる。
「説明してくれる?何の話してたの?」
「…。」
「青木」
「…。なに、ユウから何か聞いたの?」
青木は開き直って、優一を思いっきり傷つけた時のような口調で誠に歯向かった。誠は動じることなくじっと見つめる。
「ユウはさ、愛されたいだけなんだよ。結局誰でも良い」
バシャッ
「ま、マコ…?」
「お前、ふざけるなよ」
思いっきりミルクティーをぶっかけられて青木はそのまま俯いた。翔は慌ててタオルで青木を拭くも、2人とも動かない。
「昨日もさ、マンションで友達になった人にデレデレベタベタくっついて…簡単に身体を許してたし…イケメンで優しい人ならユウはすぐ抱かれるよ。だから、俺が一回くらい抱いても変わんないでしょ」
「大地、それはさすがに…」
「翔くんも何?お互い身体だけの関係って約束したよね?恋人気取らないでよ」
ポタポタ髪から滴るのをそのままに、吐き捨てるように切る。傷ついた翔の顔を見て、もしかしてと察するも今の青木に言えばもっと傷付ける。
「お前はその〝誰でもヤる優くん〟の〝誰でも〟の一員になりたくて仕方ないんだな。恋人どころかメンバーよりも友達よりもセフレよりも格下の、優くんの身体を狙う欲だけの男に。」
「ラブラブなマコちゃんにはわからないでしょ俺の気持ちなんか」
「あぁ。分かりたくもないよ。自分を抑えられないだけのガキのくせに、人のせいにして好きな人をボロボロにする奴のことなんか」
ギロッと睨みつける青木に、本当にガキだなっと笑えてくる。
「お前がどうなろうが勝手にしてくれ。ただ、優くんを巻き込むな。」
「ユウのせいでこうなってるんだから、巻き込むもなにも当事者だよ」
「いい加減にしろよ」
初めて見る顔と、恐ろしく低い声に翔は怯えて呼吸さえも小さくなる。青木もさすがに煽りすぎたとひゅっと息を飲んだ。
「もういいよ、まこちゃん」
上から降ってきた声に3人ははっとした。泣き腫らした目が痛々しい。その隣には無表情のタカ。
「もう全部、分かったから。青木もごめんね。こんな奴で。でも、俺は青木と寝ることはできない。こんな奴でも、俺を愛してくれる人を俺は愛していく。だからもう、俺のことは忘れて。嫌いでいいから。今までありがとう。 」
震える優一の手をタカが強く握る。それを見て翔の目が見開いた。嘘でしょ、と口を押さえた。
「話は済んだな?行くぞ」
冷静に聞いていたタカは冷たい目で青木を見て優一の手を引いた。
「ちょっと待ってよ!勝手に終わらせてさ!俺の気持ちは!?いつも言いたいことだけ言って…」
「今のお前の気持ちは、優一を傷付けるだけだ。聞く価値はない」
「俺だって傷ついてるんです!」
「俺は言ったよな?このままなら奪うぞ、って。その時動かなかったのはお前だろ。…まさか今も執着してるとは思わなかった。何でもないフリして結構手を出してたらしいな。それも、こいつが誘惑したからって言うんだろ?」
青木から隠すようにタカと誠が青木の前に立つ。ここまで守られているのにもイライラして、悔しくて、優一に届かないことに呼吸が荒くなる。
「言いたいことがあるなら、一回頭冷やせ。今のお前はこれ以上喋ると自分も傷つける。優一のケアは俺がする。マコちゃん、本当ありがとな。だから、マコちゃんも落ち着け」
人を殺しそうな表情だぞ、と言われ肩をポンポンと叩かれる。タカが隠す優一の身体は震えていて、肩が上下に大きく揺れている。タカは優一の過呼吸に気付き、抱き上げると優一は一気に脱力した。少し焦ったように去って行ったのを見送って、誠は2人をみた。
「翔くん、もっといい人いると思うよ?」
誠はコートを羽織って無言で去った。初めてのイライラを抑えるためすぐに自分の部屋に戻った。
「…やばい、追いつかない。どういうこと?」
残された翔は唖然としていた。 明け方、仕事が終わって青木の家に行き、合鍵で中に入ると言い争いが聞こえた。青木が忘れられない、諦めきれない優一を押し倒した状態で迫っていた。
「代わりにはならなくて」
この言葉を聞いて血の気が引いた。いつの間にか青木に心が動いていた翔は2度目の失恋をして、部屋から飛び出した。レッスン後に昨日のことを問い詰めると見たことないぐらいに逆上して、セフレであることを強く認識させられた。馬鹿みたいだ、と鍵を投げつけ、振り返るとかつて惚れたあの人。いつもの柔らかく、温かい微笑みはなく、綺麗な顔の人が無表情だと恐ろしさしかなかった。
(怖い)
逃げ出したかった。でも有無を言わせない目に射抜かれて動けない。青木はあからさまにイライラして誠に食ってかかり、ミルクティーをぶっかけられて慌てた。
(怖い、怖い、怖い)
優しい誠しか知らなかった、ベースを楽しそうに弾くところ、メンバーを優しく甘やかすところ、知っているのはほんの一部だった。青木の頭や身体を拭きながら震える手を誤魔化した。 煽る青木に心からやめてくれ、と願った。これ以上この人を怒らせてはいけない、と脳が警鐘を鳴らし、震える手から青木に伝われと必死だった。
(もう黙れよ、大地!勝てっこない、部が悪いのはお前だ)
誘惑されたから手を出す、それが通る世の中ではない。レイプ犯や痴漢の犯人みたいな言い分を平然とする青木にも驚いたし、冷静になれないほど優一を求めていることにも落ち込んだ。
「もういいよ、まこちゃん」
震える声に肝が冷えたように感じた。部外者でも分かる、今、ここにいてほしくない人。顔を上げると、いつもの愛嬌ある顔ではなく、泣き腫らした目。その隣には違和感のある人。
(タカさん?何でここに?)
優一の震える手を強く握ったのをみて、息が止まりそうだった。
(えっ!?え!?嘘でしょ?!まさかユウの恋人ってタカさんだったの!?)
いつかの居酒屋で、優一がマツリにベタベタされている時を思い出す。青木が言った、タカさんはいないの?とはそういうことだったのかと知った。タカは翔には目もくれず、淡々と話を終わらせようとしていたことに青木が食ってかかる。その瞬間、誠もタカも優一を守るように前に立った。
(愛されてるね、ユウは)
羨ましい、と心から思った。自分を守ってくれる人はいるのだろうか、震える手を握ってくれる、自分のために怒ってくれる、愛しいと叫んでくれる、そんな人が。
タカが優一を抱き上げた瞬間、優一の手がダラリと力が抜けて心配になる。誠も去って行ってしまった。緊張から解放されてそっと息を吐く。 すると青木が小さい声で呟いた。
「また、やってしまった…。大好きなのに…また…傷つけた…何やってんだよ俺…」
大きな両手で顔を覆っている。そこで青木が意地を張っていたことに気付く。
「ごめんね、ユウ、ごめんなさい…。ユウがタカさんと一緒でよかった…俺なんかじゃ幸せにできない…」
泣きながら言う言葉が辛くて、でも何もできずに黙っておく。
「翔くんも、ごめんなさい。もう、俺に関わらないで…。誰も傷つけたくない。俺は一人でいい。」
ほっといて、と言う青木の意思を尊重して翔はその場を後にした。
「はは…。超びびってんじゃん、俺」
ビルを出ると震えて力が入らない。タクシーを呼んで乗り込むと疲れて目を閉じた。
バタン!ドンッ、バリーンッ!!
隣の部屋から物凄い音がして大河は慌てて隣の部屋に入った。
「ああああーーー!!」
「っマコ!?おい!マコ!落ち着け!」
荒れた部屋と見たことない誠に驚いて暴れる身体をぎゅっと抱きしめる。イライラが収まらないのかふーっ、ふーっ、呼吸が荒い。電話を切った後のことが気になっていたがマジ切れして帰って来るとは思わなかった。しがみつくように抱きしめ、名前を呼び続ける。
「マコ!!」
「っ!?」
はっとして大河を見る。やっと誠が大河の存在に気付き、苦しいくらいに抱きしめた。
「大河さんっ、大河さん」
「大丈夫か?落ち着け」
背中をトントンと叩くと呼吸が落ち着いてきて座り込んだ。
「大河さん…優くんをまた、傷つけちゃった。俺いつも助けてもらってるのに。ダメだって分かってるけど本当に、殴ってやりたい」
誰を、とは言わない誠はそうとう耐えたのか、この部屋の惨劇でわかる。聞けば結局タカが優一を守り、支えてくれているようだった。
「優くんのために、何もできなくて…青木もフォロー出来なくて…」
「大丈夫だよ、お前はよくやってくれた。ありがとうな…。手、怪我してる。大丈夫か?ベース弾くのに。」
「優くんの傷に比べたらこんなの痛くもない。過呼吸なってた…すごく心配。すぐにでも会いに行きたい、そばにいたいのに、電源入ってないし、タカさんは来なくていいって言うし。」
タカが支えてくれているのに大河は安心するが、それも誠のイライラを増長させているようで疑問符が浮かぶ。
「いつも優くんの隣は俺だったのに!!」
大河は目を見開いて固まった。
「優くんのことは俺が1番に分かってるのに、辛い時にそばにいるのは俺なのに!!」
「マコ…お前、何言ってんの…?」
「タカさんに分かりっこない、優くんのことは俺が全部理解してる。優くんは俺じゃなきゃダメなんだ!」
「マコ!!!!やめろよ!!俺の前でそんなこと言うなよ!!!」
誠の両頬を掴んでしっかりと目を見つめる。始めは見ているようで見てなかった瞳がだんだん大河を写す。
「やめろよ…。そんな事、言わないでくれよ…。お前の隣は俺じゃないの?」
思わず泣きそうになった声に、大河は自分にしっかりしろ!と叱咤して目を見開いた大きな目を見つめる。
「大河さん…」
「俺も、青木も、ずっと気にしてるんだよ、お前達の仲には入れないこと…。見ないようにしてた、流すようにしてた、でも、苦しい時もあるよ。マコは俺のって、ユウよりもマコを理解したいって、思ってるんだよ、俺も、きっと青木も。」
大河は、またしがみつくように抱きしめた。胸に顔を埋め、心臓に直接響くように伝えた。
「マコ、俺にもはっきりと自信持ってそう思ってくれよ…。俺にはお前しかいないんだよ。ユウとマコよりも強い絆をお前と作りたいよ。俺はこれからも、お前の隣にいてもいい?」
大河はもう目を見ることができなかった。ひたらすら早くなる鼓動を聞きながら、自信のない自分に呆れた。
「っ!!…ごめんね大河さん…そんな不安だったんて…。ずっとずっと隣にいてほしいよ。ごめん…俺、頭に血が上ってた…。俺は大河さんだけだよ。」
「……ありがとう」
信じられないがわざわざ指摘して傷つきたくない大河は素直に言葉を飲み込んだ。無意識に優一は〝自分のモノ〟に入っていた誠は、大事な時にタカに任せるしかなかった自分にも怒りが爆発していた。誠は胸に埋まった愛しい人の髪を撫でキスをした。
「大河さん、気持ちを教えてくれてありがとう。タカさんがそばにいるからきっと、大丈夫だよね」
「うん。大丈夫」
「ありがとう。少し、落ち着いた。大河さんがいてくれて良かった。」
いつもの声音に安心して大河が上を向くと、頬に手が伸びた。
「ンッ!…んぅ、…っ、ふぁっ、ん、マコ、待って、片付けよ、部屋っ…んぅっ!」
「後で」
大河への愛しさがものすごい勢いで溢れ、唇の柔らかさを堪能する。ダイニングテーブルに押し倒して耳や首を舐めるとビクッと腰が跳ねる。下だけ全部脱がせ反応していないものを労るように舌先だけでペロペロと舐める。
「ンッ、ンッ、はぁ、まこ…やだっ」
顔を真っ赤にして、腕で顔を隠した。少しずつ固くなるのも愛しくて口内に迎え入れると誠の髪を握って腰が浮く。浮いた腰で見えた孔を観察する為口を離し、脚を広げる。
「いやだ!恥ずかしいっ、まこ…」
「全部綺麗」
「やだ、見ないで…」
「わぁ、垂れてきた…孔もパクパクしてる…すごい…」
「やだってば…まこ…」
お願いするも見つめたままで、楽しそうに実況してくる。硬いテーブルで細い脚を開脚させられ、まじまじと見られるシチュエーションに大河は頭が沸騰しそうだった。
「ふふ、大河さんも見て。ビショビショ」
ツツーと指先で裏筋を撫でられ、もどかしい刺激に首を振る。
「大河さん、俺の大河さん。可愛い」
「っああ…っあ、」
急に孔の周りや袋に吸い付かれ、閉じようとした脚をグッと、広げられる。恥ずかしさに涙が溢れぎゅっと目を閉じる。
「っああああ!」
突如中に入った指に声が押し出される。大河が慌てて確認すると、ケガをした手ではないことに安心した。良かった、とほっとしたところで誠と目が合う。
(え?嘘だろ…今ので!?)
目が変わり、舌舐めずりをした誠はスイッチが入った合図と最近気がついた。これから来るものに少し怯え、腰をひく。
「逃がさないよ、大河さん」
激しくなる水音に耳を塞ぎたくなるも、コントロールが出来ない。スイッチの入った誠は言葉や音で羞恥を煽りながら、強すぎる快感のみを与えてくる。気が狂いそうになる波に溺れ、意識が飛ぶまで行われるのだ。
「ぃっやぁあああーー!まこぉ!!やぁだ!!っまた!!イくっ!!ーーぁああ!!」
「可愛い。また出さないでイったの?ふふ、顔真っ赤。大丈夫?まだイけるよね。」
「はっ、はっ、無理っ!!もう、無理ってぇ!!っぁ、あ、あ、っああ!」
ガンガンと腰を打ち付けられ、中を行ったり来たりする感覚に意識が遠のく。目の前がチカチカして腰を強く掴む腕に爪を立てる。
「っっあああーーーッ!!!」
「くっぅ…っ」
汗で張り付いた前髪を掻きあげられ、大河はぼんやりと誠を見つめると、頬にチュッとキスされた。 寝室に運ばれ、痛かった腰が柔らかいベッドに包まれほっとする。
「顔火照ってるね…可愛い。」
「マコ、好き」
「んっ…ふふ、俺も。大河さん可愛い」
同時にゆっくりと唇を重ね、気持ちのいいキスを続ける。裸のままの身体をくっつけていると、また誠の手が胸に伸びる。
ピンポーン
2人は動きを止めて目を合わせた。無視しようとする誠に出るように言うと、訪問者に明らかにイラついた様子で服を着て、抱いた後の気怠さを残しつつ、ドアを開けると誠をキレさせた張本人が申し訳なさそうに立っている。
「…何?」
色気をダダ漏れにしたまま、冷たく問いかける。青木は誠の様子からタイミングを間違えたと更に反省した。
「あの…今日、ごめんなさい」
「…帰って。今お前と話したくない」
ドアを閉めようとするも青木がすぐに体を滑り込ませ、頭を下げた。
「マコちゃん!本当にごめんなさい!」
「謝る相手、違うよね。お前何回繰り返すの?何回優くん傷付けたら気がすむの?」
「…。」
青木のお得意のだんまりにため息を吐いて埒があかないと切り捨てた。
「帰って。」
「タカさんの、番号教えてください」
「嫌だ。」
「お願いします!!」
誠のところに来た理由が分かり、イライラが沸々と蘇る。どのツラ下げてお願いしてるんだと呆れた。
「まだ傷付け足りない?まだ自分は悪くないって弁護すんの?」
「違い…ます。ユウに謝りたくて」
「残念だけど、この件に関してお前に協力するつもりはないから。俺は何度もサポートした。でも、これがお前でしょ。同じことを繰り返す。好きだから、で許されない。お前はもう優くんを選択肢から消さなきゃならない。どうあがいても手に入らない、謝っても縋っても傷付けてもこの事実は変わらない。お前があの時、タカさんよりも動いていたら優くんはきっとお前のそばにいた。でもお前は動かなかった。タカさんも言ってたでしょ。なのにずっと執着してさ、悪いのは優くんじゃなくて全部お前だよ」
青木は黙って俯いた。分かりました、と去っていくのを見送って寝室に戻る。
「マコ、青木?」
「うん。タカさんの番号教えてってさ」
「そっ…か」
大河は辛そうな顔をして誠の胸に顔を埋めた。大河の頭を撫でながら明日は我が身だと目の前の愛しい人をぎゅっと抱きしめた。そばにいることが当たり前ではない、人の心は分からない。不安がるこの愛しい人をしっかり見なければ、と誠は気合いを入れ直した。
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