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第48話 失恋

(派手にやられたもんだ…。) ボロボロに傷付けられた恋人にため息がでる。電話して様子がおかしいと、レコーディングを抜けて会いに行くと泣きながらどうしよう、と混乱する恋人。話したがらない優一を長い時間説得してやっと聞けた内容は耳を疑うものだった。 (まだ手を出してたのか…) 昨晩青木の家に泊まる、ノンタンという白い猫と遊ぶんだと、楽しそうに報告してくれた優一だったが、その晩にイかされたと聞いて言葉が出なかった。ごめんなさい、と泣く優一に落ち着けと、宥めるしかできなかった。とにかく家で落ち着かせようとロビーまで行くと、タイミングが悪かった、と内心舌打ちした。 みるみる血の気が引く優一、人を殺しそうな顔の誠、感情のまま言葉のナイフを振り下ろす青木。青木の言葉と、優一の反応で、1番最初に傷付けられた日を思い出し、これか、と納得した。 (さすがにきついな…) 手を引いて去ろうとすると、今度は青木がタカに突っかかる。この中で冷静なのは自分だけだと思う反面、恋人を目の前でズタズタにされ平静を装うこともしたくない。とにかく、この場所から優一を移動させることだけを考える。だんだん大きくなる呼吸に、マズイ、と抱き上げて運んだ。 「っ…は…ひっ…ひっ…」 「優一大丈夫だ、吐いて。ゆっくりでいい。」 車までが遠くて収録中のブルーウェーブの控え室に駆け込んだ。ジンやカナタ、シュウトが驚いている中、タカは優一に声をかけ続ける。 「優一、大丈夫だから吐いて」 「ゆっくりでいいよ、うん、上手だよ」 カナタがすぐに優一に寄り添って、笑顔で声をかけてくれる。シュウトはブランケットを用意し、ジンは汗をタオルで拭いてくれた。 「はっ、はっ、はぁ、は…っふ、ぅうっ、うぅー」 「はいはい、もう泣くのは終わり。」 呼吸が落ち着くと泣き始めた優一をタカが抱きしめて背中を撫でる。どうしたの?と聞かれ、ちょっとな、と答えることしかできなかった。気にせずに収録を続けてくれ、とお願いし、カナタが録音ブースに入った。心配そうにするカナタにニカッと笑うと、困ったように笑い返してくれた。 今回リリース予定のカバーアルバムの曲は、ソロがほとんどだ。有名曲のイントロが流れ、カナタが目を閉じた。 滑らかなアコースティックギターの音に優一の嗚咽が少し落ち着く。 カナタの声が響いて、タカも心地よさに目を閉じる。優一の手を握って聞き、優一を見るとカナタに目線を送り、聞き入っていた。一発でOKになったカナタがブースに戻ってくると、優一はフニャリと笑って、素敵でした、と涙を拭った。その笑顔にスタジオにいた全員がほっとした。 「レコーディング見ていく?」 「いいんですか?お邪魔ではないですか」 シュウトが優しく声をかけると優一は顔をあげて全員を見た。スタッフも優しく笑って、見て行ってと言ってくれて、 優一はぜひ!といつものように笑った。 「シュウト、気遣いありがとう」 「元気になるといいね。カナタさんすごいなぁ。歌で人を癒して、笑顔にするなんて。やっぱり敵いっこないや。」 悔しそうに、それでも同じメンバーであることに誇りに思っていることが伝わり、タカは思わずクスクスと笑った。となりの優一はカナタに目をキラキラさせ、興奮していた。 シュウトは歌詞を持って録音ブースに入る。タカは真剣にシュウトを見つめる。透明感のある歌声はタカがほしくても追いつけないものだ。優一の存在を忘れるぐらい集中してシュウトの声を聞く。歌詞に思ったことを書き込んでいくが、大サビに行くとスタッフの所に行きレベルを確認してメモをした。 「O Kです。お疲れ様です」 スタッフの声が響き、拍手が送られるも、録音ブースからシュウトが、タカはどう?と聞いた。 「大サビ前からもう一度いいか?BGがシュウトの声に負けて盛り上がりがイマイチだ。」 「僕がマイク少し離そうか?」 「シュウトはそのまま。もう一度お願いします。」 優一はタカの仕事ぶりを口を開けて見ていた。サナの時にも見ているが、ここでは全く妥協もしないし、シュウトもタカを信頼しているのがわかる。もう一度その部分を試すと、真剣な顔の後、目を閉じて聞き入った。 「あ、OKでるね」 カナタが嬉しそうに呟いた。タカが安心して聞ける状態がベストなんだ、と優一に説明した。メンバー全員がタカのスキルを尊敬し、素直について行っている。 「いいグループですね。心地いい」 プライベートは深く関わり合わないブルーウエーブだが、仕事では同じ方向を向いている。お互いの技術を認め合い、自分の出来ることを全力で行なっている。 「RINGも良いグループだよ。なによりバランスが良い。」 「ジンさん…ありがとうございます!」 「大河とレイはAltairのメンバー候補だったけど、RINGで正解だよ。まずレイはAltairでは目立たない。大河は飛び抜けすぎ。RINGは大河の歌唱力に、ハモリの厚みがすごく聞いていて心地がいい。それはマコや優一くんが入ったから。ステージでは大地くんがレイと同等、いや、少し上のパフォーマンスができるから際立ってる人がいない分、バランスは最高だ。」 ここまで分析されていたとは知らず、ぽかんと口を開けて聞いている。客観的な意見が新鮮だった。 「優一くん、君はとても器用だ。ハモリもロングトーンもハイトーンも、ラップもダンスもプロデュースもバランスよくできる。これは武器だよ」 「でも…際立った特徴がなくて…少し、焦ったりします。」 「え?本当に言ってる?」 「はい」 カナタとジンは顔を見合わせてタカを見た。タカは何?と疑問符を浮かべる。 「優一くん、前にもいったけど、タカと比べちゃダメだよ?優一くんには優一くんの魅力があるんだから。あのレベルを目指すのはいいけど、到達しなきゃダメってことはないよ」 「そうそう!特徴で言うとさ、単純に優一くんは可愛いよね!RINGは男らしい、綺麗、爽やか、カッコイイ、可愛いが揃ってるよね」 「うん!僕らはビジュアルは一切勝負してないから。シュウトだけ飛び抜けすぎかな」 ははは、と楽しそうに笑う2人の空気感につられて優一も笑った。夫婦みたいな2人はほんわかしている。 「あざといとか言われますし…わざとの時もありますけど、自覚ない時の方が多くて。ファンにもアンチが多いし…いい特徴とは自分では思えなくて」 「そうかな?なかなか出来ることじゃないからそれを押していったら?そういうキャラ、としてやれば番組でも使いやすいかもよ?」 「キャラ…」 「そう!人前では割り切って、キャラでいけばオンオフもしっかりできるし!森田優一としてステージに立つよりも、RINGのユウはこういう奴、って。」 優一の中にストンと落ちたそのアドバイスは後に力を発揮していく。話を聞いてくれた先輩たちに感謝して、ステキなレコーディングを見学する。先ほどの傷は音楽で少しずつ癒えていく。 ジンの歌声は低く、甘く、切ない。全員が真剣に聞き入っている中、タカは歌詞にメモをしている。 (ダメ出しかな?) 優一が様子を見ていると、曲が終わり、スタッフからOKが出るも、タカがまた止めた。 「ジンさーん!ハモリもやってー!」 ワクワクしたようなテンションで録音ブースに入り、ジンに説明している。楽しそうなタカに見ているこちらが笑顔になる。カナタやシュウトも楽しそうにしていて雰囲気が良い。ハモリが一発で終わると満足だったのかジンにハグしていた。 (タカさん可愛い!!) そのままタカの番、とスタッフに言われのんびりとブースに入っていく。 「ふふ、優一くん、タカは本当にすごいから見てて」 ジンさんが優一の肩を抱いて録音ブースを指差す。みんなに背を向けて軽く発声をした後お願いします、とのんびり言ったあとイントロが流れる。女性曲のカバーは今日みたレコーディングでは初めてだった。タカの曲は歌唱力活かされる曲だ。ピアノの音は事前にタカが弾いたものだ、とシュウトが教えてくれた。 (うわぁ!すごい!!) 物凄い声量と切ない歌声に目を見開いて固まった。ゾクゾクと鳥肌がたつ歌声は続き、優一の心臓がドクドクと強く鳴る。 「お疲れ様でしたー!」 スタッフの声にはっとして顔を上げると、ヘッドホンを置いてこちらに向かってくるタカ。 「優一、帰ろっか」 いつもの笑顔と先ほどの歌声のギャップに優一はタカにぎゅっと抱きついた。 「おっと!どうした?眠い?」 「あはは、へー!ユウ君可愛いね!」 「シュウト!」 「冗談だよ、怖いなぁ」 恥ずかしそうにしながらもくっついてくる優一をそのままに車に乗せると、歌が聞きたいとリクエストされ、思いつく曲を何曲か歌ってあげた。ご機嫌になっていくのが嬉しくて次の曲を考えながら運転した。 元気を取り戻した優一が風呂へ行っている間にケータイをチェックすると見知らぬ番号からで、折り返してみた。 「もしもし」 「あ、青木の番号?どうした?」 「タカさん、あの…今日すみませんでした。ユウに謝りたくて…でも電源切ってるみたいで」 「へぇ。で?俺に電話してきたのは優一に話したいから?代わる?」 風呂場に向かいながら電話をし、風呂場をノックすると、聞こえていたのか、湯船に浸かる優一は泣きそうな顔で首を横に振った。 「あー…残念。今は嫌みたいだ。」 「ならタカさんと話したいです。」 「俺?何?」 「会って話したいです。」 ちょっと待ってな、と声をかけ、風呂場をまたノックする。 「優一、少し出ていい?青木と話してくる」 「嫌だ。今日はそばにいて」 「じゃあ電話代われ」 「嫌だ。話すことは何もない。もうこれ以上嫌われたくない。」 青木は優一の声が聞こえたのか、息を飲んだ様子だった。 「じゃあちょっと出てくるから。」 「嫌だって言ってるじゃん!!なんで青木のペースに合わせるの!?…貸して!」 タカから電話を奪った優一は、イライラしたように電話に出た。 「なに?」 「ユウ、また傷つけるようなこと言ってごめんなさい」 「……。」 「俺、ユウのことが好きすぎて」 「俺はタカさん以外ありえない。青木は恋愛対象じゃない。俺がまこちゃんといようが、正樹にベタベタしようが、青木には一切関係ないことだから。」 「っ!!」 「青木のことなんか、あの日からこれっぽっちも恋愛対象として見てない。俺は弱い人間だから、もう傷つきたくない。傷ついてまで青木と一緒になりたいとも思わない。タカさんはね、青木と全然違う。大人だし、余裕があるし、何でも分かってくれるし、歌も上手いしプロデュースも出来て、完璧なの。青木にチャンスなんか無い。俺はメンバーとしてしか見てない。」 「っ…、っぅ、」 「傷ついた?泣いてるの?でもさ、お前が投げた言葉よりは優しいと思わない?人格否定もしてないし。今までお前を傷つけたくなかったから言わなかっただけ。」 「っぅ、ユウ…っ、」 「俺は、俺を愛してくれる人が好きな、ズルくてあざとい奴なの。そんな愛されたいだけの奴なんかほっといて、周り見なよ。いい人なんかたくさんいる。性格の悪い、誰彼構わず誘惑するような俺なんかもう見ないでよ。」 「…っぅ、嫌だよ、ユウ…俺は、ユウが」 「言われっぱなしはもうたくさんだ。俺にもプライドはある。ボロクソにされた分、幸せになってみせる。もちろん、お前とじゃない。タカさんと。」 「ユウ!嫌だよ!俺を見てよ!」 「無理。青木はただの、仲良しのメンバーだよ」 「ユウ!お願いっ!」 「次に好きになった人には、同じことしちゃダメだよ?…っ、本当に、辛いんだから…っ、こんなこと、言うのもっ、辛いんだ…、お前だけが、辛いんじゃないんだよっ!!!青木のバカ!!…っ、傷は一回できたら、消えないんだよ!消したくても、笑っていても、お前の声で昨日のことのように思い出すんだよっ!!」 「っぅ、ふぅっ…っぅ、うっ」 「明日からはもう、ただのメンバーとして俺を見て。俺からの最後のお願い。お前とずっと一緒に仕事をしていきたい、だから、もう、切り替えて…。俺には、タカさんしかあり得ない。」 はい、とタカに電話を渡し、優一は湯船に潜った。電話を代わると青木の泣き声だけが聞こえる。ため息を吐いてタカは風呂場を出て、優一に聞こえないように話す。 「青木、あれが優一の答えだ。」 「ぅっ、うっ、俺はユウじゃなきゃ嫌だ」 「俺も、手放す気はない。俺を呼んでなんの話をするつもりだったんだ?」 「…ユウを返してって」 「なるほど。残念だが答えはNOだ。俺はあいつ無しじゃ生きていけねーのさ。これからもメンバーとして仲良くしてやってくれ。よろしくな。」 「っぅ、…っうぅ…」 「青木、泣き止めよ。男だろ?今は優一のことで頭いっぱいかもしれねーけど、周り見てみな?お前を支えてくれる人はたくさんいる。俺でよければ話も聞くし。」 「っぅ、ありがとう、っぅ、ございます」 「よし!今度楓も誘って飲みに行こう!優一はやれねーが酒は奢るから。な?」 はい、と鼻声で言ったあと、タカはまた連絡する、と電話を切った。 「タカさん、甘やかさなくていいんだよ。青木は自分が傷つかないと分からないんだ。」 頭を拭きながら何でもないように見せる優一に心が痛くなった。強く抱きしめて、辛かったな、よく言ってくれた、というと決壊したように涙が溢れた。 「タカさんっ、苦しいっよっ…っ、痛いよっ」 傷つけてしまった、という後悔と、青木のためにもこうするしかなかった優一の優しさを理解して抱きしめる。優一にとっては避けてきた苦しい選択だったのだ。見てられなくて何度もキスをする。 「大丈夫。俺がそばにいるよ。必ず幸せにするから。一緒に幸せになろう。」 「ンっ、うん。幸せになろうね」 キスをだんだん深くして、やめないままタカの部屋に行く。優一はこの匂いに安心して目の前の人にしがみついた。愛してる、と好きを繰り返し囁いてくれて、胸がいっぱいになる。この人を選んで良かった、この人のそばにいたい、膨らんでいく愛情が抱えきれないまま溢れ出す。 「ん、タカさんっ、好き、好きっ」 「俺も、優一が好き」 「シたい、タカさん、っ、今日は、思いっきり、抱いてっ」 「仰せのままに」 風呂上がりのほかほかした身体をベッドに沈め、性急に服を脱ぎ、裸で抱き合う。しがみつくように抱きしめる優一からは不安が伝わって、安心するように全身にキスをおくる。痕がつかないように細心の注意をはらって、ゆっくり高めていくと、もどかしいのか早く早くと急かす。意識が飛ぶほどを求めているのを分かってて焦らすのが意地悪だな、と自分でツッコミ、ローションを取って丁寧に解す。 「んぅっ、あ…あぅ…んっ…も、早くぅ」 「焦るな、大丈夫だから。」 「っぅああっ!っあ、ぁあ、っあ!」 奥を刺激して解すと、腰を浮かせて首を振る。優一の中心はトロトロと露を流し、震えている。 「触る?」 「中で、イきたいっ!も、ダメっ、タカさんっ、イきそぉっ、入れてよぉ!」 腰を振って、涙目で求められ、すぐに覆い被さって中に入ると、絶叫して欲を吐き出した。落ち着くのを待つ間、首や頬、おでこなどにキスをする。真っ赤になった顔と濡れたまつ毛が欲情を煽る。ゆっくりと目を開き、ぼんやりとタカを見た後、ふにゃりと笑った。 「タカさん、気持ちいい…」 恍惚とした表情になり、唇を真っ赤な舌がなぞる。その仕草にタカは理性が飛んだ。噛み付くようにキスして息もさせないほど舌を絡めて、強く腰を振る。中の締め付けがギチギチと強くなり、苦しいのか背中を引っ掻かれる痛みさえも興奮した。口を少し放すと、必死に呼吸しているのも燃えて、腰を奥に進め、優一の弱いところだけを掻き回す。 「っああああ!っあああー!!」 ビクビクと跳ね、激しさから汗なのか、風呂上がりの水滴なのか分からないものが飛んで余計に興奮を煽る。捕食者の様な目で優一から目が離せない。足を顔の近くまで持っていき、拡げるとより深く入るのかイヤイヤと首を振った。ぐちゃぐちゃと響く水音と肌がぶつかり合う音が優一を更に追い込んでいく。 「っあぁ、はぁっ、はぁっ、あ、あ、あああ!!んぅっっ!!」 「はぁ…はぁ、はは、派手にぶちまけたな…っ、最高っ、…ッ、ごめんな、まだ付き合って」 「っぃあああああ!!もぉっ!っあああ!」 脚が空を蹴って中の刺激でイった優一をガンガンと攻める。顔に散りばめた欲を舐めとりながら強い快感を送り続ける。 「ンンッ!!あっああああ!………」 「ふっ…はぁ、は、優一?…」 ガクンと力が抜け、目を閉じて口は少し開いたまま。意識を飛ばしてしまったのかパッタリと反応が無くなった。名前を呼び、精液塗れの頬をペチペチと叩きながらも、タカは腰が止まらない。自分の快感だけを追いかけて、中の狭いところに強く、激しく叩きつける。 「ふっ、はぁっ、はぁっ、優一、優一っ、は、イきそっ…」 タカは必死に駆け上がる絶頂に向かっていると、優一が目を開いて、ニヤッと笑った後、中をぎゅうっと強く締め付け、抗えない絶頂に溺れた。 「っぅあああッ!!ーーっ、っ、はぁ、はぁ、」 「んっ…んぅ…っ、は、はぁっ」 搾り取るように痙攣する中の奥の奥に注ぐように緩く腰を振り、出し切った後に引き抜くと、たらりと白濁が垂れていく。 「んっ、出てる…」 「今キレイにするから、寝てていいぞ」 「ううん。大丈夫。今日はずっとくっついていたいから。」 眠そうな目を擦りながら、されるがままになっているのが幼く見えて、愛しさが込み上げる。 「優一?青木にさ、はっきり言ってくれて、俺は嬉しかったよ。たぶんお前は優しいから、言えないだろうなって思ってたから」 「俺がはっきり言わなかったから、青木にも期待させて、タカさんも不安だったんだなって…。ごめんね、タカさん。俺はずっとタカさんだけだよ。」 「ありがとう」 「どんなに辛い時もボロボロな時もそばにいて支えてくれてありがとう。」 「そんなの…お互い様だろ。本当にお前無しじゃ生きていけないよ、俺は。」 ふふふ、と嬉しそうに笑ってそのままゆっくりと眠りについた恋人を見て、幸せな気持ちで1日が終わればいいと願った。 「しっかりしないとな…」 強くて脆いこの恋人を守らないと、と気合いを入れた。 「あ、まさきって誰か聞くの忘れた」 「会いに来てよ!今すぐ」 「はぁ!?今から収録だって言ってるだろ!?なんだよ、フラれたら急に態度変えて」 「本当は俺のこと好きなんでしょ!?好きなら…」 「…俺の気持ち知ってて、あの態度か?」 「ねぇ!お願い!今日はそばにいてよ!」 「…ユウにフラれても仕方ないな。都合よすぎ。残念だけど俺はお前の好きなユウになれない。俺は、俺を愛してくれる人をさがす。」 「俺だって翔くんが…」 「やめろよ!これ以上惨めな気持ちにさせんな!寂しさを埋めるためだけに…俺を使うなよ。…お前が言う通り、ただのセフレな俺が、お前に気持ちが移ったのが悪かった。この関係はもうお終い。じゃあな。」 一方的に切られた電話を投げつけ、泣き崩れた。 (何のためのセフレだよ…) 自分の思考につくづく腐ってんな、と笑えてきた。フラれて当然だ、こんな奴と自嘲した。 (辛い時にいつも誰かいてくれていた。でも独りになった…。これはきっと、人を傷つけた罰なんだ) こんな日はノンタンさえ近寄ってくれなくて、独りきりで泣いた。

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