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第49話 仲直り
「青木と連絡とれないんだよなぁ…。寝てないよな?」
伊藤のぼやきに、レイが昨日飲みすぎたのかな、とケラケラ笑っているが、誠、大河、優一は全く笑えず窓の外を見続けた。青木のマンションの前で10分ほど待機しているが降りて来る様子も連絡もない。痺れを切らして、優一が動こうとするのを誠が腕を掴んでやめさせた。
「まこちゃん、俺が行ってくる」
「いい。ほっといて。」
「でもっ…。ごめん、俺行く。伊藤さん、俺が見てくるっ!」
「え?いや、いいよ。俺が行くから。お前達は待機して」
伊藤が降りて行くも、居ても立っても居られない優一はソワソワしたままだった。レイは伊藤が見えなくなると、おい、と低い声に全員がピリついた。
「何かあったんだな?」
「…」
「大河」
「え!?俺!?…んーと、詳しくは知らないけど…青木が…」
「俺が、青木を傷つけたの。」
優一はすごく通る声で大河のしどろもどろな説明を切った。レイは助手席から振り返って、驚いたように優一を見た。
「ケンカしたから…昨日。」
「ケンカ…って」
呆れたようにレイはため息を吐いた。子どもか、と突っ込んだ後それ以上は何も聞かなかった。しばらくして、無理矢理引っ張られて青木が降りてきた。目は前髪で隠し、マスクをしてマフラーに深く顔を埋めている。ペコッと頭を下げただけでバンに乗ってきた青木はクマが物凄く、目はパンパンに腫れていて優一は胸が痛んだ。
(俺のせいだ…)
落ち込む優一の手を大河が握って、大丈夫、と口パクで伝えてくれた。青木の隣には誠がどかっと座った後、寝ろ、と青木の頭に膝を貸した。青木は誠が話してくれたのが嬉しかったのか、グスグスと泣き始めた。 青木の嗚咽を聞いていられなくて動悸がするのを大河は見かねて優一の耳にイヤホンを差し込んで音楽に集中させた。 テレビ局に着いたら誠と青木はどこかへ行ってしまい、優一の隣には大河がピッタリとくっついてくれていた。
「大河さん、俺のせいで…ごめんね、空気悪くて」
「気にすんな。お前こそ大丈夫か?」
「俺は大丈夫」
「嘘だ。無理しなくていいから。」
大河がふわりと笑うのが綺麗で思わず見惚れてしまう。安心させようと、大河なりに気を遣っているのにあまりの綺麗さにぼーっと顔を見つめると、大河もだんだん照れてきたのか顔を真っ赤にして、見過ぎ、と顔を背けた。
バチンッ
「痛ッ…」
「大地とはもう無いから。昨日言ったよね?」
「分かってる…でも、傷つけた事、謝りたくて」
「謝らなくていい…。全部俺が勝手にしたことだから。お前を悪い奴にして終わらせたかっただけ。ほら、マコも待ってる。早く行きな」
「ごめん。」
思ったよりもぼろぼろになったその人は、わざわざ楽屋まで謝罪に来た。謝らないと進めない、そう言ったらしい青木を誠が連れ添って歩いているようだ。翔はバッサリと青木を切ったが気持ちをすぐに切り替えられるほど、大人ではなかった。
「大地、待って!」
腰に抱きついて、こんな傷ついた今なら見てもらえるんじゃないかと、頭によぎった。
「…翔くん?」
「大地っ……」
「…ごめん。翔くんは俺じゃ幸せになれない。」
「っ!」
「翔くん、幸せになってね」
コンディションの悪い顔でも、フワッと笑うのが悔しいくらいにカッコよくて、翔は涙が浮かびそうになる。せめて最後に、あのセリフと似た言葉と潤んだ目で青木を見つめた。
「じゃあ、諦めるからキスして?」
「っ…。ユウにも、俺、こんなこと言って…。はは。翔くん、自分を大切にしなきゃ。今までありがとう。映画も頑張ろうね」
渾身の甘え顔でさえも、優一への後悔の前では1ミリも青木を動かすことはできなかった。いつだって翔自身を見たことのない青木らしい最後に、翔は玉砕したことを身をもって体感した。
「映画、頑張ろうな!」
身体を離して、意地で笑顔を作った。笑えてるだろうか、まだ泣くなと、自分に声かけ続けた。誠が青木を迎えに来て、あの日の誠と違う、温和な雰囲気で翔を見て苦笑した。
「わっ!」
急に温かい胸に埋められて、後頭部撫でられる。
「翔くん、青木がごめんね。辛い思いさせたね。翔くんの幸せを祈ってるよ」
翔にだけ聞こえるように囁かれた言葉は、気持ちを救うかのような優しさであふれていた。鼻がツンとしてギュッと抱き返した。
(叶わなくても、貴方を想っていればこんなに傷つかなかったのかな…)
「翔くん、これからも、青木や…優くんもよろしくね」
誠の腕の中でコクコクと頷く。ゆっくりと離れていき、誠が少し屈んで目を合わせる。
「翔くんは幸せになれるよ!大丈夫!」
ポンポンと頭を撫でられると、涙よりもカッコイイが溢れ、またギュッと抱きついた。
「うん!ありがとう!マコ!」
「わぁっ!ふふっ!翔くんらしいね!」
飛び込んできた翔を受け止めてキャッキャと騒ぐ二人を、青木も微笑んで見ていた。
「ただーいまー」
「おかえり。どこ行ってたんだ?」
「Altairの楽屋」
誠と青木が戻る頃には優一は大河の膝枕ですやすやと寝ていた。
「優くん…寝ちゃってる。いいなぁ大河さんの膝枕。」
「やっと寝たから起こすなよ。」
「羨ましい!青木も膝枕して」
「俺でよければ」
ゴロンと転がるも、硬いだの、こんなじゃないと、文句を言われ、もうしない、とやり取りを聞いて大河は少し元どおりになりつつある青木に安心した。膝の優一は大河の親指と服を握り、耳にはイヤホンから曲が流れたままだ。
(子どもみたいな寝顔だよなぁ)
思わずふふっと笑うと、それを見ていた誠が顔を真っ赤にして優くんを起こそう、と言い出して慌てて席に戻した。待て、をさせられた大型犬みたいで喉の奥で笑った。青木は優一しか見えていないのか、寝顔をずっと見ては泣きそうに目が潤み、ゴシゴシと目をこすり、天井を見上げた。
バタンッ
「おはよーございます!!RINGの皆さんお揃いですか?あれ!?レイさんはいないんですか?」
「マツリさん…おはようございます。今来ると思います」
「そうですか!では待っていましょう!…え?ユウ?寝ている方ユウですか?」
「え?あ、はい」
カシャカシャ
「ちょっと!マツリさん!やめて下さい!」
ケータイで写真を撮り始めたマツリに、大河が慌てて手で優一の顔を隠した。
「こんな可愛いの、撮らなくてどうするんですか?オーデションの打ち上げで使います〜」
「ダメです!消してください!」
「んも〜大河さんも厳しいなぁ。伊藤さんのコピーみたい。」
マツリは苦笑いして消したことを大河に確認させて、そのまま大河の隣に座った。大河は狭いのにわざわざ、と少し苛立って青木を見ると、先程までの苦しそうな顔ではなく、キリッとしていた。仕事モードになったのかと、ほっとして誠を見るとすごい顔してマツリを見ていた。
(え…?マコ?)
マツリは優一を観察しては、可愛い可愛い、と騒ぎ、手や足に触れ、最終的に優一を起こしてしまった。
「んぅ…。あ…おはよう…ございます…。すみません、俺だいぶ寝ちゃったかも…。マツリさん、待たせてすみません」
「寝起き!あはは!いいんだよ〜!レイさん待ちだから。もっと寝ててもよかったのに!」
「いえ…すみません。」
「ほら、ユウ、こっちおいで」
マツリ、大河、ユウで座っているのをわざわざマツリ側に呼ぼうとするのに大河は違和感を感じて首を傾げる。 寝起きのまま引っ張られる優一を誠が止めようとした時、勢いよくドアが開いた。
「おはようございます!」
レイが元気に入ってきて、マツリの隣にどかっと座って打ち合わせがスタートした。
「心霊ロケかぁー…嫌だなぁ…」
「お化けなんか見えなきゃいないのと一緒だろ?」
「レイさんかっこいい!俺、レイさんと回るっ!」
2月の極寒の中、RINGと撮影クルーは樹海の中にある廃墟に訪れた。若手のグループにはよくあるロケだが、ホラー好きの青木以外は乗り気ではなかった。場所が近づくに連れて、目に見えて誠の体調が悪くなり、青木が隣で塩を巻き続けたが最終的に顔面蒼白で座る事もできず横になった。
「ユウ、マコってもしかして霊感強いの?」
「分からない…。あ!そういえば遠足で入れない場所があった気がする。ここからは行けないから、優くん行っておいでって。」
「えぇ!?こわぁ!何で打ち合わせで言わないの!」
「今思い出したんだもん!まこちゃん…大丈夫?」
身体を摩る青木に合わせて優一も誠の足を摩るも、真っ青で固まったままだ。
「青木、まこちゃんもしかして金縛りになってない?」
優一の言葉に誠を見ると眉間のシワが深いがピクリとも動かない。
「っ!そうかも!聞こえる!?マコちゃん!?」
二人の騒ぎに、前の座席に座っていた大河も様子を見にきて誠の頭を撫で、いつものようにのんびりと耳に囁いた。
「まこー?」
「っっはぁあっ!!!」
大きく目を開け、大河を見たあと、泣きそうな顔でガバッと抱きつく誠は、何かに怯えているようだった。ガタガタ震えるのをマツリは楽しそうにカメラに収めている。
「ちょっと〜!ここ、大丈夫なところですか?」
レイは苦笑いしながらスタッフに絡む。台本通りに進められる誠以外のメンバーでオープニングをこなした。
カットがかかると、スタッフが誠に集まって、霊能者が除霊をしてくれたが、グデンとしたまま一言も発することができていなかった。数珠をもらうとそれを強く握って、ごめんなさい、ごめんなさい、と呟き、全員が凍りついた。
「霊たちが騒ぎ始めているわ。ここでのロケは危険です。私は別の場所を推薦しましたよね。」
「おススメして頂いたところは座敷わらしですよね?ほかのテレビでもやってたんで、今更数字は取れません。ここはネットで有名なところなので数字は確実です。」
「…可哀想に。この子たちは悪くないのにこんなところに連れてこられて…。仕事とはいえ酷だわ。」
霊能者の言葉を無視して、マツリは二手に分かれて動くよう指示した。優一とレイ、大河と青木で分かれ、廃墟と呼ばれる元お屋敷に入っていった。
「行っちゃダメ、行っちゃダメ」
誠は動かない身体に爪を立てて小さく呟いた。
青木と大河
「すっごい荒れてんな…転びそう」
「うわっ、蜘蛛の巣!結構立派なお屋敷なのに、今は心霊スポットなんて悲しいね」
「これ…写真もそのままなんだな…。綺麗な人だ」
「あ、ミッションこれじゃない?バスルームにお供え物」
ドアにかかったミッションボードをよんでバスルームを目指す。ギシギシと鳴る廊下は今にも抜けそうだ。青木は怖がる様子もなく、ズンズン行くから大河は服に捕まって安心して歩いた。
「あった!大河さん開けるよ」
「うん。…うわ!!」
「ま、マジかこれ?…マツリさんの演出だよね?」
ヘルメットに着いたライトで照らされたのは赤黒く染まったバスルーム。
「青木、早く戻ろう!さすがに気持ち悪い」
「お、オッケー!お花、置くよ?」
「置いた!ミッションコンプリート!」
マイクに向かって言うとお疲れ様でした、と聞こえて安心した。ホッとしていると、マツリからの言葉に二人は目を合わせた。
「え?足?どこか怪我しました?」
「いえ?大丈夫ですよ?」
「大地くんですか?ずっと足が痛いって聞こえますが」
その瞬間2人はゾクっとして大河が青木の手を取って、来た道をダッシュで戻って、マツリに怒鳴った。
「あんた冗談がすぎるぞ!」
「え?!冗談じゃないです、ほかのスタッフも聞いていて…だからほら、救護班がテーピングの用意を…」
ドッキリではない空気に大河は腰が抜けて蹲った。いつも強がっている大河がこの日初めて怖い、と声を漏らした。霊能者はすぐに青木を呼び、左脚にずっと念仏を唱え、汗を掻くほど熱心にお祓いをしてくれた。マツリは身の潔白を大河に証明するため、先ほどの映像チェックをさせた。大河のミッションコンプリートの後からノイズが入り、青木のマイクの音量レベルが不規則に上がる。その後ハッキリと聞こえた声に大河は大騒ぎしてマツリにぎゅっと抱きついて、止めて止めてとお願いした。マツリは良い大河が撮れたととれ高に喜んだ。
レイと優一
「…レイさん、何か喋ってよぉ」
「…ユウ、スタッフも付いてきてる?」
優一が振り返ると誰もいない。疑問に思いながらも、いないよ、と言うとレイが早く終わらせよう、と前だけを見てスタスタ前を行く。
「なんか建物に足音が反響してたくさんの人がいるみたいだね」
「そうだな」
「あった!ミッション!!寝室で写真を撮れって!」
「それでカメラか。よし、パパッと撮るぞ」
カシャ
「「え?」」
2人は冷や汗をかいた。明らかに誰かが立っていた。自分たちの影だとしたらあと1人足りない。優一が怯えて騒ぐ前に出ないとと思うがレイの足は動かない。
「レイさん?…行こうよ、レイさん」
(ここで金縛りっ…嘘だろ)
ライトに照らされたその場所から、こちらに向かってくるのは女の子。レイは動かない身体に内心焦っていた。
「やめてよ。ここに来たのは謝るから。ごめんなさい。」
(ユウ?)
優一の言葉に、近く足がピタリと止まった。
「嫌だったよね。ごめんなさい。この事を伝えて、もう僕らみたいな奴を連れてこない。だから、レイさんを解放して。」
「もしもし、ユウ?どうしたの、誰と喋ってるの?ミッションはクリアした?」
マツリのインカムからの言葉を無視して、優一はレイが見つめる先に必死に懇願した。
「お願い、ここから出して」
優一がそこに向かって頭を下げると、レイの金縛りが解け、レイは息を荒くしながら優一の手を取った。
「っはぁ、はぁ、出よう!ユウ!」
「レイさんっ!よかったぁ!ありがとう!」
部屋を出る直前、優一は振り返って暗闇にお礼を言った。
「レイさん?ユウ?」
今度は青木の声が聞こえて2人は叫んだ。
「「ミッションコンプリート!!」」
急いで戻るとレイはカメラを渡し、霊能者の元へと駆け込み、優一は安心したのか青木や大河に抱きついた。写真チェックをしたマツリは一枚だけだったことに少しガッカリしたが、その写真が衝撃的だった。 小さな女の子が睨みつけていた。優一もレイもハッキリと見えたようで、悪ふざけで来たことに怒っていること、写真を撮ったレイに近づいていたことなどを必死に伝えた。マツリはパニックになっているRINGに爆笑し、大満足の様子だった。
「まこちゃん、終わったよ…怖かった」
「…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「まこちゃん?」
「優くん、あの写真、消さないとダメ」
「え?」
「消して、消してって近づいてきてる。」
霊能者も同じタイミングでマツリに警告するが、消さないと機材を片付け始めた。 するとずっと座っていた誠が立ち上がって、写真を撮ったカメラを掴んだ。マツリやスタッフ、メンバー全員が誠を見た瞬間、別人のような顔にゾッとした。
「消せって言ってんだろ」
ガシャンガシャンガシャンガシャン
「ふっはははははは!あはははははは!!」
ガシャンガシャンガシャンガシャン
粉々になったカメラをいつまでも破壊し続けている。霊能者が慌てて背中に除霊をはじめた。全員が唖然と見て、マツリさえもカメラを向ける事をしなかった。
「ぅぅぅぅぅーーーっ!!!」
誠は背中を裂かれるような痛みに、砂利を掴んで耐える。聖水というものをかけられれば、熱々の油をかけられたように熱く、苦しい痛みだった。
(死んだ方がマシだ…っ!)
「出て行きなさい!!」
「っぅうううっあああーーーっ!!」
(もういっそ殺してくれ!!)
「マコ…頑張れっ」
「まこちゃん!!」
「マコちゃん…っ」
「マコ、帰ってきて…っ!」
(みんな…)
「私が何をしたって言うの?楽しみだった夏休み。みんなでゆっくりできると思ったのに。知らない人がね、私の家族を殺しちゃったの。私はね、パパとママのお部屋に隠れてたけど、見つかっちゃったの。」
「そう…だったんだ」
「私は見つかりたくない。誰も私を探さないで。見つかったら殺されちゃうもん。だから見つけないで」
「分かった。もう探さないよ。」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「ううん、ごめんね。ほら、ここにいたら見つかっちゃう」
「うん!バイバイ」
「っうっう!!っはあ!っあああああーーー!」
誠は絶叫した後、バタンと倒れ、急いでロケバスに運ばれた。倒れた誠の目からはボロボロと涙が流れっぱなしだった。
「マコさん、霊感強かったんですね〜」
「強い自覚はなかったんです。でも今思うと、入れない場所とか、突然疲れたり、声が聞こえたりとかはあったかもしれません」
「このロケ本当、ドキュメンタリーに近いですからね!このVTRの後ですよ!本当怖かったです!マコが取り憑かれちゃったんですもん!」
VTRを見ての収録で話題は誠の霊感に集中したが、そこで話を回していたレイに誠がきょとんとした顔で言った。
「え?レイさんも俺と同じぐらい見えてたでしょ?」
ざわつく会場とスタッフ。あの日のレイはいたって普通に見えた。
「あの子もレイさんの力に引っ張られて出てきちゃったし、優くんとレイさんの時、後ろからとんでもない人数が付いてきてたしね」
ええっ!?と驚く優一に、レイは知らねーと言い和やかに終わらせた。
「レイさん、どうして嘘つくの?」
「あの場で言ったらユウがパニックになるだろ。あの時は恐ろしくて振り向けなかったけど、さっきのVTRであの人数が付いてきていたとか…もう震えが止まらないよ。俺だけ金縛りなった時はどうしようかと思ったけど、ユウが見えてるかのようにあの子と喋ってたから…助かった」
「優くん、見えてなかったのにすごいね」
「俺を助けたい一心だったそうだ。頼もしいよあいつは」
2人は霊能者からお守りが送られてきた、魔除けらしく、届いたその日に鍵に取り付けた。
「除霊のときさ、死んだ方がマシぐらいの痛みだったよ…本当辛かったぁ」
「傍目にはただ水と塩かけて呪文言ってるようにしか見えなかったけどな。」
「でしょ?本当やばかった!…とにかく終わってよかった。このロケで青木と優くんも前みたいによく話すようになったしね!」
「よっぽど怖かったんだろうな。あの後ロケバスで喋るの青木とユウしかいなかったもんな」
心底怯える優一は誠が喋れる状態ではないため、青木に必死に話しかけた。それに青木もひたすら左脚を触り、優一に応えた。
「青木!青木は起きてて!怖くて眠れないっ!」
「ユウ、じゃあ俺の左脚触ってて!無くなったら教えて!」
「バカ!そんなこと言うな!大丈夫!しっかりあるよ!長い脚が」
「短くなったらどうしよう?」
「俺と身長合わせられるじゃん!」
「メリットないじゃんか」
「なんだとー!?」
ロケバスでは疲れきって寝る誠に膝枕する大河と、同じく疲労がたまったレイ。無言で過ごす帰り道だった。
「ふふ、結構いい数字だなぁ!RINGは使いやすいなぁ。今回も台本にないことばかりだし!個性が出てるしメンバー仲良いし。」
マツリは結果を見ながらニヤニヤとパソコンを叩いていた。大河に消せと指示された写真を復元しようとパソコンの手を止め、ニヤニヤしながらケータイを開いた。
(あのユウは可愛すぎた。大河さんの手をぎゅっと握って…赤ちゃんかよ…)
操作をしていると心霊スポットの写真もあった。昼にミッションを仕込んだ時のものだ。よく見ると、何かが写っている。
「えぇ…放送終わってから気付くとか役に立たねぇ。消そう」
何故か削除ボタンが出ないまま、イライラして全削除を押してしまい、しまった、と慌てた。もう一度復元すると、その一枚しか復元されない。
(どうなってんだ?)
何度も繰り返すも写真はあの一枚だけ。マツリはさすがにゾッとしてあの日の霊能者に慌てて電話をした。
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