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第50話 愛し愛され

「やっぱり彼氏には時計かなぁ…」 「ね!あのCM見たら、時計買ってあげたいよね!」 街を歩く大河は思わず足を止める。大きなスクリーンに映る、ハイブランドの腕時計。以前大河が誠にプレゼントしたブランドのCMに抜擢されたのは、他でもなく誠だった。 とある番組で、1番の宝物として紹介したことから問い合わせが殺到し、イメージキャラクターにまでなった。一言もセリフがないこのCMは、誠のスタイルのいいスーツ姿とセクシーな目線、さりげない演技。最後に女性を抱きしめた後、髪を撫でる時に見える腕時計と挑発した視線。最後の最後に少し口角を上げる表情が話題を呼んでいる。ビジネスバージョンとプライベートバージョンがあるよ、と聞いていた大河はまだこのビジネスバージョンにしか出会っていない。 (本当、似合ってるな…) マスクの下の口角が上がる。雪でも降りそうな空を見上げて、紙袋を大切に運んだ。 珍しく一日オフのこの日、のんびりとショッピングをして部屋に戻る。暖房をすぐに入れて、いつものパーカーとスウェットに着替え、テレビをつける。 「間に合った…」 大河も録画してまで気になっているオーディションはいよいよ大詰めだ。順位の変動が激しく、また、審査員の言葉は自分にも響くことが多い。後半に行くにつれ、プロデューサーのタカや優一の重要性を感じるのだ。 「ちあきの伸びが良い。そして目に見えて努力が分かる。」 「っ!!ありがとうございますっ!!」 「その他は先週から何も変わらない。維持で精一杯か?もっと出来るはずだ。マリン、レミ、それぞれのチームの課題は何だと思う?」 「はい、コンセプトが曖昧でした。」 「そうだ、マリンはよく分かっていた、分かっていて変えられなかったのはなぜだ?」 「コミュニケーションより、全員でフリを揃えることを重視したからです。」 申し訳なさそうにするマリン。大河はタカの質問にすぐに答えられるマリンに心底尊敬した。 「レミのチームはどうだ?」 「はい!私達は表現をメインにしました。テーマは笑顔で、爽やかで柔らかなイメージで行こうと話し合いました。少しダンスの練習が間に合っていなかったのが課題です。」 (おお!しっかりしてるなぁ!) 途中でリーダーが変わってから、サファイアチームは大分雰囲気が良くなり、センターの都姫もいきいきしている。 「伝えたいことは分かりやすかった。ただ、実力が伴っていない。歌はブレブレだし、振りは見てられないほどだ。可愛いだけを見せるなら別にお前達じゃなくてもモデルを集めればいい。アイドルとは言え歌手だ、歌やダンスも表現の方法だ。蔑ろにはするな」 「はい!ありがとうございます!」 タカの厳しい言葉にも、ダメ出しを感謝して聞くレミには好感が持てた。この日のランキング最下位はそのレミの妹、レナだった。 「レナちゃん、聞いてもいいかな?」 「はい」 優一がマイクを取った。大河も思わずゴクリと喉を鳴らす。優一は毎回核心を突く。練習生にとって、タカの次に嫌な人の1人だと見ていてわかる。 「楽しい?」 「え?」 「今、楽しい?」 優しい笑顔。でもこの顔を大河は知っている。ゾクッとして固唾を飲んだ。 「嫌なら辞めてもいいよ?」 無理しないで、と優しい笑顔は続くが会場は瞬時に凍り付いた。 「君からは、悔しさも、楽しさも、何も伝わって来ないんだ。無、そのもの。君が何も思っていない事は視聴者にも伝わっている。その結果だけど、どう受け止めてる?」 「……。」 「うん、分かりました。僕からは以上です。皆さん、お疲れ様でした。」 「待ってください!!」 慌てて止めに入ったのは、サファイアチームのリーダーであり、姉のレミだ。 「ユウさん、待ってください!時間をください!!レナはまだ…まとまっていないんです。伝えたいことの伝え方が。時間がかかるんです!お願いします!」 「そう…。ねぇ、お姉ちゃんに助けてもらったけど、何もないの?…レミちゃん、ごめん下がって?ここはレナちゃんの番だから」 優一は射抜くような目でレミを戻した。レミはどうしよう、と焦っているのがわかる。 パタパタ 「レナっ…」 レナの無表情の顔からたくさんの涙が溢れた。このオーディションで初めての感情だ。 「私はっ…、自信がありません…っ」 「うん」 「今も、場違いな、気がしています」 「そうかな?違和感ないよ?」 「私は、明るくないし…」 「君の、好きな曲調じゃないんだよね、きっと」 はっと顔をあげるレナは、初めて年相応の顔をした。 「君はきっと、みんなで可愛く、爽やかで明るい曲調より、ダークで強くて、激しいものを表現したいんじゃない?吐き出したいものを表現できないから燻ってるんじゃないの」 「あぁ…なるほどな」 優一の分析に、タカは笑って納得していた。 タカの笑顔に練習生達が驚いた様子だ。 レナはぽかんと口を開けて2人を見た。 「イイね!見てみたいよ、レナの表現力。ルビーチームに俺が曲を書く。楓の振り付けで行く。ルビーチームいいか?」 「「「はい!よろしくお願いします」」」 「え?え!?」 戸惑うレナに優一はやったね、と笑い、またマイクを取った。 「君への興味が僕らプロデューサーを動かした。これは立派な才能だよ。曲を書いてもらえるんだ、楽しんでやってみない?」 「っ!ありがとうございます!一生懸命やります!」 「はは!初めて声張ったね!楽しみにしています。頑張ってね!」 次への伏線が出来てワクワクが止まらない。 「ユウうまいなぁ〜!台本あるのかな?」 あのタカが曲を書く、というほどの魅力がレナにはあるのだと納得した。 (簡単に言うよなぁ…曲を書くなんて) 昔よく言ってくれていた、お前のためならどんな曲も作る、と。魔法みたいに次々に出てくるかと思っていたが、意外にも行き詰まったり、意見を取り入れてくれたりと、苦労も見えていた。 (今は余裕なんだろうな…すげーな) 尊敬には変わらない大先輩は、様々なアーティストに提供してはランキング上位に入っている。だが、ソロで出すことは一度もなかった。あの時もだったが、きっと今でもグループであることにこだわっているのだろう。 (俺も、気持ちは分かる。もう1人は嫌だ) ゴロンとカーペットに転がっていると、見たことないCMが流れた。 「うわっ!」 思わず声が出るほどの驚きだった。例のCMのプライベートバージョン。何気ない日常から気分が高まり、服を脱ぎながら女性を押し倒す。ベッドシーンからの腕時計を外し、ベッドサイドのテーブルに置かれたアングルのままロゴが出た。 「へっ?」 思わずあんぐりと口を開ける。たった20秒はとんでもない衝撃だった。急いでネットで検索すると大反響になっていて、自分が抱かれてる気分になる、とか、ギャップがヤバイと大騒ぎになっている。ネットに上がった動画をファンと同様何度も何度も繰り返し見ていくとなんだか変な気分になる。 見るのをやめ、寝室に飛び込んだ。 「ん…今何時だ…?」 そのまま寝落ちしていた大河が目を覚ましたのは午前2時。ケータイを見ると誠からの着信が入っていたが、もう寝ているはずだ。明日かけよう、と寝返りを打つと身体が火照っている。 (暖房効きすぎ…?なんかヘン) 暑くてパーカーを脱いで、スウェットも脱ぐ。暖房を弱めにしてベッドにまた横になるがなんだか治らない。 (あれ…溜まってんのかな) 誠とは最近すれ違いばかりで、触れ合う時間が無かった。久しぶりに1人で慰めようと大河は全部脱いで近くにタオルを用意した。緩く立ち上がったものを触り、目を閉じると先ほどのCMが浮かび、手が止まる。 (知らない女の人にあんな目…) 思わぬ嫉妬にがむしゃらに扱く。なんだかんだ快感に弱い大河はすぐにガクガクと脚が揺れた。 「っはぁ…っ、ぁっ…あっ…」 響く自分の声が嫌で歯を食いしばり、最近の行為を思い出しながら必死で慰める。 声がききたくなって、とっさにケータイを取り誠に電話をかけるがやっぱり眠っているようだった。 (まこっ!まこっ!) 先ほどの映像と抱かれた時の映像がリンクして、ゾクゾクと大河を高める。 (あっ!もう出るっ!!) 「ッン!!!」 ビクッと背が反って気持ちよく欲を開放した。いつも焦らしに焦らされ、羞恥に涙しながら意識を飛ばすが、今みたいにあっけなく出すのも気持ちよくて余韻に浸る。 (ん…もう眠い…) 全裸のまま大河は眠りに落ちた。 「大河さん、大河さん起きて」 ゆさゆさと揺さぶられ、小声で囁くように誠の声がして、眠い眼を擦って声の方を見る。 「まこ?」 「起きたっ!わーい!」 「ん…?…すぅ…すぅ…」 「だめ、起きて」 布団を取られ、ぶるっと震える。手探りでパーカーやスウェットを探すが見つからない。あのまま全裸で寝ていたのかと、また目を擦る。 「まこ…さむい」 「全裸で何してたのかなー?エッチな人」 「んぇ…?」 「大河さんが電話したんでしょ?」 温かいキスが降ってくるもいつもと違う感じに肩を押す。 「ん!!酒!!」 「あ、ごめん。臭かった?タカさんと楓さんと優くんと飲んできた」 「そっか…。よかったな。」 「楓さん、俺諦めてくれたよ」 「え?」 「俺達を邪魔する人はもういないよ」 「んっ!!んっ、っ!あっ!待っ、まこ!」 理解が追い付かないまま、胸にしゃぶりつかれ、ふわふわの髪を握る。 「待って、まこ、どういうっ」 「はぁっ、大河さんっ、好きだよっ、愛してるっ」 いつになく、余裕なく大河を求める誠に、大河は胸がキュンとして許してしまう。たまに出る年下らしい甘えん坊なところが大河のツボだった。 「マコ、愛してるよ」 「はぁっ、はっ、はっ、大河さんっ、大河さん、んちゅぅぅ、ぷはっ、んっんっ」 左側だけを執拗に吸われたり噛まれたりして、赤児のように必死になって吸い付いている頭を撫でる。歯で刺激されれば腰が浮き、自分でも驚くほどの甘い声が漏れた。 「はぁ…エロすぎ…止まらない…」 「ンッ、まこ、中、触って」 「うんっ…早く入りたいっ…早く俺を迎えて…受け入れて…俺を愛して」 熱のこもった懇願に、大河は早く望み通りにしてあげたい、と自ら足を開き、指に唾液を纏わせる。熱っぽく見つめる誠を挑発しながらも待て、をさせ、ゆっくりと指を入れていく。 「ンゥッ!…っあ…っはぁ…」 「はっ…はっ…大河さん」 「まぁだ」 「待てないっ、早く、大河さんっ」 「だーめ」 クスクス笑うと、誠の理性が飛んでしまったのか、サイドボードからローションを取り、自分の指に乱暴に垂らすと絡ませながら大河の中に指を突っ込み、バラバラと激しく動かした。 「っあぁああ!っ、あっぁあっ、はぁっ!」 「はぁっ、大河さんっ、んっ、可愛いっ」 「っぁあ…っ、っああ、んっあ、ふぁっ」 先ほど中途半端に1人でシていたからか、せり上がってくるものを止められずに、腰が浮き、首も反っていく。目を見なければと思うも、コントロールができない。ググッとあがる腰と、シーツを握りしめ、抗えない気持ち良さに身を任せる。 ビクビクッ 「っっつ!!ああぁああーー!!!」 お腹にかかるものをぼんやりと見つめる。 (足りない…なんで…) 「はっ、大河さん、エロすぎ。もう、我慢できないよ…」 「ん…きて」 待てを解除された誠は、欲のまま大河にキスをして、いつの間にかゴムまで付けたソレをトロトロの孔に押し込んだ。 (やば…気持ちいいっ…) 燻っていた欲が発散されるかのように溺れていく。いつも羞恥を煽るためにペラペラ話す誠は、必死になって腰を振って己を高めるために集中している。 「んぁっ、っはぁっ、んぅ、っぅあ!」 良いとこに当たれば勝手に声が出てしまう。その度に嬉しそうに笑って、髪を撫でるのがくすぐったい。 (何だろう…今日のマコ…ご機嫌?) 大河は誠の顔をじいっと見つめると、バチッと目があったと思ったら、誠の顔がみるみる真っ赤になる。 「マコ?、っ、我慢、すんなよ」 「違うっ、ぁっ、やばっ、もぅ」 「出していいよ」 「はぁっ!は、は、は、好きっ、本当に、好きすぎてっ、どうしよっ」 「ンッ、んぁっ、っあ、あ、ぁああ!」 可愛い、好き、愛してるしか聞こえなくなり、律動が激しくなる。 「はぁっ、好きっ、大河さんっ、大河さんっ」 余裕なく叫んで、誠の腰が跳ねた。気持ちよかったのが伝わって嬉しくなる。こんな俺でも恋人が満足してくれるなら、これ以上の幸せはない。 「大河さん、大好き」 こんなにも幸せを貰えていいのかな、と目の前の恋人をぎゅっと抱きしめる。 「昔話をね、してたんだ。」 「うん」 「でもね、なんだか大河さんに会いたくなって…。大河さんのことで頭いっぱいになったら帰れって言われて帰ってきた」 髪にたくさんのキスが送られる。やりたいようにさせながら、うんうん、と聞いてあげる。 「いつでも思い出せる。あの大河さんの歌声も、あのステージも。それに…なんかね、毎日恋したてみたいな感覚なんだ。」 「ふふ…なんだよそれ」 「前の俺はね、相手が欲しい言葉を話して、相手がなってほしい奴を演じてた。無意識のうちにそうしなきゃ好きになってもらえないって思ってた。でもね、大河さんはそんな演じる余裕もくれないんだ。毎日俺をドキドキさせて、なのに安心もくれて、そばにいてくれる。こんな人いない。俺の、最後の人」 手を握るその指には、あの指輪。 「マコ、それ。付けていったのか?」 「うん。優くんに話してて、俺も相手にハッキリ言わなきゃって。楓さんに、大河さんを愛していくって宣言した」 「そっか」 「楓さんはね、大切にしてやれってすぐ引いてくれたよ。初めて見る優しい笑顔だった。あれはね、きっと誰かに恋してる。知らないけど、そんな気がしたら早く大河さんに会いたくて。」 今日は何の日?っていうぐらい嬉しい言葉の連続に、大河は自分からキスして、寝転がる誠の上に乗った。 「大河さん?」 「マコ、幸せにしてくれてありがとう。」 ニコッと笑うと、カァッと顔が赤くなり、あぁ、愛されているなぁと思いながらキスをする。 だんだん硬さを増してくるものを握って、ゆっくりと体を落としていく。誠が慌てて腰を掴むのを無視して、感じ入る顔を見てドキドキが収まらない。 「うん…んっ!!っあぁ!!っはぁっ!大河さんっ!」 「っあ…はぁっ、苦しっ」 圧迫感と慣れない姿勢に汗がじわりと滲む。 抑えられないのか、大きな声が誠から飛び出すのが嬉しくて、大河は誠のお腹に手を置き、小刻みに腰を動かす。 「っぅああ!っ、大河、さんっ!?」 「気持ちい?マコ」 「やばい…腰抜けそう…っぁあ、っああ」 「ん、っぁ、動くなぁ!俺が、するからっ」 腰を使ってくる誠をなんとか抑え、好きなように動く。誠の眉が下がり、快感に浸っていく。 (気持ちい…、まこより先に…イきそっ) 自然と潤む目で誠を見ると、もうっ…可愛いぁ、と腕を引っ張られ、誠に上半身を重ねる。ドクドクと高鳴る心音に落ち着いて、ぎゅっと抱きしめられ、頭をポンポンと撫でられる。 ホッとして少し気を抜いた瞬間、腰をガシッと固定され、下からガンガン突き上げられ、大河は目を見開いた。 「っああああーーーっ」 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」 「いやっ、まこっ、止まって!出ちゃうっ!」 「はぁ、はぁ!はぁ!はぁ!」 「んぅっ、はっ!っああ!あああっ!!」 ぎゅっと中を締め付けて思いっきり欲を吐き出した。 「ぅ…はぁっ…あ…中、熱い…」 「はー、はー、…はぁっ、はぁっ、」 同時だったようで2人で余韻に浸る。誠は優しい笑顔のまま、大河を綺麗にしたり、介抱していたが終わった瞬間パタリと眠った。 「マコ、これスタッフさん達から。あと、この箱は全部ファンから」 事務所に行くと大量のチョコレート。きょとんとしてカレンダーを見ると、バレンタインデーだった。伊藤はせっせと仕分けをして、ファンの層がよく分かるなぁと笑っていた。レイにはウイスキーボンボン、優一には可愛いキャラクターのもの、青木には高級ホテルのチョコ、誠には手作り、甘いものが嫌いそうなイメージのある大河にはピアスやアクセサリー、ブランドのマフラーなどだった。 「手作りなんて嬉しいなぁ〜!何よりお手紙が嬉しいよね!」 「傷むのが早いから気をつけろよ〜」 「大河さん、甘いの大好きなのに…イメージかな?」 「だろーな。大河がアイス食ってるのとか想像できないだろうし。マコが分けてあげな。」 「大河さんには俺からあげるから、ファンの子のは俺がもらう!」 はいはい、と笑いながら流されファンレターに目を通した。結局、数個のみ食べて、スタッフにお裾分けをし、部屋に戻った。 「あれ、大河さん?今日オフ?」 「いや?今から。」 「珍しいね、お仕事前に…。え!?」 「ん?」 玄関から話しながらリビングに行くと、誠の大きめのエプロンをして手際よく料理をしている。 「どうしたの!?」 「一度やってみたかったんだよ。手作り」 「わぁ!ティラミス?!」 「ん。俺が好きなやつ」 気分屋の大河が鼻歌を歌いながら作業するのを、にやけるのを隠さずに見つめる。自分が好きなものだからか真剣に作っている。綺麗に飾り付けをして、できた!と満面の笑みを向けられ思わず強く抱きしめた。 「俺に?」 「うん。あ、一緒に食べよう?」 「可愛いっ!もちろんっ!」 テンションが上がると、大河も嬉しそうに笑った。大きめなニットに誠のエプロンは、誠の理性を奪うには十分で濃厚なキスをすると、嫌がって離れていった。 「時間…ないから。な、食べよ?」 顔を赤くして下を向くのが可愛すぎて誠は尻尾を振ってご機嫌に応えた。 「美味しいっ!大河さん上手だね!」 「よかった…。」 ほっとしたように大河も口に運び、美味しかったのかニコニコとしている。大河が今から仕事でないなら襲っていただろうと、モグモグしながら不埒なことを考えた。 「あと、はいコレ」 「なぁに?」 「こっちがメイン。バレンタインデーの。」 紙袋に入っていたのはホワイトゴールドのブレスレット。 「わぁ!カッコいい!」 「よかった。またCMがくるかもな?」 ケタケタ笑う大河は本当にご機嫌で、誠は仕事を少し恨んだ。 誠はホワイトデーに何をあげようかと、大河の仕事中に検討することにした。 「大河のCM見た?あんな彼氏いたら最高すぎるー!」 「あのブランドは人から貰うものだもんねー!いいなぁ、うちの彼氏もあれにしてほしい」 話題のCMはレディースアクセサリーの有名ブランド。彼女目線のそのCMは、年下彼氏編と年上彼氏編がある。中でも年下彼氏編では背伸びした初々しさと、様子を伺うように覗き込んでふにゃりと笑う姿が話題になっている。 「可愛すぎて倒れそう」 「あははっ!まこちゃん死なないでー!」 「大河!可愛いなぁ!」 「うるせぇ!仕事だから!仕事!」 大河は照れ隠しにだんだん怒り始め、それに皆んなが笑ったことで不機嫌になって全員を無視し始めた。 「年下編もいいけどさ、俺は年上編がカッコいいと思う!なんか、大河さんの色気すごくない?」 「すごいよなぁ。顔がエロいよな」 「そう!あんなにコートとかマフラーとかしているCMなのに、なんでかなぁと思ってた!顔なんだね!」 じろじろと見られて居心地が悪くなった大河は大きな声で怒鳴った。 「顔がエロいってなんだよ!悪口言うな!」 「「褒めてるんだよ」」 ハモったレイと優一はハイタッチしているが大河は馬鹿にされたと思ったまま拗ねていた。鏡まで取り出して、怪訝そうに顔を見ているのを誠は喉の奥で笑った。 「やっぱ目かな」 思わず声に出て全員が誠を見る。 「この目を見たら抱きたくなる」 「っ!!?」 ニコッと笑って大河を見つめて言うと、ボンッと音がしそうなほど顔が赤くなり、目を見開いた後、耐えきれなくなって会議室から出ていった。 「あっははははは!まこちゃんってば!!あはははは!」 「おいおい〜あんま大河いじめんなよー」 「いじめてないよ!本当のことだもん!」 「あー大河さん可愛いなぁもう!あはははは!」 優一は涙が出るほど笑い、レイも笑いながら誠の肩を叩く。 「マコ、お前ドSだろ?大河が恥ずかしいの耐えきれないの分かってて言えるのお前くらいだよ」 「本当に〜!ダメだもうお腹痛いっ!あはははは!」 首を傾げるとレイは、こりゃ無自覚か、と呆れて笑った。 (なんなんだよ!あいつ!) 飛び出したのはいいものの、行き場のない大河はロビーで温かいお茶を買って自分を落ち着かせた。 (恥ずかしい…) あの誠の目は本気だと分かる。分かるからこそ恥ずかしくてどうしたらいいか分からなかった。ドキドキして顔から火が出そうで顔を伏せる。 「おい、大丈夫か?」 肩に手を置かれ、ビクッと顔を上げるとそこには楓が心配そうにのぞきこんでいた。 「あ…すみません、大丈夫です。」 「顔赤いぞ、熱あるんじゃねーの?帰れば?」 「いえ、打ち合わせあるので」 気まずくて下を向いて温かいお茶を握る。するとどかっと隣に座られてさらにビクッと肩を揺らした。 「俺、諦めたから安心しろな。」 「え?」 「マコちゃん。本人に謝罪もしたし…これでチャラな。」 「あ…えっと…」 「見せつけられたよ。お前たちの仲をさ。で、俺ももう進もうかなって」 「…そうですか…」 「見てくれって言われた人がいるから。見てみようってな。じゃあな、幸せにしてもらえよ」 髪をくしゃくしゃにされ、立ち上がった楓を見ると、見たことないくらい綺麗に笑っていた。 「楓さん、応援しています。」 「うるせーよ。余計なお世話だ。」 ニヤリと笑って去っていった楓を見送ったあと、なんだか胸がぽかぽかしている。 (そろそろ戻るか…) 自然と笑みが零れるのをそのままに、揶揄われるのを覚悟して会議室に戻った。

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