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第51話 昔話と今の話
「お疲れ様です。」
「まこちゃん!お疲れ様!」
「お疲れ。」
「お疲れさん」
繁華街のバーの個室に集まったのは、誠と優一とタカと楓。誠は少し緊張しながらも楓の隣に座った。優一は少し飲んだのかヘラヘラしてご機嫌だ。
「まこちゃん、うちの母さんのところは今日定休日だから悪いな。今度行こう。」
「いえ!今日も楽しみですよ!あまり飲み会など参加しないので。」
「大地とはよく行くけどな。RINGはあまり飲めねーの?」
「飲めないのは大河さんと優くんだけですかね」
楓は、納得しながら優一を見た。絶賛キス魔化してタカの唇を奪っていた。 タカはそんな優一を軽くあしらって楓に早く進めろ、と言った。
「俺になんか話が?」
「あぁ…。えっと」
「楓さん、俺、大河さん以外愛せません。この指輪は大河さんも受け取ってくれました。大河さんがいるから俺…ここまでこれたんです。だから、」
「…お前さ、せめて言わせろって…。」
「ごめんなさい」
「いや、いいよ。今までのこと謝りたかったんだ。」
ウィスキーを煽って、タバコに火をつけた。あの時のタバコの香りに一瞬怯える自分が嫌でそっと指輪をなぞった。
「マコちゃん、俺のこと覚えてない?」
「え?」
中学生かな、と煙を吐き出した。パチパチと瞬きをしながら楓を見つめる。
「ミユリ。覚えてる?」
がちゃん!
誠は目を見開いて楓を見る。思わず零したお酒をタカが黙って拭き取っていたが、それも手伝えないぐらい動揺していた。
「まこちゃん?」
酔った優一でさえも心配するぐらい、誠は固まって、過去が一気に蘇り手に汗がびっしょりだった。
「お前の元カノだろ。で、お前らが別れた時に俺らはそこにいた。」
「…楓さん」
優一の声が低くなる。タカは優一の手を握り暴れないようにしっかり掴んでいた。
過ごしやすい秋も、最近は冬の気配をのぞかせる。夕方になるにつれ冷えていくのを、彼女に上着を貸したり、手を握って温めてあげたりと冬に備えていた。周りからは美男美女なんて言われて嬉しく思っていた。部活をやめてからいろんな人に恋しては別れを繰り返していた時、こんなんじゃダメだと叱ってくれた、中学生にしては大人っぽい彼女。可愛いというよりは綺麗で色気があって、あまり登校しないから1匹オオカミみたいで、逆に男子達からは高嶺の花だった。そんな彼女が、誠のそばにいたい、と言ってくれたのだ。
優一も良かったね、落ち着くといいけどと苦笑いしながらも祝福してくれ、彼女も幸せそうに大好き、マコだけだよ、って言ってくれていた。
それが、思わぬ形で終わるとは、この日の誠は予想だにしていなかった。誠の学校が終わるころに門で待ち合わせたミユリと誠。制服着るなら学校においでよ、と言いながら歩いて、いつも通り笑って談笑していたのに。
「どうして?ミユ。俺だけって…その人は誰なの?」
「お前さ、俺の女に手を出してんじゃねぇよ!!」
「ちがう!ミユは俺の…」
「はぁ!?ぶっ殺されたいのか!クソガキが!」
「っ!!」
高校生5〜6人に囲まれ、誠は公園のトイレの前で蹴ったり殴られたりしていた。彼女のミユリはつまらなそうにケータイを操作しながら壁にもたれていた。 混乱する頭の中でも、楽しかったミユリとの思い出しか流れてこない。ただ、痛みが現実に戻し、部活の先輩達に囲まれた過去も一緒に流れてきた。いつだって女の子は被害者で、いつだって誠が加害者とされて制裁を加えられた。
(どうして?なんで?ミユ!?)
砂利に顔をつけて、彼女を見つめるとボス的な存在の人とキスをしている。あの笑顔も、楽しかった日々も、全部が一瞬にして消えた。 その奥にいる、同じ高校生の人が見張り役で立っていて哀れむような目で見ていて情けなくて目の前がぼやけた。
「こいつ、泣いてやんの!ははは!」
「ミユリ、こいつのどこがいいんだよ!」
「えー?初めはイケメンだと思ったけど、優しすぎてつまんないの。あと重すぎ。」
「恭介さんと喧嘩したからって、こんな優男なんて趣味悪いなぁ」
「だって、恭介がぁー」
「マシンで勝ったらっつったろ?全く…」
情けない誠の姿に満足したのか、暴行をやめ、鼻血や口から血が出たまま倒れこむ誠を無視して談笑しはじめた。
「ミユ…」
「マコ?もぉ別れようね〜。恭介強いしカッコいい!」
見たことない意地悪な笑顔でそう言われ、愛されてなかったことを知る。大好きな香水の匂いも今は鉄の香りしかしない。
「そうとうごねたんだって?女々しい男だな。ボコられねぇと分かんねーの」
誠はミユリから別れたいなんて聞いたことはなかった。今日はマコの誕生日だね、なんて言ってデートしていたのだ。 プレゼントもあるとか、エッチな下着楽しみにして、なんて。バカげた話をよくもニコニコと話せたものだ。それでも、誠はまだミユリを嫌いにはなれなかった。何かを直せば戻ってきてくれるかも、とこの男がいうように女々しく縋ろうとしていた。
「ミユ…俺…」
「マコって本当に重いのよね。無理!」
頭が真っ白になって力が入らなかった。重い、はよく言われる言葉で、何が重く感じるのか分からないまま繰り返している。別れの時は誰も教えてくれないのだ。思ってたのと違う、愛が重い、とよく聞く言葉に、諦めからだんだん瞼が閉じて意識が遠のいた。
「まこちゃん!!まこちゃん!!」
誠が次に目を開けると、傷だらけの優一が涙を流して顔を覗き込んでいた。
「…っゅぅくん…」
少し話すと口から血の味がしてむせた。起こしてもらって壁にもたれ、周りを見るとあたりは街灯が点くぐらい暗くなっていた。
「優くん…、ミユに振られちゃった」
泣き出しそうな優一に笑って欲しくて、無理やり笑顔を作ると、目の前の優一がわんわん泣き出した。
「まこちゃん!まこちゃん!っぅ、ふぅっ!ぅうー…」
「優くん、泣かないで。俺は大丈夫だから。帰ろ?肩貸してくれる?」
ボロボロの優一を見て、もしかしたらあのお兄さん達に殴りかかったかもしれない、と申し訳なく思った。優一の家で手当てをしてもらって、その日は優一の部屋に泊まった。森田家で誕生日パーティーも開いてくれて、まだ身長差があまりない時の優一に抱かれて眠った。
「え!?あの時のお兄さんが楓さん?」
優一は目を見開いた。誠の場所を教えてくれた人だった。 優一は当時の彼女を送った後に歩いていると、ミユリがほかの男とバイクに乗っている姿とすれ違った。今日は誠の誕生日。嫌な予感がして、探し回り、あの公園で誠を殴った奴らに遭遇したのだった。
楓はストリートダンスをしていて、そのメンバーとつるむことが多かった。その日も練習と聞いて向かった場所はあまり来ない公園で、足のケガをしてから雰囲気が変わった恭介のボコる日だったのだ。彼女に手を出したガキがいるとのことで、楓はよりによって恭介の女に…とため息を吐いた。何度も付き合っては別れ、ヨリを戻し、と繰り返し、多くの男が半殺しにされた。 ダンス以外に興味ない楓は参加せず、いつも見張りを担当していた。
この日も楽しそうに歩く、美男美女の前に仲間が絡み、イケメンの中学生をトイレの前まで連れ込み、殴る蹴るの暴行を加えた。
(可哀想なやつ。ミユリを選ばなければこんな目に遭わなかったのに)
こいつなら他にも女がいるだろうに、と静かに見ていた。強い男が好きなミユリは誠には目もくれず、2人はバイクに乗って先に何処かへ行った。
「おい、お前大丈夫か?」
「ミユは…無事ですか?」
「は?」
「ミユが無事ならいいです。ミユがあの人の方が好きなら、それでいいです。」
「…良い子ちゃんだな。」
「お兄さん、もう俺を殺してください。誕生日に死ぬなんて滑稽かもしれないけど」
「え、お前誕生日なの?」
「…何でもない、1日ですよ。お兄さん、いいよ。もう殺して。俺は誰にも愛してもらえない人間だから。」
楓は、傷ついているのに笑う誠に目が釘付けになった。不憫すぎるこの少年を守ってやらないと、俺なら幸せにするのに、と本能で思った。抱き上げて砂利からコンクリートのところまで運んだところで、仲間たちが騒がしくなる。
「お前らが知ってんだろ!!早く答えろ!」
まだ幼さが残る少年が仲間達に怒鳴りちらし、複数人で部が悪くても向かっていくのを見て、誠の友人だと察し、楓は誠の居場所を伝えた。怒っていたにも関わらず、お兄さんありがとう!と叫んでトイレの方に走っていった。頭に血がのぼる仲間達を引き連れ、その場を去った。 その後から誠のことを調べ、なんとか関わりが持てないかと動き、高校も場所も突き止めたり、家の場所を把握したりと、あの時に思った「俺が守らないと」がだんだんエスカレートしていった。
「マコちゃんが事務所に入ったのを知って、やっと会えたと思ったら…ごめん。歯止めがきかなくて、そして、お前らの寮にも入ったこともある。」
「「え!?」」
タカは知っていたのか何も言わずにタバコをふかしている。楓は2人に頭を下げて話し続けた。
「あの時のお前を助けて、俺が幸せにしないと、守らないとって…思ってた。大河しか見えてないのも知ってた。だから余計に焦ってた」
「…楓さん。あの時のお兄さんだったんですね。ありがとうございます!あの時に助けてくれて!」
誠がニコリと笑って頭を下げると、楓は怪訝そうな顔をした。
「助けてねーよ、むしろ…」
「楓さんが声をかけてくれた、優くんに知らせてくれた。だから今の俺がいます!あの時は本当に辛かったけど…。定期公演後も、キスマークも嫌だったし、怖かったけど」
優一もニコニコと誠の言葉を聞いていて、楓はさらに眉間のシワを深めた。
「楓さんは、優しい人です!」
誠の笑顔に、楓は不安そうにタカを見た。喉の奥で笑って、タカは楓のグラスにウィスキーを注いだ。
「だってよ。よかったな、許してもらえて」
「いや!マコちゃん、俺がしたことは!」
「楓さん、全部、終わったことです。楓さんも進んでください。俺も、進んでます。これからも大河さんを愛していきます」
楓はウィスキーを煽って、小さくごめんな、ありがとうと呟いた。
「楓さんって一途なんだね!まこちゃんのことからかってるのかと思ってた。でもあの時からだなんて…」
「いや、こいつ結構遊んでるぞ。」
「タカさん!」
タカが告げ口をすると楓が慌てるのが意外で誠と優一はケラケラ笑った。 怖いと思っていたその人は、真面目で、ただのダンスが大好きなお兄ちゃん、という感じで、青木が懐いているのにも納得した。その後飲み進めていき、昔の話などをしていると、少し酔ったのか大河のことで頭がいっぱいになってきた。 目の前の優一はタカにホールドされながらもトロンとして甘え、それをスルーしてタカと楓は語っている。
「あ、マコちゃん、もう帰っていいぞ。はいタクシー代」
「え?」
「楓も言いたいこと言えたみたいだし。ぼーっとして指輪いじって…はは!大河が恋しいんだろ。さっさと帰りな」
「大河のこと大切にしてやりな」
タカも楓も手を振ってきて、誠はその言葉に甘えてタクシーに乗り込んだ。
(懐かしいなぁ)
必死に彼女に尽くしていた日々。彼女がいない期間がないくらい、様々な人と付き合った気がする。愛されたくて必死だった中学時代。高校からは少し落ち着き、長く付き合えるようになった。それでも、今の人を越える人は1人もいなかった。
(早く会いたい…寝ているかな)
ケータイを見ると、遅い時間に大河からの着信。珍しいと思いかけ直すもとらない。
(珍しいな…部屋に行ってみよう)
「お邪魔しまーす。大河さーん?」
「すぅ…すぅ…すぅ…」
ぐっすりと眠る大河の隣に寝ようと布団をめくると、全裸の恋人。
「え!?珍しい!」
普段から寒がりで、着込んでいるタイプだがセクシーな身体をそのままにすやすや眠っている。
ゾクン…
やばいな、とも思いつつ、ムラムラする気持ちが抑えられず、起こして激しく抱いた。
「ご機嫌だったな、昨日。」
「え?そうかな?」
アラームが鳴って、誠は風呂を借りようと服を脱いだところで大河がベッドに寝たまま声をかけた。ゆっくりと起き上がり、半分くらいしか開いていない目は幼くみえる。寒いのか身震いした後、布団に戻っていった。 頭を撫でて風呂に浸かる。
(あんなにすごくて、可愛くて、エロくて、カッコイイ人が、こんな俺を受け止めてくれるなんて…)
いつ会っても好きで、いつ見てもドキドキして、そばにいると安心して、自分が自分でいられる存在。あの時、伊藤さんが諦めていたら、自分が頑なに断っていたら、大河の存在を知らないまま、小さなライブハウスで優一と定期的にライブをし、それなりに就職して、それなりの人を見つけ、結婚を考えただろう。楓が手を出さなければ、もしかしたら仲のいい先輩で終わったかもしれない、美奈子が大河に近づかなければあんなにぶつからなかったかもしれない。たくさんの偶然と奇跡でできた今に感謝しかない。こんなにも自分を出した恋愛が初めてで、ミユリやその他の彼女達の時はどれほど無理をして愛されたがったのかが痛いほど分かった。
コンコン
「?はぁい」
「マコ、俺も入る」
「あ、じゃあ出るね」
ザバァとお湯から上がると、冷えた身体が抱きついてきた。
「…一緒に、入ろ」
耳を真っ赤にしてこちらを見ない恋人に鼻血が出そうだった。たまにある恋人のデレが本当にツボでたまらない。
「うん、俺も一緒に入りたい」
そう言うとほっとしたように見上げてくる顔に激しく舌を絡ませた。
「んぅっ、はぁっ、んっんっ」
「大河さん…可愛い…」
(我慢…できない。ごめん、大河さん)
「んぅっ!?…ぷはっ…っあ、違う、お風呂だけっ」
「無理だよ、こんな誘われて」
「お風呂だけ誘ったっぁ、」
あの舞台の後に気付いた、大河のキスが上手いこと。今日みたいに積極的に絡ませられると誠はすぐに堕ちる。
「ちがうでしょ?今のキスは誘ったでしょ?」
「ちがぅ…」
「素直な大河さんが好きだよ」
目を見て言うと、カァッと顔が赤くなり、顔を背けるから両手で正面に向かせる。
「さそった…」
観念したように言うのが可愛くて、湯船に浸かり、お互いのを握り合う。トロンとして見つめる大河の色気は、見ていると暴発しそうになる。
「はっ…まこ、最近な、おれ、おかしい」
「んっ、ん?どう、おかしいの?」
「っ、っぁ、っああ、…」
「大河さん、?」
「欲求、不満、かな?」
「足りない?」
「足りて、るけどっ、んっ、なんか、シたくてたまらない、ん」
「…っ、、っ、」
「まこと、ヤりたくて、なんか、熱くて」
「も、いいから、分かったから」
「まこ、シて?早く、俺を、満たして」
浴槽の縁に捕まり、背を向けて綺麗な腰や肩甲骨、形の良い双方がこちらに向けられ、顔だけ振り返り誘う顔に本能が動いた。
グググ
「ッーー!!?…っはぁ!!っあああ!」
「はっ、はっ、きつい」
「ッマコ、動いてぇ!」
「っ!?まだ、辛くない?」
「マコっ!マコ!早くっ!マコ」
いつになく余裕無さげに激しく求められ、誠は歯をくいしばって流されないように腰に力を入れる。見たことないほどの色気に当てられないよう理性を繋ぎ止める。
「っあぁあ!気持ちいっ!!マコ、気持ちいっ」
「くっ…、大河さん、本当どうしたの」
名前と気持ちいいを連呼して、感じ入る姿は録画したいくらい美しい。普段恥ずかしがり屋であまり素直に伝えられないタイプなのに、今日は大河の理性がとんでいるようだ。
「マコっ!マコぉ!」
「っ!?っぅあああ!」
突然大河が誠の上に乗り、激しく腰を振り始めた。一心不乱に快感だけを追う恋人に、意識が飛びそうになる。
(やばい!!エロすぎる)
ひたすら自分の名前を呼ばれ、求められて、幸せしか感じない。目の前の恋人を満足させようとタイミングを見計らって奥の奥に届くよう腰を入れる。
「っっ!!!」
「くぅ!!」
腰を仰け反らせ、大河が思いっきり絶頂を迎えた。小刻みに痙攣する身体を強く抱きしめ、呼吸が落ち着くまでそのままにする。入ったことのない奥は先端をリズムよく締め付け、荒い息を吐き続ける。
「ん…んぅ…はぁ…はぁ…」
「大河さん…大丈夫?」
「はぁ…ん…まこ」
「ん?」
「だいすき」
「っ!!?」
ガンガンと痛む頭にそよ風レベルの扇風機があてられる。
「おいおい。こんな寒い日にのぼせるってどういうことだ?熱湯風呂チャレンジでもしてたのか?」
「うー…頭痛い」
呆れたように伊藤が水をくれる。大河は仕事へと出かけて行ったが、のぼせた誠は大河の部屋で苦しんでいた。
夢かと疑うほどの可愛い台詞とエロい顔に抱き潰す勢いで求めた。大河のケータイが鳴り響いて、慌てて準備して出て行った恋人に寂しくなり、風呂から上がった瞬間ぐらぐらする頭を抑えながら体を拭き、ソファーに倒れた。
「大河ご機嫌だったけど、賭けでもしてたのか?どっちが耐えられるかとか?」
「ご機嫌ならよかった…。伊藤さんあと何分?」
「7分」
「ありがとう。もう大丈夫。」
「ニヤニヤしてどうした?大丈夫そうならよかった」
大河のことを思い出してニヤニヤしてしまうのを抑えられない。伊藤は怪訝そうな顔をして準備を手伝ってくれた。誠の今日の仕事はレイがレギュラーのバラエティー番組。バレンタインデー特集にゲストとして参加する。
「マコさんはすごくチョコもらうんじゃないですか?」
「今回は手作りも多かったです。愛情いっぱい貰えたので頑張っていけます!レイさんはお酒いっぱいもらっていたね」
「どれだけ飲ますんだよ!そろそろ酒ヤケの声になるかも」
「めっちゃ喜んでたくせに!」
仲の良さを評価されていて、誠と優一が交互に呼ばれている。今回は一般人へのアンケートでチョコをあげたい芸能人ランキングが発表された。
「1位!Altairの翔!」
やっぱりという声もあり、アイドルで1番人気のグループだと誇りに思う。
「2位!俳優の松永流星」
朝ドラで大ブレイクしていた俳優に誠は興奮する。大河と一緒に欠かさずみていたのだ。
「3位! RINGの大地」
この結果にレイと誠は抱き合って喜び、会場が沸いた。どうぞチョコを!とレイが宣伝してこの後殺到したようだ。続いては男性が女だったらあげたい人のランキング。特殊だなぁと笑いながらワクワクしながら画面を見る。
「1位 78の楓!」
やっぱり男性の思うカッコイイ人は男らしい人だと納得した。昨日で性格も真面目だと知ってこの結果に納得だった。アンケートの回答も、楓みたいにオシャレになりたい、とか隣で歩いたら自慢とか、男性人気を窺わせる。
「2位!RINGのレイ!」
イェーイ!!と大声で喜ぶレイに会場が爆笑に包まれる。楽しい、とか、顔が意外にイケメンとか、嬉しい言葉に誠まで喜んだ。心の中でRINGすげーと感心する。
「3位!ブルーウェーブのカナタ!」
おお!という声と共に、優しそうな笑顔のカナタの写真が映される。街頭アンケートのコメントでは、優しい笑顔で絶対受け取ってくれそう、とか、癒し系男子などとの声が上がった。 誠はよく優一や青木からカナタのことを聞いていて、優しさの塊、お母さん的存在という印象だ。
「ここで、番外編です。男性からの逆チョコなら、という声がいくつかあったのが、RINGの大河さん!自分が女じゃなくてもあげたい、と男性ファンが数多くいました!」
「大河は本当にモテるなぁー!」
「街頭ではセクシーだとか、色気があるとか言われてましたが、実際どうですか?」
「たしかにセクシーですけど、俺らは見慣れてるから、なぁ、マコ?」
「ぅえ!?急にふらないでよ!」
「気をぬくな!何真っ赤になってんだ!」
「ちがっ!」
「こいつ本当に大河大好きすぎてー…ま、大河はセクシーですが、めっちゃ子どもっぽいところもあります。彼女になった人だけが分かるかな?」
慌てる誠をレイがフォローしてくれて和やかに終わった。ほっとしたところでレイに頭を叩かれる。
「おい!本番中に気をぬくなよ!」
「ごめんなさい…」
「馬鹿正直に真っ赤になるなよ。お前は大河が大好きってキャラのまま、あそこは大河の魅力を語るところだろーが。全く…堂々とできるのも羨ましいのにさ。」
「レイさん…」
「お前はメンバーが大好きって素直に言えるキャラクターなんだから思いっきり惚気ていいの!ガチ照れして話せない、ってのだけはやめろ!それは大河の仕事だ。世間がそれを求めてるんだからその通りやりきれ。」
「はい!ありがとうございます!」
「ホワイトデー特集の時はユウに声がかかってる。ユウは求められるキャラクターが分かってるから、お前ももうちょい勉強してな」
ダメ出しをもらえて、次に生かそうとやる気が出る。レイは次の仕事に言ってしまって、局ないをプラプラ歩く。 ダンスリハが出来る大きなスタジオの前に行くと、見覚えのある2人に声をかけようとしてやめた。
(お?いい雰囲気)
ニヤリとして少し隠れて様子を見た。
「楓さんっ!昨日のメッセージ何ですかあれ!」
「えー?だから大喜利しろって。サナちゃんふつうに返してくんなよ」
「無理ですよ!そんな!面白いことなんか浮かばないです」
「つまんねーの」
「っ!…ごめんなさい…」
「あー…。もういちいち落ち込むなよ。冗談だよ。ほら、何か話があるんだろ?」
困ったように笑って、サナの頭をくしゃくしゃにすると、サナは嬉しそうにやめて下さい、と笑った。
「あの、これ楓さんに渡したくて」
「あ、チョコ?やったね!甘くないやつにしてくれた?」
「はい!カカオ98%のやつにしました!」
「はぁ!?お前それは苦すぎだから!ほとんど土みたいだぞ!」
「え!そうなんですか!?だ、だって甘いの嫌いって言うから…」
「極端だな。普通のビターくらいでいいし。」
近くのベンチにサナを座らせ、となりにどかっと座る。慌てるサナを無視して綺麗なラッピングを丁寧に外し、1つ取って口に入れた。
「あ、意外にいけるかも。」
「っ!良かったぁ…」
「奮発してくれたのか?」
「えっと…いえ、そんなんじゃ」
「ふふっ、ありがとうな。美味いよ」
優しく笑う顔にサナが顔を真っ赤にして下を向く。キュッとスカートを握ってもじもじしている。
「楓さん、いつもダメダメな私にお返事くれたり、こうして時間作ってくれたり、私本当に嬉しいです。いつも、ありがとうございます!楓さんに見てもらえるように、頑張ることも今とても楽しくて…楓さんはすごい人です!」
キラキラした笑顔で、言葉をゆっくり選びながら伝えられた言葉に、楓は嬉しそうにサナの頭を撫でる。
「お前面白いからな。ほら、食べてみ?」
「えっ?!ちょ、それ、」
好きな人からのあーんにサナは顔をさらに真っ赤にして慌てるも口にチョコが入れられる。楓は優しい笑顔ではなく、ニタニタと意地悪な笑顔でリアクションを待っている。
「うぅーー!!苦い!!」
「汚っ!出すなよ、もったいないからちゃんと食えよ」
「ひどいです!っう…素材の味がいきてますね」
「あはははは!なんだそのコメント!」
楽しそうな2人を覗き見して誠は胸がほっこりと温かくなる。
(そっか、楓さんも前に進んだんだ。よかった)
ジャンルが違う2人に驚いたが、サナが一生懸命なのが伝わった。楓も揶揄いながら楽しんでいるようだ。
(大河さんにもチョコあげようかなぁ)
男同士だとここが難しい。うーん、と唸って貰えたらホワイトデーに返すことにしようと決めて伊藤の車に乗り込んだ。
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