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第56話 歌の力2
(え…?なにこれ?)
マネージャーが変わって、仕事の種類が変わりつつあるのを感じた。主にマツリの企画やマツリからの紹介の制作会社ばかりでスケジュールが埋まっていく。新しい仕事のためにと、苦手な飲み会にも出され、深夜まで素面で粘り、早朝ロケに向かう。作曲やギターを触る時間も無く、送迎で寝ることも許さない。その日の夜も飲み会になり、さすがに眠気に襲われた。 起きると、膝枕されていたり、おじさん達にはさまれたり、無理やり飲まされそうになったりと、ストレスが溜まっていた。仕事に行くのがだんだん辛くなり、行ってもなぜか衣装が際どいものだったり何かと脱がされたり、メンズエステの取材や女装をして夜の街を歩き何人にナンパされるか、とかの検証とかが増えた。
「ユウ!早く出てきなさい!仕事よ!」
「三輪さん!おかしいよ!こんな仕事ばっかり!」
「新人のくせに仕事を選んでんじゃないわよ!これだから伊藤くんが甘やかしてて困るわ!」
自分が断れば伊藤の評価が下がる。グッと堪えて大河にメールや電話をして嫌すぎて何度も泣いた。不規則な時間でタカにも会えなくなり不安定な自覚はあった。不安なまま仕事に行き、ついたところがビジネスホテル。
「三輪さん!?さすがに…これ、なんの仕事ですか?ビジネスホテルなんて…聞いたことありません!」
「インタビューよ。ほらさっさと行きなさい!失礼があったら許さないわよ!」
優一を置いて去っていった車。嫌な予感しかしなくて思わずタカと大河に連絡をする。大河からはすぐ折り返しの電話が来て、怪しいから行くな、帰れ、といわれたが、また伊藤の評価が下がるのが嫌だった。最上階に上がって部屋をノックすると5人のスタッフ。 優しい笑顔にほっとして中に入ったのが、ダメだった。 ドアを閉めると、メイクがあると言われ、バスローブに着替えるよう指示があった。また女装かとため息を吐いてバスローブになって、スタッフが服を預かった。メイク、と案内された場所に息を飲んだ。
(嘘だ!嘘だ!)
ベッドの周りに置かれた数台のカメラとライト、ガンマイク。ベッドサイドにローションと真っ黒なバイブ。 咄嗟に部屋を出て震える手でケータイでタカに電話した。
「優一?どうした?」
「助けて!!タカさん!インタビューって聞いてたのにアダルトビデオだった!どうしよう!怖いよ!助けて!すぐに来て!お願い!」
「嘘だろ!?今から生放送…三輪は?」
「わかんない!!お願い!」
少し待てと言われて、必死でメンバーに連絡を取る。三輪は電源を切っていて絶望して涙が溢れる。
「ユウくん?」
「ひいっ!」
「さすが、理解が早いね。あぁ泣かないで。大丈夫、緊張しなくていいから。」
「嫌です!こんなの聞いてません!」
ケータイを握ってひたすら連絡を待つ。待っている間は長く感じる。じりじりと寄る大人は先ほどの優しい笑顔はなく、ニヤニヤと厭らしい顔で、舐め回すように視線を上から下に動かした。 男優が全裸で現れ、恐怖にカチカチと歯が鳴った。思いつく人全員にメッセージを送るも正義のヒーローは名乗り出ない。
(助けて!助けて!)
「ユウくん、芸能の世界、わかってるよね?君が断れば会社に大きな迷惑がかかるんだよ。君のせいで大きなお金が動くんだ。何もしないよりは出来る範囲でやろう。まずは下着をとってごらん。」
それだけで終わるはずないのに、もしかしたらこれで許してもらえるのかも、と考える。
「あ、待って、下着の画も欲しいかな。ソファーで下着のまま足を広げて。膝を自分で持って」
(タカさん、俺はここまでしなきゃいけないの?これが俺の仕事なの?)
固まっていると痺れを切らした男優に押したおされて後ろから足を広げさせられ、数台のカメラがそこを捉える。
(怖い、怖いよ。だれか助けて)
思わず涙が溢れて、スタッフが盛り上がる。こんなに嫌がって泣いているのに、大人たちは喜んでいる。気持ちとのギャップにますます恐怖になった。
「やめて下さい!はなして!!」
振り払ってドアまで走る。ドアノブを掴む瞬間にスタッフ2名に腰を取られ、押さえ込まれたまま、バスローブと下着が取られる。
「まさか全裸では逃げられないよなぁ?さすがに公然わいせつ罪での逮捕はやばいでしょ?ほら、こっちおいで?」
引き摺られながらソファーに戻され、泣いても暴れても許されない。だけど優一は諦めるつもりはなかった。たとえ芸能界を辞めても、仮に今、死んだとしてもこの仕事だけはしたくなかった。 ごね続けたがついに男優やスタッフに担がれてあの部屋に連れていかれた。たくさんの照明に照らされ、男優が上に乗るのをまた逃げる。情けないがベッド上で全裸のまま土下座をする。話してわかる相手ではないことは、分かる。ただの時間稼ぎだった。 抵抗むなしく、数名に押さえ込まれたままローションを入れられるとじんじんと熱くなる。そのまま太めのバイブが突っ込まれ、絶叫した。
(もういい。もう、だれもしんじない)
涙が流れるのでさえも楽しそうに撮る大人たち。これを紹介した人。自分のそういうシーンを見たがる汚い大人たちの目。こんな仕事に行けと言ったマネージャー。全てに絶望した。
自分は音楽がしたくてこの世界に入った。しかし現実は音楽活動やアイドルとしての仕事ではなく、こんな知らない人とセックスをして、こんなものを突っ込まれて叫ぶ姿が仕事となってしまった。恋人以外が自分にそういう目で見ているという事実が耐え難い程の屈辱だった。これが芸能界というのならば、もう辞めたい。心から絶望し、何もかもがどうでもよくなった。伊藤とレイが入ってきてくれた時、まだ可能性はあるのかな、と思って、夢であって欲しいと願ったのに、お尻の違和感が消えなくて、まだベタベタしている気がして、心配そうに迎えてくれたタカを裏切った気がしてやっぱり絶望した。
コンコン
「優一?起きてるか?社員が迎えにきてる」
「行かない。」
あの日から仕事が怖くなった。また、そういう仕事かもしれない。次は逃げられる自信がない。大人はみんな嘘つきで、笑いながらお金のために人を駒みたいに使うんだ。社員がタカの家まで来るようになって、部屋に鍵をかけて出なくなった。タカに食事をするようにお願いされても、部屋から出るのが怖くて嫌がった。何もかもが嫌だと泣いては困らせた。タカの仕事中は落ち着かなくて、仕事の電話が怖くて電源を切り、ひたすら部屋中を歩いた。タカが帰ってくると安心して泣いて、部屋から出そうとされると泣き喚いては叫び、お風呂やトイレも泣きながら行った。
伊藤がマネージャーに戻って、少しずつ落ち着いた気がしていた。少しずつ伊藤とドライブや散歩をし、部屋から出る練習をした。カウンセリングを受けようという提案に頷き、父親も伊藤とともに同行した。病院へ向かうため歩いていた時、あの男優の香水の匂いがして、全てがフラッシュバックして蹲り叫んだ。
「優!おい!優!どうしたんだ!」
「ユウ、落ち着いて、大丈夫だよ。」
「嫌だぁああああ!はなして!!怖い!来ないで!!やめて!!嫌だ」
涙が勝手に溢れて気付けば病院で眠っていた。そして起きた時に見たのは、父親が伊藤に怒鳴りちらしていた。どうしてこうなっているのか、事務所なんかに頼れない、連れて帰りますと。カウンセリングを受けて、少しだけ落ち着いたが、手は震えたままで、病院での皆んなの目線が怖かった。
「優!今日から父さんと全力で遊ぶぞ!いいな?」
いつも誠優先だと思っていた父親は家族の誰よりもそばにいてくれた。釣りや庭でのバーベキュー、潮干狩りやみかん狩り、様々な体験をした。毎日充実していたが、優一が心配していたことがあった。
「ダメだ!帰ってくれ!」
「お願いです!1分でもいいので!」
タカが毎日会いに来てくれているのだ。初めは家族全員がタカに驚いた。タカは一緒に住んでいることを話したが、優一の実家の敷居をまたいだことはなかった。来てくれるたびに優一は会いたくて泣き、父親は芸能関係者は伊藤以外合わさないと徹底した。
「お前だって信用できん!一緒に住んでいながら何もできなかったじゃないか」
「痛いほど分かっています!ですからこうして、少しでも優一の力になりたくて!」
「優から連絡があるまで来てくれるな!迷惑だ!」
「申し訳ありません。ですが、明日も来ます。そう優一に伝えてください」
頭を下げて帰る姿を二階の部屋から見て心が痛んだ。毎日メッセージと着信と、訪問に来てくれる。嬉しさと、心が追いつかないかもしれない恐怖とで、優一自身が会いたいが会う自信が持てなかった。
(タカさん…ありがとう。ごめんなさい)
オーディションの打ち合わせの日、父親は大反対したが、優一はこの仕事はやるとタカや伊藤と約束していたこともあり、伊藤に迎えに来てもらった。久しぶりにタカにも会って、大丈夫だと思っていたのに、会議室から聞こえたマツリの声に身体が固まる。
(嘘つき、嘘つき、嘘つき)
(行きたくない、行きたくない、行きたくない)
ドクドクと心臓の音がうるさく、だんだん耳鳴りが強くなる。
「優一?」
「ユウ?」
ガタガタと震えが止まらなくなり、目の前がぼやける。ドアノブがまわったような気がしてパニックになった。
「いやぁあああああああ!!!!」
「落ち着け、優一。」
「タカ、場所を離れよう、向こう側持って」
「いやだあ!!はなして!!助けて!!!」
泣き叫び、髪を掻き毟っても恐怖が止まらない。あの人はまた笑って嘘をつくんだ、俺をそういう目で今まで見ていたんだ、そう思うと足がすくんだ。タカだけが会議室に入っていき、しばらく泣き続けたあとに落ち着き、伊藤に帰ろっか、と優しくいわれて頷いた。自分ではっきりわかった、まだ芸能活動はできないと。
分かってからは割り切って父親と遊んだ。アンリと話したり姉の美容室の掃除を手伝ったり、今の自分にできることはなんでもやった。一日の楽しみは、朝の父親の今日のやること、の発表や大河からの電話、メンバーからのメッセージ。母親の食事も優一を元気にしていった。
(このまま…戻れなくてもいいかな)
何でもない、普通の日常がどんなに幸せか分かった。あんなに必死に仕事をしていたが、何のためだったのかと頭を悩ませた。そこまでして芸能をしたいのか、と問うとNOだとはっきり分かった。
「父さん、お話しよう?」
父親の部屋に入り、明日のやることをまとめてくれている父親の背中に抱きつくと、ニコリと笑って手を止めてくれた。
「いいよ。話したいこと?」
「俺ね…あの毎日来てくれる人いるでしょ?あの人と付き合ってるの」
「そうか…。…はぁあッ!?」
穏やかに聞いていたが、意味を理解してコーヒーを吐き出していた。近くに落ちていた靴下の片方で慌てて拭いている。
「ごめんなさい。言ってなくて。俺、あの男性が好きなんだ。タカさんからたくさん音楽を勉強させてもらってる。俺は音楽だけがしたいんだ」
「…そうか」
父親は何でもないように聞いているが、多少動揺していた。話すことで優一は整理していった。
「でもね、最近のお仕事は音楽以外のことが多くて、疲れちゃった…。音楽ができないなら、芸能界にいる意味もないから…もう、辞めていいかな?」
「お前がそうしたいなら、そうしなさい。」
「RINGに俺はもともといらない存在だったから…いいよね?誰も困らない。普通に社会人として仕事して、タカさんと暮らしたい。」
「優が毎日楽しければ父さんは、それだけで幸せだよ」
薄く傷の残る手首を撫でて、優しく笑う。
「優は父さんの大事な息子だよ。優がやりたいことを全力でやりなさい。俺たち家族はいつだってお前を愛してる。この世界にいる誰よりも、だ。」
「うん、伝わってる。俺も父さんやみんながいるから頑張れるよ。ありがとう」
ぎゅっと抱きしめられて、子どもの時のような温かさに眠くなる。安心感に目を擦り、眠たい、というとおやすみ、と部屋に送られた。
「もしもしまこちゃん!どうしたのテレビ電話なんて!父さん、まこちゃんだよー!」
「マコ!元気か?優も元気になってきたぞー!」
テレビ電話がかかってきて、誠が嬉しそうに手を振ってきた。外にいるようで優一は疑問だった。画面が切り替わって、とある路上ライブが映された。
「あ、大河さん…。大河さん!?え、路上ライブ?!」
「お前んとこのメインボーカルだよな?こんな仕事もあるのか?」
曲が始まると、迫力の凄さ、観客が集まってくる様子、楽しそうに歌う姿がリアルタイムで見ることができた。
(大河さんカッコイイ…俺も一緒にやりたい)
となりの人はシンガーソングライターのリョウと一目で分かった。どういう繋がりかわからないが、2人とも自由に表現して、リラックスして楽しんでいるのが伝わる。 音楽をあんな風に自由にやりたい、そう思い涙が溢れた。となりの父親も、かっこよすぎるな、と目元を拭った。 曲が終わり、大河が喋り始めてニコニコ聞いていたがその内容に優一はボロボロ泣いた。 嬉しくて、一緒にやりたいと言ってくれたこと、待ってると言ってくれたこと、大河らしい言葉のチョイスにも全部伝わった。父親はいいメンバーだな、と喜んだ。最後に誠が周りを写すとタカと伊藤も見えて、タカも涙をこぼしてた。
(会いたい、会いたい、会いたい)
ライブ後の大河に代わってもらい、話していると父親が先にコピーし始めて慌てた。そのやりとりを笑って聞いてくれて、もう一度音楽をしたい、大河と歌いたい、と目標ができた。 優一は電話を切ったあと、すぐにタカに連絡した。すぐ行く、と返事が来て、これから初デートかのようにドキドキした。
「優!頭固くなったな!ここはこのコードでいいんだよ!なんでそう難しくしたがるんだ?」
音楽に関しても難しく考えすぎていたようで父親のシンプルさが新鮮だった。素直に父親考案のコード進行で行くと気持ちのいい仕上がりになった。
「うん!やっぱ父さんの言う通りだ!こっちがいいね!」
「歌ってみ?」
「うん!」
2人でギターを弾いて優一が歌うと、優里や母親も集まって来てくれた。
「やっぱお前は歌がうまいな!俺似だな」
頭を撫でてくれて優一は素直に嬉しくて心から笑った。 母親も優里もニコニコして拍手をしてくれた。優里がお店の準備、と遅くから出かけ、母親も寝た後、優一は父親に報告した。
「父さん、今日、タカさんを呼んだから」
「そうか。」
「中に入れていい?」
「もちろんだ。ゆっくりしてもらうといい。」
しばらくしてチャイムが鳴って、優一が迎えに行くと、タカは涙を流して抱きしめた。
「おい、いつまで玄関にいるつもりだ、早く入りなさい」
2人してビクッと驚き、父親がリビングへとタカを通す。
「何度もしつこく…申し訳ありませんでした。」
「本当だよ!毎晩毎晩。ストーカーかと思ったよ。まぁ恋人なら仕方ないけどな。気持ちは分からんでもない。うちの息子が心配かけました。」
「え?あ…優一、もしかして」
「うん、父さんに話した。」
「あなたには感謝をしています。毎晩ありがとう。本当はここまで心配してくれる存在に安心しています。頑固者で手がかかるが、いい奴ですので、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ!よろしくお願いします!」
「あとは部屋でごゆっくり。あ、優はまだ万全じゃないから、手を出すなよ」
「はぁ!?父さん!何言ってんのやめてよ!」
ははは、と去っていく父親に優一は顔が真っ赤になる。タカはまた優一を抱きしめて離さない。
「タカさん、俺の部屋に行こう?」
二階の小さな部屋に通して、座るところがないからベッドに腰掛けてもらう。 久しぶりのタカに優一は胸に飛び込んでこれでもかと甘えた。やりたいようにさせてくれるタカの顔が愛しさで溢れていて唇を奪って舌を絡める。2人でベッドに倒れこんでいつまでもキスしていた。明け方に帰っていったタカを寂しく見送って、まだドキドキする胸に手を当てた。
(本当は抱いて欲しかったのに、父さんがあんなこと言うから)
熱っぽさが抜けなくてはぁっとため息をついた。ギターの練習をして、またタカを思い出して会いたい、とため息を吐く。
(大河さんと2人で歌える歌、作りたいな)
そう思って欲求不満の状態のまま曲を作った。 歌詞は大河に書いてもらいたいと深夜だが電話をかけると、起きていたのかすぐに繋がった。
「大河さん、今曲作ってるの。データ送るから、セクシーな歌詞かいて」
『なんだよ、セクシーな歌詞って。』
「セックス中みたいなやつ」
『ぶはぁっっ!!む、無理だよ!何言ってんのお前!』
「元気になってきたらさ、タカさんが恋しくてたまらないんだ…でも今、俺が考えると怖いのも一緒に思い出して…」
『あぁもう!わかったから!そんな怖いことまで思い出さなくていいから!俺の目線でいいってことな?』
「そ!抱かれる側の目線」
『わざわざ言うな!』
「大河さん可愛い!照れてるの?」
からかったら怒られたけど、了承してくれた。飛び切りの甘さと、情事の描写をリクエストしたから楽しみだ、とニコニコしながら完成を待った。
次の日、また来てくれたタカを見送ったあと、明け方に大河からメールが入っていた。一気に書き上げたような言葉の羅列。
(もしかして、抱かれたあとにすぐ書いた?)
鮮明な描写と、優一も共感できる歌詞。自分がされているような気持ちで、たまらなくなって、優一はタカに電話をした。
「優一、どうした?」
心配そうな声。この声が抱いてる時は甘さを含む。いたずらにイきそうなのを分かってて愛撫をやめないのだ。
「タカ…っさん、んっ、んっ、タカさん、シたいよぅ。さっきも、昨日も、本当はシたかった…我慢できなくて…おれっ」
『お前っ…、今、どうなってるの?教えて?』
「いま?…勃ってるけど、久しぶりに触るから、もうっ…出そうっ、」
『そっか、優しくな?ゆっくり裏筋を撫でてごらん』
「んぅぅっ…はぁっ…っぁ、」
『いい声、もっと足広げて。今度は先端も優しくな。親指でやってごらん』
「ン!!あ、やばい、どうしよ、タカさん、止まんないっ、ぁっ、ぁっ、あっ」
クチュクチュとなるのが聞こえてるだろうか、優一はタカに聞こえる?と聞くと甘いため息が響いて、抱かれてる感覚になった。
(もうっ、止まらないっ、イくっ!!)
腰がビクビクっと跳ね、電話に向かって声を出した。しばらくそのままにして、タカさん、と呼ぶと苦しそうな声。
『せめて、俺が家に着いた頃にしてよ…。一緒にイきたかった』
拗ねる声が嬉しくて、優一は満たされた気分だった。
「タカさんと早く抱き合いたい。痕いっぱいつけてほしいな。タカさんの飲みたいし、早く1つになりたい」
『やば…いま会ったばかりなのに、会いたい。抱きたい。優一を抱きたい』
色気のある声で言われ、ドキドキする。タカのためにも、自分のためにも早く戻らなきゃとカウンセリングを頑張ろうと決めた。
晴れた日の夕方、帰宅ラッシュで行き交う人の波を、ギターケースを背負って歩く。
人の多さに足がすくむ。父親も伊藤もゆっくりでいいから、と待ってくれる。目線の先には大河とリョウが楽しそうに準備している。
(行きたい、行きたいのに、怖い)
泣きそうになった優一の前に待ち合わせできていたタカが正面に来て、目線を合わせた。
「優一、俺がそばにいる。お前は大河と、リョウさんと楽しむだけでいい。何も心配いらない。お父さんも、伊藤さんもそばにいる。ほらあそこにマコちゃんも、レイも、青木もいる。お前の好きな人しかここにはいない」
ニコリと笑ってタカが手を出したのを掴んだ。2人の支えにありがとうとお礼を言い、タカに連れられて2人の元に行った。
「よろしくお願いします」
「うわ!タカさん!お会いするの初めてですね!そして君がユウだね?!楽しもう!」
「タカさん、ユウをありがとうございます」
「よろしくな」
タカの服を掴んで離さないのに笑って、タカは強く抱きしめる。
「俺、お前の歌聴きたい。聴かせてくれる?」
最愛の人のリクエストにコクンと頷いて手を離した。リョウや大河にペコリと頭を下げ、緊張してなにも言えず、無言でギターを準備した。
「ユウ!お前練習しただろうな!?曲ばっかり作って!」
大河がいつも通りに話すのに安心して、したよ、と言うと大河とリョウがニカッと笑った。用意ができれば何の挨拶もなくはじまる路上ライブ。優一、大河、リョウの順に並び、優一のすぐ近くにはタカがそばにいた。大河が息を吸うのに合わせて、父親と練習したコードを押さえる。はじめは大河とリョウしか見れず、2人だけに合わせるようにギターを弾いた。パサついたように喉が張り付いて歌える気がしなくて不安になった。小さな声でタカがメロディの音程を歌ってくれて、それが大河と合わさって気持ち良かった。リョウの伸びと独自のアレンジがだんだん楽しくなって、自然とリョウに笑うと、ニカッと返され、しつこいウインクに、あ、歌えってことかと、更に面白くて優一は息を吸った。目を閉じて気持ちよく歌って、サビで目を開けるとリョウがイェイイェイ!と不思議な動きをして喜んでくれて、大河も涙目で笑ったのが綺麗だった。隣からはメロディが聞こえなくなり、ふとタカを見ると、見たことないくらい号泣して、伊藤も誠もレイも青木も、父親も笑顔で泣いていた。
(みんな、ありがとう)
終わったらものすごい拍手と、大きな歓声。お金を置いて行く人や、良かったよ、と声をかけてくれる人々。
「あなたの歌い方、刺さったわぁ!絶対歌手になりなさい!」
ご年配の方が握手をしてきて、飴玉を貰った。ダイレクトにお客さんの反応が見れて、そしてみんなが歌をやりなさい、と声をかけてくれた。遠くで父親が親指をグッと突き出して笑った。同じようにして笑顔で答えると、頷いた後、手を振って駅の中に入っていった。
「ユウ!やるじゃん!俺ノリノリになっちゃった!また来週もやろう!同じ曲でいいからさ!」
「俺も参加していいんですか?」
「は?当たり前だろ。歌は自由なんだから。歌いたい人が歌えばいいの。それだけなの」
大河が優一のほっぺをむにーっと伸ばす。やりたいことが見つかって優一は頑張ろうと思えた。人混みの中でもパニックを起こさずにやり遂げたことが大きな一歩だった。
「リョウさん、大河、本当にありがとう。ありがとう。また、こいつの歌、聞けるって…こんなに早く、聞けて…」
「タカさん、泣かないでよ…」
「ありがとう」
タカの涙にリョウも大河ももらい泣きして、リョウは歌って最高〜と叫んでいた。伊藤やRINGのメンバーが待つバンに乗るとみんなから、おかえりと髪をわしゃわしゃにされた。 いつまでも誠が泣いて、レイはニカッと笑い、青木は抱きしめてくれた。大河が乗り込むと大きな拍手で迎えられ、大河は驚いて固まった。
優一は事務所に行くのは拒否したが、タカの家に行くことに挑戦した。伊藤とゆっくりと上に上がり、緊張するのを堪えた。
「おかえり、優一」
「タカさんっ!!ただいま!!」
ぎゅーっとしがみついて離れない。いつの間にか伊藤はいなくなっていて、優一はゆっくりと家に入る。自分の部屋だとフラッシュバックしそうで、タカの部屋にいった。安心する匂いに優一はご機嫌になって猫みたいにタカにくっついた。食事も、お風呂もぼーっとテレビを見るのも2人でやり、いつのまにか、朝を迎えた。仕事に行かないタカを心配していると、気にするな、と頭を撫でられる。3日ぐらいずっと部屋に一緒にいて優一の傷が次第に癒えていった。タカが仕事のタイミングには、必ず誰かがそばにいてくれて、ひたすら心のケアだけに集中した。
そしてオーディション、収録日。伊藤がピッタリとそばにいるが、収録中はそばにいられない。マツリを見た瞬間、伊藤に隠れ、事情を知らない楓や翔、サナは驚いた様子だった。マツリは気にせずズカズカと話し始め、優一が萎縮したのをタカが割って入り、その後はずっとタカとカナタに守られて収録を終えた。
「ユウ〜!久しぶりだね!前は怖がらせてごめんね?よーく叱っておいたから!実は、女装ナンパ検証が好評で続編の期待が大きいんだ、ユウやってくれる?次は女子高生で…」
「失礼します。お仕事の依頼はメールでお願いします。…あと、その仕事はいったい何ですか?」
「伊藤さーん…RINGに戻ったんですよね!いやぁ…三輪さんならOK出たんですけど伊藤さんはNGかな。女装してナンパ待ちでバレずにどこまでいけるか、ってやつです!これが全然バレなくって!一回本当やばかったよねー?ラブホ前で回収して… 」
ドカンッ !!
近くにあった椅子が大きな音を立てて飛んで行った。全員がこちらをみて、タカが慌ててかけよった。カナタがオーディションメンバーを撤収させ、ほかのスタッフたちもバタバタと動き始めた。
「三輪ァ!!今すぐ来い!!マツリさん、おつかれ様でした。椅子、ぶつかっちゃいました。すみません。」
伊藤が大声で怒鳴るのを優一は耳を塞いでしゃがみこんだ優一に翔や楓が集まり、三輪と話していたサナもビクっと固まった。 伊藤はずんずんと廊下に歩いていき、三輪はさすがに驚きながら後をついていった、
「伊藤さんは本当過保護だよな。こんな可愛い人材預かっておいて可能性を狭めてさぁ。そっち系の方が売れるに決まってるのに…ユウもマネージャー間違えたね?カワイソウ。」
「やめてください…」
「え?」
「俺は、もう、あんな、仕事、できません」
「えー?つれないこと言わないでよ。本当に人気なんだよー?ユウの男性ファンも増えてるし、ユウ目当ての視聴者も増えたよ?また一緒に頑張ろう?」
「触らないでくださいっっっ!!!!!」
更にスタッフの視線が集まる。優一の手が震え始め、さすがにマツリも、え?、と固まる。
「いやだ、もう、いやだ…できない、やっぱりできない、やめたい、やめたい…」
「優一、大丈夫だよ、大丈夫、落ち着いて」
パタパタと零れ落ちる涙を見て、マツリは唖然と固まった。タカは背中をさすって大丈夫だと言い続けた。
「え…?いやいや…嘘でしょ…はは、まさか、え?俺の仕事が原因じゃないよね、はは、ユウ?大丈夫か?」
「こわい…こわい…」
耳を塞いで首を振り続けるのにタカはため息をついてマツリに向き合った。
「マツリさん、優一は大きな傷を負いました。実は今、この仕事以外全部キャンセルしています。最近やっと、外に出られるようになりました。復帰に向けて頑張っていますが、今はこれが限界です」
「誰か…誰か助けて、こわい」
「あなたの仕事を頑張った結果がこれです。しっかり見てください。あなたが面白おかしく作った番組で、事務所のNGも無視してオファーを続けた結果、こうなりました。1人の人間を壊した視聴率はどうでしたか?これが最後です、優一があなたと関わること。もしかしたら、優一の芸能活動が最後だとも言い切れない状況です。お願いです。この仕事では、できるだけ刺激を与えないでいただけませんか?やり遂げたい、という本人の意思を尊重したいんです。どうか、よろしくお願いします。」
タカが頭を下げるのをマツリは呆然として見ていた。楓も翔もサナも息を飲んでこの話を聞いていた。タカの足元で耳を塞いで蹲る優一。かつての明るさや愛嬌のある笑顔はなく、顔面蒼白でどこにも焦点が合わないままひたすら震えて涙をこぼした。
「あと2回でオーディションが終わります。優一のためにも変わらず、頑張っていきましょう。よろしくお願いします。」
タカはスタッフ、共演者、全員に頭を下げた。翔は優一を優しく包んで大丈夫、大丈夫と背中を撫でると、優一は翔を認識して、ふわりと笑い、翔くん、と強く抱きつき、次第に落ち着いていった。
「三輪さん、責任とってもらいますよ。なんであんな仕事取ってたんだ!!ありえない!!アイドルの仕事じゃないことぐらいど素人でも分かるよな!?」
「知らなかったの!あんな仕事だなんて!直接本人に説明したと言ってたんです」
伊藤の気迫に三輪は縮こまり、ここまで来ても人のせいにするのに伊藤は怒りが収まらなかった。
「しゃ、社会人なら自分で断る意思も…」
「4.5名の大人の男に囲まれてそんなことできんのかよ!?なぁ?!お前ならできるんだよな!?」
「そ、そんな状況って知らなかったっ」
「三輪さんも社会人だよな?逃げてみろよ俺から。なぁ?反論してみろよ」
逃げようとする三輪を壁に押さえつける。1人の男でさえも太刀打ちできないくせに、と怒りが爆発した。
「仕事内容も把握してない、その後のフォローもしない、タレントの意見を聞かない、緊急時に連絡も取れない。何してんの?なぁ!?どうやって立て直すんだよ!教えてくれよ!!どうするつもりだったんだよ!三輪さんならどう対応するつもりだったのか言ってみろよ!」
「そんなの…私に分かるわけないじゃない!社会人ならそんなの自分で」
「責任取れよ」
「お前がマネージャーだった時に起こったことだ。社会人の仕事だろ。お前が責任とれ。」
「無責任な!私は今サナちゃんの」
「無責任なやつが人に言ってんじゃねーよ!この事務所を辞めるか、ユウとユウのご両親、RINGのメンバーに謝罪しろ。どちらかはお前が選べ」
「何よそれ。私が悪いみたいに」
「お前のマネジメントの結果だ。どうする?社長には俺から言う。」
三輪は優一の両親に謝罪に行き、母親に思いっきりビンタされて帰ってきていた。優一の強さは母親譲りだったのだ、と全員が思った。本人は三輪に絶対に会いたくないと謝罪拒否、それ以外のメンバーを集めて謝罪してこの件は収束した。
「タカさん、この曲聞いてみて」
「うん、作ったのか?」
「高校の時の曲。伊藤さんがアレンジ聞きたいっていうから」
タカはしばらくすると目を閉じて笑った。
「爽やか〜!いいな!春の曲にいいんじゃないか?」
「やった!まこちゃんに送ろう〜」
「待って!今は俺に構って〜明日からは会えないから充電させて」
「ふふっ!可愛いなあ〜!あ、待ってて」
きょとんとするタカにウインクしてタカの目の前で服を脱いで行く。
「優一!?ど、どうした?」
「タカさん、俺も充電したい。待たせてごめんね?今日はいっぱいシよ?」
「っ!!優一っ!!」
「あははっ!くすぐったいよ!タカさん、んっ…んぅ、んっ!っは、」
「優一、好きだ、愛してる」
「俺もっ、だいすき、っ、ん、タカさん、っありがと、」
「怖く、ないか?」
「ぜーんぜん!むしろドキドキする」
照れたように笑う優一にタカは首筋に噛み付いた。
「っあぁあ!!っあああ!っぁ、あ、気持ちいっ!タカさんっ!」
「はあっ、は、っぁ、くぅ」
「タカさん…奥っ、ダメっ、イっちゃう」
「可愛いっ、気持ちい?奥嫌なの?」
「気持ちっ、はぁ、っ、んぅー」
「可愛い、優一、っ、好きだ、っ、愛してるよっ、んっ、んっ」
「っああ!っああ!!ンッ!っあああ」
「お前が辞めても、俺が養うから、っ、だから、安心して、そばにいて、っ、俺がずっと、一緒にいるから」
「んっ、んっ、ありがとっ、嬉しっ、んっ、ぁああ、ダメっ、くる!っっ!!ぁあああーーーッ!!!」
ビクビクと絶頂に跳ねる体をぎゅっと抱きしめてタカも欲を吐き出した。
「リョウさん!大河さん!よろしくお願いします!」
「おう!ユウ!元気そうだな!最初見た時と大違いだ!」
「リョウさん、こいつ本当はそうとうお喋りでうるさいやつなんです!」
「えっ!?そんな事思ってたの!?ショック!」
あははと笑う空気に安心する。ギターを出して準備をした。リョウは今日はタンバリンを持参している。
「さーあ、今日も駅前を楽しくしちゃいましょーう!」
リョウの楽しそうな雰囲気にニコリと笑って歌った。
(あ…タカさん、楽しそう)
遠くにマスクをしてライブを見に来ていた。忙しい中でも必ず来てくれる。優一はタカに向かって笑顔で歌った。
「美奈子!さすがにさ、前好きだった人ばかり見られたら傷つくよ」
リョウが温かいコーヒーを渡す。いつの間にか終わっていた路上ライブ。優一にさり気なく寄り添い、ギターケースを代わりに持って去っていくタカ。大河は2人を見送ってホッとしたように笑い、美奈子達のところへ来た。
「美奈子さん、今日どうでした?」
「大河残念!美奈子は今日は気分じゃないみたい。」
「そっか!残念!感想聞きたかったけどまた今度お願いします!」
「…あの子は良くなったの?」
「?ユウですか?まだですかね。少しずつですが戻りつつあります。」
「そう…。潰れそうな子じゃなかったけど」
「ユウは強い分、頑張りすぎてしまうんです。…?ユウがどうかしましたか?」
「なぜあの子なのか、分からなくて。」
「へ?」
「私に無くて、あの子にあるもの」
「美奈子、さすがに怒るよ。今は俺の彼女だよね。」
「…そうね。ごめんなさい」
大河はざわざわするのに耐えきれなくて、迎えが来ていると嘘をついてその場を離れた。
(まだ。まだなんだ。まだタカさんなんだ)
リョウという素敵な彼氏がいてもなお、歌ってもいないタカに目を奪われる美奈子に、かつての美奈子を思い出したが頭を振って忘れようとした。
(今は、リョウさんのおかげで大丈夫だ。きっと)
カシャカシャカシャ
「ん?」
カメラ音が聞こえて振り返るが、相変わらず人が行き交う構内。気のせいかとタクシー乗り場へ急いだ。
「大河さん…本当にカッコイイ。本日の大河さん、早く現像しなきゃ」
高そうなカメラを嬉しそうに覗き込むそのカメラには大河しか入っていなかった。
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