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第59話 写真

「伊藤さん、ちょっといいっすか?」 「なんだ?」 事務所で帰る準備をしていた伊藤は、デスクでため息を吐く岡田に向き直った。 「タカの件でいくつか聞きたいんだけど、大丈夫っすか?」 「あー…。分かる事なら。」 「分かることだと思います。」 何を聞かれるか観念して、伊藤は岡田の家に行くことになった。 「おー…綺麗にしてんなぁ。さすが」 「物がないだけです。物欲は無いし、趣味もないんで」 「オフは何してんの?」 「飲みですかね。酒ぐらいっすよ、楽しみは」 綺麗に陳列された棚にはワインやウイスキー、リキュールなど様々な種類の酒が置いてあった。グラスも拘っているのか全て2つずつある。 「彼女とかいるの?」 「こんな仕事なんで振られましたよ。ほとんど会えないし。で、本題です。」 ゴトンと置かれたジョッキには並々のハイボール。言うまで帰さないと言わんばかりのそれに苦笑いする。 「喋ってもらいますよ、先輩」 ニヤリと笑うのが長谷川に似ていて早期に白旗を上げた。この2人に話術で敵うわけがないのだ。 「まず、タカと一緒に住んでる優一という人物はRINGのユウでいいですね?」 「はい」 「なるほど。で、タカがハマりにハマってるのは、男であるRINGのユウで間違いないですね?」 「……」 「本人は昨日、ベロベロに酔って、優一と結婚しただの、あいつじゃないと生きていけないだのと言ってましたが、どうですか?」 「…その通りです」 「熱愛報道の女性は?」 「あれは…うちのユウです」 白状すると岡田は、頭を抱えてはぁ〜っと大きくため息を吐いた。 「長谷川さん、ドSすぎでしょ。」 「どうした?」 「長谷川さんからの共有では、タカは無類の女好き、誰にでも手を出すから気をつけろって。」 「うーん。全く違うな。一途すぎるぐらいだし、はじめはユウに嫌われてたけどそうとう努力してやっと振り向いてもらった感じだしな。」 全然違うし…とうなだれた。悪戯して共有することが多かったらしく、またか、とガッカリしていた。 「Altairの時も、透は翔の話をしていれば機嫌がいいと聞いていたのに、むしろ大激怒するし…。いつもこうして遊ばれてましたよ。」 「うわぁ…お疲れ様」 「情報を鵜呑みにするな、自分の目だけが確か、自分で確認しろ。が口癖でしたけど、まだまだです、自分は。」 タカが潰れるまで飲ませたらしい岡田も大概ドSだと思いながらタカを心配した。 「プライベートを隠せばいいんですけど、タカは浮かれてて全く制御できていません。ブルーウェーブでも1番人気なのに、意識が低すぎます。天才なのは、分かりますが、ファンの気持ちを考えると目に余ります。」 「すみません。やっとユウが復帰したから…。いろいろあった分、爆発してるのかも。」 「それじゃ困ります。ファンからするとそれは傷つきます。誰かのもの、という気配を見せたくないんです。」 岡田はファン目線の考えができる人だった。長谷川はそれを高く評価していた。ファン目線で考えることができるから、企画やファンミーティングなどでのファンサービス、グッズ、特典などは岡田の案が多かったようだ。 「俺は、学生時代応援していた女優さんが本当に好きでした。あの人を越える人はいません。あの人はファンのために頑張っていました。芸能は人を幸せにする仕事です。悲しませたりは、してはいけません。突然引退した時、全てを失ったようでした…。きっと熱愛報道だって、ファンのみんなはショックだったと思います。」 「女優さんのファンだったんですね。因みに誰ですか?」 「本郷美奈子さんです!」 「え…?」 「本郷美奈子さんの演技力は素晴らしいです。それなのに、試写会や握手会では腰が低くて、誰にでも笑顔で一人一人に声をかけてくれました。何度も来ていた俺は、学校に行きなさい、と叱ってもくれました。」 何の運命なのか、と伊藤は息を飲んだ。岡田が憧れた忘れられない人は、今担当しているタレントのトラウマになった人。長谷川が知っていてあえて推薦したのなら最強のドSだと恐れた。 「サブカルチャーを学んでいましたが、やっぱり美奈子さんが突然引退した本当の理由が知りたくて、かつていた事務所に来たんです」 「そうか…」 「長谷川さんから、聞きました。タカに惚れて辞めたんだと。」 「え?」 「泣きました。ショックでした。たった1人の男のために、もう見られなくなってしまったことが。そして、その男はとてもその人を嫌っていることにも。せめて、報われていてほしかった。選んだ男と幸せに、って。でもタカと話せば話すほど、俺の知っている女優さんではありませんでした。」 思い出したのか少し鼻をすすっている。ハイボールを煽ってため息ついた。 「タカが言ってたんです、歌だけで俺を全て理解したように接する人が嫌いだって。俺も美奈子さんにそうでした。演技やファンサービスだけで、そういう人だと思っていました。」 「それは仕方ないさ。でも間違いなく美奈子さんを応援していた翔太は幸せだったんだろ。」 「はい。1日でも多く、1つでも多く姿を見せることがファンのためになると思って今は仕事をしています。長谷川さんが翔を推しているのはファンが求めているから。ブルーウェーブのファンはタカの露出を望んでいる、だから今頑張って欲しいんです。」 「そうだな。」 「だから、ユウの存在が正直邪魔です」 ブハァとハイボールを吐いた。まさかのキラーパスに噎せた。 「美奈子さんがタカの恋人を消しまくってた理由が分かります。あいつは恋人がいると本当にポンコツです。失礼ですが、ユウの状態が悪いから俺が養うとやる気にはなってますが、状態が良くなると…困ります。」 「何、じゃあユウにどうしろと?」 「お互い自立してほしいんです。依存しあうんじゃなくて」 「俺にできることはないよ。プライベートは2人のものだ。」 「この仕事をしている以上、ユウもファンを意識して行動すべきです。RINGは正直、マコとレイ以外は全員ダメです。マコは特に素晴らしいです。ファンを意識した発言、行動、目線が自然にできている。1番ダメなのはセンターのはずの大河と、俳優業の大地です。この2人は俺からするとあり得ない。」 自分の担当のタレントにダメ出しされ、流石にカチンとくる。最もな意見だとは思う。しかし、個性やペースもある。 「青木はファンのストーカーに今も悩まされている。ファンサービスをしないのはそれが理由だ。大河は少しずつファンサービスもできるようになってきた、成長はしてる。」 「でも」 「チームによって個性はある。Altairと同じキャラクターのセンターなら、Altairが選ばれるに決まってる。大河は大河の色があるのさ。センターはこうである、という定義はないし正解もない。」 「センターなのに、1番じゃないですよね」 「うちの1番は青木だ。翔太がいうファンサービスをしない奴だが?」 黙ってハイボールを作ってくれる岡田に苦笑いする。 「タカはユウがいるからポンコツなんじゃない。それが個性なんだ。恋をするからいい音楽ができるかもしれないだろ?」 「そうですかねぇ」 「ちなみに、ユウはファンサービスをしても人気があるわけじゃない。むしろ女性アンチファンも多い」 「え?そうなんですか?大地の次かと…」 「甘いな。ユウは実は1番人気がない方だ。本人はそれを痛いほど分かってる。ユウになりたい系女子と男性人気だけだ。女より可愛いと言われて女性から反感をかっているのさ。難しいよな」 「そんなこともあるんですね。」 「ちなみにマコは真ん中くらい。大地の次は大河だ。大河は根強いファンと音楽好きが多い。大河が何をしても喜ぶから存在事態がファンサービスさ。」 へーと口を開けて聞き入っているのが可愛く見えてクスクスと笑う。意外にも頭でっかちなところがあるな、と笑う。長谷川が言う、自分で確認しろ、という意味が分かる気がした。こうであるべき、という固まった考え方をしがちだった。 「ユウのギターや、演技を見れば一気にファンが増えるのが俺には分かる。それが今は楽しみさ。そして、大河の売り出しを始めたよ。長谷川さんの影響だけど、顔を売らなきゃ意味がない。大河も、三輪さんに干されてた分今は仕事に前向きだ」 仕事の話が好きなのか、ニコニコと聞いている岡田は少し酔っているようだ。 「俺、RINGなら大河がカッコイイと思ってて。もったいないなぁ、って思ってました」 「そっか、ありがとう」 「あ、そうだ、伊藤さん、レイと付き合ってるんですよね?」 またブハァと吐き出すと、流石にイラついたようにテーブルを拭いて、再度作り直してくれた。 「な、なぜそれを」 「タカが全部喋ったよ。昔は大河が好きで、大河をレイプして諦めたこと、そして大河がマコちゃんと幸せで嬉しい、とか、レイと伊藤さんのように落ち着いた関係になりたい、とか」 伊藤は冷や汗をかいた。長谷川と相川しか知らないはずだったのだ。 「伊藤さん、タレントに手を出すのはヤバイでしょ」 「何も言えないよ。」 ものすごく反省してチビチビと酒を飲んだ。じわっと視界が潤むのが、あぁ酔ってるな、と思った。 「熱愛報道を指導する側なのに…。さらにRINGは大地以外みんな男同士…って。やばくないっすかさすがに。」 「…そうだな」 「俺なら怖くて無理っすわ」 「俺だって怖いさ」 「?なら何でリスク冒して」 「好きだから。それだけだよ。」 「それぐらい制御できないんですか?」 「出来ていたら、付き合ってないさ。俺だってポンコツだよ。だからグループもそうなった。俺のせいだよ」 コンタクトが落ちて、どこかにいった。後輩に泣かされて恥ずかしいのに止まらなかった。ずっと気にしていたことを指摘されてぐうの音もでない。 「伊藤さん、すみません」 「ううん…翔太は間違ってないよ、間違えてるのは俺たちだから…」 「どうしよう、伊藤さん、ごめんなさい」 酔った勢いもあってなかなか涙が止まらない。やっぱり別れた方がレイのためにもなるはずだ、マネージャーのタブーを改めて認識して、苦しくなった。 「えっと、伊藤さん、泣き止んでください…っどうしよう、っ長谷川さんに電話しよ」 困り果てた岡田は長谷川に電話したようだが、伊藤はレイのことで頭がいっぱいだった。 「お前何様のつもりだ!!!」 「す、すみません、正しいことを言ったつもりでっ」 「お前が首を突っ込むところじゃないよなぁ!?あァ!?分かってんのかコラァ!」 「愁〜ほどほどにしろよー?翔太は愁を怒らす天才だな〜。愁はお前優先だから正直困るんだけど?早く自立してくれね?」 騒がしい声に目を擦る。いつの間にか眠っていたようだが、見た瞬間思いっきり岡田が飛ばされた。 「へ!?翔太!?大丈夫か?」 「おっはー、響。よく寝た?」 「リク…愁くん。どうしてここに?」 「響くん、このクズが言うことは気にしなくていいよ?僕の教育がなってなくてごめんね?」 「伊藤さんが泣き止まないんです、ってヘルプの電話があったのよ〜。駆け付けて理由聞いたら愁がブチ切れよ。」 「どの身分で人様のプライベートに口出してんだよ!オラ!立てよ!!」 「すみませんっ、すみません」 心底怯えてる岡田に伊藤は慌てて庇う。長谷川と岡田の間に入ると、岡田はぎゅっと伊藤を掴んだ。 「こいつのさぁ、教科書通りみたいなクソ真面目な感じがマジでムカつくんだよね。知ったような口ぶりでさぁ。出しゃばるなって言ってんだろ?なぁ?」 「すみません!すみません!」 「愁くん、大丈夫だから。夜遅くにごめんね!俺も酔ってたから」 ニコッと笑って言うと、相川が至近距離で伊藤の顔を覗き込み、前髪をかき上げておデコにキスをした。 「は?」 「響、泣かないで?」 初めて見る悲しそうな顔で言われ、共感してくれたことに余計に涙が浮かぶ。あれ!?と慌てる相川に長谷川は今度は指差して爆笑してダサいとからかっていた。 「伊藤さん、本当にすみません。俺、こういうの、分からなくて、」 「大丈夫。翔太は何も間違ってないから。正論中の正論だよ」 「翔太、正論が誰かにとっては正解じゃない時もある。覚えておけよ。」 「はい。ありがとうございます」 「全く。深夜に何事かと思ったよ。響くん、本当に翔太がごめんね。レイは響くんじゃなきゃダメだ。レイが仕事を頑張るには、響くんが必要なの。忘れないで。間違っても自分が身を引けば、とかマネージャーとして、とか要らない考えは捨ててね?」 「……。」 「レイのため、だから。」 隣で相川もうんうんと頷き、最後に岡田の頭をペシンと叩いた。 「お前も同じ状況になりますよーに」 ニカッと意地悪に笑って、2人は去っていった。嵐のような2人に、伊藤と岡田は放心状態だった。 「ただいま」 「響!おかえり!」 ヘラヘラ笑って抱きついてきた恋人も晩酌していたようだ。 普段の反動か甘えん坊になって抱きついてくる。 (はぁ…こんなに熱烈に歓迎してくれるなんて幸せ) 今日の収録の話を楽しそうにするのをうんうん、と聞き、さすがの話術で2人で爆笑する。先ほどのことなんか全く気にならないくらい笑って眠りについた。 次の日、めちゃくちゃ腫れた目のせいでコンタクトが入らず、眼鏡での出勤となった。瞼が重くてぼんやりする。 「響くん…あちゃー目腫れちゃったね。ごめんね、うちのバカ弟子が。」 「ううん。酔っ払ってたから。愁くんも夜遅くにごめん。お騒がせしました…。あー恥ずかしい」 さすがに恥ずかしくなって項垂れ、デスクの横に立つ長谷川を見上げ、もう一度謝った。 「っ!……どーいたしまして。なんかあったらいつでも声かけて?すぐに行くから」 一瞬びっくりした顔に、きょとんとするも、見たことない優しい顔で頭を撫でられた。 「?…うん、ありがとう」 さて、と伸びをしたところで恐ろしい視線を感じ、振り向くと相川が物凄い形相で長谷川を見ていた。 「あ、やば!さぁ〜て仕事仕事♪」 ぺろっと舌を出してササッと去っていった。 「おはようございます!…えー!響珍しい!やっぱり似合うね!貸してー」 颯爽と出勤してきた雪乃にメガネを取られ、かけられる。小顔にはとてもメガネが大きく見える。 「顔ちっさ!満足したか?ほら返して。」 「えー?ケチ!できる女に見えた?」 「見えた見えた!はい、返してって」 雪乃が楽しそうにはしゃぐから呆れて笑う。ダイアモンドが動き出してハツラツと毎日が楽しそうにしている。ダイアモンドのメンバーも雪乃に対し信頼できる人という認識になっているようだった。 「朝っぱらからイチャつかないでよ。」 三輪が間に割って入り、すみません、と2人で頭を下げる。高校生じゃないんだから、とまた嫌味を言われ、2人で目を合わせ苦笑いした。相変わらずピリピリした三輪だが最近は少し丸くなった。 「おはようございます」 「おはよう…って岡田さん!?どうしました?」 「…転びました」 マスクをした岡田は頬が腫れているのが分かる。痛々しい姿に申し訳無く思うも、送迎の時間になって席を立った。 駐車場に向かう廊下を歩いていると、喫煙所から大きな声が聞こえ、足を止めた。 「リク、ごめんって〜。響くんがあまりにも可愛かったから…」 「黙れ!!絶対許さねぇし!バカにしてんのか!口説こうとしてたくせに浮気だろ!」 「浮気じゃないよ。もー、しつこいなぁ」 長谷川は余裕そうに笑って、タバコを灰皿に押し付けた。まだ騒ぐ相川に噛みつくようなキスをして伊藤は驚いて自動販売機に隠れた。 「そんなに騒ぐなよ。浮気かどうかっていうなら今ここで抱いて見せつけてやるけど、どうする?リクの可愛いところみんなに見せてあげよっか」 「ぅ…。ごめん。嫉妬した」 「素直なリクが好きだよ。今日もがんばろ!」 キスされたからか、急に大人しくなった相川に驚き、急いで車に向かった。 「おはようございます…わぁ!メガネ!珍しいー!レア!鼻が高いから似合うね!」 「マコちゃん俺は?俺のサングラスも見て」 「見慣れてるし!」 今日はこのうるさい兄弟を連れて雑誌の撮影だ。映画が終わって達成感に溢れた青木は、インフルエンザになる余裕ができ、恋人もできて順風満帆だ。 「でもこのサングラス初めて見た。買いすぎじゃない?」 「へへーん!正樹のでーす!」 「まーた正樹くんの勝手に使って!怒られないの?」 「部屋汚いから気付いてないと思う!俺より忙しそうだよ。よく電話しながらお辞儀してるよ」 誠にも報告したのか嬉しそうに語っている。お互いの部屋を行き来しているようだが、ほとんど青木が家事をしに通っているそうだ。 「全然来てくれないの!合鍵渡してるのにだよ?!俺が行くと、シャツにネクタイしたままソファーに撃沈してんの!ブラック企業だよきっと!」 「その疲れた正樹くんに苦労かけないでよ?」 「疲れが取れたら会えると思って手料理も掃除もしてるけど、気付かれてもいないと思う…」 青木はずっとそばにいたい、尽くすタイプと分かった。その逆で正樹は淡白なのだろう。 「はぁ…同業だといいなぁ…。仕事の話も意味わからないし、ずっと数字の話だし、たまに部下追い込んでるし…。同じならさ、話すのも同じだし」 「同業も大変だよ。大河さんが大変な時、大河さんはメンバーに甘えられないって頼って貰えなかったし…。知らないから話せることもあるかもだよ」 「そうだね!さっすがマコちゃん!」 誠の話を聞きながら、チクンと胸が痛む。同業だったから一気に拗れた自分たちを思い出し、やっぱり難しさを感じた。でも、今更手放すことはできない。レイのいない日々はあまりにも色がない世界だった。 (戻りたくないな…あの地獄みたいな日々は) 思わずため息を吐くと、後ろの2人が前のめりになって心配してきたので座ってろ、と注意した。 カシャ カシャ シャッター音が鳴り響き、スタッフからは感嘆の声が漏れる。さきほどの少年らしい2人からは別人のような大人の雰囲気。スタイルが良く、長身でなんでも着こなし、阿吽の呼吸でポージングをする。服を見て雰囲気を変えるのが特に上手いのは誠だ。クールやカジュアルの振り幅がすごい。スタイリストにもよく話を聞いたり、ポージングも引き出しが沢山ある。モデルでのスカウトが多かった誠はモデルとしてのセンスは抜群だ。 「マコちゃん本当、黙ってたらカッコイイよねぇ」 ソロカットになって見ていた青木は頬杖をついて見惚れていた。 「いつもと別人。喋ったらただの一般人になるけど、スイッチ入ったら本当尊敬しかないよ。ドラマとかはしないの?」 「オファーはあるけど、本人が希望しないのさ。セリフが覚えられないんだと。」 「あはは!マコちゃんらしいね!あれ?時計のCMは?」 「セリフないだろ?動きだけならできるみたい。マコにとっては歌って踊るのはめちゃくちゃハードル高いみたいだぞ。よく頑張ってるよ。」 「ベースしながら歌うのと、どう違うんだろう?」 「ベースはベースだけでひたすら練習すると、後は手が勝手に動くから間違えないらしい。ダンスもそうだ。身体がひたすら覚えるまでやって、頭では歌詞を追ってるみたいだよ」 「ややこし!意外にめっちゃ考えてるんだね!」 「ちょっと不器用だけどな」 2人でクスクス笑ってると、指示があってバサッとシャツを脱いだ誠にスタッフが歓声をあげた。 「え?マコちゃん?!いつの間に?むきむき!」 「本当だな…驚いた…」 リングのついたネックレスを取ろうとした姿に凄い勢いでシャッターがきられた。 「マコさん、イイね!すっごくイイよ!」 褒められた理由が分からず、きょとんとしている中でもシャッターは止まらない。 「なんか…エロい。」 「あぁ。分かる。男のエロさだよな」 スタッフに大満足そうにOKをもらい、拍手されて戻ってきた誠は疑問符を浮かべたまま私服に着替え、まだきょとんとしていた。 「なんだろ。伊藤さん、最近よくこんな感じになって終わるんだけど、何が褒められてるの?」 無自覚すぎて誠は不安になっていた。頭で考えた見せ方よりも盛り上がる撮影に、自分の感覚がおかしいのか、とも悩んでいた。 「大人っぽくなったよな。前は青年って感じで若々しかったけど、今は男性、って感じかな。それがクライアントの求めてるものだったからマッチしてるんじゃないか?」 「大人っぽいかな?よく分からないや…。」 「あと、このアクセサリーのセンスもいいよな。似合ってる。時計もブレスレットもこのリングのネックレスも。」 そう言うと、急にデレッとしてこれは大河さんから、と自慢し始めて伊藤は苦笑いした。それと同時に大河のセンスの良さを改めて感じた。 デレデレした誠を無視して青木の撮影を眺める。長身で細身の青木はスーツに着替えてきていた。 (凄いよな…同じスーツでもこうも違うのか…) タイトなパンツがより脚を長く見せる。 カシャ 「なんだよ、マコ」 「んふふ。レイさんに送ろうーっと」 「やめろよ。」 「レイさんが言ってたんだもん。俺たちの写真はたくさんあるけど、伊藤さんの写真がない、お前たちが羨ましいってさ」 ニコニコしてケータイを操作する誠に呆れるふりして内心は嬉しかった。 「伊藤さん演者になろうとは思わなかったの?」 「俺?まさかまさか。一瞬も思ったことないよ。」 「もったいなーい」 揶揄うな、と睨むとまたカメラを向けてくるから手で押さえて撮らせなかった。逆に誠のオフの顔を写真を撮って大河に送ってやった。 大河:何これ 伊藤:お前のイケメン彼氏 大河:なんで送ってくんの 伊藤:とっとけ。ご褒美だ。 返信がないのが大河らしくてクスクス笑うと、目の前の誠もクスクス笑い始めた。 「レイさん可愛い〜!」 見せられた画面には、やっと手に入った、でかした!と嬉しそうな文面にこちらまで嬉しくなった。ニヤニヤしていると、伊藤のケータイが震え、大河からの返信だ。 (ん?画像?) 開いてみると、嬉しそうに笑い、伊藤の写真を見せるレイ。 「っ!!」 思わず勢いよくケータイを置いた。 (これは…ヤバイ…可愛すぎる) 続けて大河からメッセージが届き、机に伏したままケータイを見る。 大河:おかえし。 続けてまた画像が送られてくる。 そこには嬉しそうに微笑んでケータイをいじるレイ。 大河:ツーショットでも撮ってあげたら 大河から見事に返り討ちに遭った。 「ただーいまー!」 「おかえり」 深夜に帰ってきたレイは元気いっぱいでパソコンを見ていた伊藤に抱きついた。 「レイ?」 「ん?」 カシャ 伊藤はケータイを確認すると思ったよりも良く撮れていて、おっ、と声をあげた。静かになったレイに見せるもリアクションがなく、ふと見上げると驚くほど真っ赤になったレイ。 「見てる?よく撮れた」 「っ!〜〜〜!」 「レイ?」 悶絶するレイにニヤニヤしながら感想を聞くと、小さな声で嬉しいと言った。お互いを見つめる時の顔がこれだけ愛しさに溢れているのが分かった。 「ふふ、そろそろ帰ってくるかなぁと思ってメガネ外してたのさ。大河がツーショット撮ってやれって言うから」 「大河のケータイにめっちゃツーショットあったから…羨ましくて。マコが送ってくるって言ってたけど、ちゃんと保存されてた」 「あはは!大河らしいな!これ、欲しい?」 「へ!?くれないの!?」 「どーしよっかなぁー?」 「お願いっ!今日三本も収録したんだぞ!」 「すぐ送ります」 ニシシと嬉しそうに待つレイの手首を掴んでソファーになげた。ケータイがものすごい勢いで落ちたが気にしないまま上に乗る。 「そんな楽しみにしてるところ悪いな。目の前に本物いるけど?」 「えっ…あ、うん…そうだな…ごめん怒った?」 「俺は写真のお前より、実物みたら我慢できないよ」 「え…?」 意味を解釈した後にレイが腕で顔を隠した。耳まで真っ赤にして恥じらう様子が可愛くて腕を開いてゆっくりキスをする。舌を絡めながらお互いを見つめた。茶色で色素の薄い瞳 がだんだんと潤み始める。 「ん…っ、ふ、い、伊藤さん…」 「違うだろ?」 「響…シたい…」 固くなったものを撫でられて言われれば簡単に落ちる。可愛いレイを堪能しようと目に焼き付けるように凝視しながら愛撫をするとたまらないというように小さく声がもれる。 「ひびきっ…お風呂、いかせて…」 「いやだ」 「だって今日…ダンスレッスンもあったし…」 「ダメ」 「ふふ…もう、仕方ないなぁ」 愛しそうな目で微笑まれ、唇に噛み付いて舌で体をなぞる。呼吸が荒くなるのがダサく感じるも止められない。 (ーーそれぐらい制御できないんですか?) 「っ!!」 「っ、はぁ、っ、ぁ、ひびき?」 「あ…おれ…何やってんだ…」 「響?」 「ダメなのに、タレントに手を出したら、ダメなのに」 「へ?…どうした?響?」 「レイ、疲れてるのに、ごめん。明日も早いから寝な?」 「え?…あ、ちょっと、響!?どこ行くんだよ!」 動揺するレイの声を聞きながらも、それよりももっと動揺している自分を見られたくなくて部屋に逃げる。初めて鍵をかけてドア持たれてに座り込む。 パタパタ… 「ぅっ…ぅ、…っ、ふぅ…」 (熱愛を指導する側なのに) (大地以外男同士ってやばくないですか) (そんなリスク冒してまで) 「ごめん…俺のせいで…っ、皆ごめん…」 ふと、ドアに重みが加わった。 「響…?俺は、響がいるから頑張れるんだよ」 「ぅっ、っぅ、…ふ、ぅ」 「響だけに背負わせてごめんな」 「ちが…、俺が…俺のせいで、ぅっ…、俺が我慢できれば…っ、俺が…ちゃんと、大人なら…仕事をなめてる…から、」 「そんなことない。響は頑張ってる」 「俺が…悪いんだ…っ、恋なんか…したから」 ドカン!! 「っ!!」 「いい加減にしろ!!!」 ガチャガチャ!! ドンドン!! 「開けろ!!」 「っ!」 「何があったか知らないけど、そんなこと今更だろ!?誰に言われた?!他人には関係ないことだ!首突っ込むなって笑って返せばいいだろ!俺はそんなリスクの心配よりも、俺がいないとダメなくせに、大人ぶって関係を壊そうとするバカな彼氏の方が心配だ!」 ドンドンとドアを叩く音が止んで、またドアに重みを感じる。 「恋なんか、って言わないでよ伊藤さん…」 弱々しい声に顔を上げた。 「俺の大切なもの、バカにしないでくれよ」 「2人のもの、だと思ってた。恋って。違うかもな…。きっと2人だと愛になるんだ。大河の部屋に置いてた歌詞に書いてあった。まだ俺たちは恋どまり。だからこうして不安になるんだな。」 「伊藤さん、俺は進みたいよ。俺は伊藤さんしかいらない。お願い、伊藤さん。俺、本当に伊藤さんが好きなんだ。…仕事も好きだし、伊藤さんも好き。両立させるのは難しいことじゃない。俺といることに安心していいんだから。」 嬉しい言葉ばかりなのに、レイには大人の事情なんか分かるはずないと聞く耳を持てなかった。レイは自分に依存しているだけだ、やめさせたほうがいいのでは、と負のスパイラルに陥る。 部屋に籠城して、そのまま朝を迎えた。 身体が痛くてパキパキと首を鳴らし、顔を強く叩いた。今日もメガネが必要だな、とため息を吐いてドアを開けるとそのままレイも倒れこんできた。 (ずっとここにいたのか!?暖房もつけずにこんな薄着で!) 顔を触ると冷たくて床暖房と毛布をもってきてかける。熱を出したらどうしよう、と慌てて体温を測ったり水を用意したりとバタバタ部屋を歩く。レイの出発時間まではだいぶ時間があるから枕や布団もかけ、先に仕事に行った。 レイ:今日話せる? 伊藤:仕事が終われば 今日の最後の仕事はレイのレギュラー番組に翔と青木の映画の告知で来ることになっている。あの後以来初めて会うがそこは仕事。特に気にせず他の仕事に着いた。 20時、青木を連れて局に着くと、プロデューサーが駆け寄ってきた。 「おはようございます。レイさん今日何かありました?ピリピリしてまして…この企画NGでしたか?」 「?いや、問題ない内容です。」 そうですか、とほっとして去っていった。青木も珍しいね、と首を傾げた。 収録が始まるといつも通りに見せるレイ。 そう、見せる、状態なのだ。 「響くん。レイ体調悪い?」 「いや?大丈夫だと思うけど…」 「ふーん。」 長谷川の目が厳しくなる。せっかくの広告の機会にお蔵になっては困るのだ。途中休憩が入り、長谷川がレイを呼んで話していた。 休憩後のレイは前半が嘘のように元気になり、爆笑をとったり、芸人さんから突っ込まれたりといつも以上の仕上がりだった。 「あっははは!あーもー!レイさん最高!面白すぎっ!」 「そうかー?なら良かった!あ!お二人さん先に帰ってて!俺行くとこあるから!」 収録が終わるとレイは颯爽と去っていった。伊藤と青木は首を傾げた。 長谷川:Altairの打ち上げに参加してくれました。 先に家に戻って家事をしていると長谷川からのメッセージがいくつか来ていた。 (打ち上げ?) 疑問に思っているとほろ酔いのレイが楽しそうにしている写真がたくさん送られてきた。 (あぁ…。やっぱ可愛い) 無意識に微笑んでいると、写真のジャンルが変わってきた。まずは長谷川とのツーショット、その後に透に抱きしめられている写真。 「え!?」 長谷川は透にはレイを渡したくないと言っていたのに、と焦って電話をした。 「はぁーい。」 「もしもし、愁くん、お疲れ様。今いい?」 「あー…席外したらレイ食われるかも。」 「愁くん…」 「ま、でも響くんには関係ないか。タレント同士ならOKてことでしょ?」 「…いや、そういうことじゃあ…」 「レイ、さっきまで泣いてたから。振られるかもって、でも伝えることは伝えて、それでも伊藤さんが別れを選ぶなら仕方ないって。」 「そんな…っ」 「気にすんなって言ったのに。別れるならどうぞご自由に。」 ブツっと電話が切れて、長谷川が伊藤に試していることがわかった。また迷惑をかけた、と思うがどうしてもマネージャーなのに、という気持ちが拭えない。 でも、レイと別れたくもない。 (フラフラしてるな、俺。レイより覚悟ができていない) 自分がレイに告白した時を思い出す。こんなリスクよりも気持ちが優っていたのに、今はどうしてかと悩む。変わらずレイが好き。なのに…。 (自分がコントロールできなくなってきてるのが、怖い) レイはどんなことも相手に合わせる。伊藤が仮にキスマークをつけようが、ラブホに行こうが、許してしまうだろう。伊藤がレイとツーショットを撮らないのも、レイが外に出してしまったら、という恐怖。 ケータイで昨日の画像を見る。幸せそうな2人が小さな画面の中で見つめ合う。 レイにこんな表情をさせたのは他でもない自分。そして、今日泣かせたのも、自分。 (…やっぱり、そばにいたい…) リスクがあっても、自分がコントロールできないほどはまってもなお、もう、戻れない。伊藤はやっと覚悟した。ケータイを操作し、愛しい人の連絡先を開く。 (…レイに送ってみよう) まだ送って無かったと思い、送信してみた。まだ喜んでくれるのだろうか。こんなグラついた自分との写真を。 ピリリリリ 「っ!」 ピリリリリ 着信はレイからだった。変に緊張して手が震えた。 「はい…」 「響っ!写真、っ、ありがとうっ」 「うん」 「響、帰ってきても、いいかな?俺、そばにいても、いい?」 居酒屋からでたのか、周りは静かだ。言葉につまりながら話すのに泣くのをこらえてるのが分かり、抱きしめたくてたまらない。 「レイ、迎えにいくよ。今どこ?」 「ドアの前。」 「え?」 「入っていいか、分かんなかった…。入ったらもう、終わりかもって、思って」 伊藤はケータイを投げ捨てて玄関に走ってドアを開けると、迷子の子供みたいに泣くレイを強く抱きしめた。 「ごめんっ、レイ、ごめん」 「いやだ、別れたくないよっ、響、お願い」 背中に回した手はぎゅっと服を握る。ドアを閉めて頭を撫でる。 「ごめん、別れるなんて無理だよ。こんな、俺でごめん!自分がレイにハマっていくのが、怖くて、レイを前にしたらコントロールが全然出来なくて、仲間にも、苦言を言われて、それで、俺」 「長谷川さんから、全部、聞いた。タカさんが全部喋って、岡田さんが響を泣かしたって。俺の知らないところで傷付いてたの、知らずに…気づいてあげられなかった。俺もごめん。」 どこまでも優しく、男らしいレイ。前も許してもらって、また甘えている自分が情けなかった。 「響がいないと、俺、不安になる。」 「ごめん」 「俺に仕事頑張ってほしい?」 「うん…頑張ってほしいよ。」 「なら、そばにいてよ。響が支えてくれなきゃ俺はすぐに倒れる。俺が倒れたらRING全部崩れるよ。嫌だろ?」 「嫌だ」 「今日の収録、本当にやりたくなかった。笑えなかった。でも、長谷川さんが大爆笑とったら作戦を考えてくれるって言ったから頑張った。」 「作戦?」 体を離して目を見ると、まだ潤む目で見つめてきた。 「写真」 「写真?」 「嫉妬…した?」 そのセリフに伊藤はボンっと顔が赤くなるのがわかった。まんまと長谷川の術中にハマっていたのだ。 「電話、嬉しかった。電話きたから、もう帰りなって帰された。」 「そっか」 また抱き寄せてグリグリと頭を擦り付ける。レイはふふっと嬉しそうに笑って頭を撫でてくれた。 「長谷川さんがね、昔の僕みたいって」 「誰が?」 「響。長谷川さんも今の恋人と遠回りしたって。頭でいっぱい考えて、こうじゃなきゃ、とか普通は、とかばっかり言ってたんだって。でね、今の恋人が夢破れて荒れた時期に世間体なんか関係なく、その人のそばにいてやらなきゃって思ったんだって。」 「へぇ…そうだったの。」 「あと、俺たちがお似合いだから世話焼いちゃうんだって!嬉しかったなぁ〜お似合いだってよ?」 顔を見ると蕩けるような笑顔で、全部どうでも良くなった。レイさえいれば、と唇に噛み付いた。 「んっ…は、響、不安になったらさ、すぐ、話してほしい。話して、解決するかもしれないだろ?抱え込まないでほしい。2人のことなら2人で話そう。」 ーーだから、俺を捨てないで。 肩口が温かく濡れる。伊藤が不安になれば連動して不安にさせてしまう。 「レイ…。ありがとう。捨てられてもおかしくないのはこの俺だよ。浮気もして、許してもらったのに…こんなことで、不安にもさせて…。」 「浮気は許してないよ。」 「え!?」 「ずーっと忘れないからな!あはは!」 わざと明るくしたのが分かって、ごめん、とキスをする。ベタベタに甘やかして、という要望のとおり、レイのベッドでキスをしながら脱がせ、お互い裸で抱き合い、愛を囁き、甘すぎるぐらい甘やかす。 首から舌を這わせていくと、胸にある付けたてのキスマークに止まる。 「…レイ?」 「んっ、、…なに?」 とろとろになった目がぼんやりと見つめる。何のことか分からないのか首を傾げている。 胸を指でなぞってキスマークを見せると、じっと伊藤を見つめる。 「レイ、何これ。」 「ん…うわき?」 「何で…?」 「…フラれると、思ったから」 「これ、誰に?」 「透さん」 ブチンと脳内で切れる音がした。甘やかして、とお願いされていたのに抑え切れない嫉妬の塊が怒りや悲しみ、独占欲でぐちゃぐちゃになってレイに矛先が向いた。 「痛っ!!ちょっと!響!!」 「許さない」 「ンッ!響だって、裏切ったじゃんか!」 「お前は俺のものだ」 「あぅっ!!っあああ!痛いよぉ!」 甘やかした愛撫で緩く勃ちあがったものをぎゅっと握りしめ、首筋に噛みつき、もう1つの手でキスマークに爪を立てる。レイが首を振って痛がるのを冷たい目で見下ろして、押さえ込んだままレイの上に乗り、レイの顔に怒張したものを擦り付ける。 「舐めろ。」 「へ?」 「歯を立てたらこれ、噛み切るぞ。」 「ぅあああ!っ、ぁ、わかった!わかったぁ!」 先をチロチロに舐めるのに満足して、押さえ込んだものを奥まで咥えると、途端に舐めるのをやめ、大きく喘ぐ。舌打ちして腰を落として無理やり中に突っ込むと苦しそうな声が響く。 「んぅ、っぷぁ、っんぅ、」 ピチャピチャという水音とレイのくぐもった声と伊藤の荒い息遣いしかない部屋で、雄の香りが充満する。 懸命に愛撫を頑張るレイに上から腰を振ると、苦しくなったのか脇腹を叩かれるが腰が止まらない。 「出すぞ…っ、っ、っ、くっ…っ!!」 「ゴホッゴホッ!!ゴホッ、はぁ!はぁ!」 伊藤が上から移動すると、顔を真っ赤にして必死に呼吸している。真っ赤な顔には伊藤の白濁が散らばり、ぎゅっと目を閉じている。 (こんな顔を透に見せたのか?) 自分のことを棚に上げて、脱力するレイの足を開き、激しく孔を舐め回し、舌を差し込むと目を見開いたあと、またぎゅっと目を閉じ体を逸らし、腰を引く。 (逃がさないよ、レイ) 「こっち見て」 「はぁあ!っあ!んっ!んぁっ!」 「お前を抱いてるのは誰だ?」 「響っ!ひびき!っあああ!」 「お前は誰のもんだ?」 「響だけ!響のぉ!!っああ!イきそ!出ちゃうっ!!響!」 「自分でしごいてイって。俺にかけて。」 「そんなぁっ、無理だよ!あー!っああ!」 「早く」 「やだって!恥ずかしいっ!」 「レイ、俺を満たして」 「はぁん!っん!ズルい!バカぁっ!っあ、あぁあ!ん、もっ、ちゃんと、見てろよ、」 「はぁ、はぁ、レイ、可愛い、レイ」 グチュグチュと響かせるのを後ろへの刺激をやめないまま見つめる。レイの手が目の前でスピードが上がっていくのにゾクゾクして伊藤の呼吸も比例する。 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、」 「やだっ、やっぱ、恥ずかしい、のに、っぁあ、っ、止まんないっ!」 「早く、レイ、早く」 「あぁっ!ん、ん、ん、ぁ、ぁっ」 「もうすぐ、早く、かけて、レイ」 「もぉっ、いやっ、だぁ、っ、っ、」 ビクビクビクビク 「っああああーーーッ!!!」 温かい欲が飛んで、たまらない気持ちになる。 (最高っ) 目の前のレイに、感じたことのない欲情でゾクゾクする。自分の抑えていた欲が一気に溢れ出す。 「はぁー、はぁー、っ、は、は、」 「レイ、可愛い、もう最高、可愛い、俺のレイ」 「はぁ、はぁ、?、ひびき?」 「早く、俺のものにしないと。こんな可愛い子、とられちゃう。渡さない、だれにも」 「…?おい…?響?どうした?」 「俺のなにもかも失っても、レイだけは誰にも渡さない。」 「ひび…き?」 「はぁ…可愛い。なんでこんな可愛いの。可愛いから悪い。レイが悪い。」 うわ言のように可愛いを連呼してゆっくりと中に入ると歓迎するかのように包み込まれ、自分の口から大きな声が漏れた。 (気持ちいい、気持ちいい) 「響ぃっ!!ッもぉ!!あぁああーッ!!っあああ!っあ!!」 ゆっくり動いているのに、レイはビクビクと腰を跳ねさせ、何度も絶頂を味わっている。それを凝視し、近くにあったレイのカメラで録画する。 「はぁっ、可愛い、っ、レイ、可愛い俺のレイ。こっち向いて、はぁっ、可愛い、泣かないで」 「っああ、っあああ!!響ぃ、またぁっ、イくっ!!っ、ーーっああああ!!」 「くぅっ…、はぁ、イっちゃったの?…可愛い。レイ、俺だけの可愛い子。ふふ、中も痙攣してる…、ごめんな、今日止まらない。いつもより大きくなってるから…きついかな、大丈夫?」 「やだ!もうっ、っ、もう疲れっ、たからぁ、」 「ダーメ。ほら、レイの好きなとこやってあげるから。」 「ぃやぁああああーーー!!ダメダメダメ!!!ッ!ーーッ!!イく!イくぅ!」 プシャプシャ 「可愛い…気持ちよかった?レイ、可愛い。俺のレイ、愛してる。俺だけのレイ。」 録画を停止して、意識の飛んでるレイをひたすら犯していた。 「あ!レイ!お疲れ!どうだった?効果あった?」 事務所での打ち合わせに向かっていると、喫煙所から長谷川が出てきてレイは頭を下げた。 「長谷川さん!お疲れ様です!…効果ありすぎで、見たことない伊藤さんが見れました…」 「あっはは!なぁに?顔真っ赤よ?とりあえず、別れずにすんだのかな?」 「はい!別れてはないですが…、はぁ…どうしよ、もう恥ずかしい。恥ずかしすぎて伊藤さん避けてるんです。」 「え!?そんなに!?」 「長谷川さんの言ったおとり、透さんの名前出したら豹変して…。いつもの伊藤さんはどこに?って感じで…」 「その響くんが、レイのツボだったと?」 「はい。ドストライクすぎて、ヤバイです。また嫉妬させたら見られるかな、と思うと…ゾクゾクしちゃって…。」 「へー?いつでも協力するよ?キスマークもまた付けてあげるし。あ、条件忘れないでよ?これは2人の秘密!いい?」 「はい!あ、これ見てください!」 レイのケータイにあったのは、レイの欲しがったツーショットの写真のほかに、2人でカメラ目線のツーショット。 「幸せそ!2人ともイケメンだな!」 「えへへ!ありがとうございます!あ!!他のはダメです。ちょっと!返してください!」 「…へー。ハメ撮りまでしちゃうの?ふふっ、そんな響くん想像つかないんですけど〜。レイも消さないのな。」 「これは伊藤さんがいない日に…」 言いかけて慌てて忘れてください、と叫び会議室に逃げた。 長谷川のおかげで別れるどころか伊藤の新しい一面が見ることができ、ツーショットと、そして動画まで手に入れた。 (レイ、可愛い…。愛してる。俺だけのレイ) 伊藤の余裕のないセクシーな声。可愛いと俺の、と言うセリフにレイはすぐにおかずにした。 (はぁ…どうしよう。会ったらドキドキしすぎてダメかも) 大河と伊藤のいるだろう部屋に気合を入れて入る。 「よぉ、レイお疲れー」 「お疲れさん。遅かったな」 (あ、ヤバイ、ダメだ) 「「レイ?」」 顔を隠してしゃがみこんだ。真っ赤な自覚があって恥ずかしい。大河が覗き込んできて目が合うと、大河もつられて真っ赤になった。 「なんつー顔してんのお前。伊藤さんパス」 「は?どうした?顔?」 伊藤が近づく気配を感じ慌てて立ち上がって逃げようとするも椅子に引っかかる。 「危な!!何してんのお前は…」 呆れたように支えられて、顔を覗きこまれる。 (かっこよすぎっ…死にそう…) 「レイ?」 「〜〜〜!」 「どうした?」 「伊藤さんレイに何したの〜?」 大河がニヤニヤ笑ってからかってきた。抱きしめられるように支えられたままいつも通りの会話をしているのが恥ずかしくて更に真っ赤になる。 「俺、今日何かしたか?」 「なん…でもない…ただ…」 「「ただ?」」 2人がきょとんとして続きを待つ。レイは伊藤を見つめて白状した。 「伊藤さん見るとドキドキするっ」 「「は?」」 2人は停止している。どうしよう、とまた顔を覆うと大河の大爆笑が会議室に響き、意味を理解した伊藤も顔を赤らめて大人しく椅子に座った。大河は涙が出るほど笑って、レイの頭を撫でて伊藤に言った。 「良かったな、こんなに愛されて。」 伊藤はそっぽを向いて、嬉しすぎて恥ずかしい、と呟いて大河はさらに大爆笑していた。

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