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第60話 夢

カタン コロコロと転がるペンを追うことなく、右手首を抑えて痛みに耐える。 拾ってくれた社員の顔も見られずに冷や汗をかいて、少し落ち着いた痛みに急いでカバンに常備しているサポーターを巻いた。 「リク、大丈夫か?」 「ん…めっちゃ痛い。使いすぎたかも。」 そっと愁が右手首を撫でてくれる。ペンを拾ってくれたのは愁だったようだ。右手首を痛めてから右利きだった相川リクは、左手でなにもかもし始めたが、無意識に右手を使ってしまう。少しなら何も不自由ないが、突如こうして強い痛みが走り、使えないことを認識させられる。 「ほら、左手でやって。右手に負担きてる。」 「ん、ありがとう。」 ペンを左手で持たされてお礼を言う。左手も慣れたもんだ。だが、この過信がさらなる故障をうんだ苦い経験もある。調子が悪いことにテンションを下げたまま、78の打ち合わせに行く。いつも通りうるさい奴らを無言で黙らせ、ドカッと腰掛ける。 資料を篤に配らせて、全員に渡ったところで全員がこっちを見る。 「ダンスバトル。出たい人ー?」 リクが問いかけると、座っていたルイがジャンプしてハイハイ!ハーイ!と元気よく立候補した。 「はい、ルイね。3on3だから、あと2人。楓は?」 「はい、やりたいです。」 「うん。どうせなら勝ちに行きたいからなぁ…本当はコウがいいけどいねーし。龍之介いこうか。」 「え!?いいんですか?」 「ポッピンはお前だけだろ。バランスはいいかなーって。異論ある人?いないよな?はい、決まり〜お疲れ〜」 いつも通りにサクサク終わらせる。ルイの集中力を考えるといらないことは言う必要はない。例えば、このバトルの優勝賞金とか、ロスでの世界大会とか。テンションが上がりすぎるルイと、萎縮する龍之介、楓のプレッシャーが目に見える。 資料をカバンに入れる時にまた右手を使い、顔をしかめる。 「リクさん…まだ痛むんですか?」 「…まぁな。これが放置した代償よ。自業自得〜。お前たちは俺みたいになるなよー?まずはストレッチ。ルイ、大技ばかり馬鹿みたいにやるなよ。オイシイ音の時に決めるのがアガルんだから」 「アイアイサー!!リクさんのためにも勝ちにいきまっせー!!龍ちゃんがんばろー!!アニメーション楽しみー!」 「面白い音があれば俺だって沸かせられるかな」 「龍之介は変顔して立ってればいいから」 「リクさーん!!」 ギャハハとうるさい奴らにつられて笑って、内心羨ましい気持ちを隠す。 (まだ未練あるのかよ…いい加減にしろや) 自分に毒を吐いてルイが放置している資料を眺める。 (踊りてぇな…) 「潤ちゃーん!曲流してー!」 「おいおい、馬鹿野郎ども。会議室で何するつもりだっつの。練習するならスタジオ行け。A-3なら2時間とってるから。潤、ランダムでいいから流してやれ。」 「OK〜!ルイ、楓、龍ちゃん行こう〜!あっつーとたつは?」 「「僕らは行かなーい」」 78はキャラクターがはっきり分かれている。ダンスが好きな3人と、リミックスの才能のある潤、歌専門の篤と辰徳。歌専門組はまるで4人とは異なり、静かな環境を好む。 嵐のように去っていったのを見送り、あとでスタジオに行こうと喫煙所に向かう。 この時間はだいたい誰もいないが、見慣れないピンク頭に驚く。 「あれまっ!ユウちゃーん!どうしたのー?」 「相川さん、おつかれ様です!」 「響待ち?」 「いえっ、えっと、落ち着くから…です。」 「えー?臭くない?大丈夫?」 「大丈夫です。いても、いいですか?」 タバコの匂いが落ち着くなんて変わってる…と思う。じっとタバコを見てくるので一本渡す。 「吸いたいならどうぞ〜」 「え?あ、ごめんなさい!そんなんじゃなくて…知り合いと、同じだなぁって」 「咥えて」 「え?」 慌てて咥えたのに笑って、火をつけた。 「吸って、肺にいっぱいになるみたいに」 「すぅ…っ!?ゴホッゴホッ」 「なるよねー!最初は。なのに後からこれがないとイライラすんのよ〜。もうおしゃぶりよ。」 まだ咳き込むのに笑って背中を摩る。やっと治ったところで、今度は自ら吸った。 「コラコラ、無理しないの。響に怒られちゃう」 「なんか、スースーしますね」 「でしょ?スッキリするよねー。やめらんないのよ、これが。ユウちゃんはハマっちゃダメよ〜」 そう言っておいて残り3本入った箱とライターを渡す。 「あげる」 「えっ!?」 「落ち着く人がいない時にでも使いな」 「っ!ありがとうございます」 優一の状態は周知のこと。恐らくタカがいなくて不安なんだろうと察した。せめて落ち着くように、と渡したが後に響にめちゃくちゃ怒られる原因になった。 スタジオに行くと資料の概要を読む楓とテンション高く大技を繰り広げるルイとヒットを打つ龍之介、そして好きなように曲を流す潤。 「リクさん!!リクさんリクさん!見てみて!!」 また大技の準備をするルイの頭をペシンと叩く。 「おーい。さっきなんて言った?お前ハウス苦手だから練習しろ。」 「えー!!ステップ苦手!」 「だからやれって言ってんの。バッチリ合わせるところがあるから個人が生きるんだろ?メリハリとごちゃごちゃは違うの〜」 「はぁい…リクさん教えてー?」 「前やったろー?5.6.7.8」 軽くステップを踏むと楓が凝視している。ルイは嬉しそうにもう一回とうるさいし、潤と龍之介のテンションも上がっていく。 「はぁー!!さすが、日本代表!!カッコいいーー!!」 「やらないなら帰りまーす!お疲れさーん」 「待って!うそ!もう一回!」 「ルイ!リクさんの機嫌損ねるなよ!リクさん、もう一回お願いします!」 楓まで駆けつけてスパルタのダンスレッスンを行った。 (はぁ〜!!楽しい!ストレス発散!) 着替えてデスクに戻り、スケジュールを確認すると、じんじんと痛む左脚。無視してキーボードを叩くと朝の手首の痛みが再発する。 (ボロボロだな、俺) 泣きそうになるのを耐えて靴下とスニーカーをデスクの下で脱ぎ、置いてあるスリッパに履き替える。 (やば…腫れてる…?気のせいかな) 痛すぎて腫れて見えてきた足にもイライラして勢いよく席を立ち、お疲れ様でした、と大声で言ってタクシーを呼ぶ。車で来たが運転できる気がしなかった。家に着くとシャワーを浴びてテーピングで固定するとほっと息を吐いた。 ベッドに寝転んで情けなく涙が出そうなのをこらえる。部屋にはたくさんの盾やトロフィーの数々。神童や天才と言われた自分の落ちぶれ方に大声で笑った。 「winner!!リークー!!」 初めて出たのは飛び入りのダンスバトル。中3の受験シーズンに勉強もせずダンスばかりしていた。完全アウェーの中、挑発やブーイングにさえも高揚して、いつの間にかギャラリーを味方につけていた。それからチームに誘われ、最初の流れを作ったり大技をしたりと、ダンスに明け暮れた。そこには幼馴染の愁も毎回応援にかけつけ、塾に行くと嘘をついてトーナメントに出ていた。 英語の成績は学年1位だったが、英語以外は底辺のリクは、愁に教えてもらい、なんとか進学校に合格した。それと同時にチームがロサンゼルスへの切符を手にした。高校1年で留学し、日本代表としてショーやバトルに参加する楽しい日々。軽く、バネのある身体は自分の武器だった。ロサンゼルスのダンススクールでも優等生扱いを受け、卒業したら戻っておいでと見送られた。 「おかえり、リク。会いたかった」 「ただいまぁー!超ー楽しかった!早くロサンゼルスに戻りたい〜」 空港に迎えにきた愁はニコニコと話を聞いてくれた。愁に実績というお土産をあげられたのが嬉しかった。久しぶりに安心する愁に凭れて最寄り駅まで爆睡した。 高校で生徒会の愁はとんでもなくモテて、ファンクラブができていて引いた。学力は学年1位で高2なのに生徒会長。漫画みたいな経歴にイライラしては、愁にワガママを言って迷惑をかけた。だが、愁のために、頑張ったこともある。 「愁!!やめろって!!もう意識ないから!」 「こいつは殺さないと気が済まん」 「いいって!!俺なんか何言われても平気だから!」 愁は頭も良いし、見た目は温厚にみえる。しかし、とんでもなく短気ですぐに手が出るのだ。 頭がいいから言葉で論理的に解決しそうだが、これは昔から変わらない。 「なぁ?なめてた?俺がオベンキョーしかできないようにみえる?なぁ?無視?答えろよ!!!」 「愁!意識ないってば!!もう終わり!おしまい!」 必死に抑え込んでいると、向こうから先生と告げ口した生徒が走ってきた。 「愁!行け!お前がここにいたらまずい!」 「は?別にいいし。お前がどっか行け」 「生徒会長がこんなのありえねーだろ!早くしろ!」 なんとか愁を隠し、何度も代わりに停学になった。愁の親は何度も謝りに来ていたが、うちの両親は成績さえよければ出席など気にしていなかった。勉強は愁に教えてもらってそのまま泊まってもらっていろんな話をした。愁との時間は当たり前で、何でも話せて居心地もいい。ダンサーになるという夢を愁は笑顔で応援してくれた。 「先に大学行ってるから…リクもおいでよ?」 「あはは!愁、わざと外語大に行っただろ?俺のため?」 「はぁ?外交官が目標って言ったろ?」 「愁、まってて。また愁と一緒にいれるように頑張るから。そしたらさ、一緒に住んでもいい?」 「その時次第だな」 会えなくなるのが寂しくなって、愁の腕を引いて唇を奪った。愁は目を見開いて驚いていたが、ふわっと笑って抱きしめてくれた。待ってる、と言って新幹線に乗っていった。 高3の最終進路で、国立の芸術大学と愁のいる外語大で迷っていた。愁と約束していたのもあって芸術大学を拒否するも、両親も先生にも説得され、芸術大学を受験し、合格した。 『おめでとう、すごいじゃん!倍率すごいんだろ』 「でも、俺は…本当は…愁のとこ行きたかった…ダンスは大学に行かなきゃできないことじゃないのに…」 『僕はお前を応援してるよ。夢に近付くかもしれないだろ?』 「愁…不安だよ。お前がいないなんて、考えたことない」 『どーした?弱気になって!これからダンス三昧だろ?楽しみじゃないか』 「愁に会いたい」 別々の地域に住むのも初めてで、留学とは意味が違っていた。4年。この間に距離が遠くなったら、と思うと不安だった。毎日自分から電話をかけ、あしらわれても続けていた。 思ったよりも早くすぎた4年。愁は大企業の貿易会社に勤め、海外出張なども多く忙しそうだった。時差から電話するのも気が引けてだんだん連絡が取れなくなった。 「うー!久しぶりのロス〜!楽しみだーっ!」 大学を卒業してすぐにアメリカに飛んだ。愁と距離が離れて、本格的にダンスにのめり込んだ。日本でのバックダンサーや、アメリカでのショーなど行ったり来たりして充実していた。振り付けなども任せてもらいながら様々なことを学んだ。日本ではいろんな事務所から声をかけてもらって、今の事務所にも講師として声をかけられ、何度も振り付けを行った。 そして、運命の日。 シカゴでの公演でいつものように技を決めてフリーズする時、奈落が閉まりきっていなかったのに気付くも踏み切った後だった。咄嗟に落ちる手前で支えた。 (痛ッ!!!) 変な体勢になり全体重を右手首にかけ、バランスを崩しそうな中、体幹で耐えた。力が入らずぷらぷらする手首を無視して舞台をやりきった。公演が終わってすぐに病院に行くと骨折と、筋や神経も痛めていた。フォーメーションをかえ、左手で行う日々。変に手首を庇ってタイミングも合わない。そして、あの痛みの恐怖。そして次は庇いすぎた結果左足首の靭帯を切った。怪我が続いたことで契約を切られて、日本に戻る時は葬式のような気分だった。完治しないまま酷使した右手首は使い物にならないし、左足首に体重をかけて跳ぶのも怖くなっていた。 日本に戻り病院に行くとダンスをすることは厳しいと宣告を受けた。 (俺からダンスをとったら何があんの?) 家族が涙しているのをぼんやりと眺めた。 病院での診断後、今の事務所で講師契約の更新があったが断ろうと思った。約束の時間に行くのが嫌で夜の街を飲み歩き、女と遊び、昼夜逆転の生活のまま、夜の世界に慰めてもらっていた。 前社長からのしつこい電話で事務所に行くと、事情を知ってくれていた。講師ではなく、マネージャーをやらないか、と言ってくれた。新しくヒップホップ系のアイドルを作りたいんだと相談され、役に立てれば、と契約をまいた。 ただ、ここからが地獄だった。 音楽が鳴ると動く体。そして痛みが走り、止まる。顔だけがよくて音楽を好きじゃない奴らを見てイライラする日々。 「俺らアイドルなんで、本格的にやる必要ありますー?それっぽく見せればいいですよね?厳しすぎません?」 「センセ、俺たちは女性を幸せにできればそれでいいんです。こんな激しいものじゃ表情が崩れちゃうんですよね」 センスのない奴らの言い訳に耐えられなくなっていた。この間までプロの世界にいた分、生温い環境にいる自分が、今の自分のようだった。 (身体さえ動けば、お前らよりも俺の方が表現できるのに!!!) お金が無くなって実家に帰っていたリクは、その日とんでもなく荒れた。役に立たない手首や足首を殴り、蹴り、泣きながらひたすら右手で壁を殴った。母親が泣き叫びながら止めるのも無視して、同じく泣き叫びながら痛めつけ、父親が帰ってきて力づくで止められるまで続けた。 (動かないなら無くなってしまえ!いらない!こんなのいらないんだ!!) この日がケガをしてから初めての涙だった。 次の日はさすがに立てず、左足を庇うため、松葉杖で出勤した。前社長は驚いていたが、とりあえずダンスを舐め腐った奴らをヒップホップチームから外してもらった。気分転換しておいで、と気を使ってもらい、タクシーで事務所から程遠いスケートボードやストリートバスケがある公園に行き、ぼーっとしていると音楽をかけて楽しそうに踊る青年たち。 (おっ?あいつらの動き、悪くないな…。) ゆっくりと立ち上がって近づくと、そのうちの1人がリクを見て、驚いて駆け寄ってきた。 「あの!違っていたらすみません!ストリートダンスバトルに出ていたリクさんですか?」 目をキラキラさせて言うこの青年が楓だった。周りの仲間もすげー、ホンモノだ!と騒ぐ中、こいつらならダンスを愛してくれる、と全員事務所に連れて行った。前社長に自ら打診し、楓たちにはダンスを教えてやる、と言うと喜んで入所を決めてくれた。 「えー、新しい仲間を紹介します。あの有名企業からの転職です!長谷川愁さんです。」 「はじめまして。長谷川と申します。業界未経験ですが全力でサポート業務に従事します。よろしくお願いします。」 「愁…?」 「長谷川さんには、これからデビューするグループを任せたいと思っています。後々グローバルに活動予定です。彼のスキルは十分にいかせるでしょう」 「どうぞよろしくお願いします」 大学以来、連絡を取っていなかった幼馴染が大人っぽくなり、高そうなスーツを着て目の前にいた。目が合うとニコリと笑う顔は前と変わらなくてほっとした。テーピングと松葉杖の自分を見て、一瞬悲しそうに表情を歪めたのが嫌で目を逸らした。 歓迎会の帰りに、支えてもらいながらゆっくりと夜道を歩く。久しぶりの愁に安心している自分と舞い上がる自分がいた。 「なんでここに?愁、音楽興味ないだろ。あの大企業やめてまで…」 「ほっとけないから。」 「え?」 「リクのお母さん、泣いてた。リクが壊れるって。…それにリクはいつまで待ってもこないから、迎えにきた。」 「迎え…?」 「リク。好きだ。僕と付き合ってください」 意味を頭で理解する前に近付く顔にドキドキして目を閉じた。街灯の下でゆっくりと唇を重ねる。 柔らかな感触が、あの駅でのことを思い出し頬が熱くなった。 「連絡しなくて…ごめん。リクがケガしたのも、ダンス諦めたのも、知ってた。知ってたけど僕、行って、何ができるんだろうって躊躇してた」 「…そっか…」 「あの日のキスが、ずっと忘れられなかった。でも、覚悟ができなくて、リクの電話避けてた…。」 「避けんなよ」 「ごめん…。リクのお母さんからの電話で、僕が行かなきゃって、思ったんだ。気づいたら会社辞めて、ここに来てた。久しぶりに近くでリク見てたら、もう僕、我慢できない。」 壁にそっと追い詰められて背中をつける。逆光になる愁の表情が分からなくてじっと見つめると優しく唇が触れた後、深い口づけに変わる。お互い止まらなくなり夢中でキスをする。松葉杖が大きな音を立てて2人してビクッと跳ね、顔を見合わせ笑いあった。 「リク、返事は?」 「あ?キスしたろ?」 「言葉で伝えろよ。はい、お返事は?」 「俺も、愁が好き。たぶん、ずっと好きだったと思う」 部屋まで借りて用意周到な愁の部屋に行く。まだダンボールが重なっていて、ベッドだけがある。そこに座って、返事をすると嬉しそうに笑うのが幸せで抱きついた。 (愁が、恋人。ずっと一緒にいられる) ご機嫌なのを自覚しながら、これでもかと愁に甘える。愁は右手首を撫でながら静かに話し出した。 「ケガ、治ったら抱いていい?」 「このケガ治らないよ…一生痛みがあるんだって…だからもう、踊ることはできない」 「歩けたり、持ったりはできるでしょ?そしたら。」 「あはは!オーケー!気持ちよくしろよー?」 「ッン!…なに?…っ、ん、愁、おかえり」 「はぁ、はぁ、リク、リク」 「足、腫れてるから、負担ないのに、して」 「んっ、はぁ、はぁっ」 「ふふっ…聞いてねぇし…ンンッ!ッ!」 目を覚ますと、全裸にされていて、欲情した愁が身体を舐め回していた。寝起きでぼんやりしたまま頭を撫でてやると、一瞬こちらをみてギラギラした目でニヤリと笑った。まだ反応してないものを握られ、ひゅっと息を詰める。 「昔の夢見てた?…泣きそうになったり、幸せそうだったり…はぁ…可愛いよリク」 「ン、夢…見てた…へ!?や!っあああ!いや!やめろそれっ!!」 「これ付けたらリクとぶから可愛いんだもん」 ガチャリとはめられたコックリングに外そうともがくも、愁はそれさえもゾクゾクしては恍惚の表情で見る。愁の性癖を知ったのは初めて抱き合ってすぐだった。絶倫で、泣いても叫んでも終わらないし、こうしてグッズを試しては、いいものは取っておくのだ。 泣けば泣くほど、叫べば叫ぶほど興奮してしまうから困ってしまう。 「愁!お願い!取って!取って!」 「こら、右手は使わないの。はいゴローン。うつ伏せになって。足も負担のないやつね。」 「っ!?やだぁ!これ、俺が苦手な…ヤバイやつ!お願い!正常位でいいから!」 「だーめ」 寝たままの身体の上に愁が乗って、いつの間に慣らされていたのか簡単に入る。入るだけで良いところを容赦なく抉られて、愁の体重で背を反らすことも許されない。 「っああああー!!んぅっ!!っああ!」 「はぁ…リク…最高…リク、もっと声聞かせて…なんでこんなエロいの…」 耳元で低く色気のある声が問いかけてくる。せめてもの抵抗で余裕のあるふりをする。 「はぁ!知るかぁっ!!ひぃっ…!ああぁー!!ヤダヤダ!ごめっ!あぁあああ!!」 「誰に口聞いてんの?」 「ごめ…なさいっ、っあああ!愁!そこばっかり…っんん!!!」 ちょっと強めに言っただけで、真っ赤に腫れたものの先端をキツく刺激され意識が飛びそうになる。いつのまにか追い込まれ、耐えられない絶頂に小刻みに震える。耳を激しく舐められ何も考えられない。震える身体が落ち着くとまた律動を再開され、次から次へと快感が送られる。 「愁!イきたいっ!これ、取って!取ってよぉ!」 「はっはっはっ、リク、リク、可愛い」 愁は息を荒げながら、必死のリクに益々感度があがっているようだ。パンパンと肌が鳴るほど叩きつけられ、出したくて仕方がない。 気持ちいいのに締め付けられて冷や汗が流れる。どこかいっちゃいそうで、左手でシーツを握ると上から手が重なって更に強く腰を振られ、ギシギシとベッドが揺れる。 「ああっ!!あっ!!あああ!!んっ!またぁっ!!イっ!!ーーぅんっ、ンンっ!!」 涙がパタパタと落ちる、頭には気持ちいいしか浮かばなくなり、中の愁が愛しくて離したくなくてぎゅうぎゅうと締め付け叫ぶ。 「愁!!愁!!好きぃっ!愁!好きっ!」 「ふふっ、かーわいー。やっと落ちた。ここからだね。」 「あぅんッ!愁!気持ちい!きもちいよぉ!」 「我慢気持ちいね?」 「うんっ!うんっ!はっ!ああぁんあっ!」 「そろそろご褒美あげようかな。いい子だったから」 朝日が眩しくて目を覚ます。隣にはすやすやと幸せそうに眠る恋人。昨日も激しく抱かれ、気だるい身体で寝返りを打つと、電流が走ったような痛みに不安になった。 「うっ!!痛…。おい!愁!愁!起きろ!」 「ん〜?…すぅ…すぅ…すぅ」 「愁、起きてよぉ…。しゅう、しゅう」 泣きそうな声が出るのが情けないが、これは自分のわがままだ。起きたらすぐに構って欲しい、と寝起きが悪い愁をゆさゆさと揺さぶる。 「ん…どうした?腰痛い?」 「ううん、足首痛い。見て。」 左足を見せると、目をこすりながら立ち上がった。 「まってて。」 少し踊っただけで…と苦しくなる。自然に殴ろうとした手を愁が止めてキスして、腫れた足にもそっとキスをする。 「痛いの痛いの飛んでけー」 「うはは!棒読み〜!治りそう〜!」 「はーい、固定します。動くなよ」 いつしか愁もテーピングできるようになって、こうして甘えたい時にはやってくれる。夜とは大違いの愁のギャップはリクをいつでもドキドキさせる。固定してもらってほっとすると、リクの甘えたモードが発動する。 「愁〜!大好き〜!愁ありがとう!昨日も最高に気持ちよかったぁ」 愁の胸に飛び込んでぐりぐりと顔を埋める。愁は目をゆっくりと閉じてリクの頭を撫でたあと、また寝息を立て始めた。昔から夜型で朝に弱い愁は起こすのも一苦労だ。しかし、いつもしっかりしている愁が、寝起きはぼんやりしていてリクは可愛いとニヤニヤする。朝の愁は悪戯してもほとんど起きないから、夜の仕返しは朝に行われる。昨日いじめられたコックリングを朝立ちの愁にはめ、手や口を使ってゆっくりと育てていく。 「愁〜気持ちいいなぁ?あと少しできつくなるかもだけど」 愁が眉間にシワを寄せた。だんだん口も開き、声が漏れたり、歯を食いしばったりしはじめた。リクは下着を脱ぎ、指で自分を簡単に慣らし、起きた瞬間に入れようとスタンバイする。色素の薄い瞳が見えた瞬間、一気に腰を落とした。 「くぅぅぅあああ!!っ!?っはぁーっ!」 「あっはは…おはよう…しゅう、っん、ギンギンじゃん…っ、ん、っ動くよ」 まだ覚醒していない愁からは大きな声が飛び出し、リクの興奮を煽る。自慢の腰のバネを使うと、愁の顔が真っ赤になり、どっちが受け身なのか分からない。自分の好きなところに当てるようにすると、最高に気持ちよくて腰が止まらない。朝日に照らされて、お互いの顔をみて、朝から営むのが好きだった。 「リクっ…外せっ」 「ああっ…はぁっ…ンッ…やなこった」 「リクっ、リクっ」 「イキそ…、どうしよ、愁、出る、出ちゃう」 「リク!一緒にイきたい!」 「だめっ!止まんないっ!イっーー!?」 「誰がお前だけイかせるかよ」 (やば!!) いつの間にか目が覚めていた愁に焦って逃げようとするも、左手を取られてあっという間に体制が入れ替わる。 上から見下ろす顔は欲情に濡れ、ゾクゾクする。 ズルリと愁が中から出て行き、コックリングを遠くに投げた。ゴソゴソとベッドサイドの引き出しを漁るのに目を見開いた。 「しゅ、愁!ごめん!ちょっとした悪戯で…」 「いやぁ?最高の目覚めだよ。昨日足りなかったみたい。ごめんね?」 「大丈夫っ!足りてるから!本当にごめんっ!だから、それだけは…っ!」 細い棒を取り出したのを見て、咄嗟にベッドの端へ逃げる。 「おいで、リク」 優しくも恐ろしい顔でニッコリと笑った。グッと抑えられ、暴れようとするとテーピングした足を握られ、痛みに顔をしかめる。 (それは、反則だろぉ…) あっさり捕まって、動くなよ、と言い細い棒が先端に当てられ、恐怖に目をつぶった。 ツプン 「ぃっっやぁああああーー!!あああっ!!アーーーッ!!」 刺激に見開いた目の前がぼやけて、口も開いたまま叫び続ける。下半身が別物みたいに強い刺激が脳内を渦巻く。排出しかしない敏感な場所に刺さるのが苦しくて熱くてぶっ飛びそうになる。神経をそのまま触られたみたいで涙が溢れる。 「可愛いー…もっと泣いて。お前の泣き顔やばい」 グリグリ 「きぁああうッ!!はぁっ!はぁっ!あああっ!!もぉ!やめっ!!」 「こら、ビクビクしないの。足開いて。」 「動かさないでぇっ!!っぁあああー!」 パンパンに腫れて真っ赤になる。手首や足の痛みを忘れるぐらい恐ろしい快感に襲われ、訳もわからず叫ぶ。内腿に大量のキスマークと歯型をつけ、嬉しそうに顔を覗きこむ。 「リーク、とぶなよ?つまんないから。…あ、今日何時?時間大丈夫?」 「いやぁあああああーーッ!抜いてっ!もう抜いてっ!」 「ふふっ…聞こえてないか。可愛いなぁ…。入れて、の間違いだろ?全く。」 熱いものが擦り付けられ、堪らず涙が溢れる。 (クる…あの快感が…) 「起きとけよ、リク」 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、は、愁、」 「今日は一緒にイけるかな?」 ニヤッと笑って、いきなり奥までぶっ刺されると同時に、前に刺さった棒は逆に勢いよく引き抜かれる。 「あぁああああああーーーーーーッ!!」 訳がわからないまま愁にしがみついて意識を飛ばした。 「おはようございまーす」 まだ頭が覚醒しないまま、愁の車に乗せてもらい出勤すると、伊藤がサッと目を逸らした。 「相川さん…熱ない?顔火照ってる。」 雪乃がリクのおでこに手を置き、覗きこむ。細くて薄い手が冷たくて気持ちいい。素直に目を閉じると、雪乃が慌てて手を離した。 「あ、ちょっとあるかも!体温計とってきます!」 「ありがとう」 緩慢な動きでデスクに座ると、遠くで愁が睨みつけていた。 (なんだよ?お前のせいでこっちはダルいのに) べーっ、と舌を出して威嚇し、雪乃が体温計を出してくれた。 「雪乃〜ありがとう。やっぱ気付けるオンナは違うな〜」 「そんなことないですよぉ〜」 少し甘えた声に、おや?と雪乃を見ると照れたように目を逸らした。 (あ、やば!そういうことね!) 愁は更に睨みつけて喫煙所に来いと、顎で合図され、ため息をついて説教部屋に向かった。 「優一、いつからだ?お前はタバコを吸うな!!」 「タカさんも吸ってるじゃん!なんでタカさんは良くて俺はダメなの?」 「これは身体に良くないんだ。学校で習ったろ?」 「それはタカさんもじゃん!!」 喫煙所には先客がいて口論していた。愁は怒っていたのを忘れて、ニヤニヤと興味深そうに聞いている。だんだん優一が泣きそうになり、タカが慌てる。 「タカさんの匂いで安心するんだもん…っ、ぅ、…っ、それでも、ダメなの?」 「それとこれとは…あぁもう。俺はお前が心配で」 タカは何も言えなくなったのかキスで誤魔化した。優一は気持ち良さそうに受け入れて、そっと目を開けてリクと目が合い、目だけで笑った。 (うわ!!こいつ、あざといな!) キスしたくて仕掛けたのか、それともタバコのことを有耶無耶にしたかったのか、どちらにしても優一の思うツボだった。 喫煙所に行けなくなったのでぶらぶら歩いていると、スタジオで1人、ルイが苦手なステップを練習していて嬉しくなった。ダンスへの集中力は物凄い。スタイルが昔の自分のようで期待を寄せている。ルイに足りないのは繊細さと表現力の幅。細かいのが苦手で避けがちだが、今成長のチャンスだ。そして、気になることがある。 (どこか痛めてるな、こいつ) 「愁、ちょっと入っていい?」 「うん。じゃあ僕は行くね。」 マネージャーモードに気づいたのか、同じく、社員の顔になった。 「ルイ、ストップ。おいで。」 「はぁっ、はぁ、リクさん…お疲れさまーっす!!」 犬みたいにニコニコ走ってきた。その様子を全て見て到着したところでルイを寝かす。 「リクさん?」 「なんだ、腰はってんのか?」 「あ…何でわかったの?…よく分かんないけど、なんか、違和感あって…。」 元気だったのがしゅん、と大人しくなった。本人も原因が分からないようだった。 「足に痺れは?」 「なーい。」 よかった、とほっとしてストレッチを手伝ってやり、マッサージをしていると気持ち良さそうに眠ってしまった。 「おーい!ルイー?起きろ!ここつぎの予約入ってるから!」 起きないルイにクスクス笑って、独り言を呟く。 「俺、まだ諦めきれてないけど、早くお前らが俺を越えてくれたら、やっと諦められるはずだから…。魅せてくれよ、期待してるから。」 スタジオに映る鏡の自分は穏やかな表情で安心した。ゆっくり立ち上がって、ゆったりした曲を流す。表現力が重要な大人な曲に、ロサンゼルスで出たショーを思い出して振り付けをやってみる。 (あ、意外に覚えてる) この振り付けは伸び伸びとした表現。バレエにも近いしなやかな動き。右足を軸にターンをして鏡を見るとルイがキラキラした目で鏡ごしに見ていた。 「起きたか?行こう、早く出ないと」 「わぁあああ!カッコイイ!カッコイイ!すげぇええ!!!」 「はいはい、ありがとう。行こ行こ〜」 「動画撮りたいー!!もう一回!リクさん!もう一回!!」 「今度な〜」 無理矢理引っ張って出た。ルイも元気になってほっとした。 (手がかかるなぁホント) ただ、この仕事も嫌いじゃないかも、と笑った。 今の夢はこいつらがダンスで輝くのを見ること、だったりする。

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