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第61話 革命

Altairのファンイベントが2日間に渡って行われた。グッズや企画は例年通り翔太にアイデアをもらって好評だった。グッズに関してはほかのメンバーよりも多く発注した翔が初日の午前中に完売という記録になった。 「翔さん完売となります」 スタッフの声はメンバーの耳にも入り、長谷川は舌打ちした。空気が一気に悪くなる楽屋。普段から居心地が悪いと、翔は楽屋にはいなかったのが幸いだ。 「長谷川さーん、そろそろ言わせてもらうけどさぁ、翔の仕事ばっかり頑張りすぎじゃない?」 「Altairのも入れてるし、透の個人の仕事も増えたと思うけど?」 「なんつーか…分かんないかなぁ?たしかにセンターを売るのが会社の方針だと思うけど、RINGみたいにさ、センターだけじゃなくて平等にしてほしいんだよね。RINGは大河だけが爆発的人気ってわけじゃないでしょ。そんな感じ。個々の能力も持ってるわけだし」 長めの茶髪をくるくるといじりながら、下手に出てる風にしながら不満をグチグチ言い始めた。他のメンバーからの要望もあり、まずは透に振るようにしているがまだ不満のようだ。 他のメンバーに仕事が来ても、全員口を揃えていうのだ。 (「それ、透さんに回せないですか」) 透をどうしようか、と様子を見ている長谷川は、とりあえずその場凌ぎで笑顔を作り、仕事取れるように頑張りますね、と言うと透にハグされた。大人しくしていると頭を撫でられ鳥肌が立つ。それをまた他のメンバーが羨ましそうに見てくる。 (気持ち悪いグループ) Altairと初めて顔合わせだ時から異様な空気だった。まだ翔が伸び伸びしていた時期だったから考えすぎかと思っていたが、翔が売れ始めると空気が最悪になった。原因はこのリーダー透の傲慢さ。 人当たりがよく、相手の深層心理に入り込むのが上手く、支配している。全てが思い通りに行くと思っていて、支配下にさせないと気が済まない。 (そして、勝てない敵とは絶対に戦わない) 大河を毛嫌いしているのは実力が敵わないから。翔は入所すぐだったから支配下に入れられると思ったようだがすぐに頭角を現し、不満のようだ。そしてこの透は、リクが78の候補から外したうちの1人だった。 「セナ、散歩いこ」 「うん!」 今日選ばれたのはセナ。長谷川はため息を吐いてそれを見ていた。他のメンバーは選ばれなかったことで更に落ち込んだり、イライラしている。 (透の言う通り個々の能力は高いのにな) セナは演技やトークが上手い。研究熱心で、どんなに忙しくしていてもドラマや映画を見ている。個別面談ではいつかメガホンを取りたいとも話してくれた。しかし、それを邪魔しているのは透の存在。セナは透に心底憧れ、崇拝している。神よりも上に行くことは許されないのだ。その邪魔する神は努力もしないし、プライドも高い。少しの期間ならスタッフやキャストにもいいイメージだが、長期になると確実にボロが出てしまうのが目に見え、レギュラーではなく、1クールものにしているのだ。 「あーあー!!なんでセナなんだろー。愛希もあいてたのにー!愛希の何がダメだったかな」 「愛希、順番だよ。愛希は昨日も一昨日も透さんといただろ?1番優遇されてるのにさー」 「ヒカルは先週ずーっと一緒だったじゃんか!愛希は足りないよ!晴天さんと陽介さんは大人だね!」 「大人じゃないよ…。たまに、苦しくなるよね。後悔するほどに。」 「分かる。セナにめっちゃ嫉妬してる」 Altairの構図は翔以外全員が透を取り合って、透は全員に手を出している。 (なんで最低すぎるぐらいの人が好きなんだ?わけわかんねー…) 透は長谷川さえも手に入れようと、たまに際どい攻めをしてくる。キスもされたし、抱かれる直前までいきそうになった時もある。 (殺してやろうかと思ったけど、リクからの電話で落ち着いたんだっけ) 仕事と割り切ってやるがストレスは溜まる。ガキの相手は摩訶不思議のことしか起こらない。もともと短気の長谷川はエリートしかいない職場から来た分、話しが通じない奴らと意味不明な関係に毎日がストレスだった。ステージ前にエロい顔で帰ってくる2人にも反吐が出そうだった。 (本番前に何やってんだ。セックスはストレス解消とか動物かよ) 大きな歓声を舞台袖で聞く。ライトが当たればAltairになってくれるから安心するが、このギリギリのバランスにどうしたもんかと悩む。RINGが一気に崩れて立て直しに奮闘するのを見て、明日は我が身だと強く肝に銘じる。 Altairを見て涙したり歓喜するファンを悲しませることにはできない。翔太は口酸っぱくそれを伝えていたのを思い出した。翔が圧倒的とはいえ、それぞれにファンはいる。透が変に動かなければすぐには事態は動かないだろうと推察し、メディアの方々との打ち合わせに入った。 ドンドン! ドンドン! 慌ただしくスタッフルームのドアが叩かれ、長谷川がスタッフに会釈してドアの外に出た。 「翔?どうした?」 「長谷川さん!楽屋がやばい!!セナさんと晴天さんが殴り合ってる」 私服に着替えた翔が、焦った様子で呼びに来た。思ったより早いな、とため息を吐いて楽屋に近づくと激しい怒鳴り声。 「翔、透は?」 「逃げた」 「え?」 「楽屋で、突然みんなの前でセナさんが透さんに告白して、どうして俺に悲しい決断させるの?って。透さんが楽屋出て行ったら乱闘が始まったんだ」 ガチャと開けると、晴天がセナの顔を殴りそうになり、思わず怒鳴る。 「いい加減にしろ!!!!!」 たぶん、初めて怒鳴ったと思う。温厚なイメージのある愁の怒声に全員が固まった。冷たい目で2人を睨み、長谷川は晴天とセナの足を思いっきり蹴り飛ばす。 陽介の前に2人が転がり、ビクッと跳ねた。 「お前らアイドルって忘れてね?顔狙うってバカかよ?あ?仕事したくないの?潰し合いか?あまり舐めてると全員ぶっ殺すぞコラ。」 「……っ」 「お前らのゴタゴタなんか知ったこっちゃねぇ。勝手にしやがれ。ただ、仕事に支障できるまでやるのは許さない。お前らの代わりなんかいない。その覚悟なしてやってないよな?どうなんだ?セナ、晴天答えろ」 愛希はビビって泣き、ヒカルは下を向いて震える手を握りしめる。陽介は2人を立たせ、翔は唖然として長谷川を見ていた。 立ち上がったセナは、真っ直ぐに長谷川を見た。グレーの瞳はしっかりと意志を持っていた。 「長谷川さんすみませんでした。頭冷やします。」 「おう。で、晴天は?」 晴天は俺は悪くないと言わんばかりに長谷川に訴えた。助けを求める被害者ヅラに鋭い視線を送ると、声が小さく言い訳のようになっていった。 「セナが…透を独り占めしようとしたから…全員が距離を保ってたのに、バランスを崩したのはセナです。セナに謝ってもらいたいです。」 そう言った晴天の言葉に、愛希とヒカルと陽介は深く頷いた。しかしセナはしっかりと全員を見たあと、通る声で言った。 「僕は、みんなには謝りません。みんな、目を覚ませよ!…こんなの…おかしいよ!!僕は進みたかったんだ、振られてでも。…もう、進みたかった。この苦しい気持ちから解放されたかった。長谷川さん、騒動起こしてすみません。仕事は真剣にやります。怒ってくれてありがとうございます。」 サラサラの銀髪を揺らして頭を下げる。セナはこの異様さに気づいたんだと察した。パタパタと床に落ちる涙と、震える肩に、そうとう思いつめたことが分かった。 「セナさん、泣かないで」 誰よりも先に翔が動いた。ハグしてきた翔にセナは目を見開いて驚いたあと、嬉しそうに抱きしめ返した。 「翔もごめんね。こんな先輩たちで。」 セナの言葉にカチンと来ている他のメンバーには何も言わず、それぞれの場所に腰掛けた。長谷川がスタッフのところに戻るために楽屋をでると廊下で透が聞いていた。 「透。大事な時に逃げるのがリーダーなのか?」 「っ」 目を見開いたまま固まる情けないリーダーを放置し、問いかけだけしてスタッフのところに行った。相変わらずクソな奴だと思いながら撤収した。 この日を境に、セナは翔とセットになった。 ファンたちの間では透とセナのコンビが好きな人が多かったが、翔とのコンビに翔のファンたちもセナに興味を持つようになり、注目が高まった。 ドラマや映画の話しが合うようで、2人が楽しそうに話してるのを見てホッとした。翔も優しいセナにすぐに懐き、2人で変装して映画を見に行ったときき、嬉しくもなった。ただ、透は自分の相手が1人いなくなったことでさらに翔に当たりが強くなった。 「透。今の言い方なに。翔は悪くないだろ。お前の機嫌で八つ当たりするなよ。」 「っ!!…セナ、お前変わったな」 「あぁ変わったさ。…変わりたいんだ。僕は僕らしく生きていくから」 失ったものに目がいくのか、未練たらしくセナに絡み続ける透。セナに必死になり、構ってもらえない愛希、ヒカル、晴天、陽介。この4人もセナを見て気づいた。 「おはようございます。」 あの乱闘から2ヶ月。空気が完全に変わった。透が来たらすぐに両脇を埋めていた愛希とヒカルが反応しなくなった。2人できゃっきゃと騒ぎ、ファンクラブ用の動画や画像を撮ってはアップしている。時には翔も呼んで3人で撮ったりして笑いあっている。晴天とセナと陽介はオンラインゲームに夢中になり、真剣だ。 「挨拶ぐらいできないのか?」 「「おはようございます」」 全員に無視されてる透がさすがに可哀想になって長谷川が声をかけると、返事が返ってきた。 仕事中はみんなで笑って話すが、楽屋だと完全に孤立してしまった。 個人の仕事も全員が譲ることなく受け、個人人気も上がってきた。その中で透のオファーは少ない。不思議に思った長谷川がスタッフにさりげなく聞くと、若いADには態度が違うところや、やりたくないことのNGが多いことが使いにくいと聞いた。態度が違うのを現場で出していたと聞きイライラする。こっちが神経を尖らせて調整したというのに、透は短いクールでもボロが出ていた。 「長谷川さん少しいいですか?」 「はい。どうしました?」 「今の空気おかしくないですか」 どうにかしてくれ、と言わんばかりの言い方にそろそろ喝を入れるか、と事務所会議室をとって2人で話すことにした。 「空気、と言ったな?ハッキリ言う。僕が初めて会った時からAltairの空気はおかしいと思ってる」 「え?」 「透は平等を求めていたな?でもさ、お前は平等に接していたか?」 「接していました。」 無意識だったのか、とため息を吐き、思わず笑った。 「平等に、抱いてただけだろ。」 「え?」 「翔以外全員。身体で縛って、自分だけを見るようにして。それは平等じゃない。お前の支配下だ。」 「……。」 「セナがクーデターを起こして、民衆が気付いた。それぞれが本当の平等のために歩き出した。そして王の前に誰も首を垂れない」 「…」 「クーデターの対応が悪かったな。民衆は言った、王は逃げた、王は俺たちを守ってなんかくれない。」 「…。」 「なんで翔が支持されると思う?なんで翔は1人でも輝いているんだと思う?」 「分かりません」 「あいつは真の王なんだよ。」 「真の王?」 「自分の信念とマニフェストを持ってる。自分はこうありたいという確固たるものだ。それがブレないから誰に対してもブレない。そして、感謝だ。この仕事を天職だと言っている。自分は愛されたい、だから愛を持って一生懸命仕事をして、見ている人を喜ばせたい。心動かされた人、届いた人には愛が届いてきっと相思相愛になれるから。こんな仕事をさせてもらえることがありがたいんだと。」 どんなに忙しくても握手会などのファンイベントには必ず参加して直接ありがとう、と伝える翔は神対応と言われている。人気は本人の努力もあるのだ。 「透は、誰の仕事が多い、誰が売れすぎている、ということばかり気にして、せっかくきた仕事やチャンスを適当に、それっぽくやってたろ?その態度はきちんと視聴者やスタッフに届いてる。」 「っ!」 「チーム内に独裁国家を作ったお前が悪い。そして、お前の国は堕ちた。今度はリーダーとして王を支えてやる立場だ。透の経験値や社交性は、まだ翔には足りないものだ。補ってやってくれないか。」 透は静かに泣き始めた。周りに誰もいなくなってからしか届かない言葉もある。思ったより早く気付く機会があってよかったと、泣き止むまでそばにいてやった。 「俺も人に愛されたい…依存するぐらい愛されたいんだ」 「重っ!…そうなら平等とか無理だろ」 「1人になるのが嫌なんだ」 「1人になりたくないのに、たくさんに手を出して結局1人になってるじゃないか。まずは1人をしっかり愛してみろ。1人も大事にできないくせにあっちこっち手を出すな」 「でも」 「いいか、たくさんに手を出すやつが誰かの1番にはならない」 「!」 「当たり前だろ。自分を1番に思ってくれてない人を1番にするはずはない。だから、セナはお前に見切りをつけた。あいつは2番でもいい、という考え方のタイプだが、お前が期待させた。あいつもものすごく傷付いて出した答えだ。」 「俺…っ、今になって、セナが大事で…。翔といるのを見ると頭に血が上って…」 「失ってから気付くこともあるさ。」 ぐすぐすと大きく泣き始めて、ティッシュを渡す。 「セナに、返事してなかったから、この前、セナが1番って、言ったら、フラれた。嘘つくな、1人になって寂しいからって僕を利用しないでって。もう、俺の言葉は全部届かなくて、それに、今、セナは、翔が、好きだって、翔だけには、取られたくない」 長谷川は大きくため息を吐いた。誰かに取られるというのがプライドを傷つけるから離したくない、ということに気付いていないのだ。 「それよ、それ。透。翔に取られたくないからセナが1番、っていうのが伝わってんの。もっと簡単に考えな?ずっと一緒にいたいか、いたくないか。シンプルなんだよ」 きょとんとしている透に、苦笑いして肩を叩き、セナを諦めろといった。 「セナはたぶん、翔といる方が居心地がいいし、趣味も合う。翔自身を知って、そばにいたいんだと思うよ。お前はたぶん、セナのこと何も知らないと思うよ。」 そう言うと、少し考えてそうかも、と言った。自分中心だった透はやっと他人を見てみようと思うきっかけになったようだ。 長谷川と話した翌日、送迎車から降りたメンバーと長谷川を透が呼び止めた。 全員が疑問に思って振り返ると、透は頭を下げた。 「今までっ、俺の自己中な考えで振り回してごめん!!1人になって、やっと気付いた…笑ってくれて構わない。馬鹿にしてもらってもいい。今までそばにいてくれてありがとう。セナ、長谷川さん、気付かせてくれてありがとう!こんな頼りない俺だけど、Altairで頑張っていきたい!」 駐車場に響く大声。全員がきょとんとしていた。長谷川は必死で笑うのを我慢した。 (だっせー。安い青春ドラマかよ。…ただ、こいつなりに一生懸命考えてたんだろうな) 「だっさ!!」 声を張ったのは翔だった。透に向かってスタスタ歩いていく。 「最低最悪なクソリーダー。パフォーマンスでも性格でもビジュアルでもメンバーに劣るのに、みんなの優しさに甘えてさ。…独りぼっちの気分はどう?辛かった?俺はね、ずーっとだよ透さん。」 「ごめん」 「どれだけみんながカバーしていたか、知ってる?どれだけみんなが、透さんを信じてきていたか知ってる?」 「っ!」 「セナさんが動いたから変わったんじゃない。透さんがブレたからみんな動いたんだ。嫌いだったけど、キャラは立ってて面白かったのに…何これ?ダサすぎ!こんなリーダー最悪。」 「…」 「いいじゃん嫌われ役でもプライド高くても!誰にでも手を出す弱いやつでも!みんな選んで自分から2番目3番目になってたんだから。透さんは透さんだろ!今更誠実キャラなんて似合わない。」 「翔…」 「嫉妬とか、謝ってる暇あったら、ファンを1人でも多く幸せにしてやってよ。透さんの僕(しもべ)を量産して新たな国家でも作ればいいじゃん」 顔の距離が近くなって、翔が両手で透の頬をペチペチと叩いてニヤリと笑った。 以上!といってクルリと踵を返して、固まるメンバーを他所にセナと長谷川のところに行くと、行こっと元気に行った。 「あっはは!さすがセンター!と、いうかエース?」 セナが笑うと空気が和み、透に叫んだ。 「誠実キャラは僕が先にやってるんで真似しないでくださーい!」 さらにメンバーが笑い、透もつられて笑った。1番後ろを歩くのも、となりに誰もいないのも初めての透は新鮮そうだった。長谷川は透を待って言った。 「党首には2パターンある。先頭を切って引っ張るタイプと後ろから全体を見て指示をするタイプ。透は後者でいい。エースの動きを見て、チームを誘導するんだ。」 「はい」 この日は透がメンバーから散々いじられ、慌てたり、怒ったりするのが話題になって、可愛いと評判になった。スタッフからも爆笑をいただき、長谷川は大満足だった。 「ただいま」 「おかえ…うぇっ!!愁!なんだよ!」 「ん〜!リクぅー!リクぅー!」 コーヒーを淹れようとしていたリクに抱きつくと怒られるも離れがたい。ポットを置いてよしよしと撫でてくれる。甘えたい時は甘やかしてくれるのが嬉しい。 「どしたのー?」 「クソガキどもがやっといい感じになった」 「あっはは!大変だったなぁー!透は俺、匙投げちゃった奴だから…さすが愁〜!」 「褒めて褒めて」 「愁〜!すげーよー!さすがー!愁がガキの相手なんて…っふふ!高校の時ボコられた奴らは想像もつかないだろうな」 「殴りたいけどめっちゃおさえてるよ…。んー…リクー疲れたー」 リクの首筋や顔にたくさんキスをすると、くすぐったそうに笑うのが可愛くてそのままキッチンで押し倒す。 「テンションあがりすぎだろーが。なぁ〜、俺キッチンイヤー。お前変なもん突っ込むもん」 「今日はしないから!」 「前も言ってたけど結局…なんだっけ?なんか入れてただろ?」 「え?いつのこと?蜂蜜?オリーブオイル?氷?」 「え!?そんなにあったっけ??…なぁ、俺普通に抱かれたことあったっけ??」 「ふつう?」 「あ、えーっと。なんも道具とかグッズ使わないでってこと。」 そう言われて少し考えてみると、思い出せない。 「愁だけ感じてみたいな」 思わぬ誘いに寝室に連れ込んだ。 「っあああ!!やばぁっ!!きもちっ!愁っ!!どうしよぉ!!きもちいい!!」 頭を振ってリクが乱れる。何も使わずに自分の身体だけで悦んでもらい、恍惚な表情で気持ちいいと何度も叫ばれ嬉しくないはずはない。いつもは苦しそうな顔や泣き顔、怯えた顔、絶頂の顔しかないが、ここまで気持ち良さそうなのは初めてかもしれない。自分の趣味に付き合わせていたが、こうしてリクが満足するのもたまにはいいかと、愁は冷静にリクの好きなところを攻める。 「んぅーーッ!はぁっ!はぁあ!!やっばぃ…気持ちぃ…愁、愁、好きいっ、好きっ!!はぁっ!ぁあああん!!っ、や、そこぉ!」 ゆっくり攻めてやると、好き、好きと叫んでくれる。いつも余裕がないリクも少しゆとりがあってふわりと笑ってくれる。 「しゅう…はぁ、ぁ、っ、すきぃ、ありがとう、しゅう、すきぃ、ぁ、かっこいい…どうしよっ、きもちぃよぉっ」 「っ!?」 ゾクゾク (え、嘘だろ) 急にイきそうになって、歯をくいしばるも耐えられそうにない。舌足らずで少し微笑んで言う顔が可愛くて背中に快感が走る。まだうわ言のように好きと言い続けるリクに堪らず、腰を強く掴んでガンガンに攻めた。 「ぅああ!?ッしゅう、きゅうにッ!」 「リクッ!愛してるッ!好きだッ!」 汗が飛び散るほど頭を振って、背を反らして良がる姿がたまらず、奥の狭いところを腰を使って抉る。 「ッあぁああああああーーーー!?っあ!やばぁ!クるっ!!やだぁ!ーーッ!っああああああああー!!!」 「っっ!はぁっ!!!」 ぎゅうぎゅうと絞り込まれると、リクの中にドクドクと吐き出す。2人して息を切らして呼吸を整える。しばらくして落ち着くと、終わった後に意識のあるリクにドキドキが止まらない。気怠さがエロく、火照った顔に濡れたまつげ。唇は真っ赤に濡れ、目を離せないでいると潤んだ目がふわっと笑った。 「しゅう、だいすき」 長谷川は目を見開いて強く抱きしめた。好きが溢れて触れるところすべてにキスをする。クスクス笑うリクが可愛くて堪らない。 「リク…最高に気持ちいい」 「ふふっ!俺もぉ!いつも起きたら朝だから…こんなのもたまにはいいだろー?」 「うん!可愛いよーリクー!可愛いー」 2人でゆっくり風呂に浸かるのも、髪を乾かし会うのも初めてで照れながら過ごした。腕枕をしてやると嬉しそうに笑うから愁が恥ずかしくなり、顔を赤くすると、ニヤニヤしながらからかわれた。しばらく遊んでいたが、朝型のリクはうとうとし始めた。グリグリと両手で目を擦るしぐさや、子どもみたいな表情に愛しさが止まらない。髪を撫でていると気持ち良さそうに目を閉じた。 「リク…寝る?」 「ん、ごめ…眠…ぃ」 「おやすみ」 眠りにつく瞬間までキスして、リクの寝息が聞こえた。愁もリクの寝息を聞いているといつもよりだいぶ早い時間に眠りに落ちた。 ピリリリリ…ピリリリリ 「んー…しゅう…でんわ」 「ン…ありがとう。リク寝てて。…誰だ…?」 深夜1時。普段は起きているが寝てしまっていた。電話に出るとセナからだった。 「セナ?…どうした、泣いてるのか?」 「長谷川さん…、僕にっ…英語を教えてください」 「は?外国人と喧嘩でもしたか?」 「違います…僕、武器がないから…。」 「ぶき?」 「翔と堂々と並べるように、したいんです。今の僕じゃ、翔の隣にはいられないから」 「えー?別にいればいいじゃん。なんで英語なのよ」 「告白したら…ふられました。透さんの代わりでしょ、って。誰かに依存する前に、仕事に繋がること何かしたら?って言われて…。翔にも本気だって見せたいし、翔に愛されたい。メンバーには英語できる人いないし、仕事としての需要もありそうだから…」 (思わず告白しちゃったんだろうな…全く。仕方ないか、確かに仕事に繋がるかもだし) 「わかった。容赦しないよ?途中で投げ出したら許さないから」 「よろしくお願いします!遅くに申し訳ないです!」 「いいえ。…今セナに送ったメッセージ見れる?アプリ。ダウンロードして。とりあえずレッスン1の単語今日で全部覚えてきて。」 「え、あ、はい!」 「はぁい。じゃあ明日〜」 電話を切ってリクの顔を眺める。すやすやと気持ち良さそうに安心し切った寝顔。この顔を見るたびに、あの時仕事を辞めてでも動いて良かった、と思う。あの駅でのキスがずっと忘れられなかった。外語大に行ったのはリクのため以外なんでもなかった。英語と音楽以外は平均ぐらいのリクが行くとしたら外語大か芸大。芸大には自分は行けるものがない分、外語大に可能性をかけたのだった。 (本当は完全なる理系だけどな、俺) 英語以外は全科目1位だった愁。そして1度だけ2位になった英語。その1位はリクだったのだ。小さな頃から洋楽ばっかり聞いて、曲が流れるからと外国語のラジオを聞いていたリク。発音もネイティブに近いと褒められていた。結局、外語大に来ることはなかったが、ためにはなったと思う。 (仕方ない。クソガキのために一肌脱ぎますか) すぐにカリキュラムも作成してセナに送るとありがとうございます!とやる気満々な返信にニコリと笑った。

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