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第63話 大恋愛
セナが去っていったドアをぼんやり見つめる。グループの構図が崩れ、再構築の途中。崩壊のきっかけになったセナは、透から翔へと見事な乗り換えを見せた。翔は趣味も合い、正直一緒にいて楽だった。
(けど、代理感があるんだよなぁ)
思わず、と言うような告白にイラつき、厳しいことをたくさん言った。男のくせに泣きながら翔の部屋を出ていったセナ。こんな女々しいから透にいいように使われるんだ、と内心悪態をついた。
青木を諦めて完全に仕事モードに切り替えた翔は、実力が伴っていないのにこんな事している暇があるのかと、神経を疑っていた。自分の過去を棚にあげてメンバーと自分は違う、と線を引いていた。
(今は仕事に集中したい)
恋をしたいと思えば弱くなる気がした。RINGのゴタゴタに巻き込まれた時、自分に足りないものを見せつけられているようだった。アイドルとしては自分が上の自覚がある。足りないものは人間らしく、泣いたり、怒ったり、笑ったり、悩んだり、愛したり、愛されたり、嫉妬したり…。あげればきりがなかった。うわべだけの、画面越しのものや演技なら誰にも負けないのに。だから、このうわべに誰もが騙されている。ファン以外で寄ってくる人はみんな騙されているのだ。
(俺の気持ちに気付いたのは、マコだけだった)
初めて見た、好きだった人の恐ろしい場面。震えが止まらないほど怖かった。そんな中でも翔の気持ちを察し、慰めてくれた。
(片想いでも幸せだっただろうな。でも、俺はガキだから片想いに苦しくて耐えられなかった…な。)
RINGが羨ましかった。それぞれが本気で、全力で恋をして想い合うこと。一番翔が憧れているものだった。辛い時にそばにいてくれて、味方になる誰ががいるという安心感。
(いいもん。俺にはファンがいる)
ファンの存在だけが生きる希望で、握手会では直接感謝を伝えられる大事な機会だ。そんな素敵な時間に浸りたいのに告白してくるな、と思い出してイライラした。
(ユウ、今電話できるかな?)
愚痴を聞いてもらいたくて優一に連絡すると、周りがざわざわしたところで電話に出てくれた。
『翔くん!お疲れさま!どうしたの?』
「ユウと話したかったの。今お仕事?」
『今ね、舞台のお稽古終わったとこー!あ、ジンさん!今行きます!』
テンションの高い優一に安心する。初めての舞台に緊張すると話してくれていたのだ。ちょっと待ってて、と言うと切ったと思ったら違う声が聞こえた。
『もしもしタカ?今終わったよ』
低く柔らかな声がして、翔は思わず吹き出した。
「あはは!ジンさん!お疲れさまです!Altairの翔です!」
『え!?翔くん!?あ、ごめんね、今優一くん片付けに行っちゃって…タカかと思っちゃった』
「大丈夫ですよ、大した用事じゃないので」
『そう?じゃあ僕と話そうか。優一くんが来るまでの繋ぎで』
「そんな!先輩が繋ぎだなんて…でも、ありがとうございます!舞台の調子はどうですか?」
付き合ってくれるジンの優しさが嬉しくてテンションがあがる。ジンはうーん、と言ったあと舞台は難しいよ〜と笑いながら言った。
『歌プラス演技だから、戸惑うよ。舞台久しぶりだからまだ感覚がね…。翔くんは?今日もドラマ?』
「今日はファンイベントでした!本当元気がでます!」
『わ!ファンサの神だ!さすが!…翔くん、よく頑張ったね、お疲れさま』
優しい声音に本当に疲れていたのか、うるっとしてしまう。セナの告白に、思ったよりも動揺していたようだ。
『…翔くん?』
「ありがとうっ、…ございますっ」
『え?!翔くん?大丈夫?』
「ぅぅっ、ぅ、っ、」
先輩を困らせているが嗚咽が止まらなかった。安心感に感情が抑えられずひたすら鼻をすする。
『翔くん今1人なの?』
「ぅっ、っぅ、はいっ、っ」
『よし、飲みに行こう!今どこ?』
「家、っです」
『優一くんに住所送って。せっかくだから優一くんも一緒に。あ、もしかしたらタカもいるかもだけど…』
「タカさんは、いいです…。ユウもいいです。」
タカが来るなら優一は今度でいいと言うと、わかった、なら2人で飲もうと言ってくれた。電話を切って、優一に住所を送る。このぐちゃぐちゃな気持ちを誰かに吐き出して整理したい。
(ジンさん優しいなぁ…ありがたい)
全然絡みもない後輩のために、舞台の稽古で忙しい中時間を作ってくれるのが嬉しかった。セナのことで頭がいっぱいな自分が嫌でスケジュールを見て仕事のことを考えた。
ピリリリリ
知らない番号からの着信に、慌てて電話に出ると、あの柔らかな低い声が到着を知らせてくれて急いで部屋を出た。
「ジンさん、ありがとうございます!」
「んもー、びっくりしたよ。ほら乗って?優一くんはタカの家に降ろしてきた。海鮮平気?」
「わ!大好きです!イクラ食べたい!」
「あはは、よーし、出発!」
すでに予約されていた個室。翔くんはスターだから、と店のすぐ前で先に降ろされ、気を遣ってもらった。高そうな店に緊張しながら先に入って待つ。
「おまたせ!良かった、翔くん降ろしたら土砂降りでさ。はは!ずぶ濡れになっちゃった。」
濡れた髪がクルクルになっているのを必死で直すのが可愛いくて爆笑していると、安心したように笑ってくれた。
「好きなもの食べて。イクラだっけ?」
メニューを渡してもらい、お酒もどうぞと言ってくれた。
「ジンさんは飲まないんですか?」
「今度飲むよ。今日は車をあるから。他の人に運転させたくないんだよね。」
この間代行にぶつけられたから、と怒るのも意外だった。温かい雰囲気が嬉しくて翔はすぐにお酒に酔ってジンに愚痴っていた。
「ありえます?!グループ内でこんな…マジやってらんねーっすよ…透の国家崩壊ばんざーい!もうあいつやだー!透から俺に乗り換えよーとしたセナさんも…っ、っ、やだ」
セナのことを思い出すとボロボロ涙が溢れたのを、ジンはよしよしと頭を撫でてくれる。
「セナさんのばかぁー!おれ、セナさん、いごこちいいのに、おれはかわりだったんだー!いつもおれはむくわれないー!」
「翔くん、もうお酒終わり」
お酒を取り上げられて、お水に変えられる。チビチビと飲むとジンがゆっくり話し始めた。
「翔くんはまっすぐな人だね。セナくんは翔くんのこと、変わりじゃなかった、と思う。やっと透くんに見切りをつけての第一歩だから。翔くんのそばにいたいって思ってるとおもうよ」
「だって!でもっ!」
「翔くんはね、魅力的な人だからセナくんも惚れたんだろうね。人に好かれること、これは才能だよ〜ファンも多いし、すごいよ!」
「おれはほんきで、あいされたいんです」
「セナくんが愛してくれるよ」
「信じられないもん!透の代わりだもん!」
「好きだって伝えてくれているうちに、向き合った方がいいよ」
声のトーンが変わったジンに、え?と顔を見つめる。いつもの柔らかな笑みは消えていた。 頬杖をついて見つめる目は光がないように見え、奥二重の線がくっきりと見えた。
「いつまでもセナくんが翔くんだけを見るか分からない。見てくれているうちにしっかり考えて。気付いた時には気持ちが離れていることも、あるかもよ。現に振ったんだもんね?次に行っちゃうかもよ」
「ジン…さん?ン、っ、んぅ…んっ」
「…こうして、透くんや誰ががセナくんに手を出すかもしれないよ?いいの?」
「へ…?ジンさん…?今…キス…」
唇の柔らかな感触を指でなぞる。バチッと目が合うとゾクッと腰にくるような視線と熱くなる身体。
(あ、ジンさんに触りたい)
酔っている、と自分に言い訳して、欲情するのを自覚した。見つめたまま動かないジンにすり寄ってゆっくりと胸に収まる。
「ジンさん…シたい。抱いてください」
「まっすぐな子って褒めたばかりなのに」
「キス気持ちよかった…キスだけじゃ我慢できない。ジンさんに抱かれたい。ジンさんの身体見たい、ジンさんに触りたい」
「こんなんじゃ心配だなぁ。飲みすぎだよ」
「ジンさん、俺を慰めてよ」
ここまで言うとだいたいすぐ落ちるのに、なかなか落ちてくれないジンが焦れったい。セナのことは頭の片隅にも浮かばなくなり、目の前のジンに欲情して興奮する自分が抑えられない。
(ジンさんが惑わせたんだ…知らなかった、こんな…色気、魅力。なんで今まで気づかなかったの)
ピリリリリ…ピリリリリ
ジンのケータイが鳴るが、ジンはケータイを見たまま出ようとしない。それに翔は心がちくんと痛んだ。
「ジンさん、彼女?」
「…彼女ではないよ」
「じゃあ、彼氏?」
「まだ彼氏じゃないよ」
「じゃあいいじゃん…ね、まだフリーなら浮気じゃないでしょ?…ジンさん、今夜はおれを見て。もう我慢できない、ジンさん俺を抱いて」
ジンの首筋にキスを送り、ピチャピチャと舐める。まだ鳴り続けるケータイにジンが手を伸ばした。
(あ…ダメだった…)
「もしもし、ん?…今日は帰らない。……何でもいいでしょ、別に。僕のことなんか気にしないでいいから。」
電話を切った瞬間、グッとアゴを掴まれ今まで感じたことないほどの気持ちいいキスにジンの服をぎゅっと握る。
「僕が欲しいの?」
「はい」
今夜だけだよ、と笑う顔が妖艶で顔が真っ赤になり、完全に腰から力が抜けた。
「エロい顔して…。困った子だね」
待てなくてジンのスキニーパンツ越しに顔を近づけると、待ての出来ない子は抱かないと冷たく言われ、荒くなる呼吸と立ち上がったものを隠しなんとかお店を出た。
「ジンさん、俺の家で!早く」
車に乗り込むとジンが逃げないようにジンの左手をずっと握る。
(カッコイイ、カッコイイ。早く抱いてもらいたい)
翔から誘うことはよくあるが、ここまで待てないほど欲しいと思った人は初めてだった。玄関でキスを仕掛けて必死に舌を追いかけた。
(気持ちいい、気持ちいい)
「翔くん、約束だよ?今夜だけ。僕にはまらないって誓える?」
「うんっ!誓うからぁっ!」
「…みんな最初はそう言うんだけどね…」
苦笑いしたジンの手を引いて、寝室に連れ込んだ。さっきまでセナと映画を見ていた部屋で、ちがう男を連れ込んで営むのも背徳感があって興奮材料になった。その翔とは違い、冷静なジンは翔の髪をかきあげて言った。
「翔くんは愛される人だよ。だから、簡単に人を誘っちゃだめだよ」
「ジンさん!早く!」
「あらら…。何でこんなになっちゃったのかな…」
また鳴り響くジンのケータイ。
今度はすぐに取ろうと伸ばしたジンの手のひらに指を絡めてベッドに沈めた。
「翔くん、僕、電話が…」
「ダメ。今は俺だけ見て。ジンさんの好きな人よりも、今は俺がそばにいるんだから。慰めてよ、可愛い後輩が弱ってるんだよ?」
ジンがほしくて必死で繫ぎ止める。ピタリと止まった音が合図のように、ジンは本当にハマらないでよね、と言ったあと噛みつくようなキスをした。熱い舌が口内を動き回ってそれだけでも出してしまいそうなほど気持ちがいい。
「あぁあっ!!んぅーー!!!」
「なーんでこんなに濡らしてるのかな?エッチな子」
「だってぇ!ジンさんがぁ!」
「僕のせいなの?ごめんごめん。ほら脱がせるよ、腰上げて。…わぁ、ビショビショだよ、見て?」
トロリと糸を引くのを見せられて顔が真っ赤になる。可愛いと笑われるだけでたまらない。
(どうしよう…なんでこんなに興奮してるの)
「入れるよ、力抜いて。…そう、上手だよ。すぐ2本できそうだね。」
「あぁあ!!ん、ジン、さんっ、ジンさん、脱いで、よぉっ、見たい、ジンさん、の、身体、見たいッ!」
「えー?…物好きだね…ちょっと待ってて」
指を抜かれて、ゆっくりとシャツを脱いでいくのがエロくて思わず自分でしごいた。
「アッ!アァッ!ジン…さんっ!!!」
ジンが上半身を露出させて背中越しに振り向いただけで欲が爆発した。荒い呼吸を整えても目が離せない。
(嘘だ!こんな、スタイルいいなんて…)
釘付けになるほどのスタイルを柔らかそうな顔で隠していたのか、ギャップにとことんハマりそうになる。
「出しちゃった?ごめんね、遅かったね。ふふっ…そんなに見たら穴が空いちゃうよ?」
「カッコイイ…」
「そんなわけないでしょ。どうしちゃったの。ほら、全部脱いだよ、満足?」
あくまで翔が気持ちよくなれば最後までするつもりはないようだ。大人の余裕が嫌で緩く立ち上がったものにしゃぶりつく。今まで関係を持った人の中でも大きなそれはすぐに口内で苦しくなる。
(こんな…大きいの…入ったらどうなっちゃうんだろう…)
そう思うとドキドキしてぎゅっと喉を閉めるとセクシーな声が漏れた。思わず顔を上げると、色気たっぷりの表情で見つめていて、頬を指で撫でられる。
「翔、最高」
低い掠れた声で、呼び捨てにされて褒められ、もう限界だった。ジンを押し倒して、大きく育ったものを手で支えて、上に乗った。
(あ…デカイ、入らないかも)
「コラコラ、焦らないの。ゆっくり吐いて…そう、吸って」
催眠術みたいに言われた通りに呼吸をすると少しずつ広がって中に入っていく。 腰を支える腕は筋肉の筋が入っていてカッコイイ。
(だめ…惚れちゃいそう)
「はぁ…気持ちいいよ、翔。上手。」
褒められると嬉しくなって、頑張ろう、とまた腰をゆっくり落とす。時間をかけて中に収めるとぎゅっと待機した。
「動けないでしょ」
「ん…、できないよぉ…ジンさんっ」
「やってあげる。」
ズルッと抜かれ、それだけでも身体が跳ねる。優しく仰向けに寝かされ、腰に布団を入れられる。見上げたジンの顔に大人の色気を感じて顔が赤くなるのが分かった。前髪を掻き上げられて唇にチュッとキスをされる。
「意識とんじゃうかも、いい?」
「ん、もう、早く、早くジンさんが欲しい」
「せっかちだね…でも」
嫌いじゃないよ、と耳元で囁かれ、ズズッと入ってくるのに爪を立てて叫んだ。
「ああああー!!!やばぁあ!!気持ちいっ!!」
「ん、イイ声だね」
「あああっ!!あ、あああああーー!!」
瞬時に追い込まれてわけがわからない。快感に支配されひたすら叫ぶ。腰が跳ね、足が空を蹴る。
(こんな気持ちいいの初めて)
大きく、質量のある熱が常にイイところを刺激し、出さないで何度も絶頂を迎える。相性がいいのか、ジンが上手すぎるのかわからず、ジンの腰の動きに翻弄され、あまりの気持ち良さにジンが出した後も、もう一回、もう一回とねだり、最終的にジンに本気を出され意識が飛んだ。
「おはよう。…翔、お前昨日誰かとヤったろ?」
「…ん?…なぁに?」
「はぁー…気合い入れろ!仕事だぞ。」
長谷川に怒られるも、忘れられない快感に脳がまだ余韻に浸っている。青木と寝たときや他の誰よりも気持ちよすぎた。
(はまっちゃダメなのに)
ぼーっと窓の外を見ていると睡魔に襲われ、車のシートで爆睡して仕事に備えた。
「なんか、今日の翔エロい」
「ははっ、そう?欲求不満かな?あはは!」
セナに覗きこまれ、焦って笑いでごまかした。怪訝そうなセナには申し訳ないが頭はジンのことでいっぱいだった。 メンバーとの仕事を終えて、ダンスの練習に向かった。皆に挨拶して、いつも通りカナタとレイの間に座ると、レイがなんだか今日セクシーだね、と笑っていた。そうかな、と笑っていると、カナタは目を見開いて固まっていた。
「カナタさん…?」
「へっ!?あ、はは!本当だな!」
その後、カナタにルイがダイブし押し倒されたみたいな格好になり皆が笑う中、カナタだけが顔面蒼白のままだった。
「カナタさん、元気ない…」
あまり構ってもらえなかったルイはしょんぼりして、とぼとぼと楓のところに行った。楓はオーディションで落ちた子たちのプロデュースで真剣に振り付けしていた。
「翔、終わったらちょっといい?」
練習が終わると、元気のないカナタから誘われ、はい!と元気よく返事をした。事務所の会議室に入ると、カナタはゆっくりと言葉をかけた。
「ごめん、変なこと聞くかも、だけど…。昨日、ジンさんといた?」
「え!?…あ、……はい。悩んでて、飲みに行ってくれて、話聞いてもらいました。」
「そっか。その飲み会ってさ何時までだったの?」
「え…?どうしてそんなこと?」
「あ、その!合流…したくて、連絡したんだけど、取らなかった、から…。その後、どっか流れたのかなぁって」
翔は心臓がバクバクうるさくて、どうしよう、どうしようと焦った。今のカナタを見たら分かる、ジンの友達以上恋人未満の相手はカナタだった。悲しそうなカナタは、あからさまに動揺する翔を落ち着かせるようにして、何でもないように笑った。
「ご、ごめんね!変なこと聞いて!」
慌てて立ち去ろうとするカナタの腕を引いて、申し訳ない気持ちで吐きそうだった。
「すみません…」
「…ははは、なにに、謝ってるの…、次は誘ってくれたら嬉しいなぁ〜」
「カナタさん、すみません」
そう言った瞬間、カナタの目がブワッと涙に溢れた。パタパタと落ちる涙に、やってしまった、と心が刺されたような痛みだった。
「カナタさん、すみません。本当にすみません」
「だから、何に、謝ってるの。…謝ること、したの」
「知らなくて、俺、すみません。本当に知らなかったんです。俺が…弱ってて、悩みがあって…、それで、ジンさんに気を使ってもらって…その、…っ」
「やめてよ!!!…翔は悪くないじゃん。謝ってほしくない!謝らないで…翔は何も悪くないんだから」
「……」
涙を拭くと、ニカっと笑い、ごめんね、お疲れさま、と言って去っていった。
(カナタさん…っ、ごめんなさい…)
きっと、2人の間に何かがあって、タイミングが重なってしまったのだと思った。今日は帰らないと言ったジン。あの時は自分を優先してもらえたことに浮かれていたが、その電話の向こう側がカナタだったとは。深夜にかかってきた2度目の電話をとらせなかったのは他でもない自分。翔は頭を抱えて項垂れた。
あれから深く反省してジンのことは考えないようにした。ジンの言った、見てくれるうちに考えるべきだ、という助言を受け止め、セナのことだけを考えた。そうすると見えてくる、セナの良い所。何やら勉強を始めたようで必死に取り組み、映画やドラマも欠かさずしっかり見ているのだ。翔が料理できる人がいい、とテレビで言うと、料理教室にも通い始め、翔の理想に近づくように徹底していた。
(俺のために、努力してくれてる)
嬉しくないはずはなかった。やっぱり居心地はいいし、ドキドキよりも安心感があった。
あの日から数日経って、前と変わらず翔の部屋で映画を見ていた。隣に座るセナを見ると綺麗な涙をながしていた。
(わ…。綺麗)
思わずその涙に手を伸ばすと、ビクッと跳ねて潤んだ目が翔を捉えた。
(え?セナさん可愛い…)
透もこの顔にやられたのか、とかこの顔で誘っていたのか、と思うと可愛い顔が腹立たしく見えて目を逸らした。映画の内容なんか全く入ってこなくて画面をぼんやり見ていた。
(なんかもう…面倒だな…)
ジンとカナタを巻き込んでしまったことが、いつまでたっても気がかりで心が痛かった。自分の弱さが、あの優しいで有名な先輩たちの関係を崩すきっかけになってないか、と不安になった。
「翔、どうしたの?この映画あんまり好きじゃなかった?」
「え?…ううん。良かったと思う…。」
「どこが?」
「へ?」
「どこが良かった?」
グレーの瞳がじっと見つめてくる。目を逸らせなくて、近付いてくるのもそのまま見ていた。
「もう!興味ないならちゃんと言ってよ!僕だけ楽しんでも意味ないの!」
「…あ、ごめん…」
(今、キスされると、思った)
セナは何でもないように話し、パチンと翔にデコピンした。おでこを抑えるとケラケラ楽しそうに笑うセナにつられて翔もおかしくなって笑った。やっぱり居心地がいいセナと夜遅くまで話していた。
ヴーヴー ヴーヴー
「こんな夜遅くに電話?」
翔のケータイが震え、セナが持ってきてくれた。知らない番号に、ハッとする。
(もしかしてジンさん…?)
緊張が走って取らずに見つめていると、セナが怪訝そうに顔を見てきて焦り、思わず電話に出た。
「…はい」
『翔くん、お疲れさん。今大丈夫?』
「今、ちょっ…と、その…」
『そう。分かった。夜遅くにごめんね』
すぐに電話が切れるのに動揺する。セナは誰なの?と聞いてくるのを間違い電話かも、と誤魔化しておいた。
(何で、誤魔化してるの俺)
ふうん、と疑問符を浮かべたままのセナを話を変えてしばらく過ごし、帰ると言ったのを玄関で見送って、急いで折り返した。
『はい』
「ジンさん!どうしました?先ほどの電話」
『ご飯とかどうかなって。でももう食べちゃったからいいよ〜ありがとう』
「あ…そうなんですね…。もう家ですか?」
『ううん。運転中〜』
「家、来れませんか?」
『え?なんで?』
黙るとウインカーの音や車の音が聞こえる。帰っちゃったらどうしよう、と何か言わないとと焦るが声が出ない。 先ほどまでカナタとジンの仲を心配していたと言うのに、今はカナタに悪い、ということよりもジン会いたくて仕方がなかった。
(なんで、こんなに焦って。そこまでして何で必死に呼ぼうとしてんの)
「コ、コーヒーでもどうですか?お食事に付き合えなかったので」
渾身の口実を作ると、ジンの笑う声が聞こえた。
『ふふ…お誘い上手だねぇ。わかった、ご馳走になります。』
あと20分くらい、と言って切れた電話にソワソワして、慌てて部屋を片付け、コーヒーの用意をした。お風呂に入って隅々まで洗い、大きいあの人を迎えられるように準備した。
ピンポーン
髪を乾かすのが間に合わなくて大きめのTシャツとスウェットを急いで着てそのままドアを開けた。
「あ…セナさん?」
「ごめん、忘れ物しちゃって…お風呂急がせちゃったね」
「え、あ、ううん…。大丈夫。」
ジンだと思って開けたドアにはセナがいてあまりの衝撃に頭が真っ白になる。勝手に上り込むセナは先ほどまでいた寝室に向かうのを、ジンと鉢合わせたらどうしようと焦るも、セナはのんびりとあったー、と喜んでいる。
ドクンドクン
心臓が破裂しそうなほど緊張している。どちらとも付き合っていないのに二股のような感覚に呼吸が苦しい。
「ごめんね、翔。また明日」
玄関で靴を履くセナを見てちらりと時計をみると、あの時間から15分が経っていた。ドアを少し開けたのにほっとしていると、セナの目が変わった。
「誰が来るの?」
「え?」
「電話の相手?あの後からソワソワしてうわの空。誰なの?」
「別にセナさんには…」
「関係ないって言わせない!!」
心臓が壊れたみたいに胸を打つ。肩をぎゅっと掴まれ、じっと見つめられる目を見ていられない。後ろめたさの自覚がある分、余計に自分が制御できないくらいハマっていて、コントロールができなかった。ハマっちゃいけないと思えば思うほど、この関係に酔いしれていた。
「翔、こっち見て」
「…分からないよ…」
「翔?」
もうこの緊張状態に耐えられなかった。自分の気持ちもぐちゃぐちゃで、吐き出すようなに喚いた。
「もう分かんないよ!!!帰ってよ!!早く帰って!!」
「翔…ごめん、ごめん泣かないで」
「あーあ。セナくん泣かせた〜」
柔らかな声に血の気が引いた。ついに鉢合わせてしまった。 両手首をセナに掴まれたまま下を向いた。見られたくなかった、と思うのもおかしいという自覚はあった。セナは驚いて手を放し、ジンに挨拶をした。
「え?ジンさん…お疲れさまです。このマンションに住んでいたんですね」
セナの当然の返しにほっとするも、ジンがフワッと笑うのにこの関係がバレるのでは、と心の中でヤメテと叫んだ。
「いや?僕はここに住んでないよ」
「?じゃあどうしてここに?」
「翔くんがコーヒーご馳走してくれるっていうから…一緒にどう?」
思わぬ申し出に泣きそうな顔でジンを見るとジンは意地悪に笑った。
(早く、2人になりたいのに…ジンさんの意地悪)
セナよりも無意識にジンを求めているのに気付き頭を振って顔を叩いた。
「お邪魔しまーす」
「あ、え、ジンさん、僕は…」
「セナくん、コーヒー嫌い?」
好きです、というとあの優しい笑顔で頂こう、と誘った。
震える手でコーヒーを淹れて2人が何を話しているか聞き耳をたてる。
「へー。映画を見てたんだ!2人とも仲いいね!イケメン2人は画になるよねぇ」
「そんなぁ!やめてくださいよぉ!でも嬉しいです!」
「セナくんモテそうー。彼女いるの?」
「先輩、僕たちアイドルですよ?そんな人居るわけないじゃないですかぁ」
アイドルらしくニコニコ言うセナに、ジンは可愛いね、と頬を触った。ピクっと反応して2人が見つめ合い、セナが顔を真っ赤にして目を逸らした。
「ジ、ジンさん…は大人の色気がすごいです!僕も欲しいなぁ!まだまだガキだから…」
「教えてあげよっか?」
ゾクゾクする声音に翔はハッと顔を上げた。ジンの指がセナの指先に触れると、セナはさらに真っ赤になったが、頭をふるふると振り、その後翔を見た。
「いつか教えてくださいね!翔、コーヒーは?」
ジンの誘惑を躱し、翔を気遣ったセナに、目が潤んだ。
(本気、なんだよな、きっと)
ジンを見ると優しい笑顔で見ていた。
ドギマギしながらコーヒーを3人で飲んで、セナが先に帰ると言い出し、リビングにジンを残して玄関まで見送った。
「翔。ごめん、聞いてもいい?今、ジンさんと付き合ってるの?」
「ううん。付き合ってない」
「僕、まだ努力してもいい?まだチャンスはある?」
しっかり伝えてくれるセナに、ありがとうという気持ちを込めてぎゅっと抱きついた。
「本気で求めてくれたら、俺は簡単に落ちるよ。待ってるよセナさん」
そう言うと花が咲いたように笑い、頑張ります!と決意を叫んで出ていった。 リビングに戻るとケータイを見ながらコーヒーを飲むジン。これだけでも腰にクるのは何だろうとそっと背中に抱きついた。ジンが部屋にいるだけでドキドキして、触りたくて仕方がない。
「ほらぁ、セナくん本気でしょ?信じてあげなよ」
ケータイから目を離さずに言うジンをこっちに向かせたくてキスを仕掛けると翔に合わせてキスに応えてくれた。
「…んっ、メッセージ、誰?」
「干渉しなーいの。」
「カナタさん?」
翔が名前を出すと笑顔が消えて真顔になった。
「……そ。」
「カナタさん、俺のせいで泣いてました」
「翔くんのせいじゃないよ。カナタ自身のせいだよ」
送信したのかやっとこっちを見てふわりと笑った。
「そんなことより、翔くん、僕にハマっちゃったの?」
「ひぁっ!?」
スウェット越しにいつのまにか硬くしてしまったものを握られ、大きな声が漏れた。
「僕を家に誘って、どうしたかったの」
「あああっ!はぁっ!ンん!!はぁっ!ダメ、ジンさんっ!出そぉ!」
「髪まだ乾いてないね…いい匂い…。お風呂まで入って待っててくれたの?可愛い」
声にゾクゾクとして腰がぬけた。下だけ脱がされて大きめのTシャツが前を隠した。 四つん這いにされ、お尻だけをあげる形になると溢れた露を掬って穴の周りを優しく撫でられる。
「ジンさぁん、ッ、準備、したから、もうっ、挿れてよぉ!」
「だーめ。女の子じゃないんだから」
「でも、待てないよぉ!早くっ!」
我慢できずに腰を振るとペシンと叩かれ、ぶるっと身体が跳ね、前から勢いよく欲が飛んだ。
「翔くんM?」
「あぁっ、はぁ、はぁ、ちがいます、よ、」
「フローリング汚しちゃった、ごめんね?」
「いいからぁ!早く!ジンさんの、大きいの、欲しいっ!奥して!大きいの早くッ!」
我慢できなくて叫ぶと、ベルトを外す音が聞こえて、自然と翔の呼吸が荒くなる。 腰を掴まれる手にさえもビクッと跳ね、甘い声が漏れる。
「ハマっちゃダメって言ったのに…悪い子。」
グッと押し当てられるだけで、理性が飛んだ。
「あぁああ!クるっ!ジンさんのっ、ぉ、おっきいっの、ッ!っあ、きた、ッああああああーーッ!あああっ!!ダメぇ!ダメ!もう奥いけないのぉ!ダメぇ!」
ものすごい音を立てて、性感帯を全て抉っていくのに腰がビクビク跳ね、よだれが落ちていく。フローリングには吐き出したものが飛び散り、膝が滑る。
「ん…ココ、良すぎて苦手でしょ…悪い子だからお仕置き。」
右足を持ち上げられ、腰が叩きつけられ、頭を振って快感を逃すも、どんどん追い込まれていく。
「あぁああああああーーッ!いやぁあああ!!ジン…さぁん!!ヤバイっ!!もう!!気持ちよすぎるよぉ!!!」
「ふふっ、これ、僕離れできるかなぁ、心配だ」
「いやぁあああ!!ああっ!!気持ちいっ!!おかしく!なるぅう!!」
「もうおかしいよ、君も、僕も」
胸の粒をぎゅっと摘まれ、背中が反った。頭の中に気持ちいい以外の言葉が浮かばなくてひたすら叫んだ。
(どうしよう…っ、もう最高すぎるっ…離れられない…離れたくないよっ)
翔は何度も強請ってイかしてもらうが、ジンは一回もイっていなかった。
ジンが今日は中に出してくれないことに焦れて、大きなものを口に頬張る。微笑んで頭を撫でてくれるが出す様子がない。
「んはっ、ジンさん?…今日、イけないの?」
「イけなくはないけど…。」
「じゃあ中かけて、顔でもいいからっ」
「…んー。今日はもういいかな」
(ジンさん…俺のこと、見てない)
熱が引いたように落ち着いてしまったジンは、ごめんね、と苦笑いし、翔の熱を口で愛撫しはじめた。その手腕に頭が真っ白になるほどの絶頂を味わい、しまいには潮まで吹いてしまった。
「はぁー、はぁー、っ、ん、はあ、はぁ」
ピリリリリ ピリリリリ
呼吸を整えていると、後処理をしているジンの手が止まり、電話の音が聞こえた。ジンは翔にバスタオルをかけて頭を撫でた後、電話に出た。
「なに」
初めて聞く恐ろしく冷たい声に、翔は我に返り、急いで服を着た。
「泣いてたって分かんないよ。……自分の気持ちが他人に分かるわけないでしょ。……話にならない、切るよ」
誠が青木を怒った時のような恐怖が蘇る。ため息を吐いて、ブチッと電話を切ったジンは一瞬泣きそうな顔になった後、翔を見ていつもの笑顔になり、バスタオルごとぎゅっと抱きしめられた。
「翔くん。実は今日ね…僕が翔くんに甘えちゃったんだ…。翔くんに…そばにいて欲しかった。…遅くに連絡したり…、せっかくセナくんがいるのに押しかけてごめんね。」
低い声が心地よくて目を閉じる。求めていたのは自分の方だ、とジンの指を握る。
「ううん…。ジンさん、約束したのに俺…」
「翔くんの、弱さに漬け込んだのは、ずるい大人の僕だよ。本当にごめんね…。」
「ジンさん、泣かないで」
顔を見ると、ジンは笑っていたが、翔には泣いているように見えた。
「翔くん、幸せになってね。」
(あ、もう最後なんだ)
ジンがここを出たら、もうただの先輩後輩に戻る。お互い必要な人のもとへ帰るのだ。
「ジンさんもっ!ジンさんも幸せになってください!」
「…ありがとう。」
やっぱり泣いている気がして強く抱きしめた。離れたくないが、ジンが必要としている人はカナタで、翔にはそれがセナな気がした。
「翔くんにもっと早く出会ってたら、翔くんを早く見つけていたら、毎日こうして、抱き合って、幸せで、まっすぐな気持ちでいられただろうな…こんな苦しい思い、しなくて済んだのに…」
やっと、奥二重の瞳から涙が落ちた。周りを拒絶するように小さく蹲るのが頼りなくて泣き止むまで抱きしめていた。
「ジンさん、そんなこと、言わないでよ…俺も苦しくなるよ…」
「フラフラしてるカナタより、真っ直ぐな翔くんに愛される人が幸せなんだろうな、って本当に思うよ」
「ジンさんっ!ジンさん…」
好きだ、愛してる、なんて言ってはいけないと、言葉を詰まらせた。ジンが求めているのはカナタだけなのだ。
「どうしたらカナタが振り向いてくれるのか、分からないんだ…もう、苦しくて、耐えられないのに、それでもカナタが欲しいなんて、恥ずかしいよ…」
不安そうに指を絡めるのにしっかり握ってキスをした。安心するように、大丈夫だよ、と言うように。 こんなに愛されて、羨ましかった。カナタになって、好きだよって言いたいと本気で思った。
「これ以上、翔くんに迷惑はかけられない。セナくんは本当に君を愛してくれるから…だから幸せになって。大丈夫だよ、信じてあげて。」
切なくて、言葉にできない感情で溢れて、気がすむまでキスをした。終わりが来ないように、このまま息が止まればいいのに、と思うほど夢中で唇を合わせた。
「じゃあね、翔くん」
いつもの優しい笑顔で振り返るジンを引き止めたい気持ちを必死に抑えて、翔も笑って手を振った。ドアが閉まると崩れるようにしゃがみこんだ。
「ぅっぅう…ぅ、ふぅ…っ、ぅ」
僅かな期間しかなかった逢瀬がなぜこんなに切ないのか、お互いがもっと早く出会っていたら、なんて叶わぬことを悔やんだ。
(カナタさん…ジンさんを幸せにしてください)
泣きながらカナタへ願いを託した。たったの数日が、人生での大恋愛だったと思うほど相手が恋しかった。未登録の番号に名前が乗ることなく、いつのまにか流れて消えていった。
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