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第65話 過去への嫉妬
大河は新番組の顔合わせでテレビ局の会議室に向かった。
「おはようございます。RINGの大河です。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いしまーす。」
会議室にいたのがリョウだけで、大河はほっとして隣に腰掛けた。路上ライブでの安心感は場所が変わっても変わらず、全員揃うまで音楽の話で盛り上がっていた。
「おはようございます。よろしくお願いします。」
次に入ってきたのが、小柄で眠そうな目をした女の子。ロックバンドのギターとボーカルを担当する柚子(ゆず)だ。細身の割に大きな胸に目がいかないよう意識して挨拶をした。大きめのブルゾンとタイトなスキニー。冬なのにサンダルでおそらくスッピンで髪もボサボサだった。
「はじめまして、リョウです。」
「RINGの大河です。」
挨拶をした瞬間、眠そうな目を大きく開けて鋭い眼光で大河を見た。
「あんたか、RINGのボーカル。」
「え?」
「ユウかマコやと思ってたわ。しょーもな。」
いきなり関西弁で言われた言葉に唖然とする。リョウは苦笑いして、気が強そう、と呟いた。 どかっと腰掛け、イヤホンをしシャットアウトされた。
「リョウさん、俺なんかした?」
「さぁ?ユウかマコって言ってたからファンだったんじゃない?」
気にするな、とニカッと笑われ、そうだなと苦笑いした。
「こんにちはー!よろしくお願いしまーす!」
次に入ってきたのは、細身で女の子にしては長身でスタイル抜群のアニソンバンドのベースとボーカルのあずき。紫色のロングヘアとバッチリメイクはマネキンのようだ。ミニスカートを翻しながらぴょんぴょんと跳ね、一人一人に握手をして柚子の隣に座ると、柚子は嫌そうに少し距離をとった。
「柚子ちゃん、大河に似てる」
「は?どこが?」
「近寄るなオーラ」
あははと笑うリョウにパンチして異様な空気に大人しくした。
ぐぅぅぅ〜〜
大きなお腹の音に全員が柚子を見た。柚子は何でもないようにすましていたが、となりのあずきがあははと笑った。
「柚子さん、はい、これ!グミ食べますか?」
「もらっとくわ。」
お腹がすいていたのか、すぐに受け取った後、リュックからガサゴソと取り出したのは梅味の飴玉。
「ほなこれやるわ。」
「ふふっ、ありがとうございます!私これ大好きなんです」
「うちも好きやねん!これな、関西限定のやつやで。おかんに送ってもらってん。東京になんか置いてないレアもんや。」
「わぁ!嬉しい〜!」
女の子たちは食べ物で意気投合したようで、そのあと柚子はイヤホンを取り、あずきと楽しそうに話していた。
「おはようございまーす。」
「うわーー!!タカさん!本物だ!こんにちは!あずきです!」
あずきはタカの登場に勢いよく立ち上がり、すぐに駆け寄った。手を握って挨拶し、ぶんぶんと握った手を振り、キラキラした顔でタカを見つめた。
「うぅー!尊いよぉ!」
激しく悶えるあずきにタカはかなり引いていた。 タカはあずきと距離を置きたいのか、大河の隣に腰掛けた。
新番組は音楽中心で様々なジャンルについて学んだり紹介したり、普段テレビではやらないような細かいところまで掘り下げていくようだ。また、毎週のようにセッションがあり、楽器も使うことがあるそうだ。全員がボーカルもできるので誰がメインになるかが視聴者のお楽しみである。
「待って。確認やけど、うちはギターやんな?あずきはベース。あとは?」
「タカさんはキーボード、リョウさんにはドラムを、大河さんにはギターを、と思ってます。」
「ギター2人もいらんやろ。」
「大河さんはボーカルメインで考えています。ダブルギターの時に…」
「なんで大河なん?ギターならユウが上手いって知らんの?メインかなんか知らんけど、歌えるやつなんかたくさんいるやろ。そこのタカさんかリョウさんに歌って貰えばええやん。」
さすがに大河もそこまで言われるとカチンとくる。言い返そうとしたところでリョウが止める。
「まぁまぁ。柚子ちゃん落ち着いてよ。俺らにはない魅力が大河にはあるのよ。まず見たことあるの?RINGの大河を。」
「興味ないんよ。うちはユウしか見えへん。たまにマコも見とるけど、ユウが1番や。世の中ユウの魅力が分かってへんアホばっかりや。」
柚子の言葉にタカがピクリと反応していたが静かに見ていた。
「ユウしか見てないなら大河も見てみなよ。楽器が何かできなきゃっていうなら大河はハーモカを練習させる。」
「え!?ハーモニカ!?」
リョウの提案に大河は慌てた。番組プロデューサーもいいですね、とノリノリだ。柚子もそれならええんちゃう、と納得したようだ。
「リョウさん、何言ってんの」
「しっ!大河を認めさせるためだ。練習は付き合うから。大河の表現の幅も広がるよ」
大河はまずはお互いのことを知りたいと、ライブ映像を全員のものをプロデューサーに流してもらった。まずはアニソンバンドのあずき。えー恥ずかしいですぅー、とクネクネして照れていたが、ハスキーっぽい低い声の迫力ある歌に全員が驚き、柚子もめっちゃカッコイイと呟くと、あずきが柚子を抱きしめニコニコしていた。 次にRINGのが流れると、歌は上手いんやな、と納得してもらえた。そして柚子のバンドは3人組で、AメロBメロはドラムとベースの男性が歌っていた。
(あれ、柚子ボーカルじゃないのか?)
チラリと柚子を見るも、柚子は真剣に画面を見ていた。
「っ!?」
サビでの柚子ハイトーンの迫力がすごくて鳥肌が立った。必死で全身全霊で歌うような姿に目が釘付けになった。
「ええやろ、うちらのバンド」
「カッコイイな」
大河が素直に言うと、この日始めて柚子が大河に笑った。
初回放送は全員の紹介も兼ねて、全員が参加する曲が準備され、大河は早速ハーモニカの出番となった。
「リョウさん、どうしよう、あと2週間で収録だよ。」
「だいじょーぶ。楽しんでやってみよ!」
リョウと練習スケジュールを確認していると、柚子がチケットを6枚置いた。
「柚子ちゃん?」
「うちらのバンドのライブ。来て。」
「6枚…も?」
「うち捌いてへんから協力して。ユウとマコに会いたいし。」
日時を見てリョウは仕事があると断っていた。伊藤に確認すると、大河、マコ、ユウがたまたまオフだった。タカが送ってくれると確認し、ライブに行くことになった。
「ゆず…柚子!?え!?メジャーデビューしてたの?気付かなかった!」
家に戻り誠に話すと嬉しそうにチケットを眺めていた。
「知り合いなのか?」
「学生時代対バンしたことがあって!このバンドに関西から来た女の子が入って爆発的に人気が出たの!柚子は優くんのギターに惚れ込んでメロメロだったよ〜!」
「へー。それでユウの事ばっかり言ってたのか。」
「そっか。俺のことも何か言ってた?」
「いや、名前は出てたけど特には」
そういうと苦笑いして、少し落ち込んでいる様子に疑問符が浮かぶ。
「俺、一応柚子の元カレなのになぁ。本当冷たいなぁ」
「はっ!!?」
「一回も俺を見てくれなかったよ。ユウ、ユウっていつも。あの時辛かったなぁ。」
サラッととんでもないことを言う誠に唖然とする。誠が恋多き学生時代を過ごしたことは知っていたが、身近すぎてショックが大きい。
「大河さーん?昔の話。」
「やめろよ、知りたくなかった」
「ごめん、ついつい。」
「嫌だった。知りたくなかったよ」
思いのほかモヤモヤした自分が嫌で誠にぎゅっとしがみついた。今の誠を見たらどうなるだろう。大河の歌声で惚れた誠が、柚子の歌を聴いて惚れてしまったら、と不安になる。ギターもできて歌もうまい、小柄で巨乳で、引っ張っていくタイプの女の子。
「マコ、…っ、なんでもない」
(柚子の歌声で惚れたりしないよな?)
思わず弱音を吐きそうになって慌てて自分を制御した。
「大河さん、ごめんなさい。不安にさせちゃったね。」
「別に、なってないし。」
「俺には強がらなくていいんだよ。本当にごめん。」
強く抱きしめられて、ほっと息を吐く。シャツの下のリングの感触に安心して、服の上からリングを噛んだ。しばらく甘噛みして落ち着き、顔をあげると雄の顔をした誠がギラついた眼で見ていて、逃げられずベッドに沈んだ。
「おはようございます、よろしくお願いします。」
「まこちゃんおはよう!あれ、大河さんは?」
「あ、腰が痛いみたいで座らせてたの。荷物先に置きたくて、ちょっと待っててください。」
タカの車が到着して、誠が先に声をかけている間にゆっくり立ち上がる。あの日からライブまで大河が不安にならないようにと、毎晩抱かれ続け、昨日の激しさに腰の倦怠感が辛い。
(正直、オフならもう寝ときたい)
ぼーっとしたまま車に向かい、僅かな距離が果てしなく感じた。誠が駆け寄ってきて支えられるも、毎晩抱かれ続けた身体は誠に反応してドキドキしてしまう。ニコッと笑われるだけで顔が赤くなるのがコントロールできなかった。
「大河さんおはよう、大丈夫?……わぁお、まこちゃんってば昨日激しかったの?大河さんエッチな顔してる。」
ニヤニヤする優一を無視して、ゆっくりとタバコの匂いが充満する車に乗り込む。前は緊張していたのに、誠がそばにいるだけで安心していた。お願いします、と小さく言って車が走り出した。
「チケット捌けられないって、デビューしてるのにおかしいな。」
「あー、柚子、たぶん来て欲しいから嘘だと思うよ。柚子はツンデレだから、ね、まこちゃん」
「デレなんか見たことないよ、いっつも優くんのことばっかりだったもんね。優くんが答えてあげないから…」
「…だって答えられなかったんだもん」
柚子に対しては2人はいろいろ思うところがあるのか、たどたどしい会話と、目に見えてタカがイライラしてタバコの本数が増えた。
「タカさん、俺もちょうだい」
「ダメ」
「ケチ!リクさんは箱ごとくれたのに」
「いいのか?伊藤さんに告げ口するぞ」
タカと優一の会話に大河と誠はきょとんとする。別にいいもん、と優一が取り出したタカと同じ銘柄のタバコに2人は驚いた。
「ユウ!?」
「優くん!?」
優一は我慢できなかった、内緒。とゆっくり呼吸して味わっていた。
「ごめんな、こいつ、あの不安定な時期にタバコの味覚えてさ…。やめろって言っても聞かねーのよ。」
「落ち着くんだもん。タカさんも今日イライラしてハイペースじゃん。」
「お前が柚子の話ばっかりしてるからだろ!」
ついに怒りはじめたタカが意外で呆気にとられた2人はその後静かに笑った。 大河は自分と同じ気持ちのタカに少し安心した。
ライブ会場は結構広く、4人は関係者席に通された。タカがゲッと一瞬固まるも、向こう側で紫色のロングヘアが揺れるほど大きく手を振っている。
「タカさーん!大河さーん!こっちです!!わぁ!マコさんにユウさん!うぅ!眩しいっ!私の中のカップリングではお2人なんです!きゃー!生だぁ!」
「「…はぁ…?」」
タカは苦手なのか1番遠いところで知らんぷりしていたのを大河はクスクスと笑った。
「柚子ちゃんと毎日連絡を取り合ってるんです〜関西弁が可愛く可愛くって!たまらぬ!!」
「あはは、あずきちゃん面白いね!」
「マコさん、予想通りの優男!だけど恋人と2人きりになるとドSなんですよねー!ネチネチ攻めて恥ずかしがらせて…きゃー!もう!どうしよう!」
あずきのセリフに大河は肩を揺らした。
(え、何で分かるの?)
その反応を見ていた優一は、カァッと顔を赤くしたあと、変な気持ちになったのか、タカの服を握っていた。 すると自然に2人は手を繋いでいて大河も顔が赤くなった。
会場が暗転して、ドラムとベースがリズムを作っている。誠はベースの音に目を閉じて聞き入っていた。 そしてギターが入り一気に証明が当てられた。 ドラムの優しい高めの声、ベースの低めのハモリ、そしてパワフルな柚子の声。 それぞれの良さが生かされている。
「優くん、智和さんめっちゃ上手くなってない?」
「うん、俺もびっくりした…橘にアドバイス貰ってたのにな。」
2人は2人しか知らない話で盛り上がり、大河は置いてけぼりになってタカを見ると、同じなのか目が合い、首を傾げたあと苦笑いされた。
アンコールでは予定と違うのか柚子のがむしゃらなギターから始まり、2人が慌てて合わせるような焦りが見えた。柚子は気にせずにギターを弾いている。
(うわ!難しそう…)
テンポが速い曲に会場が盛り上がる。柚子のパートが多い曲は不倫に苦しみ叫ぶ歌。
「柚子…今度はまた変なとこに首突っ込んで…」
優一が舌打ちした後、心配そうに聞いていたが、この痛みに気付いて、という歌詞で動き始めた。
「優一、どこに行く」
「柚子のとこ、裏、入れるかな。話聞いてやらないと。」
「は?」
「柚子の作る歌にフィクションはない。たぶん柚子今苦しんでるから…変な方向に行かないように発散させないと」
「お前がやる必要はあるのか。」
タカが強く優一の腕を掴み、行かせないようにしているが、心配で仕方がない優一は少しだけ、と行ってしまった。
「あいつの思わせぶりはどうにかならんかね」
苦しそうなタカに誠も大河も苦笑いした。
曲が終わって楽屋に向かうと、とんでもない光景が待っていた。
壁に押し付けられ、柚子に濃厚なキスをされる優一。柚子が優一の手を取り自分の胸を押し付け、触らせているようにも見える。 唖然としたタカに代わり、大河は大声で優一を呼んだ。
「ゆ、柚子、やめろよ…」
「ええやん。見せつけたらええ。」
また優一の手を取ろうとした所で、柚子の手をタカが握った。
「やめろ。こんなところで何やってんだ。」
「ライブ後はテンションあがるもんやろ。」
「だから優一にキスしていいのか?」
「ユウは気付いてくれたんよ、うちの気持ち。うちにはやっぱユウが必要やねん。邪魔せんとって」
「そうか。優一、お前が蒔いた種だ。自分で処理しろ。」
ブチ切れそうなタカを初めて見て全員固まった。優一は慌ててタカを追いかけるも、付いてくるなと言われ、トボトボ戻ってきた。
「何やねんあのオッサン。こっわ〜」
「どうしよう…怒らせちゃった。」
「まぁええやろ。ユウ、うちな、もう我慢できひん。」
急に妖艶になった柚子が迫るも、優一はサラリと躱し柚子を見た。
「柚子、不倫はダメ。誰も幸せにならないから。奥さんより愛してるなら別れるはず、柚子、もっと自分を大切にして」
「そんなん言うなら幸せにしてや。うちはユウがええ。ずっと言うてるやんか。自分は何もせんとお説教ばっかやめろや。」
「俺には、大切な人がいる。」
「だから誰やねん、て!」
「言ったら…柚子が取るじゃん…言わない、言うわけない」
落ち込む優一に大河と誠はきょとんとする。すると柚子が誠を見た。
「あー…興味あったんよ。ごめんな?あれはうちが悪いやつや。ユウが惚れるやつがどないやねんって。マコとうちが付き合ったとき泣かしてしもたな。ごめん。」
「え?」
「…ごめん、俺はずす」
大河は聞いてられなかった。タカの気持ちが分かりすぎて、悲しくて、先に駐車場に行くとタカはタバコを吸って空を見上げていた。
「年下相手に振り回されてるよ…今も変わらないよ、俺は。ダサいよな」
「今も?」
「あぁ。お前にもそうだったさ。いつまでたってもガキのまま。」
「俺も、年下に振り回されてますよ。」
「はは…。たまに…しんどいな…好きすぎて、余裕がねぇよ。」
今にも泣きそうなタカが、自分のようにも見えた。柚子と会ってからずっと気にしていたのだろう。
「男相手なら勝てる自信あるけど、さすがに女の子には勝てねぇよ。」
少し震えた声は、かつての天才の先輩ではなく、弱く頼りない1人の男性だった。思わずゆっくりと抱きしめるとビクッと跳ねた。
「タカさん、大丈夫です。きっと。」
「…そうかな、わかんねぇや」
いつになく自信がないタカに可愛いとさえ思ってきた。あの恐怖は全くなくなっていた。
「柚子…マコの元カノです。で、さっき…ユウの好きな人がマコだったからマコと付き合った、みたいなこと言ってました。」
「……。」
「ユウ、俺に内緒にしてたんです。そんなにマコが好きだったこと。あの2人の間には、俺や…青木は入れなくていつも悩んでました…。ユウからしたら、俺に横取りされたようなもんなんです。」
だんだん、大河は辛くなってタカにしがみついた。胸が張り裂けそうで苦しかった。
「お前が横取りしてくれなきゃ、俺は可能性すらなかった…お前には感謝しかない。」
「タカさん、俺らが…もし付き合ってたらどんな運命だったのかな」
ポツリと呟いた言葉に、タカがガバッと顔を上げて、バチっと目が合う。こんなに至近距離は久しぶりで大河は目を離したくないと思った。髪を切って雰囲気が変わったタカ。これも優一の影響なのだろうとまじまじと観察する。目を見開いたままのタカは、やっぱり辛そうで、こんなにも優一を思ってくれている人がいるのに、キスされて愛を叫ばれてもそのままにしている優一に、同じ気持ちになってしまえ、と大河はタカの唇に目を閉じてキスをした。
「っ!大河…っ!?」
「過去のことで俺たちばっかりモヤモヤしてんの…嫌なんです。なら、同じ気持ちにさせたいんです。」
2人に見られるまでキスして、と囁くと、タカは大きな目をパチパチとさせたあと、目が据わって大河の後頭部に大きな手を置き、合わせるだけのキスをした。通行人の気配がして、2人で車に乗ってキスを繰り返す。運転席と助手席に座り、少し指が触れると自然と握り合った。
ドンドンドン!!
(やっと来たか…)
怒った顔した誠と、ショックをうける優一がそこにいた。何でもないように2人は離れ、何も言わずに大河は助手席を降りた。
「「大河さん…」」
2人のハモる声にもイライラして無視して後部座席に乗り込んだ。タカも何も言わずにエンジンをかける。
「タカさん、大河さんに手を出さないでください。」
誠の声が車内に響いた。タカは何も言わずにタバコに火をつける。
「は?俺からタカさんにキスしたし。」
そういうと2人は泣きそうな顔でこちらをみた。
(泣きたいのは俺とタカさんだよ。)
「どうして…?」
優一の泣きそうな声が続く。
「ユウ、お前もキスしてたじゃん。タカさんの気持ち考えろよ。」
「…っあれは…」
「同じじゃん。やってること。何で俺らだけ責められなきゃなんないの?お前らの過去がどれだけ俺とタカさんを不安にさせてるかわかる?」
「「……。」」
「わかったよな?俺とタカさんの過去を知ってるお前達には辛かったろ?不安だろ?俺たちもそうだった。辛かった、叫びたかった、触るなって、過去に嫉妬もした。」
「「……。」」
「タカさんには俺が持ちかけたからタカさんは悪くない。お前らに分かってもらいたかっただけ。」
「大河、もういい。ありがとう」
苦笑いして振り返るのに黙った。隣の優一がごめんなさい、と泣き始めたのだ。
「ユウ、お前は人に優しすぎる。その優しさが期待させることもあるんだ。お前がそんなつもりなくても、惚れてしまう人はいる。大勢にモテたいのか1人に愛されたいか選べ」
「タカさんに…っ、だけ、愛され、たい」
涙声で優一が言うとタカはそっと抱きしめた。
「ならタカさんを優先しろ。じゃなきゃ、また、俺が取るよ」
「また…って?」
「俺が…マコ取っただろ…知らなかったとはいえ辛かったよな、ごめん。…あと、マコ!お前も惚れっぽいんだから気が気じゃねーんだよ!バカ!お前の元カノ何人いるんだよ!もう聞きたくねーよ!」
大河が喚くと、誠はごめんね、と少し嬉しそうに笑って抱きしめた。優一はタカにしがみつくように泣いていた。
タカがイライラしたお詫びに、とタカの家で料理を振る舞ってくれた。準備を手伝おうとするも3人座ってろ、と待たされ、大きな画面のテレビにはブルーウェーブのライブ映像が流れていた。
「優一、またこれか?違うのにしろよ…」
「やだ!このタカさんカッコイイもん」
「優くん、これ入院中からはまってるでしょ」
「だってもぉカッコイイ」
目の前に本物がいるのに画面を見て目がハートになっている。優一がシュウトのパートだけ口ずさむのが面白くて思わず笑った。
「なぁに、大河さん。音ズレてた?」
「いや?なんで、シュウトさんのパートしか歌わないの?」
「え?…あ、そういえばそうかも。なんか歌いやすくて」
クスクスとタカの笑い声がして3人がタカを見る。
「音域の話、前したろ?優一はシュウトと同じなんだよ。」
「へ?そうなの?俺そんな高い?」
「あぁ。訓練したらあのフェイクだってできると思うよ。大河は逆にあのシュウトのフェイクやったら喉潰すから気をつけろよ。」
「はい!ありがとうございます!」
誠はすごいすごいとテンションがあがり、優一にシュウトをさせようとしていたがだんだんモノマネ大会になり、部屋中が笑いに包まれた。
「人の歌マネは大事だよ。歌い方で自分に合うものや、逆になくて鍛えられることもある。俺にはリョウさんのが新鮮だな。」
タカはパスタを盛り付けながら言うと、お腹が空いた優一はすぐにキッチンに走っていった。味見したいと口を開けて待つ優一と、優しく笑って食べさせてあげるタカはすごく絵になった。微笑ましくて笑って見ていると、突然誠からキスされ頭を叩いた。
「食ってからイチャついてくれ。チーズはお好みで」
美味しそうなカルボナーラを前に大河と誠は目をキラキラとさせた。その隣で優一は元の味がなくなりそうなくらいチーズを投入してタカに怒られていた。
「うまぁああ!タカさんっ!青木のと同じぐらい美味しいです!お店だしましょう!」
「まこちゃんが出資してくれるなら考えようかな」
「うっ…タカさんの方がお金ありそうなのに」
みんなで食べるカルボナーラは美味しく、ペロリと平らげ、片付けは3人で行った。タカが作業部屋にこもって、3人はダラダラと寛いでいた。
「大河さん、今日は本当にごめんなさい。タカさんにも悪いことしちゃった。」
「分かればいいんだよ。」
「あと、取られた、なんて思ってないよ。初めは…大河さんに負けないようにって頑張り過ぎちゃったけど…でも、幸せそうな2人見てたら嬉しかったし、たぶん、あの時から俺、青木が気になってたし。」
ゆっくりと話しはじめた優一の言葉を聞き漏らさないように待った。誠は気付かないでごめんと優一に謝っていた。
「でも今日ね、タカさんと大河さんのキス見て…勝てないって諦めそうだったの。とても綺麗に見えて、これが正しい形なのかな、って。」
「ダメ!大河さんは渡さない。」
「正しいものなんかないよ。…タカさん壊れそうだったんだ…なんか、こんな弱いタカさん初めてみたから…好きすぎて余裕ないって、辛そうに言ってたからほっとけなかったんだよ。」
また優一はごめんなさい、と呟いて、ゆっくりしてて、と作業部屋に入っていった。
「大河さん、過去は…変えられない。ごめんね、でも俺は大河さんだけなの。今日、無理矢理だったのかな、と思ったらイライラしたけど、大河さんからと聞いた時嫉妬が止まらなかった」
「だから、俺だってそうなんだよ。」
「ん…可愛い…大好きだよ」
また誠の目が変わって焦る。ここは先輩の家で、昨日の行為でひりつくそこがゾクゾクして焦る。連続で抱かれ続けて身体がもう覚えてしまい、抗う方法を必死で考える。
「ンッ…んぅ…はっ、やだ…ダメだよマコ」
「我慢できない…タカさんの前で、タカさんより俺が好きって言わせたい」
「わかってるだろ、そんなことっ!やめろって…んっ」
高そうなカーペットからフローリングの硬いところに寝かされる。床暖房が気持ちよくてホッとすると脱がさないまま、服の中に手を入れてきた。
「待って…待って、本当に…お願いっまこっ」
「はあ、大河、聞かせようよ…タカさんに」
「バカかお前!そんなこと…っんっ!ん!」
「声出して…ね、」
「んっ、ぅ…いやだぁ」
ガチャン
「ほらみてタカさん、エッチしてる。」
「おいおい、人ん家で盛んなよ…全く…」
「ほら、タカさん賭けに勝った!シよ?」
「なんでそんなノリノリなのお前。」
「大河さんより俺がイイって証明して。」
「はあ?柚子より俺がイイってまず証明しろよ。許してないからな?あのキス」
呆れたようにソファーに座るタカの太ももに優一は迎え合わせに座って首に手を回し、ニコニコしている。
「タカさん、証明するよ」
妖艶に笑った瞬間激しくキスを始めた2人に、大河は固まるも誠は更に興奮したのか、パーカーの中に潜り込み、2つの尖を攻め始めた。左側をコリコリと噛まれ、右側を爪で抓られる。
「ぁああっ!?っ、ふぅ、っ、」
昨日まで連続で抱かれ続け、敏感すぎるほどの刺激に涙が浮かぶ。
(恥ずかしい、恥ずかしい)
見られてないことを確認しようと、目線を優一に合わせると、2人がこちらをみていて大河は真っ赤になって腕で顔を隠した。
「まこ…やめろよぉ…」
情けない声が響いて、刺激が止み、ほっとしたのも束の間、膝で硬くなった下半身を服の上から刺激され歯をくいしばるも背中が反った。
「やば…大河さんエロ…。あ!ダメ!タカさんは俺だけみて!大河さん見ちゃダメ!」
優一の声がだんだん遠くに聞こえる。バクバクとうるさい心臓の音と、誠の荒い息遣いしか聞こえなくなる。
「あぁああっ!マコ!やだぁ!」
下着ごと脱がされ、膝で刺激されたものがピョンと飛びでた瞬間、誠の舌技で抑えきれない声が漏れる。ふわふわの髪の毛を握って勝手に跳ねる腰が止まらない。ここがどこかも忘れ、ひたすら敏感な神経を愛撫され、猛スピードで追いかけてくる絶頂に腰がガクガクと震える。ぼんやりした視界から瞬きして涙が落ち、クリアになった視界には優一とタカがニコニコと凝視していた。
(え!?なんで見てるの!?)
「やだぁ!見ないでぇっ!見ないでよぉ!」
「大河さん、イって?」
誠じゃなく、優一に言われたことで、大河は顔が真っ赤になる。そこまできている絶頂に恥ずかしさが加わり、ぼろぼろと涙が溢れる。
「まこちゃん、イかせてあげて」
今度は誠への指示に、誠は頷き、奥まで咥えこんで大河と目が合う。
(嘘だよな?…やだよ…2人の前でアレしないで)
以前誠にやられたものだと、怯えて首を横に振る。誠は優しく目だけで笑う。大河の懇願も虚しく、ズルリと抜きながら思いっきり吸われ、強制的に射精させられる。
「ゃっぁああーーーーッ!!!」
ビクビクと跳ねて、昨日も枯れそうなほど出したのに、誠の口の中に注ぎ込む。
「ーーッ、ーっ、」
「は…大河、こっち向いて」
呼吸を整えて誠を見ると、完全に場所を忘れているのか目が大河しか写っていなかった。
「可愛い…今日少なかったよ。」
「はあ…は、っ…は、言うなよ…」
顔を隠すと足を広げられ、はっと起き上がる。
「ま…待て、うそだろ、ここじゃ嫌だ」
「大河だけずるい」
「ずるいとかじゃなくて…」
「ぃっあああーー!!あっん!んぅー!ああ!アッ!!タカさんッ!ダメェ!」
驚くほどの甘い声に2人はハッとソファーを見ると長い上着で隠れているが、グチュグチュと聞こえる水音と、跳ねる優一の身体、力強く腰を振るタカ。
「「っ!!」」
誠も大河も思わず釘付けになる。真っ白な細い手が必死にタカの肩を掴む。パサリと揺れるピンクの髪、下がった眉と普段の半分しか開いていない目、タカの快感を追う顔、優一を支える腕、そして
「は…はぁ、っ、お前ら、見すぎ」
「「っ!」」
恍惚の表情でこちらを見て、聞いたことない低く甘い声とともにふわっと笑う。その後、そんなに見たいのか、と優一をこちら側に向けた。
「あぁあッ!?んぅ…なに、タカさん」
「大河とまこちゃんに見せてやりな」
「へ?何を…?…ぅああああー!あー!っああ!ぃやっぁ!これぇ、ぃやああ!」
ガンガンと下から攻めるのに優一は目を見開いたあと、刺激にぎゅっと目を閉じ、頭を振った。
「あぁっ!ああっ!やっ!ダメダメッ!もう!!」
「優一、目開けてみ?」
耳元で囁かれ優一が目を開けると、バチッと大河と目が合い、しばらく見つめあっていたが、優一の目がだんだん大きく見開く。
「大河…さん…っ」
「お前が気にしてる大河の前でお前を抱いてるんだ」
「っぅああ!っあ!っ!んぅっ!」
真っ赤になる優一が可愛いくて、大河は思わず優一に近づく。
「はっ、ぁ、はっぁ、大河さん、おれっ、」
「タカさんとユウがお似合いだよ…可愛いな」
「コラコラ、大河。ダメだ、手ぇ出すなよ」
「ン、ごめんなさい、キスだけ…」
気持ちよくて今にも泣きそうな優一に思いっきり舌を絡ませる。すると恍惚の表情になり、気持ち良さそうに優一からも激しく絡ませてきた。
(ん…やばい、可愛い、気持ちいい)
夢中で舌を絡ませていると後ろに濡れた感触の後、ぐぐっと指が入ってきてぎゅっと締め付ける。
(まこっ?!)
優一がキスに夢中になっているため誠を止めることも出来ない。優一の服を握って耐えるも、どんどん増える指にキスが緩慢になり、優一が不満そうにする。
「んちゅぅっっ、はぁ、大河さん、もっとしてよぉ」
「大河、中増やすよ」
「はっ、ぁっ、っぁあ、んぅ、まこっ、まこっ」
「んぅー、大河さんってばぁ」
どっちからも求められて応えたいと思うのに、中の快感に追い詰められて何もできない。
「ふふっ、お前らあんま大河をいじめるなよ。優一、とりあえずお前はイけ」
見兼ねたタカが笑って大河の頭を撫でた後、優一を大河から離し先ほどの対面座位に戻すと激しく腰を振り始め、優一の声もどんどん余裕のないものになる。
「あの顔は俺にだけ見せて」
「はぁっ、ぁっ、あああ!っああっ!」
「はぁっ、くっ、っ、っ」
「タカさぁん、もぉっ!あァ!!イっ!くぅ…っあぁあーー!」
「ぅぁっーーっ」
不規則に跳ねる優一は必死に呼吸を整えた後、ぎゅっとタカに抱きつき、寝息が聞こえた。目の前でとんでもないものを見て大河も興奮するのがわかった。後ろからゆっくり入ってきたものに、敏感なそこの刺激に絶叫した。
隣から聞こえる寝息に目を覚ますと、誠ではなく、優一がいたことに驚いた。気持ち良さそうに寝ている優一に笑って、辺りを見回すと優一の部屋のようだった。優一が不安定の時にも一緒に寝たのが懐かしかった。優一が寝返りを打とうとして眉をしかめ、ゆっくりと目を開けた。
「んぅ…腰いたい」
不満そうな顔に笑って、頭を撫でると大河の胸に擦り寄ってきた。ポンポンとリズムよく撫で続けると、またすやすやと眠り始めた。熟睡したのを確認してリビングに行くと、誠とタカが振り返って2人とも優しい笑顔で照れた。
「優一は?」
「まだ寝てます」
「そっか、じゃあお前ら送ってくか。」
タカの言葉に甘えて車に乗ると睡魔に襲われうとうとする。バックミラーで見ていたのか、タカはクスクスと笑い、誠に寝かしてやりなと言うと、誠は膝枕してくれた。
あの日以来のオフの日、部屋に遊びにきた誠を放置してハーモニカの練習に集中する。
「大河さん、ハーモニカなんて…何に使うの?」
「番組。柚子にさ、楽器できないならいらないって言われたから練習中」
「そっか…。なんか吹いてみて」
「まだあんまりだけど…」
リョウと練習した曲をやると、誠がパチパチと喜んでくれた。
「うわぁ〜いいね!!曲の幅が広がりそう!もう上手だからリョウさんと練習しなくていいよね!」
「いやいや!セッションにはまだまだ…」
あからさまに不機嫌になる誠に苦笑いして抱きついた。
「まぁこ、俺の好きな人、誰か分かってんだろ?」
「分かってるけど独り占めしたいの」
「ここまで心奪っといて?」
「う、上目遣いには騙されないって決めたんだ!」
と言いながらもデレデレしている。大河はニコリと笑いゴロゴロと甘えた。こんな態度が誠のツボらしいから誠が不安な時はとびっきり甘えてやるのだ。
「んー!可愛い大河さん〜!好きー!大好きー!」
誠はタカの家での行為を思い出してはデレデレしている。なんでも、理性をとばした大河が必死に誠の名前を呼んでいたのが嬉しかったようだ。そして今度はタカではなく、リョウに嫉妬しはじめた。
(なんで自信もたないのかね…こんなカッコイイのに)
じっと見つめると、ん?と見てくる優しい顔にチュッとキスをした。
誠が帰ってから練習するつもりが、結局朝方まで抱かれ、仕事後に事務所で練習する日々になった。
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