69 / 140

第69話 執着

舞台の稽古は新鮮で、真剣で、余計なことを考えなくて済んだ。復帰にこの仕事を選んで良かった、と優一は稽古の準備をした。伊藤がずっと付いていてくれているのも嬉しく、安心した。  優一の役柄は悪役であるジンのところに潜入操作をするも、寝返ってしまうというフラフラしたキャラクターだ。人を信じやすく、相手によって考え方が変わってしまうのだが、そこに優一は共感もあった。  (人によって正義はちがう。どの視点から見るかで、正義のヒーローは悪役にもなり得る。)  弱いキャラクターとも思わなかった。人に合わせるということは自分がない、と思われがちだが、人に尽くすことはこの世界で誰もが必要で思いやりがあるとも思う。相手のしたいことを汲み取って一緒に歩くことは悪いことではない。そしてそれは自分が決めることなのだ。  悪役のボスであるジンに忠誠を誓うシーンは、2人のハモリが気持ちよく、監督からも褒められ、自信もある。歌いやすいと言ってもらえて浮かれるほど喜んだ。  「優一くん、シュウトみたいな歌い方だからすごく安心する。」  「ありがとうございます!へへっ!この間、シュウトさんと音域が一緒だって教えてもらいました!」  「そうなんだ!うわーすごいな!声高いね!」  楽しみだね、と笑ってくれるのも嬉しくて抱きつくと、あら可愛いと抱き返してくれた。  キャストも優しい対応をしてくれて、気持ちが落ち着いていた。  「見て、ユウ。あの子さ、毎日いるよ」  伊藤の送迎車からみたのは綺麗な女性。たしかによく立っているイメージだった。  「誰かのマネージャーさんじゃないの?」  「いや、この間全員に聞いたが誰も知らないらしい。誰かのファンかな。」  その時はふーん、と気にせずに通り過ぎた。 次の日、優一はすっかりハマってしまったタバコをコソコソと吸いに行った。喫煙所から見える門には昨日のあの子。そして、休憩中のジンがその子に近づいて、何かを話し、ジンが去っていくのを引き止めている。  (うわー。どろどろ…。ジンさんのファンかな。)  黙って見ていると、ジンは女の子のケータイを取り、思いっきり地面に投げつけた。 (え…?)  破片が飛ぶのも見えて、泣崩れて拾う女の子を見向きもせず、稽古場に戻っていくのを唖然と見ていた。温和なジンのそんな姿に息が留まりそうなほど驚いた。  「今日はいないな、あの女の子。」  どこかほっとしたような伊藤に、言おうか言わないでおこうか迷っていると、すぐにバレて伊藤に話した。  「あの子、ジンさんの知り合いみたい。…ジンさんと口論になってて…あの子のケータイ、ジンさんが投げて壊してた。」  「え?嘘だろ?」  伊藤も驚きを隠せないままだったが、嫌な予感がする、と岡田に連絡を入れていた。  「タカさん、ジンさんって今ピリピリしてる?」  「え?今?…前はピリピリしていたけど…。今は幸せの絶頂ぐらいだよ。どっちかっていうとご機嫌?」  どうした?と言われ、今日の出来事を話すとタカは苦笑いした。  「ジンさんにハマるやつ多いからなぁ。いっつも別れる時ドロドロよ。」  「元カノさんかな?」  「いや、ワンナイトでしょ。カナタさんが待たせすぎたからな…全く。何度もケータイ変えたり引っ越したり、大変だよ」  「へー?優しいからかな。」  「ジンさんは魔性の魅力あるからな。一回ジンさんに手が届くと、相手は勘違いして依存するんだよ。そして、ジンさんはしつこい奴が大嫌い。はじめに付き合わないって話してるのに、全員が追ってくるんだと。」  モテるのも大変だねー、とひと事のように言って笑っていた。いつも優しいジンさんのあの姿に絶対怒らせてはいけない、と優一は少し緊張した。  次の日、稽古が急に延期になって、優一はゆっくりと家で過ごしていた。何気なくテレビを付けると驚きの報道があった。  「ブルーウェーブのリーダー、ジンさんの元彼女が一方的に別れを告げられたと、赤裸々に交際の様子を週刊誌で語りました。週刊誌には生々しい写真も掲載されています。」  (え?!ジンさん)  昨日のタカの話からは、もともと慎重なジンは撮られるようなヘマはしないから大丈夫と言っていたが、写真まであがったようだ。  「芸能界では色男と有名ですよね。相手が悪かったのでしょう。」  コメンテーターも苦笑いしている。優しいイメージがついていたジンだったが、週刊誌には別れ話のゴタゴタが書かれ、ショックをうける女性たちもいたようだ。さらに、コトが大きくなっているのは、私が元カノだ、という女性が多発しているそうだ。そこから、夜がだらしないというイメージがついてしまった。  (ジンさん、大丈夫かな)  優一は心配したが、こんな時に連絡することは失礼だとグッと耐えた。  「どうして相談してくれなかったんだ。こんなことになってからじゃ、後手に回るしかない」  ジンは翔太に頭を下げるしかなかった。今までで1番しつこい女に、付き合わないと週刊誌に売ると脅されていたことをやっとマネージャーに伝えた。ストーカーに近いその子は、盗聴器やら盗撮などもはじめ、盗撮でカナタが写っていたことにジンがキレてしまった。それが彼女のスイッチを入れてしまったのだ。  「でも、ジンが無事で良かった。刺されたりしてたら…」  大変な事態にも関わらず、翔太が身を案じてくれたことに、ジンは心が痛んでもう一度すみません、と言った。事務所からは脅されていたことを公表し、ストーカーや盗撮で被害届を出すことになった。いくつかの物件を見て、また、引っ越さなければならない。 カナタ:ジンさん大丈夫?俺は大丈夫だから。  ジン:ありがと。また引っ越さないといけないや。  カナタ:うん、大丈夫。 了承をもらって、ほっとして天を仰ぐ。その後、登録してない番号からメッセージが来た。  未登録:プリンスホテル 2039 20時  ジンは目を見開いた。心臓がうるさくなって、思わずケータイを落とした。  (このタイミング…。嘘でしょ)  ゲイバーで知り合った経営者。物わかりがいいように見えて支配欲がすごい。いつも忘れた頃に何故か連絡先を知っているのだ。マネージャーに報告しようとケータイを触るとすぐにまたメッセージがきた。  未登録:ジン、遅れたら許さないよ。  今の時間は19時40分。翔太が手続き中の隙を見て焦って事務所を出た。マスコミのフラッシュに隠れてタクシーに乗って捲いてもらい、急いで部屋に行った。  『ジンさん?!今どこ?!翔太さんが探してる!』  「あ、ちょっと…。すぐ、戻るから…」  『ジンさん?どうしたの?様子が変』  「そんなことないよ。帰ったら物件探そうね、ごめんね、僕のせいで」  『そんなこといいから。今どこ!?』  「終わらせて、くるから。ごめん、待ってて。」  電話を切って、緊張しながらインターホンを押す。ガチャと開いたのは久しぶりに会う、秘書の小林さん。綺麗な笑顔で、お待ちしてました、と言われ頭を下げる。ロイヤルスウィートの部屋は大都会の夜景が輝いている。  「ジン、おいで。また綺麗になった。」  高い細身のスーツに赤ワインをゆっくり飲んでこちらを向いて微笑む。ヒゲも生えて大人の男らしい姿は憧れもある。初めて会った時はどうしてこんな人が自分を、と意味がわからなかった。  何も言わずにゆっくり近づくと、立ち上がり男物の香水の匂いが強くして全ての記憶が蘇る。  「高野さん…」 「久しぶり。今日、日本に帰ってきたんだ」  「…おかえりなさい。」  「ただいま。」  小林は頭を下げて、部屋の電気がばちんと消えて、隣の部屋に行ったところで激しく舌を絡ませ合う。夜景しか見えない空間で、ベッドに沈みこみ、服を脱がされ全身にキスをされる。久しぶりの感覚にビクビクと跳ね、シーツを握る。 「はぁ…ジン。」  「ん…っ、」  うつ伏せにされ、腰だけがあげられる。  「ここは…?」  「ん、っ、ぁ、誰にも」  「そうだよな。ここは誰のもんだ?」  「高野さんの、です。」  いい子だと、褒められ目をギュッと閉じる。 「ぅっアアアッ!あっ!」  敏感なところを激しく舌で刺激され、ガクガクと震える。久しぶりの感覚に目に涙が浮かぶ。ジンに同性の快感を教えたのは高野で、ジンは他の人に高野のような抱き方を無意識にしてしまっていた。その抱き方は、すべてを捧げてもいいというほどの快感だった。  「高野さんッ!ッ!ぁ、ダメッ!」  「久しぶりだから固いね、ゆっくりしようね」  「あぁっ、ンンッ!きついよ、んぅッ」  「可愛いよジン。」  ローションとは違うクリームを塗られ、切れてしまったのか、と不安になって振り返ると優しいキスをされる。 「ジンが久しぶりだから、おかしくなるクリームにしたよ。」  「っ!?…冗談ですよね、高野さん。」  「熱くない?1番良かったものを取り寄せたんだ。」  じわじわと熱を感じて、逃げようとするも全く体が動かなかった。暗い部屋でネオンに照らされた高野は舌舐めずりしてジンを見た。  「お前が恋愛スキャンダルなんて、許すと思った?」  「待って下さい、僕は、もう、好きな人と、繋がれたんです。やっと、想いが、かなったんです。高野さんも、応援して、くれてたじゃないですか…だから、報告と、もう最後にと。…あのスキャンダルは…一夜の…」  「応援?するわけない。ジンが私に心を開くためだ。真に受けてたのか?可愛いなぁお前は。」  「そん…な…」  「ただのセフレがここまでお前を追うと思うか?ん?」  自然に呼吸が荒くなるのを必死で抑えながら、話で解決しようと冷静を装う。  「高野さんは、僕なんかより」  「お前がハマらせたんだろ?誰を抱いてもお前を超える奴はいない。お前の歌声でさえもヌけるよ」 「ダメです。僕はもう終わりにしたくて…」  「同じメンバーの子、と言っていたな?」  この質問に目を見開いて、ジンはやめてくださいと首を横に振る。ニヤリとしていう高野に涙が溢れる。  「おっと…そんなにその子が好きなのか?」 「はい…。僕の…一生をかけてもいいほどの人なんです。」  「見せつけるねぇ…。可愛く泣いてもダメだ。大人を舐めてもらっちゃ困るよジン。みんながお前を求めても、お前を手に入れるのは私だけだ。」 「はぁーっ、はー、はぁー、ぁあ、っん、はぁ、」  喋れなくなって力なくベッドに横たわる。ギシっと軋んで上に乗る高野の体を手で押し除けるも、簡単にその手をとられ首筋に舌が這う。  (カナタ…絶対、今日で高野さんを切るから…)  今夜は許して、と目を閉じた。すると今までに味わったことのない快感に、ガクンと腰が浮いて目の前がチカチカした。  「あぁああーッ!?高野さんっ!たかのさん!アッ!ダメ!そこばっかり…ッっ!!」  「はぁっ、はっ、可愛いよ、ジン」 「んンッ!ああっ!あぁああ!!ぅああっ」  カチカチと歯が震えて、目の前の腕に必死にしがみつく。 (ヤバイ…とびそう…)  スキャンダルを恐れるジンは、ワンナイトで絶対寝たりしないと決めているが、意識が飛びそうで必死に耐える。ゆっくりと高野が入ってきて、思い出した快感に抗えない波が襲い掛かる。  「ッあぁあああーーーッ!!」  「おはようございます。お着替えはこちらに。」 「小林さん、ありがとうございます。高野さんは?」  「まだお休みになられています。あと、こちらを。」  渡されたカードキーを不思議に思うと、とんでもないことを言われた。  「本日よりご一緒にお住まいになるとのことでしたので、先に鍵をお渡しいたします。荷物などございましたら」  「待、待ってください、そんな約束していません。僕は今、同棲中です。」  「しかし…」  「小林さん、これは受け取れませんし、もう僕の番号を探すのもやめて下さい。今日が最後のつもりで来たんです。」  「そうですか。申し訳ありませんが、それならここから出すわけにはいきません。」  「え?」  小林はジンのケータイを花瓶の中に沈め、ごゆっくり、と部屋に戻ってしまった。慌てて花瓶からケータイをとるも完全にダメになっていた。今のうちに逃げようと、荷物を持ってドアに向かうもロックがかかっていて不思議に思う。  (あれ?オートロックって普通逆…)  高野がいないこともおかしいと思い、辺りを見回すと昨日抱かれた部屋ではなかった。  (え?ちょっと待って。何これ)  ガチャガチャとドアノブを回すも開く様子はない。閉じ込められたことに気がついたジンは血の気が引いた。 「どういうことだ!連絡が取れないなんて!行き先も把握してないのか!」  「申し訳ございません。スキャンダルの処理の間に事務所からタクシーに乗ったのはマスコミが写真を撮っていますが…マスコミも捲かれたようで。」  社長の怒号が響く。被害届を出して収束するはずだったのに当人がいなくなって、連絡が取れなくなった。GPSにはプリンスホテルまでの情報しかなかった。フロントに行くもチェックインされていないことで見つからないまま2日経っていた。最後に話したカナタは一睡も出来ずに心配そうに事務所で待機した。そのカナタのケータイに見知らぬ番号からメッセージがきた。  未登録:プリンスホテル 2039 カナタは目を見開いてすぐに翔太に伝えた。送り主はカナタの番号を覚えているジンだと分かり、すぐに翔太とカナタはホテルに向かった。VIPルームが多いため、入るまで時間がかかって、2039号室の方が了承をいただき部屋に向かった。  「お待ちしておりました。岡田様ですね。小林と申します。」  「突然申し訳ございません。あの、ご存知でしたら…うちのタレントでジンという者がいるんですが…」 「えぇ。存じ上げております。こちらへ。」  「「え?」」  「旦那様もお待ちです。」  入った部屋は大都会が全部見えそうな大きな窓。そこに座る品のある男性。  「高野です。お待ちしておりました。」  ダンディーで長身のその人は、ハーフっぽく西洋の外国人風でシャツとスラックスだけでも様になっていた。優しい笑顔で翔太やカナタに握手をして挨拶をしてきた。 「岡田です。突然申し訳ございません。」  「いえ。お探しはジンですね?その件でお話が。」  大きなソファーを促され、腰掛ける。またスキャンダルかと、翔太とカナタはゴクリと唾を飲んだ。  「ジンを引退させたいんです。」  「「えぇっ!?」」 「やっと仕事に目処がつきました。ジンとの部屋も用意しましたし…海外生活が長かったんですが、これからは日本にいられるので寂しい思いもさせなくてすみます。」  にこりと微笑みながら言う話に、カナタは唖然としていた。翔太は冷静で顔色を変えないまま話を遮った。 「ジンの意思をきかせてください。」  「私と同じです。」  「なら、今、ここに連れてきてください。社会人なので自分でケリをつけてもらいます。今進行中の仕事もたくさんあります。」  「それは私がすべて責任を負います。」  「ジンを出して下さい。」  岡田は強い口調になると、高野は小林に合図して呼びに行ったようだった。連れてこられたジンはバスローブをゆるく着て、今起こされたばかりなのか、疲れ切ったように力が入らないまま、ぼんやりした目をしていた。  「ジンさん?…ジンさん…?」  「…っ、?」  「あぁ、二日酔いかな?ジン、おいで。」  カナタの呼びかけよりも高野の声に反応し、高野の膝の上に座ったのに2人は目を見開いた。高野はジンを愛しそうに抱きしめ、髪を撫でてこちらを見た。  「ジンはもう私といれば満足なんです。今までお世話になりました。」  「ジンさん!?ねぇ!ジンさん!!大丈夫!?なんか変だよ!」 カナタの声にピクッと反応したジンがゆっくりカナタを見ると、優しく微笑んだあと、ハッとして高野を見ると暴れて高野から距離をとった。  「…っ!カナタ、翔太さん、ありがとう!迷惑かけてごめんなさいっ!帰ろう!」  「ジン、お前か、この2人を呼んだのは。」  じりじりジンに近づく高野に腰が抜けたのか目を見開いたまま、動かないジンにカナタが動いた。  「ど、どういう関係ですか!?あなたはなんなんですか!」  「何って。ジンの飼い主さ。」  「飼い主?」 「放飼いにしてたら誰にでも腰を振る子になっちゃったから。躾が必要だよ。」  「ジンさんは俺のです。ブルーウェーブのです。」  その言葉にピクッと反応した。  「君かい?ジンの求愛にも気付かずのうのうとそばにいた鈍感な子は。君が応えなかったからあのスキャンダルや、私に会うきっかけになったんだ。全ては君のせいだ。…でも、感謝しているよ。こうしてジンと私が出会えたんだから。どんな人よりも1番イイ。人を惑わす才能があるのさ。」  カナタを見たあとに、愛おしそうにジンを見て、固まるジンの唇をなぞった後、首筋へと滑らせた。 「そんなことはどうでもいいです。ジン、芸能界辞めるのか?」 翔太はいつまでも冷静で、高野の言葉よりも直接ジンに問いかけた。 「辞めません。続けていきます。」  「そう。なら話は終わりです。ジン帰るぞ」  頷いて立ち上がったジンの腕を引いて、高野が近くのソファーに押し倒した。突然のことに翔太も目を見開いて固まった。 「黙って帰すわけないだろう?まだ私は満足していない。やっと捕まえたんだ。」 「高野さんっ!ンッ!っ、は、っ、やめてくださいっ、みんなの前でッ!」  「渡さない。ジンは誰にも渡さない。小林、こいつらを出せ。」  「承知しました。」  小林がお引き取りを、とカナタと翔太をジンから離しドアへと連れて行く。ジンは必死に抵抗するも体格差で簡単に抑えられていた。 「やめてください!!も、終わりです、ッ!やだ!本当にっ、お願いします、」  「ダメだ。お前は私のものだ。ふふ…みんなに見せつけてやればいい。」  バスローブの中に手を入れる高野に、ジンは顔面蒼白で抵抗したが、うつ伏せにされ上から体重をかけられて動けなくなった。抱かれ続けヒリヒリするそこに熱いものが擦り付けられ、涙目で振り返る。 「うそだっ!高野さん、っ、まさか!ッ!お願いします!せめて、っ、ここでは、やめてください!っぁ、っん、っ、っん、たか…のさん…ーーーんっっ!!」  「あぁ…っ、最高だよ、ジン…お前のナカは本当に堪らない…いいよ、もっと締め付けて…」  「ッーッ、っぁ、ぃ、やめて、も…ッ」  「赤く腫れてるね…ここ、昨日も散々可愛がったから…」  「ッ!ーーっ、カナタ、っ、見ないでっ…」  焦って抵抗するも高野に入れられたのを見られ、ジンは顔を腕で隠して涙を流した。高野は泣いているのも無視して、実況するかのような言葉攻めと、恍惚の表情でジンを見て、激しい腰の動きでガンガンにジンを攻めていた。唖然と見ることしか出来ず、小林が2人の背中を押して出口に歩かせれば、後ろからだんだん大きくなるジンの絶叫が響き、カナタが耳を塞いで泣き崩れた。疲れ切ったように倒れこむジンから満足そうに高野が離れた。すると翔太が小林の隙を見て、くるりと2人の元に戻り、余韻でガクガクと震えるジンを無理矢理引き摺るように抱き上げた。  「お前、何のつもりだ!」 「カナタ、お前も手伝って!重い」  「はい!」  足に流れる白濁にカナタは涙を拭いて、近くにあったバスタオルで包んだ。  「小林、何してる!」 「フロントからマスコミが来ていると連絡が…」 「チッ!こいつらをさっさと出せ。ジンも今日は出していい」  そういうと高野の部屋を出て、小林がジンがいた部屋から荷物を出して体を拭いてくれた。  「マスコミは嘘です。話を合わせてくださいね。」  「ありがとうございます!」  「ジンさんをよろしくお願いします。」  小林は着替えも手伝ってくれ、高野の対応もしてくれるようだった。  「体力をものすごく消耗していると思います。しばらく休ませてあげてください。」  そう言って頭を下げてドアが閉まった。ジンは疲れ切って眠ったままだ。カナタは手を握って泣き続けた。 (俺のせいで、ごめんなジンさん)  事務所に着くと社長が疲れ切ったジンを見て、頬を撫でた。ほっとしたようでオフにするよう指示した。カナタの家につくと、ベッドに寝かせて翔太とカナタはずっと寝顔を見ていた。 「モテすぎるのも大変だな。」  「ジンさん…俺のせいで」  「違うよ、ジンが魅力的すぎるのか、引きが悪すぎるのか、だよ。あんなお金持ちで俳優みたいにダンディーなおじさまがジンに夢中なんて…世の中わかんねぇな。目の前でヤりはじめたのはさすがにびびったわ」  「ジンさんショック受けてないかな…それが心配」  「目を覚ましたらお前が笑顔で抱きしめてやれ。そしたら大丈夫さ。」  うん、と頷いて翔太を見送った。  「ん…?あれ、?」 「ジンさんおはよう!って夜だけど!」  「カナタ…」 「ご飯できてるよ、食べよ?」  何でもないように接すると後ろから抱きしめられ、胸が苦しくなった。  「カナタっ…カナタ」 「ジンさん、大丈夫だよ。」 「忘れて…お願い、忘れて」  「ん。分かった。」  それがジンの希望なら忘れようと思った。素直に言うとほっとしたように力を抜いた。 「戻ってこれないかと思ってた…連絡気付いてくれてありがとう。」 「すぐジンさんって分かったよ」  「カナタの番号しか浮かばなかった。」  作った食事を食べてくれて、目の前で笑ってくれるのが奇跡のような気がして、風呂上りにギュッと抱きついた。 「ジンさん。ジンさんがいないのも、怖かった。あの人に取られたくないよ。」  「ごめん、お別れしに行ったつもりが…本当恥ずかしいよ。」  「ジンさん…ごめんね、俺が…」  「カナタ。ね、忘れて?…カナタ、僕のあんな姿見て…幻滅してない?」  震える声にハッとして顔を見ると今にも泣きそうだった。  「昔…カナタに惚れてすぐぐらい。男同士ってのに葛藤して…その気持ちのまま、スタッフさん達とゲイバーに行ったら声をかけてもらったんだ。苦しい気持ちを理解して、共感してくれて、励ましてくれた。…そこからの付き合いだよ。」  「そうだったんだね」  「でも、あの人、僕を本気で閉じ込めた。知らなかったんだ、あんなに執着されてたことに…しつこいのは女の子だけかと思ってたから。でも、もう全部切るよ。僕はカナタだけが必要なんだ。」  甘えるように抱きしめてきたジンを受け止めた。苦しい思いをさせた分、たくさん幸せにしなきゃとカナタは笑ってキスをした。  「ジンさん!大変でしたね!」 「ご心配おかけしました。優一くんが伊藤さんに声かけてくれたんだよね、ありがとう」「いえいえ!また一緒にお稽古できるの嬉しいです!」  復活したジンに嬉しくなり、その日はそばを離れなかった。  「ジンさんどうだった?」  「ん?元気そうだったよ!」  「それは良かった。…チッ、この高級車邪魔だな」 「朝もいたよね?」  「またジンの関係者だったりして」  「伊藤さん!縁起でもないこと言わないで!」  そのまま車を後にしたが、事務所に帰って伊藤が翔太に話すと慌てて事務所を出て迎えに行ったようだ。  次の日からはその車はなかった。

ともだちにシェアしよう!