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第72話 再会

「っあ!!アァッ!だ、いちっ」  「ん…ココでしょ?」  四つん這いの正樹を後ろから攻めたてると、支えきれなくなった両腕がガクンと落ち、腰だけが高くあがった。すっかり受身にハマった正樹は、疲れれば疲れるほど激しいのを望んで、欲情した目で誘ってくる。新曲制作中の時には会えなくて、正樹の方がピリピリしていた。  「あぁー!ッッ!!っ!あっ、ふぅっ」  「はっ、はっ、正樹、正樹っ」  「んぅっ!ーっ、ぁ!キタ、ぁあ!ああ!」  ゾクゾクと背をのけぞり、ギュッとシーツを握る。全身が赤くなって、正樹の限界を感じ、そのまま絶頂につれていく。  「だいちっ、だいち!っああ!ッ!んぅ…ッ!っぁ!あ!あ!ああ!」  奥だけを小刻みに攻めると、異常なほど身体が跳ねて、パサリと髪が揺れた。ものすごい締め付けに、青木もそのままもっていかれる。  「あぁああッ!!ッあぁーーッ!!」 「ッ!んぅ、ん、ッ」  ギリギリで正樹の背中に撒き散らし、ドサッとベッドに倒れる正樹の髪を撫でる。  「はぁっ、はぁっ、やっばい、もぅ…気持ちよすぎ…」  「んふふ、ハマっちゃったね〜」  「あぁ、まんまとな…。でもさすがに僕が怖いのがさ、RINGの曲が流れて、大地のパートなると勃ちそうになる」  「あっはは!えー!?そうなの?」  ん、と振り返るのは、抱きしめてほしい時。普段管理職で気を張ってるせいか、青木にはとことん甘えん坊になるのが、青木のツボだった。正樹の背中やお尻を綺麗にして抱きしめると嬉しそうに笑う。その笑顔はうちの事務所にいてもおかしくないくらい綺麗な顔で青木はドキドキと胸がうるさくなる。  「あの新曲やばすぎ!ユウさんと大河のところ?歌合戦みたいな掛け合いのところ!あっち大好き。見て、たくさんスクショした。」  ケータイの画像には、2人のドアップのところが数枚スクショされ、青木は爆笑しながら見ていた。なんだかんだ正樹はユウのファンで今回のミュージックビデオを大絶賛していた。  「俺のところはしないの?」  「そんなことしたら仕事中ヤりたくなるだろ?バカだなー」  「バカはどっちだよ。仕事に集中しなさい」  唇を重ねると気持ち良さそうに身を委ねてくれる。 「明日…飲んでから帰るから」  「ダメ。明日月次報告あるからその後そばにいてほしい」  「正樹お願い!」  「ー…」  正樹は嫌なことがあると無視するクセがある。クスクス笑って、一緒いく?と聞くとコクンと頷いた。正樹はお酒が好きで、エントランスや玄関の廊下でよく爆睡して青木が回収していた。  「芸能人と飲むんだよ?」  「ユウさんもいる?」  「いるけど…」  「うー!あの可愛い顔見たいけど、大地を行かせたくないよ。俺が舞ちゃんのところ行くのヤだろ?」  「うん!絶対ダメ!…でもユウの彼氏も一緒だから。」  「タワマンの?」  「見たら驚くよ」  行くー!とテンション上がって笑うのを見て、青木も嬉しくなった。思わぬお誘いも嬉しかったのだ。  水曜の夜は定休日と書かれたバーに、青木はキョトンとした。  (あれ?場所間違えたかな)  「大地!ここ定休日じゃないの?」  正樹もネットで調べ、定休日の文字を見せた。戻ろうとした所で、ドアが開き、タカが顔を出した。  「おっ?イケメンも一緒?お疲れ」  タカを見た正樹はやばいやばい!と喜んでいた。  「あー!正樹っ!お疲れ!」  「んー!ユウさんっ!今日も可愛い!」  入り口で正樹に飛び込んだ優一を抱きしめて、正樹は嬉しさを噛み締めていた。青木も微笑んでカウンターを見ると目を見開いた。  「えっ?…ママ?」  「大地っ!」  全員がママ?と首を傾げると、カウンターから出た綺麗な女性が青木に抱きついていた。  「息子さんなんだって!驚いたわー!」  麗子は料理を持ってきて、座ってと誘った。青木は疑問でいっぱいだった。パパがこんな所を許すわけないのだ。  「親子水入らずで話して。隆人たちはこっちでね。あら、イケメンお兄さん、貴方は?」  「えっと、大地の友人です。」  営業マンらしい爽やかな笑顔で言ったのに、青木は少し苛立った。  「そうお名前は?」  「正樹です。」 「はっ!正樹!君か!」  タカは優一と青木のやりとりに出てきた名前に驚いた。優一の隣に座らせてお酒を頼んだ。  「ママ、こんな所にいて大丈夫なの?」  「…大地に話せてなくて、ごめんなさい。…ママ、もう疲れちゃった。」  「え?」  「今、あの家には、大空のママがいるわ。」  怒鳴り散らさない薫を初めて見た青木は、何かあったんだ、と息を飲んだ。  「アメリカの留学先で三人で暮してたんだって。ふふ、でも、解放された気持ちなの。あなたにも辛く当たってしまったわ…。本当にごめんなさい。必死だった、私の子どもの方を愛して貰いたかったの。でも、私自体がダメだから…大地の個性も見逃して、居場所も奪って、ついに1人になったわ。」  独り言のようにいう薫はどこか安心した様子だった。 「昔この辺りでずっと遊んでいたの。クラブ通いして、そしたらショーパブの方に誘ってもらってダンサーとして働いたの」  「え!?そうなの!?」  「そこでパパに声をかけてもらって、あなたが生まれたの。でも、パパは私とは遊びだったから…あなたを妊娠して、結婚したのはいいけど、その日から家にふさわしい女性でらいるために大変だったし、当たりはすごかったわ」  苦笑いしてこちらを見る薫は、思い出したように辛そうに見えた。  「私に似た大地を周りが褒める時だけ、私や大地に優しかった。ただ隣にいるマスコットみたいに、綺麗にしろ、とばかり言われたわ。美容にお金をかけて、ハイヒールを履いて。でも、大地が高熱を出した時、私何も出来なかったの。ただ大声で泣くあなたの隣でどうしていいか分からずに私も泣いてたわ。子どもが子どもを産んじゃったようなもの。そこからたくさん勉強して、保育園の行事にも参加したけど、それがパパは嫌だったみたい。」  青木は幼い頃を思い出した。楽しかった運動会の後に、怒鳴られている薫。青木は幼心にかけっこで負けたからだ、と思ったのだ。  「お前に子育てはできないし、似合わない。お前はオンナとして隣にいろって。でも私は母親になりたかった。だから、突然現れた大空だってちゃんと育ててやるって、必死だった。でも、勝てなかったわ。頭の良いあの人には。ずっと知ってた大空のママ。やっと家庭に入る決意をもらったんだって。だから、私はいらないって。」  美味しそうにウイスキーを飲んで、青木を見た薫は綺麗に微笑んだ。  「ごめんね、大地。私、いいママになれなかった」  その後、薫は目の前の麗子を見た。 「麗子さんに拾ってもらえなかったら、会えてなかった。この事を伝えられてよかった。仕送りもありがとう。もう…大丈夫よ。あなたの活躍は街を歩けばよく分かった。1人で頑張ったのね。偉いわ。」  薫が青木を見て頭を撫でると、青木はボロボロ泣き始め、それを薫は笑って抱きしめた。  青木は、この言葉が、こうしたスキンシップが欲しかっただけだった。嗚咽が出るほど泣き、頑張ったのね、と言われるたび嬉しくて胸がポカポカした。  「青木…良かった」  「何でお前まで泣くんだよ」  「前、話したでしょ?誕生日のときの話。青木が欲しいのは家族からの愛なんだよ…ずっと認められたくて、頑張ってきたんだ」  正樹も微笑んで見ていたが、だんだん正面を向いて静かに飲み始めた。  「大地、実はね…大地も籍からぬかれちゃったの。ごめんなさい」  「いい…っ、ママのところでいい」  「ありがとう。でも、もう仕送りはいいのよ。ありがとうね。あなたはあなたの幸せのために生きなさい。」  「ママ今どこに住んでるの?」  「今は…ゲストハウスよ。おうちが決まったらまた連絡するわね。」  「じゃあ俺の部屋に来てよ!」  正樹が思いっきり振り返ったが、青木には薫しか見えていなかった。  「でも…」  「俺はママと一緒にいたい」  青木が素直に甘えると、薫はこの日初めて涙を流した。青木はご機嫌になり、今までのことを楽しそうに薫に報告していた。薫は楽しそうに笑ったり、共感して悲しい顔になったりと青木だけに時間を使った。青木がご機嫌になるのに比例して静かに飲んでいた正樹はペースが上がっていった。麗子が心配するも、笑顔で大丈夫ですと言い、何かを消すかのように酒を流し込んだ。  「正樹っ!もうだーめ!」  「ゆうさん、いじわる、しないれくらさい」  「ダメ!呂律回ってないよ!もうやめ!」  「そこのいけめん、おにいさん、タワマンにいるって?」  正樹はタカに絡み始め、優一が慌てて止めるも、タカの隣に座った。  「そこにはね?ぼくの、あいした、まいちゃんがいてさ、おかねでぜーんぶ、ぼくからうばっていったの」  「へぇ〜」  「だから、おかねもちが、だいっきらいなんだぁ!」  「そっか」  「かわいいゆうさんもいて、おかねもあって、いいですね?」  「あぁ。最高だよ。まいちゃんも幸せだろうな?」 タカの煽りに優一がちょっと!とタカを止める。タカも酔ってるのか受けて立ちそうな雰囲気に優一がおどおどする。  「ぼくみたいな、サラリーマンのきもちなんかわからないくせに」  「知らないよ、やったことないんだから。」  「顔がいいだけでげいのうじんになれてさ…」  「なら、お前もなればいいじゃん。顔綺麗よ」  「そーゆーことじゃなーい!もうぐちゃぐちゃだ…!いみわかんない」  「おうおう、泣け泣け。泣きたいだけだろ?」  タカがハグをするとわんわん泣き出した。優一はケンカにならなくてほっとしてタカを見た。  「酔っ払いの相手は任せとけ。こいつは今泣きたいだけだ。」  「そうだったんだ。正樹、お疲れさん」  優一は苦笑いして正樹の背中を摩った。 「大地はぼくが泣いてもきてくれない!」  「あはは!なーんだ、嫉妬?今はお母さんとの感動の再会なの。我慢して?」  「一緒に住むって、ママと一緒にいたいって」  何で泣きたくなったのかを知って複雑な気持ちになる。誕生日の青木を見れば、幸せな光景だが、知らない正樹には取られたように思ったのだ。 「ぼくがいるのにっ、ぼくにはいっしょにすみたいっていったことないのに」  「そりゃ家族とお前は違うだろ」  「わかってる!わかってるからぐちゃぐちゃなんだよぉばかぁ〜!」  「あーあ、タカさん泣かしたー」  「隆人!初対面の人をいじめないの!」  ヘラヘラしてるタカも酔っているようだった。  深夜1時を回って、正樹は完全に潰れ、優一は麗子と楽しそうに話し、その優一を膝に乗せて身体を撫で回すタカというカオスな状態になっていた。青木は早速今日から来てよ、と薫を誘い、正樹と薫を連れてお店を後にした。  「ママ、向こう側持って」  正樹をタクシーから降ろし、部屋まで行く。合鍵でドアを開けて寝室まで運ぶと、薫は不思議そうに見ていた。  「友達同士合鍵持ってるの?」  「友達じゃないよ、恋人」  「えっ!??」  「俺の好きな人だよ。」  固まる薫の手を引いて自分の部屋に向かうとノンタンが警戒していた。  「おいでノンタン。ママだよ」  「ノンタンって」  「ママが買ってくれた絵本のキャラクターだよ」  そういうと薫は涙を拭いて笑った。だんだんノンタンも慣れてきた。  「ママ、自由に使ってよ。ノンタンも慣れてるから大丈夫だよね?俺、正樹のとこ行ってくる。」  「ふふ、お言葉に甘えて、ノンタンとゆっくりさせてもらいます。」  正樹の部屋に行くと、スーツのままベッドで爆睡している。脱がしてやって、頬を叩く。  「正樹、お水飲も」  「いやだ」  「正樹っ」  「いやだ!お前、ぼくのこと、見てくれなかった!きらい!」  正樹の嫉妬にニヤニヤして、酒臭い唇にキスをした。きもち良さそうなのに全く反応しないそこが面白くて、下着を脱がし、口に含むと、甘い声が漏れた。青木も酔っているのか正樹が甘く感じて全身を口で愛撫する。緩く勃ち上がったものを握り、トロトロの穴に指を入れるとビクッと跳ね上がった。  「んぅ〜!っああ!はぁっ、ん、」  「正樹、ママに紹介したよ、恋人って」  「あああっ!!あっ!」  「なのに、正樹は友人ていうし!ムカつく!」  「あぁああ!んぁああ!はぁっん!」  青木は酒を飲んだにもかかわらずデカくなったモノを一気に入れ込んだ。  「ッああああああー!!」  「くっ」  「は、は、はぁ、ぁ、ああ、ッ」  「正樹、正樹」  青木はテンションが上がっていた。やっと報われたような気がした。いつも見てくれない家族が、そばにいてくれて話を聞いてくれて、褒めてくれた。家族は減ってしまったがそれでも、幸せだった。  「もぉ無理ぃ!だいちっ!むりだよっ!」  「正樹、正樹が好きっ」  「分かったから!分かったから!」  顔を真っ赤にして、気持ち良さそうというよりは辛そうだ。慌てて自身を抜いて、様子を見ると顔面蒼白になり、慌ててビニール袋を正樹の口元に持っていくと、胃の中のものを全て吐き出して泣いてしまった。  (無理させた…)  後処理をしてやって、正樹に水を飲ませるとウトウトしながら飲んで、顔色がよくなった。 「ぅうー!」  呻き声で起きた青木は、隣の正樹をみると二日酔いに苦しんでいた。青木は仕事のために出かけようとベッドから出ると、腕を引っ張られた。  「行かないで…」  「正樹、仕事」  「……」  「正樹、あのさ…俺もここに住んでいい?家賃半分出すから」  「え?」  「ママに、俺の部屋を譲りたい。正樹の部屋でノンタンも一緒に暮らしていい?」  「だってママと一緒にいたいって…」  「ママも久しぶりにゆっくりさせてあげたいんだ。今までずっと監視されて家からも出られなかったから。しばらくは行き来するかもだけど。ママはまだ若いから出会いがあるかもしれないし。」 そう言うと正樹は目を大きく開き、大きく頷いて抱きついてきた。  「そうだな!ふふっ!嬉しい!これから楽しくなるなっ!」  正樹の笑顔に青木も元気になって仕事へと向かう。薫には正樹の部屋に住むこと、この部屋の家賃は青木が支払うことを伝えるとありがとうと泣き始めて抱きしめた。  『感謝している人はいますか?』 『母です!ここまで俺を育ててくれました!』 「パパ、兄さん、ママに会ったんじゃない?」  「どうでもいい。」  「ふーん。じゃあ何でパパ機嫌が悪いの?今のママの方が好きなんでしょ?」  「子どもには関係ない!お前は向こうへ行ってろ!!」  はぁい、と去っていく大空を見送って、大空が付けたテレビを見る。スポットライトを浴びてキラキラした息子。薫にそっくりな顔で笑うと、会場から歓声があがる。新曲1位が長く続き、さすがに情報が入ってきた。結果を出してもらえれば見え方は変わってくる。ここまで成長したのに嬉しさもあった。 青木大志は、ずっと静かに隣にいた薫を追い出したことで逆にストレスが振り切っていた。今までどれだけ当たっていたのかを身をもって体感していた。  「薫…」  頭を抱えて下を向く。音楽が流れて顔を上げると、かっこよく踊る姿が、薫と初めて会った時のような感動があった。スポットを浴びていた薫は美しかった。その姿を自分のものにしたくて手に入れた。自分がスポットライトから当たらないところに閉じ込めたのに、輝きが無くなったことで強く当たり、責め続けた。比べては罵倒し、大地の存在さえ邪魔だと思ってしまっていた。不器用だけど一生懸命で、なにより美しかった。隣にいるだけで通行人が振り返る優越感があった。音楽や芝居が好きで、デートは専ら薫の好きな舞台やコンサートや映画館。だいぶ年下の彼女の嬉しそうな顔を見るのが好きだった。 「もう…いいです。私は、あの人には何もかも敵いませんでした。あなたの愛情も、もうしばらく感じられていません。ご家族3人でどうか幸せに暮らしてください。私は大地を引き取ります。これで、あなたの名前を汚す人はいません。大変お世話になりました。私はあなたを愛していました。…こんなことも、あなたには興醒めするセリフですね。最後まで、ダメな女ですみませんでした。」  少ない荷物を持って出て行った薫。いつの間にか大地の私物も整理していたのか、綺麗さっぱり無くなっていた。やっと手に入れた女がいると言うのに、いつまでも気になってしまう。  「大志!お客様よ。」  アメリカから帰ってきて薫を追い出し、3人で住む。理想のはずが、違和感しかない。  「あぁ、ありがとう。」  仕事がバリバリの大空の母親、那月。要領良く無駄がないからイライラすることもない。しかし、癒されることもない。  他愛のない話をすることは無駄である那月は付いているテレビを消してスタスタと自室へ戻った。 「アイドルが出る音楽番組…そんなもの見るなんて。あなた、あの女に影響受けてんじゃないの」  捨て台詞はぐさっと刺さっていた。来客を迎えようと立ち上がった時、キラキラしたネックレスが落ちた。薫が出ていくときに返されたものだ。大地の妊娠を泣きながら伝えた薫に、嬉しくて後先考えずにプロポーズをした。手持ちがなくて、いつもデートに用意していたプレゼントを渡した。その時のものをいまだに大切にしてくれていた。ショーパブのダンサーと知って、家族の大反対を受け、立場に見合うようにと薫を制限し続けた。笑顔がなくなったのはいつからだろう。ヒステリックに泣いているのをいつも暴言で黙らせていた。  「よく…似合っていたよ」  サラサラと手を流れる細かいチェーンのネックレス。そこにはペンダントと、結婚指輪が掛かっていた。 

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