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第73話 制裁

酔い潰れたタカを隣にして優一は麗子と話が弾んでいた。聞き上手な麗子は、優一にとってアンリみたいな存在で話しやすかった。タカにも言えずに悩んでいることをぽつりぽつりと吐き出した。  「麗子さん、俺、やっと外に出られるようになって…。すごくみんなに迷惑かけたんです。みんなに恩返ししなきゃって…本当に感謝しかありません。仕事もセーブしてもらって、最近落ち着いてきました」  「そう。大変だったのね」  「近付いてくる人が怖いです。なんか裏があるんじゃないかって。だから今回の新曲はほとんど自分たちでできる範囲はやりました。メンバーも頑張ってくれました」  優一の笑顔に麗子は安心して笑い、最高の曲だわ!と言うと花が咲いたように笑った。  「嬉しいです!発表直前までストーカーとかアンチファンもいて…やっぱり辞めようと思ったんですけど、メンバーが耐えてるので俺も頑張ろうって!」  「無理しないの。怖い思いしたのね。」  手を握られ、母親みたいな温かさに安心する。今日は来てよかった、心がポカポカしていた。  「あの、麗子さん。俺、タカさんにご飯作ってあげたいんです。でも、俺やったことないから、実験失敗みたいになっちゃうんです。よかったら教えてくれませんか?」  そういうと麗子は大喜びして、タカの大好物を教えてくれると約束してくれた。優一はまだ遠いタカの誕生日にむけて練習しようと意気込んだ。  「ユウちゃん器用そうなのにね」  「食べるの専門です!」  「たしかに!美味しそうに食べるわね。これ食べてごらん」  口に入れられた煮物は蕩けそうなほど旨い。  「うんまぁああああ!美味しい〜!!」  「うっふふ!もぉ〜可愛んだから!」  「麗子さん、あー!」  口を開けて待つと、爆笑しながら入れてくれる。  「タカはベタ中のベタ。肉じゃがが大好きなの。可愛いでしょ?あとは…そう、ハンバーグ。隠してるけど味覚は子供っぽいのよ」  「んー!肉じゃがうまぁあああ!」  「あらあら。こんな時間からそんなに食べて大丈夫?」  「俺はオフだから大丈夫です!鍋ごと食べられそう!」  「ダメよー!料理は見た目から。器は洋服みたいなもの。ちゃんとオシャレして好きな人に出さなきゃ。だから、ほら。」  綺麗な小鉢に、バランスよく盛り付けられている。  「うわぁ!ご飯屋さんだ!」  「もう!ユウちゃんバラエティー向いてるのにもったいないわね」  笑いながら言う麗子を見ずに、肉じゃがに釘付けだった。  「いっただきまーす!」  「だーめ。俺の」  「あー!横取りー!!麗子さん!タカさんに取られたぁ!」  「あーもう。ケンカしないの!…ふふっ、あなた達兄弟みたいに…あははは!2つ分用意するわね?」 麗子が裏に行くと、タカは優一の唇に噛みつき、舌を絡ませた。 「んっ、…ちょっと、や、んぅ」  「っ、ふふっ、お裾分け」  酔ってトロンとした顔で微笑まれ、優一はボンッと顔が赤くなった。目を逸らすも、優一?こっち見てと頬を撫でてくる。 「こら!こんなところで口説かないの!」  小鉢を持ってきた麗子に叱られるも、愛おしそうに優一を見つめるタカに、優一はドキドキして目を逸らし、肉じゃがに食らいついた。味がわからないほど、隣の視線が気になった。  「俺のもあげる」  「いいの?」  「食べてるとこ、見せて。エロい。ほら、早く食べて。口が可愛い」  「隆人、気持ち悪いからやめなさい」  「そ、そうだよ、やめてよ」  「またラブホ行くか!あ、翔太さんに殺されるな…」  タカはもう麗子がいるのを忘れているのかベラベラと喋り、最終的に頭を叩かれていた。 ごめんなさいね、と苦笑いするのに首を振ってモグモグと平らげた。タカはいよいよ際どいスキンシップを始め、慌ててタクシーに乗せた。  「うー、重たい。」  引きずるように歩いてエントランスに着くと、タカは何度もキスしようとするのを必死でかわす。  (誰が見てるか分かんない。頑張ろう)  やっと最上階フロアにつき、エレベーターを降りると、人が立っていて驚いた。  「こ、こんばんは!」  緊張しながら声をかけると、三輪が振り返った。優一は瞬時に自分の目つきが変わるのが分かった。  「何のようですか?」  「タカに用事が」  「そうですか。」 優一は携帯電話を取り出して伊藤にかけた。  「伊藤さん、事務所?…うん、今ね、タカさんのマンションに三輪さんがきてるよ?翔太さんいる?」  三輪は聞いた瞬間慌ててエレベーターに向かったのを優一は掴んだ。  「逃がさないよ。自分だけ逃げられると思うなよ」  「っ!」  翔太が10分で向かうと聞き、三輪を中に入れた。玄関に突っ立ったままの三輪を冷たく見た。タカは先に寝室へ入れた。  「三輪さん?俺さ、酷い目に遭ったよ。知ってるでしょ?俺にああなって欲しかったんでしょ?まだ足りない?まだ壊したい?」  「そんなんじゃ…」  「サナにはそんなことしないでね」  「…」  「ちなみに、サナは今ラジオの生放送中だよね?こんなところでサナのマネージャーが何してるの?タレントのマネジメントより恋優先?」  「サナは1人でも…」 「そういえば、俺の時も連絡取れなかったよね。何してたんだろうね。こうして男を追いかけてたんだね?」  優一は三輪をしっかり見た。  「気持ち悪っ。」  「っ!」  「タカさんに振り向いてもらいたいならさ、まず…仕事ちゃんとしたら?」  「私はちゃんと」  「ちゃんとの意味、分かる?三輪さんがしてきたことの逆をしろって言ってんだよ。」  優一の圧力に、三輪は目を見開いて何も言えなくなって震えだした。  「俺は、三輪さんを含むあの時の大人を許さない。三輪さんなんかタカさんに相応しくない。」  三輪を壁に追い詰めて、顔を横に両手を壁について、優一はニヤリと笑った。  「三輪さん、社会人なら大人の4、5人から自分で逃げればいいと言ったらしいね?やってみてー?」  「っ!」 「もう一度言うよ。俺は三輪さんを許さない。何するか分かんない俺から逃げてみて。タカさんに抱いてもらえない可哀想な三輪さん…俺が抱いてあげようか?」  ガチガチと震える顔をにどんどん気持ちが冷めていく。  「ほら、逃げてみてよ。俺なーんにもしてないから簡単でしょ?…それとも、俺でもいいの?ヤりたいだけなの?男に狙われるような弱い男にヤられたいの?ねぇ?」  ガチャン  「おわっ!ユウ、何やってんだ」  「翔太さん、遅いよ。15分だよ」  「ごめん、確認作業があって。…三輪さんどうやってタカの部屋を?」  「元マネージャーだから…」  「そう。で?用事は?」  「……。」  「ないようだな。社長、ご判断を」 優一も三輪も、え?と答えると、翔太が電話をスピーカーにした。  「サナは放送中だがお前はどこにいるんだ?」  「あの…サナは1人でも大丈夫なので」  「そうだとして、なぜこんな時間に担当外のタカの部屋に?業務外でのタレントの接触は許さない。…翔太、今すぐ事務所に連れてこい。大河の件も含めて三輪には聞きたいことがある」  「かしこまりました。」  三輪は顔面蒼白で翔太に連れられて行った。 「んー…優一〜?」  イライラが収まらなくて風呂に浸かって、落ち着いた頃にあがると、タカが優一を探して部屋を彷徨っていた。目は半分もあいてないまま、フラフラと歩くのにクスクス笑ってお腹に抱きついた。  「ここでしたー!」  「ん…いた」  つむじにキスされて、嬉しくなる。三輪からも守ったという優越感で上を向いてキスをした。眠そうにしていたタカの目に欲が篭り、首筋に噛み付かれた。  「優一…、三輪来てたの?」  「ぅん、ッ、きてたよ、」  「また、守ってくれたんだな…?ありがとう」  ピリッと痛む首筋さえも愛しくて抱きしめる。  「三輪、クビだって」  「そっか…。どっちでもいいや…」  「翔太さんが、お前にお礼をって…証拠がないと動けなかったそうだ」  「絶対、タカさんは渡さないもん…。あと、三輪さんは許さない」  「あぁ。俺も許さない。お前をあんな目に遭わせたんだ。あいつはダメだ。」  「大河さんも…三輪さんで苦労してたから…タレントに愛がない人はいらない」  そうだな、と見つめ合い、静かなキスをした。  「優一、大丈夫、大丈夫だよ」  「ん。大丈夫。」  少し動揺したのが分かったのか、タカは笑顔で目を見つめてくれて安心した。  「優一、もういい?」  「え?何が?」 「俺、母さんの店から我慢してる」  「ぅえ!?酔い覚めたんじゃないの!?」  優一は、ひっと息を吸って自分の部屋に逃げた。酔った時のタカはしつこくて体力がもたないのだ。  「優一〜?」  「た!タカさんもう寝なよ!明日早いでしょ?」 鍵を閉め忘れて、ガチャと入ってきたタカに隠れようと布団を被ってガードすると、布団の上から覆い被さってきた。 (やばっ!捕まっちゃった)  「優一?みーつけた」  (もうホラーだよ!タカさん!)  優一は体力温存のために大人しく受け入れることにシフトした。  のを、後悔した。  「あぁああー!っああ!やぁだ!やだぁ!」  「はぁっ、はっ、優一、優一」  「はなしてよぉ!イきたいっ!んぅー!あっあァ!!タカさんっ!お願いっ!」   ぎゅっと握られ、俺と一緒にと言われ、イかせてもらえない。ひたすら耐えて、優一は涙を流してお願いするも優しい顔してイイ所を攻められる。  グリグリッ 「ぅあーッ!!あっ!ンー!!っぁ、ぁ、ぁ、ああっ、ああ!!」  (あ、もう、無理なやつだ、これ、ヤバイ!)  ググッと勝手に反っていき、ぎゅっと目を閉じた。 「はぁっ!タカさんっ!!!ッ!ーーッ!んぅーー!!!」  「はぁっ、可愛い、可愛いよ、優一」  「いやぁああ!やめてよぉ!」 「ンッ…はぁ、可愛すぎ…っ」 出させてもらえず、逆流するかのようにパンパンに腫れあがり頭を振って快感を逃すも蓄積されたものは消化できない。どうしたら解放されるのか分からず目の前の恋人にしがみつく。タカは優一の顔を見ては舌舐めずりして更に奥に打ちこんでくる。ひたすら揺さぶられて、中だけで何度も絶頂を迎え、タカのアラームが鳴るまで続いた。 ピリリリリ ピリリリリ  近くにあるケータイを取るのもしんどいほど身体が重いがなんとか電話に出る。  「もしもし」  『ユウ…さんっ、』  「サナ?どうしたの?泣いてる?」  泣いているのか、鼻を啜る声がして、心配になり、起き上がった。  『三輪さんが、今日付けで、っ、退職され、ました、っ、私、これから、一人で、やるのが、不安で』  優一は心が痛かった。優一には嫌いな人だったが、サナにとっては初めてのマネージャーで、信頼していたのだろう。  『私の、せいで、やめちゃったのかな、って』  「あ、それは違うよ。大丈夫。サナ、何かあれば俺とか、タカさんとか、伊藤さんでもいいから相談して?」  『ユウさん、不安です、っ、私、この、事務所にいて、いいんでしょうか』  「サナ?大丈夫だよ。サナの歌で多くのひとが元気になったり、感動しているんだよ。この事務所はまだ、男性ばっかりで不安かもしれないけど、ダイアモンドもいるし、サナを支えてくれる人はいっぱいいるよ。」  『…っ、ぅ、うー、』 泣き止まないサナに困った優一は、しばらくサナの不安を聞くことに徹した。カウンセリングの先生を思い出しながらサナに寄り添った。そうすると、サナはだんだん落ち着き、とある名前がよく出てきた。  『楓さんにからかわれて…』  (ふふっ、サナ、恋してる)  苦手そうなタイプなのに、とクスクス笑った。気が済んだサナは頑張りますっと張り切って電話を切った。  (1番の不安は、楓さんからの返信がずっとないこと、ね)  苦笑いして優一は楓に連絡を取るも連絡はなく、青木に電話をしてみた。  『楓さん?あー、今海外だよ。リクさんと一緒に』  「ダンスバトル?」  『ううん。リクさんの恩師に楓さんを紹介するって』  「あ、そーなんだ!OK〜」  『どうしたの?』 「んーん?なんでもなーい」  『えー!気になるー!』  「それよりさ、青木?青木のお母さんに会えて嬉しかった。青木の頑張り見てくれたんだな!」  優一がそういうと、青木は嬉しそうにうん!と元気よく言った。  『ママだけでも、俺を見てくれたなら嬉しいし、幸せだよ!俺、頑張る!あと…』  「?あと…?」  『…正樹と一緒に住むよ。ユウ、応援してくれる?』  照れたような言い方が可愛くて、優一は笑って当たり前だろ?と返事をした。  「よーし!家事しよーっと!」  伸びをして大きな独り言を言って、ベッドから降りた。  ドタン!!!  「痛〜…っぅぅ〜…」  (毎回毎回!!あの酔っ払いめっ!!)  優一は家事をする気をなくし、ベッドへとよじ登ってメッセージを打った。  「えらいにやけてはりますね」  「あぁ。ごめん。幸せオーラ出てた?」  「ほんま1回刺されたほうがええんちゃいます?」  「いやぁ〜俺さ、お前と違って悲しむ人がいるからさ」  タカは柚子をからかうのが最近の楽しみになった。一時はタカを恐れて泣いてたと聞いたが、慣れたのか、タカの前では負けず嫌いを発揮して闘いを挑んでくる。  (少し、優一に似てるよな〜。) 顔は女版大河みたいだが、中身が優一と似ていた。 「ギターで勝負しましょか?」  「いいよ?じゃあフェアにするためにピアノの勝負もしようか」  一通り楽器ができるタカとギター専門の柚子はまるで波長が合わず、柚子はカリカリしてあずきに抱きついていた。あずきは抱きついてきた柚子を、わーい、やっと来てくれた、とわしゃわしゃ髪を撫でていた。 「ターカさん、いじめすぎ」  「だって面白いから」  リョウにも止められていると、優一からのメッセージにニヤけてケータイを見るも、カチンと凍りついた。  優一:今日はせっかくオフだったのに動けませんでした。今日から一週間俺に触んないで。  (は!?)  この間の禁欲でタカは完全に懲りていた。優一に触れないことは、なによりも不安定になるし、辛いことだった。  タカ:ごめん。料理するから許して。 優一:料理はして。だけど許さない。  タカ:お前も気持ちよかっただろ?  優一:反省してないみたいだから、キスもなしね。  となりで見ていたリョウが涙が出るほど笑っていた。  「うはは!!タカさん!めっちゃ尻に敷かれてるじゃないっすか!!」  「うるさいな、大声で言わないでよ」  「ユウ、一回決めたら曲げないですもんね?タカさん、頑張ってください」  大河までクスクス笑っていてガックリと肩を落とした。あずきに抱きついた柚子が、ざまーみろとでも言いそうな顔で舌を出していて、タカがギロッと睨むとあずきに隠れた。 優一:でも今日甘やかしてくれたら、考える。  優一からのメッセージに真っ赤になった顔を隠すために頬杖を突いて窓を見るも、緩む筋肉がコントロールできない。  (なんでこんなに可愛いの、こいつは)  はぁっとため息を吐くとリョウが肩を組んできた。  「タカさんベタ惚れっすね?」  「当たり前だろ?誰もあいつには敵わねぇよ。あいつじゃないとダメなの、俺は」  大河が嬉しそうに笑ってるのが照れ臭い。遠くで柚子がギャーギャー騒ぐのも心地よいBGMだ。  タカ:優一、今日も愛してるよ 文脈を無視して気持ちを伝えると、すぐに返信が来た。  優一:俺も愛してる。嬉しかったから許す。お仕事頑張ってね。  タカは思わず憤死しそうなくらい照れた。またリョウが勝手に覗き見て、大河に見せ爆笑していた。  (さ!頑張りますかっ!)  仕事モードに切り替えた瞬間、全員がピリつき、柚子は大人しく席に座っていた。 

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