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第77話 道
事務所を颯爽と出て行く愁を見て、はっとすると、翔太と伊藤がこちらを見ていて思わず真っ赤になる。
居心地が悪くなって喫煙所に行くと、2人はすぐについてきた。
「なんだよ、ついてくんな」
「相川さん、見過ぎですよ〜」
「黙れ、いいだろ別に」
「あんな嬉しそうに見てたらさすがに…ふふっ!愁くん元気になってよかったね!Altairの動きもすごいし」
昨日の愁を思い出して、灰を落として誤魔化したが2人は吹き出していた。
「誕生日、祝ってもらえたんだね?」
「年に一回の特別演出がやべぇのよ。毎年しばらくはこうだからほっといて」
「どんな演出を?」
「ん?毎年、薔薇の花束とリングを用意してプロポーズしてくれるよ。愁のスーツがさ、マジかっこよくて…。紳士?そう!紳士!俺の生まれ年のワインと、それに合う手料理、欲しがってたスニーカーとケーキ。もうさ…お姫様?になった気分よ」
翔太はうわぁ、キザとげんなりした様子で、伊藤は素敵だね、と笑ってくれた。
「相川さん、アメリカっぽいのが好きだからいいんだろうね!俺、こんなの彼女にされたら無理、引く!」
「そーかぁ?お前、やってもらったことないからだよ!世界一幸せって自信持って言えるね!」
ニカッと笑うと、2人からジッポやボールペンなどの誕生日プレゼントを貰えた。ただニヤニヤしただけではなかったと知って益々嬉しくなった。
コウ:リクさんお誕生日おめでとうございます。
当日に届いたメッセージに愁から1番に貰いたいと放置していたのを思い出し、今更ありがとうと返した。愁にロスでのことを聞かれて焦ったけど、多分、愁はリクの火遊びに気付いている。なぜなら、遊びとわかっているから。
リク:ありがと!
昼に起きてケータイを見るとリクからのメッセージでコウは慌てて目を覚ました。お礼だけでも嬉しくて思わず笑った。営業のメッセージをお客にも返して馬鹿みたいに広い部屋で水をがぶ飲みする。街がライトアップされて行くのがだんだん嫌気がさし始めたのは、ロスから帰ってきてから。普通の人なら安息の時間となる夜から働き始める自分に、何をしてるんだろうとため息が出る。ハイブランドのバスローブを脱いで、シャワーを浴びて軽く化粧をして、髪を整える。この部屋を出た瞬間から、あの人の名前を借りた“リク”になる。
「舞〜、こっち」
「リク!会いたかったぁ!」
「旦那はまた海外?」
「そうなの!だから、今日は舞と一緒にいて?」
「舞の頑張り次第かな?今日で隼人さん越せなかったらまたNo.2のままだよ?舞の隣はNo.1じゃないとダサいだろ?俺は舞の隣にいたいのに」
「任せてー!舞、リクのために現金たくさんもってきたよ?アフターも?」
「だーかーらー、舞の頑張り次第」
モデルみたいに綺麗な人妻に贔屓にしてもらってNo.2まで昇り詰めた。リクの名前を借りたのはこの世界でNo.1になるという覚悟だった。
「んぅ!あっ!あっ!あぁあん!」
「舞、可愛い」
めちゃくちゃ貢いで貰って、今日の売り上げで一気に上に行くことができて、ご褒美で舞を抱いてあげた。たぶん舞は面食いで、旦那に飽きるとこうして抱いてもらいに来る。元彼兼セフレがいたようだが、拒否されてからホストにどっぷり浸かってくれている。可愛い女の子を抱いているのに、思い出すのは憧れのあの人。
ーー1か月前
リク:コウ、5月の下旬、ロスに行く。お前がもしまだダンスがしたいなら紹介したい。5日間時間あけて。
この間のリクのラストステージを、楓からもらって、何度も何度もその動画を見た。その後に本人からのメッセージに、まだ連絡先を持っていてくれたことにも嬉しく、そして期待してくれていることも嬉しかった。
(げ、月末かぁあー!)
大きなベッドに寝そべって迷う。今回の売り上げしだいではNo.1は目前。
(…行きたいな…)
慌ててパスポートを見ると、まだ期限は切れていなくてほっとした。
楓:コウちゃん、リクさんが、俺とコウちゃんをロスに連れて行きたいって。こんな機会ないよ!行こう!
楓からも連絡がきて、すぐに決意をし、お店にはインフルエンザということにしようと、快諾した。
久しぶりにラフな格好で空港に行くと、楓とリクが待っていた。2人はコウを見ると嬉しそうに笑った。
「コーウ!元気だったかぁ!?」
リクがハグして迎えてくれた。事務所の規定を破りに破って迷惑をかけた奴に、よく連絡をくれて、ダンスをやろうと誘ってくれた恩人。
「あれ?!お前、なんか男前になったな?すげーなホストって!」
「本当、コウちゃん貢がせるのうまそう!」
「今はNo.2だよ」
すげぇ!と笑う楓と、お前がNo.2?と怪訝そうなリク。
「お前は俺が思う練習生でビジュアルもダンスも歌もNo.1だ。お前より上ってどんだけすごいの」
楓はあからさまに落ち込んでいるが、リクは何でもないように言った。こうして、誰よりも褒めてくれるのだ。
飛行機に乗って、空港に着くと英語だらけで楓とポカンと口を開ける。ただリクについて行き、お金は一切支払う機会はなかった。
「リクさん、俺、自分のは自分で払います」
「うわぁ…稼いでるアピールうざ!」
「違いますよ!ただ…」
「いーの、いーの。甘えてろ。楓見てみろ、なーんも思っちゃいねーよ?こんな見知らぬ土地でも爆睡できるのもある意味才能だな」
愛おしそうにクスクス笑って、楓の頭を撫でると、楓はリクにもたれて気持ち良さそうに爆睡していた。昔からどこでも寝る楓にコウは懐かしくてクスクス笑った。
「リク!!元気!?」
リクを見たスタジオのオーナーや、演出家、ダンスインストラクターのジョージが涙を流してリクにハグをしていた。なぜだか隣の楓も泣いていて、肩を抱いてやった。何か踊ってみろと言われ、とっさに動けないコウとは違い、楓は吹っ切れたように楽しく踊っていた。
(こいつ…上手くなってる…)
足が竦むのを初めて感じた。今まで78でも1番うまかった自信がある。リクは楓を見て自信満々だった。
(リクさんもしかして、楓のために?わざわざ俺を?)
楓に自信を持たせるために、わざわざ自分を連れてきたことを知り、退所した自分にそこまでの義理がないのは分かるが、打ちのめされた気分だった。楽しそうに戻ってきた楓をリクは笑顔で迎え、コウを見て、行けるなら行けと目で合図した。みんなが様子を見る中、最後まで動けずに、初めて悔しさを感じた。
「残念だな。まだ踊れるかと思った」
リクの言葉が刺さって、何も言い返せない自分に嫌気が差した。
「一応、2日間だけレッスン依頼してる。コウはどうする?レッスン受けてもいいし、受けなくてもいいよ」
ここまで連れてきておいて、選ばせるのはかつてのリクそのものだった。
(「お前が選べ。辞めてもいいし、続けてもいい。続けたいなら全力で守る」)
どうする?と笑うリク。どっちにしてもリクはコウの思うものをそのまま受け入れる。退所の発表の時、これ以上迷惑をかけられないと辞めることを伝えた時、そう?お元気で。と送り出してくれた。
(俺は、どうしたい?)
自分に聞くと、答えは口から出ていた。
「やります!」
「おう!頑張れよ!」
(ほら、やっぱり受け入れてくれる。)
リクがジョージ達に連れ回され、楓とコウは2人でホテルのバーで飲んでいた。
「コウちゃん、仕事楽しい?」
「まぁな。お金はあるし。」
「まだ…恭介さん達といるの?」
「…切れねぇよ。裏切り者がどうなるか見てきてる。ここだから言うけど恭介さんついに裏社会行っちゃって…いよいよ抜けれねぇよ。サトミの家族まで行かれたら…怖ぇし。」
妹夫婦には手を出さないように見ているつもりだった。
「サトミちゃん結婚したの?」
「あぁ。田舎の農家のやつと。繁華街は怖い、兄ちゃんと絡みたくないってさ。そりゃそうだよな。あいつはずっと俺のせいでよく絡まれてたから。」
「うー…まぁ確かにやばかったな。」
「ルイは?普通、俺じゃなくて、ルイじゃね?」
「ルイは泣いて怒ってたよ。なんで俺じゃないのって。…コウちゃん、リクさんコウちゃんにまだ期待してくれてるんだと思うよ。リクさんはルイの身体を心配してるけど…。」
言葉に詰まった楓に、酒から楓を見ると、悔しそうに泣いていた。
「か、楓っ!?どうした?」
「リクさんの中では、まだ、78のセンターはコウちゃんなんだよ…っ、どんなに、頑張っても、俺、コウちゃんを、越えられないよ」
「何言ってんだ…」
肩を抱いて、摩る。マスターが心配そうにしてるのを笑顔で手を振って応え、楓の不安を聞き、深酒になったまま部屋に戻った。
次の日、久しぶりに朝日と共に起きたコウは、生活リズムが変わって体調が絶不調だった。それでも身体を動かすとだんだん起きてきて、久しぶりの感覚に、心から楽しいと思えた。
「コウ!イイね!動きが軽いよ!」
「??」
「イイ感じだってさ!」
何か言われるたびに、リクを通さなきゃ伝わらないことに申し訳なく思いながらも久しぶりに汗をかき、自然に笑っていた。いつもみたいに無理矢理テンションをあげる必要もなく、昔みたいに楓と話し、ダンスのことだけ考えた。
あっという間の2日間。ジョージに、2人がここで活躍するのを待っていると言われ、ロスにきて初めて涙を流した。たぶん、リクや楓に見せたはじめての涙だった。
(ダンスがしたい)
日本に帰ったらできない現実が待っていて帰りたくないとさえ思った。また、夜の街で生きていかなくちゃいけない。自分で選んだ道を今更覆すことができるはずはなかった。悩みながら、最終日の夜に三人で飲んだ。楓は興奮したまま飲み潰れ、幸せそうに夢の中だ。
「コウ、なんでお前を連れてきたか、わかる?」
「楓に自信を持たせるためですよね?」
「正解!楓はずーっとお前を意識してる。コウちゃんみたいに、リクさんの期待にこたえなきゃって…だから見せつけてやったのさ。」
「痛いほど分かったし…リクさんらしいっすね」
「だろ?…それと。」
「?」
「コウ、日本で出来ないなら、ロスに行け。道は繋げた。選ぶのはお前だ。」
「っ!…またそれ…。行けるわけないじゃないですか…」
「お前が切れない連中も、さすがにここまでは追ってこないさ。繁華街は忙しい街だ。誰が抜けようが入ろうが、街は今日も賑やかなだけ。狭いコミュニティで一生暮らす義理はねぇ。ここで、新しいコミュニティを作ってもいいんじゃねぇか?」
タカやリクがこうして、度々道を戻そうとしてくれるのが、ありがたかった。逃げたい、と思う日もある。貧乏だった幼少期の記憶からお金への執着がものすごく、どんなにお金があっても不安だった。そして、上手く言われ、恭介達に振り回されて今に至る。
「もう十分、やつらに尽くしたろ?残りの人生は好きに生きたらどうだ?」
「リクさんは…」
「ん?」
「ダンスしねーの?」
「うん。しないよ。つか、出来ないよ。だから俺にできることはこうしてパイプ役になることとか、アドバイスしたりとか、かな。それに、そろそろ彼氏優先にしねぇと。」
「あぁ…あの時の?」
「そう!愁!カッコイイだろ?あいつ俺のこと大好きだからさ、あいつのために生きていくよ。」
ニコっと笑うのが可愛くて、初めてドキッとした。思わず、顎に手をかけて唇を合わせた。
「…コウ〜?なんだよ、俺のことそーゆー目で見てたのー?」
「ちがうし!…なんでかな、溜まってんのかも!」
自分のしたことに驚いて、酒を煽った。すると、リクの手が太ももを撫でる。
「非日常で興奮した…みたいな?」
「リクさん…からかわないでよ」
「楓置いたら…火遊び、付き合ってやんよ?」
初めて見る妖艶な顔にゴクリと喉を鳴らした。リクがお会計をして、コウは楓を持ち上げた。
バタン
「んっ、っ、ふぅっ、んっ」
楓を楓の部屋に置いた後、リクの部屋に入ると、止まらなかった。唇を塞いで舌を絡める。リクもキスしながらレザーのジャケットを脱いで、大きな目がさそってくる。
(はぁ、やばい、たまんねぇ)
飢えたやつみたいに、はぁはぁと息を荒くしてベッドに押し倒す。抱きたい対象として見たことなかった憧れの人。意識した瞬間に見え方が変わってしまった。
(この人を、手に入れたい)
左手薬指の指輪が見せつけるようで、余計に熱が上がった。
「はぁ、お前っ、しゅう、に、言うなよ?ぁっ、ん、…、お前とは、遊びだから、な?」
「分かって、ますよ、萎えること、言わないで」
「だって、お前、目がマジだから、…コウ、俺の、こと、好きなの?」
「答える気無いくせに、意地悪な質問、すんなよ!っ、」
「ぁああ!っ!ぁ、はは、っん、ごめんごめん、コウ?」
「あぁ?何?…また、意地悪いうの…」
思いの外泣きそうな自分に、残酷なほどクスクス笑ったあと、頭を撫でてくれた。
「コウ、期待、してもいい?」
それは、ダンスなのか、この夜のことなのか、分からずに首を傾げると、何でもない、とまた笑った。
「リクさん…」
「コウ、俺も、めっちゃ、溜まってんの…。2人の秘密、にしよ…今夜は、お前にあげる」
最高の誘い文句に、思いっきり噛み付いて、クリームを孔に塗りたくり、ぐちゅぐちゅと鳴らすそこに、痛いほど硬くなったものをグッと差し込んだ。
「ッあああああー!!や、やばぁ!コウ!コウ!気持ちッ」
(嘘だろっ!こんな、可愛いとか、反則)
感じやすくて、腰をふれば振るほど、中は締め付け、声を上げ、艶かしい。表現力のある人のよがり方は想像を遥かに超えて、こっちがいい気分になるほどだ。
(もっと、もっと気持ちよくさせる。俺が)
「ぃあああ!そこ!ダメ!コウ、やだぁ!!」
厳しくて、優しくて、カッコイイ、憧れの人が、可愛くて可愛くて仕方ない。どうしようと思って、目を閉じても、過去のリクさえ愛しくなって心が痛かった。
「リクさんっ、リクさん、俺を、連れ出してよっ、リクさんが、隣にいてよ」
「あぁあー!コウ!コウ!」
「リクさん、俺のものになってよ!一緒に、ロスにいようよ、」
ふっと、リクが笑った。
「俺は、一緒には、行けないよ。78なら一緒に歩いてやれた…でも、選んだのは、お前だろ?もう一度、チャンスをやった。大丈夫、お前は1人でも歩いていける」
パタパタと涙がリクの顔に落ちた。
「怖いよ、リクさん。あの街から出れるかな…?っ、また、踊れるかな…?自分で、決めた道が…辛いよ」
「コウ…」
「俺っ…78にいたかったよ…踊りたかった、歌も好き…メンバーもいい奴らだし…羨ましかった…戻りたいよ…」
「戻れないよ、もう、戻してやれない。…ごめんな?あの時、引き止めてほしかったんだな?…ごめんな、強引にでも、残すべきだった」
涙を拭いてくれるリクの左手を握って、指輪を外す。
「リクさん…どうしたらいいかな…俺、決められないよ…」
指輪だけを目で追うリクが嫌で、情けない声で問いかけると、はっとこちらを見た。
「リクさん…助けてよっ」
甘えるように言うと、芯のある目になった。
「俺が背中を押せばいい?」
試すような言い方に、迷いが出た。
「3ヶ月、やりたい気持ちがなくならなきゃ、ロスに飛べ。いいな」
強い言葉に、コクンと頷いた。するとふわっと笑って両手を広げた。
「コウがステージに立つ姿想像したらゾクゾクする。」
そう言ってコウから指輪を取り上げ、コトンとベッドサイドのテーブルに置き、妖艶に笑った。
「コウ、ゾクゾクすんの…早く、イかせて」
「っ!?…ッリクさん…」
「今夜は、コウにあげるって、言ったろ?」
「はぁっ、リクさん、リクさんも、欲しいっ!」
「ダメ、ッ、俺は、愁のだから、ッ、今夜だけ、あげる」
「好きって言って、リクさんっ」
「んぅッ!?ッアアア!アァッ!アァッ!」
「リクさんっ!言ってよぉ」
「好きぃっ!ッぁあああ!!もッ!アァッ!!イッ…ッ!ァアアーーー!!」
リクのを触らなくても欲を吐き出したことに嬉しさを感じ、更に攻め立てた。ビクビク跳ねるのを押し込めて、奥へ奥へと行くと、目を見開いたあと、眉が下がり、うるうるした目で見つめてくる。
「コウ…だめぇ」
「っ!?」
(本当にこの人はっ!!)
ぎゅっと握られた手が可愛くて、チュッとキスして、嫌がるソコをゆっくりせめて、泣いて良がる姿を目に焼き付ける。
「コウッ!…ッ、おれは、お前の、味方だから、!」
泣きながらでも、快感に落ちながらでも、そういうことを言ってくれるリクに愛しさが溢れ、予兆もなく絶頂を迎えた。
「コウ…明日寝坊すんなよ。明日は9時にここを出るぞ」
余韻なく、アッサリ、本当にアッサリと元に戻ったリク。指輪を薬指にはめて、また明日、と手を振る。じっと見つめると、クスクス笑う。
「離れがたい感じ?お前、こんなんじゃ接客大丈夫かよ…わぁ!」
ぎゅっと飛びついてベッドに飛び乗った。
「客にはこんなことしない。俺、100万以上つかわねぇとシないし」
「あらまっ!ただでシちゃったぁ」
「リクさん、一緒に寝よ」
「こんな甘えん坊なの、お前」
「今夜はまだ終わってないでしょ」
「んー?あー…はいはい。勝手にして。俺マジで夜弱いから眠すぎてやばい。いてもいいし、帰ってもいいよ」
そういいながら大きな目が、瞬きがゆっくりになり、コウに腕枕をさせた。
「帰ってもいいんじゃないの?」
「ん…?…も、うるさいな…大人しくしとけ」
すぅすぅと寝息が聞こえてドキドキした。安心したような寝顔が可愛くて、コウも安心してぎゅっと抱きしめると、んぅ、と声を上げたあと、また寝息が聞こえた。
「おおおい!!コウ!お前!部屋に戻れ!」
「へっ??なん…え?」
「イビキ!!なんかの病気じゃねーか?!お前!!うるさいんだよ!」
「んー…やだ…やだ…リクさん…とねる」
「ー!!仕方ねえな!イビキすんなよ!横向きに寝ろ!」
「リクさん、機嫌悪いね…眠れなかったのかな」
「さぁな」
リクはクマができてイライラしていた。1人だけ飛行機の座席をグレードアップして爆睡していたようだ。飛行機を降りるとご機嫌だった。
「コウ、3か月後にまた連絡する。よく考えてみな」
ハグされて、あの街に戻った。
(あれ…あの人、リクさんの…)
全然貢がなかった女からアフターを躱していると、リクの彼氏を見つけた。温和そうなその人は高級クラブから出てきて疲れている様子だった。ラフな格好なのに、甘いフェイスがこの街に似合わない。じっと見つめていると、目があった瞬間、女が源氏名を呼び、目を見開いたのに焦った。源氏名をリクにしていることは本人に言っていなかった。バレてませんように…と、強めに女を躱した。
コウ:リクさん、お誕生日おめでとうございます。
リクからの返事はなく、煌びやかな街の空を見上げる。
(リクさん…俺は、今日もダンスがしたいです。)
毎日、出勤前に空に向かって言って、お店に向かった。
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